2022年12月07日

【月刊マスコミ評・新聞】沖縄の選挙 報道をていねいに=六光寺 弦

  沖縄の過重な基地負担は日本復帰から50年たっても変わらない。負担を強いている日本政府は、選挙を通じて合法的に成り立っている。だから沖縄の基地負担は国民全体の選択であり、だれもが当事者だ。基地を巡り沖縄で起きていること、沖縄の民意は、日本本土でも広く知られなければならない。本土メディアの責任は大きい。
 10月23日の那覇市長選で、自民、公明両党推薦の前副市長の知念覚氏が、玉城デニー知事らの「オール沖縄」が支持する元県議で、故翁長雄志元知事の次男の雄治氏を破り初当選した。米軍普天間飛行場の辺野古移設に、雄治氏が反対を訴えたのに対し、知念氏は「国と県の係争を見守る」との立場だった。辺野古移設は双方の主張がかみ合う争点ではなかった。
これで、ことしの県内7市長選でオール沖縄は全敗。懸念されるのは、辺野古に触れなかった自公系候補の立場を「辺野古移設容認」「黙認」などとねじ曲げ「沖縄の民意は辺野古移設を受け入れている」などと主張する言説が流れることだ。
 那覇市長選の結果を、東京発行の新聞各紙のうち1面で報じたのは、辺野古移設推進が社論の産経のみ。総合面の関連記事では「米軍基地問題などをめぐる県と市のスタンスにずれが生じ(中略)玉城デニー知事の県政運営に影響を及ぼすのは必至だ」と踏み込んだ。もはや知事は辺野古移設反対を維持できない、と言いたげだ。

 他紙は総合面に本記のみ。読売は全文20行、日経は雑報扱いの11行だった。毎日は35行余と幾分長めだが、見出しは「那覇市長に自公系/知念氏、反辺野古派破る」。見出しだけ見た人に、知念氏は辺野古移設推進、容認だと受け取られかねない。
 翌日の紙面では朝日が、選挙を振り返り、オール沖縄の今後の展望を探る詳細なリポートを掲載した。民意が辺野古移設容認に変わったことを意味しないことがようやく伝わる。しかし、他紙にそのような報道は見当たらない。
 那覇市長選は、引退する現職市長がオール沖縄離脱を表明して知念氏支援に就くなど、複雑で分かりにくい構図があった。それも過重な基地負担のゆえだ。
 複雑で分かりにくいからこそ、詳しく、ていねいに報じる必要がある。
 六光寺弦
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
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2022年12月06日

【おすすめ本】白井 聡『長期腐敗体制』―アベノミクス 対外外交  破綻した一強腐敗体制の罪=鈴木耕(編集者)

 前著『国体論』(集英社新書)で、天皇とアメリカという「国体の正体」を見事に腑分けしてみせた著者が、本書では現在の「体制」を考察する。タイトルが内容をズバリと表している。意味するところは安倍長期政権がこの国にもたらしたもの、である。著者はそれを「二〇一二年体制」と名づけ、安倍政権下でいかに政治が捻じ曲げられていったかを丁寧に検証する。いわゆる「安倍一強腐敗体制」が出来上がっていく過程を、細部にわたって読み解いていくのだ。

 例えば安倍の経済政策としてのアベノミクスという虚構。「三本の矢」なる政策は、何の成果ももたらさず、残されたのは惨憺たる庶民の暮らしの崩壊だったということを、数字を挙げて実証する。

 では、「外交の安倍」などと呼ばれた外交面で、日本が得たものはあったのか。安保政策の要として対米従属路線をとった外交が、結局すべての足を引っ張ることになる。岸信介から中曽根康弘へ受け継がれながら、対米交渉のカードそのものを放棄していくという無様な様相を呈していく。冷戦秩序の崩壊後も変わらぬ、ひたすらな対米従属路線は、言ってみれば米国にすべてを捧げる朝貢外交の延長で、それが安倍外交の本質だった。

 安倍外交の失敗の極めつけは「対ロ外交」だ。プーチンに手玉に取られ、不気味な情緒的つき合いに終始した安倍は、結局、北方4島すべてを差し出すことになる。それが「安倍外交」の実態だった。
 安倍から菅、岸田へと受け継がれた「長期腐敗体制」は、安倍の死後にどうなるのか。統一教会問題で揺れる日本政治が新たな道へ踏み出せるかどうかを、著者は次の課題とするだろう。(角川新書920円)
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2022年12月05日

【映画の鏡】対立を対話に変えた住民参加 『下北沢で生きる』 SHIMOKITA 2013to2017 改訂版 これからの街づくり示す記録=鈴木賀津彦

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  シモキタが今、これからの街づくりの成功モデルとして注目を集めている。今年5月、2013年に地下化された小田急線下北沢駅(東京都世田谷区)周辺の線路跡地1・7`で進められた「下北線路街」の整備が完成。都心の再開発と言えば、どこも同じようなビルが建ち個性が失われがちだが、劇場やライブハウス、古着屋などの個性的な店舗が路地にひしめく「シモキタらしさ」を生かした形で魅力を発信し、コロナ禍にもかかわらず、にぎわいを一段と増し、高く評価されている。

 そんな「らしさ」を打ち出した街づくりが何故できたのか、本作品を見れば、それを解説してくれる。2003年に東京都が小田急線の地下化を決めた際、終戦直後に決めた「補助54号線」という道路計画が復活し、商店街を貫く道路整備など大規模再開発を行政側が決定した。これに反対する市民運動が巻き起こる。開発阻止を訴えるデモや集会には、国内外から作家や演劇人、音楽家らが集まり、見直しの提案や行政訴訟なども起こしていく。

 それを追ったドキュメンタリーの前半は、賛否の対立の構図なのだが、世田谷区長に保坂展人氏が当選した2011年からは、「北沢デザイン会議」などが設けられ、区が住民から意見を聞く「対話」へと変わっていく様子が描かれていく。後半は「住民参加の街づくり」とはどういうものかを示してくれている。

 2017年に住民らが製作した映画が今年、街への関心の高まりから掘り起こされ、各地で小さな上映会が広がり始めている。案内のチラシには「下北沢の民主主義を知っていますか?」とある。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
 

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2022年12月04日

【今週の風考計】12.4─「敵基地攻撃」へ突っ走る岸田政権の悲劇的末路

<12・8真珠湾攻撃>の悲劇
▼やっぱり公明党は、<下駄の雪>よろしく自民党につき従い、ミサイル発射拠点などをたたく「敵基地攻撃能力の保有」を容認した。これを受けて政府は年内に改定の「安保3文書」に保有を明記する。国会での論議も経ずに、戦争放棄を謳う「憲法9条」をズタズタにする暴挙の恐ろしさは極まりない。
▼いかに公明党が、「敵基地攻撃能力」を自衛権行使の「反撃能力」と言い換え、「先制攻撃」はしないと弁明しても、「相手国が攻撃に出る前に敵基地をたたく」自衛隊の軍事的行為を、どうやって「先制攻撃」でないと証明するのか。詭弁もいいところだ。
▼81年前の<12・8真珠湾攻撃>を思い浮かべたらいい。日本軍が敵国である米軍のハワイ・オアフ島の真珠湾にある米軍基地や艦隊へ、奇襲の「先制攻撃」をかけた。ところが米国の大反撃を食らい、泥沼の太平洋戦争から敗戦へと至った悲劇を、噛みしめたらいい。

購入するトマホーク500発
▼この太平洋戦争の苦い教訓など、どこ吹く風。岸田政権は前のめりに、「敵基地攻撃能力」強化へと突っ走る。長距離巡航ミサイル「トマホーク」500発(約1千億円) を、2027年までに米国から購入する。
 トマホークの射程距離は1600キロ、日本に配備されれば北朝鮮を含む朝鮮半島全域、中国本土の一部も射程内に入る。トマホークは全地球測位システム(GPS)を搭載し、ピンポイントで目標を攻撃できる。
▼1991年の湾岸戦争でイラクの軍事施設を破壊するのに使用され、その後はシリア攻撃などの実戦で多用されてきた。そのトマホークを日本のイージス艦に搭載し、沖縄の南西諸島に配備する予定だ。
 さらに政府は、陸海空からの発射を視野に、国産も含め10種以上の多様なミサイルの導入を図る。近いうちに国産改良型ミサイル(射程2千キロ)を富士山付近に、北海道にも射程距離3千キロの超音速ミサイルなど、総額5兆円かけて配備する計画を立てている。
▼宇宙空間の軍事利用にも拍車がかかる。2年後には軍事衛星50基を打ち上げ、一体的に運用して情報収集のうえ攻撃目標を特定する。この「衛星コンステレーション」計画により、敵国の軍事施設や海上にある艦艇の位置をリアルタイムで把握し、迅速な武力行使に役立てるという。

メディアと戦争責任
▼さてさて、こうした岸田政権による「防衛費GDP比2%」への暴走を、止めるどころか推進したのが「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」である。その10人のメンバーに、現役のメディア幹部・元幹部が少なくない数を占めているのを、私たちは見過ごしてはならない。
▼政権や軍部への迎合・癒着などの反省から、メディアは「戦争のためにペン・カメラ・マイクを持たない」と誓ったにもかかわらず、「憲法9条」を反故にする「敵基地攻撃能力の保有」を補完するため、さらに「5年以内に十分な数のミサイルを装備すべき」「武器輸出の解禁」「軍拡へ贈税」などの提言をまとめ同意するとは言語道断だ。(2022/12/4)
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2022年12月03日

【おすすめ本】菊池真理子『「神様」のいる家で育ちました 宗教2世な私たち』─親の信仰で苦しむ子供、助長する宗教タブーの怖さ=永江 朗(ライター)

 本書は、宗教2世の苦悩をテーマにした漫画である。信仰を持つ親による深刻な人権侵害が描かれている。親に宗教行事への参加を強制され、恋愛はおろか友達をつくることすら禁じられ、適切な医療も受けられないことがある。周囲からは特異な目で見られ、孤立している。
 扱われている宗教団体はさまざまだ。教団名は明示されていないが、描写からは統一教会、エホバの証人、真光系諸教団、福音派プロテスタント等だと推測される。それぞれ教義は違うが、親が強制して子供が苦しむという点は共通している。

 この作品そのものが翻弄されてきた。当初は集英社のウェブメディア「よみタイ」に連載されていたのだが、22年1月26日に公開された第5話が2月10日で公開終了になった。そして3月17日には連載そのものを集英社が終了し、全話の公開を中止した。
 本書のあとがきには、「5話までアップされた後ある宗教団体から出版社あてに抗議を受けた」と書かれている。ちなみに第5話は幸福の科学を扱ったものと思われる。3月22日、共同通信がこの問題を配信し、広く知られるところとなった。

 その直後、文藝春秋が著者に声をかけ、10月10日、本書の発売につながるのだが、安倍晋三銃撃事件がきっかけで宗教二世の状況が、にわかに注目されることになる。
 本書刊行の経緯を振り返って痛感するのは、大手出版社に蔓延する事なかれ主義であり、宗教タブーの根強さである。宗教団体の怒りを買うと、しつこく抗議活動をされて面倒だから、そのテーマは避けようという空気だ。その空気が宗教2世たちを孤立させ、苦しめてきたのである。(文藝春秋1000円)
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2022年12月02日

【映画の鏡】転んでも立ち上がる復元力 『百姓の百の声』 お百姓さんが素晴らしいことがわかります=伊東良平

                           
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百姓という言葉は放送禁止用語だそうだ。このことについて、映画の柴田昌平監督は「農業に対して近代の日本人が抱いてきた、ぬぐいがたい差別意識のようなものが横たわっていると感じる」と語っている。
2007年に映画「ひめゆり」でJCJ特別賞を受賞した柴田監督が4年をかけて全国の農家を訪ねて作り上げたのがこの作品である。私たちは毎日農家が作った食物を食べているのに、あまりその背景を考えないでいるのではないか。全国のお百姓さんが知恵と工夫を活かしていまの農業に取り組んでいる姿を単刀直入なインタビューでまとめた。

この映画にメインで登場する13組の農家だが、それぞれがいろいろな課題を抱えながらも前を向いていて力強い。それは品種や栽培方法であったり、有機野菜の生産と販売や地域内の循環など、ひとつ一つのテーマを克服していく様子を見ていると、これからの農業に希望が持てる。それがお百姓さんの底力であり素晴らしいところだと画面が訴えかけてくる。ただ、登場人物の多くが高齢であることが気になった。映画を若い人が見て、農業の面白さを知るきっかけになってほし。

 2時間10分という長尺だが、美しい映像も伴って時間を感じさせない迫力があった。
11月5日から東京・ポレポレ東中野で上映されるが、柴田監督は映画を観て終わりではなく農家と消費者が交流する場を作りたいと、その交費などを得るためのクラウド・ファンディングも行っている。また映画を通して対話を生み出そうと農村での移動上映会を開く希望も温めている。 
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JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号

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2022年12月01日

【22年度受賞者スピーチ】特別賞 沖縄タイムス社 「ちむわさわさ」もある 東京支社報道部長・照屋剛志さん

                 
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沖縄タイムスなどが行った世論調査によると、沖縄県民の86%が日本に復帰して良かった回答しました。日本に復帰したおかげでインフラが整備されたり、所得が向上したり、安全のなり暮らし向きが良くなったことが反映しているという分析もあります。

 考えてみたら、復帰前の方が悪いに決まっています。米軍に支配されていたのですから。婦女暴行や、殺人やひき逃げがあったりしても、それを裁く軍法会議では米軍は無罪になったり、住民が選んだ那覇市長が事実上追放されたりも。

 そもそも人権さえ蹂躙されている状態で、沖縄の先人たちは、日本への復帰をすごく求めてきて、やっと果たした。そうした復帰については非常に大事にとらえて報道していきたい。
 でも、沖縄の場合、アメリカに支配されたととらえがちだが、つまり軍隊に支配された27年間でした。その軍隊はまだ残っています。

50年前の日本復帰式典は5月15日に那覇市で開かれたが、その隣では反対集会も開かれました。賛否分かれた復帰を迎え今に至る。軍隊は残ったまま復帰50年を迎えました。たしかに暮らし向きはよくなった。高速道路もできたし、モノレールもできた。僕、個人も日本に復帰してよかったな、と思います。でも暮らし向きがよくなったのは沖縄だけではないですよね。日本全国みんなが発展してきました。

 なのになぜ沖縄だけが復帰のたびに「日本に復帰してよかったですか」と聞かれなければいけないのでしょう。
 世論調査では、もう一方の回答があり、沖縄県民の89%が本土との格差を感じると答えています。基地の問題も、離島県で輸送コストがかかり、なかなか所得が上がらない現状もある。本土との格差を抱えながら、「良かった」と答えている沖縄県民の気持ちも、皆さんに知っていただきたい。
 日本復帰というのは、「ちむどんどん」だけではない。「ちむわさわさ」も「わじわじ」も「なだそーそー」もしました。そういう思いををふくめて、沖縄の日本復帰のをとらえてほしいと思います。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号

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2022年11月30日

【22年度JCJ賞受賞スピーチ】特別賞 琉球新報社 「民意の矮小化」に抗う 編集局長・島洋子さん

                               
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戦後77年の報道で、JCJから特別賞を頂くのは大変光栄で身の引き締まる思いです。
 来年、琉球新報は創刊130年ですが、戦時中沖縄3紙の新聞統合で「琉球新報」の題字は途絶え、戦後「うるま新報」として再出発。サンフランシスコ条約の1951年「琉球新報」に戻りました。
住民の4人に1人が亡くなった沖縄戦の間、新聞は戦意を煽り、大本営発表を垂れ流しました。私たちの報道の基盤は、このことへの深い反省です。

沖縄は日本独立後も27年間、憲法が適用されないままだったし、復帰50年も米軍に由来する事件・事故などで苦しんでいます。私たちはその不条理に抗い、権力に対峙してきたと自負しています。時に権力から攻撃されるのはその結果です。
 2015年自民党の勉強会で講師の作家が「沖縄の二紙は潰さなあかん」と発言。議員も「マスコミを黙らせるには広告収入をなくすのが一番。経団連へ働きかけよう」と呼応しました。

また97年、軍用地契約の代理署名を拒否した大田昌秀知事時代の衆院特別委員会での「沖縄の心は二紙にコントロールされている」との発言、「沖縄では先生も新聞も共産党に支配されている」と述べた2000年森喜朗自民党幹事長(当時)。政権と沖縄の民意が対立する場面での「民意の矮小化」です。この動きには徹底的に抵抗していかねばならないと思います。
琉球新報がよって立つところは二つ。一つは米軍施政以来、基本的人権さえ守られない沖縄の人達の苦しみを共有し、その改善を追い求める。もう一つは、戦争中大本営発表で戦意高揚に加担した反省を踏まえ「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓を伝え続けていくことです。

 今年、私たちは「いま 日本に問う」を表面、裏面に復帰の日の新聞を復刻し、読者に届けました。
復帰の日を「お祝いムード」にせず、50年前の苦悩が今も続く沖縄の「現実」と「気持ち」を「紙の力」で伝える試みです。
きょうの琉球新報紙面は1ページを使い「JCJ賞受賞特集」としました。改めて私たちの立脚点を再確認させてくれたJCJ賞に感謝します。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
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2022年11月29日

【22年度JCJ賞受賞者スピーチ】リニアの現場から 工事の足元 見つめ直す 信濃毎日新聞社 島田誠さん

                               
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リニア中央新幹線は東京と名古屋を約40分、東京と大阪は60分余りで結ぶ計画です。中間駅の設置が計画されている長野県の飯田市は大都市圏との交通が非常に不便で、高速バスで東京まで4時間余り、名古屋まで2時間余りかかります。2007年にJR東海が首都圏と中京圏の営業運転を目指す方針を発表した時は、行政も経済界もこぞって計画推進に賛同し、駅の誘致の声が上がりました。

6年前に長野県内で工事が始まると様々な影響が見えてきました。トンネル工事では県内だけで東京ドーム8個分ほどの土砂が出ますが、山間の静かな村を1日数百台の運搬用ダンプカーが通るようになりました。一方、コロナ禍でテレワークも当たり前となり、人々の暮らしも価値観も変わった。このタイミングで、リニア新幹線の工事を巡り足元で何が起きているかを見つめ直そうと連載をスタートしました。
最初に申し合わせたのは、地域、土地に根差して暮らしている人の声を徹底して聞こうということです。取材では500人くらいに話を聞きました。地域特産の干し柿を作る場所がなくなる、建て替えた自宅が駅の候補地になったといった影の部分を、人の体温を伴って感じることができました。

もう1つ着目したのは、リニア計画は(総工費約7兆円のうち)3兆円を政府が貸し出す国策事業で、建設や営業の主体はJR東海の民営事業である点です。国策、民営の両面の性格が都合よく使い分けられていないか、と。象徴的なのが残土の話です。ある処分候補地が、実は土石流の危険があると県が判定していたことが取材で分かりました。問題は、そんな危険性を県もJR東海も地元に説明してこなかったこと。県議会では34カ所の候補地のうち19カ所で土砂災害の恐れがあることが明らかになります。

連載ではその後、相次ぐ労災や、新幹線を上回る大量の電力消費の問題なども取り上げています。建設の遅れは水資源への影響を懸念する静岡県のせいだと一般的に受け止められていますが、長野県でも未解決の問題が沢山あります。工事の遅れは計画自体が抱える問題点の多さの表れではないか。そうしたことを多くの人に知ってもらいたいと思います。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
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2022年11月28日

【22年度JCJ賞受賞者スピーチ】消えた「四島返還」安倍「2島返還」を検証 北海道新聞社 渡辺玲男さん

                              
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北方領土問題は北海道新聞にとって大きなテーマです。賞をいただいた本を書いたのは現在、モスクワ支局長の記者と会場に来ている小林記者、私の3人ですが、50人以上の記者の情報の積み重ねで完成しました。この7年8カ月間にかかわってきた取材班一同喜んでいます。
安倍政権は18年11月のシンガポール会談で、北方領土4島返還から2島返還に転換する非常に大きな歴史的カードを切りました。

安倍政権が歴代で、対ロ外交に最も政治エネルギーを注いだ政権だったことは間違いありません。その中で感じたのは、安倍政権の対ロ外交の内容が自民党、政権与党内でも意外と知られていなかったことです。それは安倍政権が「基本的な方針は変わっていない」と言い続けたこともありますが、党内では「あれは転換ではなく2島先行だ」「4島は諦めてない。先にまず2島交渉をやっているのだ」という誤解もかなり広まっていました。

これは伝える側にも問題があったと思っています。首脳会談などのタイミングだと盛り上がって報道するが、それが終わると関心が薄れてしまう。7年8カ月に何回も波があり、同じことが繰り返されてきました。
2年前の9月、突然の退陣で「日露平和条約については断腸の思いだ」と言った安倍さんは自分が実際に2島に転換したことは全く説明しません。これではどういう対ロ交渉が行われてきたかを残さないと同じ事が繰り返される。安倍外交をきっちり評価したうえで対ロシア関係を考えていくべきだと考えました。
まず、取材班が積み重ねてきた約1万7000件の取材メモを全部チェックし直す作業から始め、書いてきた記事と記事の間のストーリーが見えていないところ、見過ごしていた事実や大きな流れを追加取材し、実際に極秘提案があった事実や首脳間での実際にあったやり取りもつかみました。

 本を出すにあたっては、北方領土問題が国と国の外交交渉だけでなく、4島に隣接する根室や漁業者の身近な生活に影響していることを知っていただきたいと思い北海道新聞電子版に公開しました。
 昨年12月、インタビューに応じた安倍さんは「2島転換は間違ってなかった。プーチン大統領との間で解決するしかない」と主張しましたが、2カ月後のウクライナ侵攻で難しくなり、安倍さんも亡くなりました。
 今、永田町は「ロシアとの対話は不要」との空気です。だからこそ私たちは北海道から引き続き報道を続けます。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
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2022年11月27日

【今週の風考計】11.27─「日本の海」で伊勢エビ・アワビが泣いている

伊勢エビが激減
地球温暖化の大波は日本の海にも押し寄せ、魚介類や海藻など60種以上の生物が危機にさらされている。水温上昇で進出してきた南方系の魚による食害で藻場が減少し、魚が棲めない深刻な事態が進んでいる。
三重県志摩市の和具漁港では、伊勢エビの水揚げが6年前には年間40トン、今や7トン。水温が上昇したための「磯焼け」が原因という。
 アラメやミルなどの海藻が全滅し、見るも無残な<海の砂漠>を見るにつけ、潜ってもアワビやサザエが獲れない海女さんの嘆きが痛いほど分かる。海藻を食べるブダイや毒ウニのガンガゼ、さらには伊勢エビを食いかじるウツボの駆除など対処もいいが、地球温暖化を止める根本的な取り組みが急がれる。

日本でサケが獲れなくなる日
日本近海の海面水温(年平均)は、100年で1.16℃上昇。その率は世界平均が0.56℃の上昇だから、約2倍のスピードだ。日本の外気温の上昇率1.26℃とほぼ同じである。
 海水温が上昇すると、千葉や茨城を北限とするブリが北海道で獲れたり、瀬戸内海や東シナ海が主な産地のサワラが東北でも水揚げされたり、魚種が様変わりする。それだけではない。2050年にはオホーツク海はサケが棲めない高温となり、北海道や東北の河川へとサケが回遊するルートが消失、日本でサケが獲れなくなる日が来るかもしれないのだ。
日本海の深層でも水温が上昇し、かつ酸素濃度が低下しているため、キンメダイやカニといった深海性の生物、さらに死骸などを分解するバクテリアが死滅し、生態系のバランスが崩れ、日本海の恵みが失われる可能性が高まる。

怖い海の酸性化
「黒潮大蛇行」の動きも要注意だ。紀伊半島沖で南に大きく迂回し、その後、東海から関東に近づく大きな黒潮の流れである。この大蛇行は今も継続中で過去最長5年4カ月になる。暖流の黒潮が流れる海は水温が高く、その一方、蛇行の内側では水温が低く、静岡のシラス漁は漁獲量が大きく減っている。
さらに地球温暖化は海の酸性化を加速する。海水は平均8.1pHの弱アルカリ性だが、大気中の二酸化炭素(2020年の吸収量は29億トン)を吸収し続けている。海水が酸性化すれば、炭酸カルシウムの形成が難しくなり、骨格や殻をつくるホタテやアサリなどの貝類、カニやエビなどの甲殻類、サンゴの成長に悪影響をおよぼす。

気候変動による被害140兆円
気候変動による被害額は、2050年時点で年1兆ドル(約140兆円)に及ぶとの試算がある。この20日、「COP27」が気候変動の悪影響に対して脆弱な途上国を支援するための基金の設立を決め、閉幕した。
あわせて世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べ1.5℃内に抑えるためには、さらなる努力を追求し、2030年までに世界の温室効果ガス排出量を2019年比で43%削減するとした。
 クリーンエネルギーによる発電やエネルギー効率化を促進し、石炭火力発電の段階的削減、化石燃料補助金の段階的廃止に向けた取組みも加速することが盛り込まれた。
だが岸田首相は「COP27」に出席せず、「石炭火力発電の廃止や再生エネの導入目標引き上げ」についても沈黙したままだ。来年、日本で開催する主要7カ国(G7)会議の議長国として、脱炭素に向けた取り組みを、もっと積極的に進める義務がある。(2022/11/27)
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2022年11月26日

【22年度JCJ賞受賞者スピーチ】核のゴミ  民主主義 機能しない国 北海道放送報道部デスク 山ア裕侍さん

                             
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JCJ賞は2年前にも「ヤジと民主主義」で受賞させていただきました。今回の番組にもサブタイトルに民主主義とつけました。地方で  起きている問題が、この国の問題に凝縮されていて、そこをずっと見て取材していくと、この国の民主主義が機能していない課題というのがすごくわかります。
この問題の発端は2年前の8月の北海道新聞のスクープでした。「寿都町が核のごみの最終処分場の調査を検討」と。もうびっくりしてですね、それから取材を始めました。毎日、記者たちが札幌から車で3時間、180キロを通いました。核のゴミと未来というキャンペーン報道を続け、今年の5月末までに416回、ニュースや特集を出しています。それらをまとめたものが今回受賞した番組になります。
 人口2700人の小さな町に全国からメディアが来て説明会のあと、住民を囲んで賛成か反対かと。我々がさらに住民の分断を招いてしまった部分があるのではないか。説明会が終われば住民にはまた日常が続くわけです。メディアが煽っている部分もあると反省しながらキャンペーン報道を続けてきました。

 町長は、批判の報道が強くなるとメディアを賛成・反対で選別するようになりました。しかし町長の手を挙げざるを得ない思いも正確に伝える、賛成派の言い分も伝えるようにしています。一方、反対する住民は、札幌の大きな労働団体などからの協力を断り、私たちの町のことは私たちでやると、いろいろな意見を出し合いながら、地域に暮らしながら反対していくというのは、こういうことなのだろうなと感じました。
 やはり核のごみというのは日本全体の問題ですが、地元メディアですら、核を取るか過疎を取るか寿都町、というタイトルで放送するのです。違うだろうと、押しつけられたのは地元であるけれども押しつける構造自体に問題がある。報道を通じてみんなの問題という風に感じてもらうためにはどうしたらいいのかということを考えて番組にしました。
 核のごみの交付金に頼らない町づくり、もう一歩先を見据えて住民たちが活動を始めています。それができれば課題解決の先進地になるのではと思い、これからも取材を続けていきたいと思います。

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2022年11月25日

【おすすめ本】日野行介『調査報道記者 国策の闇を暴く仕事』―権力を監視し理不尽を伝えるノウハウ=栗原俊雄(毎日新聞編集委員)

 権力を監視すること。そして権力に理不尽に苦しめられている人たちの存在を世に伝えること。評者はそれがジャーナリズム・ジャーナリストの存在価値だと思っている。新聞記者ら表現者は世の中にたくさんいるが、この役割を果たせる者は多くない。著者はこの点、まさにジャーナリストだ。
 報道に「調査」はつきもの。しかし筆者がしているそれは独特で、<捜査当局が個人の刑事責任を追及するには複雑難解すぎる問題で、役所や企業による自浄作用が望めない場合に独自の調査で切り込むもの>だ。誰も逮捕されない。しかし社会正義上、許されないこと。権力が闇に葬ろうとすることを、白日のもとにさらす。それが筆者のいう「調査報道」である。

 今は組織に所属しない著者が、毎日新聞在籍中からテーマとしているのは原発だ。福島第1原発事故の被害を小さくみせようとする。起きるかもしれない大規模災害の可能性は不当に低く評価する。そのためには議事録を改ざんする。著者は行政のそうした不正を明らかにし、「何が何でも原発を動かす」という国のテーゼ=命題をあぶり出す。その手法は@公表資料の分析A情報公開請求B関係者の聞き取りであり、著者は<職業記者としての基本作業>という。だが中身が凡百の記者の「基本」とは違う。たとえばB。正面からいったら取材に応じないであろう者の口をこじあける過程には、すごみを感じる。
 調査報道のノウハウが具体的に記される。ジャーナリストを志す者にとってかっこうのテキストになろう。(明石書店2000円)
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2022年11月24日

【22年度JCJ賞受賞者スピーチ】大賞 映画『教育と愛国』教育に政治介入の津波が=監督・斉加尚代さん

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日本は今、教育と学問が政治介入によって大きな危機を迎えています。5年前に放送したテレビドキュメンタリー『教育と愛国』に追加取材し、映画にしたのは、その危機感からです。公教育が戦前の状態に近づいているのではないか。映画は、教育現場から見えた小さな変化を珠数つなぎにして完成させた。見終わって「衝撃だった」という人が少なくありません。「大日本帝国の亡霊を見た思い。政治ホラーだ」と語る人もいました。

 戦後教育の転換点を振り返ったとき、なんといっても2006年の教育基本法の改定を挙げることになります。第1次安倍政権下でした。ナショナリズムを培養する愛国心条項がここに盛り込まれ、「既存の歴史教科書は自虐だ。自虐史観だ」といったスローガンを掲げる「新しい歴史教科書をつくる会」系の採択運動も加速していきます。
 映画に登場する森友学園の理事長の籠池泰典さんが「自分は2006年の教育基本法の改正で安倍さんを信奉するようになった。2012年の教育再生民間タウンミーティングに参加して維新や自民党の政治家たちが応援してくれるようになった」と胸を張っていました。その籠池さんが映画を見て電話をくれました。「見ましたよ!いい映画でしたね」と褒めてくれました。「今の教科書は安倍史観に染まっていて問題です。基本的人権が後退しています」とおっしゃって、「ご自身の愛国教育はどこいっちゃったの」と思いました。

 今年2月、ロシアが侵略戦争を起こしました。ロシアは今、事実をねじ曲げて愛国教育を行っているだろうと思います。世界が分断に直面しているのは、教育によるもの、教育が影響するものと言えます。教育と政治が一定の距離を保つこと、その普遍的な価値というのは共通の価値です。政治介入によって、教育の自由が奪われる、その行為は社会そのものから自由を奪いかねないと思います。子どもが主体的に学ぶ大切な学習権を 大人の責任で守らなければいけない、と思っています。
先ほどの講演で上西充子さんが「政治の津波は止めることができる」とおっしゃいました。今教育現場に津波がひたひたと押し寄せています。この津波を止めなければいけない
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
 

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