2018年12月05日

【ベトナム発】枯葉剤被害者「救済マラソン」大会 ホーチミン市で高橋尚子さん支援=中村梧郎

 熱帯ベトナムは暖かい。1月だというのにホーチミンの人々は軽やかな半そで姿だ

あのドクちゃんも
「ドクちゃん、走るの早過ぎない?」
 Qちゃんが、松葉杖で懸命に走るドクちゃんに声をかけた。Qちゃんとは言わずもがな、シドニーオリンピックの女子マラソン金メダリスト高橋尚子さん。ドクちゃんは「ベトちゃんドクちゃん」で有名になった結合体双生児の弟のほう。分離手術後二人とも元気に育ったが、ベトさんは2009年に他界、ドクさんは結婚して2人の子供の父となっている。
 今年1月14日にホーチミン市で開催された枯葉剤被害者救済「オレンジ・マラソン」。趣旨に共鳴したQちゃんとドクさんは先頭に立って走った。
「僕よりもっと大変な被害者がいっぱいいる。その人たちの助けになるのなら」と、ドクさんは言った。だが松葉杖を握って200bほど走った彼は、座り込んでしまう。6回も受けた尿道の手術部分がうずく。「痛くてだめだ」と珍しく弱音を吐いた。
 オレンジ・マラソンとは、2つの意味を隠し持つ。ひとつは、オレンジなど果物豊かなベトナムの意味。もうひとつはオレンジ剤(枯葉剤)を表す。

日本から20数人
 パルス・アクティブ社が主催する7000人のホーチミン市民マラソンに合流してオレンジ・マラソンの参加者は走った。コースはフルとハーフ、10`、5`から選べる。日本からのランナーは20数人。ベトナムの障害者たちも一緒に走った(歩いた)。救済資金は参加費に含まれている。だから大勢になれば救済金は増える。マラソンしながら、知らぬ間に被害者を支えることになる、というのがこのイべントのユニークさだ。
 気温20度、曇り空。
 当日は絶好のマラソン日和だった。日の出後の気温上昇を警戒して、フルマラソンは朝4時半の暗いうちにスタートした。障害者たちが参加したのは8時出発の5`ラン。10数人がオレンジ色のシャツと帽子をつけて市民にアピールした。
 車椅子での参加者や手を引かれて走るブラインド・ランナーにQちゃんは声をかけた。沿道の人々の拍手と声援が途切れることなく続いた。
 日本の市民組織「オレンジ・マラソンの会(会長・古田元夫・日越大学学長)」が提起したチャリティー・マラソンの企画に呼応して、ホーチミンには市民組織O・T=オレンジ・イニシアティブ=が結成された。代表はトン・ヌ・ティ・ニン女史。ベトナム戦争終結のパリ会談にも関わった元EU駐在ベトナム大使である。O・Iに対しては、参加者から100万円の義捐金が贈られた。
 男女の人気歌手のアトラクションも会場をどよめかせた。障害児全員の首に銀メダルがかけられた。子どもらはナマの体験に大喜びだった。

NHKなどが放映
 枯葉剤の犠牲者を支援することに注目したNHKは1月26日の「おはよう日本」で10分の番組を流した。TBSは高橋尚子に密着、3月のNEWS23で放映した。ベトナムのテレビ各局も速報。トイチェ紙はスポーツ面トップで「金メダルの尚子、障害者と走る」と報じた。リラン・バクレー監督のドキュメンタリー映画班も現地撮影を開始、この夏にはパート・1が完成した。今は続編制作のカンパを募っている。
 2019年1月、今度の正月にもオレンジ・マラソンは開催される。参加締め切りは12月7日だ。(問い合わせは電話03-3357-3377富士国際旅行社・オレンジ・マラソンの会)
 ランナーが走り抜けるコースは、戦争中は椰子の木に覆われていた湿地帯。米軍を脅かす解放戦線軍の縄張りだった。今は高層マンションが並ぶ住宅地に変貌している。
 50年前のサイゴン(現ホーチミン市)は大混乱だった。1968年、解放戦線の「テト攻勢」が始まった。解放側は都市を襲撃、サイゴンのアメリカ大使館はわずか9人の兵士に占拠されてしまう。その衝撃でジョンソンは大統領選を断念、米軍のベトナムからの撤退につながった。

障害児後をたたず
 当時は枯葉作戦が激しかった時期でもある。森に潜む解放軍を殲滅するために全森林を砂漠化せよ、と米軍は考えた。しかも、枯葉剤にはダイオキシンが含まれていた。ベトナムの被災者は480万人、ダイオキシン総量は500キログラムに達した。
 アメリカは汚染されたベトナム帰還兵に対しては充分な治療と補償を行なった。しかしベトナムへの補償は拒否している。
 今や完全復興したべトナム。ホーチミン市にはシャネルやグッチの有名ブランド店が並ぶ。バブルとされる急成長が戦争の傷跡を隠すのだろうか。一方で世代を次いで生まれてくる障害児。毎年のマラソンが支援の一助になるようにと、主催者らは夢を膨らませている。

中村梧郎(フォトジャーナリスト)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
posted by JCJ at 13:50 | Editorial&Column | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月04日

【リレー時評】「元徴用工」判決 日本社会を逆照射=吉原 功(JCJ代表委員)

 韓国大法院(最高裁)は10月30日、元徴用工4人が新日鉄住金(旧日本製鉄)に対し損害賠償を求めた訴訟の、上告審で控訴審判決を支持し同社に1人当たり1億ウォン(約1千万円)の支払いを命じた。この判決が日本社会の現在を逆照射している。
 判決に対し安倍首相は「1965年の日韓請求権協定によって完全かつ最終的に解決している。国際法に照らしてありえない判断」と言い、河野外相は駐日韓国大使を外務省に呼びつけ抗議、「日本企業に不利が生じないよう、韓国政府が必要な措置をとるよう要求」した。テレビも政府に呼応して「異常な判決」を言い立て、「過激な労働組合を許しているから」とか「日本企業は韓国から引き上げよ」などと説明・主張するコメンテーターまででてきた。

 さすがに新聞はもう少し冷静だが、日韓関係を悪化させるものとする点では一致しているとみていいだろう。過去の植民地支配への反省、否むしろ認識の欠如、その犠牲者への無関心も、一部を除いて、共通している。
 日韓請求権協定は両国の国交正常化交渉に伴って結ばれたものだが、判決はこの点に関して次のように指摘している。「交渉過程で、日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員被害の法的賠償を根源的に否定した」、したがって「強制動員の請求権が協定の適用対象に含まれたとは言い難い」と。
 また原告は「朝鮮半島が日本の不法で暴圧的な支配を受けていた状況で、労働の内容や環境をよく知らないまま日本政府と日本製鉄の組織的な欺きにより動員され」徴用工になったのであり、「生命や身体に危害が及ぶ可能性が非常に高い劣悪な環境で、危険な労働に従事した」と説明している。

 一方、安倍政権は「徴用工」という従来の呼称を「旧朝鮮半島出身労働者」と言い換えはじめた。今回の原告は徴用ではなく「募集に応じた人々」だからだという。戦争による労働力不足を補うために朝鮮に労働力の提供を割り当て本格的な調達をはじめるのは39年からだった。確かに当初は「募集」、ついで「官斡旋」といい、国家総動員法に基づく国民徴用令が朝鮮に適用されたのは44年9月以降である。
 しかし、いずれにしても天皇制ファッシズム下のことであり、「判決」が指摘しているような「募集」状況、労働実態であったことに変わりはない。11月13日付東京新聞「こちら特報部」で田中宏氏が指摘しているように「労働者」という言葉は「企業と個人の自由な労働契約をイメージ」させる。戦時日本があたかも平時と同じような時代と思わせる戦略の一端であろう。

 韓国政府が認定した元徴用工は22万人いて、今後、提訴が相次ぐ可能性があるという。松代大本営の造営にも朝鮮から7000余の人々が動員され強制労働に従事させられた。その歴史館に来て「お金を払ったのだから問題ない」「強制労働とはいえない」という若者が多いと聞く。
 近現代についての歴史認識を正していきそれにふさわしい対応をしていかねば日本はアジアの孤児になってしまうだろう。松代の歴史を掘り起こし展示活動に寄与しているのは高校生・卒業生たちであることも付言しておこう。
posted by JCJ at 09:31 | <リレー時評> | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月03日

【追悼文】 電通労組では「武闘派」で鳴らす 運営委・坂本陸郎さん逝去を悼む=三枝和仁

JCJ(日本ジャーナリスト会議)広告支部から運営委員に選出されていた坂本陸郎さんが10月17日に亡くなりました。4年ほど前にかかった甲状腺ガンが転移し、その発見から4カ月足らずでした。入院中でしたが、前日までお孫さんと話をしており、ご家族にとっても突然の他界だと聞きました。幼年には満州から母一人子一人で大変な引きあげを経験しており、78歳と今では、はやい逝去です。

広告支部の坂本さんは広告代理店電通に長年勤務していました。現役の時は労組活動を支え、いまは東京を離れ実家近くに帰った矢野英典さんとともに電通労組の中では武闘派で、要求実現のため様々な闘争を組み上げました。そのため、昇格は会社から拒否され、勤務時には現場を続けました。勤務の後半は会社地下にある新聞広告掲載紙を新聞社から受け取り、各広告主担当営業に配布する業務に従事させられました。しかし、社内の同期や知り合いが終業後に坂本さんのところに訪ね、歓談しながら杯を傾けると、社内でも人望ある平社員でした。

定年前後から矢野さん、川田マリ子さんに誘われJCJの運動に参加してくれました。坂本さんはJCJの運営委員を担っていただくと共に、矢野さん、川田さんと共に広告支部の中心となって広告支部を引っぱってくれました。労働組合の経験からか討議や研究活動が好きで、「広告支部ニュース」の編集長を務めてくれました。最近では沖縄の歴史に注目し、広告支部ニュースに沖縄の現状にいたる歴史の研究を連載していました。それが途中で絶筆となってしまいました。

 ご冥福をお祈りします。

三枝和仁(広告支部)


JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
posted by JCJ at 12:48 | お知らせ&行動要請 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月02日

【今週の風考計】12.2─「Forest Light 01」中の<12・8>

年内最後の「Forest Light 01」が7日から始まる。日本の陸上自衛隊と米軍海兵隊との共同演習である。大分県・日出生台演習場を舞台に、米軍輸送機オスプレイとの連携を組み込んだ実働訓練には、陸上自衛隊750人・米海兵隊250人が参加する。
大分県は、沖縄の基地負担軽減のため、すでに13回も米海兵隊の実弾射撃訓練を受け入れている。さらに危険性の高いオスプレイの訓練を追加する事態に、住民の怒りや反対の行動が盛り上がっている。

何あろうこの日、77年目の「リメンバー・パールハーバー」。ハワイ・オアフ島・真珠湾のアリゾナ記念館では、犠牲者追悼式が行われている。ところが日出生台演習場では、日米両国が協働して戦争遂行の訓練をしている。真珠湾を襲った日本軍の空母6隻・艦載機399機への怨念はどうなったのか。

あろうことかトランプ大統領は「F35の大量購入」に感謝の言葉まで述べる事態だ。それもそのはず安倍政権は、すでに最新鋭ステルス戦闘機F35・42機の購入(6千億円)に加え、さらに100機も追加導入(総額1兆円)する。トランプ大統領は真珠湾の怨念どころか、「ディール」の成果に笑みがこぼれるのだろう。
また日本の護衛艦「いずも」(2.6万トン)を、艦載機が発着艦できるようにする空母への改造計画も進む。あの購入すると決めた最新鋭ステルス戦闘機F-35Bが、空母「いずも」に垂直離発着できる。攻撃能力を備えた戦闘機の離発着は、「自衛のための必要最小限度を超える」どころか、「専守防衛」から大きく逸脱する。

米国と日本が主導して、中国を包囲する「インド太平洋戦略」に向けた戦力増強に他ならない。アジア太平洋戦争の口火を切ることになった、<12・8>への痛恨の思いは、日米の為政者にはひとかけらもない。(2018/12/2)


posted by JCJ at 14:27 | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【リアル北朝鮮】 元徴用工裁判に踏み込む 南と共に日本の過去を清算=文聖姫

 10月30日、韓国大法院(最高裁)は元徴用工への賠償を新日鉄住金に命じる判決を下した。同様の訴訟は、約80社を相手に14件が係争中で、賠償命令はさらに続くものと思われる。

 この問題に関して、北朝鮮でも最近、立て続けに論評を出している。例えば、朝鮮労働党機関紙・労働新聞11日付は、「歴史に刻まれた特大型の過去の罪は決して覆い隠すことはできず、消し去ることもできない」として、「日本帝国主義への恨みと憤りを抱えているわが民族は、日本の過去の罪に対する謝罪と補償を千百倍にして受け取るだろう」と指摘した。

 国営・朝鮮中央通信は13日の論評で、「日本は当然、朝鮮人民に与えた人的、精神的、物質的被害に対して徹底的に謝罪し、国家的賠償をしなければならない」「日本にとって過去の清算は、絶対に避けられないし、避けてもならない問題」「代を継いで罪の償いを必ずさせるのが朝鮮民族の意志だ」などと主張している。

 目を引くのは、「わが民族」「朝鮮民族」という言葉だ。南北が力を合わせて日本の過去の清算に取り組もうと呼びかけているようにも見える。

 今年、南北関係は劇的に改善した。北朝鮮は、金正恩朝鮮労働党委員長が元旦の新年の辞で示唆したとおり、平昌冬季オリンピック・パラリンピックに参加した。それが皮切りとなって南北首脳会談が実現し、4月、5月、9月とすでに3回開催されている。もはや定例化したと言ってもよい。首脳会談は年内にもう一度、それもソウルで開催される予定だ。北朝鮮の最高指導者がソウルを訪れるとすれば、歴史的なことだ。

 日本は北朝鮮と過去の清算を果たしていない。今年、南北、中朝、米朝関係は進展があったが、日朝だけは進展の動きがみられない。北朝鮮メディアや関係団体は、過去の清算の重要性を強調し続ける。南北が共闘して、日本から謝罪と補償を勝ち取るべきだと呼びかけている。

文聖姫(ジャーナリスト、博士)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号

 
posted by JCJ at 11:02 | Editorial&Column | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月01日

12月18日 JCJ全国交流集会・東京報告会=橋詰雅博

JCJ全国交流集会の参加者50人は、10月19日から20日、2016年4月に大地震に襲われた熊本県と昨年7月の九州北部豪雨に見舞われた福岡県朝倉市などや大分県日田市の各被災地を訪れました。現地メディアや地元住民、医師、医療関係者などと交流を深めました。

災害に対して、安倍晋三政権は「自助、共助、公助」が方針で、国が手助けするのは「最後」という冷たい態度≠ナす。こうした下での被災地の復旧と復興はどうなっているのか、そして「災害報道」のあり方などを現場や集会で語り合いました。今回の全国交流集会を切り盛りした北九州支部の杉山正隆さんらが動画と写真などを見せながら報告します。ぜひ参加を。

日時:12月18日(火)18時から21時
場所:築地社会教育会館・視聴覚室(東京都中央区築地4−15−1 電話03−3542−4801)
posted by JCJ at 16:30 | お知らせ&行動要請 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【おすすめ本】尾林芳匡・渡辺卓也編著『水道の民営化・広域化を考える いのちの水をどう守るか』─あらためて水の大切さを考えよう! 問われる水道法改正の狙い=栩木 誠

 安倍政権が「働き方改革関連法案」や「カジノ法案」など、W悪法“を成立させた前期国会で、「重要法案」と位置付けながらも、継続審議になった法案がある。「水道法改正案」である。

 「押し寄せる老朽化」「水道クライシス」「水道料金値上げ続々。背景に老朽化、人口減」…近年、水道を巡る見出しが、メディアで踊る。
「1990年代は水道民営化の10年」ともいわれるように、世界各地で、グローバル水道企業による民営化が進められた。しかし、欧州や中南米など世界各地で、水質悪化・料金高騰などの問題が表面化し、失敗が明白になった。今や「再公営化」の流れが強まっているのである。
 しかし、日本では世界的な教訓を学ぶことなく、未だ民営化推進の動きが続く。「水道法改正案」でも、地方公共団体が水道事業者ではあるものの、運営を民間事業者に任せる「官民連携」と、事業の「広域化」が2つの柱になっている。すなわち「庇を貸して母屋を取られる」ように、実質、民営化への道につながりかねないのである。

 本書は、「市民が止めた水道民営化」や「水源を守る運動」など、水道の民営化・広域化を巡る問題で、着実に成果をあげる、全国各地の住民などの実践例を追い、成果の分析をしている。
 そうした積み重ねの上に論点を明確に整理し、「民営化・広域化を前提としない、各地の水道事業への国の財政支援の拡大強化」の必要性を提言する。「21世紀は水の世紀」といわれる。「いのちの水」を守るためにも、まず改正案の成立を阻止し、国民的な議論を深めることが緊要になっている。
(自治体研究社1700円)
「水道の民営化…」.png
posted by JCJ at 10:44 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする