2017年08月08日

≪緑陰図書─私のおすすめ≫ 岩真 千『「旅する蝶」のように ある原発離散家族の物語』原発の恐ろしさと沖縄の悲しみ─ふたつを背負って苦闘する家族の重い記録=鈴木耕(編集者)

 ウェブサイト「マガジン9」に連載のコラムを、書籍化した一冊。こうしてまとまり精読するにつれ、そのインパクトの強さに圧倒される。
 サブタイトルに「ある原発離散家族の物語」とあるように、福島原発事故の放射能汚染を避けようと、勤務地の宇都宮を離れ、沖縄に逃れた家族の物語だ。とにかく子どもを放射能から守りたいという一念。だが、著者は大学教員の仕事を継続するため妻子を残して勤務地へ戻り、一家は離散家族となる。
 そこからが切ない。沖縄には著者の母と義理の父(米人)が暮らしている。ともあれ、一家はそこへ身を寄せる。しかし、妻はなかなか沖縄の地になじめない。そこから生じる夫婦間の軋轢。読むのが辛くなる部分だ。

 私は、原発にこだわり本も書いた。沖縄を何度も訪ね沖縄本も上梓した。だから、原発の恐ろしさも沖縄の悲しみも、自分なりに受け止めているつもりだ。だがそれは、あくまで自分の選択。
 ところが著者は、原発事故により、そのふたつの切なさを、自己の責任とは関係なく背負わされることになってしまった。過酷な運命というしかない。

 宇都宮で、いつしか壊れていった人間関係。それを補えるほどの他人との関わりを、残念ながら沖縄では持つことができない。住まいというより、他者との関わりを失っていくことの疎外感。
 そこから必然的に生まれる夫婦関係の崩壊。間で苦しむ子どもへの愛惜。沖縄という米軍が居座る島の現実に怯む。ひとりの人間が背負うには重すぎる現実を、著者は必死に切り抜けようと、ひたすら記録する。
 本書は記録文学の輝かしい到達点だと思う。

(リベルタ出版1700円)
posted by JCJ at 10:03 | 出版 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする