2024年12月14日

【Bookガイド】12月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

 ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)

川崎興太『福島の原風景と現風景―原子力災害からの復興の実相』 新泉社 12/9刊 3000円
「福島の原風景と…」.jpg 福島復興の光と影。時間の経過とともに福島原発事故はローカルな問題となり、忘却の忘却が進む。まるで事故はなかったかになりつつある。都市計画、コミュニティデザイン、社会学などの観点から、福島の復興に関する多彩な原風景と現風景を提示し、福島の問題を当事者として経験する手がかりを提供する。著者は福島大学教授、専門は福島の復興。
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小林真樹『深遠なるインド料理の世界』 産業編集センター 12/13刊 1800円
「深淵なるインド料理の世界」.jpg 甘いバターチキン、デカすぎるナン、流行りのビリヤニ。インド料理のルーツを求めて、インド亜大陸を東奔西走。元バックパッカーの著者が足繁くインドに通い、ディープなインド料理を求めて、隅々まで食べ歩いた、インドへの深い愛と溢れ出す知識を詰め込んだ食エッセイ。インド食器・調理器具の輸入卸業を主体とする有限会社アジアハンター代表。
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瀬川至朗編著『「忖度」なきジャーナリズムを考える』早稲田大学出版部 12/13刊 1800円
「忖度なきジャーナリズム…」.jpg 統一教会と政界の癒着、裁判所の事件記録廃棄問題、PFAS汚染、精神科病院の「死亡退院」、南米アマゾンの「水俣病」、新型コロナワクチンの健康被害、性加害問題などなど。権力や権威に屈することなく問題の本質を追い、他のメディアが報じなくてもニュースを伝え、固定化した社会に諦観せず小さな声に光を当てるジャーナリストたちの軌跡をたどる。早稲田大学・人気講座「ジャーナリズムの現在」に登場した9人の講義録。
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高世仁『ウクライナはなぜ戦い続けるのか─ジャーナリストが戦場で見た市民と愛国 』旬報社 12/16刊 1700円
「ウクライナはなぜ…」.jpg 「ここは私の国です―自由を失うわけにはいきません。私たちは政府も大統領もあてにしていません」─ロシアの軍事侵攻が始まって2年半以上、ウクライナの人々は兵士、民間人ともに現在も粘り強い抵抗を続けている。ボランティアとして、独自に兵士や激戦地の住民へ支援を行う者も少なくない。報道・ドキュメンタリー番組を数多く制作し現在はフリーの著者が、ウクライナを現地取材し戦う彼らの姿を伝える。
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江渕 崇『ボーイング 強欲の代償─連続墜落事故の闇を追う』新潮社 12/18刊 2200円
[ボーイングの…」.jpg 最新鋭旅客機はなぜ墜落したのか? アメリカ型資本主義が招いた悲劇に迫る。2018年にインドネシア、2019年にエチオピア、ボーイングの旅客機737MAXが立て続けに墜落。事故後、墜落原因となった新技術の欠陥が判明する。なぜアメリカを代表する企業は道を誤ったのか? 株主資本主義の矛盾をあぶり出し、日本経済の行く末を問うノンフィクション! 著者は朝日新聞記者。国際経済報道や長期連載「資本主義NEXT」を主に担当。
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朝日人文社会部編『ルポ 子どもへの性暴力』 朝日新聞出版 12/20刊 2000円
「ルポ子どもへの性暴力」.jpg 子どもが性暴力に遭う"場面"は身近に潜む。家庭、学校、サークルなどで頻発する実態に迫る。朝日新聞連載「子どもへの性暴力」は、大きな反響を呼んだ。その迫真のルポを書籍化。家族や教師による性暴力、痴漢や盗撮、JKビジネス、男児の被害、デートDV──、被害者たちが語ったこととは何か。誰も思い描けない、想像しえない現実の恐ろしさに身がすくむ。
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斎藤文彦『力道山─「プロレス神話」と戦後日本』岩波新書 12/24刊 960円
力道山.jpg 空手チョップを武器に外国人レスラーと激闘を繰り広げ、戦後日本を熱狂させた力道山。大相撲から、アメリカで大人気を博していたプロレスへ転じ、テレビの誕生・発展とともに国民的ヒーローとなった。神話に包まれたその実像とは。そして時代は彼に何を仮託したのか。1963年12月15日、力道山が刺されて39歳で死去するまでの軌跡を、長年にわたる取材の蓄積と膨大な資料を駆使して描き出す。著者は1962年生まれ、早稲田大学や筑波大学の大学院でスポーツ科学を学び、現在プロレスライター。
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永田浩三『原爆と俳句』大月書店 12/25刊 2800円
「原爆と俳句」.jpg 原爆を俳句で記録した人たちの軌跡をたどり、そこに込めた想いをすくいあげる。人類にとって、最も悲惨な原爆という重いテーマに対して、俳句がどのように向き合ってきたのか。原爆投下直後のヒロシマやナガサキで詠まれた俳句を通して、俳句で原爆を記録し、今も火種を絶やさずつなぐ人たちに、長年の取材を通して光をあてる。著者は武蔵大学教授(メディア社会学)。元NHKプロデューサー。
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2024年12月13日

【リレー時評】「リベラルな国際秩序」理念の実質化=吉原 功(JCJ代表委員)

 自民党・立憲民主党の党首選に続く衆院議員選挙、さらには米国の大統領選挙でこの夏から秋まで日本メディアは選挙報道に明け暮れた。衆議院選挙では自公政権が過半数割れ、米大統領戦ではトランプ元大統領が大方の予想に反して圧倒的勝利を収めて帰り咲いた。

 与党の過半数割れで日本の国会は従来のように閣議決定ですべて決まることはなくなるとの期待の声が高い。だが懸念もある。野党が全体的に保守側にシフトしており、主要野党の殆どが日米同盟を日本外交の基軸だと表明していることだ。メディアもそれが当然という風情で、安全保障問題、軍拡問題を争点として提起しなかった。

 米大統領戦では両候補の非難合戦ばかりが目についた。難民問題や関税問題、「もしトラ」などに注目が集まったが重要問題が素通りされたような選挙戦であり報道であったように思う。
 世界的に焦眉の問題はウクライナ戦争とガザからレバノンへと戦禍が拡大する中東問題だろう。この両者に米国は深く関わっているが大統領戦では、イスラエル支援を止めるよう求める若者たちの運動が拡がったものの、両陣営で政策を闘わせることはなかった模様だ。

 そのため日本のメディアでも米国との関連はほとんど報道していない。見落としがあるかも知れないが唯一の例外が11月1日放送のBS-TBS「報道1930」である。
 同番組は、米国がイススラエルに、この1年間で178億ドル(2.7億円超)の軍事支援をし、殺傷能力の高い武器の提供を続けてきたこと、それらの武器群が、多数の子ども、女性、市民を殺傷していることなどを明らかにしていた。和平努力の姿勢を見せながらジェノサイドの手助けを続けていることを、同番組としてもめずらしく明確に示したのである。
 大統領選での大混乱、ジェノサイドを支援する米国、フェイクを厭わない大統領の2度目の選出。日本はこのような国と同盟を結びさらにそれを深化しようとしている。

 ガザでのイスラエルの所業はかつて欧米諸国がアジア・アフリカ・ラテンアメリカで行ったことと同類であり、その所業を支援・支持する諸国も同じ国々である。これらの国々は未だにに植民地主義を克服してないことを暴露している。
「リベラルな国際秩序」は第二次世界大戦後、米国を盟主とし西側諸国が主導する民主主義・法治主義・人道主義などを旨とした国際的秩序を指す概念とされる。

 国際法に違反してパレスチナの地に、イスラエルの国家建設を強行したのも、建国後のイスラエルが国際法違反を繰り返していることを黙認してきたのもこれらの国々である。

 日本は、軍事同盟の強化に走るのではなく「リベラルな国際秩序」が掲げた理念を実質化する新たな国際秩序の確立に努力・貢献すべきではないろうか
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
 


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2024年12月11日

【国会前集会】「憲法を守れ」総選挙後初 2300人集会 安倍元首相襲撃裁判開かれぬ裏に 被爆国日本の国際的使命は=保坂 義久

 自公与党が過半数割れしてから初めての大集会『憲法変えさせない!戦争反対!今こそ平和と人権11.3国会大行動』が、11月3日に国会正門前で開かれた。主催者の開会挨拶に続き、野党3党の代表が発言した。

国会内は右ぶれ
軍拡懸念は続く

 社民党党首の福島瑞穂氏は、「自公過半数割れに追い込んだが、国会内は右ぶれしているともいえる」とし、「秘密保護法、共謀罪……重要土地規制法…」と法律名を並べて、平和憲法がいかに蔑ろにされているかを訴えた。さらに沖縄、南西諸島、九州における軍拡状況に懸念を示した。
 共産党書記局長の小池晃氏は、「与党敗北に共産党機関紙『赤旗』の裏金問題報道、2000万円の自民党非公認議員への配布報道が大きな役割を発揮した」が、「議席を減らしたことは重大な反省点」と語った
 立憲民主党の有田芳生氏は、「立憲民主党は50議席増だが、比例区では7万票しか増えていない。小選挙区では全国で147万票減らしている」と冷静に分析。「まっとうな野党とまっとうな労働組合と市民の力」で勝ち抜いていくと来年の都議選や参院選を展望した。
 次に「日韓和解と平和プラットフォーム運営委員会」と「在日ビルマ労働組合」からのメッセージが読み上げられた。

           参院選展望した冷静な分析も
市民の知る権利
侵害されている


 メインスピーチは、安全保障法制に反対する学者の会呼びかけ人の高山佳奈子氏。刑法が専門の高山氏は、安倍晋三元首相襲撃事件の裁判がいまだ開始されないことをあげ、複雑な組織犯罪でもなく、容疑者の責任能力もあると思われる事件が、3年近く開かれないことは異常だと指摘、市民の知る権利が侵害されていると語った。
 高山氏は安倍元首相襲撃の真相が明らかにされると不都合なのは旧統一教会。旧統一教会は今でも与野党の議員の選挙を手伝っているとした。高山氏は、「ある程度の年齢の人は、オウム真理教や旧統一教会の活動を知っているはず。それを知らないというのはウソをついているか、全く社会に関心がなく、政治家に向かない人」と皮肉をきかせて政治家の旧統一教会隠しを批判した。

学術会議の介入
拒否リスト存在
 また日本学術時会議の任命拒否についても、裁判が起こされてその公判手続きの中で、菅義偉政権の前の安倍政権の時から、この人物が選任されたら拒否すると名指ししたリストの存在が明らかになったと語った。ただ詳しい経緯は資料が黒塗りでわからないという。
 さらに国立法大学人法が改正されて、経済人を中心とした運営方針会議が学長よりも力を持つことなった。「国際法秩序の中で、被爆国日本に特別に課せられた使命は核軍縮を推進することだ」など、高山氏の論点は多岐にわたった。

住民の不安募る
オスプレイ配備

 スピーチの最後は、木更津と横須賀で運動している市民からの報告。
 まず自衛隊木更津基地でのオスプレイの機体整備と暫定配備に反対している護憲原水禁千葉県実行委員会の武藤美好氏が報告した。オスプレイの機体整備は、当初1機3、4カ月と説明されていたが実際には20カ月以上かかっている。オスプレイはこの2年間で4件の死亡事故を起こして、基地周辺住民は不安を募らせている。
 ヨコスカ平和船団の新倉裕史氏は自衛隊が導入を決めた巡行ミサイル・トマホークについて発言した。新倉氏は「トマホークは、今年1月にもイエメンの港湾施設に対して使用された。ヨコスカに配備されている米軍の11隻のイージス艦は全てトマホークが配備されている」とし、湾岸戦争以来、アメリカの軍事行動で使用され続けてきたトマホークの導入に警告した。
 最後の行動提起で参加者数は2300人と報告された
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
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2024年12月10日

【おすすめ本】信濃毎日新聞社編集局 編『鍬を握る 満蒙開拓からの問い』─国策が招いた悲劇の証言そして記録の継承へ=加藤聖文(駒澤大学教授)

 「満蒙開拓」と呼ばれ た国策によって、約27万人が満洲国へ開拓民として送り出された。
 そのうち3万3000人を送り出したのが長野県。全国最多である。しかも、その数は突出していた。熱狂と混迷が絡み合いながら進められた送出、敗戦時の集団自決と引揚の悲劇、さらには戦後の再入植から中国残留日本人の帰国問題にいたるまで、県内では満蒙開拓にまつわる歴史が、そこかしこ至る所に刻まれている。
 しかし、その長野県でも満蒙開拓の記憶の風化が著しい。生き残った元開拓団員も激減、残留孤児ですら80歳を超える現在、これからあの歴史にどう向き合っていけばいいのだろうか。

 戦後80年を前に出版された本書からは、長年にわたり満蒙開拓の歴史に向き合ってきた「信濃毎日新聞」の危機感と未来への意思が、ひしひしと伝わってくる。
 バランス良く配置された、さまざまな体験者の証言を基に、過去の歴史から現在なお残る問題、そして未来の課題と通時的に満蒙開拓を理解できる点で、最良のテキストとなっている。
 とはいえ、証言を積み重ねるだけで、満蒙開拓の実像が解明されるわけではない。
 あれほどの国策がどうやって推進され、人びとはどのように巻き込まれていったのか。それを解明するには文字に残された記録しかない。

 戦後80年は、満蒙開拓の歴史を明らかにし、後世へ伝えるものが、証言から記録へと変わる転機となろう。未だ各地には満蒙開拓の記録が眠っている。
 これらをいかにして後世へ伝えていくか。ジャーナリズムにとって新しい課題である。(信濃毎日新聞社1800円)
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(追記・編集部):本書は、2024年「第30回平和・協同ジャーナリスト基金賞」の大賞に選ばれた。反核や平和、人権擁護を推進する報道に贈られ、12月7日に贈賞式が行われた。
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2024年12月09日

【沖縄リポート】フェイクニュースを覆す勇気を=浦島悦子

            
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 10月27日の衆議院選挙は、自公が過半数割れの結果となったが、戦後3番目に低い53.75%という投票率は、自民党だけでなく政治そのものへの不信を反映しているのかもしれない。

 沖縄県内の投票率は全国よりさらに低く、50%を割り込む49.96%。4つの小選挙区の結果は、これまでと同様、オール沖縄系2対自民系2となり、自民党への支持の根強さ、あるいは辺野古新基地建設を巡る県民の「疲れ」を感じさせた。

 3区で小選挙区落選となった立憲の屋良朝博氏は比例復活当選、4区では、れいわの山川仁氏が比例復活当選した。4区の候補者選定を巡り折り合えなかった山本太郎・れいわ代表の「オール沖縄は終わった」という発言が批判を浴びているが、オール沖縄支持かられいわ支持に移った県民が一定数いることは無視できない。宮古・八重山を中心に爆発的に増強されていく自衛隊基地、ミサイル配備などに取り組めないオール沖縄への批判も耳にした。

 名護市小選挙区では、屋良氏が自民・島尻あい子氏に2300以上の票差で敗北。沖縄市・うるま市では屋良票が上回ったにもかかわらず、名護の票差が大きかった。自民党逆風の中で島尻氏が勝利したのは、建設業者がSNSで流布した「あい子が敗ければ、ジャングリアをはじめ、すべての事業がストップする」というフェイクニュースが大きく影響したのではないかとも言われている。
 今回の名護の結果は、1年余り(2026年1月)に迫った名護市長選に直接響いてくる。政権直轄とも言える現市政陣営は、同様のフェイクニュースで市民を洗脳してくるだろう。2300票の票差を覆すためには、フェイクニュースを覆す発信力と、新たな票(とりわけ若い層)を掘り起こし、投票率を上げることが何よりも必要となる。

 総選挙後、初めて行われた辺野古ゲート前県民大行動(11月2日、約750人参加)では、今回当選した国会議員たちも挨拶に立ち、「今後も現場のたたかいと連携した国会活動を行っていく」と決意を語った=写真=。

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2024年12月08日

【JCJリアル講演会】なぜ戦争を止められなかったのか ―― 戦後80年を前に 12月22日(日)13時30分から16時30分  東京しごとセンター地下2階講堂

■開催趣旨と呼びかけ
 今から83年前の12月8日の真珠湾奇襲攻撃が太平洋戦争の口火を切りました。当初は戦果に多くの国民が熱狂し、ほとんどのメディアが戦意高揚を煽り、そして4年後には敗戦を迎えました。なぜ戦争を止められなかったのか。そして戦争の実態はどのようなものなのか。JCJが8月集会に続いて開く12月集会は、こうした点にスポットあてて、皆さんと共に考えていきます。

第1部:基 調 講 演
 栗 原 俊 雄 さん(くりはら・としお 毎日新聞学芸部専門記者)
第2部:シンポジウム
 栗 原 俊 雄さん(同上)
 中 村 梧 郎(なかむら・ごろう JCJ代表委員)
 藤 森   研(ふじもり・けん JCJ代表委員)
 古 川 英 一(ふるかわ・えいいち JCJ事務局長・コーディネーター)
会  場: 東京しごとセンター地下2階講堂(飯田橋から JR ・大江戸線・有楽町線
     ・南北線・東西線、水道橋から JR、九段下駅から 東西線・半蔵門線・新宿線)
参 加 費: JCJ会員・一般共に 1,000円、学生 500円
     ※当日、会場受付でお支払い下さい
■登壇者プロフィール
●栗原 俊雄(くりはら・としお)さん
 1967年生まれ東京都出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒、政治学研究科修士課程修了。96年毎日新聞入社、2003年から東京学芸部。専門は日本近現代史、戦後補償史。著書に『東京大空襲の戦後史』(岩波新書)他。

●中村 梧郎(なかむら・ごろう)
 フォトジャーナリスト。ベトナム戦争を取材。元岐阜大学教授。第1回科学ジャーナリスト賞。ニューヨークでマグナム60周年招待展。ホーチミン戦争博物館で枯葉剤写真常設展示。著書『母は枯葉剤を浴びた』」(新潮、岩波現代文庫)『戦場の枯葉剤』(岩波)『記者狙撃』(花伝社)。JCJ代表委員。

●藤森  研(ふじもり・けん)
 1949年生まれ。東大卒。朝日新聞で社会部、朝日ジャーナル編集部、論説委員、編集委員など。司法、教育や残留孤児、霊感商法、ハンセン病などを取材した。年間連載「新聞と戦争」取材班キャップ。元専修大学教授。著書に『日本国憲法の旅』、共著に『刑法から日本をみる』『市民社会とメディア』『新聞と戦争』など。JCJ代表委員。

●古川 英一(ふるかわ・えいいち) 
 JCJ 事務局長・コーディネーター
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■会場参加される方は事前にJCJ事務局への連絡をお願い致します。
  メール:office@jcj.gr.jp 電話:03–6272-9781(月・水・金 13:00〜17:00)

■会場(東京しごとセンター地下2階講堂)アクセス
 (住所: 〒102‑0072 東京都千代田区飯田橋3丁目10番3号))
●飯田橋駅から
JR中央・総武線「東口」より徒歩7分
都営地下鉄大江戸線・東京メトロ有楽町線・南北線「A2出口」より徒歩7分
東京メトロ東西線「A5出口」より徒歩3分
●水道橋駅から
JR中央・総武線「西口」より徒歩5分
●九段下駅から
東京メトロ東西線「7番出口」より徒歩8分
東京メトロ半蔵門線・都営地下鉄新宿線「3a・3b出口」「5番出口」より徒歩10分
                                                                                                       
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2024年12月07日

【焦点】核実験 40年で456回 カザフ 被害者放置 若者自殺 小山美砂氏オンライン講演=橋詰雅博

 
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 2023年度JCJ賞受賞『「黒い雨」訴訟』(集英社新書)の著者で広島・長崎の被爆者実相を追求するジャーナリスト・小山美砂氏(JCJ会員)は、9月初旬に中央アジア、カザフスタンのセミパラチンスクで核被害の実態を取材した。カザフスタンは1991年に独立したがその前までは旧ソ連の構成国。旧ソ連はセミパラチンスクで49年から40年間で456回もの核実験を行った。カザフスタンは米ニューヨーク国連本部で来年3月に開催の核兵器禁止条約第3回締約国会議の議長国。小山氏らはこの機会にカザフスタン核被害の支援を日本に広げようと広島で市民団体を立ち上げた。クラウドファンディングなどで資金を集め小山氏自らセミパラチンスクに入った。10月26日JCJオンライン講演会でその成果を報告した。

実験場跡地で取材

 セミパラチンスクでの核実験のエネルギー総量は広島型原爆に換算すると、1100発分にも匹敵する。実験場は91年8月に閉鎖されたが、30年以上経過しても平常時の放射線量基準値(年間1ミリシーベルト以下)より8、9倍も高い跡地もある。小山氏は「実験場跡地のガイド役、原子力センタースタッフに『防護服は着なくていい』と言われ、内部被爆を防ぐためマスクとゴーグルはつけました。帰国後『やはり防護服も着とけばよかったかな』と不安な感情が残りました」と語った。
 核実験場周辺で暮らす村民クサイン・ヌルグルさん(74)は実験が繰り返さる度に地震のような揺れを体験。クサインさんは「私は貧血や頭痛、骨の痛み、高血圧に苦しんでいます」「薬代が高く、政府は支援してほしい」「病気を苦に自殺する若者は多い」と訴えた。核実験のキノコ雲を見たという村最高齢86歳の女性は「若い人がどんどん死んでいく。つらいのでもう葬式に行くのは止めた」「核実験の影響のせいだ」と話した。

弱体化の援助体制

 カザフスタン政府は日本の被爆者健康手帳のような「ポリゴン(ロシア語で演習場の意味)証明書」を認定した被爆者に発行している。証明書があると補償金、追加年金や休暇などがもらえる。これまで証明書は100万を超える人に渡されたが、近年は補償金が減額されたなど被害者援助体制が弱体化している。
 小山氏は「カザフスタン政府は国際的に核廃絶を打ち出しているが、国内の被害者を置き去りにしています」「日本の黒い雨の被爆者と状況が似ている」と指摘した。
2年前設立NGO「ポリゴン21」は、被害者救済に向けた新しい法律制定を求める運動を積極的に取り組んでいる。母親、2人の姉、兄、夫をガンで亡くしたマイラ・アベノヴァ代表(70)は、SNSで運動参加を呼びかけ数万人が賛同し、署名も5万筆集めた。

日本に求める支援

 地元の反核運動団体などが日本に求めているのは@治療ノウハウや病院建設など医療分野での支援、A日本の被爆者との連帯―などだ。小山氏は取材を踏まえて、日本の政府と市民社会は、世界の核被害者援助に対して果たせる役割があると指摘。核禁条約の枠組みにおいては、被害者救済に向けてカザフスタンとキリバスが「国際信託基金」の設立を目指しており、この行方も注目する必要があると話した。
 「3年後ぐらいに再訪し取材をさらに進めたい」と小山氏は述べた。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
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2024年12月06日

【連続シンポジウム】テレビを市民の手に NHK・民放改革迫る=編集部

 「テレビは報道機関の役割を果たしていない」「テレビは政府広報か」など、テレビ報道批判が絶えない中、NHKとメディアの今を考える会は立教大学砂川浩慶研究室の協力を得て「取り戻せ!テレビを市民の手に」を共通テーマとする連続シンポジウム開催した。

 第1回は「民放改革迫る新しい市民運動」と題して9月28日に開かれ、「テレビ輝け!市民ネットワーク」共同代表の前川喜平さんらが、テレビ局に市民の声をより広く反映させるために、6月のテレビ朝日ホールディングス株主総会で株主提案権を行使した経過について報告、講演した。
 その中で前川さんは、安倍政権以降、テレビメディアへの政治介入が進み、メディア自身にも忖度体質が拡大している状況を指摘した上で「民放、NHKともに本来の公共的使命を果たしていない。民主主義が正常に機能するためには、メディアと教育が欠かせない」と強調。市民ネットワークの杉浦ひとみ弁護士が「テレビはまだ信頼されている。ダメにしてはいけない。批判よりも応援をしていきたい」とエールを送った。

 連続シンポ第2回は10月13日、「公共放送NHKをめぐる二つの市民運動〜原点はETV2001番組改変事件〜」をテーマに開催された。
 集会では、当時NHKプロデューサーとして同番組を制作した永田浩三武蔵大学教授が、安倍晋三官房副長官(後、首相)の「意見」により、松尾武放送総局長から大幅な番組改変が指示された事実を明らかにし「憲法21条は『検閲はこれをしてはならない』と定めている。これを検閲と言わずして何と言おう」と改めて厳しく批判した。

 2005年にこの改変事件を告発した長井暁氏は「NHK職員はジャーナリズム活動をしたいのです。しかし、自民党はさせたくない。NHKの記者やディレクターの取材力が解き放たれたら、自分たちの不都合なことがどれだけ報道されろか分からないから、自分たちがグリップして置きたい」と、自民党の本音を指摘。市民、視聴者かもっと怒りの声を上げるべきだと強調した。
 同時に長井氏は「2023年のNHK会長選に前川喜平氏を推薦した市民運動の時は、NHK内部で、勇気を持って意見を寄せる職員も出て、少し光明が見えた」と報告した。
 また前川氏をNHK会長に推薦する運動は、短期間で4万6千筆を超える賛同署名を集めるなど盛り上がりを見せ、NHKに大きなインパクトを与えた。26年1月の次期会長選に向け、「NHKとメディアを考える会」としても前回を上回る大きな運動を実現しようと準備に入っている。
                 □
 もう一つの重要なテーマである「放送・通信独立委員会」方式に移行する問題については、砂川教授が「日本以外の先進各国や韓国、台湾でも、日本のように政府が放送免許を与える制度ではなく、表現の自由については極力政治が関与しないように、政府から独立した委員会が規制するシステムで進めるのが世界の流れで、日本は大きく遅れている」と現状の問題点を指摘。重ねて日本でも現行の放送制度を改革し「放送・通信独立委員会」実現を目指す取り組みを強めることが急務だと強調した。
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
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2024年12月05日

【裁判】NHK職場パワハラ 裁判から見えてきたこと いい加減な会社調査= 原田 勤(元埼玉新聞記者)

 こんなパワハラが報道機関の中でまかり通っていいのだろうか。迷った末に会社に訴えたが証拠が曖昧なものは再調査もせずに打ち切られた。そこで裁判に訴えたら、会社調査のいい加減さがさらに見えてきた。

 私は、埼玉新聞記者を定年退職後にNHKニュースウェブの校閲作業に就き今年で10年になった。所属する会社はNHKグローバルメディアサービス。デジタルニュース部門の非正規労働者である。職場の上司の部長(元NHK社会部記者)から2022年の4月に暴力を受け、その10月に認知症呼ばわりされた。

 暴力事件とは、校閲作業の補足資料の会社側の伝達不足によって生じた誤認(漢字とひらがなの使い分け)をめぐりNHKの作業現場にやってきた部長が難癖をつけ私の手を勢いよく払いのけた暴力行為である。

暴言は深夜帰宅のタクシー券の記載ミスの報告の際に起こった。私の説明を聞こうともせず「認知だ、認知だ、あなたは何を言っているか分からない。受信料をいただいてやっている仕事で、そんな重要な仕事をそんな人間にやらせているのかということになる。始末書だ、始末書」と叫んだ。話にならず憮然として私は会社事務室を出た。
 私はその後、日放労に相談したがうまく取り上げてもらえず一人加盟の民放労連放送スタッフユニオンに加入。翌23年に会社に訴え、4月に会社と団交を行った。

 会社は調査の結果、本人は「認知発言」は認めたが、暴力事件については発生日時の「その時間に現場に行った記憶がないと言っている」として「けん責」処分にとどめた。再調査の要求には応じず、「打ち切る」と宣言した。
 このため私は23年9月に部長に損害賠償、会社には使用者責任、安全配慮義務違反があるとして東京地裁に提訴した。
 この12月12日には第9回裁判で争点整理に基づいた審理に入る。

 私の最大の目的は会社のパワハラ防止規程の全面改正である。現行では全く防止の役割を果たしていないことを身をもって体験したからだ。 
 団体交渉では部長が「認知発言」につてどう言っているのか尋ねたが、会社側は「原田さんの言い分とは異なるがプライバシーもあるので答えられない」の一点張りだった。
ところが部長は裁判で主張を次のように明らかにしたのである。
 「言い方は穏やかであった。原告が苦笑いするのみで(タクシー券の)誤用の原因がはっきりしなかったため、思わず『それでも気づかないって、認知じゃないですか』と言ってしまった」。さらに「発言が穏当であれば原告は受忍すべきだ」とまで反論してきた。
 会社の調査にも同様の主張をしたに違いない。事実は私への侮辱、罵倒であり全く異なる。しかしこの結果が「けん責」なのである。

 暴力事件ではデジタル職場に通じるドアの職員証の通過記録を求めた。NHKは放送センター館内の通過記録の保存は1か月と答えたとの反論であった。本館の東西南北の玄関で入館チェックした者をさらに厳しくチェックし記録を保存する意味はないと考えているようだ。これでセキュリティーは確保されるとの主張だ。しかし、その中で私自身が「事件」に遭遇しており、発生から会社が調査するまで1年を要しているのである。

 団交で私は「人権について最も鋭く問われなければならない報道機関で起こった、NHK自身の問題だ」と指摘。会社の代表は「おっしゃるとおりだが現状はパワハラに限らずセクハラとかいっぱい起きている。なくそうと考えているが追いつかないのが実態だ」とはからずも吐露した。だとすれば裁判を延ばすのではなく大改革に着手すべきである。
*Change.orgで署名活動をお願いしています。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
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2024年12月04日

【フォトアングル】衆院選投開票日前日、野田代表最後の訴え=10月26日、池袋駅西口、伊東良平撮影

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 異例の短期決戦となった衆議院選挙の投開票日前日、東京10区の池袋駅前には立憲民主党の野田佳彦代表が最後の応援に立ち、政治とカネの問題が最大の争点として、「裏金政治を続けるのか根絶させるのか、政権交代をして裏だらけの政治を終わらそよう」と訴えた。街頭には多くの聴衆が集まり、大きな拍手が寄せられた。野田代表は演説後には選挙カーを下りて聴衆の中に入り、前列に並んでいた人たち一人ひとりに握手をしながら支持を呼び掛けた。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
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2024年12月03日

【おすすめ本】佐々木寛『市民エネルギーと地域主権 新潟「おらって」10年の挑戦』─水力発電への挑戦から政治改革へ=鈴木耕(編集者)

 元気が出る本です!読んでいると、よし、オレもいっちょやってみるか!という気分になってくるから不思議だ。本書は「おらって」(新潟地方の方言で「私たち」と いう意味)にちなみ<おらってにいがた市民エネルギー協議会>と名付けたグループの活動を、やわらかくそして面白く記述したもの。

 著者は新潟国際情報大学教授であり、国際政治学の研究者。あの2011年の福島原発事故の衝撃(それを著者は「第二の敗戦」と呼ぶ)から、エネルギーの民主化と地域主権を深く考えるようになり、地域循環共生圏という思想に行き着く。
 その考えを共有する人びとが集まり、やがて小水力発電への挑戦が始まる。そして「おらって発電所」は40カ所を超えるまでに拡大し、地域市民エネルギーとしては、例のない成功を収める。

 だが著者たちは、そこで立ち止まらない。エネルギー問題も含め、すべては「せいじ」と結びついていることに気づき、政治改革こそが根底にあるのだと思考は膨らんでいく。コロナ禍での文明転換、平和の希求にまで考えは及ぶ。
 こんな経過が易しく語られ、読むうちに、よしオレも頑張らなくっちゃ!となるのは必然だ。第5章「次世代とともに」に登場する若者たちが描く、希望に心が揺さぶられる。学問と運動がコラボした稀有な成功例といえる。
 今回の総選挙で、新潟の4選挙区は全て自民党が敗北した。その背景には、こんな市民たちの熱っぽい精神のエネルギーがあったことを思い知らされる本である。(大月書店1800円)
         
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2024年12月02日

【月刊マスコミ評・放送】出色のTBS『報道特集』=岩崎 貞明

 与党が過半数割れという歴史的な衆議院選挙になったのに、投票率は極めて低調。テレビの選挙報道も、盛り上がりに欠けたことは否めない。

 与党敗北の大きな要因は、やはり「しんぶん赤旗」のスクープ「裏金非公認に2000万円」だろう。自民党の二枚舌に有権者の怒りが爆発した格好だ。このニュース、新聞や民放各社はほぼすぐに後追い報道をしたが、なぜかNHKは『ニュース7』でも『ニュースウオッチ9』でも一切触れず、それなのに10月24日の『ニュースウオッチ9』は、各党党首の選挙戦を報じる中で、自民党の石破茂総裁が「(2000万円は)政党支部に出したもので非公認候補に出しているのではない」と街頭演説で弁明していたことだけを報じるという“掟破り”に出た。27日の開票特番では各局ともこの2000万円の問題を自民党議員らに生中継で質問したりしていたのだから、それだけ重大なニュースをちゃんと扱わないで報道機関としての看板を掲げられるのか、と首をひねりたくなる。

 民放の開票特番は、自民党系議員の「裏金ランキング」を見せたフジテレビや、議員に「裏金」マークを付けた日本テレビやテレビ朝日と、ちょっと悪ノリが目についた。テレビ東京は恒例の「池上無双」が出演せず。TBSは開票速報と日本シリーズ第二戦中継の合体特番で、ときには左右に並べた二画面放送だったが、これは選挙速報を見たい視聴者にもプロ野球ファンにも不満の残ったのではないだろうか。

 しかし、そのTBSでは、11月2日放送の『報道特集』が出色だった。低投票率の要因の一つにメディアの報道もあったことを検証した企画だ。
 20年前の「小泉郵政選挙」当時と今回とで、選挙公示日翌日の報道時間数を調査会社のデータに基づいて比較すると、ほぼ半分程度に減少していたという。これまでの間に自民党側からテレビ側にさまざまな圧力があったこと、その背景として政府が放送免許を直接掌握している問題があることなどを、砂川浩慶・立教大教授が解説。選挙期間中のテレビ報道が乏しいことは大学生らも指摘していた。ネット活用が奏功して議席を増やしたとされる国民民主党の玉城雄一郎代表はインタビューで、テレビの選挙報道が短時間なためキャッチフレーズ型の政治となる弊害を語っていた。

 こうしたテレビの自己検証で、問題点のありかははっきりした。それではこれを乗り越えるために一体どうするのか、来年の参院選報道が改めて問われることになる。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
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2024年12月01日

【月刊マスコミ評・新聞】検察を新聞は監視してきたか=六光寺弦

 検察が危機的状況だ。組織として壊れている。
 強盗殺人罪で死刑が確定していた袴田巌さんの再審無罪が確定するタイミングで、検察トップの畝本直美検事総長が10月8日に公表した談話は、そのことを如実に示した。再審手続きが長期化したことには「申し訳なく思う」と記したが、中心は無罪判断への批判。「それでも犯人は袴田さん」と後ろ指を差すに等しい内容だ。

 再審開始に至る中で検察側の主張は退けられていたのに、「敗者復活戦」と言わんばかりに有罪主張を維持したことも正当化。刑事司法の根本にある「無罪推定」や「疑わしきは被告人の利益に」の原則を、検事総長が否定したようなものだ。
 畝本検事総長は前職の東京高検検事長長当時には、自民党派閥パーティー券裏金事件の捜査を指揮。東京地検特捜部は、組織的な裏金作りの経緯や、不正な会計処理への政治家の関与を解明することなく、極めて甘いとしか言いようのない処分で捜査を終わらせた。
 自民党議員が多数を占める国会で「政治とカネ」の是正は望めないからこそ、民意も徹底捜査を期待したのに、検察はいとも簡単に裏切った。
 さかのぼれば、森友学園への国有地払い下げや、安倍晋三元首相側の「桜を見る会」の会計処理など、政治絡みの疑惑では検察は腰が引けた姿勢が際立っていた。

 とどめは元大阪地検検事正による部下への性的暴行だ。10月25日の初公判では事後、口止めを図っていたことが明らかになった。被害者は会見し、検察組織内でセカンドレイプにさらされたことも証言した。
 問われるべきは第一に検察自身だが、強大な権限を持っているからこそ独立の立場が重んじられる組織。そこに新聞が検察を監視する意義があるが、役割を果たしているだろうか。
 袴田さんの無実を否定する内容の検事総長の談話を、新聞各紙は一斉に「謝罪」と報じた。
 裏金事件では、各紙は捜査の動きを追うことばかりに熱心だった。端緒が「しんぶん赤旗」の調査だったことに触れた新聞もほとんどなく、報道には検察礼賛の色彩すら感じられた。
 検察の極限までの腐敗は、新聞が監視と批判を怠ってきたことの裏返しではないか。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
       
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2024年11月30日

【焦点】機密保持資格者の身辺調査「SC制度」運用基準案公表、筆者は本紙6月6日号記事でプライバシー侵害の恐れと警告、パブコメで反対の声を=橋詰雅博 

 政府は11月26日、経済安保に関する重要情報の保全(経済安保新法)を目的に、公務員や民間人を国が身辺調査し、信頼ができると認めた人だけが情報を扱う「セキュリティー・クリアランス(SC、適性評価)」の運用基準案を明らかにした。
 同案によると、同意を得た評価対象への質問票は35ページで、アルバイトを含む職歴や渡航歴、精神疾患の有無、飲酒の節度、外国の金融機関口座の保有、家族・同居人の国籍、配偶者の父母らの国籍などを書き込む。私生活に踏み込み、プライバシー侵害の恐れがある内容だ

 筆者は6月に「知る権利とプライバシー侵害、経済安保新法、秘密保護法と一体運用、身辺調査拒めば不利益も」と題した記事を本紙に掲載している。(https://blog.seesaa.jp/cms/article/edit/input?id=503555257

 取材したSC制度に詳しい海渡双葉弁護士は「候補者名簿に載せることに同意しない、調査を拒む、適性がないとされたら働いている今の部署から異動になる。出世コースから外れた、居づらい、合わない仕事を押し付けられるなどの理由で退職もあり得ます。不利益な扱いを受け人生設計がくるう。人権侵害です」と述べている。
 SC制度は意見募集(パブコメ)を経て来年1月にも閣議決定する。関連法が成立後、5月までに施行される。
 海渡弁護士はこう語っている。
「反対運動を拡大させることが重要です。運用基準案についてパブリックコメントが実施される。パブコメに問題点を書き込む。世論の強い反対によって使いづらい法律≠ノ変えることはできます」
諦めてはダメだというのだ。
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