2024年10月13日

【おすすめ本】加藤 久晴『異様!テレビの自衛隊迎合ー元テレビマンの覚書』―自衛隊宣伝に手を貸すな  テレビの現場から警鐘 =岩崎貞明(ジャーナリスト)

 最新鋭の艦船、超音速で飛行する戦闘機、過酷な訓練で鍛え上げた制服姿の隊員たち…派手でカッコよく見える番組の背景に、いったい何があるのか。NHK・民放を問わず、やたらと目につくようになったテレビの「自衛隊番組」を徹底的に批判したのが本書だ。

 テレビが自衛隊を番組に取り上げようとする動機はいくつかある。@戦争映画のような迫力のある映像を作れるA防衛省に協力してもらえば制作予算がかからないBインパクトの強い映像で視聴率が期待できる――。一方、防衛省サイドにとってもメリットは小さくない。@広告費をかけずにテレビに露出できるA全面協力のパブリシティー番組だから自衛隊批判が出てこないB多くの視聴者に自衛隊の存在を見映え良くアピールできる…。

 ウクライナで、ガザ地区で、多数の罪なき人々が戦争によって生命・財産を容赦なく奪われている今、テレビが軍事訓練を無批判に電波に載せ、安易な自衛隊宣伝に手を貸していいのか? テレビドキュメンタリーのディレクターを長年務めた著者が、ジャーナリズムとしての放送のあり方を鋭く問いかけている。

 労組の取り組みも重要だ。民放労連の呼びかけで市民に反対の声が広がって放送中止となった日本テレビの『列外一名』や、会社がスポンサーの意向で放送中止とした番組に対して労組や市民が上映運動を展開したRKB毎日の『ひとりっ子』など、歴史的な事例も豊富に取り上げられる。
 戦争の悲劇を繰り返さないために、テレビは何ができるのか――著者の姿勢は一貫している。(新日本出版社1800円)
             
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2024年10月12日

【シンポジウム】日米関係の諸問題集約 米兵事件めぐり、JCJ沖縄と沖縄大学共催 情報コントロールは警察庁と官邸=米倉外昭

                       
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           シンポに参加した青木理さん(左)と金城正洋さん  

 JCJ沖縄は7日、那覇市の沖縄大学で、同大と共催で公開シンポジウム「米兵事件はなぜ隠されたのか―見えない壁の正体」を開催した。昨年12月に発生し、今年6月まで隠ぺいされていた米兵による16歳未満の少女への性暴力事件を巡って、なぜ半年間も隠ぺいされたのかに迫った。オンラインと合わせて約300人が参加した。

 シンポはJCJ沖縄世話人の黒島美奈子さんの進行で、事件を最初に報じた琉球朝日放送の、当日のデスクだった金城正洋さんが、報道に至る経緯を報告した。
 6月23日の沖縄戦慰霊の日の翌日24日、担当記者が地裁の期日簿のチェックをして事件を知り、25日に起訴状の開示を受け、昼ニュースで報じた。すぐに各社が速報に動き、半年間の隠ぺいへの怒りが広がっていった。
 金城さんは、県民の知る権利のために働くメディアとして、ルーティンをしっかりこなし、問題意識を研ぎ澄ましていることの重要性を指摘した。

 県警や政府が隠ぺいの理由にした被害者のプライバシーについて「報道する側は常に最大限の配慮をしている。被害者はケアされ、加害者は罰せられないといけない」と隠ぺいの問題点を指摘し、人権に最大限に配慮しながら知る権利を行使する重要性を強調した。
 続いてジャーナリストの青木理さんが近年の警察と政治の関係について話した。3人の内閣官房副長官の官僚から起用される1人が、安倍政権では公安警察出身の人物が長年権勢を振るい、岸田政権になっても構図は変わっていないと指摘した。

「警察はあらゆる情報を持っているので、政治にとって便利だ。警察は政治と一体化し、この間、特定秘密保護法などの治安法を次々と手に入れた」と説明した。そして、推測だとしたうえで「米兵事件の情報は警察庁、官邸でコントロールされているのではないか」と指摘した。

 黒島さんは、この30年の沖縄の米兵の性犯罪を巡る報道を調べた結果を紹介した。辺野古新基地問題を巡って沖縄県政と政府の関係が険しくなった2017年ごろから米兵事件が広報されなくなり、広報されても発生から時間がたっているケースがあった。
 青木さんは「この事件には日米関係のいろんな問題が凝縮している」と述べた上で、地位協定が改定できない背景として日本の人質司法などの問題も考えるべきだとした。

        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
   
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2024年10月11日

【追悼】元JCJ広告支部代表・運営委員 矢野 秀典さんが死去 人脈生かし例会、ツアー牽引=川田 マリ子

                  
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 長年にわたり広告支部の代表で、本部の運営委員だった矢野英典さんが8月20日亡くなった。83歳。
 
 体調をくずし郷里の香川県に帰ったのは12年前、戦線離脱はさぞ悔しいことであっただろう。
 広告会社での分野はマーケティング。だからか誰彼かまわずと言っていいくらい人との接点を増やすのが得意だった。組合の役員として会社と闘いながら自ら職場新聞を作るなど、なんでもこなす人だったので、人脈を生かして支部として、時に市民団体とのコラボなどの例会を重ね私たちを牽引した。文字通り広告支部の顔だった。

 その頃の広告支部は、広告はジャーナリストではないという意識を持っていたので、少し遠慮をしながらも、遠慮せずに意見を言った。
 2008年にはベトナム戦跡ツアーを組み、ベトナム共産党本部を訪ね外務次官相当の方と面談したり、戦争時の若者の心情を描いた小説の作家バオ・ニンさんを訪ねた。その翌年は八ッ場ダム取材ツアーを行い、各分野から20人以上もの参加があったように、外へ出る人だった。
 こういう活動をしていても争いごとの嫌いな人だった。若い人に気軽に声をかける人だったので、彼の周りはいつも笑顔と笑い声に溢れていたように思う。面白いことをいって人を笑わせながら、ふと真面目なことを言う。幅広い好奇心を持っていた。

 口癖は「いろいろ大変なんだよ」。持論のひとつが「読まれない100行より読まれる30行」そして「JCJらしい人を呼ぶ、ではないんだよ。JCJらしい話をしてもらうんだ。誰でもいろんなことを考えているんだ」。今の社会の中で、どんな支部例会を、どんなツアーを考えてくれただろう。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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2024年10月10日

【支部リポート】神奈川 虐殺の真相究明せよ 関東大震災 犠牲者追悼会=保坂 義久

 関東大震災当時、朝鮮人や中国人が民衆に虐殺されてから101年。一市民の建てた慰霊碑のある横浜市の保土谷墓地で、9月7日に犠牲者追悼会が開かれた。

 毎年、この追悼会では、実行委員による朗読劇が行われてきた。今年は新しく発見された資料に基づく「呼びかけ」が、それにあたる。
新資料は神奈川県知事から内務省にあてた公文書だ。虐殺された現場名や、犠牲者の特徴が記され、「呼びかけ」は追悼集会の実行委員たちにより一人ずつ読み上げられる。
 「南太田町一九一二先、電車軌道内、2名虐殺される。氏名不詳」と、無機的に読み上げられる犠牲者の情報には、土工風などと犠牲者の風体も記されているが、名前は不明だ。

 朗読劇の後に黙祷。引き続き、゙和仙氏が追悼の舞を舞い、神奈川朝鮮中高級学校中級部の生徒がアリランを歌った。
 追悼会実行委員会の山本すみ子共同代表は主催者挨拶で、犠牲者には朝鮮半島に遺族がいるはずだから、調査を進めて犠牲者の名前を明らかにしたいと語った。

 参加者スピーチは福島瑞穂参議院議員、弁護士の櫻井みぎわさん、ラッパーのFUNIさん。震災時の虐殺についての公文書が政府部内に存在しているか、再三国会で追及している福島議員は、戒厳令を発して民衆の不安を煽った当時の日本政府の責任と民衆の責任を共に追及しなければと強調した。

 最後に、追悼会からの発信として、横浜市長に宛てたメッセージを採択した。
 メッセージは、⓵関東大震災時虐殺の真相究明のための努力A神奈川追悼会への市長の出席または追悼文の送付B事実を記憶し教訓を継承するための追悼碑の建立C差別のない共生社会を築くための包括的差別禁止条例の制定を求めている。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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2024年10月09日

【月刊マスコミ評・放送】今夏も充実 NHKの戦争関連番組=諸川 麻衣

 この夏の戦争関連番組で特に注目したものを振り返りたい。まずNHKスペシャルから3作。 
『新・ドキュメント太平洋戦争1944 絶望の空の下で』は、市民の犠牲が急増したこの年を、サイパン島で両親を米軍の銃撃で喪いながらも奇跡的に生き延びた少女の手記や、武蔵野の中島飛行機の工場への爆撃で亡くなった少女の遺した日誌などから描いた。

『“最後の一人を殺すまで”〜サイパン戦 発掘・米軍録音記録〜』は、米軍が録音したサイパン戦の米兵の肉声を発掘、初めて日本の民間人と対峙した戦場で、投降を呼びかけても応じない日本人住民に米軍が猜疑心を募らせ、住民保護から殺戮へと転換してゆく過程を克明に描いた。
『“一億特攻”への道〜隊員4000人 生と死の記録〜』は、15年間特攻を取材し続けてきた大島隆之ディレクターが、隊員約四千人のデータ、隊員の選別基準を記す極秘資料などから、「一億特攻」が叫ばれる過程を明らかにした。軍とメディアのプロパガンダによって「特攻をしている間は負けない」という国民的熱狂が作り出され、戦争への批判が抑え込まれた構造が分かった。

 戦時中日本軍は、都市空襲の際に捕えた米機の搭乗員を、国際法違反の無差別爆撃を行った戦争犯罪人として軍律会議で裁き、処刑した。敗戦後横浜で開かれたBC級戦犯裁判では、米兵を裁いた日本の法務官たちが逆に捕虜殺害の罪で裁かれた。『ETV特集 無差別爆撃を問う〜弁護士たちのBC級横浜裁判〜』は、神奈川県弁護士会による裁判記録の再検証に密着、名古屋空襲、台湾空襲、広島・長崎の3例を通して、今なお続く無差別爆撃と、それを違法化する国際法とのせめぎあいを浮き彫りにした。

 NHK・BSで目を惹いたのが、『英雄たちの選択 昭和の選択』2本。『戦争なき世界へ〜国際司法の長・安達峰一郎の葛藤〜』は、国際連盟の下で創設された常設国際司法裁判所で1931年に初のアジア人所長となった安達峰一郎を取り上げ、満州事変の扱いを巡る安達の葛藤を紹介した。『敗戦国日本の決断〜マッカーサー「直接軍政」の危機〜』は、降伏文書調印直後、進駐軍が「直接軍政」「軍票の使用」などを布告しようとし、これを知った岡崎勝男、鈴木九萬ら外務官僚が土壇場で進駐軍幹部に中止を働きかけたという知られざる史実を取り上げた。間接統治体制が決まった過程から、今に至る戦後日本の「原形」を改めて考えさせられた。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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2024年10月08日

【リレー時評】「君死に」の響き合い 改憲阻む歩み=藤森 研

 自民党総裁選の9月。乱立した候補は、口々に「憲法改正」を言う。保守票が目当ての下心が見えて、浅ましい。
 今から120年前の1904年9月。雑誌『明星』に、有名な反戦詩が載った。
〈清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき〉と清新に歌ってデビューした若手歌人・与謝野晶子が、唐突に〈君死にたまふこと勿(なか)れ〉と反戦をうたいあげ、世を驚かせた。日露戦争の真っ最中である。

 自宅への投石や、文壇の重鎮の批判にも、晶子は毅然とこの作品を護った。詩は、戦地にある弟を思う姉の真情だが、同時に、尊敬してやまないロシアの文豪トルストイへの「返し歌」だった。
 トルストイは日露戦争に対し烈々たる反戦論文を書いた。さすがにロシア国内では出版できず、1904年6月、英紙『タイムズ』に発表した。
【「汝、殺すなかれ」の戒めに背き、人と人が野獣のように虐殺し合うとは、そも何事か。この戦争は、宮殿に安居し栄誉と利益を求める野心家らが、ロシアと日本の人民を犠牲にしているのだ】
「君死に」の第三連にはこうある。〈すめらみことは戦ひに おほみづからは出でまさね かたみに人の血を流し 獣(けもの)の道に死ねよとは〉

 天皇自らは戦場に行かれない。戦争は安全な場所にいる指導者が起こし、獣のように殺し合いをさせられるのは両国の人民だ――。庶民の立場からの反戦の理が、トルストイと晶子で見事に響き合っている。
 与謝野家が購読していた東京朝日新聞に、「トルストイ伯 日露戦争論」が訳出連載されたのは、04年8月2日から20日までだった。「君死に」が載る『明星』の締め切りは8月20日(一説に22日)。他にも符合する点があり、晶子はトルストイの反戦論文を読んで、「君死に」を書いたと推認できる。新聞にそう書くと、何人かの晶子研究者が賛同してくれた。
 タイムズのトルストイ反戦論文は当時、世界に反響を呼んでいた。米、仏、英の作家や学者が同感を表明。晶子の詩も、世界的反響の一つに位置づけられる。ただトルストイと晶子の場合は、勇敢にも戦争当事国内から挙げた反戦の声だった。

「戦争は悪だ」というその思想は、戦争違法化論の源流となる。それは連盟規約、不戦条約、国連憲章へと発展し、日本の憲法9条を生んだ。
いま、イスラエルによるガザ市民の虐殺に、米国の学生運動をはじめ世界で抗議の輪が広がっている。翻って、日本の動きは実に乏しい。
 保守的な日本の気分に悪乗りし、総裁選後の新首相は、軽躁に明文改憲を企てるかもしれない。
 だが、軍拡を進める政府が今でも「専守防衛の枠内で」と言わざるを得ないのは、多少傷ついたとはいえ平和憲法がなお厳然と生きているからだ。改憲は、平和へ向かう世界の歩みに明らかに逆行する。日本の市民が、止めなければならない。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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2024年10月07日

【Bookガイド】10月に刊行の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

 ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)。

◆川端美季『風呂と愛国─「清潔な国民」はいかに生まれたか』 NHK出版新書 10/10刊 980円
 私たち日本人が「毎日風呂に入り、お湯に浸かるのは当たり前」という意識や習慣は、いったいどこからきたのか。「日本人は風呂好き」のルーツを、江戸時代の入浴習慣や「清潔な国民」を育てるため衛生指導、さらには国民道徳としての身体・精神の「潔白性」強調など、入浴を通して見えてくる「衛生と統治」のカラクリを、立命館大学准教授(専攻・公衆衛生史)の著者が日本の近代史を通して考察するユニークな新書。
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◆日向咲嗣『「黒塗り公文書」の闇を暴く』朝日新書 10/11刊 900円
 モリカケ、桜を見る会など、解明のための資料請求に、政府は「黒塗り公文書」を平気で出してきた。その悪習がいまや地方自治の現場でも行われるようになった。公文書が黒塗りで情報開示される事態が多発している。市民が開示を求めた情報を、どうして行政は黒塗りにするのか、なぜ許されるのか?黒塗りで隠された官民連携の実態に迫る! 著者は数々の地方自治体に情報開示請求を行い、公文書の闇に迫る活動を続けるジャーナリスト。
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◆原武史『象徴天皇の実像─「昭和天皇拝謁記」を読む』岩波新書 10/21刊 960円
 昭和天皇と側近たちとの詳細なやり取りを記録した「昭和天皇拝謁(はいえつ)記」。政局や社会情勢、戦争について饒舌に語る昭和天皇の等身大の姿が浮かび上がる。歴史上はじめて象徴天皇となった人物の言動は、どんな内容だったのか。私たちにとって「象徴」とは何なのか。日本政治思想史を専攻する著者が、新聞記者の現役時に昭和天皇の最晩年を取材、その後も昭和天皇について研究を重ね、その成果の上に論考する。
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◆鈴木俊幸 『蔦屋重三郎』平凡社新書 10/21刊 1000円
 来年のNHK大河ドラマ「べらぼう」の主人公─蔦屋重三郎とはどんな人物か。江戸吉原の人気ガイドブック『吉原細見』を独占出版し、続いて狂歌と浮世絵を合体させた豪華な狂歌絵本の刊行、山東京伝らによる戯作を出版、歌麿や写楽などを見出し、大成功をおさめた。この名プロヂューサー「蔦重」がもたらした文化的な影響を軸として、蔦屋重三郎という人物を浮き彫りにする書き下ろし。著者は中央大学文学部教授で近世文学・書籍文化史を専攻。
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◆ニュースサイトハンター編『追跡・鹿児島県警 闇を暴け!』南方新社 10/25刊 1800円
 今年6月、鹿児島県警は2件の内部告発を機に、県警本部長の隠蔽疑惑、内部告発者の逮捕、報道機関への強制捜査など、底なしの闇が暴かれた。本書の編者・ニュースサイトハンターは、福岡市を拠点に政治・行政に特化した記事を配信している。そこへ鹿児島県警は家宅捜索に入り、公益通報を単なる情報漏洩にすり替えようとした。この事態の詳細と鹿児島県警の闇を、徹底的に調べ告発する本書は、ジャーナリストはもちろん一般市民の必読書。
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【寄稿】強まる政治圧力、揺れるNHK、中国人スタッフ生ニュース発言 国際担当理事 引責辞任、行政指導も=長井 暁氏

 8月19日の午後1時過ぎにNHKラジオ国際などで生放送された中国語ニュースで、中国人のスタッフがニュース原稿にない内容を発言した問題は、ついに国際放送担当理事の引責辞任、総務省によるNHKへの行政指導という事態に発展した。
問題矮小化で
傷広をげる
 NHKは放送当日、直ちに報道資料を公表し、ニュースウオッチ9でも伝えた。しかし、問題を「不適切発言」とし、内容も尖閣諸島を「中国の領土である」と発言したことに限定して公表した。
 いつものように問題を矮小化し、NHKの責任を小さく見せようとしたのである。
視聴者からも
抜け落ち指摘
 しかし、この問題は政治家の激しい批判に晒された。
 8月22日に自民党の情報通信戦略調査会での説明を求められると、NHKは発言内容に「(中国語で)釣魚島と付属の島は古来より中国の領土です。NHKの歴史修正主義とプロフェッショナルではない業務に抗議します。(英語で)南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな。彼女らは戦時の性奴隷だった。731部隊を忘れるな」という内容があったことを公表し、稲葉会長が謝罪した。

 議員からは「非常に深刻な問題だ」「重大な違反行為だ」などの厳しい発言が相次いだ。さらに視聴者からの指摘で、「歴史修正主義」の後に「宣伝」という言葉があったこと、「『軍国主義』『死ね』などの抗議の言葉が書かれていた」も抜け落ちていたことが明らかになった。
異常な内容の
謝罪番組放送
 政治への対応に追われていたNHKは、8月26日の午後5時50分から5分間の謝罪番組を総合テレビで放送した。
 この番組ではNHKが定めた「国際番組基準に抵触するなど、NHKが放送法で定められた責務を適切に果たせなかったという、極めて深刻な事態であり、深くお詫び申し上げます」というフレーズを3回も繰り返すという異常な内容だった。

 さらに、中国人スタッフは慰安婦について「性奴隷」と発言したことについて、この表現は「事実に反するので使用すべきでない」、慰安婦問題は、「韓国政府との間で、両国間で解決済みである」とする日本政府の公式見解を、何の解説も付けず、あたかも客観的な事実であるかのように放送した。
 「性奴隷」という言葉は国連人権委員会などの報告書などでも一般的に使われており、「事実に反する」とは言えないし、韓国政府との間で解決済みだとしても、慰安婦問題が全て解決済みとする見解には無理がある。
報道資料にも
政府への忖度
 この謝罪番組は、発言内容に激しく反発する政治家に対応するために放送したものにしか見えない。NHKが8月28日に公表した報道資料には、「安全保障の観点への意識が欠けていた」との言葉を盛り込まれた。これは政府への配慮だろう。
 NHKの国際放送は国が一部負担し、総務大臣は「国の重要な政策」などの事項について、国際放送を行うことを要請することができると定められている。しかし、その際にもNHKの「番組編集の自由に配慮する」ことが明記されている。NHKも「自主的な編集のもと国際放送をおこなっている」と説明している。
公正な批判と
見解はどこに
 「国の重要な政策」を放送するにしても、「公正な批判と見解」のもとに伝えないのであれば、それは戦前戦中の対外宣伝放送と同様なものになってしまうだろう。そのような国際放送が、「わが国に対する正しい理解」と「国際親善の増進」に役に立つとは思えない。
 NHKには自主自律を堅持して、公共放送の使命を果たしてもらいたい。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
 
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2024年10月06日

【フォトアングル番外編】=憲法9条を守る運動の緊急交流会開く=9月28日、横浜・かながわ県民センター 伊東良平撮影

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 自民党総裁選で石破茂氏が選ばれ、10月1日に首相に選出された。総裁選に立候補した9人全員が改憲を叫ぶ中、9条かながわの会では9条の最大の危機として、9月28日に横浜市で「憲法9条を守る運動の緊急交流会」を開催した。
 共同代表で弁護士の岡田尚氏は、2014年の集団的自衛権行使容認の閣議決定から10年。急激な戦争への下り坂でブレーキなき暴走が続くとして、「新しい石破政権のもとで改憲発議の可能性がある。世界は再び戦争と紛争の時代の中で、これまで何度も改憲の危機を乗り越えてきたことに自信と確信を持とう」と発言。
 憲法を守ることはあくまでも手段であって、「目的は戦争をなくして平和な社会を維持することで、九条の会運動もその中にある」と結んだ。

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2024年10月05日

【おすすめ本】船津 靖『聖書の同盟 アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか』―「特別な関係」を深掘り 白眉は米キリスト教の影響力を分析=池田 明史(前東洋英和女学院学長)

  1980年代だったか、「ユダヤがわかれば世界が見えてくる」というタイトルのトンデモ本がベストセラーとなって、国際的に物議を醸したことがあった。その後もユダヤ人問題やイスラエル国家に関する日本人の無知蒙昧が世界中に晒された。

 これら偏見に満ちた極彩色の世迷言とは次元が異なるが、最近でも長崎での平和記念式典にイスラエル大使が招待されず、これに反発した米英など西側主要国大使も事実上式典をボイコットした。日本人の多くは、これを過剰反応とか政治利用とみなしたようだが、こうした解釈そのものが、欧米における反ユダヤ主義の位置づけやイスラエルの取り扱いの難しさをいまだに理解していない事実を物語っているように思われる。

 一筋縄ではいかないこのような欧米、とりわけアメリカとイスラエルとの「特別な関係」を歴史的・政治的・文化的に俯瞰し、また中軸部分は深く掘り下げて解明しようとするのが本書である。従来この関係は、冷戦時代にはソ連・東側陣営を、ポスト冷戦期にはイスラム過激派を、両国がそれぞれ敵として共有してきたこと、両国ともに移民国家であって辺境開拓のフロンティア精神への憧憬で繋がっていること、などで説明されることが多かった。

 しかし筆者は、説明の主軸をユダヤ=キリスト教的伝統、すなわち聖書に求める。なかでも、アメリカのキリスト教の流れを跡付け、その変遷において台頭してきた福音派やキリスト教シオニズムの信条や理路、そしてそのアメリカ政治への影響の分析は明快で、まさに本書の白眉と言えよう。
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2024年10月03日

【焦点】究極の原発延命策を狙う 電気料金に建設費 衰退産業のコストを転嫁 龍谷大学教授・大島堅一氏が指摘=橋詰雅博

 経済産業省は、2024年度中に策定する第7次エネルギー基本計画(エネ基)に原発新増設の建設費などを電気料金に上乗せする新たな原発支援制度を盛り込む方針だ。これまで利用者が支払っていた電気料金は基本料金+使用量に応じた電気量料金+再生可能エネルギー発電普及のための賦課金の3階建て。これに原発建設費、維持費、廃炉積立金などを含む原発料金が加わると4階建てに。まだ稼働していないのに市民は料金を支払わされる。背後に何が――。
 エネルギー安定供給とCO2排出抑制を口実に原発を最大限利用に方針を転換した岸田文雄政権は、30年度の発電量に占める原発比率の目標を20〜22%とした。実現には27基ほどの稼働が必要だ。現在動いているのは12基で、全発電量の5・5%に過ぎない。目標クリアには再稼働だけでは足りず、原発新増設は不可欠である。

米国で13基閉鎖

 しかし電力会社は新増設に踏み切れない理由がある。高騰する建設資材や人件費、膨れ上がる事故対策費などで原発コストが爆上がり≠オているのだ。米国投資コンサルタント会社ラザードの23年調査では、原発コストの平均値は、陸上風力や太陽光の再生エネルギー発電の平均の3倍以上。そのうえ建設資材や人手不足で建設期間は大幅に延長が欧米で常態化している。米国では11年以降、13基は「収支が赤字」という理由で閉鎖された。フランスの新型原発は12年遅れで9月4日に稼働。その建設費は当初予定の4倍の132億ユーロ(2兆1000億円)に激増した。日本の原発建設費用も1基あたり1兆から2兆円。このため「原発事業に未来はない」と川崎重工業や住友電気工業など20社は原子力事業から撤退した。
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 国際環境NGO「FoE Japan」が8月19日に開いた緊急オンラインセミナーに出演した原発問題に詳しい龍谷大学政策学部の大島堅一教授=写真=は「日本の電力会社にも原発は重荷になっている」「原発事業の継続に新増設は欠かせない、そのため支援の資金メカニズムが必要と電力業界は主張した」と指摘した。

費用回収スキーム

 電力業界に同意の国は、支援策として英国考案の「RAB(ラブ)」モデルに目を付けた。制度が複雑なRABモデルを簡潔に説明すると、建設工事費用などを消費者から回収するスキーム。これまで水道・ガスの公共工事やヒースロー空港の第5ターミナル建設に適用された。さらに原発をRABモデル対象にするため原発融資法を22年に制定。英国政府とフランス電力公社が折半出資し建設中のサイズウェルC原発がその第1号だ。
 日本でもあらかじめ建設費を始め諸費用を電気料金に加え費用の回収に目途をつけてから新設予定の原発工事が着手されるだろう。

都合の良い具体策

 英国環境団体などが強く反対するRABモデルの問題点について大島教授は@建設増大・遅延コストのリスクを市民に転嫁、A費用の確実な回収は電力会社のコスト意識をダウンさせる、B電力自由化に逆行、C再エネ・省エネの拡大を妨げる―などを挙げた。
 大島教授は日本版RABモデル≠「究極の原発延命策」と名付けた。モデル導入という文言だけをエネ基に入れ、制度設計はその後に行う見込み。経産省と資源エネルギー庁は作り上げた既成事実に基づき国や電力業界にとって都合のいい具体策を取り入れるのではないか。
 電気料金の大幅値上げを強いる理不尽な新原発支援制度に対し、市民は断固反対しなければならない。
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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2024年10月02日

【映画の鏡】末期がんの父親を在宅で介護『あなたのおみとり』訪問医療に支えられる家族の姿=伊東 良平

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                 Eiga no Mura
 末期がんで家での最期を希望した父親を、映画監督の息子が看取りから旅立ちまでを丹念に記録したドキュメンタリーである。
超高齢社会の日本で介護は大きな問題であり、特に動けない状態になった場合には家族にいろいろな負担が生じてくるが、現実に直面しないとどのような状況になるのか想像がつかない。

 この映画は撮影者が家族であることから、自然体でありのままの姿を見ることが出来る。
 母親は自分一人で介護を行うつもりであったようだが、精神的にも肉体的にも参って訪問医療や在宅介護を活用して自宅で看取ることになる。画面には診療医や訪問看護師、介護ヘルパーなど医療と介護に関わっている方たちの様子が映し出される。

 こうした人たちのおかげで在宅での介護が成り立っていることがわかる。母親がヘルパーや看護師たちと関わることになって、表情も豊かになりゆとりが生じるのも感じとれる。父親は最期に近づくにつれて衰弱して痩せていくが、カメラは命の終わりを丁寧に追っていく。

 亡くなった後の納棺や斎場の様子も捉えて、葬儀は海での散骨へとなるが、海洋葬のシーンはあまり見ることがないので興味深い。この作品は改めて自分や家族の看取り方についても考えるきっかけになりそうだ。看取りの方法はもちろん人それぞれなので、自分なりの「あなたのおみとり」を見つける必要がある。自宅での看取りを考えている人にとっては大変参考になる作品である。
 ポレポレ東中野にて上映中ほか全国順次公開 
           JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号

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2024年10月01日

【連続シンポ】第2回公共放送NHKをめぐる2つの市民運動〜 原点はETV2001番組改変事件 〜=NHKとメディアを考える会 JCJ共催 

 2018年、外部企業・郵政三社からの抗議を代弁してNHK経営委員長(当時は代行)が番組に介入するという放送法違反のあってはならない事件が起こり、真相解明を求めて市民が「NHK文書開示等請求訴訟」に立ち上がり、7月から控訴審が始まっています。
 22年末、NHK会長の改選期には、前川喜平氏を候補に推し立てて市民によるNHK会長推薦運動を展開しました。NHK会長の任期は3年、26年1月には新しい会長選びが待っています。

(パネリスト)
 永田 浩三氏(武蔵大学教授・NHK会長推薦運動呼びかけ人)
 長井 暁氏(ジャーナリスト・「NHK文書開示等請求訴訟」原告団事務局長)
 砂川 浩慶氏(立教大学教授)

(日時) 24年10 月13日(日)15:00〜17:00(開場14:30)

(会場) 立教大学池袋キャンパス7号館1階7102教室 

 資料代800円(学生無料)

(同時配信)お申し込みは下記URLをクリックしてお申し込みください。

参加費800円 https://peatix.com/event/4057709/view      

<主催>NHKとメディアの今を考える会 立教大学社会学部メディア社会学科・砂川ゼミ

<共催> 日本ジャーナリスト会議、日本ジャーナリスト会議・東海、放送を語る会、 メディアを考える市民の会ぎふ、
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2024年09月30日

【フォトアングル】朝鮮人犠牲追悼式典「語り継ぐことが責務」と実行委員長=9月1日、墨田区・都立横網町公園、伊東良平撮影

P1013352.JPG

 関東大震災のあった9月1日、台風10号による雨が時折降る中で、朝鮮人犠牲者追悼式典が東京両国の横網町公園で行われた。台風の影響で規模を縮小して実行委員の人たちとメディア関係者で開催したが、周りには一般の市民も集まり式典を見守った。小池百合子都知事は今年も追悼文を出さず、宮川康彦実行委員長は挨拶の中で「子孫や周りの人に語り継ぐことが我々の責務」と述べた。読経と鎮魂の舞の後、舞踊家など代表4人が献花を行った。
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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