市民連合と立憲野党4党1会派は5月29日、安倍改憲反対や戦争法廃止など13項目の共通政策で合意した。その中で注目されるのは「新たな放送法制構築」で合意したことだ。
合意内容は「国民の知る権利を確保するという観点から、報道の自由を徹底するため、放送事業者の監督を総務省から切り離し、独立行政委員会で行う新たな放送法制を構築すること」となっている。
独立行政委員会で放送事業を監督する方式は、日本とロシア以外の先進諸国では共通して行われている。今回、参院選に向けた政策合意でこの問題が盛り込まれたのは画期的なことだ。
翼賛的な姿勢
そこで、市民連合の呼びかけ人として、政策合意のとりまとめにあたった山口二郎法政大学教授に話を聞いた。
山口氏は「安倍政権が今日まで長続きしている理由の一つに、メディアの翼賛的な姿勢がある。とりわけ、大きな力があるテレビは認可事業だから、政府の影響が及びやすい」と指摘し「メディアの批判的な機能が著しく低下しており、ここで放送制度を変えないと翼賛体質がさらに進む」と危機感を露わにした。述べた。市民連合がまとめた要望書に各党会派の代表が署名したことに、山口氏は「重みがある」と述べた。
民主主義のインフラ
そして、「安倍政権のメディア支配のやり方には、常軌を逸したところがある。この機会に、公平・公正なテレビとは何かを、きちんと議論しないといけない。民主主義のインフラですよ、これは」と強調した。
特にNHKについて山口氏は、「一番驚いたのは天皇代替わり報道で、天照大御神を天皇の祖先と伝えたことだ」と指摘し「言語道断。会長のクビが飛んでもおかしくない」。その上で「安倍政権6年。いろんなところで壊れたが、一番壊れたのがNHKだ」と批判した。
ネット常時同時配信
これに対し、NHKはどう対応するのか。
NHKを巡っては、改正放送法が5月末成立し、インターネットでの「常時同時配信」が認められ、NHKの全テレビ番組が放送と同時に、スマホやパソコンで視聴できるようになる。民放などのNHK「肥大化」批判に対し、上田会長は「放送の補完」を強調するが、新たな受信料収入に利用しようとするNHKの姿勢は強まるだろう。
実際、17年7月、坂本専務理事が「将来的には本格業務としたい」と述べてテレビを持たない世帯からも利用料を集める考えを示し、上田会長が火消しに回ったことがある(川本祐司「変容するNHK」より)。
板野専務衝撃復帰
その一方で4月、NHK内部にも衝撃が走る人事があった。板野裕爾氏が専務理事に復帰したのだ。NHKのあるOBは「わたしたちの宝物である国谷裕子さんを切り捨てることに、何のこだわりもなかった奴」と非難している。
官邸に太いパイプがある板野氏の復帰についてNHK関係者は「官邸が板野に貸しを作った」と見る。だとすれば、板野氏はどんな見返りを用意するのか。NHKと官邸の距離をさらに縮め、忖度を強める。安倍政権に不都合な事実は伝えない…。
NHKが目指す「公共メディアとは名ばかりの「国策報道メディア」に仕立て上げて借りを返すつもりなのか。
山口氏は「異常な安倍政治が続く今こそ、権力者に対するメディアの独立性を再構築しないといけない」と強調。独立行政委員会による新しい放送法制の構築に、市民の理解と参加を呼びかけた。
河野慎二
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年6月25日号