2025年06月19日

【寄稿】浦添西海岸に米軍軍港 那覇港の代替、60年代に計画 永久利用ねらい 環境アセス開始 真喜志 好一(沖縄平和市民連絡会共同代表)

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 2025年1月17日、「沖縄・琉球弧の声を届ける会」の第6回連続講座としてシンポジウム「浦添西海岸埋め立て問題を考える」が開かれた。パネリストは安部真理子(日本自然保護協会/保護・教育部主任)、鹿谷麻夕(しかたに自然案内代表/里浜22共同代表)、真喜志好一(建築家・沖縄平和市民連絡会)の三氏。安部、鹿谷両氏は浦添西海岸の海が本来の素晴らしいサンゴ礁環境を残していることをスライドで発表した。
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                  浦添西海岸の位置図
サンゴ礁が残る
豊かな自然の宝

 続けて4月12日に連続講座第7回が「市民の視点から浦添西海岸問題を考える」をテーマに開かれ、パネリストは銘苅全郎(浦添市港川自治会前会長)、明真南斗(琉球新報記者)、谷山博史(日本国際ボランティアセンター顧問)の三氏が務めた。
 浦添西海岸の豊かな自然を沖縄の宝として残すか、二つのシンポジウムで報告された美しい海中のビデオの記録を含む全記録がユーチューブにある。次の五つのキーワード「琉球弧の声/浦添西海岸/隠された真実 /第6回/第7回」をYouTubeで検索して視聴してほしい。
筆者(真喜志)はシンポでの発表の冒頭で、次のようにスライドで参加者に問いかけた。
「日米両政府の発表では、『那覇軍港を沖縄県民の要求で沖縄に返す。その代わりに浦添に軍港を作る』との説明だが本当だろうか?」
 2024年7月、米軍の軍港を浦添西海岸に建設するための環境アセスが始まった。だが、浦添西海岸への軍港の建設が、那覇軍港の移設・返還を進めることを目的とするのか、米軍文書がその真意を物語る。

米軍の本音隠す 
施設返還合意 
 
1969年6月-新都市調査沖縄-浦添軍港.jpg

            1969年6月、新都市調査沖縄―浦添軍港図
 キーワードを「沖縄防衛局/那覇港湾施設/移設」で検索すると環境アセスの最初の文書「計画段階環境配慮書」がヒットする。
 この文書の第2章、対象事業の目的を書き写す。
――昭和49年1月、日米両政府は日米安全保障協議委員会において、移設条件付きで那覇港湾施設(約57ha)の全面返還に合意した。平成7年5月には日米合同委員会において代替施設(約35ha)を那覇港浦添ふ頭地区(以下「浦添ふ頭地区」という。)内に移設することを合意した。――中略――本事業は、かかる経緯の下、浦添ふ頭地区の沖合の埋立により那覇港湾施設代替施設を整備し、那覇港湾施設の移設・返還を進めることを目的とする(傍線は引用者)ものである。――
 だが、現在の米軍の港湾利用は次の通りとなっている。〇兵員の休養のための寄港はホワイトビーチ〇弾薬の積み下ろしは天願桟橋〇コンテナの積み下ろしは安謝新港の国際コンテナターミナルで行われている。
つまり新たな軍港を作る必要はないのだ。

米軍の意図示す
文書掘り起こす

 このような疑問をもって99年7月に宮城悦二郎先生(04年没)を中心に「SACO合意を究明する県民会議」を立ち上げ、米軍の文書を掘り起こす作業が始まった。
米軍が米国のコンサル会社に依頼して69年6月に作成した「工業用地及新都市調査沖縄」がある。この文書の日本語版は琉球大学の付属図書館や沖縄県議会図書館にも所蔵されている。
この文書の中に、浦添のリーフ内の海底を浚渫し、その土砂でハッチング部を埋め立て、牧港補給基地の沿岸部に軍港を作る計画が図示されている(牧港港・MACHINATO PORT図参照)。


これらの浦添西海岸への軍港新設計画はその後どうなったか。70年5月、米軍の太平洋軍司令部が統合参謀本部に送った文書(英文)が沖縄県公文書館に保管されている。この文書には見落としてはいけない次の記述(別掲参照)がある。IN SUM,CONSTRUCTION OF A PORT FACILITY AT MACHINATO WOULD OPTIMIZE US LONG-TERM INTERESTS IN THE RYUKYUS.
 この文の和訳は――総体的に見てマチナト(牧港「まきみなと」の沖縄読み)の港建設によって、米国の琉球における長期的関係を最大限に生かせる――である。

深く広い軍港と
那覇港を交換へ

 つまり米軍の太平洋軍司令部から統合参謀本部に送ったこの文書は、「浦添西海岸への軍港建設によって、沖縄の軍事利用は永久に続けることができるので、牧港の軍港建設を日本政府に要求するように」と主張している。
 浦添西海岸に広くて深い軍港を新たに建設し、不要になる狭くて浅い那覇軍港を返すことが米軍の計画なのだ。
 浦添西海岸への軍港建設は米軍の占領が続くことになる。反対の世論を作ろう。
          JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年5月25日号
 

               
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2025年06月18日

【1票の格差訴訟】選挙権を住所によって差別する国 11ブロックの立法が人口比例選挙のカギ=一人一票実現国民会議運営委員 鶴本 圭子さん寄稿

 2024年衆院選(小選挙区)は、1票の最大較差が2.06倍の非人口比例選挙だった。それを不服として289小選挙区の全てで原告が立ち、全14高裁・高裁支部で人口比例選挙請求訴訟を提起した。結果は、全14高裁・高裁支部で合憲であった。

“主権の行使”
最高裁は認識

 日本は、国民主権国家である。「主権」とは、「国家の政治のありかたを最終的に決定する権力」と定義されている。
 最高裁は、国民の国政選挙の選挙権の行使は、国民の“主権の行使である”と捉えている。
 国民は、選挙当日に投票する各自の1票で、主権(「国家の政治のありかたを最終的に決定する権力」)を行使する。しかし、その1票の価値が、住所によって大きく差別されているのである。

「非」人口比例
日本の選挙だけ

 「主権」(「国家の政治のありかたを最終的に決定する権力」)は、内閣総理大臣(行政府の長)を指名することを含むので、【内閣総理大臣を指名すること】は、主権の行使に該当する。
 行政府の長(首相、大統領)を決定する選挙について言えば、主要5民主主義国家(米、英、独、仏、韓)は、すべて人口比例選挙又は概ね人口比例選挙である(上表参照)。
 川人貞史選挙区画定審議会会長(元衆議院議員)が述べる通り、格差2倍(衆院選)、格差3倍(参院選)の日本の非人口比例選挙は、「きわめて異質であり,世界標準の方法から逸脱」(強調:引用者)した異常な選挙なのである。

「合憲」性判断
基準を変えた

 裁判所は、これまで、選挙当日の投票価値の不均衡についての合憲性を判断してきた。しかし、今回の全高裁判決では、選挙当日ではなく、当該選挙の数年前に実施された国勢調査時の人口で判断し、選挙当日に2倍を超えていることは不問とした。
 国民は、選挙当日に投票する各自の1票で、主権を行使するにも拘わらずだ。

「1票の格差」
合理性ない

 今年7月の参院選でも格差3倍が続く。ここで注視すべきは、宮城県選挙区では、2013年参院選では格差2倍だったが、2016年、2019年、2022年の各参院選では格差3倍に悪化していることだ。当該悪化につき、具体的な理由は国会においても、判決においても示されていない。
 宮城県選挙区の1票の価値は、福井県選挙区の3分の1、つまり、0.33票分でしかない。「1票の格差は地方の声を届けるために合理性がある」と連呼する立法府やマスコミは、明らかに国民を誤導している。 

人口に比例は
11ブロック制

 最大判令和5年10月18日(参)は、「較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題」(強調:引用者)、「都道府県より広域の選挙区を設けるなどの方策…によって都道府県を各選挙区の単位とする現行の選挙制度の仕組みを更に見直すことも考えられる」(強調:引用者)と記述する。
「都道府県より広域の選挙区」とは、11ブロック制を含む。11ブロック制選挙では、全有効投票者の49.85%から全参院議員の50.1%(過半数)が選出されるので、 実質、人口比例選挙である。

 平成25(2013)年より、合区制もしくは11ブロック制の2択で議論が続いているが、合区制には根強い反対が報告されている。公明、維新、共産(ただし、10ブロック)、社民などは11ブロック案を提示している(公明案では最大1.13倍)。

日本の現状は
国難の只中だ

 全世界のGDPの中で、日本のシェアが、1995〜2023年の29年間で17.6%から4.0%に激減した。また、日本及び上記主要5か国で、1992〜2020年の29年間、国民一人当たり「平均賃金」が増加していないのは日本だけである。日本は、国難の只中にあると言えよう。
 この国難を乗り越えるためにどのような政治を選択するかは、主権者である国民に決定権がある。そして、その決定権の行使の手段は、「選挙当日の1票の投票以外にない」。

 衆院選については今年中、7月参院選についても来年秋には、最高裁判決がでるであろう。
日本が、憲法どおりの人口比例選挙の国になるか、世界的に異常な非人口比例選挙の国のまま固定してしまうのか、今崎長官他14人の最高裁判事の賢明さと勇気にかかっている。
          JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年5月25日号
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2025年06月17日

【Bookガイド】6月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

 ノンフィクション・ジャンルからチョイスした本の紹介です(刊行順・販価は税別)

◆小倉紀蔵『日本群島文明史』ちくま新書 6/11刊 1400円
 日本は、大陸文明的な実体系思考よりも、海に囲まれた群島文明的な非実体系思考が優勢である。そうした世界観から、日本文明が創り出されてきた。生命は偶発的なものという感覚や共同主観の構造、革新性をもたらす美意識などが展開され、そうした日本の歴史的動態を描きつつ、日本の群島文明を形成する東アジアの哲学を「通底哲学」として世界哲学の中に置き直す。日本の知の歴史を総合的に理解する、ユニークな著者独自の日本思想大全。
 著者は1959年生まれ。京都大学名誉教授。専門は東アジア哲学、比較文明学。編著に『比較文明学の50人』など。
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◆石井頼子『素顔の棟方志功─仕事と暮らし』淡交社 6/13刊 2200円
 棟方志功・歿後50年。志功の孫であり精力的に研究を続ける著者が、志功の名作誕生の背景や「素顔」「本質」を照らし出す。志功が昭和20年の疎開から約6年間も在住し、戦後の活躍の基礎となる精神的充実を得た富山県南砺市福光での日々の様子を活写する。これまで知られなかった棟方志功の人柄や世界観が浮き彫りにされる。
 著者は1956年東京都生まれ。棟方と生活を共にし、その制作風景に接しながら育つ。慶應大学を卒業後、棟方板画美術館に学芸員として勤務。2018年より南砺市立福光美術館特別専門員として棟方志功関連事業の後見と資料のアーカイブ化を担当。
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◆塩出浩之『琉球処分─「沖縄問題」の原点』中公新書 6/20刊 1000円
 琉球処分とは、日中の両属国家だった琉球王国を、日本が強制併合した政治過程をいう。1872年の琉球藩設置から「処分官」派遣、79年の警察・軍隊を動員した沖縄県設置、80年に強く抗議する清国との八重山分島交渉までを指す。国王は東京に送られ、島内では組織的抵抗が日清戦争まで行われる。本書は、併合の過程とその後を精緻に追い、清国や西洋諸国を巻き込み東アジアの新秩序をも形成した琉球処分の全貌を描く。沖縄の日本復帰から50年、「沖縄問題」を深く理解するうえで欠かせない一冊。
 著者は1974年広島県生まれ。東京大学卒、2016年琉球大学教授、2021年京都大学教授。
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◆今野晴貴『会社は社員を二度殺す─過労死問題の闇に迫る』文春新書 6/20刊 1050円
 2014年に過労死防止法が制定されたにも関わらず、減らない日本の過労死。実は「働き方改革」が労働強化と自己責任化を迫り、AI/テクノロジーの伸展が過労うつや自死を加速させている。労災の賠償金が企業内でコスト化され、その減額を争う訴訟では「命の値段」の差別化が進む。まさにディストピア的風潮がはびこっている。
 かつ会社のために働き命を落とした故人に対し、豹変した会社が遺族に加える故人への徹底的な侮辱と攻撃。過労死遺族からしばしば「私の夫は二度殺されました」という言葉の意味する非情な実態を暴き、多くの過労死事例とその後の訴訟経過を、長年にわたり追究してきた著者の渾身ルポ。
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◆大井朋幸『ボクは日本一かっこいいトイレ清掃員』岩波ジュニア新書 6/20刊 940円
 人生終わった! 思いがけずトイレ清掃の仕事を言い渡され、ウンコにまみれてウェウェする日々…。あることをきっかけに一念発起、「日本一かっこいいトイレ清掃員」を目指す。便器を手で磨き、床を這って雑巾がけ…。町中のトイレを綺麗に保つために奮闘する最高にピカピカなトイレ清掃員の感動の物語。年齢問わず必読!
 著者は1974年生まれ。小学校5年から高校卒業まで奥多摩町で暮らす。高校卒業後、料理人として働いた後、2017年、奥多摩総合開発に入社し公衆トイレ清掃の責任者に。清掃チームをOPT(オピト)と名付け、日本一きれいなトイレを目指して励む。2025年に株式会社オピトを立ち上げる。
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◆赤根智子『戦争犯罪と闘う─国際刑事裁判所は屈しない』文春新書 6/20刊 900円
 ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるパレスチナへの非人道的な攻撃─プーチンとネタニヤフに逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)。日本人として初めてトップに就任した著者は、プーチンから逆指名手配を受け、トランプ大統領からは日本への経済制裁の脅しをかけられる。世界規模の戦争犯罪に向き合ってきた国際刑事裁判所は、いま存続の危機にある。
 国際刑事裁判所とはいかなる機関か。その歴史を辿りつつ、「力による支配」がむき出しになっている今こそ、「法の支配」による安全保障・国際刑事裁判所の重要さを訴える。
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◆井上弘喜『アメリカの新右翼─トランプを生み出した思想家たち』新潮選書 6/26刊 1550円
 アメリカを乗っ取った「危険な思想」の正体を明かす!トランプ政権による国家改造の成否に関わらず、リベラル・デモクラシーへの不信感は決定的なものとなっている。左右両極の間で起きた思想戦争の内幕を追いながら、テック右派から宗教保守、ネオナチなどの思想家たちが、なぜリベラルな価値観を批判し、社会をどのように作り変えようとしているのか。それぞれの思考・行動を分析し、米国民の底流水脈を読み解く。
 著者は1973年生まれ。神戸大学教授。専門はアメリカ政治思想史。著書『アメリカ保守主義の思想史』(青土社)
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2025年06月16日

【オピニオン】米国依存 脱却のチャンス トランプ関税 ドル支配に影=志田義寧

 トランプ米大統領の関税政策を受けて大混乱に陥ったマーケット。その後、トランプ氏が柔軟姿勢を見せたことで落ち着きを取り戻したが、マーケットはその破壊的な手法に不信感を拭えずにいる。その不安が如実に現れたのが、連邦準備制度理事会(FRB)議長の解任騒ぎだ。トランプ氏が“禁じ手”をちらつかせたことで、米市場は株安・債券安・ドル安の「トリプル安」となった。

 ドル安は米国経済にとって必ずしも悪いことではない。ドル安で輸出増・輸入減になれば、貿易収支は改善する。実際、トランプ氏はかねてより米国の製造業に不利なドル高の動きに不満を募らせており、政権にとってドル高是正が隠れた政策目標であることは間違いない。しかし、今回のような「米国売り」は米国の繁栄を支えてきたドルの基軸通貨体制を揺さぶりかねないリスクをはらんでいる。筆者はドル基軸体制の維持とドル安志向は両立し得ないとみており、トランプ政権はいずれ、ドル基軸体制を維持するために、現実路線への修正を迫られるだろう。

 前号で筆者は、米国は貯蓄・投資バランスからみると投資超過(資金不足)であり、国の経済構造について触れず、貿易収支(経常収支)だけを取り上げて議論することに意味はないと指摘した。米国の貿易赤字の背景には、政府部門の赤字と民間部門の貯蓄率の低さがある。トランプ政権は政府効率化省(DOGE)を設置するなど財政赤字の削減に取り組んでおり、これは方向性としては正しい。しかし、やりすぎが米国の弱体化を招きかねない上、誤った関税政策や教育への締め付け、多様性の否定、SDGs(持続可能な開発目標)の後退など、米国離れにつながる政策も次々と打ち出しており、全体としてはまったく評価できない。

 トランプ氏が関税政策の理論的支柱にしているとみられるのが、大統領経済諮問委員会(CEA)委員長であるスティーブン・ミラン氏が2024年に発表した論文『国際貿易システム再構築に関するユーザーガイド』である。ミラン氏はこの論文で、ドルの過大評価が貿易不均衡の主因であるとし、関税政策とドル高是正で不均衡を解消する案を示している。

 確かにドルは国際決済に用いられる基軸通貨ゆえに需要が旺盛で、ドル高圧力がかかりやすい。ドル高は輸出減・輸入増に寄与するため、貿易収支は赤字になりがちだ。ただ、輸出国が受け取ったドルは米国に還流している。米国はこれで資金不足を解消しており、一概に悪いとは言えない。貯蓄超過国から投資超過国に資金が流れるのは当然であり、その資金は米国の力強い成長を支えている。

 ミラン氏らはドル高を是正するために、日本など輸出国が持つ米国債を100年満期の割引債に転換する奇策を披露した。これは一方的な条件変更であり、デフォルト(債務不履行)に他ならない。現状のような過激な政策は、ドルの信認を傷つけ、米国の繁栄を支えてきた資金流入を崩す可能性が高い。

 今の政策を推し進めれば、その先に待っているのはかつて栄華を極めた大英帝国と同じ末路だ。筆者はそうなる前に米国は軌道修正するとみているが、日本にとっては米国依存から脱却する良い機会でもある。金融政策や財政政策に過度に寄りかかった経済運営から成長政策への転換を図り、ゼロ%台にとどまっている潜在成長率を引き上げるべきだ。  
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年5月25日号
 

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2025年06月15日

【月刊マスコミ評・放送】非難に屈しなかったクルド取材番組=諸川麻衣

 4月5日にNHKが放送した『ETV特集 フェイクとリアル 川口 クルド人 真相』は、ヘイト言説を素材としながらジャーナリズムとSNSのあり方について深く考えさせる力作だった。

 埼玉県川口市とその周辺に約2000人が住むクルド人をめぐっては、2年前からSNS上で「治安悪化」「テロリスト」「偽装難民」「追い出せ」等の攻撃的な投稿が急増している。その数は累計2500万を超え、ヘイト・デモや脅迫、全くの虚偽の情報発信など、現実の人権侵害にもつながっている。
 NHKは専門家と協力して、投稿が盛り上がった話題を時系列で抽出、情報の真偽を検証した。そして、投稿急増のきっかけが23年4月の入管法「改正」問題だったこと、川崎市でヘイト宣伝が禁止された結果、そこで活動していた団体が川口を新たな活動場所にしたらしいこと、仮放免中の難民と在留資格を持つ人が混同されて非難されていること、「クルド人少女の万引」とされた動画が虚偽だったこと等を明らかにした。そして、真偽不明や虚偽の情報を発信する背景に、事実か否かよりも閲覧数が評価される「アテンション・エコノミー」(E・マスクのXの路線)、既成の組織ジャーナリズムへの不信から「自分こそ真のジャーナリスト」とする心理があることを指摘した。  

 番組は初回放送後、予定の再放送が見送られ、見逃し配信も中止された。NHKはその理由を明らかにしていないが、番組中でヘイト活動が放送された地元市議は「自分の動画をNHKが無断使用したので抗議し、再放送を中止させた」とSNSで豪語した。また産経新聞も、『産経ニュース』の画像が番組内で無断使用されたとネットで報じた(正当な引用の範囲内だったが)。さらに国会では、「NHKから国民を守る党」の浜田聡参院議員が、番組内容はクルド人寄りだと批判した。これに対しNHK側は「論争となっている問題は多角的に問題点を明らかにするように取り組んでいきたい」と答弁、記者会見でも「より取材を深めた上で、改めて伝えたい」と修正を示唆した。

 番組は結局5月1日に再放送された。数か所で説明が補強されたものの、ほぼ元の内容での再放送だった。これはNHKとして「番組に問題なし」と判断したということだろう。もし不当な非難に屈して大幅改変していたら、SNSの差別的言説にジャーナリズムが敗北する破滅的な事件になっていたところだった。   
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年5月25日号
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2025年06月14日

【フォトアングル番外編】「新しい戦前にさせない」シンポで各界著名人らが発言=5月27日、東京・文京区民センター=伊東良平撮影

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 5月27日、東京・文京区民センターで「新しい戦前にさせない」第16回の連続シンポジウムが開催された。第1部は7月の参議院選挙で自公を過半数割れに追い込むために、どのような政策の実現を望むのか―。主催の共同テーブル代表である評論家の佐高信さんはじめ和光大学名誉教授の竹信三恵子さん、日本体育大学教授の清水雅彦さんら6人が発言。第2部では各野党はどう受け止めたかの問いに対し立憲民主党、共産党、社民党の議員や新社会党候補者が提言された政策について見解を述べた。140名の参加者は熱い議論に聞き入っていた。
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2025年06月13日

【おすすめ本】 永野 慎一郎『秘密資料で読み解く 激動の韓国政治史』―韓国民が自らの闘いを通して 民主主義を勝ち取った軌跡=鈴木 耕(編集者) 

  昨年12月4日、韓国の尹(ユン)錫(ソン)悦(ニョル)大統領が突然、非常戒厳布告したのには、誰しも度肝(どぎも)を抜かれたに違いない。
 民主国家において、国内や周辺地域で特段の危機的状況が起きていないにもかかわらず、非常事態を宣言して軍隊を動かそうとしたのだ。だがそれは民衆の抵抗により阻止された。そして尹氏の逮捕、弾劾裁判、大統領失 職。いったい何が起きたのだろうか?
 私は本棚の「積読(つんどく)コーナー」から、いつか読も うと思いながら、埋もれていた本書を探し出してきた。今回の事態を理解するには、韓国の政治史から説き起こした本書は最適な教科書と思ったからだ。

 読みながら早く読んでおくべきだったと、「積 読」を後悔した。それほ ど今回の非常戒厳事件の深層を、理解するのに役立つ本だった。
 本書は一言でいうならば、韓国という国が民主主義を勝ち取るために辿った、厳しくも悲惨な、そして輝かしい闘いの軌跡を明らかにしている。

 悪名高い朴正熙軍事独裁政権が引き起こした政敵・金大中拉致事件、 また朴の夫人が狙撃されて死亡、さらに自身も側近だった情報部長に暗殺される。それが軍事独裁崩壊へ続くかと思いきや全斗煥軍事クーデター、軍事政権に抵抗した学生市民の蜂起が、あの凄惨な「光州事件」へとつながる。

 だが民主化を求める民衆の力は軍政を引き継いだ盧(ノ)泰(テ)愚(ウ)政権を引きずりおろし、やがて民主政権の誕生へと道を開く。
 その闘いの記憶が、韓国民をして、今回の尹錫悦の軍事クーデターを叩き潰したと言っていい。読めば血で勝ち取った、民主主義の尊さを実感する。現代韓国理解のための必読書である。
(集英社新書1000円)
         
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2025年06月12日

【JCJ声明】グレタ・トゥーンベリさんたちの拘束についてイスラエルに強く抗議する=JCJ事務局

  スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんが人権団体と協力して支援物資を届けるためパレスチナ自治区ガザ地区に向かっていた船が、6月9日イスラエル軍に拿捕されました。

 6月1日イタリアのシチリア島を出港した、グレタ・トゥーンベリさんらを乗せた船は、食料、乳児用ミルク、医薬品を積み、ガザ地区へ向けて地中海を進んでいました。しかし、ガザ地区周辺の海域はイスラエル軍が海上封鎖をしており、グレタさんらの乗った船を阻止するとしていました。

 ガザに向けて船を運航していた団体の声明では「不法に船に乗り込まれ、非武装の民間の乗船者が連れ去られた。粉ミルクや食料、医療品を含む救命用の貨物も押収された」としています。その上でイスラエル側の対応は国際法に違反すると非難しました。

 私たち日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、戦前の日本のメディアが軍部と歩調を合わせ、戦争を鼓舞した反省から「二度と戦争のためにペン、カメラ、マイクを握らない」との決意のもと活動をスタートさせました。それは国内だけはなく、世界でも平和を脅かす戦争をなくしていこうという思いにつながります。

 グレタ・トゥーンベリさんは「このミッションがどれほど危険でも世界全体が沈黙するほうがはるかに危険だ」「どれだけ不利益であっても、私たちは行動し続けなければならない。行動をやめた瞬間、人間性を失うことになる」と訴えています。

 私たちは、この呼びかけに少しでも応えることができるよう声をあげます。イスラエル軍のグレタさんらの拘束に強く抗議し、支援物資をガザ地区へ届けるよう求めます。

 ガザ地区ではイスラエル軍の攻撃で今も犠牲者が相次いでいます。地元当局は6月9日、アメリカ主導の財団による食料の配給場所の周辺で、配給が始まってからの2週間で130人以上が死亡したと発表しています。イスラエルに対して一刻も早くガザ地区への攻撃を中止するよう重ねて求めます。



                                  2025年6月10日     
                           日本ジャーナリスト会議(JCJ)
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2025年06月11日

【オンライン講演会】韓国新大統領の「政治力」を読み解く 対日政策は変わるのか 講師:五味洋治氏(ジャーナリスト)6月28日(土)14時から16時

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■開催趣旨
保守系与党「国民の力」から革新系最大野党「共に民主党」に政権交代した韓国。李在明(イジェミョン)新大統領は、「日本は敵性国家」などと過激な発言を繰り返したため「韓国のトランプ」とかつて呼ばれたが、今回の選挙戦では「実用主義」を打ち出した。現実路線が危機克服と成長発展の原動力だと訴えた。ゼロ成長もあり得る経済の立て直しと、保革で分断された社会の修復が内政の最大課題だ。外交面では、国交正常化60周年の日本や自国第一、トランプ関税の米国、台湾統一にこだわる中国、核・ミサイル開発を強化する北朝鮮、領土拡大の野心を捨てないプーチンのロシアとどう向き合うのかが問われる。朝鮮半島問題をウオッチするジャーナリストの五味洋治氏が読み解く。

■講演者プロフィール
五味 洋治(ごみ・ようじ)。1958年長野県生まれ。元東京新聞記者。ソウル、北京に駐在経験があり、2回北朝鮮を訪問。元専修大学非常勤講師。著書に『』父・金正日と私 金正男独占告白』(文藝春秋)、『朝鮮戦争はなぜ、終わらないのか』(創元社)、『世界史としての第一次大戦』(共著、宝島新書)などがある。現在はフリーのジャーナリストとして朝鮮半島問題を中心に取材している。6月20日『高容姫 「金正恩の母」になった在日コリアン』(文春新書)を刊行予定。

■参加費:500円
参加希望の方はPeatix(https://jcjonline0628.peatix.com)で参加費をお支払いください。(JCJ会員は参加費無料。office(アットマーク)jcj.gr.jp に支部・部会名を明記の上お申し込み下さい)

■主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)
    03–6272–9781(月水金の13時から17時まで)
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2025年06月10日

【横浜市再開発】「旧庁舎、不当な安値」本人訴訟の原告招き例会=神奈川支部

 歴史的な名建築の旧市庁舎を一部取り壊し、超高層ビルを建設する横浜市の再開発事業を不当とする訴えが市民から起こされている。JCJ神奈川支部は、4月26日横浜市内で例会を開き、「横浜市民の財産を守る会」の高田尚暢代表に話を聞いた。

 2020年6月に竣工した横浜市の新市庁舎は、高さ155m、32階の高層ビル。林文子前市長時代の2013年にそれまでの市庁舎から移転することが決定された。

庁舎建設の傑作
 横浜スタジアムに隣接し、JR関内駅前という好立地にある旧市庁舎は1959年に建てられた多くの近現代建築で知られる村野藤吾の設計で、行政棟と市会棟を「市民の広場」という空間で結んだ独創的な建築だ。「市民広場」には巨大なタイルレリーフの壁画が飾られ、大規模市庁舎建築の傑作と評価が高かった。

 19年1月には旧市庁舎街区の開発事業者が募集され、事業者は三井物産グループに決定した。20年12月には予約契約を締結、建物は7700万円で事業者に売却し、土地は月額およそ1777万円、77年間の賃貸借契約とされた。
 21年8月に行われた横浜市長選挙では、旧市庁舎問題が争点となった。当選した山中竹春市長は「契約価格を検証する」と発言したが、当選1か月後の9月30日に本契約に調印し、「契約価格は妥当」と方針転換した。

監査請求は棄却
 高田氏によると、住民訴訟すると決めたのは、20年12月に、開発計画の不当を先行して訴えていた横浜市議2名の裁判を傍聴したのがきっかけ。高田さんのグループも旧市庁舎が不当な安値で売却されるのを防ごうと21年3月に500名で横浜市に対し監査請求を行ったが棄却され、5月には旧市庁舎の売却と土地の貸し付けの契約差し止めを求めて86人で提訴した。
 しかし旧市庁舎街区の開発計画は進行し、市会棟と市民広場は解体され、敷地には高層ビルが建設、25年12月には完成する。

似かよう再開発
 原告の数の多い共同訴訟は裁判所との調整に時間が掛かる。弁護士を立てると多額の費用を要するため、本人訴訟とした。原告自身が準備書面を書くことで参加した市民の情報収集力や表現力等が養われる、と高田氏はいう。

 裁判で原告側は独自の不動産鑑定を提出し、建物の評価に壁画などの美術品が含まれないのは不当とする主張を展開している。
高田氏は少子高齢化で予想される将来の税収減を解決するため、行政は開発を促進するが、そうした開発はどこでも類似している。開発の骨子の決定に市民が関われず、市民が計画を知る頃には官民一体で計画が決定され ている、と指摘した。
 集会はZOOMでも中継され、会場参加者と合わせて42人が参加した。
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年5月25日号
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2025年06月09日

【沖縄リポート】沖縄の「復帰」とは何だったのか=与那覇恵子(沖縄・琉球弧の声を届ける会共同代表)

 5月15日、沖縄は「返還」から数えて53年目の「本土復帰」記念日を迎えた。1972年入学の私にとって、復帰の自覚は琉球大学がその年から国立になったことくらいだったかもしれない。
 だが、その日の土砂降りの雨は「沖縄の人々が流した涙だった」との表現は忘れられない。それは嬉し涙ではなく、怒りと悲しみの涙だった。
 人権無き米軍占領下の苦難に、救いを祖国と呼ぶ日本への復帰に求め、「基地なき平和な島」を夢見た人々は、米軍基地維持に自衛隊配備という日米政府の思惑による沖縄返還に裏切られた。

 いま復帰53年目の沖縄で、その日々は怒りと悲しみが増すばかりだが、それはすでに復帰時に、仲宗根勇『沖縄少数派─その思想的遺言』(三一書房1981年)が予言したことであった。
 その著から具体例を挙げる。
 「沖縄政治における中央志向性の増大」――各組織、政党、派閥の本土系列化で沖縄の政治は分断され独自の力を失っている。
 「企業と軍隊を主人とする沖縄島の要塞化という体制の長期的展望の実現」――辛うじて保たれていた沖縄の自然や伝統・文化の急速な喪失を実感するのは私だけではないだろう。
 日本の政府や企業の机上の計算による開発で、生物多様性に富む自然環境の破壊が進む。
 しかし他県と異なり、市民がどれほど反対してもそれが解決困難な理由は、辺野古・大浦湾や浦添西海岸、与那国の樽舞湿原(国指定鳥獣保護区)など、問題に経済利益の企業開発と相まって軍事が絡んでいることだ。
 「復帰を求める以上、日本の現実の国家構造からして安保復帰たらざるを得ないのは当然」――を噛みしめざるを得ない。

 日米共同作戦計画下、強行される軍事要塞化。迷彩色の自衛隊員が島々を闊歩し、中国狙いの長距離ミサイル配備が進む。復帰後の沖縄は「日本国軍=自衛隊の黒い力で息もできない地獄図絵にたたきこまれることが予想されている」。

 「台湾有事」で戦場となる再びの沖縄戦に怯える今、沖縄は大田知事や翁長知事が日本政府に問うた「沖縄は日本国民に入っていますか?」の答えを思い知らされている。
 しかし、信じたい。米軍占領下で培った抵抗の力を。沖縄を沖縄に返すために。
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年5月25日号
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2025年06月07日

【憲法大集会】3万8千人高らかに=古川 英一

 
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 憲法記念日、東京は前日の雨が上がって五月晴れになった。憲法を守る市民団体が今年も有明防災公園を会場に憲法大集会を開いた。旗やプラカードを掲げた市民が緑の芝生を埋めた。

 集会では、ノーベル平和賞を去年受賞した日本原水爆被害者団体協議会代表の田中煕巳さん=写真=が壇上に上がり「被団協が受賞したのは、この数年世界で核戦争の危機が高まり、もう一度その役割を果たしてほしいという願いの表れではないか」と述べた。そして「皆さん方が私たちのこれまでの努力を引き継いで核兵器も戦争もない世界になるよう広めてほしい」と訴えた。

 元官僚で政治経済評論家の古賀茂明さんは「日本国憲法には市民のつながりで平和を守っていこうという精神がある。トランプ政権のアメリカに対して、EUなど世界が離れていくなかで日本だけがアメリカにしがみついている。日本がどこに行くのかが問われているのが参議院選挙。政治を変え、憲法を復活させられるかどうか、大事な分かれ道だ」と述べた。さらに沖縄出身の大学生が「沖縄の犠牲の上に成り立つ平和はやめてほしい。沖縄は日本が変わらないと変わらない」と本土の責任に切り込んだ。

 最後に実行委員会から「戦後80年を迎え、安保法が市民を戦争へと突入させようとしている。いまこの動きをストップさせる、軍事ではなく、暮らし中心の予算を作る。それが7月の参議院選挙の大きな争点になる。主権者として、新しい歴史を作り憲法を豊かにしていこう」と行動提起があり会場が沸いた。
 青空の元での集会だったが、一方で政府は10年前に安保法を成立させてから、いまも学術会議の法人化や、サイバー安全保障法の制定を目指すなど軍拡への手を緩めていない。暗雲が平和を、憲法を脅かしている。主催側の発表で約3万8千人もが集まったのは、こうした危機感をヒリヒリと感じているからではなかったか。古川英一
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年5月25日号
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2025年06月06日

【映画の鏡】横浜市民の底力にスポット『The Spirit of Yokohama』市長選の年「街づくり」の在り方示す=鈴木賀津彦

 
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 5月初旬に開催された横浜国際映画祭で、横浜の多様な市民活動とそのつながりを捉えたドキュメンタリー作品『The Spirit of Yokohama』が披露された。映画ファンが集い興行的にも注目される映画が数多く上映された中、違った意味で異彩を放った「究極の地域映画」として注目した。

 横浜・元町で生まれ育ち、長年横浜の街づくりに関わってきた今年97歳の杉島和三郎さんにスポットを当てる。いわば市民活動の「つなぎ役」として、横浜の戦後復興でいかに市民の力が発揮されたかなどを説明する。その中で登場するのが多彩な市民活動。様々な市民団体が思いを語っていく。

 そんな街づくりの動きを、「他人事」と受け止めている人には「伝わりにくい」かもしれないが、当事者意識を持って観る人には横浜市民としての「誇り」が感じられるだろう。
 この映画の制作は、横浜市が打ち出した「カジノを含むIR=統合型リゾート施設」の誘致の是非を巡り大混戦となった4年前の横浜市長選の流れから生まれてくる。「カジノ反対」の市民運動が推した山中竹春氏が、誘致を推進した現職らを破り当選、カジノ誘致にストップをかけたのだ。

 カジノ構想を追いやった市民たちはその後、市政を市民の手に取り戻す取り組みを展開。カジノが計画された山下ふ頭周辺の街づくりを、市民の要求で創りだそうと「みんなの山下ふ頭に〇〇があったらイイナ」プロジェクトなどが動きだした。そこで旗を振ったのがプロジェクトのリーダー役の古澤敏文監督だ。
 そんな底流を感じ取ってほしい。6月14日からジャック&ベティで公開。
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年5月25日号
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