導入当初に想定していたほどの効果は発揮しなかった−−−−。日銀は過去25年間の金融政策を評価した「金融政策の多角的レビュー」で、黒田東彦総裁(当時)のもとで実施した量的・質的金融緩和(異次元緩和)について、効果が限定的だったことを認めた。当然だ。黒田総裁が打ち出した「2年で2%の物価上昇」を達成できなかったのだから、それを手放しで評価する方が無理がある。ただ「全体としてみれば、わが国経済に対してプラスの影響をもたらした」と前向きな見方も示した。筆者はこの結論には賛成できない。
今後の副作用
経済学者警戒
日本経済新聞は1月18日付朝刊で、経済学者47人を対象とした日本経済研究センターとの共同アンケート調査結果を掲載した(回答は46人)。それによると、日銀のこのプラス評価が妥当か否かについては、ほぼ半数の49%が「どちらともいえない」と回答した。「どちらともいえない」と答えた経済学者の間では、今後の副作用を警戒する意見が目立ったという。筆者も同意見だ。足元では円安などの副作用の影響がどこまで広がるかまだ分からず、その分析を抜きにして結論を出すのは時期尚早だ。
円安は輸出企業にとってはプラスとなるが、輸入物価の上昇が直撃する中小企業や家計にとってはマイナスでしかない。レビューは円安と異次元緩和との関連については言及を避けたが、物価上昇2%を目指した無理な緩和が影響した可能性は否定できない。為替は現在も円安水準で推移しており、交易条件悪化の一因になっている。負の影響は当面続くだろう。
資産バブルを
生んだ低金利
筆者は異次元緩和について、@無理な2%目標にこだわった結果、過度な円安を招いたA低金利のぬるま湯が長く続いたことで「ゾンビ企業」が増加し、経済の活力を削いだB日銀が大規模に国債を買い入れたことで財政規律の緩みにつながったC首都圏マンション価格の上昇など局所的な資産バブルを生んだ−−−−などの問題点があったと認識している。
黒田総裁は異次元緩和導入時の会見で「資産バブルが膨れ上がるという懸念は持っていない」と強調したが、2023年に東京23区で売り出された新築マンションの平均価格は1億1483万円となり、初めて1億円を超えた(不動産経済研究所調べ)。24年は若干下がったものの、依然として1億円台をキープしており、もはや庶民が買えるレベルではない。価格高騰の背景には人材不足や資源高などがあるが、低金利も一因になっているのは間違いない。
Bについても検証が必要だ。レビューでは「金融政策の目的は物価の安定であり、政府による財政資金の調達支援が目的の財政ファイナンスではない」と日銀の主張を繰り返したが、異次元緩和では財政ファイナンスと受け止められても仕方がない直接引き受けに近い金融市場調節(オペ)も実施した。そうした姿勢が財政規律の緩みにつながった可能性も否定できず、この分析を避けて異次元緩和は評価できない。
2%物価目標
すべての元凶
筆者はすべての元凶は日本の実態に合わない2%の物価目標にあると判断している。レビューは引き続き2%の物価目標のもとで金融政策運営をしていくことが適切との方針を示したが、無理な目標がもたらした弊害は指摘した点以外にも多岐にわたる。将来、同じ過ちを繰り返さないためにも、これらの副作用から目を背けてはならない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
2025年03月18日
【追悼】元JCJ代表委員 桂 敬一さん逝去を悼む 深い洞察、鋭いメディア批判 広範な活動=吉原 功(JCJ代表委員)
鋭いメディア批判で警鐘を鳴らし続けた桂敬一さんが、1月19日逝去された。89歳。会うは別れのはじめというけれど、半世紀以上の知古を頂いた者としてはやはり辛い。
最初の出会いは1960年代初頭。新聞協会に訪ねたとき、桂さんは同協会新聞研究所のホープとして光輝いていた。「君ね、研究ばかりじゃダメだよ、運動もしなきゃ!」。この言葉を研究者、そして組合のリーダとして実践していた桂さんは、同研究所所長を経て、東大新聞研の教授になり活動の場を広め深めた。JCでは精力的にジャーナリズムのあり方や課題について提言。JCJ賞選考委員代表も担われた。97年には代表委員に就任。2004年春まで7期にわたり務めた。
ソ連圏崩壊の90年代初頭、桂さんは城戸又一先生とともにパリに視察に来られ、研究休暇中でかの地にいた私はお二人と楽しい貴重な時間を持つことができた。1930年代、東京日日新聞の欧州総局長としてパリを拠点に大活躍した城戸先生の話を聞きながらモンマルトル界隈を3人で散策したことは忘れられない思い出た。「このカフェでね、ハンガリーから亡命してきたキャパがドアーボーイをしていたの。で僕のライカをあげてね、カメラマンになりなさい、と言ったんだ」と城戸先生。
先生が青年知識人たちに呼びかけてフランスのナチス化をいかに防ぐかを議論したのがこのカフェ、つまりフランス人民戦線の発祥の地でもあった。スペイン内乱取材の話もお聴きした。桂さんと私はジャーナリストのあるべき姿を目の当たりにしたのである。
帰国して数年後の96年、桂さんは、石川真澄、斎藤茂男、鳥越俊太郎、門奈直樹、安江良介といった錚々たるメンバーとの連名で「市民とマスコミに携わる人たちとの連帯を考える当面の行動目標」と題するアピールをJCJ6月集会に提起した。その全文は同年7月号の「ジャーナリスト」に掲載されているが、「ジャーナリズム精神の衰退」を克服・復権しようという、今でも、むしろ今こそ読み返し議論すべき呼びかけである。
その後、雑誌「世界」で2008年に始めたコラム「メディア時評」は鋭い筆鋒が多くの読者を引き付け長期連載となった。筆者名の神保太郎は実はペンネームで数人のメンバーの集合名。その中心が桂さんだった。
桂さんは2019年『メディア、お前は戦っているか』(岩波書店刊)の「まえがき」で「集合知」という言葉ひいてジャーナリズムには「集合知」が必要だ」と説いた。
戦後80年の今こそ、私たちには桂さんの所説・提言を学び直し、実践していくことが問われているのではなかろうか。合掌
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
2025年03月17日
【お知らせ】世田谷区史編さん争議解決報告集会(リアル・オンライン参加併用)4月5日(土)14時半から16時半 エデュカス東京地階会議室=出版部会
本年1月7日、世田谷区史編さんをめぐる争議が解決しました。解決にご尽力いただいた多くの方々に心より感謝します。
今回の解決では、和解文書に「著作者人格権の尊重」が明記された点に最大の意義があります。全国の自治体史にかかわる人々、歴史研究者はもとより、フリーランス・クリエーターの権利にも大きな影響を与える内容です。この闘いの意義について、皆様と共有したいと思います。
下記の要領で解決報告集会を開きますので、お誘いあわせの上、ご参加ください。(オンライン+リアル:どちらもお申し込みが必要です)
■日時:4月5日(土)14時開場
■場所:全国教育文化会館エデュカス東京地階会議室(千代田区二番町12-1/地学会館の隣) 最寄り駅は、JR市ヶ谷駅、地下鉄麹町駅
■参加費:1000円(リアル、オンライン参加とも)
■共催:出版ネッツ、世田谷区史のあり方について考える区民の会
■お申し込み
・オンライン参加 https://nets-setagaya.peatix.com/view
・リアル参加 https://forms.gle/qNRy3FxRdTipmoRp8
※申し込み締め切り:3月28日(金)18時
※リアル参加では、二次会の申し込みも受け付けます(参加費は別途当日徴収)
争議の経過についてはブログ御所巻に掲載 https://setagayakushi-chosakuken.hatenablog.com/
今回の解決では、和解文書に「著作者人格権の尊重」が明記された点に最大の意義があります。全国の自治体史にかかわる人々、歴史研究者はもとより、フリーランス・クリエーターの権利にも大きな影響を与える内容です。この闘いの意義について、皆様と共有したいと思います。
下記の要領で解決報告集会を開きますので、お誘いあわせの上、ご参加ください。(オンライン+リアル:どちらもお申し込みが必要です)
■日時:4月5日(土)14時開場
■場所:全国教育文化会館エデュカス東京地階会議室(千代田区二番町12-1/地学会館の隣) 最寄り駅は、JR市ヶ谷駅、地下鉄麹町駅
■参加費:1000円(リアル、オンライン参加とも)
■共催:出版ネッツ、世田谷区史のあり方について考える区民の会
■お申し込み
・オンライン参加 https://nets-setagaya.peatix.com/view
・リアル参加 https://forms.gle/qNRy3FxRdTipmoRp8
※申し込み締め切り:3月28日(金)18時
※リアル参加では、二次会の申し込みも受け付けます(参加費は別途当日徴収)
争議の経過についてはブログ御所巻に掲載 https://setagayakushi-chosakuken.hatenablog.com/
2025年03月16日
【沖縄ジャンプナイト】歴代知事 突破口探る 沖縄タイムス部長 「地域外交」解説 問題解決能力欠く政府
JCJ沖縄ジャンプナイトは2日、第33回オンラインイベントを開いた。沖縄タイムス編集局の福元大輔政経部長が「沖縄県の地域外交」と題して講話。玉城デニー沖縄県知事が主要政策として掲げる地域外交の現在地と、その背景について語った。
県の「地域外交」を報じた沖縄タイムス紙面
玉城知事提唱
「三つのD」
2018年に初めて知事選に立候補した玉城知事。その出馬会見で表明したのが自身の政策の根幹となる「三つのD」だった。ダイバーシティー(多様性)、デモクラシー(民主主義)、ディプロマシー(外交)だ。福元さんは「玉城氏は当初から辺野古新基地建設を止める手立ての一つとして地域外交を考えていた」とする。
2期目の23年県庁内に地域外交室を創設。翌24年には、県がもともと香港や上海などアジア7カ所に構えていた海外事務所などを統合し「地域外交課」とした。
一方「外交は国の専管事項」と言われ、玉城知事の地域外交に批判的な報道もある。
地方自治法1条2項に国が行う事務として「国際社会における国家としての存立に関わる事務」と明記されていることを根拠にしたものだが、福元さんは地域外交課が他県にも存在すると指摘。「地方自治法は国と地方の立場を対等と定めるものであり、そもそも外交を国の排他的な権限で進めることを想定したものではないのでは」と見た。
沖縄の特殊性
米基地問題に
沖縄県の地域外交の特殊性は「基地問題にある」と強調。知事による直接の訪米外交は復帰後初の保守系知事の西銘順治氏(在任期間1978〜90年)から始まっていることを紹介した。
以降、大田昌秀、稲嶺恵一、仲井真弘多の歴代知事は訪米を繰り返し、その時々に基地問題の解決を米国政府に求めている。
福元さんは「米軍普天間飛行場の返還は大田知事時代に表明されたが、最初に普天間の返還を要請したのは西銘知事だった」と指摘。「沖縄の基地問題で大きな方向性が示される背景には歴代知事による外交の積み重ねがある」とした。
玉城知事の地域外交の特徴としては、基地問題だけでなく経済や平和交流もともに推進するという姿勢があるという。@東アジアの緊張緩和A県産品のアピールB沖縄の技術貢献―の3点が玉城県政の掲げる外交目標とした。
パラオの排他的経済水域(EEZ)内での漁業実現や、韓国・済州島との友好都市連携など経済・平和交流面では一定の成果があった。一方、基地問題に関する「玉城外交」の評価は割れているという。
政治日程優先
政府事件隠蔽
福元さんは沖縄の知事が外交を推進せざるを得ない背景に、日本政府の問題解決能力の欠如と、本土メディアの無関心を挙げる。
昨年判明した米兵による少女の誘拐暴行事件は日米の政治日程を優先する政府によって半年近くも県民に隠されてきた。「政府による情報操作があからさまになっている」と批判。同時に「半年もの間、事件について県内メディアが気づけなかったことはもちろんだが、官邸を取材する本土メディアからも報道がなかったことも深刻だ」と問題視した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
2025年03月15日
【リレー時評】沖縄戦から80年「この国」の現実は=金城正洋(JCJ沖縄世話人)
沖縄は旧暦で各種行事を行う。今年の旧正月は1月29日だった。県内各地の漁港では漁業者(ウミンチュ)たちが航海安全と豊漁、家族の健康を願い、漁船に大漁旗を掲げるのが習わしだ。
旧正月のころ台湾や中国、香港など中華圏は新年の「春節」。ベトナムは「テト」。韓国、東南アジアも新年に沸く。民族の大移動といわれる春節。沖縄も海外の観光客であふれている。
カンヒザクラ(緋寒桜ともいう)の淡いピンクの花が青空に映える中、初春の沖縄の風物詩・プロ野球の春季キャンプも真っ盛り。どの球場も県内外からのファンで連日賑わいをみせている。
「球春」で沸く沖縄。今年は住民を巻き込んだ沖縄戦から80年が経とうとしている。東京大手や各県問わずマスメディアでは80年を振り返る記事が動き出した。不思議なのは沖縄を含め一部に例外はあるものの、そのほとんどが戦争終結を起点とした「戦後80年」モノで埋め尽くされている感があることだ。
そもそも「戦後」とは何なのか。戦後という前提には「戦前・戦中」という時代があった。それは第二次世界大戦に至る前の15年戦争であり、忘れてはならないこの国の負の歴史である。
1945年以前にこの国が何をし、自国、他国を含めてどれだけの尊い命が失われたのか。物心ついた80年前の10歳の子は90歳になる。戦争体験の記憶は風化していく。しかし、糸満市摩文仁の「平和の礎」に刻銘された24万人余りの犠牲者の名前は、戦争の歴史を問い続けていくだろう。
ところがだ。「台湾有事は日本の有事」「南西諸島防衛」「住民避難計画策定」とか先走り、台湾に行って勇ましく「戦う覚悟」までぶち上げて「戦意高揚」に行きつこうとする勢力が台頭。戦後80年の「この国」の現実でもある。
「戦う覚悟」とは台湾は中国と戦え、台湾の後ろには日米同盟が控えているという意味だろう。他国への干渉は国際法上ご法度だが、台湾と中国の戦争をけしかけるようなモノ言いはもってのほかではないか。
戦場は東京圏から遠く離れた台湾に近い沖縄諸島。だから沖縄諸島に自衛隊基地を造ったとでも言いたいのかと勘ぐってしまう。沖縄をウクライナやパレスチナのガザ地区などと同様の戦場にしようとでも考えているだろうか。軍需産業への支援だろうか。浮かれている場合ではない。
この国の保守陣営が息巻く「中国憎しと台湾有事」という点に関し、果たしてアメリカは動くのか。大国アメリカと大国中国が真正面からぶつかることはあり得ない。それは第三次世界大戦への出口の見えない終わりの始まりであることを、米中とも熟知しているはずだからだ。
戦後80年、さび付いたこの国の指導者たちに対抗するのは、戦争のない平和と自由と平等を諦めない気構えだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
旧正月のころ台湾や中国、香港など中華圏は新年の「春節」。ベトナムは「テト」。韓国、東南アジアも新年に沸く。民族の大移動といわれる春節。沖縄も海外の観光客であふれている。
カンヒザクラ(緋寒桜ともいう)の淡いピンクの花が青空に映える中、初春の沖縄の風物詩・プロ野球の春季キャンプも真っ盛り。どの球場も県内外からのファンで連日賑わいをみせている。
「球春」で沸く沖縄。今年は住民を巻き込んだ沖縄戦から80年が経とうとしている。東京大手や各県問わずマスメディアでは80年を振り返る記事が動き出した。不思議なのは沖縄を含め一部に例外はあるものの、そのほとんどが戦争終結を起点とした「戦後80年」モノで埋め尽くされている感があることだ。
そもそも「戦後」とは何なのか。戦後という前提には「戦前・戦中」という時代があった。それは第二次世界大戦に至る前の15年戦争であり、忘れてはならないこの国の負の歴史である。
1945年以前にこの国が何をし、自国、他国を含めてどれだけの尊い命が失われたのか。物心ついた80年前の10歳の子は90歳になる。戦争体験の記憶は風化していく。しかし、糸満市摩文仁の「平和の礎」に刻銘された24万人余りの犠牲者の名前は、戦争の歴史を問い続けていくだろう。
ところがだ。「台湾有事は日本の有事」「南西諸島防衛」「住民避難計画策定」とか先走り、台湾に行って勇ましく「戦う覚悟」までぶち上げて「戦意高揚」に行きつこうとする勢力が台頭。戦後80年の「この国」の現実でもある。
「戦う覚悟」とは台湾は中国と戦え、台湾の後ろには日米同盟が控えているという意味だろう。他国への干渉は国際法上ご法度だが、台湾と中国の戦争をけしかけるようなモノ言いはもってのほかではないか。
戦場は東京圏から遠く離れた台湾に近い沖縄諸島。だから沖縄諸島に自衛隊基地を造ったとでも言いたいのかと勘ぐってしまう。沖縄をウクライナやパレスチナのガザ地区などと同様の戦場にしようとでも考えているだろうか。軍需産業への支援だろうか。浮かれている場合ではない。
この国の保守陣営が息巻く「中国憎しと台湾有事」という点に関し、果たしてアメリカは動くのか。大国アメリカと大国中国が真正面からぶつかることはあり得ない。それは第三次世界大戦への出口の見えない終わりの始まりであることを、米中とも熟知しているはずだからだ。
戦後80年、さび付いたこの国の指導者たちに対抗するのは、戦争のない平和と自由と平等を諦めない気構えだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
2025年03月14日
【Bookガイド】3月の“推し本”=萩山 拓(ライター)
ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)
◆鈴木エイト『統一教会との格闘、22年』角川新書 3/10刊 1040円
なぜ22年間、一人で追い続けられたのか。2002年、街頭で偽装勧誘活動を偶然、目撃したのをきっかけに、統一教会とかかわるようになった著者。さまざまな嫌がらせ、脅迫、圧力を受けながらも、世間に衝撃を与えた組織の実態を追究し、メディアや多くの人々に訴えてきた貴重な記録である。
著者は1968年、滋賀県生まれ。ジャーナリスト。著書『自民党の統一教会汚染』(小学館)でJCJ大賞を受賞。
◆藍原寛子『フクシマ、能登、そしてこれから─震災後を生きる13人の物語』婦人之友社 3/11刊 1500円
災害大国で生きる全ての人へ届けたい。東日本大震災から14年、能登半島地震から1年。それぞれが語る被災体験の貴重な内容は、命と生活を守るための「痛みを伴う教訓」である。内外の被災地を歩く福島在住の国際ジャーナリストが贈る待望のルポ。著者は福島県生まれ。福島民友新聞記者を経てJapan Perspective Newsを設立。阪神・淡路大震災、東日本大震災で支援、取材活動を重ね、能登半島地震では直後から被災地に通い、被災者の様子を伝えた。日本外国特派員協会の2024年報道の自由賞受賞。
◆椎名 誠『哀愁の町に何が降るというのだ。』本の雑誌社 3/12刊 1800円
装いも新たに『哀愁の町』のメンバーが登場! 新設の荒くれ高校での沢野ひとしとの出会いから、同級生たちとの椿事の数々、瀕死の重傷を負った交通事故での入院、年上人妻との初体験、克美荘での共同生活、そして新生活への旅立ちまで、44 年後の目線で、これまで書けなかったエピソードを中心に、昭和の若者の日々を描き直した傑作。哀感と追憶、入り混じるヒューマンな筆致が心を揺さぶる。
著者は1944年、東京生れ。「本の雑誌」編集長を経て、旅と食の写真エッセイと著書多数。
◆河崎秋子『父が牛飼いになった理由』集英社新書 3/17刊 1000円
『ともぐい』で直木賞を受賞した著者は、10年にわたって自然や動物と対峙する作品を書き続けきた。実家は父・崇が「脱サラ」し開業した<河ア牧場>。なぜ、父は牧場経営を始めたのか。その謎を辿るため戦国時代からの家系図を遡る。金沢で武士だった先祖、満洲で薬剤師をしていた祖父、満洲から大阪、そして北海道へと移り住んだ父、そして牧場経営の苦労を背負った祖母と母……。
400年以上に及ぶファミリーヒストリーが、20世紀の日本と戦後の北海道の酪農史へと繋がっていくノンフィクション。
◆笹田昌宏『鉄道「幻」巡礼』イカロス出版 3/18刊 2000円
ヒグマに怯えながら北海道の山中で捉えた未開業のコンクリート橋梁、都会の真ん中で切れ切れの姿となった貨物高架橋、戦時中に蒸気機関車を隠すために掘られた機関車避難壕、一般客は乗れなかった「幻」の寝台客車の特別潜入回想、そして一度は完成しながら解体されて姿を消した九州の連続高架橋…。日本全国に散在する「幻」の鉄道、そのリアルな姿を実踏に基づいて解き明かす。
著者は1971年、大阪府生まれ。医師。作家。第10回旅のノンフィクション大賞受賞。著書に『廃駅。』『日本の保存車100 感動編』など。
◆後藤正治『文品−藤沢周平への旅』中央公論新社 3/24刊 2300円
あの「静謐な物語と文体が体内の深い部分に触れてくる感触である。空洞をふさいでくれる…折もあった。癒されていたのかもしれない」と、著者は言う。歳月が持つ哀しみ、自分なりの小さな矜持、人生への情熱、権力の抗しがたい美味と虚しさ。時代小説を舞台に、静謐な文体で人の世の「普遍」を描き続けた作家・藤沢周平。ノンフィクションの名手が、その人と作品の魅力に迫る。
著者は1946年、京都市生まれ。ノンフィクション作家。『遠いリング』で講談社ノンフィクション賞、他に『奇蹟の画家』など。
◆小林美穂子+小松田健一『桐生市事件─生活保護が歪められた街で』地平社 3/28刊 1800円
生活保護を受給する人数が10年で半減の桐生市。そこで何が起きていたのか。保護費を毎日1000円だけ手渡し、残りは金庫にしまうなど、信じがたい運用が発覚した。桐生市の生活保護行政の暗部を暴く。助けを求める市民を威圧し、支給を徹底的に削る姿勢が、次第に明らかになっていく。支援と取材の現場から迫ったルポルタージュ。
著者の女性は、群馬県出身、生活困窮者の居場所「カフェ潮の路」主宰。共著者は東京新聞前橋支局長を経て出版部在籍。24年6月に「地域・民衆ジャーナリズム賞2024」受賞。
◆鈴木エイト『統一教会との格闘、22年』角川新書 3/10刊 1040円
なぜ22年間、一人で追い続けられたのか。2002年、街頭で偽装勧誘活動を偶然、目撃したのをきっかけに、統一教会とかかわるようになった著者。さまざまな嫌がらせ、脅迫、圧力を受けながらも、世間に衝撃を与えた組織の実態を追究し、メディアや多くの人々に訴えてきた貴重な記録である。
著者は1968年、滋賀県生まれ。ジャーナリスト。著書『自民党の統一教会汚染』(小学館)でJCJ大賞を受賞。
◆藍原寛子『フクシマ、能登、そしてこれから─震災後を生きる13人の物語』婦人之友社 3/11刊 1500円
災害大国で生きる全ての人へ届けたい。東日本大震災から14年、能登半島地震から1年。それぞれが語る被災体験の貴重な内容は、命と生活を守るための「痛みを伴う教訓」である。内外の被災地を歩く福島在住の国際ジャーナリストが贈る待望のルポ。著者は福島県生まれ。福島民友新聞記者を経てJapan Perspective Newsを設立。阪神・淡路大震災、東日本大震災で支援、取材活動を重ね、能登半島地震では直後から被災地に通い、被災者の様子を伝えた。日本外国特派員協会の2024年報道の自由賞受賞。
◆椎名 誠『哀愁の町に何が降るというのだ。』本の雑誌社 3/12刊 1800円
装いも新たに『哀愁の町』のメンバーが登場! 新設の荒くれ高校での沢野ひとしとの出会いから、同級生たちとの椿事の数々、瀕死の重傷を負った交通事故での入院、年上人妻との初体験、克美荘での共同生活、そして新生活への旅立ちまで、44 年後の目線で、これまで書けなかったエピソードを中心に、昭和の若者の日々を描き直した傑作。哀感と追憶、入り混じるヒューマンな筆致が心を揺さぶる。
著者は1944年、東京生れ。「本の雑誌」編集長を経て、旅と食の写真エッセイと著書多数。
◆河崎秋子『父が牛飼いになった理由』集英社新書 3/17刊 1000円
『ともぐい』で直木賞を受賞した著者は、10年にわたって自然や動物と対峙する作品を書き続けきた。実家は父・崇が「脱サラ」し開業した<河ア牧場>。なぜ、父は牧場経営を始めたのか。その謎を辿るため戦国時代からの家系図を遡る。金沢で武士だった先祖、満洲で薬剤師をしていた祖父、満洲から大阪、そして北海道へと移り住んだ父、そして牧場経営の苦労を背負った祖母と母……。
400年以上に及ぶファミリーヒストリーが、20世紀の日本と戦後の北海道の酪農史へと繋がっていくノンフィクション。
◆笹田昌宏『鉄道「幻」巡礼』イカロス出版 3/18刊 2000円
ヒグマに怯えながら北海道の山中で捉えた未開業のコンクリート橋梁、都会の真ん中で切れ切れの姿となった貨物高架橋、戦時中に蒸気機関車を隠すために掘られた機関車避難壕、一般客は乗れなかった「幻」の寝台客車の特別潜入回想、そして一度は完成しながら解体されて姿を消した九州の連続高架橋…。日本全国に散在する「幻」の鉄道、そのリアルな姿を実踏に基づいて解き明かす。
著者は1971年、大阪府生まれ。医師。作家。第10回旅のノンフィクション大賞受賞。著書に『廃駅。』『日本の保存車100 感動編』など。
◆後藤正治『文品−藤沢周平への旅』中央公論新社 3/24刊 2300円
あの「静謐な物語と文体が体内の深い部分に触れてくる感触である。空洞をふさいでくれる…折もあった。癒されていたのかもしれない」と、著者は言う。歳月が持つ哀しみ、自分なりの小さな矜持、人生への情熱、権力の抗しがたい美味と虚しさ。時代小説を舞台に、静謐な文体で人の世の「普遍」を描き続けた作家・藤沢周平。ノンフィクションの名手が、その人と作品の魅力に迫る。
著者は1946年、京都市生まれ。ノンフィクション作家。『遠いリング』で講談社ノンフィクション賞、他に『奇蹟の画家』など。
◆小林美穂子+小松田健一『桐生市事件─生活保護が歪められた街で』地平社 3/28刊 1800円
生活保護を受給する人数が10年で半減の桐生市。そこで何が起きていたのか。保護費を毎日1000円だけ手渡し、残りは金庫にしまうなど、信じがたい運用が発覚した。桐生市の生活保護行政の暗部を暴く。助けを求める市民を威圧し、支給を徹底的に削る姿勢が、次第に明らかになっていく。支援と取材の現場から迫ったルポルタージュ。
著者の女性は、群馬県出身、生活困窮者の居場所「カフェ潮の路」主宰。共著者は東京新聞前橋支局長を経て出版部在籍。24年6月に「地域・民衆ジャーナリズム賞2024」受賞。
2025年03月13日
【支部リポート】福岡 障害ある人にも映画を 「みらいシネマ福岡」設立=白垣 詔男
2021年度にJCJ賞を受賞した、植村隆さんの裁判を中心に描いた映画「標的」の監督・製作を務めた福岡支部会員・西嶋真司さんが、昨年末、「すべての人生に映画の感動を」と銘打って特定非営利活動法人「みらいシネマ福岡」を設立した。
同法人の創立趣意書には「私たちが暮らす社会には様々な人々がいます。この社会は多数を占める健常者に都合のいいように造られてきました。視覚障がい者や聴覚障がい者にとって、映画館で映画の感動に接する機会は決して多くありません。…(この団体は)音声ガイドや字幕を利用して、障害がいがある人もない人も、すべての人が一緒に映画を楽しむ『ユニバーサル映画』を拡めるNPO法人です」とある。
上映会では、映画監督や俳優、知識人らを招きトークショーも行う計画だという。同時手話通訳や音声認識によるトーク内容を表示して、誰もが製作者や出演者らの生の姿と話に接することができ、映画の感動が、より深いものになるようにすると意欲を見せる。会場は、今年はすべて、福岡市中央区の福岡市科学館のホール(300人収容)で、近く公式ホームページを開設して、参加予約ができるようにするという。
既に、監督の森達也さんや是枝裕和さんには、これからの上映会への来場、スピーチをするよう依頼して快諾を得ているという。
初企画は5月5日(月・祝)の「港に灯がともる」。阪神淡路大震災の翌日に生まれた在日3世の女性・灯をめぐるストーリー。
その後、1〜2カ月に1回、映画会を予定している。既に8月16日(土)に計画している、第二次世界大戦末期、東京都品川区の保育士たちが幼い園児たちと集団で疎開し、東京大空襲の戦火を逃れた「疎開保育園」の実話を描いた「あの日のオルガン」上映会には、平松恵美子監督(山田洋次監督の下で助監督・脚本を担当、日本アカデミー賞優秀脚本賞を何度も受賞)と主演・大原櫻子さんの出演が決まっている。12月には、中村哲さんを描いた「荒野に希望の灯をともす」を、中村さんの命日・4日に合わせて追悼上映する予定だ。
西嶋さんは「背景の違う様々な人々が映画を通して他者を知り、お互いを尊重する場が生まれる。思いやりや優しさにあふれた、開かれた社会の実現を、この団体を通じて目指したい」と意欲を話す。白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
同法人の創立趣意書には「私たちが暮らす社会には様々な人々がいます。この社会は多数を占める健常者に都合のいいように造られてきました。視覚障がい者や聴覚障がい者にとって、映画館で映画の感動に接する機会は決して多くありません。…(この団体は)音声ガイドや字幕を利用して、障害がいがある人もない人も、すべての人が一緒に映画を楽しむ『ユニバーサル映画』を拡めるNPO法人です」とある。
上映会では、映画監督や俳優、知識人らを招きトークショーも行う計画だという。同時手話通訳や音声認識によるトーク内容を表示して、誰もが製作者や出演者らの生の姿と話に接することができ、映画の感動が、より深いものになるようにすると意欲を見せる。会場は、今年はすべて、福岡市中央区の福岡市科学館のホール(300人収容)で、近く公式ホームページを開設して、参加予約ができるようにするという。
既に、監督の森達也さんや是枝裕和さんには、これからの上映会への来場、スピーチをするよう依頼して快諾を得ているという。
初企画は5月5日(月・祝)の「港に灯がともる」。阪神淡路大震災の翌日に生まれた在日3世の女性・灯をめぐるストーリー。
その後、1〜2カ月に1回、映画会を予定している。既に8月16日(土)に計画している、第二次世界大戦末期、東京都品川区の保育士たちが幼い園児たちと集団で疎開し、東京大空襲の戦火を逃れた「疎開保育園」の実話を描いた「あの日のオルガン」上映会には、平松恵美子監督(山田洋次監督の下で助監督・脚本を担当、日本アカデミー賞優秀脚本賞を何度も受賞)と主演・大原櫻子さんの出演が決まっている。12月には、中村哲さんを描いた「荒野に希望の灯をともす」を、中村さんの命日・4日に合わせて追悼上映する予定だ。
西嶋さんは「背景の違う様々な人々が映画を通して他者を知り、お互いを尊重する場が生まれる。思いやりや優しさにあふれた、開かれた社会の実現を、この団体を通じて目指したい」と意欲を話す。白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
2025年03月12日
【映画の鏡】国家に「棄権」を命じられ『TATAMI』スポーツと政治の関係を鋭く問う=伊藤良平
2033 Judo production L.L.C. All Rights Reserved
柔道の国際大会でイランの選手は優勝を目前に政府からイスラエル選手との対戦を避けるために棄権を命じられる。この映画は実話に基づいた金メダル候補の柔道選手の不屈の戦いを描いた作品で
ある。
ジョージアで行われている女子世界柔道選手権でイラン代表のレイラは60キロ級のトーナ メント戦に出場して勝ち進んでいく。2回戦に勝利するとイラン政府が、けがを装って棄権しろと柔道チームの監督とレイラ選手に圧力をかけてくる。もしイスラエル選手と対戦して負けることになったらイランのメンツが失われることになるからだ。
これは2019年8月に日本で行われた世界柔道選手権に出場したイランの男子柔道選手サイード・モラエイに起こった実際の事件を基にしている。この大会でモラエイは敵対するイスラエル選手との試合を棄権するようにと政府に圧力をかけられた。もしこれを拒否すれば国家への反逆となる。勝利をめざして練習を重ねてきた選手にとって試合途中で棄権を余儀なくされることは、いかに国の方針だとはいえどのような心中であろうか、現実にはなかなか切り離されることがないスポーツと政治の問題に焦点をあて問いかける。
またこの作品はイラン出身監督とイスラエル出身監督による共同演出であることも興味深い。この作品はイランに秘匿で制作されて、参加したイラン出身者は全員亡命したという。モノクロで描かれる迫力ある試合のシーンとその裏側で行われる駆け引きも見どころの一つだ。
第36回東京国際映画祭で審査委員特別賞と最優秀女優賞を受賞。2月28日より新宿ピカデリーほか全国順次公開
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
2025年03月11日
【焦点】東電元副社長2人無罪確定 最高裁・東電・巨大法律事務所癒着の極み=橋詰雅博
本日3月11日は、福島第一原発事故から14年目を迎えた。この原発事故について最高裁判決は「国の免責」を認めた。最近では、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣3人らの上告審でも、3月6日、「10メートルを超える津波を予測できたと認めることはできない」と、検察官役の指定弁護士の上告を退け、武黒一郎と武藤栄の両元副社長の無罪が確定した。勝俣恒久元会長は昨年10月に死亡し、起訴が取下げられている。
判決を下した最高裁第2小法廷の岡村和美裁判長と草野耕一裁判官は、東電と関係が深い巨大法律事務所出身だ。岡村裁判官の出身は、東電株主代表訴訟の東電側代理人の長嶋・大野・常松法律事務所(弁護士532人所属)。第2の裁判長を退官した菅野博之弁護士は顧問を務める。草野裁判官の出身は弁護士650人を擁する日本最大規模の西村あさひ法律事務所。判事就任前は事務所の共同経営者で、事務所顧問の元最高裁判事は東電の依頼で最高裁に意見書を提出。しかも事務所弁護士は東電の社外取締役だ。
被害者参加代理人は、審理を担う草野裁判官は、東電と利害関係があり、公正な裁判を妨げるとして3月21日の定年退官後に判断することを求めた意見書を3月3日に最高裁に提出していた。結局、聞き入れられなかったのだ。ちなみに第3小法廷の渡邉惠理子裁判官も長嶋・大野・常松法律事務所の共同経営者だった。
2024年度JCJ賞受賞『東電の変節』(旬報社)の著者のジャーナリスト・後藤秀典氏は昨年11月30日のオンライン講演でこう話した。
「(取材した)巨大事務所のベテラン弁護士は『(巨大事務所出身の)最高裁判事は正義とかということにあまり見解を持っていない。人権や正義のことに全然関心がない』と言っていました」「司法修習を終えた弁護士志望者の第一希望は巨大事務所への所属です。高給が約束されていますので決まったら大喜びするそうです」
後藤氏の取材に対し澤藤統一郎弁護士はこう述べた。
「特定の巨大法律事務所が最高裁裁判官の供給源となり、同時に最高裁裁判官の天下り先ともなっている。こうして形成された最高裁と巨大法律事務所とのパイプを中心に、巨大法律事務所が、裁判所、国、企業の密接な癒着構造を形作っている。司法の独立の危機は、新たな段階にある」
深まる癒着構造は、判決をねじ曲げ司法の信頼を失うことになる。
判決を下した最高裁第2小法廷の岡村和美裁判長と草野耕一裁判官は、東電と関係が深い巨大法律事務所出身だ。岡村裁判官の出身は、東電株主代表訴訟の東電側代理人の長嶋・大野・常松法律事務所(弁護士532人所属)。第2の裁判長を退官した菅野博之弁護士は顧問を務める。草野裁判官の出身は弁護士650人を擁する日本最大規模の西村あさひ法律事務所。判事就任前は事務所の共同経営者で、事務所顧問の元最高裁判事は東電の依頼で最高裁に意見書を提出。しかも事務所弁護士は東電の社外取締役だ。
被害者参加代理人は、審理を担う草野裁判官は、東電と利害関係があり、公正な裁判を妨げるとして3月21日の定年退官後に判断することを求めた意見書を3月3日に最高裁に提出していた。結局、聞き入れられなかったのだ。ちなみに第3小法廷の渡邉惠理子裁判官も長嶋・大野・常松法律事務所の共同経営者だった。
2024年度JCJ賞受賞『東電の変節』(旬報社)の著者のジャーナリスト・後藤秀典氏は昨年11月30日のオンライン講演でこう話した。
「(取材した)巨大事務所のベテラン弁護士は『(巨大事務所出身の)最高裁判事は正義とかということにあまり見解を持っていない。人権や正義のことに全然関心がない』と言っていました」「司法修習を終えた弁護士志望者の第一希望は巨大事務所への所属です。高給が約束されていますので決まったら大喜びするそうです」
後藤氏の取材に対し澤藤統一郎弁護士はこう述べた。
「特定の巨大法律事務所が最高裁裁判官の供給源となり、同時に最高裁裁判官の天下り先ともなっている。こうして形成された最高裁と巨大法律事務所とのパイプを中心に、巨大法律事務所が、裁判所、国、企業の密接な癒着構造を形作っている。司法の独立の危機は、新たな段階にある」
深まる癒着構造は、判決をねじ曲げ司法の信頼を失うことになる。
2025年03月10日
【シンポジウム】「原発と司法」問う 再推進呼び込んだ 最高裁判決を正せ=寺西俊一(一橋大学名誉教授/日本環境会議理事長/ノーモア原発公害市民連代表世話人)
去る1月26日(日)の午後、明治大学の駿河台キャンパス・グローバルフロントにて、「日本環境会議」(JEC)主催、「ノーモア原発公害市民連絡会」(以下「市民連」)と「6・17最高裁共同行動実行委員会」(23団体参加)の協賛による<公開市民シンポ 第2弾!>「原発と司法−いま私たちに問われていること」(会場参加約200名弱、オンライン視聴100名余)が開催された。これは、昨年(2024年)6月16日(日)の午後、同じく明治大学の駿河台キャンパス・リバティホールにて開催した「巨大地震と原発―司法のあり方を問い直す」という<公開市民シンポ 第1弾!>(会場参加約400名弱)に続くものであった。ここで、私たちが「司法のあり方」や「原発と司法」に焦点を当てているのはなぜなのか?、ごく簡単に説明しておけば、そこには、次のような経緯と背景がある。
周知のとおり、2011年3月の福島原発事故から14年目を迎えようとしているが、この間、数多くの原発関係訴訟が各地で争われてきた。そうしたなかで、2022年6月17日、福島原発事故による損害賠償訴訟の上告を受けた最高裁第二小法廷の判決(「6・17最判」)が出された。だが、その判決は、国が仮に規制権限を行使したとしても原発事故は避けられなかった、だから「国に責任はない」という、きわめて不当なものであった。しかも、この「6.17最判」以降、その後の日本政府は、「原発再推進」へと明らさまな政策転換を行い、たとえば2025年度からの「第7次エネルギー基本計画」素案でも「最大限活用」を前面に打ち出すに至っているのである。
私たちは、上記のような経緯と背景を踏まえて、とくに福島原発事故における「国の責任」を不当に否定した「6・17最判」を正すことに焦点を当てた取り組みを進めてきた。過日のシンポにおいても、ジャーナリストの金平茂紀さん(市民連」代表世話人)、弁護士の海渡雄一さん(脱原発訴訟弁護団全国連絡会共同代表)、研究者の吉村良一さん(立命館大学名誉教授)らによる一連の講演はそれぞれに貴重なものであったが、やはり何といっても、樋口英明さん(元裁判官)による特別講演がメインの位置を占めていたといえる。とりわけ、今回の樋口さんのお話しは、この1月初旬に刊行された最新刊書(岩波ブックレット:『原発と司法―国の責任を認めない最高裁判決の罪』)(写真データ、参照)のエッセンスを非常に分かりやすく嚙み砕いたものであった。皆さんには、同書そのものをご購読いただくよう、ここに強くお薦めしておきたい。
なお、末尾になったが、当日のシンポ全体の録画やそこでの講演資料等は、「日本環境会議(JEC)」のHPにおける下記のサイトに掲載してあるので、ご参照いただければ幸いである。 http://www.einap.org/jec/subcategory/events/54
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
周知のとおり、2011年3月の福島原発事故から14年目を迎えようとしているが、この間、数多くの原発関係訴訟が各地で争われてきた。そうしたなかで、2022年6月17日、福島原発事故による損害賠償訴訟の上告を受けた最高裁第二小法廷の判決(「6・17最判」)が出された。だが、その判決は、国が仮に規制権限を行使したとしても原発事故は避けられなかった、だから「国に責任はない」という、きわめて不当なものであった。しかも、この「6.17最判」以降、その後の日本政府は、「原発再推進」へと明らさまな政策転換を行い、たとえば2025年度からの「第7次エネルギー基本計画」素案でも「最大限活用」を前面に打ち出すに至っているのである。
私たちは、上記のような経緯と背景を踏まえて、とくに福島原発事故における「国の責任」を不当に否定した「6・17最判」を正すことに焦点を当てた取り組みを進めてきた。過日のシンポにおいても、ジャーナリストの金平茂紀さん(市民連」代表世話人)、弁護士の海渡雄一さん(脱原発訴訟弁護団全国連絡会共同代表)、研究者の吉村良一さん(立命館大学名誉教授)らによる一連の講演はそれぞれに貴重なものであったが、やはり何といっても、樋口英明さん(元裁判官)による特別講演がメインの位置を占めていたといえる。とりわけ、今回の樋口さんのお話しは、この1月初旬に刊行された最新刊書(岩波ブックレット:『原発と司法―国の責任を認めない最高裁判決の罪』)(写真データ、参照)のエッセンスを非常に分かりやすく嚙み砕いたものであった。皆さんには、同書そのものをご購読いただくよう、ここに強くお薦めしておきたい。
なお、末尾になったが、当日のシンポ全体の録画やそこでの講演資料等は、「日本環境会議(JEC)」のHPにおける下記のサイトに掲載してあるので、ご参照いただければ幸いである。 http://www.einap.org/jec/subcategory/events/54
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
2025年03月09日
【フォトアングル】新春鏡開き 千代田区春闘委=1月9日 伊東良平撮影
千代田区春闘共闘委員会による2025年の新春旗開きが東京千代田区のエデュカス東京で開催された。主催者の茂呂千代田区春闘共闘議長の挨拶に続き、春闘勝利をめざして乾杯したのちに、JCJをはじめ千代田区内の労働団体や弁護士演劇関係者など集まった参加者42名がそれぞれの立場から挨拶や報告そして余興などが行われた。JAL争議団は争議解決への呼びかけの後に南京玉すだれを披露して会場から大きな喝さいを浴びた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
2025年03月08日
【月間マスコミ評・出版】フジテレビと文春と女性の人権=荒屋敷 宏
昨年12月19日発売の『女性セブン』1月2・9日号が「中居正広 巨額解決金 乗り越えた女性深刻トラブル」を掲載した後、12月26日発売の『週刊文春』1月2・9日号は「中居正広9000万円SEXスキャンダルの全貌」との記事を出した。文春の記事は『女性セブン』の後追いだった。
フジテレビは、X子さんに対する編成幹部A氏の関与を一貫して否定している。報道機関であるにもかかわらず、1月17日の記者会見を一部メディアに制限し、生中継や映像撮影を拒否したことで批判を浴びた。
日付をまたいでの10時間半近い「やり直し会見」(1月27日〜㉘日)の後も、フジテレビへの批判は止まるところを知らず、文春が電子版で訂正記事を出したため、メディアの問題としても炎上することになってしまった。
文春が訂正したのは「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」との箇所だ。その後の取材により「X子さんは中居氏に誘われた」「A氏がセッティングしている会の延長≠ニ認識していた」ことが判明したため、第二弾以降は取材成果を踏まえた内容を報じてきたと、文春は2月6日号の【編集長より】で弁明した。しかし問題の事実関係は、いまだに明らかになっていない。
そもそも問われているのは、性暴力に対する企業倫理や組織のあり方である。上司の誘いを断れば、仕事を奪われるのではないかという恐怖、地位や権力を利用した性暴力の問題は後を絶たない。フジテレビの大株主である米投資ファンドのダルトン・インベストメンツがいち早く声を上げ、日本の企業がCMから撤退するなどの流れになった。
1月23日号の『週刊文春』が報じたフジテレビ問題第三弾の記事中にある「女性アナ接待のDNA」という角度からの追及にも期待したい。日本の企業社会に巣くう女性の人権軽視という暗部を明らかにする機会にすべきであろう。問題が起きたことを知りながら、中居正広氏を番組MCに起用し続けたフジテレビ経営幹部の姿勢が厳しく問われている。
女性セブンは、フジテレビから文句を言われることなく続報を続けており、週刊文春のほかに、週刊新潮、週刊ポスト、サンデー毎日もこの問題の追及に参戦し、報道は過熱している。しかし、女性の人権問題として追及する姿勢が弱いのは、どうしたことだろうか。メディアの側も「重い十字架」を背負っているというべきであろう。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
フジテレビは、X子さんに対する編成幹部A氏の関与を一貫して否定している。報道機関であるにもかかわらず、1月17日の記者会見を一部メディアに制限し、生中継や映像撮影を拒否したことで批判を浴びた。
日付をまたいでの10時間半近い「やり直し会見」(1月27日〜㉘日)の後も、フジテレビへの批判は止まるところを知らず、文春が電子版で訂正記事を出したため、メディアの問題としても炎上することになってしまった。
文春が訂正したのは「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」との箇所だ。その後の取材により「X子さんは中居氏に誘われた」「A氏がセッティングしている会の延長≠ニ認識していた」ことが判明したため、第二弾以降は取材成果を踏まえた内容を報じてきたと、文春は2月6日号の【編集長より】で弁明した。しかし問題の事実関係は、いまだに明らかになっていない。
そもそも問われているのは、性暴力に対する企業倫理や組織のあり方である。上司の誘いを断れば、仕事を奪われるのではないかという恐怖、地位や権力を利用した性暴力の問題は後を絶たない。フジテレビの大株主である米投資ファンドのダルトン・インベストメンツがいち早く声を上げ、日本の企業がCMから撤退するなどの流れになった。
1月23日号の『週刊文春』が報じたフジテレビ問題第三弾の記事中にある「女性アナ接待のDNA」という角度からの追及にも期待したい。日本の企業社会に巣くう女性の人権軽視という暗部を明らかにする機会にすべきであろう。問題が起きたことを知りながら、中居正広氏を番組MCに起用し続けたフジテレビ経営幹部の姿勢が厳しく問われている。
女性セブンは、フジテレビから文句を言われることなく続報を続けており、週刊文春のほかに、週刊新潮、週刊ポスト、サンデー毎日もこの問題の追及に参戦し、報道は過熱している。しかし、女性の人権問題として追及する姿勢が弱いのは、どうしたことだろうか。メディアの側も「重い十字架」を背負っているというべきであろう。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
2025年03月07日
【お知らせ】日本ジャーナリスト会議(JCJ)2025年度定期総会開催。3月29日(土)13時からオンラインで開催=JCJ事務局
日本ジャーナリスト会議(JCJ)はJCJ規約に基ずき、2025年度定期総会(オンライン開催)を開く。本部・各支部・部会等活動報告と2025年度方針の後、JCJ創立70周年、戦後80年の取り組み、会員拡大、JCJ賞、機関紙など意見交換を予定。
会員はどなたでも参加し、発言することができます。。多くの参加を呼びかけます。日本ジャーナリスト会議事務局長 古川 英一
●開催要項
参加対象者:日本ジャーナリスト会議(JCJ)会員
主 催:日本ジャーナリスト会議運営委員会
総会議案書:作成次第会員に送付
●zoomへのアクセスは12時30分からから可能、ファイル共有などの準備出来ます
●zoomによるオンライン(会員には追ってアクセスURLを送付)
2025年03月06日
【おすすめ本】藤原 聡『姉と弟 捏造の闇「袴田事件」の58年』─真に裁かれるべきは警察官・検事・裁判官・記者だ=藤森 研(ジャーナリスト)
「ゆがんだ全能感」─郷原信郎元検事は、相次ぐ検察不祥事の原因を、そう表現した。日本の刑事司法には、そうした人物が、あちこちにいる。
共同通信の記者である著者は、冤罪「袴田事件」を作り上げた人たちの所業を実名入りで書いた。
猛暑の中、19日間も否認を続けた末、意識もうろうとなった袴田さんに「自白調書」の指印を強引に押させたのは、松本久次郎警部だ。
吉村英三検事は、「認めないなら認めるまで2年でも、3年でも勾留」すると迫った。典型的な「人質司法」である。
判決で捏造と認定された「5点の衣類」については、さすがに実行行為者の名はない。今も誰かが隠している。
最初の一審判決は、捜査を強く批判しながらも結論は有罪だった。覆るかと思われた二審は、意外にも、またしても有罪判決。裁判長はリベラル派で著名な横川敏雄判事だった。
逮捕より1か月余りも前に「従業員『H』浮かぶ」と、特ダネ風に報じ たのは、毎日新聞だ。
「殺人犯の家族」とされた一家は、息を潜めて生きた。末っ子の巌さんを可愛がっていた母が逝った後、姉ひで子さんが「母親の無念を晴らすため」、弟の支援にその後 の半生を捧げる。
評者は、大学教員であったとき、学生と一緒にひで子さんに会った。笑顔を絶やさぬ温かみに、多くの学生が彼女を慕った。人柄は支援を広げる核だった。
再審無罪判決は、みそ漬けの衣類など三つの事柄を「捏造」としたが、 不可解な点は、その三つに止まらない。本書を読んで知るのは、くり小刀を始めバスの遺失物、 焼けた紙幣……、いまだ捏造の闇は深い。(岩波書 店2000円)
共同通信の記者である著者は、冤罪「袴田事件」を作り上げた人たちの所業を実名入りで書いた。
猛暑の中、19日間も否認を続けた末、意識もうろうとなった袴田さんに「自白調書」の指印を強引に押させたのは、松本久次郎警部だ。
吉村英三検事は、「認めないなら認めるまで2年でも、3年でも勾留」すると迫った。典型的な「人質司法」である。
判決で捏造と認定された「5点の衣類」については、さすがに実行行為者の名はない。今も誰かが隠している。
最初の一審判決は、捜査を強く批判しながらも結論は有罪だった。覆るかと思われた二審は、意外にも、またしても有罪判決。裁判長はリベラル派で著名な横川敏雄判事だった。
逮捕より1か月余りも前に「従業員『H』浮かぶ」と、特ダネ風に報じ たのは、毎日新聞だ。
「殺人犯の家族」とされた一家は、息を潜めて生きた。末っ子の巌さんを可愛がっていた母が逝った後、姉ひで子さんが「母親の無念を晴らすため」、弟の支援にその後 の半生を捧げる。
評者は、大学教員であったとき、学生と一緒にひで子さんに会った。笑顔を絶やさぬ温かみに、多くの学生が彼女を慕った。人柄は支援を広げる核だった。
再審無罪判決は、みそ漬けの衣類など三つの事柄を「捏造」としたが、 不可解な点は、その三つに止まらない。本書を読んで知るのは、くり小刀を始めバスの遺失物、 焼けた紙幣……、いまだ捏造の闇は深い。(岩波書 店2000円)
2025年03月05日
【月刊マスコミ評・新聞】「沈黙の教訓」欠く新聞のフジ批判=六光寺 弦
元タレント中居正広の性加害問題を巡って、東京発行の新聞各紙はフジテレビ批判に終始している。確かにフジの対応は人権意識を欠いていた。だが新聞各紙に思い当たる節はないのか。
1月17日の閉鎖的な記者会見の直後から、企業のCM見送りの動きが加速。フジは23日になって、第三者委員会の設置と会見のやり直しを表明した。27日の再会見は、日付をまたいで10時間超に及んだ。
最初の会見を在京紙各紙は、1面ではなく社会面や総合面で控え目に扱った。社説も「疑問に答える徹底調査を」(毎日)など、比較的穏当なトーンが目立った。
フジが方針転換を明らかにした23日は、中居の芸能界引退表明もあった。二つの動きが重なり、各紙はフジ批判のトーンを強める。
27日はフジの取締役会で会長と社長の退任が決定。やり直し会見を経て翌28日付紙面は、朝日、毎日、読売、産経、東京の5紙はそろって1面トップに据えた。社説では「メディア不信招いた責任重い」(読売)、「解体的出直しが必要だ」(東京)など、言葉を極めたフジ批判が並んだ。マスメディアとして教訓を共有する姿勢は、朝日が「自らを省みる機会にもしたい」と書いた程度だ。
フジ幹部が自らの人権意識の欠如を認めたように、性加害は人権の問題だ。ただし、そのことは「マスメディアの沈黙」が問われた旧ジャニーズ事務所元社長の性加害問題で指摘されていた。
フジが「沈黙」を巡る自己検証番組を放送したのは2023年10月。中居問題に対応していた時期と重なる。反省は口先だけだったと思われても仕方がない。
新聞も他人事ではない。ジャニーズ問題では同じように「沈黙」が問われた。しかし、編集幹部らの責任で内部調査を行い、外部識者も交えて教訓を導き、それらを紙面や自社サイトで公表したのは、わずかに朝日新聞社だけだ。
通信社も含めて他社は「沈黙」をどう総括し、どんな教訓を得たのか。教訓を組織にどう浸透させているのか。それらが何も見えないままだ。今からでも「沈黙」にさかのぼって自らの人権意識を検証し、結果を公表すべきだ。そうでなければ信頼は得られない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
1月17日の閉鎖的な記者会見の直後から、企業のCM見送りの動きが加速。フジは23日になって、第三者委員会の設置と会見のやり直しを表明した。27日の再会見は、日付をまたいで10時間超に及んだ。
最初の会見を在京紙各紙は、1面ではなく社会面や総合面で控え目に扱った。社説も「疑問に答える徹底調査を」(毎日)など、比較的穏当なトーンが目立った。
フジが方針転換を明らかにした23日は、中居の芸能界引退表明もあった。二つの動きが重なり、各紙はフジ批判のトーンを強める。
27日はフジの取締役会で会長と社長の退任が決定。やり直し会見を経て翌28日付紙面は、朝日、毎日、読売、産経、東京の5紙はそろって1面トップに据えた。社説では「メディア不信招いた責任重い」(読売)、「解体的出直しが必要だ」(東京)など、言葉を極めたフジ批判が並んだ。マスメディアとして教訓を共有する姿勢は、朝日が「自らを省みる機会にもしたい」と書いた程度だ。
フジ幹部が自らの人権意識の欠如を認めたように、性加害は人権の問題だ。ただし、そのことは「マスメディアの沈黙」が問われた旧ジャニーズ事務所元社長の性加害問題で指摘されていた。
フジが「沈黙」を巡る自己検証番組を放送したのは2023年10月。中居問題に対応していた時期と重なる。反省は口先だけだったと思われても仕方がない。
新聞も他人事ではない。ジャニーズ問題では同じように「沈黙」が問われた。しかし、編集幹部らの責任で内部調査を行い、外部識者も交えて教訓を導き、それらを紙面や自社サイトで公表したのは、わずかに朝日新聞社だけだ。
通信社も含めて他社は「沈黙」をどう総括し、どんな教訓を得たのか。教訓を組織にどう浸透させているのか。それらが何も見えないままだ。今からでも「沈黙」にさかのぼって自らの人権意識を検証し、結果を公表すべきだ。そうでなければ信頼は得られない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号