2025年02月20日

【出版界の動き】2月:書店の活性化に向けた多様な取り組み=出版部会

◆アマゾン日本売上高は約4.1兆
 2024年アマゾン日本事業の売上高(ドルベース)は、274億100万ドル(約4.1兆円・前期比5.4%増)となった。2ケタ増収は2016年から2021年まで続いたが、直近3年は1ケタ増収にとどまっている。全売上高に占める日本の割合は4.3%、2023年比で0.2ポイント減った。世界各国の24年売上高は以下の通り。
アメリカ → 4380億1500万ドル(前期比10.7%増)
ドイツ → 408億5600万ドル(同8.7%増)
イギリス → 378億5500万ドル(同12.7%増)
日本 → 274億100万ドル(同5.4%増)
その他 → 938億3200万ドル(同14.5%増)

◆読売・講談社共同提言
 読売新聞グループ本社と講談社は2月7日、全国各地で書店が衰退し、無書店エリアが拡大している現状に歯止めをかけたいと、書店の活性化へ向けた共同提言を発表した。その内容は、1. キャッシュレス負担軽減 2. ICタグで書店のDX化 3. 書店と図書館の連携 4. 新規書店が出やすい環境 5. 絵本専門士などの活用 この5項目にまとめることができる。
 すでに経産省からはアクションプラン案(PDF)が出ており、ICタグ(RFID)関連の環境整備は進んでいる。キャッシュレス負担軽減は、決済事業者に対する補助が必要だから不透明。書店と図書館の連携は、いままさに文科省「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議」で議論が行われている。
 この5つの他に、不公正な競争環境等の是正、出版物への消費税・軽減税率の適用などは、この読売新聞社・講談社共同提言にはない。こうした課題はどうするのか。検討が必要なのは間違いない。

◆扶桑社が早期退職募集!
 フジテレビは、元タレントの女性トラブルに端を発した問題で、スポンサー離れが加速し業績が悪化している。出版子会社の扶桑社の早期退職募集は、フジテレビの不振が影響しているのではないか。グループ各社に波及する“業績悪化ドミノ”の恐れも言われだしている。
 フジグループは子会社89社、関連会社50社を擁するメディア界の“巨大帝国”だ。放送局や制作プロダクションのほか、出版・音楽事業、不動産やホテル事業を行う会社などがある。グループ各社への打撃も甚大である。1月30日には2025年3月期の業績を大幅に下方修正すると発表した。放送収入は前期から233億円減の1252億円まで落ち込む見通し。
 いち早く人員整理に動いたのは扶桑社。すでに産経新聞社が発行する「夕刊フジ」は、2025年1月31日をもって休刊となっている。スマートフォンの普及など、生活スタイルの変化で発行部数が減少傾向だったことに加え、新聞用紙の高騰などが理由で、1969年2月の創刊から約56年の歴史に幕を下ろした。

◆「狐弾亭」立川市に開業
 トーハンの小型書店開業サービス「HONYAL」を利用して、「狐弾亭(こびきてい)」が2月8日、東京・立川市羽衣町1-21-2にオープンした。初の個人による開業で、「物語を通して妖精と出会える場所」をコンセプトとするブックティーサロン。
 23坪の売場に、アイルランドの妖精譚や妖精関連の専門書、妖精が登場するコミックスなど約3000冊(古書含む)を揃え、カフェを併設。
 店主の高畑吉男さんは、アイルランドを中心とした妖精譚の専門家で著書も多く、自ら選書した書目を並べ、また所蔵する貴重な文献資料も置き、非売品だが紅茶をオーダーすると店内で閲覧が可能。

◆「大阪ほんま本大賞」の成果
 地域ゆかりの一冊を書店員らが選んで表彰するご当地文学賞、そのなかでもユニークなのが「大阪ほんま本大賞」だ。それぞれの書店の店頭で受賞作を大々的にアピールし、少しでも書店の黒字を増やす狙いはもちろん、売り上げの一部は、児童養護施設の子どもたちのプレゼント本に使われる仕組みになっている。
 ほんま本大賞を主催しているのは、大阪府内の書店のほか、トーハン、日販、楽天ブックスネットワークといった出版取次会社の有志らでつくる団体「Osaka Book One Project」。実行委員として20人が活動する。「大阪からベストセラーを出したい」という思いで2013年に始まり、第3回までは「大阪の本屋と問屋が選んだほんまに読んでほしい本」、第4回からは「大阪ほんま本大賞」としてお薦めの一冊を選んで表彰している。
 選考の対象とする条件は、@ 大阪が舞台の物語、あるいは作者が大阪にゆかりあること、A 文庫本であること、B 著者が生存していること の3つを満たす作品に限っている。
 それに加えて「ほんま本大賞」の特徴は、受賞作の売り上げの一部で、児童養護施設の子どもたちに欲しい本をプレゼントし続けていることだ。初回から2024年の第12回を合わせると、1000万円近くの本を寄贈している。

◆月刊誌「母の友」最終号
 福音館書店が発行する月刊誌「母の友」3月号(2/3発行)をもって、72年の歴史を閉じる。 1953年に「幼い子と共に生きる人への生活文化雑誌」と位置づけて創刊し、子育ての「ハウツー本」というより、作家や画家の書き下ろしの童話やエッセー、インタビュー、寄稿、読者の投稿などを通して、「言葉」に光を当ててきた。
 他社の広告を載せないのも雑誌としては珍しかったが、「昨今の情報メディアをめぐる環境の大きな変化」を理由に、休刊に踏み切った。
 最終号のテーマは「『生きる』を探しに」。2022年に亡くなった松居直(ただし)さんが創刊号の編集長として、このテーマを立ち上げた。松居さんは、3人の兄を戦中戦後に戦場や病気で亡くした経験から「生きるということを皆さんと考えたいと思って、この雑誌を作った」と生前に繰り返していたという。

◆「パレスチナ」書名本押収
 イスラエル警察は2月9日、東エルサレムのパレスチナ人が経営する「エデュケーショナル書店」を扇動容疑で捜索し、書名に「パレスチナ」とつく約100冊の本を押収、店主ら2人を逮捕した。警察当局は「扇動とテロ支援を含む本を販売した」との理由を挙げた。
 1984年に開店した書店は、パレスチナ問題を扱う本を多くそろえ、学者や外交官、記者のたまり場であり、「イスラエル人とパレスチナ人が出会う文化の発信拠点であった。警察の行為は恥ずべきだ」と、多くの人々が憤り書店の「略奪」を非難する公式声明を発表した。
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2025年02月19日

【焦点】第7次エネルギー基本計画(エネ基)が18日に閣議決定、原発利権温存が狙い=橋詰雅博

 昨年12月27日から今年1月26日まで実施された第7次エネ基に対するパブリックコメント(意見公募)は約4万件に上った。これまでのエネ基のパブコメのなかで最も多く、原発を推進すべきではないなど反対意見が多く出た。例えば<7次エネルギー基本計画(案)を廃案とするべきである。現状において,原子力依存度の増加や再生可能エネルギーの推進不足,市民意見の反映不十分であることから、より持続可能で安全なエネルギー政策への転換を求める>といった具合だ。にもかかわらず原子力政策の基本は変わらなかった。

 筆者は今年1月号JCJ機関紙で第7エネ基は「原発回帰」と喝破した(http://jcj-daily.seesaa.net/category/27511239-1.html)。半導体工場やデータセンターの新設による電力需要増大を口実にしたもので、省エネによる電力需要抑制を無視した計画案だった。結局は、原発を主事業とする電力会社(電力業界は自民党への大口政治献金の常連)の経営基盤を守る利権温存が狙い。第7次エネ基では2040年の再生可能エネルギーは4〜5割目標で、EU(欧州連合)がすでに実現している水準にとどまっている。これでは世界に向けた50年温室効果ガス実質ゼロの公約の達成は困難ではないか。

 国際環境NGO「FoE Japan」は、<原発や火力などの大規模集中型の電源による電力の大量生産・大量消費の構造をそのまま維持する内容である。気候危機に向き合わず、一般市民や将来世代に大きな負担を強い、現実からも乖離している。これに抗議する>と声明を18日に出した。
https://foejapan.org/issue/20250218/22944/

●関連情報
シンポジウム:原発事故から14年−福島と能登から考えるエネルギーの未来
https://foejapan.org/issue/20250130/22214/

珠洲市在住の北野進さん、浪江町から避難した菅野みずえさんによる講演に加え、全国各地の原発や関連施設などの周辺から7名の方にご報告をいただきます。また、「エネルギーの民主化を実現するために」をテーマに若い世代もまじえてパネルディスカッションを開催します。
日時:2025年3月1日(土)14:00-16:30
会場:法政大学 市ヶ谷キャンパス 富士見ゲート G401教室 またはZoom
▼詳細、お申込みは以下から
https://foejapan.org/issue/20250130/22214/
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2025年02月18日

【映像】オンライン講演「裁判官はこうも堕落したのか」―YouTubeで一般公開=JCJ事務局

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 11月30日実施した〈JCJ Online講演会〉「裁判官はこうも堕落したのか」、講演者は24年度JCJ賞受賞の後藤秀典さん。後藤さんのご厚意により、記録をYouTubeで一般公開させていただけるはこびとなりました。
 このYouTubeコンテンツは、どなたでもアクセス可能ですので、JCJ会員のみなさま始め広くご視聴いただければと思います。JCJ活動の一端として機関紙購読や会員の拡大につながっていくこと期待です。

https://youtu.be/O29yTweWoFY ←YouTube

https://x.com/jcj_online/status/1890613817362546874 ←X(旧twitter)告知

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2025年02月17日

【オピニオン】国家賠償と核廃絶 被団協の訴えにどう応える=藤元康之(広島支部)

 「1994年12月、2法を合体した『原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律』が制定されましたが、何十万人という死者に対する補償は一切なく、日本政府は一貫して国家補償を拒み、放射線被害に限定した対策のみを今日まで続けてきています。もう一度繰り返します。原爆で亡くなった死者に対する償いは、日本政府は全くしていないという事実をお知りいただきたいと思います」

 日本被団協の田中煕巳代表委員のノーベル平和賞受賞式演説で、私が一番感動したところだ。しかし、中継したNHKニュースや直後のテレビ朝日報道ステーションでは、何の説明も解説もなかった。翌日からの報道で「もう一度繰り返します」のところは、用意した原稿にはなく、「いまの世界情勢を考えると、繰り返して言わなければと衝動的に思った」と田中さんは明かしている。

 被団協の二つの基本要求は演説のなかで分かりやすく述べられている。一つは、日本政府の「戦争の被害は国民が受忍しなければならない」との主張にあらがい、原爆被害は戦争を開始し遂行した国によって償われなければならないという運動。二つは、核兵器は極めて非人道的な殺戮兵器であり人類とは共存させてはならない、すみやかに廃絶しなければならない、という運動である。

 演説は、原爆死没者への日本政府の補償と言っているが、意味するところは戦争を起こす全ての国家の責任を断罪しているのだと思う。米国による原爆投下から80年も経つのに、再び核戦争の危機が充満する世界にあって、戦争は誤った国策によって国家が起こすこと、それを止める大きな役割をジャーナリストが担っていることを、再認識したい。

 残念なことに、広島市の松井一実市長は記者会見で、国家補償を求める被団協の運動は、大切なことと述べながらも、世界から評価されたのは平和や核廃絶を訴える運動に限られているとの見解を述べた。この人は、パールハーバーと広島平和公園の「姉妹協定」締結や市職員研修で教育勅語を肯定的に引用するなど、私から見れば世間常識とはかなりずれていると思うのだが、今回も独自見解を披露してくれた。ただ、これも残念なことに広島のメディアでさえ大きく報じられなかった。

 フリー記者の宮崎園子さんのYahooニュースによると、田中さんは「核兵器廃絶と国家補償という私たちの二つの基本要求によって『核のタブー』が形成されたということについて、ノーベル委員会は適切に理解してくださっている」と述べ、ノーベル委員会からは、事前原稿ではなく実際のスピーチの内容を正式文書として残すとの説明を受けたという。

 日本国憲法前文は「日本国民は……政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し……」で始まる。80年前に終わった戦争は、政府=国家が起こしたと明記し、二度としないことを日本国民は決意した。しかし、自民党の憲法改正草案(12年)では、この大切な文言は削除され「平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する」と、戦争の反省も不戦の誓いも感じられないものになった。そして被爆地広島から選出された岸田文雄前首相は、米国の要求に従って、中国に対抗する軍事力増強に舵を切った。米国のトランプ新大統領は防衛費のさらなる増額を要求すると言われている。
 昭和100年、戦後80年のことし、年老いた被爆者の訴えに私たちは、どう応えるのか、きわめて大切な1年になる。
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
 

 
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2025年02月16日

【国民発議制度創設】有権者の請求で国民投票実施 国会に議連、模擬投票も=小石 勝朗(ライター)

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 特定のテーマについて一定数の有権者が請求すれば国民投票が実施される「国民発議」制度の創設へ向けた動きが活発化してきた。国会議員による超党派の議員連盟が昨年暮れに発足=写真・小石勝朗撮影=。市民団体はウェブで模擬投票を行い、制度の周知に注力している。

「諮問型」を想定
 「『国民発議』制度の導入を目指す超党派議員連盟」=には、自民、立憲民主、維新、国民民主など7会派の衆・参院議員約20人が入会の意向を示している。設立総会で共同代表に船田元・衆院議員と桜井充・参院議員(ともに自民)、杉尾秀哉・参院議員(立憲民主)を選んだ。
 当面は、海外の事例調査や課題のあぶり出し、識者の意見聴取などに取り組み、制度の内容を固めて法案を作成することを目標にしている。総会に出席した議員からは「民主主義を根づかせる手段になる」といった声が出た。
 
 憲法41条は国会が「唯一の立法機関」と定めており、選挙による間接民主制を採用しているとして、国民投票のような直接民主制の手法に抵抗感を抱く国会議員も多い。それだけに、国会にこうした議連ができたのは新しい潮流と言える。

 制度化に当たっても同条との関係が問題になる。議連に参加する議員らは、国民投票の結果に法的な強制力を持たせるのではなく、政府や国会に尊重義務を課すにとどめる「諮問型」と位置づけることで、憲法との整合性は保てるとみている。間接民主制を補完する、との位置づけだ。

 国民発議が注目される背景には、政治や行政への根強い不信がある。内閣府の世論調査(23年11月)によると、国の政策に国民の考えや意見が「ほとんど反映されていない」との回答が26・1%、「あまり反映されていない」が49・6%。両者の合計は1年前より4・3㌽上がっている。
 国民投票の対象になるテーマとしては、たとえば夫婦別姓、原発、死刑などが想定される。選挙と違ってテーマごとに意思表示ができるため、実現すれば国民の政治参加を進め、不信の払拭にもつながると期待される。
 
 議連の結成を働きかけたのは、一般社団法人・INIT国民発議プロジェクト。「選挙の時だけでなく365日ずっと主権者でいるために発案・拒否・決定権を行使できる制度を」と22年に発足し、昨年末時点で1820人が賛同者登録している。

 INITは昨年12月の1週間、選択的夫婦別姓、消費税、紙の保険証、NHK受信料、死刑、インボイスの6件をテーマに、ウェブで模擬国民投票を実施した。事前に賛同者に何を発議したいか募り、希望を踏まえてテーマを設定した。
 各テーマについて賛否の代表的な意見をホームページに掲載。一部のテーマでは双方の論客による公開討論会も開くなど本番同様のしつらえにした。

 投票数は、最多の夫婦別姓で3197件。「賛成」が9割近かったが、ほぼ全員が賛否両方の意見を確認したうえで投票していた。INITは「投票結果よりも、学び考えて1票を投じたことが意義深い」と捉えており、国民投票は熟議を促すと自信を深めている。
 年内に「原発・エネルギー」(3月)などをテーマにさらに3回の模擬投票を計画する。多くの人に国民投票を「実感」してもらうとともに、プロセスや結果を検証。議連とも連携して制度設計に生かしていく方針だ。
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
 

  

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2025年02月15日

【JCJオンライン講演会】「トランプ2・0」は、世界をこう変える 講師:ロイター通信日本支局長・豊田祐基子氏 3月8日(土)午後2時から4時

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 米大統領に返り咲いたトランプ氏は、大統領令を次から次に発動。国内外に混乱をもたらし、当事者たちは対応に右往左往だ。ウクライナ戦争とガザ戦闘は奇策≠ナ停戦にというトランプ戦術も大きな波紋を呼ぶ。「ゆすり」「たかり」「脅し」というこれまでの成功体験から生まれた手法を駆使している。金主ゆえトランプ氏が起用した新設「政府効率化省(DOGE)」のトップの実業家・イーロン・マスク氏の言動も波乱の要因。予見不能「トランプ2・0」政権は、世界をどう変えるのか誰もが知りたいところ。日米の政治、経済に詳しいロイター通信日本支局長の豊田祐基子がズバリ予測する。

■講演者プロフィール:豊田 祐基子(とよだ・ゆきこ)ロイター通信 日本支局長
 2022年2月から現職。外交・安全保障からエネルギー、金融・財政政策、金融市場、産業まで、日本に関わるあらゆるニュースの取材を統括し、世界へ発信している。ロイター入社以前は25年間にわたり、共同通信で外交・防衛、日銀などを取材した。 
 2009年から13年までシンガポール支局長、15年から18年までワシントン特派員を歴任。その後は特別報道室次長として共同の調査取材チームを率い、国際調査報道ジャーナリスト連合にも参加、東京五輪誘致に絡む資金の流れを報じた。日米間の外交・防衛関係の取材を重ね、共同通信憲法取材班として日米同盟に関する記事を執筆。新潮社から出版『「改憲」の系譜 9条と日米同盟の現場』で2007年日本ジャーナリスト会議JCJ賞を受賞。早稲田大学で博士号(公共政策)を取得。米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院の客員研究員を務めた。

■参加費:500円
当オンライン講演会に参加希望の方はPeatix(https://jcjonline0308.peatix.com)で参加費をお支払いください。
(JCJ会員は参加費無料。jcj_online@jcj.gr.jp に支部・部会名を明記の上お申し込み下さい)
■主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)
    03–6272-9781(月水金の13時から18時まで)
      https://jcj.gr.jp/
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2025年02月14日

【月刊マスコミ評・放送】NHK地元放送局の長期密着取材の成果=諸川麻衣

 昨年秋以降、NHKのドキュメンタリーの健闘が光る。11月30日の『ETV特集 誰のための医療か〜群大病院・模索の10年〜』は、2014年に医療事故が発覚して大問題となった群馬大学附属病院のその後を見つめた。腹腔鏡手術で8人、開腹手術でも10人の患者が死亡した事態を受け、事故調査委員会は徹底した医療安全の改革を提言した。以後10年、病院は、重大事例について科を超えた合同カンファレンスで検討する、カルテ情報を患者と共有するなど、前例のない改革を進めてきた。さらに、患者自らが医療スタッフと共に自分の治療に参加する「患者参加型医療」にも着手した。死亡患者の遺族、改革に当たってきた医師たち、心臓の持病ゆえに妊娠中絶を勧められながら、「患者参加型医療」で出産を果たした母などを取材、病院改革の試行錯誤を描いた。

 12月7日の『NHKスペシャル “国境の島” 密着500日 防衛の最前線はいま』は、台湾からわずか111kmに位置し、「国防の最前線」と位置付けられる与那国島が舞台。防衛の“南西シフト”の第1弾として陸上自衛隊の駐屯地が置かれて以降、ミサイル部隊の追加配備や駐屯地の拡張などが次々と打ち出された。町も島民も、島の振興のためにと自衛隊との共存を選んだが、伝統行事が隊員頼みになったなどの事態も生まれている。さらに、有事の際の佐賀県への“全島避難”も検討され始めた。土木業を営む町民、「自衛隊依存」に批判的な元保守系町議、将来の観光振興を視野に、国策を利用して港湾などの基盤整備を進めたいと考える町長に密着、“国境の島”の変貌を町の側から見つめた。

 今年1月4日の『NHKスペシャル “冤罪”の深層〜警視庁公安部・内部音声の衝撃〜』は、「軍事転用可能な機器を不正輸出した」とされた大川原化工機の冤罪事件を追った第3弾。取材班は新たに、警視庁公安部内の会議の音声記録を入手。そこには、強引な法令解釈で事件化に固執する幹部らと、それに懸命に抗う部下たちの対立が記録されていた。番組取材チームが培ってきた信頼が、内部告発を次々と引き出しているのだろう。

 注目したいのは、群馬大、与那国島、どちらも地元局の長期密着取材の成果だという点だ。全国に放送局を持つNHKならではの強みを生かしたこのような手堅いドキュメンタリー枠の拡充こそ、テレビが人々の信頼を取り戻す王道では、と初夢を描いた。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
   
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2025年02月13日

【Bookガイド】2月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

  ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)

◆望月衣塑子『軍拡国家』角川新書 2/10刊 900円
 軍拡に舵を切るこの国で、私たちの生活はどう変わる? 5年で43兆円の防衛費増、敵基地攻撃能力の保有など、周辺諸国の脅威が声高に叫ばれる中、専守防衛という国の在り方は大転換した。防衛問題を追い続けてきた著者による最新レポート。
 著者は東京新聞社会部記者。入社後、東京地検特捜部などを担当。官邸での官房長官記者会見で、真実を明らかにするべく鋭い質問を続ける。現在は社会部遊軍記者。
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◆朝日新聞取材班『ルポ 大阪・関西万博の深層─迷走する維新政治』 朝日新書 2/13刊 900円
 4月に開幕する大阪・関西万博。必死なてこ入れで、お祭りムードが醸成されるだろう。しかし、本当にそれでいいのか。会場予定地での爆発騒ぎや、建設費の2度の上ぶれ、パビリオン建設の遅れなど、問題が噴出し続けた。巨額の公費をつぎ込んだからには、成果は厳しく問われるべきだし、その出費や使いみちも検証されるべきだ。。朝日新聞取材班が万博の深層に迫った渾身のルポ。
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◆宮崎拓朗『ブラック郵便局』新潮社 2/17刊 1600円
 異常すぎるノルマ、手段を選ばない保険勧誘、部下を追い詰める幹部たち。巨大組織の歪んだ実態に迫る驚愕ルポ。街中を駆け回る配達員、高齢者の話に耳を傾け寄り添うかんぽの営業マンなど、利用者のために働いてきた局員とその家族が疲弊し追い込まれている。窓口の向こう側に広がる絶望に光を当てる。
 著者は京都大学卒。西日本新聞社入社。「かんぽ生命不正販売問題を巡るキャンペーン報道」で第20回早稲田ジャーナリズム大賞。現在は北九州本社編集部デスク。
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◆今村美都『「不」自由でなにがわるい─障がいあってもみんなと同じ』 新日本出版社 2/20刊 1500円
 本書の主人公は、重度の脳性まひがある「ともっち」こと山下智子さん。24時間介助が必要ですが、楽器も弾くし、水泳もするし、ゲームもする。サッカーJリーグの観戦にも出かける。障害があるからできないわけじゃない、工夫と行動でみんなと同じをやってきたともっちさんの半生記はすごい!
 著者は津田塾大学国際関係学科卒、早稲田大学大学院演劇映像専修修士課程修了し、ダンス雑誌の編集者に。その後、医療コンサルを手がけるIT企業へ、そして医療福祉ライターとして独立。
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◆油井大三郎『日系アメリカ人─強制収容からの<帰還>』岩波書店 2/21刊 2900円
 1942年2月19日。米国大統領ローズヴェルトの発した立ち退き令が引き金となり、強制収容所に送られた日系アメリカ人。極小マイノリティであるばかりか、収容体験を葬り去るべき「トラウマ」として抱え込んだ彼らが、なぜ謝罪と補償(リドレス)を実現できたのか。アメリカ現代史の第一人者である著者が、30年にわたって追ってきた研究の集大成をまとめた画期的な書。
 著者は東京女子大学現代文化学部特任教授、東京大学名誉教授。
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◆伊藤和子『ビジネスと人権─人を大切にしない社会を変える』岩波新書 2/25刊 1000円
 人を人とも思わないやり方で搾取し蹂躙する社会が国内外の企業活動で生じている。企業は国際人権基準を尊重する責任を負い、国家には人権を保護する義務があり、人権侵害には救済が求められる。私たち一人一人が国連の「指導原則」が示す「ビジネスと人権」の発想を知り、企業風土や社会を変えるための一冊。
 著者は国際人権NGOヒューマンライツ・ナウの副理事長、ミモザの森法律事務所所属弁護士。
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2025年02月12日

【映画の鏡】94歳 兄の無罪を信じて『いもうとの時間』冤罪事件の理不尽さを炙り出す=鈴木 賀津彦

                 
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 1961年の事件発生以来、東海テレビが撮り続けてきた映像をふんだんに使って「名張ぶどう酒事件」の全体像を描き直し、冤罪事件の理不尽さを分かりやすく炙り出す。

 自白のみで5人殺害の犯人とされた奥西勝さん(当時35歳)は一審では無罪となるが、2審で死刑。判決確定後も獄中から無実を訴え続けたが89歳で亡くなった。再審請求を引き継いだのは妹の岡美代子さん。10度目も再審はかなわず(昨年1月最高裁特別抗告棄却)、美代子さんは現在94歳。再審請求は配偶者、直系の親族と兄弟姉妹しかできない。残された時間は長くはないのだ。検察・裁判所の狙いはそこなのかと愕然としてしまう。

 東海テレビは番組だけでなく映画作品としても本事件を多く題材にしてきた。『約束〜名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯〜』(2013)、『ふたりの死刑囚』(16)、『眠る村』(19)に続く4作目で、今回<シリーズ“最終章”>と打ち出している。テレビ局の組織ジャーナリズムの底力を、冤罪が問われている今だからこそ発揮している制作陣の熱量が伝わってくる。

 1966 年に起きた「袴田事件」は昨年 9 月 26 日に再審無罪の判決が出た。長期化する再審制度の在り方が問われる中、判決後の袴田さんの姿も追い二つの事件で再審がなぜ認められてこなかったかを捉えている。奥西さんの一審で無罪判決を出した裁判官についての取材の場面がある一方で、再審を認めなかった裁判長らの顔を並べるシーンが印象的だ。そこに憲法 76 条第 3 項「裁判官はその良心に従い、独立してその職権を行い、憲法および法律にのみ拘束される」と映し出される。
公開中。 
           JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
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2025年02月11日

【月刊マスコミ評・新聞】予算案の真摯な審議のため監視を=山田 明

 2025年元日の全国紙社説タイトルは、朝日「不確実さ増す時代に政治を凝視し強い社会築く」、毎日「戦後80年混迷する世界と日本「人道第一」の秩序構築を」、読売「平和と民主主義を立て直す時協調の理念掲げ日本が先頭に」、日経「変革に挑み次世代に希望つなごう」。各紙の主張と特徴が社説に表れている。産経は論説委員長が年のはじめにで、「日本は数年内に、戦後初めて戦争を仕掛けられる恐れがある」と危機感を煽る。地方紙社説には沖縄2紙など示唆に富むものが多い。

 戦後80年の今年は、国内外とも波乱が予想される。トランプ米大統領は就任前から、世界に波紋を投げかけるが、日本の経済社会も揺るがすであろう。日米軍事一体化のもと、とりわけ日米安保のあり方が問われる。今年も参院選など選挙の年だ。
 昨年秋の衆院選で与党は過半数を割った。「少数与党」下の政治の歯車が、少しずつかみ合い出したように見える(朝日1月4日社説)。政府与党はこれまでのように、内輪で予算案や政策を固めて、国会審議で押し通すような一方的な運営は通用できなくなった。 

 だが、昨年末の今年度補正予算案は、わずか4日間の審議で一部修正のうえ、与党と日本維新の会、国民民主党の賛成で衆院を通過した。コロナ禍以降に繰り返される「規模ありき」の予算である。補正予算で注目されるのが、防衛費が過去最大となる8268億円計上されていることだ。能登地域の復旧・復興費の3倍近い規模である。

 防衛費は新年度予算案でも8.7兆円も計上され、予算面からも「軍事大国」化が急速に進んでいる。少数与党下で審議される当初予算案は、補正予算のように与党と国民民主などの一部野党が野合することが危惧される。予算案が政策論議をもとに真摯に審議されるよう、メディァの監視を期待したい。
 夢洲万博まで100日を切ったが、機運醸成どころか、国民の関心はむしろ低下気味だ。前売券の販売は見込みの半分程度だ。このままだと運営費の赤字は避けられない。災害リスクも懸念されている。メディアも「お祭り」騒ぎを煽るのでなく、万博の現実をシビアに伝えてほしい。 
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
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2025年02月10日

【オピニオン】増える貧困若者、高齢者たたく世代間対立≠フ解決法は=木下寿国

 今年は団塊の世代が75歳以上となり、社会保障財源などへの圧迫が強まるのだという。そこから「2025年問題」などという呼称まで生まれているらしい。

 政府は、高齢者が増えると現役世代の負担増が必須になると強調してきた。それを擁護するかのように、成田悠輔氏による「高齢者の集団自決」論が世論をにぎわした。このような言説が、現役世代、最近ではとりわけ若い世代と高齢世代の利害は相いれないものだとする世代間対立の背景をなしている。

 こうした状況の中でマスコミは、政府や一部野党の言い分である「税と社会保障の一体改革」を持ち上げ、財源となる消費税増税を主張する。それを回避すれば、ツケは将来世代に先送りされるのだという。
 だが、ここには論点の大きなすり替えがある。社会保障や貧困問題の研究に取り組んできた唐鎌直義・佐久大学教授は、こう指摘する。「そもそも社会保障は、世代間で支え合うものではありません」(「赤旗」1.6)。税の社会的再配分(再分配)を行うものだという。わかりやすく言えば、同世代内で分かち合うものだということだ。経済的にゆとりのある層が、ない層を支える。つまり「応能負担の原則」、これが社会保障本来の基礎的概念だともいえる。

 そこを意図的にゆがめているのが政府であり、マスコミは往々にしてそのお先棒を担いでいる。現実は、大企業減税や富裕層優遇税制が野放し状態にある。応能負担原則をないがしろにしたままで、低所得層により負担の重い消費税増税に頼る「一体改革」を進めれば進めるほど、社会的ゆがみは拡大してゆくしかない。

 高齢世代をたたいたところで、いまある社会問題が解決しそうにないことは少し考えてみればわかりそうなものだ。だが、ここに一歩踏み込んでみるべき問題が存在する。筆者はこれに関連して「X」で少しばかりからまれた経験があるが、そこで気づいたのは、要するに高齢者を攻撃する多くの若者が本当に言いたいのは、自分たちが苦しんでいるということなのではないか。だから、頼るものが何もない自分たちからすれば、いろいろな制度があって恵まれているように見える高齢者をたたきたくなる。それでウサをはらしたくなる。

 阿部彩・東京都立大学教授の貧困研究(「相対的貧困率の動向」2021、24)によると、この数年間に20代前半の相対的貧困率は目立ってアップした。若者の貧困状態が厳しさを増しているのだ。世代間対立を煽り立てているのは、政府やマスコミのミスリードによるところももちろんあろうが、同時に若者が実際に厳しい現実に追い込まれていることも大いに関連しているに違いない。
 さきの唐鎌氏は「社会保障から遠ざけられている若い世代や非正規雇用に置かれた人の暮らしぶりにもっと目を向ける必要がある」と注意を喚起している。世代間対立をよりましな方向に持っていけるかどうかは、若い世代の悩みに具体的にこたえられるかどうかにもかかっているといえよう。

 個人的には解決策の一つとして、住宅問題への取り組みを挙げたい。住宅政策を人々の貧困を包括する社会保障として立て直してゆくのだ。若い世代も公営住宅に入れるようにしたり(そのためには、現状の閉鎖的な公営住宅政策の見直しが必要だ)、普遍的な住宅補助の実現で住宅費負担を軽減したりできれば、それだけでも低収入の若い世代にとっては大きな助けになるだろう。何よりそれは、孤立感を抱いているかもしれない若い世代への社会の応援歌ともなるはずだ。
                         
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2025年02月09日

【署名活動】今しかない!メディアは ”オールドボーイズクラブ ” からの脱却を!はじめの一歩として女性役員を3割にすることを求めます=MIC

 「今変わらなければ、この先変わるチャンスは二度と訪れないかもしれない」民放労連は、2018年から女性役員の割合を3割に引き上げるよう求めており、意思決定層の多様性の欠如が日本のメディア業界におけるコンプライアンス意識の低下や国際競争力の影響を及ぼしていると指摘しています。特にフジテレビの問題は、業界全体の構造的な課題であり、高齢男性が意思決定層を占める現実が多様な視点を排除し、問題を見過ごす要因となっています。メディア関係者は自ら反省し、信頼される情報を伝えるために女性割合の増加などの取り組みが重要であると強調しています。

【圧倒的に少ない女性役員】
 2023年1月27日に行われたフジテレビの記者会見では、登壇者全員が年配男性であり、多様な価値観が反映されていないことが問題視されました。フジテレビに限らず、日本のマスメディア全体に共通する課題です。民放労連は、意思決定層における女性の割合を30%以上に引き上げるよう要請してきましたが、3年経っても状況は改善されていません。ま新聞社でも女性管理職の割合や新卒女性採用の増加がある一方で、意思決定層における女性比率は依然として少ない。

【今こそメディアを変える そのために力を貸してください】
 この問題を解決する最初の一歩として、私たちはメディア各社に「女性役員3割」を直ちに実現するよう求めます。この大きな衝撃を、目の前の火を消すためではなく、根本的に意思決定の構造を変える力にして、多様な声が反映される組織に生まれ変わりたいと思っています。そうしてこそ、視聴者、聴取者、読者の皆様に信頼されるメディアになる、より良いコンテンツを生み出せるようになる。そう信じています。私たちは、メディア従事者として、メディア業界改革のために声を上げます。どうか皆さんの力を貸してください。

【署名の発信者】
民放労連(日本民間放送労働組合連合会)、 MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)
【提出予定】
集まった署名は3月初旬に民放キイ5局、民放連に提出したいと考えています。また、新聞協会、書籍協会、雑誌協会にも同様の要請を行う予定です。下記URLから「Change.Org」に入って賛同署名をお願いします。
https://x.gd/TvAWo
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2025年02月08日

 【おすすめ本】田中優子『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』─女性の国・吉原という活きた悪所への思い=渡辺憲司(立教大学名誉教授)

 編集者・蔦屋重三郎を育てた磁場吉原を、サブカルチャーの悪所としての牙城と著者は位置づける。活きた悪所の行く先を編集という企画力で守り通す体現者が蔦(つた)重(じゅう)だ。
 十二章のうち「W 洒 落本を編集する」が殊に面白い。その一節、蔦重の盟友・朋誠堂(めいせいどう)喜三二(きみじ)こと道陀楼麻阿(どうだろうまあ)が著した 『娼(しょう)妃(ひ)地理記』(1777年刊)への視線だ。
 これは蔦重が喜三二と洒落本出版に乗り出した最初の作品。見立てとうがちの諧謔は、第一級と評価されてきた作品を著者はさばく。
 吉原創生はイザナギ・イザナミが日本国を作った経緯から始まる。朝鮮の人・弘慶子が「一つ里」を作る。この名が朝鮮通信使の名で、人気の行商人・飴売りの名であることを著者は見逃さない。

 しかも吉原が日本国に似せた「月(がつ)本(ほん)国」であるとし、日本国の創生説話との類似を指摘し、日本国は鉾(ほこ)の滴(したた)りから出来たので「武」を好み男性 を尊び、月本国は蒲鉾(ガマほこ)の滴りから出来たので女性を尊ぶと記し、著者はその視点に「素晴らしい」 と嘆息する。
 衣紋海(衣紋坂)・大門灘(大門)・中の潮(仲之町)・揚屋満池(揚屋町)と吉原の地理を述べ「男をいやしめ女を尊んでいる」との見立てを紹介する。
 その上で男性中心社会の現代を批判し、吉原と日本の基本構造の近似にメスを入れ、日本を神の国などと思っていると、所詮は𠮷原と同じではないかとの指摘に加え、吉原には<別世>ゆえにサブカルチャーの力が内在していたと述べる。
 本書を読みながら、NHK大河ドラマ「べらぼう」を見るならば、女性 の国「吉原」の新たなジ ャポニズム創出の源が見えてくるだろう。(文春新書1000円)
     
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2025年02月06日

【NHK文書開示】放送法違反の議事隠し 6年目に経営委公表 番組介入、繰り返される恐れ=小滝 一志

 昨年12月18日NHKホームページで6年前の経営委員会議事録が公表された。「NHK文書開示等請求訴訟控訴審において和解が成立したことを受けて」との但し書きのついた2018年10〜11月開催分議事録の非公開部分だ。放送法41条は、経営委員長に、遅滞なく速やかな議事録公表を義務付けている。議事録はなぜ6年も放送法に反して隠されていたのか。

 事の起こりは、2018年4月24日に放送された「クローズアップ現代+」(郵便局が保険を“押し売り”!?)に遡る。メディアの「かんぽ不正報道」が始まる前の優れたスクープで、番組への反響は大きく続編を企画、インターネットで視聴者に情報提供を呼びかけた。これに対し、郵政三社幹部が「詐欺、押し売りなどの犯罪的営業を、組織ぐるみでやっているかのような印象を与える」などと抗議。
 森下俊三経営委員長代行(当時)は旧知の鈴木康雄郵政副社長(元総務事務次官)と密かに面談、郵政幹部の意を受けて経営委員会で番組攻撃を主導した。この議事録を、経営委員会は「自由な意見交換と多様な意見の表明を妨げるおそれがある」と非公表にしてしまった。

 「議事録隠し」が明るみに出たのは、1年後の2019年9月の「毎日」新聞スクープだった。この報道がきっかけで、その後多くのメディア・市民団体がNHK情報公開制度などを利用した議事録開示要求、森下辞任の運動を数年間繰り返したが、森下ら経営委員会は頑なに拒否し続けた。経営委員会の放送法違反を必死に隠し続けたと言われても仕方がない。
 2021年6月、しびれを切らした視聴者・市民110名余りが議事録開示と森下の責任明確化を求めて東京地裁に提訴、「NHK文書等開示請求訴訟」が始まった。裁判では森下側が「議事録を作っていない」と主張したため、2024年2月の一審判決では、議事録作成の基礎資料である「録音データの開示」と森下・NHK両者に損害賠償を命じた。原告全面勝訴の画期的判決だった。

 判決を不服として森下とNHKは控訴したが、原告側は一審勝訴判決を踏まえて「議事録開示」という本来の目的を達成すべく和解を提案した。控訴審では、森下らが主張を変え、これまで議事録と認めなかった「粗起こし」(2021年7月原告及びメディアにのみ開示)を「放送法41条所定の経営委員会議事録として作成したもの」と認め、NHKも認めた。
 こうして12月17日の和解成立に至った。和解条項は@被告森下とNHKが「稲葉NHK会長(当時)に厳重注意」した時の経営委員会議事録をNHKのホームページに公表し、A被告森下は原告らに解決金98万円を支払うというもの。これによって、隠されていた議事録は全面的に公表され、原告の完全勝利とも言える和解によって裁判は終結した。

 しかし、和解成立後18日の記者会見で稲葉NHK会長は、「かんぽ生命の問題を報じた当該番組に関して、放送の自主・自律、あるいは番組編集の自由が損なわれた事実はなかったと理解している」と答え、古賀信行現NHK経営委員長も「番組介入したという感じはほとんど受けていない」と述べた。これでは、NHKも経営委員会も和解条項を誠実に受け止めているとはいえず、経営委員会の番組介入が繰り返される危険は残ると言わざるを得ない。
           JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号




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