【おすすめ本】日向咲嗣『「黒塗り公文書」の闇を暴く』─公共事業の民間委託に絡む「黒塗りの闇」を剥がす=関口威人(ジャーナリスト)
大いにうなずき、共感しながら読んだ。
起こっているのは、日本のどの自治体でも大なり小なり同じようなことだろう。しかし、それを明るみに出すのに、どれだけの時間と労力がかかるものかと、心寒くなる。
著者が主に取り上げるのは、和歌山市民図書館を運営するため、民間委託を受けた蔦屋書店を巡る不透明な手続きや契約である。
情報公開を求めて出された計画策定時の会議資料一式、コンペの提案書や選定委員会の議事録、開館後の図書館併設カフェの賃料が、募集要項の10分の1に引き下げられた根拠を示す文書などが、当初は9割以上も「黒塗り」だったり、「不存在」とされたりした。
評者の私も愛知県の新体育館建設の不透明な入札に情報公開を駆使して迫ったが、何度も黒塗りに泣かされた。「PFI」「官民連携」の名の下、役所が企業の利益確保や秘密保持を優先し、市民への説明責任をないがしろにする場面に何度も出くわした。
しかも和歌山の「ツタヤ図書館」は、事業自体が民間の駅前再開発(市は駅ビルの一部に図書館を移転する計画)に隠れてしまう。 そのうえ著者は市外在住なので、情報公開のハードルは何重にも高かったはず。それを一つ一つ乗り越え、まさに「黒塗りの闇」をはがしていった執念には、脱帽せざるを得ない。
特筆すべきは、著者がこうした公共事業について「学ぶ会」や「よくする会」といった市民団体と協働したことだ。問題が明るみになっても地元のマスコミは動きが鈍く、当局情報を無批判に記事化する新聞社もあったという。民意が読めなくなったといわれる既存メディアの人間こそ、心して読むべき一冊だ。(朝日新書990円)
2025年01月24日
【焦点】水没「長生炭鉱」、朝鮮人含む183人の遺骨引き上げに取り組む山口県市民団体の活動報告=橋詰雅博
JCJが主催した12月集会で基調講演した毎日新聞学芸部専門記者の栗原俊雄氏は、「『永遠の戦後』のために―常夏ジャーナリズム」と題した講演のなかで、山口県宇部市にあった海底炭鉱「長生炭鉱」について触れていた。第2次大戦中に「水非常(みずひじょう)」と呼ばれる水没事故で183人が亡くなったが、80年以上たっても犠牲者の遺骨が眠ったままで日本政府は何もしていないと憤っていたのが強く印象に残った。
長生炭鉱創業時の桟橋の様子 刻む会HP
この遺骨を引き上げる計画を進める市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(略称刻む会)の山内弘恵氏が婦人民主クラブ発行の24年11月5日号「ふぇみん」で刻む会の活動を報告している。
1932年(昭和7年)から本格操業した長生炭鉱は、42年(昭和17年)2月3日、海底に延びた坑道の約1`沖合で水非常が発生。日本軍による真珠湾攻撃から2カ月後だった。犠牲者183人のうち7割の183人が朝鮮半島出身者。当時、いく度も出水を繰り返し危険な炭鉱のため働き手は地元の人が少なく、低賃金の朝鮮人労働者を使い事業を拡大させていた。事故後、事業は縮小し、敗戦を機に炭鉱は閉鎖された。
ピーヤと呼ばれる排気・排水筒 刻む会HP
人々の記憶から忘れ去られようとしている91年に刻む会は発足。@現地に全犠牲者の名前を刻んだ追悼碑の建立、A海面から突き出たピーヤと呼ばれる排気・排水筒の保存、B証言・資料の収集と編さん―の3つの目標を掲げた。
追悼碑 刻む会HP
2013年2月にようやく追悼碑建立を実現した後、刻む会は遺族会が求めていた遺骨収集・発掘を目指し再スタート。これまで日本政府に3回、韓国政府に2回交渉した。所管の厚生労働省は「見える遺骨」だけ扱うと回答。今年7月15日「坑口を開けるぞ!」集会を引き金にクラウドファンディングなどで資金を集め9月から工事に着手。10月1日、横幅220a、縦幅160aの坑道を掘り出した。今後はこの坑道からあるいはピーヤからダイバーの力を借りて潜水調査を実施する。「一日も早く遺骨を見つけ出し、家族の元へ帰したいと切に願っている」と刻む会は述べている。
日本政府の冷たい態度に改めて腹が立つ。
長生炭鉱創業時の桟橋の様子 刻む会HP
この遺骨を引き上げる計画を進める市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(略称刻む会)の山内弘恵氏が婦人民主クラブ発行の24年11月5日号「ふぇみん」で刻む会の活動を報告している。
1932年(昭和7年)から本格操業した長生炭鉱は、42年(昭和17年)2月3日、海底に延びた坑道の約1`沖合で水非常が発生。日本軍による真珠湾攻撃から2カ月後だった。犠牲者183人のうち7割の183人が朝鮮半島出身者。当時、いく度も出水を繰り返し危険な炭鉱のため働き手は地元の人が少なく、低賃金の朝鮮人労働者を使い事業を拡大させていた。事故後、事業は縮小し、敗戦を機に炭鉱は閉鎖された。
ピーヤと呼ばれる排気・排水筒 刻む会HP
人々の記憶から忘れ去られようとしている91年に刻む会は発足。@現地に全犠牲者の名前を刻んだ追悼碑の建立、A海面から突き出たピーヤと呼ばれる排気・排水筒の保存、B証言・資料の収集と編さん―の3つの目標を掲げた。
追悼碑 刻む会HP
2013年2月にようやく追悼碑建立を実現した後、刻む会は遺族会が求めていた遺骨収集・発掘を目指し再スタート。これまで日本政府に3回、韓国政府に2回交渉した。所管の厚生労働省は「見える遺骨」だけ扱うと回答。今年7月15日「坑口を開けるぞ!」集会を引き金にクラウドファンディングなどで資金を集め9月から工事に着手。10月1日、横幅220a、縦幅160aの坑道を掘り出した。今後はこの坑道からあるいはピーヤからダイバーの力を借りて潜水調査を実施する。「一日も早く遺骨を見つけ出し、家族の元へ帰したいと切に願っている」と刻む会は述べている。
日本政府の冷たい態度に改めて腹が立つ。
2025年01月23日
2025年01月22日
【出版界の動き】いかに出版活動をアクティブ化するか、真に問われる2025年=出版部会
◆24年紙の出版物・総売上1兆円確保か
日本の出版界、今年はどうなるか。昨年2024年1〜11月期の紙の出版物売り上げは9172億円(前年同期比5.7%減)。書籍は5471億円(同4.2%減)、雑誌は3702億円(同7.4%減)。12月期の実績額によるが、「年間での販売金額1兆円割れを回避できそうだ」といわれている。
日販の「出版物販売額の実態」最新版(2024年版)によると、売り上げの構成比が、この17年間(2006年〜2023年)でコミック、文庫、児童書は増えたが、雑誌、新書、文芸は減っている。
注目すべきは児童書ジャンルである。2023年における売上は推計で953億円、総売上に占める構成比は7.1%。構成比・売上ともに増加している。その一方、雑誌は2006年比で6割強も減らしている。
◆24年度の電子出版市場
出版科学研究所による2024年度の電子出版市場の売り上げは集計中だが、上半期(1〜6月)の電子出版市場は2697億円(同6.1%増)。電子書籍・電子雑誌ともにはプラス成長だった。下半期が上半期と同じ成長率と仮定すると、1年間では電子コミック5145億円、電子書籍450億円、電子雑誌85億円、計5679億円となる。
◆マンガの海外輸出2240億円
マンガ・アニメIP市場調査によると、マンガの海外輸出は2022年の時点で2240億円に達したという。ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベース」を基に、日本の出版物の海外市場3200億円のうち7割がマンガであると仮定して算出したもの。
また海外向けマンガは「前年比15〜18%(推定値)程度で拡大している」との推定もあり、さらに拡大しているのは間違いない。
◆通販雑誌『ハルメク』48万部へ
『ハルメク』は定期購読型の月刊誌。50代以上の女性を対象に、65歳くらいから80代をコアの読者にしている。60代になると、配偶者やご本人が退職を迎え、年金受給が始まり、生活や人付き合いに変化が訪れる。この世代に向けて悩みや願望に寄り添う情報を届ける内容が、驚異の部数増につながった。
工夫の1つは本誌に綴じ込みの読者ハガキを付け、自由に書き込めるコメント欄を設け、月2000通ほど編集部に届く。重要な意見はすぐ共有し、特にコメントの多い500通ほどは毎月データベース化をして、いつでも読者の考えを誌面に活かせるようにした。
2つは社内シンクタンク「生きかた上手研究所」が行う読者満足度調査。毎号、雑誌を読み終わったころを見計らってアンケートを送付し、年間約3000人の読後の満足度や閲読率を調べる。この結果を雑誌作りに反映し、広告制作や商品開発にも活かす。
3つめは受容度調査。雑誌の企画を立てる際、興味を持って受け容れてもらえるかを編集部とマーケティング課で調べる。ハルメクを読んだことのない方を対象に、バイアスのかからない意見を集める。
これら3つの工夫が効果を発揮しているという。
◆24年度売れた本、昨年と同じ顔ぶれ
今年も発表された書籍の年間ベストセラーランキングを振り返ると、日販の1位:雨穴『変な家』、2位:鈴木のりたけ『大ピンチずかん』が、どちらも人気シリーズの第2作だったことだ。
『変な家』はウェブメディアで発表され、YouTubeで人気が爆発した後に書籍化された。しかもシリーズ第2弾がベストセラーとなるのは前代未聞である。『変な家』は、2024年3月15日に映画が公開され、追い風をうけ第2弾が上半期ベストセラーランキング1位となる。映画と連動して書店店頭での動きが大きくなれば、10代の若年層にも大きく影響した可能性がある。
『大ピンチずかん』は7月9日に発行部数が100万部を超え、同時にシリーズ累計が167万部といわれる。
◆紀伊國屋「キノベス!2025」発表
紀伊國屋書店で働く全スタッフが、自分で読んでみて本当に面白いと思った本へのコメントをもとに、選考委員19名の投票で「おすすめ本ベスト30」を決定。2月1日(土)から全国の紀伊國屋書店およびウェブストアでフェアが開催される。
そのうち「ベスト5」は、1位:朝井リョウ『生殖記』(小学館)、2位:間宮甲改衣『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房)、3位:野崎まどか『小説』(講談社)、4位:かまど/みくのしん『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む―走れメロス・一房の葡萄・杜子春・本棚』(大和書房)、第5位:三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)
◆読書バリアフリーへの対応
2023年に芥川賞を受賞した市川沙央『ハンチバック』の広げた波紋は大きく、2024年は読書バリアフリーやアクセシビリティに関する取り組みが進んだ。
4月には、日本文芸家協会、日本推理作家協会、日本ペンクラブが「読書バリアフリーに関する三団体共同声明」を発表。6月には日本書籍出版協会、日本雑誌協会、デジタル出版者連盟(旧・電書協)、日本出版者協議会、版元ドットコムが「読書バリアフリーに関する出版5団体共同声明」を発出している。
しかし、制作プロセスだけの対応ではダメで、流通や利用の過程も変わっていく必要がある。つまり電子取次・電子書店・電子図書館の対応が伴わなければ、普及はとん挫する。利用者へのガイドも含め、対策が求められている。
図書館振興財団は、視覚に障がいがある方や、紙の本の読書が難しい方に読んでもらうために、まずは機関誌『図書館の学校』を、音声読み上げ等に対応したリフロー型電子書籍として公開。
公開方法:当財団ウェブサイトhttps://toshokan.or.jpやSNSを通じて各電子書籍にアクセスする。
これから公開する電子書籍には、例えばリフロー型電子書籍に印刷版ページ番号情報を入れ、一般的な用途にも役立てるよう改善するなど、より利用しやすい電子書籍を模索していくという。
日本の出版界、今年はどうなるか。昨年2024年1〜11月期の紙の出版物売り上げは9172億円(前年同期比5.7%減)。書籍は5471億円(同4.2%減)、雑誌は3702億円(同7.4%減)。12月期の実績額によるが、「年間での販売金額1兆円割れを回避できそうだ」といわれている。
日販の「出版物販売額の実態」最新版(2024年版)によると、売り上げの構成比が、この17年間(2006年〜2023年)でコミック、文庫、児童書は増えたが、雑誌、新書、文芸は減っている。
注目すべきは児童書ジャンルである。2023年における売上は推計で953億円、総売上に占める構成比は7.1%。構成比・売上ともに増加している。その一方、雑誌は2006年比で6割強も減らしている。
◆24年度の電子出版市場
出版科学研究所による2024年度の電子出版市場の売り上げは集計中だが、上半期(1〜6月)の電子出版市場は2697億円(同6.1%増)。電子書籍・電子雑誌ともにはプラス成長だった。下半期が上半期と同じ成長率と仮定すると、1年間では電子コミック5145億円、電子書籍450億円、電子雑誌85億円、計5679億円となる。
◆マンガの海外輸出2240億円
マンガ・アニメIP市場調査によると、マンガの海外輸出は2022年の時点で2240億円に達したという。ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベース」を基に、日本の出版物の海外市場3200億円のうち7割がマンガであると仮定して算出したもの。
また海外向けマンガは「前年比15〜18%(推定値)程度で拡大している」との推定もあり、さらに拡大しているのは間違いない。
◆通販雑誌『ハルメク』48万部へ
『ハルメク』は定期購読型の月刊誌。50代以上の女性を対象に、65歳くらいから80代をコアの読者にしている。60代になると、配偶者やご本人が退職を迎え、年金受給が始まり、生活や人付き合いに変化が訪れる。この世代に向けて悩みや願望に寄り添う情報を届ける内容が、驚異の部数増につながった。
工夫の1つは本誌に綴じ込みの読者ハガキを付け、自由に書き込めるコメント欄を設け、月2000通ほど編集部に届く。重要な意見はすぐ共有し、特にコメントの多い500通ほどは毎月データベース化をして、いつでも読者の考えを誌面に活かせるようにした。
2つは社内シンクタンク「生きかた上手研究所」が行う読者満足度調査。毎号、雑誌を読み終わったころを見計らってアンケートを送付し、年間約3000人の読後の満足度や閲読率を調べる。この結果を雑誌作りに反映し、広告制作や商品開発にも活かす。
3つめは受容度調査。雑誌の企画を立てる際、興味を持って受け容れてもらえるかを編集部とマーケティング課で調べる。ハルメクを読んだことのない方を対象に、バイアスのかからない意見を集める。
これら3つの工夫が効果を発揮しているという。
◆24年度売れた本、昨年と同じ顔ぶれ
今年も発表された書籍の年間ベストセラーランキングを振り返ると、日販の1位:雨穴『変な家』、2位:鈴木のりたけ『大ピンチずかん』が、どちらも人気シリーズの第2作だったことだ。
『変な家』はウェブメディアで発表され、YouTubeで人気が爆発した後に書籍化された。しかもシリーズ第2弾がベストセラーとなるのは前代未聞である。『変な家』は、2024年3月15日に映画が公開され、追い風をうけ第2弾が上半期ベストセラーランキング1位となる。映画と連動して書店店頭での動きが大きくなれば、10代の若年層にも大きく影響した可能性がある。
『大ピンチずかん』は7月9日に発行部数が100万部を超え、同時にシリーズ累計が167万部といわれる。
◆紀伊國屋「キノベス!2025」発表
紀伊國屋書店で働く全スタッフが、自分で読んでみて本当に面白いと思った本へのコメントをもとに、選考委員19名の投票で「おすすめ本ベスト30」を決定。2月1日(土)から全国の紀伊國屋書店およびウェブストアでフェアが開催される。
そのうち「ベスト5」は、1位:朝井リョウ『生殖記』(小学館)、2位:間宮甲改衣『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房)、3位:野崎まどか『小説』(講談社)、4位:かまど/みくのしん『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む―走れメロス・一房の葡萄・杜子春・本棚』(大和書房)、第5位:三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)
◆読書バリアフリーへの対応
2023年に芥川賞を受賞した市川沙央『ハンチバック』の広げた波紋は大きく、2024年は読書バリアフリーやアクセシビリティに関する取り組みが進んだ。
4月には、日本文芸家協会、日本推理作家協会、日本ペンクラブが「読書バリアフリーに関する三団体共同声明」を発表。6月には日本書籍出版協会、日本雑誌協会、デジタル出版者連盟(旧・電書協)、日本出版者協議会、版元ドットコムが「読書バリアフリーに関する出版5団体共同声明」を発出している。
しかし、制作プロセスだけの対応ではダメで、流通や利用の過程も変わっていく必要がある。つまり電子取次・電子書店・電子図書館の対応が伴わなければ、普及はとん挫する。利用者へのガイドも含め、対策が求められている。
図書館振興財団は、視覚に障がいがある方や、紙の本の読書が難しい方に読んでもらうために、まずは機関誌『図書館の学校』を、音声読み上げ等に対応したリフロー型電子書籍として公開。
公開方法:当財団ウェブサイトhttps://toshokan.or.jpやSNSを通じて各電子書籍にアクセスする。
これから公開する電子書籍には、例えばリフロー型電子書籍に印刷版ページ番号情報を入れ、一般的な用途にも役立てるよう改善するなど、より利用しやすい電子書籍を模索していくという。
2025年01月21日
【記者会見】「著作者人格権不行使」問題・区史編さん委員委嘱打ち切りめぐる争議解決 1月27日(月)11時から12時 文部科学記者会 JCJ賛同団体=橋詰雅博
2025年1月7日、世田谷区史編さんにおける「著作者人格権の不行使」問題・区史編さん委員委嘱打ち切りをめぐる争議が解決しました。締結した「確認書」において、世田谷区は、著作者人格権の尊重を確約。区は、公式サイトの「区史編さん」のページに、著作権に係る契約の参考モデルとして「区史編さん委員の著作者人格権と学術目的の利用に関する確認書」を掲載。出版ネッツは東京都労働委員会に対して不当労働行為救済の申し立てを取り下げました。
つきましては、会見を行いますので、ぜひ取材をお願いいたします。
■日時:2025年1月27日(月)11:00〜12:00
■場所:文部科学記者会
■発表:ユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)
世田谷区史のあり方について考える区民の会
【開催趣旨】
東京都世田谷区では区制90年を記念して、2016年から自治体史を編さんしています。日本中世史の研究者で、中世世田谷・吉良氏研究の第一人者である谷口雄太さん(青山学院大学准教授)は2016年、保坂区長から区史編さん委員を委嘱され、2017年から調査・研究を始めました。ところが執筆開始間際の2023年2月10日、区は「著作権譲渡および著作者人格権不行使への承諾」を迫りました。原稿の無断改変ができるようになることを危惧した谷口さんと出版ネッツは話し合いを求め、区は一度だけ応じたものの話し合いを打ち切り、3月末、谷口さんは委嘱を切られました。
そこで出版ネッツは2023年4月、東京都労働委員会に救済を申し立てました。2024年1月には「世田谷区史のあり方について考える区民の会」が発足。区史編さんに係る契約の見直し等を要望し、区長との話し合いを求めてきました。
1年半にわたる都労委での調査が終了し、審問に入る直前の2024年9月、世田谷区と出版ネッツの和解交渉が始まりました。そして、12月23日合意が成立、本年1月7日に「確認書」を交わしました。主な合意内容(骨子)は、@区史編さん事業等における著作者人格権尊重の確約、A区による遺憾表明、B区は、谷口さんに2024年12月23日付で、中世史編さん委員の委嘱を申し出て、谷口さんはこれを受諾し、同日付で辞退、です。
今回の合意では「著作者人格権の尊重」が明記された点(@)に最大の意義があります。区が谷口さんに編さん委員の委嘱を申し出たこと(B)は遺憾表明(A)と共に、原状回復と谷口さんの名誉回復の意味を持ちます
著作者人格権は、著作者、とりわけ歴史研究者にとって尊厳や研究者生命にかかわる権利です。この解決を機に私たちは、全国の自治体に対し、自治体史誌等の編さんに際して著作者人格権と学問の自由を尊重することを求めます。さらに、行政機関と民間企業とを問わず、フリーランス等に仕事を依頼する際には、著作権法やフリーランス法に則った契約を結ぶことを求めます。
1月17日出版ネッツは、文化庁、公正取引委員会、総務省自治行政局に対し、上記の旨の要望書を送りました。今後も、著作者人格権の尊重について、広く社会に訴えていきます。
【報告内容】
1 本件の経緯、解決の背景と意義
2 当事者から本件解決に際しての訴え
3 区民の会のとりくみと見解
【出席者】
谷口雄太(本件当事者)
杉村和美、広浜綾子(出版ネッツ)
稲葉康生、上杉みすず(区民の会)
*これまでの報道記事
・世田谷区史の著作権は誰に? 執筆者と区、トラブル防止承諾書で争い(2023年2月28日)
https://www.asahi.com/articles/ASR2X2PCCR2WOXIE02K.html
・世田谷区史の著作権は誰のモノ? 区と執筆者が対立している理由とは(2023年3月8日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/235203
・“区史の編さんに著作者人格権を” 住民団体が世田谷区に要望(2024年2月27日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240227/k10014372311000.html
・区民グループ会見「契約書見直しを」 世田谷区史編さん問題(2024年2月28日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/311864
※記者会見参加ご希望のフリーランス記者は、1月22日までに、下記担当者までお知らせください。
【連絡先】
ユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)
担当:杉村和美(080-6600-7457 sugimura09@gmail.com)
つきましては、会見を行いますので、ぜひ取材をお願いいたします。
■日時:2025年1月27日(月)11:00〜12:00
■場所:文部科学記者会
■発表:ユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)
世田谷区史のあり方について考える区民の会
【開催趣旨】
東京都世田谷区では区制90年を記念して、2016年から自治体史を編さんしています。日本中世史の研究者で、中世世田谷・吉良氏研究の第一人者である谷口雄太さん(青山学院大学准教授)は2016年、保坂区長から区史編さん委員を委嘱され、2017年から調査・研究を始めました。ところが執筆開始間際の2023年2月10日、区は「著作権譲渡および著作者人格権不行使への承諾」を迫りました。原稿の無断改変ができるようになることを危惧した谷口さんと出版ネッツは話し合いを求め、区は一度だけ応じたものの話し合いを打ち切り、3月末、谷口さんは委嘱を切られました。
そこで出版ネッツは2023年4月、東京都労働委員会に救済を申し立てました。2024年1月には「世田谷区史のあり方について考える区民の会」が発足。区史編さんに係る契約の見直し等を要望し、区長との話し合いを求めてきました。
1年半にわたる都労委での調査が終了し、審問に入る直前の2024年9月、世田谷区と出版ネッツの和解交渉が始まりました。そして、12月23日合意が成立、本年1月7日に「確認書」を交わしました。主な合意内容(骨子)は、@区史編さん事業等における著作者人格権尊重の確約、A区による遺憾表明、B区は、谷口さんに2024年12月23日付で、中世史編さん委員の委嘱を申し出て、谷口さんはこれを受諾し、同日付で辞退、です。
今回の合意では「著作者人格権の尊重」が明記された点(@)に最大の意義があります。区が谷口さんに編さん委員の委嘱を申し出たこと(B)は遺憾表明(A)と共に、原状回復と谷口さんの名誉回復の意味を持ちます
著作者人格権は、著作者、とりわけ歴史研究者にとって尊厳や研究者生命にかかわる権利です。この解決を機に私たちは、全国の自治体に対し、自治体史誌等の編さんに際して著作者人格権と学問の自由を尊重することを求めます。さらに、行政機関と民間企業とを問わず、フリーランス等に仕事を依頼する際には、著作権法やフリーランス法に則った契約を結ぶことを求めます。
1月17日出版ネッツは、文化庁、公正取引委員会、総務省自治行政局に対し、上記の旨の要望書を送りました。今後も、著作者人格権の尊重について、広く社会に訴えていきます。
【報告内容】
1 本件の経緯、解決の背景と意義
2 当事者から本件解決に際しての訴え
3 区民の会のとりくみと見解
【出席者】
谷口雄太(本件当事者)
杉村和美、広浜綾子(出版ネッツ)
稲葉康生、上杉みすず(区民の会)
*これまでの報道記事
・世田谷区史の著作権は誰に? 執筆者と区、トラブル防止承諾書で争い(2023年2月28日)
https://www.asahi.com/articles/ASR2X2PCCR2WOXIE02K.html
・世田谷区史の著作権は誰のモノ? 区と執筆者が対立している理由とは(2023年3月8日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/235203
・“区史の編さんに著作者人格権を” 住民団体が世田谷区に要望(2024年2月27日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240227/k10014372311000.html
・区民グループ会見「契約書見直しを」 世田谷区史編さん問題(2024年2月28日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/311864
※記者会見参加ご希望のフリーランス記者は、1月22日までに、下記担当者までお知らせください。
【連絡先】
ユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)
担当:杉村和美(080-6600-7457 sugimura09@gmail.com)
2025年01月20日
【お知らせ】区史編さんめぐり世田谷区と大学教員が和解 著作者人格権不行使を撤回 支援団体としてJCJ賛同=橋詰雅博
筆者はこの問題をJCJ機関紙23年5月25日号(http://jcj-daily.seesaa.net/article/499650713.html)と24年3月25日号(http://jcj-daily.seesaa.net/article/502767106.html)で取り上げた。加えてDaliy JCJ24年2月24日(http://jcj-daily.seesaa.net/article/502453881.html)
、同年3月25日(http://jcj-daily.seesaa.net/article/502767106.html)に記事を公開した。区が契約書で求めた著作者人格権不行使にただ一人反対し、編さん委員を外された青山学院大学の谷口雄太准教授=写真=は、入会したユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)とともに不当労働行為だとして東京都労働委員会に救済を申し立てた。2年弱の争議を経て双方は和解合意、1月7日「確認書」を取り交わした。谷口准教授と出版ネッツの支援団体としてJCJも賛同。以下は出版ネッツの解決声明。
著作者人格権の尊重を確約
世田谷区史編さんにおける「著作者人格権の不行使」問題・編さん委員委嘱打ち切りをめぐる争議解決にあたっての声明
2024年12月23日、世田谷区と谷口雄太さん以青山学院大学准教授 及び出版ネッツ は、標記の争議について和解解決の合意に達し、2025年1月7日、「確認書」を取り交わしました。同日、区は公式サイトの区史編さんのページに、著作権に係る契約の参考モデルとして(「区史編さん委員の著作者人格権と学術目的の利用に関する認書」)を掲載。(https://www.city.setagaya.lg.jp/02005/5132.html#p1) 。組合は、東京都労働委員会(以下都労委) に対して不当労働行為救済の申し立てを取りげ、争議は解決に至りました。
合意の骨子は、@区史編さん事業等における著作者人格権尊重、区公式サイトへの前記掲載、A区による遺憾表明、B区は、谷口さんに2024年12月23日付で、中世史編さん委員の委嘱を申し出て、谷口さんはこれを受諾し、同日付で辞退、C都労委取りげ、D誠実対応――の5点です。
■委員委嘱打ち切りとその後の経過
世田谷区では区政90周年を記念し、自治体史を編纂中です。日本中世史の研究者で、中世世田谷・吉良氏研究の第一人者である谷口さんは2016年、保坂区長から区史編さん委員を委嘱され、2017年から調査・研究を始めました。
ところが執筆開始間際の2023年2月10日、区は著作権譲渡および著作者人格権不行使への承諾を迫りました。著作者人格権には無断で改変されない権利(同一性保持権 )を含みます。無断改変できるようになることを危惧した谷口さんと出版ネッツは話し合いを求め、区は一度だけ応じたものの話し合いを打ち切り、3月末、谷口さんは委嘱を切られました。
そこで出版ネッツは同月、世田谷区史編さんにおける『著作者人格権の不行使』問題についての声明を発出。多くの歴史学会、歴史や著作権法の研究者、マスコミ関係者、フリーランスのクリエーターなどからの賛同署名が寄せられました。さらに、文化庁に「区自治体史編さんに係る著作権取扱いについての要望」を送り、4月、都労委に救済を申し立てました。2024年1月には「世田谷区史のあり方について考える区民の会」が発足。区史編さんに係る契約の見直し等を要望し、区長との話し合いを求めてきました。組合は区民の会と連携し、区議会でも、会派を超えて質疑が重ねられました。
■解決の背景とご支援への感謝、全国自治体等への要望
TVドラマ「セクシー田中さん」原作者の漫画家が自死され、原作のドラマ化にあたって著作者人格権の扱いが背景にあったのではないかといわれた事件や、著作権の扱いも含めフリーランスの権利がフリーランス法で法律になったこと、関東大震災への政府見解や群馬の森追悼碑撤去をめぐり歴史修正への危惧が広がったことも、解決の社会的背景となりました。
今回の合意では著作者人格権の尊重が明記された点(@) に最大の意義があります。区が谷口さんに編さん委員の委嘱を申し出たこと(B )は遺憾表明、(A) と共に、原状回復と谷口さんの名誉回復の意味を持ちます。解決にご尽力いただいた多くの方々に心より感謝します。
著作者人格権は、著作者、とりわけ歴史研究者にとって尊厳や研究者生命にかかわる権利です。この解決を機に私たちは、全国の自治体に対し、自治体史誌等の編さんに際して著作者人格権と学問の自由を尊重することを求めます。さらに、行政機関と民間企業とを問わず、フリーランス等に仕事を依頼する際には、著作権法やフリーランス法に則った契約を結ぶことを求めたいと思います。
2025年1月14日
ユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)
、同年3月25日(http://jcj-daily.seesaa.net/article/502767106.html)に記事を公開した。区が契約書で求めた著作者人格権不行使にただ一人反対し、編さん委員を外された青山学院大学の谷口雄太准教授=写真=は、入会したユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)とともに不当労働行為だとして東京都労働委員会に救済を申し立てた。2年弱の争議を経て双方は和解合意、1月7日「確認書」を取り交わした。谷口准教授と出版ネッツの支援団体としてJCJも賛同。以下は出版ネッツの解決声明。
著作者人格権の尊重を確約
世田谷区史編さんにおける「著作者人格権の不行使」問題・編さん委員委嘱打ち切りをめぐる争議解決にあたっての声明
2024年12月23日、世田谷区と谷口雄太さん以青山学院大学准教授 及び出版ネッツ は、標記の争議について和解解決の合意に達し、2025年1月7日、「確認書」を取り交わしました。同日、区は公式サイトの区史編さんのページに、著作権に係る契約の参考モデルとして(「区史編さん委員の著作者人格権と学術目的の利用に関する認書」)を掲載。(https://www.city.setagaya.lg.jp/02005/5132.html#p1) 。組合は、東京都労働委員会(以下都労委) に対して不当労働行為救済の申し立てを取りげ、争議は解決に至りました。
合意の骨子は、@区史編さん事業等における著作者人格権尊重、区公式サイトへの前記掲載、A区による遺憾表明、B区は、谷口さんに2024年12月23日付で、中世史編さん委員の委嘱を申し出て、谷口さんはこれを受諾し、同日付で辞退、C都労委取りげ、D誠実対応――の5点です。
■委員委嘱打ち切りとその後の経過
世田谷区では区政90周年を記念し、自治体史を編纂中です。日本中世史の研究者で、中世世田谷・吉良氏研究の第一人者である谷口さんは2016年、保坂区長から区史編さん委員を委嘱され、2017年から調査・研究を始めました。
ところが執筆開始間際の2023年2月10日、区は著作権譲渡および著作者人格権不行使への承諾を迫りました。著作者人格権には無断で改変されない権利(同一性保持権 )を含みます。無断改変できるようになることを危惧した谷口さんと出版ネッツは話し合いを求め、区は一度だけ応じたものの話し合いを打ち切り、3月末、谷口さんは委嘱を切られました。
そこで出版ネッツは同月、世田谷区史編さんにおける『著作者人格権の不行使』問題についての声明を発出。多くの歴史学会、歴史や著作権法の研究者、マスコミ関係者、フリーランスのクリエーターなどからの賛同署名が寄せられました。さらに、文化庁に「区自治体史編さんに係る著作権取扱いについての要望」を送り、4月、都労委に救済を申し立てました。2024年1月には「世田谷区史のあり方について考える区民の会」が発足。区史編さんに係る契約の見直し等を要望し、区長との話し合いを求めてきました。組合は区民の会と連携し、区議会でも、会派を超えて質疑が重ねられました。
■解決の背景とご支援への感謝、全国自治体等への要望
TVドラマ「セクシー田中さん」原作者の漫画家が自死され、原作のドラマ化にあたって著作者人格権の扱いが背景にあったのではないかといわれた事件や、著作権の扱いも含めフリーランスの権利がフリーランス法で法律になったこと、関東大震災への政府見解や群馬の森追悼碑撤去をめぐり歴史修正への危惧が広がったことも、解決の社会的背景となりました。
今回の合意では著作者人格権の尊重が明記された点(@) に最大の意義があります。区が谷口さんに編さん委員の委嘱を申し出たこと(B )は遺憾表明、(A) と共に、原状回復と谷口さんの名誉回復の意味を持ちます。解決にご尽力いただいた多くの方々に心より感謝します。
著作者人格権は、著作者、とりわけ歴史研究者にとって尊厳や研究者生命にかかわる権利です。この解決を機に私たちは、全国の自治体に対し、自治体史誌等の編さんに際して著作者人格権と学問の自由を尊重することを求めます。さらに、行政機関と民間企業とを問わず、フリーランス等に仕事を依頼する際には、著作権法やフリーランス法に則った契約を結ぶことを求めたいと思います。
2025年1月14日
ユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)
2025年01月19日
【焦点】40年温室効果ガス73%削減は困難、火力発電の脱炭素化進まず、50年実質排出ゼロも危うい=橋詰雅博
経済産業省は第7次エネルギー計画(エネ基)素案とともに「地球温暖化対策(温対)計画」素案を12下旬発表した。温対素案は2040年温室効果ガス(GHG)削減の目標値を提示している。2013年と比べて73%減としているが、本当に達成できるのだろうか。
エネ基素案で40年の電源比率構成は、原発2割程度、太陽光、風力、水力など再生可能エネルギー4〜5割程度、石炭、製油、天然ガスの火力発電3から4割としている。
二酸化炭素(CO2)の排出が最も多い火力発電の脱炭素化がGHG削減の最大ポイントだ。早期の段階的に廃止すなわちフェーズアウトが先進国の合意になっている石炭火力については、「非効率な石炭火力のフェーズアウト」を進めると述べるだけで、政府がいう「高効率」な石炭火力の扱いにはほとんど触れていない。
この高効率な火力発電では、石炭アンモニア混焼発電が有力視されている。ただ50%をアンモニアにしても排出削減は30%にとどまる。完全脱炭素化に必要なアンモニア専焼技術は確立していない。またCCS(CO2回収・貯蔵)システムを有する火力発電は、発電所での回収のみならず、CO2の運搬や貯蔵過程を含め脱炭素化技術はまだ実現できていない。
こうしたことで新技術に触れたくても触れることができなかったのだ。
では40年の電源構成にもとづき73%削減は可能かについて自然エネルギー財団は「GHG73%達成のためには、3〜4割供給するとする火力発電はほぼ100%脱炭素にしなければならない」「技術的に確立されていない脱炭素化火力発電に3〜4割もの電力供給を見込むのは、日本の脱炭素化を失敗させる大きなリスク」という。すなわち73%削減達成は難しいというのだ。それどころか最終目標である50年GHG実質排出ゼロも危ういのである。
原発と火力発電の延命、そのため脱炭素化に最も効果がある再エネ電源の比率が高まらないという日本のエネルギー政策は、経済の成長を阻む元凶になりそうだ。
エネ基素案で40年の電源比率構成は、原発2割程度、太陽光、風力、水力など再生可能エネルギー4〜5割程度、石炭、製油、天然ガスの火力発電3から4割としている。
二酸化炭素(CO2)の排出が最も多い火力発電の脱炭素化がGHG削減の最大ポイントだ。早期の段階的に廃止すなわちフェーズアウトが先進国の合意になっている石炭火力については、「非効率な石炭火力のフェーズアウト」を進めると述べるだけで、政府がいう「高効率」な石炭火力の扱いにはほとんど触れていない。
この高効率な火力発電では、石炭アンモニア混焼発電が有力視されている。ただ50%をアンモニアにしても排出削減は30%にとどまる。完全脱炭素化に必要なアンモニア専焼技術は確立していない。またCCS(CO2回収・貯蔵)システムを有する火力発電は、発電所での回収のみならず、CO2の運搬や貯蔵過程を含め脱炭素化技術はまだ実現できていない。
こうしたことで新技術に触れたくても触れることができなかったのだ。
では40年の電源構成にもとづき73%削減は可能かについて自然エネルギー財団は「GHG73%達成のためには、3〜4割供給するとする火力発電はほぼ100%脱炭素にしなければならない」「技術的に確立されていない脱炭素化火力発電に3〜4割もの電力供給を見込むのは、日本の脱炭素化を失敗させる大きなリスク」という。すなわち73%削減達成は難しいというのだ。それどころか最終目標である50年GHG実質排出ゼロも危ういのである。
原発と火力発電の延命、そのため脱炭素化に最も効果がある再エネ電源の比率が高まらないという日本のエネルギー政策は、経済の成長を阻む元凶になりそうだ。
2025年01月18日
【選挙】嘆く前に自壊から始めよう 兵家県知事選SNSショック 旧メディア自爆直視=下村 健一(白鴎大学教授/元TBS報道アナウンサー)
新聞・テレビ・紙雑誌など“旧メディア”界隈の人々にショックを与えた、先月の兵庫県知事選。年越しで喉元過ぎて、来夏の参院選などでもっと大きな衝撃波を受けないように、今一度捉え直しておきたい。
斎藤支持の理由
「旧メディアは嘘つき。パワハラ等は無かった」という熱烈型。「旧メディアは先走り。真相がまだわからないから、今のところ続投」という保留型。「旧メディアは一面的。パワハラ叩きばかりだが、一期目の実績を評価」という別視点型。―――斎藤元彦氏を逆転再選させた投票理由のタイプは様々だろうが、一致してあるのは旧メディア批判だ。
だが当の旧メディア人は、保留型や別視点型の人々が言う「先走り」「一面的」批判に対してはまた今回も真正面から向き合おうとせず、ただ熱烈型の「嘘つき」批判だけを上から目線で嘆いていないだろうか?
嘆きが孕む誤認
しかもその嘆きの中には、熱烈型の人々を《すぐ扇動に踊らされる思慮の浅い人達》と単純化して見下している大いなる誤認がある。実相は、その正反対だ。長年メディアリテラシーの講演で幅広い年代と接している私の体感では、「SNSで“真実”がわかった!」と言っているのは、むしろ《物事を自分でかなり調べてから判断しようとする思慮深い人達》なのだ。
ただ、せっかく真面目にネットで調べているのに、そのネット自体に仕込まれているフィルターバブルによって、調べれば調べるほど狭い部屋(エコーチェンバー)の中に[自動的に]連れて行かれ、「自分で[能動的に]調べた結果、SNSこそが真実で旧メディアは皆ウソだ」という極端な結論に導かれてしまう。
この“沼構造”を認識せずただ「SNS信者は思慮が浅い」と貶していても、「旧メディアこそマスゴミだ」とプライドの傷つけ合いになるばかりで、不幸な分断は深まる一方だ。
真偽より快不快
打開する道は、大きく二つ。まず何と言っても、“沼構造”を皆が知る機会=メディアリテラシー教育の全世代への普及を猛烈に急ぐこと。そしてもう一つが、思慮深い人達に「旧メディアでは満足な情報が得られない」という飢餓感を抱かれない努力を格段に強めることだ。
かつて無いほど根深い所で、今、私達の社会は情報を《真か偽か》ではなく《快か不快か》で選ぶようになりつつある。《快》でさえあれば真偽は二の次、という情報価値の恐るべき主役交代。そんな中で人々が旧メディアの情報を選ばなくなりつつあるということはつまり、真偽はさて置き旧メディアの報じ方を「不快」と感じる人が増えている証左だ。
「先走り」「一方的」という不快感に対して、「一つ一つの言い回しをよく見て下さい。決めつけてなんかいませんよ」とトボケる、確信犯的な“木を見て森を見ず”話法を採っていないか。自らの報道が与える「全体的な印象」に無頓着で、自滅していないか。
「隠してる」という不快感に対して、「諸規制や公益性、真実性に鑑み、それは言えないんですよ」に安住し、ただ“無いことにする”態度を採っていないか。「別の要素の存在も示唆する、ギリギリの表現を探す」努力を放棄して、自滅していないか。
―――兵庫ショックを、SNSの勝利という帰結よりも《旧メディアの自爆》という起点で直視して、次に為すべきことを考えたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
斎藤支持の理由
「旧メディアは嘘つき。パワハラ等は無かった」という熱烈型。「旧メディアは先走り。真相がまだわからないから、今のところ続投」という保留型。「旧メディアは一面的。パワハラ叩きばかりだが、一期目の実績を評価」という別視点型。―――斎藤元彦氏を逆転再選させた投票理由のタイプは様々だろうが、一致してあるのは旧メディア批判だ。
だが当の旧メディア人は、保留型や別視点型の人々が言う「先走り」「一面的」批判に対してはまた今回も真正面から向き合おうとせず、ただ熱烈型の「嘘つき」批判だけを上から目線で嘆いていないだろうか?
嘆きが孕む誤認
しかもその嘆きの中には、熱烈型の人々を《すぐ扇動に踊らされる思慮の浅い人達》と単純化して見下している大いなる誤認がある。実相は、その正反対だ。長年メディアリテラシーの講演で幅広い年代と接している私の体感では、「SNSで“真実”がわかった!」と言っているのは、むしろ《物事を自分でかなり調べてから判断しようとする思慮深い人達》なのだ。
ただ、せっかく真面目にネットで調べているのに、そのネット自体に仕込まれているフィルターバブルによって、調べれば調べるほど狭い部屋(エコーチェンバー)の中に[自動的に]連れて行かれ、「自分で[能動的に]調べた結果、SNSこそが真実で旧メディアは皆ウソだ」という極端な結論に導かれてしまう。
この“沼構造”を認識せずただ「SNS信者は思慮が浅い」と貶していても、「旧メディアこそマスゴミだ」とプライドの傷つけ合いになるばかりで、不幸な分断は深まる一方だ。
真偽より快不快
打開する道は、大きく二つ。まず何と言っても、“沼構造”を皆が知る機会=メディアリテラシー教育の全世代への普及を猛烈に急ぐこと。そしてもう一つが、思慮深い人達に「旧メディアでは満足な情報が得られない」という飢餓感を抱かれない努力を格段に強めることだ。
かつて無いほど根深い所で、今、私達の社会は情報を《真か偽か》ではなく《快か不快か》で選ぶようになりつつある。《快》でさえあれば真偽は二の次、という情報価値の恐るべき主役交代。そんな中で人々が旧メディアの情報を選ばなくなりつつあるということはつまり、真偽はさて置き旧メディアの報じ方を「不快」と感じる人が増えている証左だ。
「先走り」「一方的」という不快感に対して、「一つ一つの言い回しをよく見て下さい。決めつけてなんかいませんよ」とトボケる、確信犯的な“木を見て森を見ず”話法を採っていないか。自らの報道が与える「全体的な印象」に無頓着で、自滅していないか。
「隠してる」という不快感に対して、「諸規制や公益性、真実性に鑑み、それは言えないんですよ」に安住し、ただ“無いことにする”態度を採っていないか。「別の要素の存在も示唆する、ギリギリの表現を探す」努力を放棄して、自滅していないか。
―――兵庫ショックを、SNSの勝利という帰結よりも《旧メディアの自爆》という起点で直視して、次に為すべきことを考えたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
2025年01月17日
【トピックス】寄付続々、転換で追随、投資‥‥トランプ2・0へ=出版部会
◆100万ドル寄付が相次ぐ
トランプ大統領就任式が、この20日、ワシントンD.C.の合衆国議会議事堂の西側正面で開催される。その就任式基金に、米国のメディア大手のグーグルとマイクロソフトの2社は、100万ドル(1億5千万円)を寄付したと報じられている。すでに昨年末、メタとオープンAIの2社も同基金に100万ドル寄付すると発表している。アマゾン、アップル、ウーバーに加え、日本のトヨタも同額を寄付したと報じられている。
就任式基金には過去最高の1億7000万ドルの寄付金が集まったという。バイデン氏の2021年の就任式での寄付金総額は6300万ドル、なんと3倍近くになる。
トランプ氏は100万ドル以上を寄付した寄付者に対し、就任式に合わせて行われるトランプ氏本人や閣僚候補などとの夕食会などのイベントのチケットを含むボーナス特典を提供しているという。
◆Metaファクトチェック廃止
「検閲が過剰だ」という理由を述べ、フェイスブック、インスタグラムなどを運営するMetaがファクトチェックを廃止し、コンテンツ規制を緩める方針へ転換した。これまでパートナーシップを結んできたファクトチェック団体は民主党寄りで、「政治的に偏り、信頼を生むよりも壊してきた」と述べている。
◆「TikTok」マスクへ売却か
動画共有アプリ「TikTok」を巡っては、運営する中国企業「バイトダンス」社を通じた中国政府への情報流出など、安全保障上のリスクを懸念して、各国で規制の動きが進んでいる。米国では昨年、「TikTok」の米国事業を売却しなければ、米国内での「TikTok」配信を禁止する法律が成立し、この19日に発効する。
この緊迫する状況を受けて、「TikTok」の親会社「バイトダンス」に影響力を持つとされる中国政府が、米国の実業家であり、Xのオーナーであるイーロン・マスク氏へ、米国事業の売却を検討しているという。
トランプ次期大統領に近いマスク氏を、政府効率化省のトップに据える可能性が高いだけに、マスク氏が所有するXと共同で、「TikTok」の米国事業を運営する手法は、中国政府にとって都合がよいものと観測されている。
◆孫会長、1000億ドル投資
孫正義氏は昨年12月中旬、トランプ次期米大統領とフロリダ州の同氏の邸宅マール・ア・ラーゴで面談し、その後の記者会見で米国に今後4年間で1000億ドル(約15兆円)を投資すると発表した。孫氏は、この投資により米国でAIと関連インフラに重点を置いた、少なくとも10万人の雇用を創出すると語った。なお孫氏は2016年にトランプ氏が大統領選に勝利した際も、500億ドルの投資を発表している。
トランプ大統領就任式が、この20日、ワシントンD.C.の合衆国議会議事堂の西側正面で開催される。その就任式基金に、米国のメディア大手のグーグルとマイクロソフトの2社は、100万ドル(1億5千万円)を寄付したと報じられている。すでに昨年末、メタとオープンAIの2社も同基金に100万ドル寄付すると発表している。アマゾン、アップル、ウーバーに加え、日本のトヨタも同額を寄付したと報じられている。
就任式基金には過去最高の1億7000万ドルの寄付金が集まったという。バイデン氏の2021年の就任式での寄付金総額は6300万ドル、なんと3倍近くになる。
トランプ氏は100万ドル以上を寄付した寄付者に対し、就任式に合わせて行われるトランプ氏本人や閣僚候補などとの夕食会などのイベントのチケットを含むボーナス特典を提供しているという。
◆Metaファクトチェック廃止
「検閲が過剰だ」という理由を述べ、フェイスブック、インスタグラムなどを運営するMetaがファクトチェックを廃止し、コンテンツ規制を緩める方針へ転換した。これまでパートナーシップを結んできたファクトチェック団体は民主党寄りで、「政治的に偏り、信頼を生むよりも壊してきた」と述べている。
◆「TikTok」マスクへ売却か
動画共有アプリ「TikTok」を巡っては、運営する中国企業「バイトダンス」社を通じた中国政府への情報流出など、安全保障上のリスクを懸念して、各国で規制の動きが進んでいる。米国では昨年、「TikTok」の米国事業を売却しなければ、米国内での「TikTok」配信を禁止する法律が成立し、この19日に発効する。
この緊迫する状況を受けて、「TikTok」の親会社「バイトダンス」に影響力を持つとされる中国政府が、米国の実業家であり、Xのオーナーであるイーロン・マスク氏へ、米国事業の売却を検討しているという。
トランプ次期大統領に近いマスク氏を、政府効率化省のトップに据える可能性が高いだけに、マスク氏が所有するXと共同で、「TikTok」の米国事業を運営する手法は、中国政府にとって都合がよいものと観測されている。
◆孫会長、1000億ドル投資
孫正義氏は昨年12月中旬、トランプ次期米大統領とフロリダ州の同氏の邸宅マール・ア・ラーゴで面談し、その後の記者会見で米国に今後4年間で1000億ドル(約15兆円)を投資すると発表した。孫氏は、この投資により米国でAIと関連インフラに重点を置いた、少なくとも10万人の雇用を創出すると語った。なお孫氏は2016年にトランプ氏が大統領選に勝利した際も、500億ドルの投資を発表している。
2025年01月16日
【補正予算案】緩和頼りの放漫財政 財源無視「103万円の壁」=志田 義寧
政府は11月29日、経済対策の裏付けとなる補正予算案を閣議決定した。一般会計の歳出は13・9兆円にのぼり、その規模は昨年度の13・2兆円を上回る。景気が回復を続ける中で、なぜ東日本大震災後の対策に匹敵するレベルの財政出動が必要か。巨額な財政出動を打ち出したことで市場からノーを突きつけられた英トラス政権の悲劇(トラス・ショック)を繰り返してはならない。
財政法第29条は補正予算について「緊要性」のある経費に対する支出であることを要件としている。緊急な対応が必要というのは、裏返せば本予算の成立後に景気にとって想定外のマイナスの出来事が発生した場合に限ると解釈することもできる。しかし、今年度予算が成立した3月以降、巨額な財政出動を正当化するほどのマイナスの出来事はあっただろうか。政府はこの間、景気判断を「このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復している」から「一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復している」へと、むしろ上方修正している。需給ギャップも改善傾向を示しており、このタイミングで補正予算を組む必要性は皆無と言って良い。
平成以降の補正予算は政策的経費の追加が常態化しており、財政悪化の一因になっている。足元では日銀の金融政策の正常化も始まっており、今後は「金利のある世界」に入っていく。過度な金融緩和に頼った放漫財政はもはや許されないことを肝に銘じるべきだ。
10月の衆院選では、所得税の支払いが発生する「103万円の壁」の引き上げを公約に掲げた国民民主党が躍進した。それ以降、政治家の討論会等では財源を無視した議論が目立つようになっている。危険な兆候であると言わざるを得ない。
英国では、2022年9月に首相に就任したリズ・トラス氏が財政の裏付けがないまま大型減税を発表したことで市場が混乱。長期金利は急上昇(国債価格は急落)し、英イングランド銀行(中央銀行)は緊急の国債買い入れを実施せざるを得ない状況に追い込まれた。インフレを抑制するために金融を引き締めているにもかかわらず、インフレにつながりかねない財政拡大を無責任に打ち出した政権に市場が不信任を突きつけた格好だ。結局、トラス首相は就任後わずか1ヶ月半で辞任した。
日本は英国とは異なり純債権国だから大丈夫と楽観する声もある。しかし、この先、高齢化がさらに進んで民間部門の貯蓄超過が縮小していけば、経常収支の赤字が視野に入ってくる。そうなれば、資金不足を海外投資家に依存せざるを得なくなり、国家財政を支えられなくなるリスクが現実味を帯びてくる。
日本はこれまで、安定化政策や再分配政策を重視して、票につながりにくい成長戦略を疎かにしてきた。その結果、日本の借金は日本版トラス・ショックがいつ起きてもおかしくないレベルまで膨れ上がった。世界有数の借金大国である日本でトラス・ショックが起きた場合は、英国よりもはるかに大きな代償を払う可能性があることを忘れてはならない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
財政法第29条は補正予算について「緊要性」のある経費に対する支出であることを要件としている。緊急な対応が必要というのは、裏返せば本予算の成立後に景気にとって想定外のマイナスの出来事が発生した場合に限ると解釈することもできる。しかし、今年度予算が成立した3月以降、巨額な財政出動を正当化するほどのマイナスの出来事はあっただろうか。政府はこの間、景気判断を「このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復している」から「一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復している」へと、むしろ上方修正している。需給ギャップも改善傾向を示しており、このタイミングで補正予算を組む必要性は皆無と言って良い。
平成以降の補正予算は政策的経費の追加が常態化しており、財政悪化の一因になっている。足元では日銀の金融政策の正常化も始まっており、今後は「金利のある世界」に入っていく。過度な金融緩和に頼った放漫財政はもはや許されないことを肝に銘じるべきだ。
10月の衆院選では、所得税の支払いが発生する「103万円の壁」の引き上げを公約に掲げた国民民主党が躍進した。それ以降、政治家の討論会等では財源を無視した議論が目立つようになっている。危険な兆候であると言わざるを得ない。
英国では、2022年9月に首相に就任したリズ・トラス氏が財政の裏付けがないまま大型減税を発表したことで市場が混乱。長期金利は急上昇(国債価格は急落)し、英イングランド銀行(中央銀行)は緊急の国債買い入れを実施せざるを得ない状況に追い込まれた。インフレを抑制するために金融を引き締めているにもかかわらず、インフレにつながりかねない財政拡大を無責任に打ち出した政権に市場が不信任を突きつけた格好だ。結局、トラス首相は就任後わずか1ヶ月半で辞任した。
日本は英国とは異なり純債権国だから大丈夫と楽観する声もある。しかし、この先、高齢化がさらに進んで民間部門の貯蓄超過が縮小していけば、経常収支の赤字が視野に入ってくる。そうなれば、資金不足を海外投資家に依存せざるを得なくなり、国家財政を支えられなくなるリスクが現実味を帯びてくる。
日本はこれまで、安定化政策や再分配政策を重視して、票につながりにくい成長戦略を疎かにしてきた。その結果、日本の借金は日本版トラス・ショックがいつ起きてもおかしくないレベルまで膨れ上がった。世界有数の借金大国である日本でトラス・ショックが起きた場合は、英国よりもはるかに大きな代償を払う可能性があることを忘れてはならない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
2025年01月15日
【焦点】火力発電と原発に頼る日本経済は、競争力ダウンへ、再エネへの転換が必須=橋詰雅博
大量の二酸化炭素(CO2)を排出する火力発電は、地球温暖化阻止のため脱炭素が不可欠な時代に逆走する電力だ。日本は発電の7割をこの火力発電に依存している。化石燃料の石炭、石油、天然ガスは輸入が大半で、その金額はなんと年間26兆円にものぼる。自動車や半導体製造装置などの輸出で稼いだ29兆のほとんどが失われているのだ。
7次エネルギー基本計画案(エネ基)の策定過程で当初、所管の経済産業省は「脱炭素エネルギーを安定的に供給できるかが国力を大きく左右すると言っても過言ではない」という認識を示していた。
ところが経産省が12月下旬に提示した2040年電源構成などからなるエネ基は、期待を完全に裏切るものだった。化石燃料を使う火力発電の比率目標は3〜4割程度にとどまっていた。40年度想定の発電コストは例えば天然ガスの火力発電の場合、1kWh当たり19・2円と太陽光(8・5円)など再生可能エネルギーや原発(12・5円〜)のそれよりも上回っている。
また目標2割程度維持の原発は、既存の36基ほぼすべてが再稼働しなければ、目標クリアは難しい。実現が不確実な脱炭素の原発電源と高コストの火力発電の延命は、日本経済の競争力低下のリスクに直面する。
脱炭素の最有力、再エネ電源の40年度目標は4〜5割程度だが、なぜもっと大幅に引き上げないのか。国際エネルギー機関(IEA)によれば、40年度太陽光発電コストは1kWh当たり、欧米では3・5セント、中国は3セント、インドでは2・5セント。陸上風力発電も3・5〜5・5セントの範囲だ。再エネコストは著しい低下が続く。
自然エネルギー財団が公表した最新シナリオは、「日本には電力の90%以上を再エネで供給できる十分なポテンシャルがあり、電力価格も安定的な水準とすることが可能」としている。
エネルギーコストの低減化は日本経済を大きく成長させる原動力になる。と同時に日本が世界に約束した2050年温暖化ガスの実質排出ゼロも達成できる。再エネこそエネルギー政策のメインにしなければ日本は取り残されるだろう。
7次エネルギー基本計画案(エネ基)の策定過程で当初、所管の経済産業省は「脱炭素エネルギーを安定的に供給できるかが国力を大きく左右すると言っても過言ではない」という認識を示していた。
ところが経産省が12月下旬に提示した2040年電源構成などからなるエネ基は、期待を完全に裏切るものだった。化石燃料を使う火力発電の比率目標は3〜4割程度にとどまっていた。40年度想定の発電コストは例えば天然ガスの火力発電の場合、1kWh当たり19・2円と太陽光(8・5円)など再生可能エネルギーや原発(12・5円〜)のそれよりも上回っている。
また目標2割程度維持の原発は、既存の36基ほぼすべてが再稼働しなければ、目標クリアは難しい。実現が不確実な脱炭素の原発電源と高コストの火力発電の延命は、日本経済の競争力低下のリスクに直面する。
脱炭素の最有力、再エネ電源の40年度目標は4〜5割程度だが、なぜもっと大幅に引き上げないのか。国際エネルギー機関(IEA)によれば、40年度太陽光発電コストは1kWh当たり、欧米では3・5セント、中国は3セント、インドでは2・5セント。陸上風力発電も3・5〜5・5セントの範囲だ。再エネコストは著しい低下が続く。
自然エネルギー財団が公表した最新シナリオは、「日本には電力の90%以上を再エネで供給できる十分なポテンシャルがあり、電力価格も安定的な水準とすることが可能」としている。
エネルギーコストの低減化は日本経済を大きく成長させる原動力になる。と同時に日本が世界に約束した2050年温暖化ガスの実質排出ゼロも達成できる。再エネこそエネルギー政策のメインにしなければ日本は取り残されるだろう。
2025年01月14日
【フォトアングル番外編】「司法は辛うじて生きている」と前川喜平さん=12月17日、千代田区・日比谷図書文化館、伊東良平撮影
NHKの「クローズアップ現代+」でかんぽ保険不正販売を追及した番組に経営委員会が不当な圧力をかけ、議事録を隠ぺいした問題で、3年半戦ってきた「NHK文書開示等請求訴訟」。昨年2月に経営委員長の不法行為を認定した画期的な勝訴判決が言い渡され、12月の控訴審で和解が成立した。その最終報告集会に登壇した特別ゲストの前川喜平さんは「民主主義の根本には知る権利がある、メディアの自由を保障する日本の司法は辛うじて生きている」と述べた。
2025年01月13日
【Bookガイド】1月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)
ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)
◆丹羽典生『ガラパゴスを歩いた男─朝枝利男の太平洋探検記』教育評論社 1/8刊 2400円
「ガラパゴスを歩いた男」.jpg 著者が訪れた博物館の収蔵庫には、朝枝利男という見知らぬ人物によって撮影されたガラパゴス諸島の写真が、たくさん収められていた。それだけでなく彼の日記、水彩画も保管されていた。それを基に「ガラパゴス探検の日本人のパイオニア」でありながら、ほぼ無名の人物である朝枝利男の生涯とガラパゴス諸島への探検などを軸に、彼の残した膨大な写真・スケッチを交えながら紹介する。
著者は国立民族学博物館グローバル現象研究部教授、専門は社会人類学、オセアニア地域研究。編著に『記憶と歴史の人類学』がある。
◆樋口英明『原発と司法─国の責任を認めない最高裁判決の罪』岩波ブックレット 1/9刊 630円
「原発と司法」.jpg 多くの日本人は、「原発問題は難しい」「原発は安全に作られている」と思っていませんか。元裁判官の著者も、かつてはそう思いこんでいたが、原発裁判を担当するようになって、認識が変わったという。決して原発問題は難しいものでもなく、また安全でもない、この事実に気づいたという。本書では刷り込まされてきた「先入観」を氷解させ、原発を巡る問題の本質に迫る。全国の主な脱原発訴訟・国賠訴訟一覧表付。
著者は1952年三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1983年裁判官任官、大阪高裁、名古屋地裁、名古屋家裁部総括判事などを歴任。2017年定年退官。
◆山田昌弘『希望格差社会、それから─幸福に衰退する国の20年』東洋経済新報社 1/15刊 1500円
「希望格差社会」.jpg 「バーチャル世界」で格差を埋める人々が急増している。格差は広がるだけでなく、固定化し、経済的に行き詰まりをみせているにもかかわらず、様々な意識調査では、格差拡大の被害を最も受けているはずの若者の幸福度が上昇している。なぜか。「バーチャル世界」で満足を得る方法を見いだしているからだ。リアルな世界で格差が広がる中、格差を埋め、人々に幸せを供給するプラットホームとして機能している事象を解剖する。
著者は中央大学文学部教授。著書に『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)、『少子社会日本』(岩波新書)、『新型格差社会』(朝日新書)など。
◆清水建宇『バルセロナで豆腐屋になった─定年後の「一身二生」奮闘記』 岩波新書 1/20刊 960円
「バルセロナで豆腐屋になった」.jpg 元朝日新聞の記者が定年後、バルセロナで豆腐店を開業した。修行の日々、異国での苦労、新しい出会いと交流、ヨーロッパから見えた日本の姿─ジャーナリストならではの洞察力で、「蛮勇」のカミさんと二人三脚の日々を綴った小気味よいエッセイ。一身にして二生を経る─人生後半の新たな挑戦をめざす全てのひとに贈る。
著者は1947年生まれ。神戸大学経営学部卒。1971年、朝日新聞社入社。東京社会部で警視庁,宮内庁などを担当。出版局へ異動し『週刊朝日』副編集長、『論座』編集長。テレビ朝日「ニュースステーション」でコメンテーター。2007年、論説委員を最後に定年退職。
◆高野秀行『酒を主食とする人々─エチオピアの科学的秘境を旅する』本の雑誌社1/20刊 1800円
「酒を主食とする人々」.jpg 本当にそんなことがありえるのか? 世界の辺境を旅する高野秀行も驚く。朝昼晩、毎日、一生、大人も子供も胎児も酒ばかり飲んで暮らす、仰天ワールド! 幻の酒飲み民族は実在した! すごい。すごすぎる。エチオピアのデラシャ人は科学の常識を遥かに超えたところに生きている。朝から晩まで酒しか飲んでいないのに体調はすこぶるいい! 実際に共に生活し行動する中で、観察・体験した驚くべき民族と社会のリアルな姿をレポートする。
著者はノンフィクション作家。1966年生まれ。著書に『謎の独立国家ソマリランド』『イラク水滸伝』など。
◆静岡新聞社編『青春を生きて─歩生(あゆみ)が夢見た卒業』静岡新聞社 1/23刊 1200円
「青春を生きて」.jpg 骨のがん「骨肉腫」によって、18歳の若さで亡くなった磐田市の女子高校生と家族が、医者や友人と共に歩んだ闘病の記録。中学・高校時代の苦痛と生きることへの願い、そして卒業を夢見て学校に通い続けた彼女の姿は、同級生や周囲の大人の心を突き動かした。病身の生徒の「学びの保障」についても考察する。歩生さんの日記や家族の手記も収める。
AYA世代(15歳から30歳代)で、がんと診断された若者たちの教育問題をテーマにした、同名の静岡新聞短期連載(2024年1月1日〜2024年3月27日付朝刊)を加筆・修正して書籍化した。静岡新聞社のブックレット創刊号。ぜひ読んでほしい。
◆丹羽典生『ガラパゴスを歩いた男─朝枝利男の太平洋探検記』教育評論社 1/8刊 2400円
「ガラパゴスを歩いた男」.jpg 著者が訪れた博物館の収蔵庫には、朝枝利男という見知らぬ人物によって撮影されたガラパゴス諸島の写真が、たくさん収められていた。それだけでなく彼の日記、水彩画も保管されていた。それを基に「ガラパゴス探検の日本人のパイオニア」でありながら、ほぼ無名の人物である朝枝利男の生涯とガラパゴス諸島への探検などを軸に、彼の残した膨大な写真・スケッチを交えながら紹介する。
著者は国立民族学博物館グローバル現象研究部教授、専門は社会人類学、オセアニア地域研究。編著に『記憶と歴史の人類学』がある。
◆樋口英明『原発と司法─国の責任を認めない最高裁判決の罪』岩波ブックレット 1/9刊 630円
「原発と司法」.jpg 多くの日本人は、「原発問題は難しい」「原発は安全に作られている」と思っていませんか。元裁判官の著者も、かつてはそう思いこんでいたが、原発裁判を担当するようになって、認識が変わったという。決して原発問題は難しいものでもなく、また安全でもない、この事実に気づいたという。本書では刷り込まされてきた「先入観」を氷解させ、原発を巡る問題の本質に迫る。全国の主な脱原発訴訟・国賠訴訟一覧表付。
著者は1952年三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1983年裁判官任官、大阪高裁、名古屋地裁、名古屋家裁部総括判事などを歴任。2017年定年退官。
◆山田昌弘『希望格差社会、それから─幸福に衰退する国の20年』東洋経済新報社 1/15刊 1500円
「希望格差社会」.jpg 「バーチャル世界」で格差を埋める人々が急増している。格差は広がるだけでなく、固定化し、経済的に行き詰まりをみせているにもかかわらず、様々な意識調査では、格差拡大の被害を最も受けているはずの若者の幸福度が上昇している。なぜか。「バーチャル世界」で満足を得る方法を見いだしているからだ。リアルな世界で格差が広がる中、格差を埋め、人々に幸せを供給するプラットホームとして機能している事象を解剖する。
著者は中央大学文学部教授。著書に『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)、『少子社会日本』(岩波新書)、『新型格差社会』(朝日新書)など。
◆清水建宇『バルセロナで豆腐屋になった─定年後の「一身二生」奮闘記』 岩波新書 1/20刊 960円
「バルセロナで豆腐屋になった」.jpg 元朝日新聞の記者が定年後、バルセロナで豆腐店を開業した。修行の日々、異国での苦労、新しい出会いと交流、ヨーロッパから見えた日本の姿─ジャーナリストならではの洞察力で、「蛮勇」のカミさんと二人三脚の日々を綴った小気味よいエッセイ。一身にして二生を経る─人生後半の新たな挑戦をめざす全てのひとに贈る。
著者は1947年生まれ。神戸大学経営学部卒。1971年、朝日新聞社入社。東京社会部で警視庁,宮内庁などを担当。出版局へ異動し『週刊朝日』副編集長、『論座』編集長。テレビ朝日「ニュースステーション」でコメンテーター。2007年、論説委員を最後に定年退職。
◆高野秀行『酒を主食とする人々─エチオピアの科学的秘境を旅する』本の雑誌社1/20刊 1800円
「酒を主食とする人々」.jpg 本当にそんなことがありえるのか? 世界の辺境を旅する高野秀行も驚く。朝昼晩、毎日、一生、大人も子供も胎児も酒ばかり飲んで暮らす、仰天ワールド! 幻の酒飲み民族は実在した! すごい。すごすぎる。エチオピアのデラシャ人は科学の常識を遥かに超えたところに生きている。朝から晩まで酒しか飲んでいないのに体調はすこぶるいい! 実際に共に生活し行動する中で、観察・体験した驚くべき民族と社会のリアルな姿をレポートする。
著者はノンフィクション作家。1966年生まれ。著書に『謎の独立国家ソマリランド』『イラク水滸伝』など。
◆静岡新聞社編『青春を生きて─歩生(あゆみ)が夢見た卒業』静岡新聞社 1/23刊 1200円
「青春を生きて」.jpg 骨のがん「骨肉腫」によって、18歳の若さで亡くなった磐田市の女子高校生と家族が、医者や友人と共に歩んだ闘病の記録。中学・高校時代の苦痛と生きることへの願い、そして卒業を夢見て学校に通い続けた彼女の姿は、同級生や周囲の大人の心を突き動かした。病身の生徒の「学びの保障」についても考察する。歩生さんの日記や家族の手記も収める。
AYA世代(15歳から30歳代)で、がんと診断された若者たちの教育問題をテーマにした、同名の静岡新聞短期連載(2024年1月1日〜2024年3月27日付朝刊)を加筆・修正して書籍化した。静岡新聞社のブックレット創刊号。ぜひ読んでほしい。
2025年01月12日
【焦点】最高裁と巨大法律事務所 癒着の構図 原発事故であらわに 司法の信頼、地に落ちる 後藤秀典氏オンライン講演=橋詰雅博
2024年度JCJ賞受賞『東京電力の変節』(旬報社)は、国、最高裁裁判官、東京電力、巨大法律事務所が深くつながっていることを浮かび上がらせた。持ちつ持たれつの構図から2年前の6月17日、福島原発事故で国を免責する異様≠ネ最高裁判決となって表面化したというのだ。原発事故裁判を始めさまざまな住民訴訟を通じて司法不信の声は増えている。司法の独立の危機と訴える法律家も少なくない。本書の著者のジャーナリスト・後藤秀典氏は11月30日、癒着構造の詳細などをJCJオンライン講演で語った。
国とも太いパイプ
国、東京電力、巨大法律事務所の癒着の一例を挙げよう。環境省の外局、原子力規制庁職員時代の前田后穂弁護士は、複数の福島原発事故関連訴訟の国側の代理人を務めた。2021年6月に退庁した後、弁護士572人抱えるTMI総合法律事務所に所属。事務所は控訴審から東電側の主たる代理人として加わった。前田弁護士は福島県浪江町の津島原発控訴審で東電代理人に転じていた。「原発の審査や検査などを行う『監視する側』の原子力規制庁を退職したとたん、『監視される側』の東電の代理人になるのは問題でないか」とした後藤氏は、前田弁護士に23年1月に質問書を出した。前田弁護士に聴取したという事務所からの書面回答は「原子力規制庁及び東京電力の双方から承諾を得ているとのことです。貴殿からのご指摘いただいた問題は生じないと考えられます」。これはむしろ原子力規制庁と東電の結びつきの深さを示していると後藤氏は指摘する。
3人が巨大事務所
最高裁裁判官もTMIと関係が深い。今回罷免率10・5%の第一小法廷の宮川美津子裁判官は同事務所出身。岐阜、愛知の原発自主避難者の人権侵害訴訟を審理する。弁護団は宮川裁判官の回避(裁判官自ら担当を外れる)を求めたが、返事はない。第一、第二、第三小法廷を経た深山卓也裁判官は6月退官後に事務所顧問に就任した。
ほかの裁判官もTMI以外の東電と関係する法律事務所とつながる。第二法廷の草野耕一裁判官の出身は弁護士650人を擁する日本最大規模の西村あさひ法律事務所。判事就任前は事務所の共同経営者で、事務所顧問の元最高裁判事は東電の依頼で最高裁に意見書を提出。しかも事務所弁護士は東電の社外取締役だ。
同じく第二の岡村和美裁判官の出身は、東電株主代表訴訟の東電側代理人の長嶋・大野・常松法律事務所(弁護士532人所属)。第二の裁判長を退官した菅野博之弁護士は顧問を務める。第三法廷の渡邉惠理子裁判官も長嶋・大野・常松法律事務所の共同経営者だった。
人権や正義無関心
最高裁裁判官弁護士枠4人のうち3人も巨大法律事務所出身が占める。
巨大事務所のベテラン弁護士は「3人とも何が正義かということに、あまり見解を持っていない。人権や正義のことに全然関心がない。私も関心持たずにやってきた」と後藤氏に答えた。
後藤氏の調査に対して澤藤統一郎弁護士はこう評価した。
「特定の巨大法律事務所が最高裁裁判官の供給源となり、同時に最高裁裁判官の天下り先ともなっている。こうして形成された最高裁と巨大法律事務所とのパイプを中心に、巨大法律事務所が、裁判所、国、企業の密接な癒着構造を形作っている。司法の独立の危機は、新たな段階にある」
深まる癒着構造は、司法の信頼が地に落ちることになる。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
2025年01月11日
【能登半島地震】1年たっても遅れる復旧・復興 被災住民の思いと齟齬が=須藤 春夫
今年元日の能登半島地震から間もなく約1年となる。マスメディア各社が地震半年後に実施した被災住民へのアンケートでは、7割を超える人が「能登に帰りたい、今後も能登で暮らし続けたい」という強い思いを示している。だが、9月には被災地を集中豪雨が襲い、復旧への足かせが重なった。24年12月6日現在、輪島市、珠洲市の1次避難所には40人、金沢市内の旅館・ホテルの2次避難所には24人と、未だに帰れない人たちが取り残されている。
県や市町は「創造的復興」を掲げるが、被災家屋の公費解体・修理、損壊した道路、港湾施設、耕作地など、復興の前提となる復旧が遅れている。
再建に見切りをつけ故郷を離れる被災住民が増えており、24年11月現在、輪島市、珠洲市など奥能登4市町の人口は、地震が起きた元日と比べて7・5%、約4千人も減少した。とくに子育て世代は、新たな教育環境や生業を求めて移転を余儀なくされている。まずは住まいと生業、医療と社会福祉施策の整備が急がれる。
行政の「創造的復興」プランは「能登の将来」を目指したものとはいえ、被災住民の思いと齟齬をきたしている。インフラ整備は「集約化」が前提であり、市街地中心部に住宅団地を造り被災集落を集団移転させる計画だ。生活の利便性は得られても、元の集落の人間関係や祭りなどが維持できず、暮らしを支えるコミュニティが崩壊してしまう。「暮らし続ける」条件が失われるのは、20年前の中越地震で集団移転した、小千谷市十二平集落の事例からも明らかだ。
一方、輪島市金蔵(かな・くら)集落はほぼ全世帯が現地の自主避難所に留まり、自分たちの手で田畑の復旧に取り組み、集落の再建を自主的に図る話し合いをもち、復興に必要な事項を行政に要請する動きをしている。金蔵は震災前から「村おこし」に熱心に取り組み、住民参加によるコミュニティの維持にこだわってきた。他県への視察から地の利を活かす食文化の提供を創り上げ、過疎化を食い止める道筋が見えていた。この経験が災害に遭遇した際の地域の耐性をもたらし、復興の希望を支えている。
メディアの復興に向けた報道は、被災した輪島塗や珠洲焼きの工房復活、店舗の再開、祭りの復活などを伝える表層的なものが目立つ。金蔵の事例が示す可視化しにくいコミュニティ維持への努力を発掘し、行政の復興施策に反映させる役割こそ大事だ。大災害を機に過疎地の地域住民を棄民化しかねない復興政策に歯止めをかけるためだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号