2019年01月01日

【メディアウォッチ】 米朝首脳会談 テレビはどう伝えたか 拉致問題に偏りすぎ 中韓からの視点欠く=古川英一

 「ようやく学校に出てきた不良学生みたいな感じ」「何をするのかわからない怖い国」―大学生が語った、北朝鮮に対するイメージだ。世界を驚かせた6月の米朝首脳会談。この会談をテレビはどのように伝えたのかを検証する公開シンポジウムが12月初め、東京の立教大学で開かれた。メディア社会学科の砂川ゼミ、放送を語る会、JCJ、メディア総合研究所の共催だ。

 まず放送を語る会の戸崎賢二さんが、米朝首脳会談の前後2週間のNHKと民放合わせて12のニュース・情報番組をモニターし、比較検証した結果を報告した。

ポイントは米朝会談の歴史的意義がどのように報道されたのかだとしたうえで、戸崎さんは、全体的に見て@会談の意義を大きな歴史的視点でとらえず、限界を強調するなど否定的に見る傾向が目立ったA圧力一辺倒の政策をとる日本政府に対する批判的な報道が少なかったB国内、世界の世論や識者の意見・見解の紹介が少なく、会談を多面的に捉えるうえで十分とはいえなかった、と指摘した。

さらにキャスターや記者にも政府の立場を反映した感覚が染みついているのではないかと述べ、記者に基礎学力と歴史的教養が備わっているのかどうかと、今のメディアの劣化に対しても疑問を呈した。

 続いてTBS「報道特集」キャスターの金平茂紀さんが講演した。日本人の中にある歴史的偏見と過去の清算が未解決であることや、拉致問題や核開発で政府が北朝鮮を仮想敵国化していると前置きし、金平さんは次のように分析した。

「国交がなく戦争も終わっていない米朝が会談をするという、それだけでも驚きの歴史的な首脳会談について日本は歴史的な評価ができない、ある種のバイアスがあるのではないか」

会談当日、金平さんは韓国で取材にしていたが、ソウル駅で市民が一斉に拍手をして喜んでいたのを見て、同じ民族同士の融和の基盤があることを感じ、自分はいままで韓国のことを知らなったと感じたという。

どのように報道するのか、パフォーマンスの裏

側や、真意、何が実質的成果なのか、そこに切り込むには複眼的な思考が必要なのに日本のメディアは拉致問題しか考えず、韓国や中国からの視点でも見るべきだと、指摘した。

シンポは、これだけでは終わらない。後半は金平さんと大学生たちとのパネルディスカッションだ。学生たちと横一列に並びながらの意見交換は、お互いが同じ目線で語り合う親近感を生み出した。

そこで出たのが、冒頭で紹介した学生たちの言葉だった。こうした感想を受けて金平さんは「韓国や北朝鮮については、偏見があり、たとえば慰安婦問題は人間の尊厳に関わるのに、『いい加減にしろよ』と向き合おうとしない、もし逆の立場だったら、なおざりにはできないではないか」と述べた。さらに「若い人たちが活字ではなくネットから情報を取り、ロジカル(論理的)な思考ができなくなっているのではないか」とぴしゃり。締めくくりの一言では学生たちから「ネットではなく足で稼ぐことの大切さを感じた」「北朝鮮について批判するだけではない見方をしていきたい」といった声が。金平さん「5年後にはピョンヤンにもマクドナルドができるのはないか、その日に取材にいければ」……歴史を作り上げいく現場で、私たち一人ひとりが、その証言者なのだと語った。

古川英一

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
posted by JCJ at 14:52 | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする