2019年08月31日

【内政】SNS発信力で無党派まき込む れいわ新選組「着火剤」に活用 N国 炎上動画平気でアップ=畠山理仁

 インターネットの発信力が、テレビや新聞による「諸派の黙殺」を凌駕した。これが今回の参院選最大の特徴である。
 本来、すべての候補者は同じ条件で立候補している。しかし、既存メディアは政党要件を満たさない政治団体を「諸派」と位置づけ、ほとんど報道してこなかった。

 そんな中、今回は諸派の扱いを受けた「れいわ新選組」と「NHKから国民を守る党(N国)」がインターネットを活用して議席を獲得した。両党ともに政党要件(得票率2%以上)をクリア。これは参院選に非拘束名簿式が導入されて以降、初めての快挙である。
 参院選の期間中、れいわ新選組の山本太郎代表は街頭で何度も叫んだ。
「経団連に都合の悪いことを言う我々は『放送禁止物体』。テレビには映らない。だから、あなたの力で広げて下さい!」
 街頭演説終了後には、聴衆と写真撮影の時間を取った。それをSNSで拡散してもらうことで、選挙に出ている事実を世間に広げた。既存メディアに頼らない情報拡散の輪が広がっていた。

 インターネットを使った選挙運動が解禁されたのは、2013年4月の公職選挙法改正だ。それから6年が経ち、業界では「投票行動に与える影響は大きくない」というのが通説となっていた。
 この常識を大きく変えたのは、山本代表のプロデューサーとしての力だ。れいわ新選組はSNSでの発信を、支持拡大のための着火剤として活用していた。

寄付3万3千人超
 4月に山本代表が一人で立ち上げたれいわ新選組は、参院選の選挙資金を寄付で賄うことをインターネットで発表した。
 公示前日までに集まった寄付額は2億3133万円。選挙が始まると、SNSで街頭演説の告知を見た人たちが続々と街頭演説に駆けつけた。聴衆が1000人を超えることもあった。演説動画はネット上にアーカイブされ、ボランティアによる演説の文字起こしも迅速に掲載された。投票日前日には、寄付金額が4億円を超えた。
 しかし、それでもテレビや新聞は報じない。自主規制に縛られ、世の中の事象を速報する役割をほとんど放棄していた。

 山本代表の戦略が成功した理由は、ネットでの盛り上がりを過信しなかったことだ。ネットはあくまでも有権者を街に引き出す手段。実際の勝負は地道な草の根活動だ。そのため、有権者を巻き込むことに心を砕いた。
 まずは4月の結党会見で「候補者を何人擁立するかは、皆様の寄付額で決めます」と全国に呼びかけた。ゲームの行方を有権者に委ねるやり方は「AKB総選挙」にも似ている。誰もが当事者として参加でき、結果に関与できる仕組みだ。
 街頭演説会場には、ボランティアの登録窓口と寄付窓口を設置した。政治への不満は持ちつつも、政治と関わる入り口を見つけられなかった有権者たちが列をなした。
 寄付の最低金額は数十円。高額の寄付者は多くない。しかし、少額寄付を中心に、寄付者の数は3万3千人を超えた。

 候補者には、生きづらい日本の象徴である「当事者」を擁立した。しかも、ほぼ無名の新人だった。各候補者のドラマに感情移入した有権者は、ますます「政治は自分たちのものだ」という当事者意識を刺激された。
 比例で優先的に当選する特定枠に、2人の重度身体障害者を据えたことも大きい。山本代表が捨て身で臨むことで、支援者たちはさらに燃えた。
 こうした戦略には、つねにブレーンの存在が囁かれる。しかし、山本代表は笑って否定した。
「そんな人がいたら紹介してほしい。候補者は全部自分で口説いています。次の総選挙では、最大で100人立てたい」

反NHK票見込む
 N国の立花孝志代表はユーチューバーだ。13年の結党時から「19年の参院選で1議席取る」と豪語してきた。
 そこから6年間、地方議会選挙への挑戦を続け、仲間を増やし、勝ち方を研究してきた。候補者の携帯番号を公開し、有権者との距離も縮めた。
「地方議員はオイシイ仕事。当選するのは簡単」と立花代表は言う。
 実際、4月の統一地方選挙では、N国から26人の当選者が出た。その歳費の一部がN国の運営を支えている。

 躍進の背景には、国民のNHKに対する根強い反感がある。そのため、党の存在が認知されれば一定の得票が見込める。だからN国は炎上する動画も隠さずアップする。
 視聴者が増えれば広告収入が増える。敵が増えても党の存在は広まる。どちらに転んでも、N国は損をしない仕組みだ。

 当選後、N国は丸山穂高衆院議員を入党させ、渡辺喜美参院議員と新会派を結成した。タレントが批判的な発言をすれば、テレビ局に出向いて抗議もした。炎上上等な姿勢は以前と変わらない。
 政党要件をクリアした今、メディアは無視できない。両党が本格的に暴れるのは、これからだ。

畠山理仁(フリーランスライター)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年8月25日号
posted by JCJ at 14:52 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月30日

ジャーナリスト講座「韓国・朝鮮を取材する視点」

《19年秋のJCJジャーナリスト講座》
「韓国・朝鮮を取材する視点」
★10月6日(日)午後1時半から4時半★
講師:毎日新聞・鈴木琢磨記者
会場:東京都千代田区の日比谷図書文化館・4階小ホール
(日比谷公園内=最寄りは地下鉄内幸町駅か霞ヶ関駅)
日朝関係は意思疎通が全く進まず、一方で日韓関係も悪化の一途をたどる。その中で記者はどのような視点で問題を掘り下げ、取材すべきか、長い体験を踏まえて、お話ししていただく。
鈴木琢磨記者は毎日新聞夕刊(8月8日付)で、戦後プロレスのヒーローだった力道山(1924〜63年)を取り上げ、日本と韓国、北朝鮮との懸け橋になろうとした彼の生涯をたどっている。前回の東京五輪に向けて、朝鮮半島出身の力道山は「政治の道具」として引っ張りだこになった。南北統一チームの夢は実現しないまま、暴力団に刺され、五輪を前に亡くなる。人々の喜びや悲しみの現実。報道を考えるヒントにしていきたい。鈴木記者は今年8月半ばにもソウルを取材した。現地の生の空気を伝えていただく。内容はメディア志望の学生向けですが、一般の方の参加も歓迎します。

【鈴木琢磨氏・略歴】
1959年、滋賀県大津市生まれ。大阪外国語大朝鮮語学科を卒業し、1982年に毎日新聞に入社。サンデー毎日時代から北朝鮮問題を取材。著書に「テポドンを抱いた金正日」「今夜も赤ちょうちん」「日本国憲法の初心」などがある。

 定員:50人(要予約)  参加費:1000円
参加ご希望の方は氏名、大学名(一般の方は職業など)、連絡先電話番号、メールアドレスを明記して、sukabura7@gmail.comにメールで申し込んでください。
主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)  電話03・3291・6475    
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2019年08月29日

【リアル北朝鮮】 9月以降の動きに注目 文大統領の呼びかけ拒否=文 聖姫

 日本が「終戦記念日」と称する8月15日は朝鮮半島で祖国解放記念日にあたる。韓国では光を取り戻した日として「光復節」と呼ぶ。

74年目のこの日を私は韓国の済州島で迎えた。街中に太極旗(韓国国旗)が掲げられている以外、イベント開催などの動きは済州島では見られなかった。知り合いに聞いても道庁主催の公式行事以外は特に企画されていないという。

だが、日本による半導体材料の輸出規制、ホワイト国からの韓国除外といった措置が取られたことに対し、韓国内では日本製品不買の動きなどが徐々に広がっていた。知り合いによると、商店で売っていた日本のビールが姿を消した。夏休みに家族で沖縄を旅行する予定だったが、取り消したそうだ。韓国・仁川と地方都市を結ぶ格安航空会社(LCC)便の運休も相次いでいる。

文在寅大統領は15日の光復節慶祝辞で、「日本が対話と協力の道に進むなら手をつなぐ」と、日本政府に呼びかけた。日本ではこのことばかりが強調されるが、むしろこの演説は北朝鮮への「ラブコール」といった側面が大きいのではないかと感じた。核を放棄しさえすれば、繁栄する経済強国を共に作れるのだというメッセージだ。文大統領は演説の最後でこう述べている。「我々の力で分断に勝ち、平和と統一に進むことが責任ある経済強国への近道だ。我々が日本を飛び越える道であり、日本を東アジア協力の秩序へと導く道だ」。南北が力を合わせれば日本に勝てるのだと北朝鮮に呼び掛けている風にも聞こえる。

しかし、北朝鮮は16日、祖国平和統一委員会報道官談話で文大統領の演説を強い調子で非難した。「いまこの時刻にも南朝鮮で我々(注:北朝鮮)に反対する合同軍事演習が行われている時に対話の雰囲気や平和経済や平和体制などとどの面下げていえるのか」。これがいまの北朝鮮の思いだ。軍事演習が終わる8月末までは動きはないだろう。

文聖姫(ジャーナリスト・博士)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年8月25日号
posted by JCJ at 14:28 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月28日

【沖縄リポート】 ストップ 海中不発弾の爆破処理=浦島悦子

 ジュゴンの死体漂着から4カ月を経た7月17日、解剖が実施され、同29日、実施主体である環境省(沖縄事務所)・沖縄県・今帰仁村の三者は解剖結果を報道発表した。

それによると、沖縄近海に生息するオグロオトメエイの尾棘刺入に起因する死亡の可能性が最も高いという。多数の鋸歯状の突起を有する長さ約23センチの尾棘が腸管を突き破って腸内を移動し、腸の内容物が腹部全体に充満していたというから、その痛み・苦しみは想像を絶する。死体漂着4日前に水中録音されたジュゴンの頻繁な鳴音は、断末魔の叫びだったのだろう。

沖縄美ら島財団、鳥羽水族館、国立科学博物館の獣医師6名が携わったという解剖結果におそらく間違いはないと思われるが、しかし、これで「幕引き」させてはならない。

亡くなったジュゴンの生息域は辺野古への土砂運搬船の航路と重なっており、直接の接触がなかったとしても運搬船の頻繁な航行が海生生物の生態を攪乱し、通常ありえない事故が起こった可能性は充分ある。今回の事故を遠因も含め究明すること、基地建設の進行に伴って行方不明になった2頭のジュゴンを含め、それ以外にも少なくないジュゴンの目撃情報をもとに琉球諸島全域調査を行うことを環境省や沖縄県に強く求めたい。

そしてもう一つ、ジュゴンの脅威となっているのが、不発弾の海中爆破処理だ。この8月1日にも中城村沖で実施されたが、沖縄戦の悪しき「置き土産」である不発弾は陸上だけでなく沿岸海域にも未だ多数残留しており、海で見つかったものは海上自衛隊が爆破処理するのが通例となっている。しかし、これによって沿岸域に住むジュゴンに直接影響するだけでなく、餌場である海草藻場を含め、沖縄の観光資源であるサンゴ礁生態系そのものを破壊してしまう。

水中にある不発弾はダイナマイトを仕掛けて誘爆しない限り爆発しないため、放置または海溝のような深い場所に移動して「水畜」するのが国際的な常識だという。この常識を行政や市民に広く知らせ、海中爆破処理をなくしていきたい。

ジュゴンの生存の脅威となる要素を一つひとつ取り除いていくことが、彼らを絶滅の危機に追い込んだ私たちの責任だと痛感している。

浦島悦子

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年8月25日号
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2019年08月27日

【編集長EYE】 米国への忖度で「ひろしま」幻の映画に=橋詰雅博

 幻の映画「ひろしま」を10日午後、都内で見た。奇しくも、その日の夜11時、NHKがETV特集「忘れられたひろしま=`8万8千人が演じたあの日=`」(映画はETVで17日深夜放映)を放送した。上映を主催した憲法を考える会が配布した資料と特集番組から「ひろしま」が製作された経緯はこうだ。

 映画の原作は「原爆の子〜ヒロシマの少年少女のうったえ」だ。自らも被ばくした教育学者・長田新が原爆の惨状を残したいと、子供たち105人の被ばく手記を編纂し、本は1951年に出版された。累計27万部売れ、原爆の恐怖と悲惨さを多くの国民に知らせるきっかけになった。手記を寄せた少年が映画化を発案し、日本教職員組合が製作に乗り出す。カンパを募り、総額4千万(現在の貨幣価値で2億5千万)の製作資金を集めた。監督は「きけ、わだつみの声」などの作品を手がけた関川秀雄、助監督に熊井啓、音楽が伊福部昭で、一年後にあの「ゴジラ」のテーマ曲をつくった。当時の人気女優・月丘夢路が主演し、8万8千の市民が出演。これは日本映画史上空前絶後のスケールだ。原爆が投下された直後の広島市を再現した映画は53年に完成した。

 ところが国内上映直前にアクシデントに見舞われる。試写を見た大手映画会社が反米的と配給を拒否。どこがそうなのか、例えば「日本人が新兵器の『モルモット実験にされた』」というセリフを挙げた。

 筆者はこうも感じた。上映時間104分のうち惨状シーンは30分も続き、強烈な印象を受け、見ているうちに原爆を投下した米国に怒りがこみあげてきた。

 映画は自主上映で公開され、55年ベルリン国際映画祭長編映画賞に輝いたが話題にならず、いつの間にか忘れ去られた。現在、原爆のむごさを後世に伝えるため映画関係者が上映会を各地で開いている。しかし、外交、経済、防衛などあらゆる面で日本は、米国への忖度を続けている。

橋詰雅博

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年8月25日号
posted by JCJ at 15:30 | Editorial&Column | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月26日

JCJ賞贈賞式に約500人が参集 前川喜平さん「報道と教育は民主主義守る両輪」と語る=編集部

8月17日、東京・内幸町のプレスセンターホールで第62回JCJ賞贈賞式を開いた。

吉原功JCJ代表委員の挨拶の後、元文部科学省事務次官の前川喜平氏が「私が見た『安倍官邸とメディア』」と題して記念講演。今、果敢に安倍晋三政権批判している前川氏の話を聞こうと、約500人が会場を埋めた。

一昨年、加計学園の新学部認可をめぐり、「総理のご意向」と書かれた文書の存在を認めた前川氏は、安倍官邸の指示と思われる自身に対するネガティブ報道の経緯を具体的に語った。

前川氏は官邸サイドが自分の周辺を調査しているらしいと聞いていたこと、NHKや週刊文春、月間文藝春秋のインタビューの模様などを具体的に語った。また、約6年半にわたる安倍長期政権で、政権寄りの官僚が多くなっている現実を指摘した。さらに前川氏は、民主主義社会において人々の考え方を形成する上で、教育と報道の役割が大きいとし、ジャーナリズムへの期待を語った。

続いてJCJ賞贈賞式。

今年は『図説17都県 放射能測定マップ+読み解き集』を上梓したみんなのデータサイト出版、秋田魁新報社イージス・アショア配備問題取材班、山形放送の「想画と綴り方〜戦争が奪った子どもたちの心=v、NHK・ETV特集「誰が命を救うのか 医師たちの原発事故」がJCJ賞を、東京新聞社会部の「税を追う」キャンペーンがJCJ大賞を受賞した。

 受賞作を作るために出版社を設立したみんなのデータ事務局長の小山貴弓、秋田魁新報社編集委員の松川敦志、山形放送報道制作局長の伊藤清隆(取締役)、NHK第1制作センター文化・福祉番組部の鍋島塑峰、東京新聞社会部の鷲野史彦の各氏が、JCJ選考委員から賞牌と賞状を送られた。   

編集部

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年8月25日号
posted by JCJ at 10:49 | JCJ賞情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月25日

【今週の風考計】8.25─2つのアマゾン、焼失と支配の恐ろしさ

●ブラジル・アマゾンで大規模な森林火災が発生している。年初からの8か月間で7万5000件も発生し、昨年比185%、過去10年で最大となっている。その主要な原因は、同国のボルソナロ政権が、環境保護より開発を優先し、森林を焼いて家畜の放牧地や畑を作るための意図的な放火を奨励したことにあると指摘されている。
●アマゾンの熱帯雨林は二酸化炭素を吸収し地球温暖化を防ぐ大事な要となっている。まさに「地球の肺」とも呼ばれている。だがそこでの火災で、1億7千万トン相当もの二酸化炭素が、逆に排出される事態となった。

●さらに煙はアマゾン地域から3200キロも離れたブラジルの最大都市サンパウロの空を覆い、街は暗闇に包まれる被害も出ている。ヴェネズエラやボリヴィアにも森林火災は広がっている。
●ボルソナロ大統領の怠慢や対策を取らない姿勢に、世界から抗議が起きている。フランスのマクロン大統領は、G7でもアマゾン問題を取り上げると言明し、ついにボルソナロ大統領は、消火活動に軍の出動を指示した。

●さてアマゾン問題は、もう一つある。26日閉幕するG7首脳宣言が見送られる背景には、アマゾンを含む米国の巨大IT企業を対象とした、フランスの「デジタル課税3%」に対し、トランプ大統領が、2020年末のOECD合意を待たずに先行導入するとは何事か、と猛反発した経緯がある。

●なにもアマゾンへの課税だけでなく、大規模通信障害を始め、膨大な個人情報の収集は、きわめて深刻な問題をはらんでいる。アプリを使い検索・閲覧・買い物まですれば、自分の個人情報は全て分析されて、そのデータが時には第3者に売買されるに至る。
●現に、就職情報サイトの大手会社が、学生の閲覧履歴を分析し、内定辞退率の予測データを企業に400万〜500万円で売っていた。知らぬ間に自分が売り買いされている、オソロシイ事態が来ているのだ。

●日本の公正取引委員会も、アマゾンなど巨大IT企業による個人情報の収集に対して新しいガイドラインを策定した。8月にも公表し年内にも実施するという。まずはSNSやネット検索を控えるのも一法だ。(2019/8/25)
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2019年08月23日

【おすすめ本】巣内尚子『奴隷労働 ベトナム人技能実習生の実態』─安い労働力として使い捨てにする現場の生々しい実態をルポ=栩木 誠

 「移民政策はとらない」─この安倍発言を反故にするような、日本の「移民大国化」が進む。
国内に住む外国人の数は約267万人、総人口の2%を超えた。中でも目立つのが、農水産業や製造業などで働く外国人技能実習生と留学生で、合わせて60万人を超える。コンビニや外食、建設、介護、農水産業など、過酷な労働条件下で底辺を支える、彼らの存在なくしては「持続不可能」な産業も数多い。

 今年4月から施行された改正入国管理法の国会審議では、「低賃金の単純労働に従事され、技能が実習できない」実習生の劣悪な環境、人権軽視の問題点が赤裸々にされた。この利害と差別の複雑な結合が生み出す問題点を、急増するベトナム人実習生に焦点を当て、浮き彫りにしたのが本書だ。
 「送り手」のベトナム、そして「受け手」である日本の両国で、技能実習生の実態に迫る。その多角的な取材は労働組合などの支援者や仲介業者など、140人を超える。
低賃金に長時間労働、多額の借金、暴力、パワハラ、セクハラ、劣悪な住環境、除染などの危険業務…その一方で、隆盛を極める“実習生ビジネス”。

 現代日本の様々な社会問題の実態が、実習生などの発言から鮮明にされる。著者の五感で得た迫真のルポは、その実態を生々しく伝える。
 著者は「都合のよい労働力として使い捨てにする─この認識を捨ててこそ、移住労働者を社会が受け入れる必須条件なのだ」と、強調する。しかし、「特定技能」という新たな衣をまとった改正入管法下で、「奴隷労働」は、さらに“再生産”されようとしている。それを許さない「私たち」の取組みが、重要になっている。(花伝社2000円)
「奴隷労働」.jpg

posted by JCJ at 09:26 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月18日

【今週の風考計】8.18─『放射能測定マップ』の地道な成果!

17日、第62回JCJ賞贈賞式が日本プレスセンターで行われた。JCJ大賞は東京新聞の「税を追う」キャンペーンに、またJCJ 賞は4作品に贈られた。なかでも受賞した『図説17都県 放射能測定マップ+読み解き集』(みんなのデータサイト出版)への受賞理由や受賞者スピーチには、感銘を受けた。
「市民による市民の調査が結実した貴重な特筆すべき成果。我々が見習うべき調査報道の在り方を示す」と、選考委員のメンバーが絶賛する。この本に目を通していた筆者には、改めて認識を新たにした。少し、この本の内容を記しておくべきだろう。

「市民放射能測定室」のネットワークである「みんなのデータサイト」のメンバーが、なんと東日本の青森県から静岡県までの17都県3400地点の土壌サンプルを、延べ4000人の協力で採取し、セシウム134とセシウム137の測定結果から得たデータを、地図上に分かり易くカラーでマッピングし、合わせて各県ごとに解説を加えた画期的な本なのだ。

8年前の3・11福島事故以降、政府は放射能汚染の影響を軽視し、その正確な実態調査を怠ってきた。福島事故の放射能汚染の実態は、今どうなっているか、多くの人々が知りたいと思っている。
国は、空間線量を測って公表はしているものの、長期に放射線の影響を調べるには、土壌の汚染調査は欠かせない。だがこの調査はしていない。にもかかわらず避難者へ、帰還するよう煽り急かせている。こうした事態に危うさを感じた上記メンバーが、「避難する人、しない人、すべての人に被ばくを避け、人間らしく生きる権利を!」と、土壌調査プロジェクトをスタートさせ、2014年から3年かけて測定した数値を、2011年3・11時点に合わせて汚染状況を再現した。

この取り組みの趣旨を表現した横断幕を用意し、6人のメンバーとともに登壇した受賞者代表の女性は、こう語る。
「縦10センチ、横20センチ、深さは地上から5センチ下の土壌を測ります。これはロシアのチェルノブイリと同じ深さです。採取法マニュアルを分かりやすく漫画で作り、WEBサイトに公開し多くの人に理解を促しました。根気よく呼びかけていくと、測定ポイントが増えていく喜びは格別。集まった東日本全域のデータの貴重さ、これをいかにわかりやすく市民に伝えるか、ここからみんなの議論が始まりました」

議論を重ねるうちに、測定データだけでなく、注意の必要な食品についてのデータも分析し加えることになった。そしてクラウドファンディングを活用し、自分たちの出版社を立ち上げるまでになった。その結果、A4版・オールカラー200ページ、チェルノブイリとの比較も視野に「日本版アトラス」を目指し、20年後・100年後の状況も加えて仕上がった。 ぜひ読んでほしい。発行所:みんなのデータサイト出版 https://minnanods.net/map-book/ (2019/8/18)
posted by JCJ at 11:51 | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月16日

【緑陰図書─私のおすすめ】「資本主義」でつながる世界と私たちの現実を問う=工藤律子(ジャーナリスト)

 最近、メキシコや中米の移民、また若者ギャングについて、その背景にある格差や貧困に目を向けた報道が多くなってきた。だが私たちとの関係にまで、筆が及ぶには至ってない。
拙著『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社文庫)や『マフィア国家』(岩波書店)に目を通し、彼らの現実が私たちとどうつながっているか、共に考えていただけるとうれしい。

 さて経済のグローバル化が進むなか、格差や不平等は、一国・一地域での問題ではなく、国際的な「資本主義」のありよう、そのものに関わっている。今やこの事実は自明の理となった。その「資本主義」とは何か。京都大学経済研究所附属先端政策分析研究センター編『資本主義と倫理』(東洋経済)は、その問いを考えるのに、格好の本だ。
 シンポジウムをまとめた本書は、「資本主義」を経済だけでなく、社会や教育など、多様な角度から解く。特に注目したいのは「資本主義の中核には倫理が存在する」という点だ。現代世界の大きな問題は、支配的な資本主義から倫理が失われていることだろう。

 では、私たちはこの先どんな世界を築いていけばいいのか。同じく「資本主義」を軸に考えるには、伊藤誠『入門 資本主義経済』(平凡社新書)が役立つ。その最終章「資本主義はのりこえられるか」では、21世紀型社会主義の可能性が考察されている。
 そこではベーシックインカム、私もスペインで取材している地域通貨、さらには労働者協同組合など、「社会的連帯経済」の取り組みが考察されている。これはメキシコや中米を含む、世界各地で進んでいる動きだ。

「労働力の商品化を廃止」し「働く人々の自由、平等、人権を主体的に実現する社会経済」を模索している。いま私たちは、こうした発想と取り組みが求められている。
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2019年08月11日

【今週の風考計】8.11─脅迫の電凸が、憲法21条をつぶす危機!

<あいちトリエンナーレ2019>の企画展「表現の不自由展・その後」が、脅迫の電凸・メル凸、さらには「撤去しなければガソリン携行缶を持ってお邪魔する」というテロ予告FAXまで送られる事態に及んで、ついに中止を余儀なくされた事件は、国内外に大きな波紋を呼んでいる。

慰安婦問題に焦点を当てる「平和の少女像」や憲法9条をテーマにした俳句、天皇に関する作品など、各地の美術館から撤去させられた20数点を展示。それを主催側の会長代行である河村たかし名古屋市長自らが、展示場に乗りこんで「日本国民の心を踏みにじる行為」などと言い、展示物を検閲するかのように、自分ひとりの判断で中止を求めるなど言語道断だ。「言論・表現の自由」を保障する憲法21条を踏みにじる、まさに最悪の違憲行為だ。
そのうえ、官邸や一部の政治家が悪のりし、主催団体や自治体などに圧力をかけ、補助金の支給にまで言及するなどして、ヘイトを増長させる。

今回の展示がこのまま中止となれば、「脅せば表現は封印できる」前例となり、同様の事件が急増するのは必定だ。また事件を恐れて萎縮が広がる可能性は高い。芸術家や日本ペンクラブ、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)、憲法・歴史学者、市民らが抗議と展示の再開を求めて行動に立ちあがっている。

にもかかわらず神戸市が、9〜11月に開催する「現代美術の祭典」の関連行事として、いま渦中にある津田大介氏を加え、3人による鼎談シンポジウムを中止すると決めてしまった。理由は抗議電話ばかりでなく、自民党市議からも津田氏の参加を断るよう要請されていたからだという。
「抗議電話によって催しが潰れることが続けば、気に入らない言論・表現活動は潰してしまおうとする人たちは勢いづき、次のターゲットを探すだろう」(江川紹子)。
 
自治体や主催団体は、とりわけ右派からの動きを忖度し、次なるターゲットにならないよう、物議をかもすような人物やテーマ、企画表現は除外しておこう、という空気が広がるのは目に見えている。こうして日本の「言論・表現の自由」が骨抜きにされていく。それが怖い。(2019/8/11)
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2019年08月08日

【支部リポート】 北九州 最新治療と医療支援学ぶ 歯科医ら国際エイズ学会へ=杉山正隆・久保ゆかり

今も全世界で毎年約200万人が新たに感染するHIV/AIDS。4000万人近くが差別や偏見にも苦しむ病禍だ。最新治療や医療的支援のみならず、背景にあるLGBTIQなど性的弱者や薬物依存、性労働などに関する問題解決を話し合う第10回国際エイズ学会会議(IAS2019)が7月21日〜24日、メキシコシティで開かれる。

 会議には160カ国から1万人の医師や研究者らが参加。取材に当たるジャーナリストは千人近くになる見込みだ。HIV/AIDSは、有効とされるワクチンの開発には至っていないものの、発症を遅らせるなど生活の質を上げる治療法はほぼ確立しており、「慢性病」の様相を呈している。

 国連のグテーレス事務局長は「18年前に国連がHIV/AIDSに関する最初の特別総会を開いた頃、『エイズのない社会』など想像できなかった。現在は子どもの新規感染はほぼ半減、成人でも2割減っている」と強調し、30年までにエイズの流行を終焉させる目標を打ち出す。

 国連は、HIV陽性者の90%が検査を受け自らの感染を知り、そのうちの90%が抗HIV治療を受け、そのうちの90%が体内のHIVを検出限界以下にする「90―90―90」を2020年に達成したい、とする。が、実際には「75―79―81」(17年)にとどまっているのが現実だ。

 日本では17年の1年間で1389人が新たに感染。1600人に迫る勢いだった。13年より勢いが衰えたものの「高止まり」にある。累積報告数は約3万人だが、実数は数倍とされる。

 IAS2019では、ワクチンなど最新の研究成果や、35年間で3500万人が亡くなった中、「自然治癒した」とされる2例目の完治例の発表に注目が集まっている。あらためて問題となっているLGBTIQや薬剤依存者、性労働者など「弱い立場の人々」への支援策などが話し合われる見込みだ。

 北九州支部から歯科医師と看護師の資格を持つ2人が正式な取材登録を経て会議を取材する。日本ではほとんど報道されないこうした問題にも取り組んでいく。 

杉山正隆・久田ゆかり

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年7月25日号
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2019年08月07日

【リレー時評】 異常気象を無視したニッポンとG20=中村梧郎

7月はじめに九州を旅した。

地球温暖化による集中豪雨。鹿児島や宮崎では死者が出た。異常降雨は三〇年前の一・五倍ほどだという。国は「行政の限界。自分の命は自分で守って」とTVで呼びかけた。動けない高齢者もいるのに国は救わないよ、との開き直りである。

地球環境問題が主題であったはずのG20は一体何の意味があったのか。日本は気候変動防止に背を向けていることが、会議を通じて逆にあぶりだされてしまった。

パリ協定はCO2排出ゼロの目標で合意した。

EUは2050年までに80〜95%を削減する。しかし、日本の削減目標は30年に26%。主要国の中でも最低である。加えて最大のCO2排出源である石炭火力発電を「基幹電源」と位置づけ、25基を新設する。電力企業や銀行はインドネシアなどへの輸出に奔走。原発を拒否したベトナムにも石炭火力を売り込む。日本はパリ協定からの離脱を決めたトランプ政権同様、協定を骨抜きにしたいようだ。

一方フランスは2021年、イギリスは25年までに石炭火力をゼロとする計画だ。豪雨災害が頻発しても日本は「脱石炭」を決して言わない。

G20の次の課題であったプラごみ問題。日本はここでもトリックを使う。「プラスチックは燃やせば良い」これを「サーマル・リサイクル」という…と。焼却はCO2を生み、塩ビはダイオキシンを出す。各家庭がプラを分別しても焼却炉では混焼されたりする。産廃炉を含めて2千基以上の炉が夜昼なくプラを燃やす。これを「リサイクルだ」と称するのは世界では否定されている。

その上で途上国への輸出問題がある。ベトナムのニャチャン港に山積みされた日本のプラごみとドラム缶群を見た。プラは熔かされて質の悪い樹脂となり、残りは野焼きされた。廃棄物の移動を禁ずるバーゼル条約違反だが「有価物」の名目だった。いま排出国への返還が始まっている。

地球の海には800万dのプラごみが漂う。それは砕けてマイクロ・プラスチックと化す。魚類はPCB等を吸着したプラを食べ生体濃縮を進める。危険はブーメランのように人体に還流する。

やれストローだレジ袋だと、国もメディアも消費者の使い捨てを標的にするが、これはプラ生産量3位の日本の、ほんの一部に過ぎない。20年前のドイツ。すでにレジ袋もプラ容器も無いのに驚かされた。倫理観ではない。プラ生産企業に回収責任を持たせたため市場に出なくなったのだ。

昨夏スウェーデンの女高生グレタが始めた温暖化阻止行動は今や125カ国に拡がった。今月、世界7千の大学は「気候危機」を共同で宣言した。

世界から取り残される災害大国・日本。国家が温暖化を顧みず「自分の命は自分で守れ」と言いだすようでは困るのだ。

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年7月25日号
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2019年08月06日

安倍政権「生活破壊」 学者の会ら緊急アピール 暴走政治を阻止=古川英一

 6月下旬の夕方、東京神田の学士会館に、平和主義・立憲主義・民主主義を基本的な価値とする、学者や市民90人余りが集まった。集会は安保法制に反対するために4年前に設立された学者の会が、暴走する安倍政権への危機感から開いた。憲法や経済学などを研究する学者が次々に発言した。

愛敬浩二・名古屋大学教授は安倍自民党の憲法9条の改正案について「安倍首相は自衛隊を明記するだけで現状は変わらないと説明するが、その現状こそが問題だ。安全保障関連法ができて日本は戦争ができる国へと変わってしまった。9条を改正すれば米軍のグローバルな軍事展開に基地を貸すことを明確にすることになる」と述べ、安保法制を廃止し、ここまで変えられた国の在り方をそれ以前に戻すことを訴えた。

▽間宮陽介京都大学名誉教授は今の日本社会の「破壊」されている状況を列挙した。まず安倍政権が、立憲主義、憲法、そして教育や労働までをも暴走して破壊していること。さらにアベノミクスの失敗により経済が破壊されていること・・本来、経済の目的は国民一人ひとりの生活を向上していくものなのに、アベノミクスは経済成長のために一部の富裕層を優遇するものだと指摘。

大沢真理・東京大学名誉教授は、安倍政権の社会保障に対する考え方は「70歳まで働け、病気になるな、お上に頼るな」と、社会保障の強化どころかむしろ背を向けていると厳しく批判した。

 最後のアピールでは、「自らの蒙を開く研鑽の場としての大学は、未来を切り開くための『自由の砦』たりうるはずです」としたうえで、安倍政権の暴走をくいとめるために主権者としての行動を起こし、議会を動かしていこうと呼びかけた。

集会の中ではメディアの責任の重さを訴える声が上がった。市民が連帯していく仲立ちとなること、ジャーナリストとして私たちがやるべきことはこれからも続くのだ。

古川英一

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年7月25日号
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2019年08月05日

【支部リポート】 神奈川 薄氷を踏む景気あやうい 狙い外れたアベノミクス 神奈川新聞・田崎記者が話す=保坂義久

神奈川支部は7月6日、横浜市の神奈川婦人会館で例会を開いた。神奈川新聞経済部記者・田崎基さんが「アベノミクスの嘘」を話した。

 田崎さんは異次元緩和といわれる金融政策、10兆円規模の公共投資など機動的な財政政策、規制緩和などで民間投資を促す成長戦略によって経済成長させるアベノミクスのシナリオを説明した。

 そのシナリオは、政府が国債を発行し、国債を買った金融機関が日銀に売却。日銀は紙幣を印刷してそのカネを銀行に支払う。大量の円が出回り円安になることで輸出系企業の利益があがり、それが給与や設備投資に回る。また、金利が下がってカネが市場に回り、需要が喚起されることで物価が上昇するはずだった。

 しかし、企業の利益は増加したものの実質賃金は上がらず、消費支出指数は低下した。

 肝心の需要が伸びなかった理由について田崎さんは、日本に有望な成長分野がない、企業が思いのほか利益を賃金に還元しなかった―この2点をあげた。

企業が増えた利益を賃金に回さずに済んだのは、経営方針に沿い非正規雇用を拡大させて、コストのかかる正規雇用の社員を減らしたからだと分析する。

また、せっかくの成長分野である再生エネルギーや蓄電池への投資を企業がためらったのは原発維持政策が原因ではないかと話す。

 田崎さんは所得階級別の世帯数割合を過去と比較したグラフでアベノミクスの結果を示した。生活が苦しい層が増えて、中間所得層が減っていることが一目瞭然だ。

にもかかわらず安倍政権を支持する若者が増えているのは、増大し続ける貧困層の現実を伝えきれていないからだと田崎さんは自戒を込めていう。

アベノミクスに批判的な学者などは、国債への信認が失われ暴落する危険性を指摘するが、そもそも景気は大きく冷え込んでいる。

 田崎さんは全ての地方銀行で貸倒引当金の積み増しが進んでいることをあげた。地銀は「今の景気は薄氷の上を歩くように危うい」と見て先手打っている証拠だという。

保坂義久

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年7月25日号
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2019年08月04日

【今週の風考計】8.4─制裁が席巻する世界、おかしくないか?

■地球規模の気候変動によって、世界各地で「史上最も暑い月」が続く。そのせいだろうか、制裁・除外・失効・離脱─なんとも知恵のない非生産的な言動や措置が、いま世界各国で乱舞し<いがみ合いのルツボ>と化している。

■まずは日本政府が下した2日の閣議決定である。韓国を輸出管理の優遇対象「ホワイト国」から除外する措置は、日韓両国の関係を根本的な危機に陥れかねない。元徴用工への賠償問題に端を発した日韓外交の頓挫が、韓国民衆の反日感情を煽り、さらに観光・文化・スポーツ交流の中止に加え、東京五輪ボイコットの動きすら出ている。
■8月下旬には更新期限を迎える、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が破棄される可能性も含め、東アジアの安全保障まで不安定となりかねない。北朝鮮のミサイル発射、ロシア・中国の両国軍機による竹島領空侵犯も、日韓対立のスキをついた揺さぶりとみられている。

■続くは米国・トランプ大統領の中国への経済制裁だ。新たに中国の輸出産品3千億ドル(約32兆2千億円)に、9月1日から10%の追加関税を課すと表明。トランプ大統領による対中制裁は1年半に及ぶ。米国の小売業界も衣料品や玩具、家庭用品、パソコンなど日用品の価格が上昇し、家計が圧迫されると反発。加えて原油相場は8%近く下落し、世界経済への影響は計り知れない。

■31年前、米ソ冷戦後の核軍縮の柱となった「中距離核戦力(INF)廃棄条約」すら、2日失効してしまった。「核なき世界」を目指す国際的な軍縮の機運が後退するのは必定だ。現に米国の国防長官が、「中距離ミサイルの開発を加速させる」と表明した。
■被爆から74年、今週8・6広島と8・9長崎を迎える。いま日本政府にとって最も緊急な課題は、核兵器禁止条約に参加し、核兵器廃絶に向けて世界の先頭に立つ、これに尽きる。(2019/8/4)
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2019年08月03日

植村東京訴訟 地裁も不当判決 被告の謝罪も賠償も棄却=編集部

 元従軍慰安婦の証言を伝えた1991年の記事で、執拗な「捏造記者」攻撃の標的にされた元朝日新聞記者植村隆氏の名誉棄損訴訟で東京地裁(原克也裁判長)は6月26日、名誉が棄損されたことを認めながら植村氏への謝罪と損害賠償請求を棄却。西岡力被告らを免責する「不当判決」を下した。植村氏は7月9日、「原判決には事実認定と法解釈に誤りがある」として控訴。植村氏の名誉回復の闘いは札幌訴訟(櫻井よしこ被告ら)に続き、高裁に舞台を移して続く。

名誉毀損認めるが

 判決は、西岡被告の植村氏への「捏造」との表現が事実の適示だと認め、植村氏の名誉が毀損されたことを認めた。つまり西岡被告と文芸春秋の表現と記事が「名誉棄損に該当する」と、植村氏が「捏造記者」でないことを認めているのである。

 だが原克也裁判長は西岡被告らを「免責」した。法廷で代読された判決理由要旨によれば「各表現は、公共の利害に関する事実について専ら公益を図る目的で行われた」「各事実について、その重要な部分が真実または真実と信ずる相当の理由…の証明がある。かつ、意見ないし論評の域を逸脱したものでもない」という。

 だが本当にそうか?判決は西岡被告が植村氏を「捏造記者」とした@金学順さんが妓生に身売りされた経歴を知りながら記事に書かなかったA義母の裁判を有利にするため、意図的に事実と異なる記事を書いたB「金さんが女子挺身隊として日本軍に強制連行された」と、意図的に事実と異なる記事を書いた、の3点について判断を下した。

 判決は@、Aの西岡被告の「真実性」を否定した。だが「推論として一定の合理性がある」と、真実相当性を持ち出して免責した。さらに最大の問題はBで、いきなり「真実性」を認めたことだ。つまり原裁判長は何の根拠もなく「植村には(金さんが)騙されて慰安婦にされたとの認識があったのに、意図的に強制連行と書いた」と認定し、西岡被告を免責したのだ。

判例の基準逸脱

これについて弁護団は「声明」で、「植村氏が嘘と知りながらあえて書いたか否か、本人に全く取材せず『捏造』と表現した(西岡被告)を免責しており、従来の判例基準から大きく逸脱したもの」と、厳しく批判。「また、金学順氏自ら『私は挺身隊だった』と述べており、騙されて中国に行ったが、最終的には日本軍に強制連行され慰安婦にされたと述べていた。騙されて慰安婦にされたことと強制連行の被害者であることは矛盾するものではない」と指摘した。また、裁判後の記者会見で弁護団の一人は「裁判所の認定は真実をねじ曲げ植村氏だけでなく「慰安婦」制度の被害者の尊厳をも踏みにじった」と、強い怒りを表明した。

10月10日 札幌結審

一方、札幌訴訟控訴審は7月2日、札幌高裁で第2回目の口頭弁論が行われた。裁判長が人事異動で交代し、新裁判長の冨田一彦・部総括判事(前神戸地裁部総括判事)の下、審理更新手続きと提出証拠の確認の後、植村氏が再度、意見陳述。「証拠をきちんと検討し、公正な判決を出していただきたい」と改めて訴えた。また、弁護団は一審の問題点を指摘した計3通の意見書・陳述書をもとに一審判決の取り消しを求める準備書面の要旨を説明。さらに弁論終結を求める櫻井側弁護団に対して弁論続行を求め、@東京、札幌両地裁判決に共通する問題点への主張書面A梁順任さん陳述書の補充書面提出を表明。

冨田裁判長の裁定で、次回口頭弁論を10月10日午後2時半から開き、その日に結審との日程が決まった。

歪んだ歴史観正せ

植村訴訟の札幌、東京両地裁は、ともに植村氏への「捏造記者」攻撃は名誉毀損だが、謝罪、賠償を免責するとの「不当」判決を下した。だが裁判では真の「捏造者」が櫻井、西岡両被告だったことが暴かれた。「問われているのはこの国のデモクラシーの根幹。だから怒りは静かです」。判決後、植村氏はこう述べた。両地裁の判決は「従軍慰安婦」を「公娼制度の下で戦地において売春に従事していた女性」と記述した。そこにあるのは「慰安婦」制度が被害者がいる強制売春だということを無視した「歪んだ歴史観」そのものだ。闘いはまだ続く。

編集部

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年7月25日号
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2019年08月02日

【メディアウオッチ】 権力介入が常態化 JCJ6月集会 こびない情報発信で対抗=編集部

 JCJは6月29日、東京・飯田橋の法政大学でシンポジウム「安倍政権とメディア 攻防7年」を開いた。

 冒頭、共催の法政大学図書館司書課程の坂本旬教授は、このシンポは5月6日に法政大学で開いた『世界報道自由デー・フォーラム』のパート2にあたると挨拶した。

 次ぎにコーディネーターと4人のパネリストが発言した。

 シンポで考える論点について、和光大名誉教授でコーディネーターの竹信三恵子さんは「権力によるメディアへの介入」がポイントと述べた。

 沖縄タイムス編集委員の阿部岳さんは、海上保安庁が長官の記者会見前に記者クラブ加盟社を呼び出し、「沖縄二紙の記事は誤報だ」と説明したケースなどをあげた。

 NHK大阪報道部記者から大阪日日新聞論説委員に転じた相澤冬樹さんは、官邸寄りと言われる板野裕爾NHK専務理事についてこう語った。

「安保法制(2015年9月)をめぐり、国会包囲反対運動が続いていた頃、NHKはそれを一切報道しなかった。当時の板野放送総局長が抑えて出させなかった。取材していたNHK記者たちは『板野のせいで放送できなかった』と今でも言っている」

 東京新聞社会部デスクで「メディアで働く女性ネットワーク」会員の柏崎智子さんは、麻生太郎財務相をはじめ自民党国会議員がセクハラ問題に対し妄言を続けたのは、「これまでの記者の政治家への忖度による安心感からです」と語った。

 元NHKプロデュサーで科学ジャーナリストの林勝彦さんは、自らも制作に携わった福島原発事故の映画「いのち フクシマから未来の世代へ」の一部を上映。そして早期帰還政策は「放射能安全神話」を定着させたいためだと安倍政権を批判した。

朝日新聞OB記者の植村隆さんは、記者時代の慰安婦報道を右派ジャーナリストなどによって痛烈なバッシングを受けた。自分を攻撃した櫻井よし子氏や西岡力氏と安倍晋三首相との密接な関係を提示。その上で「巨大な敵と闘っている」と覚悟のほどを語った。

 後半は登壇者によるフリートーキング。相澤さんは「権力を監視するのはメディアではなく市民。メディアは忖度しない情報を発信し、市民に判断材料を提供するのが役目だ」と対抗策を示した。

編集部

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年7月25日号
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2019年08月01日

【メディアウオッチ】 韓国民主化運動支えた 伝説のジャーナリスト 札幌で植村裁判を支援 「言論弾圧に声あげねば」=林秀起

軍事独裁政権と闘った韓国の伝説的ジャーナリスト任在慶(イム・ジェギョン)さん、李富栄(イ・ブヨン)さんが7月3日、北海道大学で講演した(JCJ北海道支部など主催)。2人は韓国で植村隆さんを支援する団体を立ち上げ、札幌高裁で開かれた植村裁判も傍聴した。講演での両氏の発言を紹介する。

「忍耐は美徳」ではない

任在慶さんは、1988年に市民の出資で創刊されたハンギョレ新聞の初代副社長。韓国では「ムチで打たれても痛いと言えず、腹が空いても言えない時代が続いてきた。圧力が強ければ反発も強まる。(ハンギョレ新聞)創刊は、言論弾圧に対する人々の強い反発の結果だった」と話す。

 「『忍耐は美徳だ』というのはウソだ」と強調した。

 同国では、かつて李承晩(イ・スンマン)大統領を退陣させた民主化運動のなかで誕生した新聞が、40日で廃刊に追い込まれ、創設者は北のスパイとして処刑された。そんな国柄で、生まれたてのハンギョレ新聞を守ったのは読者、市民、広告主たちだった。創刊時2万7千人の株主は今6万9千人。発行部数は50万部という。

 「株主は一度も配当を受けていない。それはハンギョレ新聞のあり方に納得してくれているからだと思う」

 時代の大きな流れ、運動の方向が味方したともいう。民主化闘争で軍事政権が終結に向かい、経済的平等への志向が強まった「時の運」が、ハンギョレ新聞を生んだと振り返る。

 「時の運は、偶然には生まれてこない。日本の言論の自由は、憲法9条を変えようとしている勢力との戦いに左右される。国の主権は、君主や大統領にあるのではない。人々が『国民主権』をどれだけ意識しているかにかかっている」「言論の自由が保障されている日本で、人々は言うべきことを言っているのだろうか。慰安婦報道で裁判を闘っている植村隆さんのように、不当な攻撃には声をあげなければならない」とも指摘した。

弱まる言論の発言力

李富栄さんは元東亜日報記者。44年前、朴正熙(パク・チョンヒ)政権の言論検閲に抗し、解雇され投獄された。

「特派員をはじめ日本の人々は、私たちの闘いをずっと支援してくれた。だから慰安婦報道で植村隆さんが攻撃されているのは、信じ難い」

 1965年の日韓条約反対の学生運動にかかわった。「条約は朝鮮併合、植民地支配の反省もないところで結ばれた。経済協力金は『独立祝賀金』とされた。河野談話や数々の首相談話、平成天皇の『痛惜の念』表明は、植民地化への謝罪だが、安倍政権はすべて覆した」

 東亜日報の約200人が、自由な言論の実施を宣言して朴正煕の検閲に対抗した。全国35社の言論人が同調した。新聞広告を出させない圧力で白紙になったスペースに、市民の激励広告が寄せられた。しかし会社側は圧力に屈し、朝鮮日報と合わせ166人を解雇した。

 「軍事独裁政権を終わらせないと記者には戻れない。民主化運動の全国組織を作る一方、金大中(キム・デジュン)、金泳三(キム・ヨンサム)ら野党指導者などとの橋渡し役も務めた」。大統領の直接選挙制を目指す改憲運動で、4回目の逮捕。度重なる刑務所暮らしで親しくなった保安係長から、ソウル大生が水攻めの拷問で死亡したこと、犯人とされる捜査官2人がここにいるが真犯人3人は外にいることを知った。

 「保安係長に、私との面談記録は廃棄しろと伝えた。私が何をしようとしているのか彼は察したと思うが、黙って見過ごしてくれた」。事件の真相は外部の協力者を通じて暴露され、大統領直選制に結び付いた。「私は記者の使命を果たせて満足している」

 「政治は残酷なものだ。議席を得るようになった政治家は『在野の者は口を出すな』という態度に変わっていく。復職の望みを断たれた記者たちは『自分たちで新聞を作ろう』と思い立った。それがハンギョレ新聞となって実を結んだ」

 新聞などのメディアは以後急増したが、大資本の影響力も強まり、保守化が進んでいるという。「大新聞が変節、SNSの発達で、正当な言論の発言力が弱まっている」のが今の課題という。

林 秀起(北海道支部)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年7月25日号
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