2018年12月31日

【国際情勢】 元徴用工の痛みを無視 日本報道 韓国側非難に終始=竹内康人

 2018年10月末、韓国大法院(最高裁)は、強制動員を不法な植民地支配と侵略戦争による反人道的不法行為とし、日本企業に対する強制動員被害者の慰謝料請求権を認定し、新日鉄住金に賠償を命じた。11月に入り、三菱重工業に対しても同様な判決を出した。
「強制動員慰謝料請求権」が確定したのである。それは戦争被害者の30年に及ぶ尊厳の回復をめざす運動の成果である。まさに歴史的、画期的な判決だ。

日本政府「解決済み」
 これに対し、安倍晋三首相は、日韓請求権協定により完全かつ最終的に解決している、国際法に照らせばあり得ない判断、徴用工ではなく旧朝鮮半島出身労働者の問題などとし、韓国政府を批判した。
 それを受け、メディアも「韓国は法治国家なのか」、「ボールは韓国にある」などと宣伝した。強制動員被害の実態を示すことなく、韓国側を批判する記事が多い。
 しかし問われているのは、日本の植民地責任である。
 
 日韓条約の交渉で、日本政府は韓国併合を合法とし、その立場を変えることなく日韓請求権協定を結び、賠償ではなく、経済協力金を出すとした。
 日本政府はいまも、植民地支配を合法とし、その下での動員も合法とする。そのうえで、請求権協定で解決済みと宣伝し、戦時の強制労働も認めようとしない。その責任をとろうとしないのである。
 このような植民地支配を不法と認めない対応が、逆に今回の韓国の大法院判決をもたらしたとみることができる。

 大法院は、日韓請求権協定で扱われたのは民事的な債権・債務関係であり、不法な強制動員への慰謝料請求権は適用対象外としたのである。
 このような判断は論理上、あり得るものであり、請求権協定に反する判断でもない。
 戦時に日本は総力戦をすすめ、朝鮮人の名前まで奪うという皇民化政策をすすめた。
 国家総動員態勢により、朝鮮からも資源を収奪し、朝鮮から日本へと約80万人を労務動員した。また、軍人や軍属で37万人余りを動員した。
 それは甘言や暴力などの強制力なしにはできないものだった。独立を語る者は治安維持法違反とみなされ、処罰された。
 日本の朝鮮統治を合法とすることは、三・一独立運動を不法とみなすことになる。それは三・一独立運動を国家形成の起点とする韓国政府を否定することにもなる。
 植民地合法論では、日韓の友好関係は形成しえないのである。

敗者をすり替える
 NHKは10月30日の「元徴用判決の衝撃」で、痛手を被ったのは被告企業ではなく、むしろ韓国政府だともいえるのでは、と解説した。判決に従えば、際限のない賠償責任を負わされるとし、問題が蒸し返されたとする側に立った。
 そして、企業は日本の裁判所が認めない限り、日本国内で賠償に応じる必要はない。元徴用工は韓国政府による救済措置に不満を持っている。韓国政府には被害者を救済する責任があると、結論づけた。
 NHKは、安倍政権の主張に同調し、韓国の判決の歴史的意義を明示することなく、敗者をすり替えたのである。

 朝日新聞の10月31日のソウル発の記事には、司法の命によって請求権協定が破壊され、日韓関係が破綻に近い打撃を受けかねないと記されていた。
 だが、今回の判決で破綻するのは、権力の側の論理だ。植民地合法論の下での経済協力金では、解決されないものがあるとされ、該当企業は賠償を命じられたのである。
 記事は権力の視座に立つのではなく、被害者の痛みに共感するものであってほしい。
日本の外務省も、2018年11月14日の衆議院の質疑で、請求権協定では、個人請求権は消滅せず、この協定に慰謝料請求権は含まれないことを認めた。
 しかし、メディアはこれを大きく報じなかった。
 安倍政権は、外務省が認めたように、慰謝料請求権については請求権協定では解決されていないという見地に立ち、問題を整理すべきである。

新たな合意形成を
 大法院判決により、強制動員慰謝料請求権は確定した。これを基礎に日韓両政府は、65年協定を克服する新たな日韓の合意形成に向かうべきである。
 植民地責任を明らかにし、植民地主義を克服する動きは、国際的潮流となった。被害者の目線に立ち、強制動員被害の包括的解決に向けて基金の設立など日本政府は改め知恵を絞るべきだ。
 強制動員について、その強制性を示す証言や資料は数多い。ジャーナリストはそのような証言や資料をぜひ紹介してほしい。そのペンの力は、未来を構想する共同性を導く。

竹内康人

たけうち・やすと
1957年生まれ、近代史研究、強制動員真相究明ネットワーク会員。著書に「調査・朝鮮人強制労働@〜C」「明治日本の産業革命遺産・強制労働Q&A」など。

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
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【JCJ賞受賞者】 清水潔講演 独自の取材進め犯人特定 DNA型再鑑定求め逆転判決=編集部

 JCJは12月9日、東京・千代田区の専修大学で12月集会を開催した。「調査報道でえぐる社会の実相―桶川ストーカー殺人事件から冤罪、歴史検証まで」と題し、日本テレビ報道局特別解説委員・清水潔氏が講演した。

発表報道は伝聞だ
 清水氏はまず調査報道の対極にあるものとして発表報道をあげ、警察や企業の発表を伝えるのは伝聞であり、記者は自分が現場に行っていない。発表側が都合のいい情報を伝えたり加工したりすることがあり得ると指摘した。
 清水氏が写真週刊誌記者時代に追及したのは桶川で女子大生が刺殺された事件だ。興味本位の報道が過熱する中、清水さんは被害者の友人たちを取材。警察より早くストーカー犯たちを突き止めた。事件前に被害者がストーカー被害を警察に告訴していたが、警察は告訴状を改ざんしていたことが後日、判明した。

警察の調書を疑う
 DNA型鑑定についても当局発表は常に正しいとはいえない。北関東で起きた連続幼女殺人では、1990年に足利で起きた事件で菅家利和さんが逮捕され、自供とDNA型鑑定の結果、有罪判決を受け服役した。菅家さんはしかし、刑務所内で再審を訴えた。清水氏と日本テレビの取材班は、事件現場で再現実験をして菅家さんの自供の矛盾を指摘、最新の技術によるDNA型鑑定を求める報道を続けた。
 2009年に再鑑定が行われ、検察側、弁護側それぞれが依頼した鑑定人によって、遺留品に付着したDNAと菅家さんのDNAが一致しないと結論が下され、菅家さんは釈放された。
 92年に福岡県で発生し、久間三千年容疑者の死刑が確定・執行された飯塚事件では、容疑者の車の目撃証言の信ぴょう性を検証するため、番組で実験を行った。事前に容疑者の車を見た後で、警察官は調書を作成しており、警察による誘導が疑われる。

徹底的に裏取りを
 後半は南京事件を検証したNNNドキュメント制作について語った。
 清水氏は@戦後になってからの論争に巻き込まれないA被害者の証言より加害者の告白B可能な限り裏取りをするという方針で臨んだという。
 番組は長江河畔での中国人捕虜殺害に絞り、日本軍兵士の日記をもとに制作された。
 事件取材と同様の手法で歴史検証に取り組んだ清水さんだが、「なぜ日本軍が中国にいたのか」という大きな歴史の流れを学ばなければならないと強調した。(編集部)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
posted by JCJ at 10:50 | JCJ賞情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月30日

【今週の風考計】12.30─年末、本田靖春と大江千里に魅せられて

「除夜の鐘」が鳴る前に、後藤正治『拗ね者たらん─本田靖春 人と作品』(講談社)を読み終えた。小生には、戌年の掉尾を飾る感動の本となった。
ノンフィクション作家・後藤正治が類い稀な織職人となって、孤高のジャーナリスト本田靖春の名作を縦糸に並べ、横糸に彼の作品群を編集した伴走者や交友関係を選び、2004年12月4日に閉じる71年の生涯を、縦糸・横糸、縦横にあやつって丹念に織りあげた壮大なタペストリーだ。

本田は、日本が歩んできた「戦後の原液」への思いを胸に、「由緒正しい貧乏人」の目で、社会的事件や人物像の真実を掘り起こし、世に問うてきた。
「スクープ記者の陥穽」を描いた代表作『不当逮捕』の「あとがき」で、本田は、<戦いとったわけでもない「言論の自由」を、(中略)まるで固有の権利のように錯覚して、その血肉化を怠り、「第四権力」の特権に酔っている間に、「知る権利」は狭められて行ったのではなかったか─。>と書いている。

今年は没後14年になる。モリ・カケ問題から、公文書改ざんなど、国民の「知る権利」は、脅かされ続けている。彼の仕事は今でも噛みしめるに充分以上の意味を持っている。

さて最後は、9月5日発売の大江千里のジャズアルバム『Boys & Girls』(Sony Music Direct MHCL30535)も、おすすめである。今や彼も58歳、ニューヨークを拠点に、ジャズピアニストとして活躍、アーティスト活動は35周年を迎えた。あの鼈甲ブチ眼鏡をかけ黒い丸帽子をかぶって弾くピアノが、まるで歌ってでもいるように鳴る。
輝きを放つ新曲「A Serene Sky」や「Flowers」もいいが、やはり彼の代表曲「ありがとう」のジャズピアノに惚れる。末尾ながら、皆さん、よいお年をお迎えください。(2018/12/30)
posted by JCJ at 11:43 | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【出版部会リポート】 武力増大の自衛隊と米軍一体化が加速 東京新聞・半田論説委員が語る=田悟恒雄

 11月30日、水道橋・YMCAアジア青少年センターに東京新聞・半田滋論説委員を講師に迎え、出版部会11月例会が開かれた。

 半田さんと言えば、4半世紀余にわたる防衛省(庁)取材経験を持つ業界きっての防衛問題通。その豊富な情報量と鋭い分析力には定評がある。この日の演題は「軍事列島・日本の全容─おそるべき自衛隊と米軍の一体化」。第2次安倍政権発足以来6年間、「普通の国の軍隊」をめざし邁進してきた自衛隊の変貌ぶりが語られた。

 特定秘密保護法(13年)、安保関連法(15年)、共謀罪法(17年)と次々「壊憲」の地ならしを強行、日本国憲法の外堀を埋め尽くした。その致命的な転換点となったのが、14年7月1日の閣議決定だった─。強引な「憲法解釈」で、歴代内閣が否定してきた「集団的自衛権行使」を容認。しかも時の内閣の一存でこれを決められる、と。

 16年3月、安保関連法が施行されると、間髪を入れず「実績づくり」に着手─。

 南スーダンPKOでは、他国の武力行使との一体化を進め、駆け付け警護や宿営地の共同防衛を新たな任務に加えた。これを正当化するため、現地部隊の日報に「戦闘」とあった事案を「衝突」と言い換えたばかりか、日報そのものまで隠蔽してしまったのは記憶に新しい。また、北朝鮮対策を口実とした米艦艇防護、米航空機防護、米艦艇への洋上補給も頻繁に行われているが、それらは「特定秘密」とされ、国民に知らされるのは、実に1年以上も後になってからのことだった。

 さらに見逃せないのが、自衛隊法の改正だ。95条の2で「合衆国軍隊等の防護のための武器の使用」が定められ、現場自衛官の判断で武器使用が可能になった。「シビリアンコントロール」は、すっかり骨抜きにされてしまった。

 そもそも日本の基本政策は、@専守防衛A軍事大国にならないB非核3原則C文民統制の確保にあるとされてきたが、もはやいずれも「風前の灯火」─。

 18年度予算案には「敵基地攻撃」可能な巡航ミサイルや島嶼防衛用高速滑空弾が登場。護衛艦「いずも」の空母化(近く改定の「防衛計画の大綱」では、姑息にもこれを「多用途運用護衛艦」と呼び換える)まで浮上。米国製兵器の爆買い≠ヘ止まるところを知らない。欠陥機といわれるオスプレイ、F35ステルス戦闘機(なんと100機!)、それにイージスアショアも。こうして安倍晋三政権下で増え続ける米国製武器の調達金額は、19年度には7000億円に上るという。それも見積もりに過ぎず、今後さらに増えるのは必至。

 安倍首相は、改憲の手始めに「自衛隊を憲法に明記する」ことを狙っている。

 「違憲との批判が強い安全保障関連法を改定された憲法によって合憲とし、次の段階では自衛隊を『軍隊』つまり制限のないフルスペックの集団的自衛権の行使と多国籍軍への参加に踏み切る」─その魂胆を半田さんはそう見抜いている。

 都合の悪い現実に対しては見え透いたウソと強弁を押し通し、ほとぼり冷める頃合いを見計らって一気に本望を遂げる─「モリカケから改憲までアベ政治おなじみのパターン」である。

田悟恒雄

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
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2018年12月29日

【内政】 世界に逆行 民間任せ 外資参入 水道料金高騰へ 市民をないがしろ「改正法」=橋詰雅博

 改正水道法が成立した。これで水道事業の運営権を自治体から企業が買い取ることができる。この「コンセッション方式」は1900年ごろから世界各国に広がったが、2000年以降は水道事業を再び公営化する都市が急増している。水道料金の高騰や水質悪化などが原因だ。世界が再公営化に向かっているのに、日本はそれに逆行する形だ。民営化でどうなるのか。全国の水道職員らでつくる全日本水道労働組合の辻谷貴文書記次長(45)に聞いた。

――水道法を政府が16年ぶりに改正したのはなぜですか。
 人口減による給水収益の減少、老朽化した水道管更新費用の増大、水道職員の不足などが背景にあります。三重苦≠ェ長く続いてきたから水道事業に企業を参入させてしのごうというわけです。その手段として導入する「コンセッション方式」は、自治体には管理監督責任が残りますが、運営権はそれを買った企業に移り、水道料金は直接企業が受け取ります。契約期間は20年以上と長期にわたり、業務のやり方は企業にまかされます。

急増する再公営化
 ――ところが欧州などでは民営化の失敗が相次ぎ、水道事業は再公営化が潮流になっています。
 オランダのNGOトランスナショナル研究所によると、2000年から16年で、世界33カ国の267都市で、水道事業が再び公営化されています。
 例えばパリ市。水メジャー≠ニ呼ばれるスエズとヴェオリアの2つの多国籍企業が、85年から09年までの25年間、水道事業を運営してきました。この間、不透明な会計による利益隠しや必要な再投資を怠るなど不祥事が発覚。しかも水道料金は25年間で3・5倍にもなりました。料金が大幅アップしたのは株主配当や役員報酬、借入金の高い利子支払いのためです。契約期間が終了した後、高騰する水道料金が主な理由で、10年に再公営化に。翌11年には株主配当などが不要になったので、料金を8%値下げしました。
 ドイツのベルリン市も14年に再公営化しましたが、企業側から運営権を買い戻すため13億ユーロ(約1671億円)も企業側に支払いました。今年の7月に水道事業民営化の先進国・イギリスを訪ねましたが、民営化の時の「料金が下がる、水質がよくなる、サービスもよくなる」という約束が破られたと市民の怒りはおさまりません。労働党は「水道再公営化」の公約を掲げ、国民の7割が支持したと表明しました。

 ――欧州で商売がしづらくなった水メジャーなどは、アジアにターゲットを絞っていますね。
 スエズとヴェオリアは12年ごろからタイやシンガポール、フィリッピンなどアジア各国に進出しています。スエズはマカオ、ヴェオリアは日本にそれぞれ拠点を持っています。ヴェオリア日本法人などは浜松市の下水道事業の20年間運営権を25億円で手に入れました。

ノウハウ持つ外資
 改正水道法の成立で、水メジャーはいよいよ日本の水道事業市場に参入する可能性は高いです。浜松市の水道事業への参入に意欲を示しています。国内の水事業関連企業は水道事業運営のノウハウはありません。外資に頼るしかなく、水メジャーなどと組んで運営に乗り出すかもしれません。いずれにしても外資が主導権を握ることになります。

 ――日本でも民営化されたら、欧州のような水道料金の高騰などが起り得るのでしょうか。
 運営するのは企業ですから、株主配当や役員報酬、借入金の利子払いなどが生じます。これらの資金をねん出するには利益を上げる、施設のコストの削減が考えられます。となると水道料金の値上げ、コスト削減では例えば品質は落ちるが、価格が安い水道管を使うケースが出てくるかも。料金を引き上げたうえに仕事の手抜きで、施設の安全性は心もとないという状況に陥りかねません。
 また、地震や豪雨などに襲われて水道施設が壊れた場合、災害復旧の最終的な責任は管理者の自治体が負います。コストを切りつめたい企業は、責任がないなら災害に備えた投資をしぶりますので、災害時に被害がより大きくなる恐れがあります。

大都市進出を狙う
 ――企業が狙いそうな都市は。
 事業規模が大きくないと、儲かりませんから人口50万以上の都市が進出対象でしょう。大都市の東京都や大阪市を本命視≠オているはずです。大阪市は運営権の売却額を4000億円と試算しています。

 ――宮城県を始めいくつかの自治体は導入に前向きですが、市民はどうすればいいですか。
 運営権を企業に売り渡し、途中で問題が起きた場合、再公営化するには巨額な違約金の支払いが必要です。ベルリン市のケースは、その見本です。民営化に流されず、公営維持を訴え続け、方策を考えるべきです。

聞き手 橋詰雅博

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
posted by JCJ at 10:35 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月28日

【リレー時評】ダイオキシンまみれの政治家は浄化するしかない=中村梧郎

 浦和駅東口から5分ほどの所に「片山さつき」の看板はあった。国会で「著書広告だ」とゴマ化そうとしたが、道から見えるのは大書された彼女の名前ばかり。いつの間にか撤去された。
 週刊新潮11月29日号は「片山さつきからダイオキシン」を特集した。産廃業者との汚れた関係を暴露したもの。静岡県御前崎市で産廃処分場を口利き誘致した話だ。業者にパー券を買わせたり、百万円の献金を受けたりもしている。市は四億円を産廃業者に出すのだという。
 前号では彼女の後援会「山桜会」の中村望会長が仙台の竹の内産廃≠乗っとったこと、「そこでは違法な投棄が繰り返され、放置された焼却炉からはダイオキシンが検出される有り様」と報じていた。

 廃棄物処分場の認可に政治家が関わるケースが頻発している。露骨なのは梶原拓・岐阜県知事時代のスキャンダルだ。御嵩町に処分場を作る業者と組む知事に対して町民の抗議が拡がった。NHKの解説委員だった柳川喜郎氏が住民に推されて御嵩町長に当選、公約は「ダイオキシン汚染の処分場は許さない」であった。
 町長は知事が進める認可に楔を打ち込みはじめた。しばらくして、柳川町長を二人の暴漢が襲撃した。頭蓋骨骨折の重傷だったが、県警は非常線を張らず、犯人を取り逃がす。産廃業者による町長宅の盗聴も発覚したが業者への捜索はしない(御嵩町史・通史編)。産廃がらみの殺人未遂だと報じられたものの、2011年犯人不明のまま事件は時効となった。

 廃棄物処理は不法投棄をすればボロ儲けとなる。その金は許認可権を持つ権力者に渡りやすい。片山大臣もオコボレを期待したのであろう。
ダイオキシン問題をメディアがあまり扱わなくなってから十数年が経つ。環境省は産業界の意向に従い、ダイオキシンを含む環境ホルモンリストを2004年に封じた。時流に乗りたい論者らも業界におもねって「ダイオキシンはメディアのカラ騒ぎ」といった雑文を撒き散らした。
 ダイオキシンは無害と言わんばかりのこの主張に自信があるのなら、京都で開催される「2019ダイオキシン国際学会」で発言したら良い。世界を前に愚かしさが際立つはずだ。

 ベトナムでは元米軍ダナン基地のダイオキシン汚染が発覚していた。住民の癌や異常出産も生じた。ベトナム政府は米国を糾弾、米議会は予算を組んで2012年に無害化に着手、18年に完了した。引き続きビエンホア基地の浄化も始めた。
 13年には日本・嘉手納基地返還跡地のサッカー場からダウケミカルのドラム缶が出て、枯葉剤のダイオキシンを検出した。しかし日本政府は米国に抗議をしない。住民の健康調査もやらない。
 ダイオキシンを出す業者や米国とつるむ与党政治家たち。ならば政権丸ごと浄化するしかない。
posted by JCJ at 10:53 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月27日

【国内政治情勢】 森友スクープ記者が寄稿 自殺職員の動機解明に全力 「国と大阪府の事件だ」=相澤冬樹

12月20日号週刊文春に手記を発表した元NHK大阪報道部の相澤冬樹さんに(56=現大阪日日新聞記者)森友学園疑惑などについて、寄稿してもらいました。


 森友事件は森友学園の事件ではない。国と大阪府の事件である。こう言うと違和感を持つ人もいるかもしれないが、おかしなことをしたのは学園よりむしろ国と大阪府だ。まずそこから語ろう。

 発端は、森友学園の籠池泰典理事長(当時)が、小学校を作りたいと思ったことだ。学園は幼稚園を運営していて、そこで教育勅語を園児に暗唱させるなど、自らの思想信条に基づいた独自の教育を行っていた。その教育を賛美する政治家も数多いた。しかし園児たちは卒園すると多くは公立の小学校に入る。そこで園児たちの多くは森友学園で学んだことを忘れていく。籠池氏はそれが残念だった。そこで、園児たちの進学先として小学校の設立を目指し、それに賛同する保護者たちも多かった。これはおかしな話ではない。思想信条の自由は日本国憲法で保障されているし、学校を設立したいと考えるのも自由だ。求められる規準を満たしているならば。

 ところが審査にあたる大阪府の私立学校審議会は、学校が資産や教員確保などの面で規準を満たしていないと考え、認可保留の判断を出した。妥当な判断だ。これに対し事務局を務める大阪府私学課が、1カ月後に臨時の審議会を開くよう求め、1カ月後に条件付きで「認可適当」の判断を出してもらったのである。なぜ行政がそこまでしてこの小学校を認可しようとしたのか?これが第1の謎だ。

 さらには国有地の問題だ。小学校を建てるには土地がいる。森友学園は豊中市内の国有地を入手したいと考えた。売却交渉にあたるのは財務省近畿財務局だ。この土地はその前に大阪音楽大学が購入を望んだが、5億円から値を上げて数億円を提示しても財務局は売らなかった。ところが森友学園には地中のごみの撤去費用などを名目に鑑定価格から8億円余りも値引きして売ったのである。籠池氏が強引に値引きを迫ったと言う人もいるが、大阪人なら買い物にあたって「まけてや」と値引きを求めるのは普通のことだ。それに応じず適正価格で売るのが公務員だが、この件だけなぜ大幅に値引きして国有地を売ったのか?それが第2の謎だ。

 この2つの謎に、小学校の名誉校長が安倍昭恵首相夫人だという話が絡んで、政権の関与、安倍晋三首相自身の関与の有無が国会で議論されてきた。私にとって森友事件は、かつて世間を揺るがしたロッキード事件やリクルート事件に匹敵すると考え取材を進めてきた。

 近畿財務局は国有地の売却前、森友学園側に「いくらまでなら出せますか」と上限額を聞き出していた。学園側が求めたのではなく売る側の財務局が聞き出したのである。学園側は1億6000万円と答えている。これに対し財務局の担当者は「その範囲に収まるといいですね」とまで言っている。これは事実上「その範囲に収めます」という意味だろう。実際、売却額は1億3400万円で、まさに「その範囲に収まっている」のである。国民に損害を与えるような不当な値引きをした「背任行為」を強くうかがわせる話だ。私はこれを去年の7月26日に特ダネとして出した。

 ところがこれに東京の報道局長が激怒し、私の上司だった大阪の報道部長に電話をかけてきた。たまたまその時部長の前にいたので、電話口から「聞いてない」とか「なんで出したんだ」という怒声が聞こえてきた。電話を切った後、報道部長は「あなたの将来はないと思えと言われました」と苦笑いした。その瞬間、それは私のことだと感じた。実際、今年の人事異動で私は記者を外され非制作部門に移された。私は記者を続けるため、森友事件の取材を続けるためNHKを辞め、「何のしがらみもない」と社主が語る大阪日日新聞に移った。

 取材の最大のテーマは、すでに書いた2つの謎を解明し、背後に何があったのかを明らかにすることだ。しかし真相がそう簡単にわかるわけはない。引き続き粘り強く関係者への取材を続け、いつかは真相を解明して世に伝えたい。
 だが、それより先に解明せねばならない取材テーマがある。事件の渦中で自ら命を絶った近畿財務局の職員Aさんのことだ。彼は土地取引に深く関わった訳ではないが、その後の公文書改ざんに不本意にも巻き込まれ、苦悩の末に命を絶った。なぜ彼が追い込まれなければならなかったのか、その謎を解き明かさねば、Aさんは浮かばれまい。まずはここに力を注ぎたい。

 私はこのたび森友事件についての本を出した。題して「安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由(わけ)」事件の本質と、私の取材手法、そしてNHKでの報道の内情を書いている。
 作家の井上ひさしさんは「むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをゆかいに ゆかいなことをまじめに そしてゆかいなことは、あくまでゆかいに」という言葉を残している。この本もその精神で書いたつもりだ。安倍政権を支持する方にこそぜひお読み頂きたいと思っている。
posted by JCJ at 10:45 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月26日

【編集長EYE】 「水道戦争」を衝くギリシャ映画=橋詰雅博

 ドキュメンタリー映画「最後の一滴まで―ヨーロッパの隠された水戦争」の日本語版完成記念上映会が12月初旬に都内であった。ギリシャ人が監督したこの映画は、フランス、ドイツ、ギリシャ、ポルトガル、イタリア、アイルランドなど6カ国13都市で4年間取材し、水道事業の民営化に至った経過や、それに失敗して再公営化で立て直した過程などを明らかにしている。

 日本でも水道事業の民営化論が高まっていたこともあって、NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)や全水道労組などが中心となりプロジェクトチームをつくり、8月ごろから日本語制作をスタートさせた。作業にかかる費用100万円はクラウドファンディングで調達した。

 PARCの内田聖子共同代表は「8月に早くも100万円を突破し、11月に214万円にも達しました。予想外にお金が集まり、支援していただいた方に感謝しています」と語った。

 さて映画の中身だが、およそ2つに分けられる。 

 財政再建計画の一環として水道事業の民営化を欧州連合(EU)から強要させるギリシャ、ポルトガル、アイルランドが展開する反対運動がその一つ。例えばOECD(経済協力開発機構)加盟国で唯一、水道料金は一般税を通じて徴収していたアイルランドでは、新料金設定に抵抗した市民は2014年11月に首都ダブリンで20万人反対デモを実施した。 

 もう一つはパリ市やベルリン市で起きた水道料金の急速なアップや運営に関する情報の非開示問題などから再公営化を果たした活動(1面参照)だ。25年間の民営にストップをかけて、10年に再公営化したパリ市は、世界の水道事業の再公営化の流れをつくる大きなきっかけになった。

 一方、日本は改正水道法が成立し、民営化に走り出した。欧州だけでなく米国でも再公営化が急増しているというに。映画は民営化に前のめりの浜松市など11カ所で上映が決まっている。

橋詰雅博

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
posted by JCJ at 10:01 | Editorial&Column | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月25日

【国内政治情勢】 辺野古埋め立ての県民投票 心配な協力拒否と投票率 玉城知事の具体策がカギ=福元大輔

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の移設に伴い、政府が約50`離れた同県名護市辺野古で進める埋め立て工事の賛否を問う県民投票が、来年2月24日に投開票される。地方自治法に基づく住民発議の住民投票が都道府県単位で実施されるのは、1996年沖縄での日米地位協定の見直しと米軍基地の整理・縮小の賛否を問う県民投票に次いで2例目で、沖縄の置かれた特殊事情が改めて浮かび上がる。

 辺野古埋め立て事業は2014年7月に着手、17年4月には埋め立て土砂投入に向け、沿岸部分を囲む護岸の建設が始まった。18年12月にはいよいよ土砂が投入されている。

若者がけん引役に

 この段階で若者を中心に18年5月からの2カ月間、手探りの活動で県民投票条例の直接請求に必要な数(有権者の50分の1)の4倍、9万2848筆の署名を集めた。1996年の日米合意以降、沖縄を分断してきた普天間返還問題、辺野古移設問題に決着をつけたい若者の熱意と県民の思いの強さを物語る。

 18年9月の知事選で辺野古反対を明言した玉城デニー氏が、政府・与党の全面支援を受けながら辺野古の賛否を示さなかった佐喜真淳氏に8万174票の大差で、過去13回の知事選で最多となる39万6632票を獲得した。それでも民意を顧みず、埋め立て工事を強行する政府に対し、県民投票はワンイシューでより明確な民意を突きつける意味合いが濃い。

 県議会では辺野古移設を推進する自民の県議らが「2択では県民感情をすくいきれない」と主張。「やむを得ない」「どちらでもない」を加えた4択を提案した。一方、「県の政策を決定づけるために、賛否の2択が望ましい」といった思いをくみ取り、玉城知事を支える県政与党の多数で条例案は可決した。

 条例が施行されても、投開票が円滑に実施されるか、分からない。それが都道府県単位の住民投票の難しさだ。投開票の事務は市町村が処理するが、県内11市のうち、保守系の市長や市議が県民投票に難色を示している。市議会で必要な予算案を否決、市長が事務を拒否する可能性が残っているのだ。県民投票に反対する意見書を複数の市議会が可決している。

 投開票の事務を拒否する市町村が出て、一部で投票できない事態になれば、県民投票の意義が薄れるほか、そういった動きがある中で全市町村で投票が実施されても、投票率の低下は免れない。多くの投票者が反対の民意を示したとしても投票率が低ければ、結果を軽視される懸念がある。

 政府が結果を尊重するきざしはこれっぽっちもなく、機運を盛り上げるのは難しい。

機運の醸成が必要

約480f、東京ドーム102個分の普天間飛行場だが、沖縄全体の米軍基地の2・5%にすぎない。それさえ、県内に移設しなければ返還できないのか、辺野古に新基地ができれば米軍の撤退は遠のき沖縄が未来永劫「基地の島」になるという指摘もある。極めて県全体の問題であり、県民投票で意思を表示するのはまっとうな手段だ。

 条例では「知事は県民投票の結果を尊重する」と定めている。では、尊重するとはどういうことか。知事が投開票の前に具体策を示すことで、賛成側を引き出し、機運を醸成する必要があるといった意見も出ている。

福元大輔(沖縄タイムス)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
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2018年12月23日

【今週の風考計】12.23─日本は「毒薬条項」を飲まされるのか

常軌を逸している<恐怖の男─トランプ大統領>は、ついに「毒薬条項」まで日本に飲ませる魂胆であるのが分かった。

年明け1月中旬にも交渉が始まる米日貿易協定(USJTA)では、まず日本製自動車の米国現地での生産増を確実にさせ、検疫の面から農産品に課す日本の高い輸入関税を削減させる。安倍首相は、しきりに「物品」をめぐる協定(TAG)だと強調したが、とんでもない。
通信やサービスから金融分野も含めた包括的な貿易協定の締結に引きずりこむ考えである。日銀の金融緩和為政策にも横やりを入れ、デフレ脱却が目的だとの説明を一蹴するかのように、為替政策への介入までもくろむ。これでは自国の金融政策すら支配されかねない。

恐ろしいのは中国を排除する貿易協定の締結を目指していることだ。9月末に妥結した「米国・メキシコ・カナダの3か国協定」には、中国との貿易協定の締結を難しくする「毒薬条項」が盛りこまれている。トランプ大統領は日米貿易交渉でも、同じように「毒薬条項」を組みこむよう要求する構えだ。
しかし日本は、中国も参加して「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」や「日中韓自由貿易協定(FTA)」を積極的に推進している。これにもトランプ政権は、圧力を加えてくるのは間違いない。いまや日本は通商外交のフリーハンドまで失われ、米中貿易戦争の挟み撃ちに遭う可能性が高くなってきた。

この1年、世界や日本が、トランプ大統領のゴリ押し外交に翻弄されてきた。この情けない事態は終わりにしなければならない。(2018/12/23)
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2018年12月20日

【国内情勢】 植村裁判・札幌訴訟 控訴へ 争点の「捏造」問わず 櫻井氏のズサンな取材を免責=中野広志

 元朝日新聞記者の植村隆氏がジャーナリスト櫻井よしこ氏と出版3社を名誉毀損で訴えた訴訟の判決言い渡しが、11月9日午後、札幌地裁であった。判決は植村氏の敗訴だった。植村氏の請求(謝罪広告の掲載と損害賠償の支払い)はすべて棄却された。植村氏と弁護団は判決直後の記者会見で「不当判決だ」と語り、控訴する方針を明らかにした。

身売り説に疑問符
 植村氏にとってはきびしく苦い判決となった。ただ、植村氏の名誉が毀損されたことまでが否定されたわけではない。判決は、櫻井氏の書いた記事は植村氏の「社会的評価を低下させた」とし、名誉を傷つけたことは認めた。さらに、櫻井氏が繰り返し主張してきた「人身売買説」(元韓国人慰安婦の金学順さんは継父によって人身売買され慰安婦にさせられた、という事実)については「真実であると認めることは困難である」と明確に判示した。櫻井氏の主張の最大のポイントである「人身売買説」に裁判所が疑問符を呈したのである。
 しかし、それでもなお、判決には大きな問題がある、と言いたい。とくに櫻井氏を免責にした理由である。判決は、名誉毀損だと認めた記述について、「真実だと信じるについて相当の理由がある」、つまり「真実相当性」が認められるとして、櫻井氏の責任を免じた。

「訂正」は櫻井氏側
 裁判例では、「真実相当性」が認められるには、「信頼できる合理的な資料」と「客観的な事情」が必要とされる。では、判決はどんな「資料」を重視したか。それは、櫻井氏が読んで引用したという韓国紙、月刊誌、金さんの訴状の3つである。しかし、裁判の過程では、櫻井氏の引用には間違いや恣意のあることが多数指摘された。つまり、櫻井氏の主張の根幹をなす資料の使い方は「合理的な」とはいいがたい。
「客観的な事情」とはなにか。櫻井氏の取材や調査の杜撰さは、本人尋問で決定的に明らかになった。櫻井氏は一部誤りを認め、櫻井氏の文章を掲載した産経新聞と月刊誌「WiLL」は訂正掲載に追い込まれた。櫻井氏には、取材を尽くし、資料を読み込む十分な時間がなかったわけではない。つまり、資料や関係者が現存せず、大急ぎで書かざるを得なかった、というような「客観的な事情」にも欠ける。

公平さ欠く論法
 ところが、判決には櫻井氏の読解力を「一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈しても不自然なものではない」と評価するくだりもある。櫻井氏はジャーナリストを自称する言論人であり、一般読者ではない。このような論法は、公平さを欠くと言わざるを得ない。
 櫻井氏の植村批判が杜撰な取材によって組み立てられていることは、2年半に及んだ審理で明らかになっている。しかし、皮肉なことに、判決も緻密さを欠く論法で櫻井氏を免責したのである。そして、最大の争点であった「植村記事捏造」が真実かどうかは不問にした。

差別と憎悪を拡大
 判決直後に出された弁護団声明は、「本日の判決は櫻井氏がジャーナリストであることを無視して、櫻井氏の取材方法とそれによる誤解を免責するものである」と指摘し、「これを敷衍すれば、言論に責任を負うべきジャーナリストと一般読者を同じ基準で判断することは、取材が杜撰であっても名誉毀損が免責されることになり、到底許されるものではない」と厳しく批判している。
 ジャーナリストが負うべき責任のハードルは下がった。これからは、杜撰な取材でも免責されるのだ! よもや、この判決をそのように誤読するするジャーナリストはいないだろう。しかし、ネット世界で日夜、差別と憎悪を拡大するメッセージを発し続ける人たちには、勇気と希望を与えただろう。
 判決直後の記者会見で植村氏は「悪夢のような判決です」と悔しさをにじませた。現実がいよいよ悪夢に近づいているということだろうか。

中町広志(元朝日新聞記者)

植村裁判とは=櫻井よしこ氏と西岡力氏(元東京基督教大教授)は、植村氏が朝日新聞記者だった1991年に書いた元韓国人慰安婦の被害体験の2本の記事を「捏造だ」と決めつけ、櫻井氏は四半世紀近く経った2014年4月頃から新聞、週刊誌、月刊誌、テレビ、ネット上で執拗な「名誉毀損」攻撃を繰り返した。そのため、右派勢力の間でくすぶっていた朝日新聞の慰安婦報道に対する批判が激化し、とくに植村氏個人が標的にされた。植村氏と家族は長期間、脅迫やいやがらせを受け、物心両面で大きな被害を受けた。植村氏が教授就任を予定していた大学や非常勤講師を務める大学にも契約解除などの圧力がかけられた。このようなバッシングの中で、植村氏は2015年1、2月に東京と札幌で起こした。東京訴訟の被告は西岡氏と文藝春秋、札幌は櫻井氏と新潮社、ダイヤモンド社、ワック。被告側は「植村記事は捏造」の主張は崩さず、バッシング被害との関連は否定した。東京訴訟は11月28日に結審し、2019年春までに判決が出る見通し。

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
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2018年12月19日

【国内情勢】 安田純平さん解放で再噴出 安易な「自己責任論」に決別を=編集部

シリアで武装勢力に拘束された安田純平さんが10月25日、約3年4ヵ月ぶりに生還した。消息が途絶えた15年6月は同年1月のIS、後藤健二さん殺害から間もなく、安否が心配されていた。それだけに困難な状況に耐え抜き、生き延びた安田さんの無事を心から喜ぶ。

だが、日本では、14年前の2004年「イラク3邦人人質事件」で吹き荒れた「自己責任論」がまた噴出した。安田さんがこの事件直後にも拘束され、3日後に無事解放された経歴がことさら強調されるなど不毛な極論が飛び交った。「国が行くなと言っているのに行ったのだから自業自得。助けなど求めるな」「国に迷惑をかけるな」「身勝手に我々の税金を使うな」等々だ。

今年夏、ネット公開された拘束映像で「私の名前はウマルです。韓国人です」と不可解な安田さんの発言が流れると、今度は「安田は在日」「反日だ」とヘイトと結びついた反応も飛び出した。解放の前後には、「何度も捕まってる人間の救出に何億も出すのはおかしい」「身代金がテロリストの活動資金になり、今後、より多くの人命が危険にさらされる」「身代金目的の自作自演だ」説まで飛び交った。

しかし、こうした言説に根拠はなく、勝手な憶測と一方的な決めつけによるものでしかない。

「自己責任」は元々経済用語。その使い方を「身勝手だ」「政府に迷惑をかけたことを謝るのが先だ」と被害者の「自己責任」にすり替えたのは、04年の事件でイスラム過激派からの自衛隊撤退要求に窮した政治家だった。そして今、自己責任論は政治権力といびつに結びつき、貧困や過労死をはじめ社会的・政治的問題の公的議論を封じ込め、「気に入らない」相手を攻撃する魔法の杖と化している。それは極めて危うい。

安田さんは帰国後、日本記者クラブや日本外国特派員協会で記者会見し、自らの言葉で事実確認なしの「自己責任論」の空疎さを浮き彫りにした。

今回はあの産経新聞でさえ「危険を承知で現地に足を踏み入れたのだから自己責任であるとし、救出の必要性に疑問をはさむのは誤りである。理由の如何を問わず、国は自国民の安全や保護に責任を持つ」(10月25日付社説)との見解を示した。

安易な「自己責任論」と決別し、ジャーナリズムやジャーナリストの役割について議論が深まればと願う。

(編集部)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
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2018年12月17日

【全国交流集会】 「人災」「忘災」「自助?」 JCJ全国交流集会 50人参加=古川英一

 秋の澄み渡った青空、九州・南阿蘇村の阿蘇大橋の前に立った。高さ80メートル、下を見ると吸い込まれてしまいそうだ。対岸まで200b余り。そこにあるべき橋は崩落、車で通りかかった大学生が巻き起こまれて亡くなった場所だ。熊本地震から2年半。双方の橋の根元は今も切れ落ちたままだ。

地域つながり一変

 10月19日から2泊3日の日程で開かれたJCJ全国交流集会の参加者は、熊本地震の被災地、そして去年7月の九州北部豪雨の被災地を訪れた。大地震と豪雨、突然襲う災害は、そこに長く暮らしてきた人々、そして地域のつながりをも一変させてしまう。

自然災害の発生を食い止めるのは難しいが、むしろその後の地域の復旧・復興がきちんと行われなければ、その災害が「天災」から「人災」になってしまうのではないか。そうした問題意識から、今の安倍政権の「自助・共助・公助論」の元での復旧・復興対策を考えていくことが、この集会の大きなテーマだ。

参加したのはジャーナリズム関係者と、医師や医療関係者など約50人、日頃あまり接点のない人たちが、まさに膝を突き合わせたのもJCJとしては初めての試みだ。

大きな被害を受けた現場や当時地域医療の拠点となった病院、さらに地域の声となったケーブルテレビ局などを訪ね、そこで私たちは様々な声を聞いた。

病院経営が厳しい

益城町では、復旧から復興へと局面が変わる中で、県道の拡幅や区画工事が進められることになり、住み慣れた場所に戻るに戻れない状況があることを、地元の人が訴えた。

南阿蘇村の阿蘇立野病院の上村晋一院長は、被災後の病院の運営の厳しさと村の人口流出など震災復興が表面的には進んでいるように見えるが、見えない部分の爪痕が大いとし、災害大国日本≠フあり方を考えるべきではないかと提起した。

「母国語が使えず、知り合いもいない中での孤立感、ひと声かけてくれる人がいればよかったのに」―そう語ったのは、熊本に家族4人で引っ越した直後に被災したスリランカ女性、ディヌーシャさんだ。そのうえで「外国人だから弱者なのではなく自分たちもできることがある。一緒に支援する立場にも立ちたい」と。その口調は力強かった。

多くの人が被災地や被災者にボランティアとして関わるようになったのは阪神大震災の時からと言われる。まさにその阪神の地から熊本や東日本大震災などの被災地に足を運び続けている医療関係者がいる。

情報発信の継続を

その一人、兵庫県保険医協会の広川恵一医師は、阪神大震災の被災者の復興住宅の強制撤去をめぐる裁判が今も続いている例をあげ、こうした問題が取り上げられず、忘れ去られてしまう「忘災」災害という視点を、私たちに示した。

それならば、個々の災害を一過性にせず、一人一人が刻み、社会が記憶し関わり続けるためにも「情報」を掘り出し発信し続けることは、まさにジャーナリズムのやるべき責務ではないか。広川医師の眼差しはそう語っているようだ。

今回の集会で感じたのは、出会った人々の発した「声・言葉」の持つ重さだ。その言葉はまさに人と人とを結びつけ、社会を変えていける大きな可能性を持っている。業種の違いを越えて語り合うことのできたこの場で、私たちは確かに、こうした言葉を受けとめたのだ。

古川英一

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
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2018年12月16日

【今週の風考計】12.16─あの本が『日本ウィ紀』と言われる理由

★百田尚樹『日本国紀』(幻冬舎)が、幻冬舎25周年記念出版と銘打ち、11月12日、初版15万部で発売されるや否や、1か月ほどで、5刷、50万部の売れ行き。
★しかし、その記述のズサンさが明らかになり、騒動となっている。Wikipediaなどからの“コピペ疑惑”が、本文やコラムなどの記述に数多くみられ、剽窃ではないかと指摘されている。

★百田尚樹氏も「この本を書くのにね、山のように資料を揃えた。そのなかにはね、そりゃWikipediaもあるよ!」と開き直っている。出典も明示せず、剽窃する感覚には、みな呆れている。本のタイトルも、“日本ウィ紀”“日本コピペ紀”などに変えるべきだと、皮肉られている。
★本書の内容は、従来の保守派や右派の主張をちりばめて叙述したシロモノ。日本は太古からスゴイ民族で、これまでの侵略戦争も戦争犯罪も重大なことではなく、戦後の「東京裁判史観」は荒唐無稽であり、いまこそ素晴らしい日本人の精神を復活させるべきで、とりわけ憲法9条改正は急務である─との主張である。

★『日本国紀』の版元である幻冬舎の見城徹社長は、先日、亡くなった津川雅彦氏や「新潮45」に掲載した差別論文の執筆者・小川栄太郎氏、さらには櫻井よしこ氏などの右派文化人グループとして、百田尚樹氏とともに、有名な安倍応援団の一人であるのは、つとに知られている。11月25日のAbemaTV「徹の部屋」では、見城徹氏自らが百田尚樹氏、有本香氏と鼎談し、本書を絶賛している。
★幻冬舎は、剽窃とも疑われる本を出版しながら、増刷の際に修正や記述を変えたり、引用部分に「 」をつけたりして、ごまかしている。「もし修正したならば修正箇所を公開してほしい」とのフアンからの声には、どうこたえるのか。製造者責任が問われている。(2018/12/16)
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2018年12月14日

【関西支部】 森友疑惑追及でスクープ 「報道の危機」と相澤さん NHKから大阪日日新聞に転職=井上喜雄

 関西支部は11月2日、大阪で「ジャーナリスト講座」を開催した。今回も「新聞うずみ火」との共催で、講師に先頃NHKから『大阪日日新聞』に転職した相澤冬樹さん(56=論説委員)を招いた。
 相澤さんはここ数年NHK大阪で報道記者として活躍しており森友学園問題ではいくつものスクープを飛ばしていたが、なぜ最大手メディアから小地方紙(発行6000部余=ABC協会)へ移ったのか、その間の事情について会場定員を超える65人の参加者を前に語った。

事件記者やりたい
「自分はどちらかというと右翼だと思っている、ただし国粋ではない真正♂E翼だ、これは初任地長州山口の保守的な環境が影響したようだ、右翼は国を憂える、左翼は社会を憂える、私は主義主張にはとらわれない」と切り出した相澤さんは、こう続けた。

「入局は31年前、ずっと事件記者をやりたい、社会部へ行きたいと思っていた。NHK社会部は東京にしかないが、大阪で府警キャップを5年務め、その後東京でBSニュースに関わった。現場への想い断ち切れず、前任地の大阪で記者に戻せと訴え、それが叶ったので再び大阪で記者になった」。
 その後、起こった森友学園事件報道で相澤さんはスクープを連発、籠池泰典理事長にも一番信頼されていたという。
「大阪地検特捜部の捜査がピークを迎えていた6月、異動の内示を受けた。東京で決めたことだ、今後は考査室でがんばれと言い渡されたが、状況からただの異動ではないなと感じた、報道に戻す気はないと判断したのでその時点でNHKを辞めようと決めた」。
「辞めてからテレビや大手全国紙を含め数社に紹介されたが、大阪勤務はさせないとされ森友問題には関われないうえ、自分を買いたたかれた感じもした。だいたい大手を辞めて大手に行っても意味がないので断った」。

副業OKが決め手
 なぜ大阪日日に決めたのかは「以前の取材先が社主の吉岡利固氏(91歳)に渡りを付けてくれた、同氏は紳士服販売を本業としておられるが、鳥取県の『日本海新聞』のオーナーでもある。反骨の人だと思っている。入社にあたって給料はいくらでもかまわない、ただ『日日』だけに書いてもだめなので副業として他の媒体に書くことを認めて欲しい、各地での講演も続けたいと頼んだ。
 あなたの記事で『日日』が有名になり、部数が増えれば結構だと、吉岡氏は同意してくれた。これからは何でも書けると思った」と所属を変えてでも現役の事件記者を選んだ経緯を明らかにした。    

国・大阪府の仕業 
 森友問題に話が及び「もともと森友学園の計画は資金、教員の確保などズサンなものだった。だから大阪府の審議会は一度認可保留にした、ただ教育方針に問題はあるが森友側は変なことはしていない、金が無いので賄賂などもしなかった、土地代が高いので『まけてくれ』と言ったにすぎない、大阪の人ならだれでも言うセリフだ。  
 あれは森友に学校をつくらせたいと思った国と大阪府のしわざだ。事件はこれからだ」と述べた。
 最後に「今は報道の危機、つまり民主主義の危機だ、マスゴミ≠ネどと揶揄され、報道機関への不信もある。記事に至る過程の説明がないからだ、これは大手の中にいればできないが、辞めたらできると思っている」と2時間近い講演を締めた。

 井上喜雄 

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号

                  
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2018年12月12日

【月刊マスコミ評・出版】移民議論 開かれた社会の視点を=荒屋敷 宏

 古代ギリシャの哲人ソクラテスが現代日本に現れて、臨時国会で安倍晋三首相を相手に論戦するとしたら、どんな議論を展開するだろうか。こんな荒唐無稽な問いをたてたくなるほど、政府答弁は、ひどい。あちらこちらの現場に行き、「賢者」の「無知」をしつこくあぶり出すソクラテスの議論は、ジャーナリストの仕事に似ていると思う。
 例えば、「移民」の問題。安倍内閣は「いわゆる移民政策はとる考えはありません」としながら、労働力不足のとりつくろいとして、2019年4月からの外国人労働者の受け入れ拡大を図り、財界の要請のもとに外国人労働者の労働基準法や最低賃金を守らない「人権侵害」を放置している。排外主義を主導する安倍内閣が外国人労働者問題に直面しているのは、矛盾というほかない。

 『文芸春秋オピニオン 2019年の論点100』に収められた社会学者の下地ローレンス吉孝氏「本当は世界第4位! 『移民大国』日本の課題」によると、「1990年の入管法改正、1993年の技能実習制度開始により地域住民として暮らす外国人が増加」、「経済協力開発機構(OECD)の外国人移住者統計によれば、加盟国のうち日本はドイツ・米国・英国に次いで第4位」という。
 下地氏は、「問題なのは、受入れの議論において『日本人』(受入れ側)と『外国人』(受入れられる側)の単純な二分法の発想である」と指摘する。

 「世界」12月号が「移民社会への覚悟」を特集している。日本に来た「技能実習生」に対する人権侵害が国内外から「強制労働に近い状態」(アメリカ政府)、「奴隷・人身売買の状態」(国連)と強く批判されている。
 劇作家の平田オリザ氏は、政府の政策には「開かれた多様な社会を指向し、差別のない、誰でも基本的人権の保障された社会をつくっていくという視点が、そこには全く欠けてしまっている」と批判している。

 インタビューや論文よりも重要なのはルポだ。ノンフィクション作家の森健氏が「東京・新宿 日本一多国籍な教室の子供たち」(「文芸春秋」12月号)との力作を書いている。新大久保駅周辺で「町中を飛び交う言葉は中国語、韓国語、タイ語、英語とさまざまで判別不能な言語もある」という。
「判別不能な言語」をなくすことが「開かれた多様な社会」への道でもあるだろう。それでもなお、「いろんな言語の混じった会話」を「時代を開く新しい言葉」と聞き取った森氏のルポに共感した。 

荒屋敷 宏

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
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2018年12月09日

【今週の風考計】12.9─ダンプ22万台分の土砂を投げこむ非情

沖縄が緊迫している。政府は14日、辺野古に土砂を投入する。すでに名護市安和にある「琉球セメント」の桟橋から、埋め立て用土砂を運搬船に積みこみ、沖縄本島の北側を回って大浦湾に面する辺野古の最北護岸「K9」に停泊。
運搬船と陸上をつなぐランプウェー台船が用意され、重機を使って運搬船から土砂をダンプに移し替え、辺野古崎近くのキャンプ・シュワブ内にある資材置き場に運びこまれている。

さらにそこからダンプやブルドーザーを使い、南にある辺野古寄りの、護岸で囲われた6.3ヘクタールの海に投入される。必要な土砂の量は131万6500㎥、10トンダンプに換算すると22万台分。1日に運べるのは、せいぜいダンプ200台か。休日なしで運搬しても3年はかかる。
それが14日から延々と続く。待てよ! 辺野古新基地建設に要する埋め立て区域は、全体が160ヘクタール、今回の投入はわずか4%を埋め立てるに過ぎない。全部を埋め立てるとなると、必要な土砂は2100万㎥。

想像もできないような土砂が、瀬戸内海周辺地域からも運ばれ、サンゴ礁の映える青い<美ら海>に投げこまれる。しかも赤土による海の汚染だけでなく、アルゼンチン蟻など特定外来生物が運ばれてきて、その繁殖による沖縄の生態系破壊までが危惧されている。

さらに大浦湾側の埋め立て護岸C1〜3付近には、マヨネーズ並みの軟弱な地盤が深さ40mにわたって海底に堆積していることが分かり、政府は慌てている。地盤改良工事となれば、海底に基礎捨て石を敷き、その上にコンクリート製の箱、なんと長さ52m×幅22m×高24m、重さ7200トンを据える。
加えて大浦湾を北西から南東にかけて、V字滑走路の先端、C1護岸周辺を貫くように、「辺野古活断層」が見つかっている。泣き面に蜂とはこのことか。さらなる地盤改良工事費500億円、土砂調達費1千億円を加えると、総事業費2兆5500億円、普天間基地の代替施設として使えるようになるまでに最短でも13年かかる。

玉城デニー知事が「一日も早い普天間の危険除去が必要だが、辺野古移設では、さらに返還が遅れることが危惧される」と述べ、工事を停止し膨大な予算の投入から引き返すことを説いたのは当然だ。(2018/12/9)
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2018年12月08日

【沖縄リポート】 協議の一方で 工事を進める安倍政権の茶番=浦島悦子

 10月30日、石井啓一国交大臣は、沖縄防衛局が申し立てていた県の辺野古埋め立て承認撤回の執行停止を決定した。玉城デニー知事が「自作自演」と批判し、国民の権利救済のための法律である行政不服審査法の国家権力による悪用・濫用だと全国の行政法学者から抗議が渦巻く中での暴挙だ。

 11月3日にキャンプ・シュワブゲート前で行われた県民抗議集会には1000人余りが参加し、稲嶺進・オール沖縄会議共同代表は「恥知らずの政府を許すわけにいかない。しなやかに、したたかにたたかい抜こう」と檄を飛ばし、10月14日の豊見城市長選で初当選し翌週に就任を控えた山川仁氏は、「政府は県民を分断しようと躍起になっているが、自民党も含めてそれを望む県民はいない」と語った。

 政府は11月1日から工事再開を宣言。「撤回」によって撤去されていた大浦湾の立ち入り禁止区域を示すフロートの再設置作業を開始したものの、実際の工事には行き詰まっているのが実態だ。9月末に襲来した大型台風によって、埋め立て土砂の搬出港である本部町塩川地区の岸壁が破損し、使用できないことが判明。本部町は防衛局の使用申請を受理しなかった。修復には数カ月を要する見込み。  

10月県議会で、辺野古埋め立ての是非を問う県民投票条例が可決され、半年以内(4月末まで)に実施されることになった。1日も早く埋め立て土砂を投入し、県民投票前に「後戻りできない」状況を作りたい政府が、今後どんな手を使ってくるのか。土砂搬送を陸路に変えるためには県への変更申請・許可が必要となるため当面は、県の新たな許可を必要としない工事で外堀を埋めていくと思われる。15日には、3カ月半ぶりにゲートからの石材・資材搬入が行われ、機動隊による「ごぼう抜き」も再開された。「対話」による解決をめざすデニー知事の要請で「協議」には応じつつ、一方で工事を進めるという茶番を県民は冷やかに眺めている。

 デニー知事は11日、沖縄の民意を携えて中間選挙直後の「父の国」米国へと旅立った。ミニ・トランプが跋扈する米国にとっても、沖縄の民主主義・多様性、寛容の政治は希望となりうると思う。分断を越え、平和へ向けた新たな回路を期待したい。

浦島悦子

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
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2018年12月07日

【全国交流集会】 免震・地上ヘリポート威力発揮 災害にそなえる阿蘇医療センター=杉山正隆

 全国交流集会2日目の10月20日、阿蘇医療センターを視察した。病院は熊本地震で震度6弱などの強い揺れに襲われたが、目立った被害はなく、DMAT(災害医療派遣チーム)など医療支援の拠点としての機能を果たした。強力な免震装置が有効に働き、その他にも誰でも利用できるWi-Fi(無線LAN)環境の整備など先進的な災害対策に取り組んできた成果が発揮された。ヘリポートも一般的な「屋上」にではなく、あえて地上に設置することで、万一、建物に被害が出ても地上であればヘリが着陸する可能性が高まると想定したことも功を奏した。

患者らは気づかず

阿蘇医療センターの甲斐豊院長の説明によると、建物を支える柱は1階直下へ伸び、それぞれの柱の下に設置された免震装置が受け止める。72基の免新装置の上に病院全体が乗る形で、地面からは浮いている。免震装置は、外観がゴムの筒状で強く押せばへこむ程度の硬度。その内部は鉄鋼版とゴム層が何重にも重なり、鉛の芯が中心部にあり、一基あたり400〜500トンを支えることができる。

地震による衝撃を建物に直接伝えず、ゆるやかな揺れに変える。地震がおさまったあとは、ゴムの持っている復元力で、建物を元の位置に戻す。配管や地下へ続く階段も地面からは浮かせて病院建物側に固定されている。地震時は建物と共にゆれることで破損を防ぐ。

こうした機能が発揮されたことから、熊本地震が起こった夜の時間、スタッフはゆったりしたゆれを感じたが、患者らは気づかず眠っていたという。熊本地震時の揺れ方の記録が残されており、本来の病院の定位置から北に50センチ弱、南北に最大触れ幅87センチ、病院が動いていた。

情報過疎も免れる

もう1つの特徴が「地上ヘリポート」だ。病院などでは「屋上ヘリポート」が一般的だが、阿蘇医療センターではあえて地上の駐車場横に設置。建物に多少の損傷があった場合にエレベーターが使えず、屋上から階下に患者や器材などを下ろせない事態を避けることができた。さらに、地震前に無料のWi-Fi(無線LAN)を設置していたことで、情報や連絡を常時取れていたため「情報過疎」を免れることが出来た。

甲斐院長は「こうした設備や工夫が上手く噛み合い、周囲は被災したが医療センターは全ての機能が生きており、病院の機能や災害支援チームの受け入れなどに支障が出ることがなかった」と話した。取材ツアー参加者からは「災害に備える1つのモデルケース。詳しく知りたい」と質問が相次いだ。

杉山正隆

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
posted by JCJ at 14:37 | Editorial&Column | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月06日

【映画の鏡】『区議選に出たい』─帰化した中国人が、歌舞伎町で民主主義を訴える=今井 潤

 中国から日本にやってきて、新宿歌舞伎町で外国人観光客を相手に飲食店や風俗店の案内をつとめてきた李小牧(りこまき)さん(58)は新宿区議選挙に出ることを決意した。そして2015年2月日本国籍を取得して、旧民主党・海江田万理衆院議員の推薦を受けた。
 この李さんの選挙活動を2年間取り続けたのは同じ中国人の邢菲(ケイヒ)監督。ノーコメント、実音のみのドキュメンタリー作品だ。

 李さんは歌舞伎町の従業員や外国人はなぜ差別を受けているのか、日本の若者はなぜ自分の選挙権を大事にしないのか、真剣に選挙の意味や日本の社会問題を考えていた。
 実際に街頭で訴えると、「中国人が何を?」「中国へ帰れ!」など冷ややかな声をかけられ、演説を聞くこともない。おばさんからは「中国人は声が大きく、自分たちの主張だけを言うので嫌いだ」といわれる始末。同じ旧民主党の候補者と街宣場所での対立もあり、思うような選挙活動もできない。それでも旧民主党の公認をもらい、ポスターにシールを貼ることができた。

 投票日には1000票を超える得票を得たが、当選はできなかった。李さんは「自分は中国人でも日本人でもある。私が当選したら、日本は民主主義だということがわかる」と笑顔で話し、しぶとく日本で政治家を目指す。邢菲監督は中国専門の番組制作会社テムジンで中国に関するテレビ番組や日本の震災関連のドキュメンタリーなど20本以上制作し、2013年に退社し、イギリスへ留学、本作が初監督作品。
(公開は12月1日(土)から東京ポレポレ東中野)

今井 潤

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
posted by JCJ at 13:27 | Editorial&Column | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする