2018年12月31日

【国際情勢】 元徴用工の痛みを無視 日本報道 韓国側非難に終始=竹内康人

 2018年10月末、韓国大法院(最高裁)は、強制動員を不法な植民地支配と侵略戦争による反人道的不法行為とし、日本企業に対する強制動員被害者の慰謝料請求権を認定し、新日鉄住金に賠償を命じた。11月に入り、三菱重工業に対しても同様な判決を出した。
「強制動員慰謝料請求権」が確定したのである。それは戦争被害者の30年に及ぶ尊厳の回復をめざす運動の成果である。まさに歴史的、画期的な判決だ。

日本政府「解決済み」
 これに対し、安倍晋三首相は、日韓請求権協定により完全かつ最終的に解決している、国際法に照らせばあり得ない判断、徴用工ではなく旧朝鮮半島出身労働者の問題などとし、韓国政府を批判した。
 それを受け、メディアも「韓国は法治国家なのか」、「ボールは韓国にある」などと宣伝した。強制動員被害の実態を示すことなく、韓国側を批判する記事が多い。
 しかし問われているのは、日本の植民地責任である。
 
 日韓条約の交渉で、日本政府は韓国併合を合法とし、その立場を変えることなく日韓請求権協定を結び、賠償ではなく、経済協力金を出すとした。
 日本政府はいまも、植民地支配を合法とし、その下での動員も合法とする。そのうえで、請求権協定で解決済みと宣伝し、戦時の強制労働も認めようとしない。その責任をとろうとしないのである。
 このような植民地支配を不法と認めない対応が、逆に今回の韓国の大法院判決をもたらしたとみることができる。

 大法院は、日韓請求権協定で扱われたのは民事的な債権・債務関係であり、不法な強制動員への慰謝料請求権は適用対象外としたのである。
 このような判断は論理上、あり得るものであり、請求権協定に反する判断でもない。
 戦時に日本は総力戦をすすめ、朝鮮人の名前まで奪うという皇民化政策をすすめた。
 国家総動員態勢により、朝鮮からも資源を収奪し、朝鮮から日本へと約80万人を労務動員した。また、軍人や軍属で37万人余りを動員した。
 それは甘言や暴力などの強制力なしにはできないものだった。独立を語る者は治安維持法違反とみなされ、処罰された。
 日本の朝鮮統治を合法とすることは、三・一独立運動を不法とみなすことになる。それは三・一独立運動を国家形成の起点とする韓国政府を否定することにもなる。
 植民地合法論では、日韓の友好関係は形成しえないのである。

敗者をすり替える
 NHKは10月30日の「元徴用判決の衝撃」で、痛手を被ったのは被告企業ではなく、むしろ韓国政府だともいえるのでは、と解説した。判決に従えば、際限のない賠償責任を負わされるとし、問題が蒸し返されたとする側に立った。
 そして、企業は日本の裁判所が認めない限り、日本国内で賠償に応じる必要はない。元徴用工は韓国政府による救済措置に不満を持っている。韓国政府には被害者を救済する責任があると、結論づけた。
 NHKは、安倍政権の主張に同調し、韓国の判決の歴史的意義を明示することなく、敗者をすり替えたのである。

 朝日新聞の10月31日のソウル発の記事には、司法の命によって請求権協定が破壊され、日韓関係が破綻に近い打撃を受けかねないと記されていた。
 だが、今回の判決で破綻するのは、権力の側の論理だ。植民地合法論の下での経済協力金では、解決されないものがあるとされ、該当企業は賠償を命じられたのである。
 記事は権力の視座に立つのではなく、被害者の痛みに共感するものであってほしい。
日本の外務省も、2018年11月14日の衆議院の質疑で、請求権協定では、個人請求権は消滅せず、この協定に慰謝料請求権は含まれないことを認めた。
 しかし、メディアはこれを大きく報じなかった。
 安倍政権は、外務省が認めたように、慰謝料請求権については請求権協定では解決されていないという見地に立ち、問題を整理すべきである。

新たな合意形成を
 大法院判決により、強制動員慰謝料請求権は確定した。これを基礎に日韓両政府は、65年協定を克服する新たな日韓の合意形成に向かうべきである。
 植民地責任を明らかにし、植民地主義を克服する動きは、国際的潮流となった。被害者の目線に立ち、強制動員被害の包括的解決に向けて基金の設立など日本政府は改め知恵を絞るべきだ。
 強制動員について、その強制性を示す証言や資料は数多い。ジャーナリストはそのような証言や資料をぜひ紹介してほしい。そのペンの力は、未来を構想する共同性を導く。

竹内康人

たけうち・やすと
1957年生まれ、近代史研究、強制動員真相究明ネットワーク会員。著書に「調査・朝鮮人強制労働@〜C」「明治日本の産業革命遺産・強制労働Q&A」など。

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
posted by JCJ at 12:55 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【JCJ賞受賞者】 清水潔講演 独自の取材進め犯人特定 DNA型再鑑定求め逆転判決=編集部

 JCJは12月9日、東京・千代田区の専修大学で12月集会を開催した。「調査報道でえぐる社会の実相―桶川ストーカー殺人事件から冤罪、歴史検証まで」と題し、日本テレビ報道局特別解説委員・清水潔氏が講演した。

発表報道は伝聞だ
 清水氏はまず調査報道の対極にあるものとして発表報道をあげ、警察や企業の発表を伝えるのは伝聞であり、記者は自分が現場に行っていない。発表側が都合のいい情報を伝えたり加工したりすることがあり得ると指摘した。
 清水氏が写真週刊誌記者時代に追及したのは桶川で女子大生が刺殺された事件だ。興味本位の報道が過熱する中、清水さんは被害者の友人たちを取材。警察より早くストーカー犯たちを突き止めた。事件前に被害者がストーカー被害を警察に告訴していたが、警察は告訴状を改ざんしていたことが後日、判明した。

警察の調書を疑う
 DNA型鑑定についても当局発表は常に正しいとはいえない。北関東で起きた連続幼女殺人では、1990年に足利で起きた事件で菅家利和さんが逮捕され、自供とDNA型鑑定の結果、有罪判決を受け服役した。菅家さんはしかし、刑務所内で再審を訴えた。清水氏と日本テレビの取材班は、事件現場で再現実験をして菅家さんの自供の矛盾を指摘、最新の技術によるDNA型鑑定を求める報道を続けた。
 2009年に再鑑定が行われ、検察側、弁護側それぞれが依頼した鑑定人によって、遺留品に付着したDNAと菅家さんのDNAが一致しないと結論が下され、菅家さんは釈放された。
 92年に福岡県で発生し、久間三千年容疑者の死刑が確定・執行された飯塚事件では、容疑者の車の目撃証言の信ぴょう性を検証するため、番組で実験を行った。事前に容疑者の車を見た後で、警察官は調書を作成しており、警察による誘導が疑われる。

徹底的に裏取りを
 後半は南京事件を検証したNNNドキュメント制作について語った。
 清水氏は@戦後になってからの論争に巻き込まれないA被害者の証言より加害者の告白B可能な限り裏取りをするという方針で臨んだという。
 番組は長江河畔での中国人捕虜殺害に絞り、日本軍兵士の日記をもとに制作された。
 事件取材と同様の手法で歴史検証に取り組んだ清水さんだが、「なぜ日本軍が中国にいたのか」という大きな歴史の流れを学ばなければならないと強調した。(編集部)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
posted by JCJ at 10:50 | JCJ賞情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする