2018年06月15日

≪メディア時評≫ 歴史的会談の歴史的意味―メディアの報道姿勢を問う=梅田正己(歴史研究者)

 2018年6月12日、米朝首脳会談が行われた。
 翌13日の各紙は、もちろん大きく紙面を割いて、その「成果」を報じた。しかし、その報道は、一定の評価をしながらも、そろって具体性に欠けるとして留保をつけていた。
 例えば、朝日3面の横の大見出しは「非核化 あいまい合意」
 読売3―2面の同じく横見出し、「非核化 課題多く 北の姿勢 見極め」
 日経3―2面の横見出し、「非核化 時間稼ぎ懸念 米朝敵対解消を演出」

 社説もそろってそのことを指摘していた。
 まず、朝日から。
「合意は画期的と言うには程遠い薄弱な内容だった」「署名された共同声明をみる限りでは、米国が会談を急ぐ必要があったのか大いに疑問が残る」
 さらには「その軽々しさには驚かされるとともに深い不安を覚える」「重要なのは明文化された行動計画である」
 その「明確な期限を切った工程表」が示されてないから「会談の成果と呼ぶに値」しないというのである。

 毎日の社説も同様の留保をつける。
「固い約束のようだが、懸念は大いに残る」「そもそも北朝鮮がCIVD(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)に同意したかどうかもはっきりしない」

 読売社説も、「評価と批判が相半ばする結果だと言えよう」としながらも、ホンネは批判の方に傾いているようだ。「懸念されるのは、トランプ氏が記者会見で米韓軍事演習の中止や在韓米軍の将来の削減に言及したことだ。和平に前のめりなあまり、譲歩が過ぎるのではないか」

 日経の社説も同様の論調だ。「真に新たな歴史を刻んだとみなすのはまだ早い」と言った上で、同じく米側の前のめりを批判する。
「米側はすでに(北朝鮮の)体制保証で譲歩を余儀なくされた。今秋の米中間選挙を控え、目先の成果を焦るトランプ政権の前のめりな姿勢を、北朝鮮が巧みに利用したといえなくもない」

 以上のように、全国紙各紙は今回の米朝首脳会談について、できるだけその成果を割り引いて評価したいと見ているようだ。テレビにおいても、登場するコメンテーターのほとんどは同様の見方をしているように私には思われた。

 では、両首脳が署名した共同声明を改めて見てみよう。「非核化」に関する部分を見ると、こう書かれている。
 ――「トランプ大統領はDPRK(朝鮮民主主義人民共和国)に対して安全の保証(security guarantees)を提供することを約束し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化(complete denuclearization)に向けた堅固で揺るぎない(firm and unwavering)決意を再確認した」
 ――「3 2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、DPRKは朝鮮半島の完全な非核化(complete denuclearization)に向けて取り組むことを約束する」

 各紙の社説も、テレビのコメンテーターたちも口をそろえて、CIVD(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)が具体的に述べられていないから非核化を信じるわけにはいかないという。
 つまり共同声明で2度にわたって明言されている「完全な非核化(complete denuclearization)」では不十分というわけだ。

 しかし、すべての識者が指摘するように、CIVDは厖大かつ複雑な手間と時間がかかる。現有する核爆弾やミサイルを廃棄するほか、関連の研究施設や製造工場などインフラの解体、さらには開発に従事した科学者や技術者の処遇など、山積する問題をすべて処理しなければならないからだ。
 それには、10年、20年の歳月を要するというのがおおかたの認識だ。
 したがって、朝日社説がいうような「明確な期限を切った工程表」を示せという要求そのものが、現時点ではどだいあり得るはずがないのである。
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posted by JCJ at 15:14 | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする