しかし社会運動の視点から現代日本の実像に鋭く迫り、私達の社会が抱える危険性と可能性を深く理解するための格好の書となっている。
著者によれば「ポピュリズム」という言葉には民主主義の「危機」と「機会」の両義が含意される。それは「同じ社会的・経済的・文化的条件から生ずる」からである。
より具体的には「第二次世界大戦後に作り上げられた社会経済的秩序の収縮、労働のフレキシブル化、生産のアウトソーシングを基軸とした、新たな階級分化とアンダークラスの形成」や「市場原理の席巻による個人主義の台頭」「安定的雇用・家族・コミュニティの崩壞」など、新自由主義が生み出した諸状況が、一方でトランプ米大統領やフランスのマリー・ルペンのような民主主義を危機に陥れるポピュリズムを生みだした。
その他方で民主主義の「機会」を生むポピュリズムを育み、「抵抗の年」といわれる2011年以降の世界各地で展開された「大規模かつ民衆的な民主主義的政治運動」―エジプト・ムバラク打倒運動、米国のオキュパイ運動やサンダース支持運動などである。
日本では3・11後の反原発運動、反秘密保護法運動、反安保法制運動など、従来とは異なった運動である。
「これらの運動がみな公共空間における大規模集会を志向し、実現してきたのは、多種多様な人々を『人民の集合体』に結実させ、かつて左翼・リベラル勢力が領有していた公共空間における陣地を奪還するため」と指摘されている。
(大月書店2400円)
