2024年10月05日

【おすすめ本】船津 靖『聖書の同盟 アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか』―「特別な関係」を深掘り 白眉は米キリスト教の影響力を分析=池田 明史(前東洋英和女学院学長)

  1980年代だったか、「ユダヤがわかれば世界が見えてくる」というタイトルのトンデモ本がベストセラーとなって、国際的に物議を醸したことがあった。その後もユダヤ人問題やイスラエル国家に関する日本人の無知蒙昧が世界中に晒された。

 これら偏見に満ちた極彩色の世迷言とは次元が異なるが、最近でも長崎での平和記念式典にイスラエル大使が招待されず、これに反発した米英など西側主要国大使も事実上式典をボイコットした。日本人の多くは、これを過剰反応とか政治利用とみなしたようだが、こうした解釈そのものが、欧米における反ユダヤ主義の位置づけやイスラエルの取り扱いの難しさをいまだに理解していない事実を物語っているように思われる。

 一筋縄ではいかないこのような欧米、とりわけアメリカとイスラエルとの「特別な関係」を歴史的・政治的・文化的に俯瞰し、また中軸部分は深く掘り下げて解明しようとするのが本書である。従来この関係は、冷戦時代にはソ連・東側陣営を、ポスト冷戦期にはイスラム過激派を、両国がそれぞれ敵として共有してきたこと、両国ともに移民国家であって辺境開拓のフロンティア精神への憧憬で繋がっていること、などで説明されることが多かった。

 しかし筆者は、説明の主軸をユダヤ=キリスト教的伝統、すなわち聖書に求める。なかでも、アメリカのキリスト教の流れを跡付け、その変遷において台頭してきた福音派やキリスト教シオニズムの信条や理路、そしてそのアメリカ政治への影響の分析は明快で、まさに本書の白眉と言えよう。
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2024年10月03日

【焦点】究極の原発延命策を狙う 電気料金に建設費 衰退産業のコストを転嫁 龍谷大学教授・大島堅一氏が指摘=橋詰雅博

 経済産業省は、2024年度中に策定する第7次エネルギー基本計画(エネ基)に原発新増設の建設費などを電気料金に上乗せする新たな原発支援制度を盛り込む方針だ。これまで利用者が支払っていた電気料金は基本料金+使用量に応じた電気量料金+再生可能エネルギー発電普及のための賦課金の3階建て。これに原発建設費、維持費、廃炉積立金などを含む原発料金が加わると4階建てに。まだ稼働していないのに市民は料金を支払わされる。背後に何が――。
 エネルギー安定供給とCO2排出抑制を口実に原発を最大限利用に方針を転換した岸田文雄政権は、30年度の発電量に占める原発比率の目標を20〜22%とした。実現には27基ほどの稼働が必要だ。現在動いているのは12基で、全発電量の5・5%に過ぎない。目標クリアには再稼働だけでは足りず、原発新増設は不可欠である。

米国で13基閉鎖

 しかし電力会社は新増設に踏み切れない理由がある。高騰する建設資材や人件費、膨れ上がる事故対策費などで原発コストが爆上がり≠オているのだ。米国投資コンサルタント会社ラザードの23年調査では、原発コストの平均値は、陸上風力や太陽光の再生エネルギー発電の平均の3倍以上。そのうえ建設資材や人手不足で建設期間は大幅に延長が欧米で常態化している。米国では11年以降、13基は「収支が赤字」という理由で閉鎖された。フランスの新型原発は12年遅れで9月4日に稼働。その建設費は当初予定の4倍の132億ユーロ(2兆1000億円)に激増した。日本の原発建設費用も1基あたり1兆から2兆円。このため「原発事業に未来はない」と川崎重工業や住友電気工業など20社は原子力事業から撤退した。
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 国際環境NGO「FoE Japan」が8月19日に開いた緊急オンラインセミナーに出演した原発問題に詳しい龍谷大学政策学部の大島堅一教授=写真=は「日本の電力会社にも原発は重荷になっている」「原発事業の継続に新増設は欠かせない、そのため支援の資金メカニズムが必要と電力業界は主張した」と指摘した。

費用回収スキーム

 電力業界に同意の国は、支援策として英国考案の「RAB(ラブ)」モデルに目を付けた。制度が複雑なRABモデルを簡潔に説明すると、建設工事費用などを消費者から回収するスキーム。これまで水道・ガスの公共工事やヒースロー空港の第5ターミナル建設に適用された。さらに原発をRABモデル対象にするため原発融資法を22年に制定。英国政府とフランス電力公社が折半出資し建設中のサイズウェルC原発がその第1号だ。
 日本でもあらかじめ建設費を始め諸費用を電気料金に加え費用の回収に目途をつけてから新設予定の原発工事が着手されるだろう。

都合の良い具体策

 英国環境団体などが強く反対するRABモデルの問題点について大島教授は@建設増大・遅延コストのリスクを市民に転嫁、A費用の確実な回収は電力会社のコスト意識をダウンさせる、B電力自由化に逆行、C再エネ・省エネの拡大を妨げる―などを挙げた。
 大島教授は日本版RABモデル≠「究極の原発延命策」と名付けた。モデル導入という文言だけをエネ基に入れ、制度設計はその後に行う見込み。経産省と資源エネルギー庁は作り上げた既成事実に基づき国や電力業界にとって都合のいい具体策を取り入れるのではないか。
 電気料金の大幅値上げを強いる理不尽な新原発支援制度に対し、市民は断固反対しなければならない。
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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2024年10月02日

【映画の鏡】末期がんの父親を在宅で介護『あなたのおみとり』訪問医療に支えられる家族の姿=伊東 良平

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                 Eiga no Mura
 末期がんで家での最期を希望した父親を、映画監督の息子が看取りから旅立ちまでを丹念に記録したドキュメンタリーである。
超高齢社会の日本で介護は大きな問題であり、特に動けない状態になった場合には家族にいろいろな負担が生じてくるが、現実に直面しないとどのような状況になるのか想像がつかない。

 この映画は撮影者が家族であることから、自然体でありのままの姿を見ることが出来る。
 母親は自分一人で介護を行うつもりであったようだが、精神的にも肉体的にも参って訪問医療や在宅介護を活用して自宅で看取ることになる。画面には診療医や訪問看護師、介護ヘルパーなど医療と介護に関わっている方たちの様子が映し出される。

 こうした人たちのおかげで在宅での介護が成り立っていることがわかる。母親がヘルパーや看護師たちと関わることになって、表情も豊かになりゆとりが生じるのも感じとれる。父親は最期に近づくにつれて衰弱して痩せていくが、カメラは命の終わりを丁寧に追っていく。

 亡くなった後の納棺や斎場の様子も捉えて、葬儀は海での散骨へとなるが、海洋葬のシーンはあまり見ることがないので興味深い。この作品は改めて自分や家族の看取り方についても考えるきっかけになりそうだ。看取りの方法はもちろん人それぞれなので、自分なりの「あなたのおみとり」を見つける必要がある。自宅での看取りを考えている人にとっては大変参考になる作品である。
 ポレポレ東中野にて上映中ほか全国順次公開 
           JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号

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2024年10月01日

【連続シンポ】第2回公共放送NHKをめぐる2つの市民運動〜 原点はETV2001番組改変事件 〜=NHKとメディアを考える会 JCJ共催 

 2018年、外部企業・郵政三社からの抗議を代弁してNHK経営委員長(当時は代行)が番組に介入するという放送法違反のあってはならない事件が起こり、真相解明を求めて市民が「NHK文書開示等請求訴訟」に立ち上がり、7月から控訴審が始まっています。
 22年末、NHK会長の改選期には、前川喜平氏を候補に推し立てて市民によるNHK会長推薦運動を展開しました。NHK会長の任期は3年、26年1月には新しい会長選びが待っています。

(パネリスト)
 永田 浩三氏(武蔵大学教授・NHK会長推薦運動呼びかけ人)
 長井 暁氏(ジャーナリスト・「NHK文書開示等請求訴訟」原告団事務局長)
 砂川 浩慶氏(立教大学教授)

(日時) 24年10 月13日(日)15:00〜17:00(開場14:30)

(会場) 立教大学池袋キャンパス7号館1階7102教室 

 資料代800円(学生無料)

(同時配信)お申し込みは下記URLをクリックしてお申し込みください。

参加費800円 https://peatix.com/event/4057709/view      

<主催>NHKとメディアの今を考える会 立教大学社会学部メディア社会学科・砂川ゼミ

<共催> 日本ジャーナリスト会議、日本ジャーナリスト会議・東海、放送を語る会、 メディアを考える市民の会ぎふ、
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2024年09月30日

【フォトアングル】朝鮮人犠牲追悼式典「語り継ぐことが責務」と実行委員長=9月1日、墨田区・都立横網町公園、伊東良平撮影

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 関東大震災のあった9月1日、台風10号による雨が時折降る中で、朝鮮人犠牲者追悼式典が東京両国の横網町公園で行われた。台風の影響で規模を縮小して実行委員の人たちとメディア関係者で開催したが、周りには一般の市民も集まり式典を見守った。小池百合子都知事は今年も追悼文を出さず、宮川康彦実行委員長は挨拶の中で「子孫や周りの人に語り継ぐことが我々の責務」と述べた。読経と鎮魂の舞の後、舞踊家など代表4人が献花を行った。
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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2024年09月29日

【月刊マスコミ評・新聞】慰霊碑破壊を声高に叫ぶ右派団体=白垣 詔男

 1923年の関東大震災時に虐殺された朝鮮人問題について、非常に強く印象に残る記事を読んだ。
 9月4日、毎日新聞(西部版)夕刊2面「特集ワイド」の吉井理記記者の報告だ。「関東大震災の朝鮮人虐殺『否定派』が今年も集会/一線越えた『慰霊碑破壊』予告/『なかったこと』に101年前と変わらず」という見出しが示すように、朝鮮人虐殺犠牲者の慰霊碑(1973年建立)がある東京・両国の都立横網町公園で行われた追悼式典の同時刻に、2017年から、追悼式典そばで「そよ風」という団体が中心となって始めた「真実の慰霊祭」なる集会を取材、検証した内容。

 吉井記者は「忘れたい失敗はだれにでもある。でもホントに忘れたらどうなるか。近年、関東大震災があった9月1日に、差別に基づくデマで日本人が多くの朝鮮人を虐殺した大失敗について、『なかったこと』にしたい人たちの奇妙な運動が続いている」と前文に書いているように、この「奇妙な運動」を確かな視点で掘り下げる。ただ、「そよ風」の集会は部外者には目に触れないように白い幕で「目隠し」をして取材も拒否したという。

 記事の中で私が一番衝撃を受けたのは、「そよ風」集会の中心人物の一人で、作家・三島由紀夫が作った「盾の会」元会員が、「6000人虐殺というウソの慰霊碑、これを我々は必ず撤去します。破壊します!」と「破壊予告」をした大声を聞いたというくだり。
 また、吉井記者は「思えば『そよ風』が集会を始めた2017年は、歴代都知事が続けてきた朝鮮人追悼式典への追悼文の送付を、小池百合子都知事が取りやめた年でもある」と書く。さらに、ジャーナリスト安田浩一さんの発言「最大の問題は、差別と偏見を真っ先に止めるべき行政や政治家が、こうした風潮を助長しているとしか受け取れないことです。…小さな差別は積み重なって大きな差別を伴い、『殺しても構わない』という社会を招く」を紹介する。

 「関東大震災時の朝鮮人虐殺」については朝日新聞が8月30日付社説「朝鮮人虐殺 史実の黙殺は許されぬ」、毎日が9月6日付社説「朝鮮人虐殺の歴史 向き合わぬ政治の不誠実」の見出しで、行政の歴史に向き合わない修正主義を声高に批判している。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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2024年09月28日

【出版界の動き】読書離れを防ぐ多様な取り組みが進む=出版部会

◆1カ月に本を1冊も読まない人が62.6%!
 文化庁が17日に発表した2023年度「国語に関する世論調査」の1項目、<読書に関する調査>(雑誌や漫画を除き電子書籍を含む)で、1カ月に本を1冊も読まない人が62.6%!―そんな結果が明らかとなった。
 同様の調査は2008年度から5年ごとだが、過去の調査で「ゼロ冊」が5割を超えたことはなく、前回の2018年度は47.3%だった。コロナ禍前の前回までは面接調査だったため、今回は郵送調査なので単純比較はできないが、憂慮すべき事態であるのは間違いない。
 本を読む人は、どのように本を選ぶかを尋ねると、書店に行って手に取りながら選ぶ人は57.9%(前回66.7%)と減っている。その一方、インターネット情報により選ぶ人は33.4%(前回27.9%)と増えている。
 読書量は69.1%が「減っている」(前回67.3%)と回答し、その理由はスマホやゲーム機など「情報機器で時間が取られる」と答えた人が43.6%(前回36.5%)で最多となった。これまでの調査では「仕事や勉強が忙しくて読む時間がない」回答が多数だったが、今回は38.9%(同49.4%)に減っている。

◆「朝の読書大賞」が発表される
 文字・活字文化振興法の理念にもとづき、読書推進に貢献し、顕著な業績をあげた学校を顕彰するため毎年表彰している。今年の受賞・学校は以下の通り。
 ●大江学園 福知山市立大江小学校・大江中学校(京都)、
 ●学校法人開成学園 大宮開成中学校(埼玉)
 ●愛知県立豊橋高等学校
「朝の読書運動」は、主に学校在学中から読書を大切にしようと、授業の始まる前の10分から15分ほど読書の時間を設け、読む習慣づくりに貢献してきた。1970年代から始まり、1988年の船橋学園女子高校(現:東葉高等学校)の実践を機に、日本全国に広まった。
 特に出版社・高文研(当時の代表・梅田正己)が、同校編『朝の読書が奇跡を生んだ』(同社1993年刊)などで協力し、1996年には「朝の読書」運動が第44回菊池寛賞を受賞した。

◆「無書店」自治体27.9%、1書店以下は47.7%
 出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によると、今年8月末時点で15道県24市が「書店ゼロ」となり、北海道芦別市や千葉県白井市、熊本県合志市など市名を公表した。また全国の書店数は前回調査(24年3月時点)より145軒減って7828軒に減少した。
 その一方で、大型書店がターミナル駅周辺などに大規模な出店を図り、近郊の青年・児童・主婦層を視野に、新たな読者拡大に傾注している。その際、紙媒体の本もさることながら、電子出版物・教育玩具などに売り場面積を拡充し、新規販路の開拓を試みている。

◆丸善ジュンク堂書店、所沢市に97店舗目出店へ
 9月24日、「ジュンク堂書店エミテラス所沢店」が、埼玉・所沢市の商業施設「エミテラス所沢」(西武線「所沢駅」西口)の3階に新規出店した。97店舗目。売場面積304坪。240坪の本売場では、ファミリー層に向けて児童書や学参書を充実させて約20万冊を揃え、知育玩具を体験できるエリアも設ける。
 店内には所沢市在住の漫画家・安彦良和氏のコミック『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の複製原画を展示するなど、「所沢」という地域を意識した企画を随時展開する。

◆JR貨物の不正が招く出版流通への影響
 JR貨物が車輪と車軸のデータ改ざん不正の発表から2週間が経過する。その影響で輸送力は1割減のまま、物流への影響は続いている。国土交通省は全国の鉄道事業者に、車輪・車軸の緊急点検を指示し、影響は広がりかねない。本や雑誌の新刊を心待ちにする読者にも影響が出ている。
 札幌市北区の大型書店「コーチャンフォー新川通り店」は、本州からの貨物輸送が滞ったため、発売予定日に雑誌や書籍が並べられなかったという。「物流2024年問題」で長距離ドライバーが不足している現状に、JR貨物の車両点検不正が追い打ちをかけた形で、事態を深刻させている。
 とりわけ出版流通にとっては、JR貨物の正確性・迅速性・軽料金などに依存している割合が極めて大きいので、両国駅に集約される JR貨物の、一刻も早い正常化が望まれている。

◆講談社の海外向けマンガサービス「K MANGA」を国内でも 
 2023年5月、海外向けに公開された英語版のマンガ配信サービス「K MANGA」を、国内の読者からの強い要望を受け、日本国内でも公開することになった。「K MANGA」は、同社のウェブマンガサービス「マガポケ」の海外版で、「ブルーロック」「MFゴースト」などの人気作約500タイトルが配信されている。オンライン英会話サービス「DMM英会話」とコラボしたキャンペーンも実施する。
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2024年09月27日

【おすすめ本】長井 暁『NHKは誰のものか』―なぜ権力に弱いのか 公共放送に巣食う病理を告発=永田 浩三(武蔵大学教授・元NHKプロデューサー)

 立てられた問いは、NHKは誰のものか。市民のものと言いたいところだが、そうなってはいない。著者は情報を解読し、内部の事情を分析することで、構造的な病理を明らかにした。

 著者自身が体験した事件は23年前。元「慰安婦」問題をとりあげたETV2001が放送直前に改変された。番組の現場は混乱を極め、多くのひとが傷ついた。プロデューサーであったわたしの責任は重い。そんな中、著者はひとりで告発の会見を行った。
 二度とあんな事態を繰り返してはならない。著者は、2018年に起きた、かんぽ生命の不正販売を扱った『クローズアップ現代+』の第二弾の延期の真相に迫る。日本郵政の幹部は元の総務省事務次官。放送を監督する官庁のトップだった人間がNHK経営委員長に圧力を加え、経営委員会の場で会長に厳重注意を与えた。放送は先延ばしにされ被害が拡大した。著者は経営委員会の議事録の公開を求める裁判の原告となり、一審で勝訴する。

 なぜNHKは権力に弱いのか。ネットでの配信をNHKの本来業務に格上げしたいという悲願。政権の意を受けたフィクサー・葛西敬之JR東海会長らによって送り込まれる財界出身の会長たち。官邸との癒着を競う幹部たちの権力闘争。それらの思惑が入り乱れ、ニュースは権力への監視を放棄し、心ある番組の現場は苦しみ続ける。

 追及の矛先は多岐にわたる。そのひとつジャニーズ問題。若い視聴者獲得のための番組『ザ・少年倶楽部』のリハーサル室が、性被害の舞台だった。
 著者の公共放送に寄せる大いなる期待と愛。だからこそ批判も鋭い。精緻な裏トリは、かつて歴史研究を志した筆者の真骨頂だ。(地平社2400円)
             
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2024年09月26日

【イベント】2024年度JCJ賞受賞昨品と贈賞式の案内 10月5日(土)13:00から日比谷図書文化館 日比谷コンベンションホール=JCJ事務局

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 【JCJ大賞】
◆しんぶん赤旗日曜版における「自民党派閥パーティー資金の<政治資金報告書不記載>報道と、引き続く政治資金および裏金問題に関する一連のキャンペーン」
【JCJ賞】(順不同)
◆上丸洋一『南京事件と新聞報道─記者たちは何を書き、何を書かなかったか』 朝日新聞出版
◆後藤秀典『東京電力の変節─最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』 旬報社
◆NHKスペシャル「冤罪≠フ深層─警視庁公安部で何が」「続・冤罪≠フ深層─警視庁公安部・深まる闇」 NHK総合テレビ
◆SBCスペシャル「78年目の和解─サンダカン死の行進・遺族の軌跡」 SBC信越放送

■贈賞式
※開催日時:10月5日(土) 開場:12:30 式典:13:00〜
※会場:千代田区立日比谷図書文化館 日比谷コンベンションホール(〒100 0012東京都千代田区日比谷公園1–4)
※交通:地下鉄「霞が関」駅 B2出口から徒歩3分、日比谷公園内。
■贈賞式記念講演(オンライン講演)
上脇博之(神戸学院大学大学院教授)<政治とカネ─自民党裏金問題をどのようにして暴いたのか>
■JCJ賞受賞者のスピーチ

■参加申し込み
※現地会場への参加者は、会場費1000円。メール jcj_online@jcj.gr.jp で予約し、会場受付でお支払い下さい。
※オンライン参加の申し込みは https://jcjaward2024.peatix.com にて、参加費800円
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2024年09月25日

【79年原爆忌】ドキュメント8・6ヒロシマ=JCJ広島支部取材班

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              撮影:田中 伸武 
 8・6広島の慰霊と平和祈念式は、例年通り公園の南半分中央部の原爆死没者慰霊碑前が会場だった。だが、今年は慰霊式典の前後4時間にわたって、平和公園全域で入園規制が敷かれ、なぜか鉄柵で封鎖された入り口もあって、「園内に入ることさえままならなかった」と訴える人たちもいた。手荷物検査実施ゲート=写真=が設けられた6カ所の公園入口には「再入園」の6時半検査開始を待つ長い列が周辺にでき、思いがけない「公園封鎖」の実態に直面して戸惑う被爆者と付き添いの家族連れや、式典の朝の公園の空気に触れようと内外から訪れた人たちの姿があった。

市民に戸惑いと混乱

 広島市北部の家から息子夫婦と一緒に公園を訪れた91歳の女性被爆者は、市が設けた「専用」出入り口と通路で原爆慰霊碑参拝をすませた後、息子に「毎年手を合わせる供養塔に行きたい」とせがんだ。
 だが、園内は「専用通路」を外れて自由に歩くことはできないうえ、時間も朝5時半になっていた。市職員には「6時半まで待てば、手荷物検査を受けて再入園し、供養塔にも行けますよ」と言われたが、「1時間も先では…」とあきらめた。

 入園規制の余波は式典会場、それも市が「先着順」「定員に達した時点で入場不可」とする被爆者・遺族席(約1600席)でも起きていたことを地元紙中国新聞が式典翌々日の8日付紙面で報じた。記事は「参列席の一角に空席」の見出しで「原爆慰霊碑前に用意した約7千席のうち、西側の被爆者・遺族席が少なくとも約500席空いていた」「一方で着席できずに立ち見する人も」いたと記し、「以前は会場に自由に入れたのに随分変わった」と嘆く、埼玉から5年ぶりの参列に来た祖父と叔父が被爆者という76歳男性の声を伝えた。
「入園規制に問題」とは書いていないが、読者は気付いたに違いない。

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              撮影:沢田 正
場所奪われたダイイン

 一方、新たに規制対象となった公園北東端の原爆ドーム周辺広場には、規制に反対するデモ隊が前夜から座り込み、警官・市職員と対峙した。
 未明から集会が始まり、「岸田首相・米・イスラエル参加の『戦争式典』を許さない」の連呼や演説が始まってにらみ合いに。
 午前5時、市職員が「滞留は市公園条例違反」と退去を呼びかけ。交代した警官も「無届集会は県公安条例違反」「公園管理業務への威力業務妨害だ」と警告を繰り返すなどし、「攻防」は、式典の原爆投下時刻8時15分の黙とうが終了し、デモ隊が行進に出発するまで続いた=写真=。
 だが、このあおりを受け1981年から40年以上も原爆ドーム前広場で原爆投下時刻に「ダイイン」をしてきた市民たちは場所を奪われた。メンバーはやむを得ず、電車通りを挟んで原爆ドームの反対側にある遊歩道に場所を移し、戦争反対と平和の実現を誓って地に横たわるダイインを約50人で敢行して「反戦平和」を訴えた。また、日本山妙法寺の僧侶約30人も、同じように場所を移し、うちわ太鼓をたたいて読経しながら「核兵器のない世界の実現」を祈った。

規制の目的何のため

 今回、原爆ドーム周辺の「攻防」で、市と警察は退去命令の法的根拠として市公園条例と県公安条例違反、威力業務妨害罪の3つを挙げた。しかし5月7日の全面的な入園規制の発表以来、市の市民活動推進課は一貫して「法的根拠はない」「市民の方々へのお願いにすぎない」と問い合わせに繰り返してきた。
 行政法が専門の田村和之広島大学名誉教授は「公園全域を式典会場と『みなす』という、ありえないことを前提にして打ち出した規制はどこから見ても使用実態がない。このような規制こそ、都市公園法・市公園条例違反だ。フェイク(嘘)まで弄して公園の自由利用を制限しようとした目的は何なのかが問題だ」と指摘する。
 「法的根拠もなく市民にお願いしているだけ」の広島平和記念公園8・6全面規制が、来年はどうなるのか。ヒロシマを取り巻く世界の状況と日本政府の動向を見たとき、規制強化は必至だ。私たちは今年「ヒロシマとナガサキで何が起きたのか」を9月の「不戦の集い」で取り上げ、広島、長崎両被爆地を結ぶ大きな議論を深めることで、この流れに抗う市民の輪を全国に呼びかけたい。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
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2024年09月24日

【79年目原爆忌】被爆地広島を変える動き=難波健治

 8月6日、79回目の原爆の日を迎えた広島の平和記念式典は、平和記念公園の入園規制を市が打ち出し、異様な雰囲気のもとで営まれた。
 式典に大きな混乱はなかったが、公園全域への入園規制で、園内各所にある原爆犠牲者碑への平和を求める市民の参拝や自由な行動は阻まれ、会場内の式典参列用の被爆者・遺族席では、規制で移動を妨げられた結果、500席を超える空席ができるなど、信じがたい光景が生じた。

 このところ、被爆地広島では、「広島をヒロシマでなくす」動きが続く。今年の8・6で露わになった「平和公園の変貌」は、「これ以上、被爆者をつくるな」「そのためにも世界から核兵器をなくせ」――そんな被爆地の願いをねじまげ、核兵器の「役割」を認める広島に変質させる動きだ。
 その震源地はどこにあるのか。8・6前後の岸田政権の動きから見えてくるものがある。
 被爆の日を控えた7月28日、日米両政府は東京都内で外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開いた。
この席で米側は、在日米軍を再編し、基地の管理権しか持たない横田基地の在日米軍司令部に在日米軍の作戦指揮権を与え「統合軍司令部」を新設すると表明。日本側は、陸海空3自衛隊を一元指揮する「統合作戦司令部」を24年度末までに立ち上げると応じた。

 まさに、日米が「一つの軍」となり「敵基地攻撃」態勢構築に乗り出すとの宣言だ。この日は日本側の求めで、米国の「核の傘」を日本の防衛に適用する「拡大抑止」具体化への日米閣僚初会合も開かれた。
 6日の平和記念式典のあいさつで、岸田文雄首相は4回も、「核兵器のない世界の実現」を繰り返した。そのために「国際社会を主導していく」と断言した。だが、核兵器廃絶を訴える日本が、核兵器使用が前提の「拡大抑止」を求めるのは、事実上の「核保有国」宣言に他ならない。
「米国の差し出す『核の傘』をありがたがっていて、核廃絶の議論を主導できるのか」「被爆者7団体が連名で首相に提出した要望書は怒りに満ちていた」と、式典翌日の7日付社説で中国新聞は指摘した。一方、岸田首相は同日、自民党憲法改正実現本部の全体会合でこう述べた。
「憲政史上初の国民投票にかけるなら、緊急事態条項と合わせ、自衛隊の明記も含めて国民の判断をいただくことが必要と考えている」「8月末を目指して議論を加速させていただきたい」

 8・6をはさんだこの動きの中に、日本政府の本音がはっきり表れている。自らの体験をもとに核兵器廃絶を求め続ける「被爆地を変えてしまいたい」のは彼らなのだ。
 昨年5月に開かれたG7広島サミットをきっかけに突然、真珠湾と広島平和記念公園との「姉妹公園協定」が結ばれたのも、この流れと符合する。いよいよ来るところまで来たな、と思う。

「NO NUKES」「NO WAR」を叫ぶヒロシマを、原爆を投下した米国とは仲良くする広島に変えてしまいたいのだ。
「核兵器のない世界」をいつまで言い続けても構わない。しかし、日米が進める「戦争準備」に真っ向から反対する広島は許さない。そんな日米両政府の姿を直視することなしに、被爆都市広島の今後のありようを考えることはできないのではなかろうか。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号 
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2024年09月23日

【支部リポート】北九州 岐路に立つエイズ対策 国際AIDS会議を取材=久田ゆかり、杉山正隆

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 「人を第一に考えよう」(Put people first!)をテーマに、第25回「国際エイズ会議」(AIDS2024)が7月22日から26日まで南ドイツ最大都市、ミュンヘンで開かれ世界100か国以上から約2万人が参加した=写真=。北九州支部は感染症対策にも力を入れており現地で取材。国連首脳がエイズ対策は「岐路に立っている」と対策強化を呼びかけ、開催国ドイツのショルツ首相も「2030年までにエイズの流行を終わらせるという目標に向けて協力しよう」と国際社会にさらなる取り組みを訴えた。

 市民が自由に参加し感染者らと交流する「グローバル・ビレッジ」では子どもたち・学生らの姿も。問題解決のための「鍵」と位置付けられる性的少数者LGBTIQ+らへの支援の輪が広がったほか、特許により高騰している薬剤問題などでデモや抗議活動が繰り広げられた。
 子どもたちへの支援が不十分で今後も危機的状況が続くとの発表が相次いだ。国連エイズ計画(UNAIDs)のビヤニマ事務局長兼国連事務次長は、エイズ終結を確実なものにするため十分な予算を確保するとともに、差別や偏見に満ちた有害な法律を改廃し「正義のために立ち上がる」よう、指導者たちに呼びかけた。

 UNAIDs(国連エイズ計画)は年次報告書「Global AIDS UPDATE 2024」を発表。タイトルは「The Urgency of Now: AIDS at a Crossroads(今まさに緊急事態:岐路に立つエイズ)」。各国が国連の場などで正式に約束した「2030年までにエイズを終結に導く」ことは可能だとしたうえで、「HIV対策に必要な資金を確保し、全ての人の人権が守られることを保障できた場合に限られる」と釘を刺した。
 会議はA基礎科学、B臨床科学、C疫学と予防科学、D社会科学と行動科学、E実装科学・経済・システムと相乗効果、F政治科学・法律・倫理・政策と人権が柱。演題数は2500を超えた。

 ジャーナリストも数百人が取材し、7例目となったエイズの完治症例や6カ月に1度服薬すれば予防ができる画期的な薬剤について等、大きく報道された。日本人記者の姿は見られず、日本での報道はごく一部に限られた。
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
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2024年09月22日

【出版トピックス】出版社の倒産・廃業が増加、「月刊コロコロコミック」好調=出版部会

◆過去最大─6割が「業績悪化」
 帝国データバンクが「出版業界」の動向について調査・分析を行い、2024年1月から8月末までの状況を公表した。その特徴として、@人気雑誌も「休刊ラッシュ」の苦境 出版社の3割超が「赤字」 A過去20年で最大、出版不況で低迷脱せず 倒産・廃業も増加傾向続く─とまとめている。その詳細な報告を紹介する。
 全国で書店の減少に歯止めがかからないなか、雑誌や書籍の出版社でも厳しい経営環境が鮮明となっている。2023年度における出版社の業績は「赤字」が36.2%を占め、過去20年で最大となったほか、減益を含めた「業績悪化」の出版社は6割を超えた。出版不況の中で、多くの出版社が苦境に立たされている。
 2024年は有名雑誌の休刊・廃刊が相次いだ。月刊芸能誌『ポポロ』をはじめ、女性ファッション誌『JELLY』やアニメ声優誌『声優アニメディア』などが休刊を発表。日本の伝統文化や芸能関係の話題を世界に紹介する国内唯一の英文月刊誌『Eye-Ai』を発刊していたリバーフィールド社は、今年4月に破産となった。
 購読者の高齢化に加え、若者層では電子書籍の普及やネット専業メディアが台頭し、紙の雑誌・書籍の売り上げは1996年をピークに減少が続いている。

 また「再販制度」で出版物の約4割が売れ残りとして返品されるなど、出版社では在庫負担が重い。加えて物価高の影響で紙代やインク代など印刷コスト、さらには物流コストも上昇が著しく、ますます収益が悪化する悪循環に陥っている。
 2024年1−8月に発生した出版社の倒産(負債1000万円以上、法的整理)と廃業も、4年ぶりに前年から増加した2023年(65件)と同等のペースで発生し、2024年通年では過去5年間で最多となる可能性がある。
 そのため大手書店は返本を減らす取り組みを進めている。出版社関係では特色あるテーマの発掘や編集スタイルの工夫で、部数を伸ばす雑誌や書籍に成功しているケースもある。しかしヒット本や雑誌の発刊は容易でなく、出版コストの増加で経営体力が疲弊した中小出版社では雑誌の休廃刊、さらに倒産や廃業といった淘汰が進むとみられる。
https://www.tab.co.jp/report/watching/press/p240903.html

◆「月刊コロコロコミック」が大健闘する理由
 雑誌休刊が続き、漫画誌も苦戦が広がるなか、「月刊コロコロコミック」(小学館)が大健闘している。その理由は何か。漫画やアニメの情報を常にウォッチし続けるフリーライターの元城健さんが分析している。その秘密は「少年たちを虜にさせるブレない編集方針が奏功しているのではないか」と指摘している。詳細を以下に紹介する。
 世界的なファンの広がりを受け、日本の漫画やアニメなどのコンテンツ市場は好調である。その一方で、雑誌の発行部数は減少が続く。なかでも、最近になって往年のベテラン漫画家も衝撃を受けているのが、「週刊少年ジャンプ」(集英社)の発行部数の落ち込みである。
 日本雑誌協会が8月7日に公表した2024年4月〜6月の3ヶ月ごとの平均印刷部数によれば、「週刊少年ジャンプ」の発行部数は109万3333部となっている。これは最盛期の653万部の、約6分の1という数字だ。国内向けの雑誌はどこも苦境である。「週刊少年マガジン」(講談社)は32万3250部、「週刊少年サンデー」(小学館)は13万8750部でしかない。
 その一方で、小学生の男子を対象にした「月刊コロコロコミック」は32万3467部である。このご時世ではかなり堅調な数字といえ、しかもわずかながら「週刊少年マガジン」を上回っているのだ。これは、少子化が進んでいる昨今において、驚くべき数字と言っていいだろう。

 いったいなぜ、「コロコロコミック」が受けているのか。大手出版社の漫画編集者は同誌の「ブレない誌面作り」を評価し、こう語る。
「『コロコロコミック』は一貫して、小学生の男子向けの雑誌を丁寧に作っている。小学生の男子が求めるものをとことん盛り込んだ漫画が多いんですよ。具体的に言えば、下ネタを使ったギャグがその筆頭です。大人が眉を顰め、お母さんに怒られそうな下品なギャグ。これこそが、小学生男子が普遍的に求めるものなんですよ」
 この編集者は、ひと昔前であれば「コロコロコミック」を卒業して「週刊少年ジャンプ」を読んだであろう小学生男子が、今はそのまま「コロコロコミック」にとどまり、読み続けているケースも少なくないのではないかと分析する。その理由に、「週刊少年ジャンプ」に掲載される漫画の内容、特に絵柄を挙げている。
「ここ20年くらいで、『週刊少年ジャンプ』に載る漫画は明らかにきれいで、画力の高い漫画家の作品が多くなった。その一方で、下ネタを扱い、荒い絵柄の漫画が消えていきました。現在、『ジャンプ』は女性読者も多いと聞きます。絵がきれいになると女性には受けますし、メディアミックスもしやすく、外国人に人気の高い漫画は生まれるでしょう。しかし、肝心の“少年”たちの支持がどこまで広がっているのかが気になります」

 ギャグ漫画は海外で受けにくいといわれる。ましてや下品なギャグとなると、アニメ化などのメディアミックスも難しいだろう。しかし、そういった漫画やネタこそが、小学生男子が普遍的に求めているものなのではないか。そして、子どもたちの漫画の入口として重要な存在だったはずである。一貫してそういったニーズに応え続け、もはや孤高の存在になりつつある「コロコロコミック」が少子化のなかでも堅調な要因は、そこにあるのかもしれない。
https://realsound.jp/book/2024/09/post-1780259.html Real Sound リアルサウンド ブック2024年9月14日)
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2024年09月21日

【おすすめ本】原田和明『ベトナム戦争 枯葉剤の謎 日米同盟が残した環境汚染の真実』─ベトナム戦争で使われた日本製枯葉剤の‶罪と罰=£村梧郎(JCJ代表委員)

 枯葉剤問題はベトナムに限らない。日本にこそ隠された汚染がある。本書の主題は、そこに置かれている。見事なのは膨大な文献と新聞情報を掘り起こして実証している 点だ。
 動機は1968年の国会質問、社会党の楢崎弥之助による「枯葉剤が日本で作られ、ベトナム戦争に使われている」という指摘にあった。
 枯葉剤の2,4,5-T(ダイオキシン混入)を生産していた三井東圧大牟田は「輸出先はニュージーランドとオーストラリアで、ベトナムには出していない」と抗弁した。 調査すると労働者への人体実験の話さえも出る。

 ベトナムでの枯葉作戦は、ダウ・ケミカルやモンサントなど米・化学企業の増産で支えられていた。だが現地からは、もっと送れと要求される。米国は、調達を三井東圧ほか、独ベーリンガーなど海外企業に依存する。
 しかし発覚すれば「戦争加担だ」との世論が当事国で起きかねない。そこで迂回してベトナムに届く「ころがし」が行われた。ニュージーランドにあるダウ・ケミカルの子会社は、アフリカやメキシコ、フィリピンに転送、そこからベトナムの戦場へと届けられた。日本は、この「ころがし」に加わり、秘かに枯葉作戦に参加していたのだ。ナパーム弾輸出もベトナム特需の一つだった。いま政権が進める武器輸出の先がけである。

 問題はそれに留まらない。日本の国有林でも使われていた2,4,5-T 剤が林野庁の指示で現場にずさんな形で埋められたのである。それが50年余の歳月を経た今日、漏れ出して水源を汚染し始めている。無害化の手も打たれていない。本書は日本の政治の危うさを抉り出すものとなっている。(飛鳥出版2000円)
           
karaha.jfif
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