2020年02月06日

【映画の鏡】 カンヌで韓国初の最高賞パルムドール『パラサイト 半地下の家族』 貧者と金持ちの衝突で起きた亀裂=今井潤

 ソウルの半地下住宅に住む貧しい4人家族。父はたびたび事業に失敗するが、楽天的な性格、元ハンマー投げ選手の母、大学受験に落ち続ける息子、美大を目指すが、予備校に通う金もない妹。
 半地下の家は暮らしにくい。窓を開ければ路上で散布される消毒剤が入ってくる。電波が弱い。家族全員、ただ普通の暮らしがしたいと思っている。
 そんな時、有名大学生の息子の友人が訪ねてきて、「僕の代わりに家庭教師をしないか」と留学中の代役を頼む。息子が向かったのは高台の大豪邸、IT企業の社長の自宅だった。若く美しい妻が娘の部屋に案内する。
 偽造した大学在学証明書を警戒することもなく、母と娘の心をつかんでいく。「もう一人紹介したい家庭教師がいるんです」と妹を紹介、末っ子の教師となり、恐るべき速さで手なずけていく。
 こうして、父は自家用車のドライバーに、母は家政婦としてこの大豪邸で働くことになり、物語は波瀾万丈の展開となる。
 父を演ずるソン-ガンホは「殺人の記憶」、「グエルム漢江の怪物」に出演、最近の話題作「タクシ―運転手〜約束は海を越えて〜」の韓国の人気スターだ。
 昨年カンヌで韓国初のパルムドールを受賞したこの作品は血なまぐさい、荒唐無稽な結末へ向かうが、筆者は現代社会を表すための監督の表現とみている。
 ポン・ジュノ監督は「今日の資本主義社会には、目に見えない階級やカーストがあります。本作はますます二極化のすすむ社会の中で、二つの階級がぶつかり合う時に生ずる、避けられない亀裂を描いているのです」と述べている。
(公開は1月10日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか)
今井 潤
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年1月25日号

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2020年02月05日

【月刊マスコミ評・出版】 ルポ「コンビニ絶望経営」に注目=荒屋敷 宏

 第2次以降安倍内閣は、わずか7年間に消費税率5%から8%に、さらに10%への2度にわたる増税で合計13兆円もの大増税を強行した。2020年の日本経済は、「令和不況」の足音が早くも聞こえてきている。
 ジャーナリストの斎藤貴男氏が「世界」(岩波書店)1月号と2月号に発表したルポ「コンビニ絶望経営」(上・下)に注目した。「セブン−イレブン」東日本橋一丁目店のオーナー店長の死の謎を追うところから始まる。店長は、「9年間、365日24時間営業の店を年中無休で切り盛りし、多額の借金を背負った挙げ句、最愛の息子を失い、ついには縁もゆかりもない土地で、非業の死を遂げた」という。
 コンビニ経営の実情は、悲惨である。コンビニオーナーの死亡率が他の業種に比べて異常に高いという。妻が朝7時から夜10時、夫が夕方6時から翌朝8時、長男や次男も駆り出す家族経営となり、「家族全員が販売期限の切れた廃棄弁当を食べ、仕事の合間を縫っては、バックヤードに敷いた段ボールで仮眠をとった」との実情は、すさまじい。
 コンビニの本部社員が商品発注の締め切り時間ギリギリにやってきて、恵方巻などを「無断発注」し、大量仕入れを強要する等々。今年も予想される恵方巻の大量廃棄を生み出しているのは、コンビニ本部なのだ。加盟店の向かいに加盟店を出店させて、「共食い」を生み出すのもコンビニ本部。斎藤氏は、コンビニ店主が消費税の納税額分を回転資金に流用してしまいがちであることを指摘している。
 フランチャイズ契約とは、斎藤氏の言葉を借りれば、「本部による加盟店の一方的な搾取」「奴隷契約」だ。斎藤氏は、「日本にはフランチャイズ契約をきちんと規制する法整備がなされていない現実をご存じか」と提起している。本部に反乱を起こしたオーナーや普通の小売業と異なる「コンビニ会計」の話は、「世界」2月号に登場する。
 ほかに、読み応えがあったのは、「週刊朝日」1月17日号、元文部科学事務次官の前川喜平氏と作家の桐野夏生氏の対談「若者荒廃に危機感 現代の深層に何が?」だった。なぜ荒廃しているのか。桐野氏が「一つの大きなほころびの中で、若い女性も男性もあがいているような感じがするんですよ」と言えば、前川氏は「私が非常に危機感を抱いているのが、国全体として人を大切にしない政治がずっと続いていることです」と語る。現実をいかにリアルに見るか。課題は、そこにあると思う。
 荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年1月25日号

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2020年02月04日

【沖縄リポート】 総工費などの試算変更 防衛省に焦り=浦島悦子

 昨年12月27日の地元紙1面トップに「新基地土砂全て県内調達」という衝撃的な見出しが躍った。防衛省がこれまで、3分の2以上を県外から運び込むとしていた辺野古新基地建設のための埋め立て土砂(岩ズリ)や、海底の軟弱地盤改良のための海砂を、沖縄県内で全量調達する方向で検討しているというのだ。
 とっさに、沖縄の山も海も滅茶苦茶に破壊される!という危機感で背筋が寒くなった。日々、土砂搬出されている本部半島の採石場は既に惨憺たる光景をさらしているし、私の住む地域でも以前から、海砂採取による海岸の浸食や、海底地形が変化し魚が獲れなくなったという嘆きの声がある。そもそも、当初、県内調達予定だった土砂や海砂が県外調達になったのは、あまりにも深刻な自然破壊の予測に県民の大反発が起こったからだった。
 それが再び県内調達に回帰するのは言語道断だが、見方を変えれば、前回報告したような、県外土砂搬出予定地の人々による「辺野古に土砂を送らない」運動の広がりや、県外土砂による外来種侵入を規制する沖縄県土砂条例の制定などが、政府を追い込んだ「成果」とも言えるだろう。
 むろん、このような無謀な計画変更を沖縄県が承認するはずもないし、土木技師の北上田毅さんも、「量的には県内調達可能だが、運搬船が狭い海域に集中して作業できないだろう」と、全量県内調達は無理だとする。
 防衛省は同時に、辺野古新基地の総工費を9300億円(5年前に示した金額の2.7倍)、工期を、計画変更に対する沖縄県の承認から12年とする試算を示した。「工費2兆5500億円、工期13年以上」とした沖縄県の試算を否定していた防衛省自らが、このような試算を出さざるを得なくなったのは、追い込まれている証拠だ。大浦湾の軟弱地盤改良は技術的に不可能との見方も多い。どこから見ても無理無謀な工事をやめないのは、一度始めた公共工事を止めるわけにいかないという面子なのか、はたまたゼネコンの圧力か…?
一触即発の中東情勢に、米軍基地と隣り合わせに暮らす沖縄県民は不安を募らせている。軍事基地は内にも外にも不幸しか生まない。新基地建設を断念する「勇気」を政府に強く求めたい。
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年1月25日号

posted by JCJ at 16:23 | 九州・沖縄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月03日

【月刊マスコミ評・新聞】 障害者殺傷公判 匿名審理正しいか=徳山喜雄

 障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人が殺害され、26人が負傷した事件の裁判員裁判が始まった。植松聖被告の「障害者は生きていても仕方がない」という言葉が改めて衝撃をもたらし、匿名審理を巡っても議論が巻き起こった。
 裁判では横浜地裁が被害者の名前を法廷で明らかにせず、「甲A」「乙B」といった記号で呼ぶことになった。しかし、19歳の娘を失った母親がこのことに違和感を覚え、名前を公表した。
 名前は美帆さん。毎日が1月8日朝刊の1面トップにし、社会面でも大きな受け記事を掲載、手厚く報じた。遺族提供の4枚の美帆さんの写真が目を引く。「美帆は一生懸命生きていました。その証を残したいと思います。美帆の名前を覚えていてほしいです。……娘は甲でも乙でもなく美帆です」とする手記(要旨)も読ませた。
 法廷の様子も通常の裁判とは違ってくる。84席ある傍聴席の3分の1が被害者遺族や負傷者の家族に割り当てられ、遮蔽板を置いて他の傍聴人からは見えないようにした。日経は「匿名審理 揺れる遺族」との連載記事で、匿名化について掘り下げた(1月7日朝刊)。
「最高裁によると、09〜18年で(刑事訴訟法が定める)秘匿制度の適用が認められた被害者は約3万8900人に上る。認められなかったケースは約560人にとどまる。法廷での『匿名』は珍しい光景ではなくなっている」とする一方で、「一人ひとりの命の重み、事件の悲惨さを具体的に知ってほしいとの願いから、実名での審理を望む犯罪被害者遺族もいる」と読み解いた。
 さらに日経連載は「匿名のままでは事件の風化につながる恐れがある」とし、読売も初公判を報じる記事(1月9日朝刊)のなかで「匿名化により社会の関心から遠ざかる」という声を伝えた。
産経(1月9日朝刊)は、「全国知的障害者施設家族会連合会」(神戸市)理事長の「社会にはいまだに障害者への根強い差別感情がある。今回、司法がこういう決定をしたことで、差別意識を助長することにならないか心配だ」とする談話を紹介した。匿名審理が「差別意識の助長に繋がる」との視点も見逃せない。
 被害者の実名をどう報じていくのか。さらなる議論が求められる。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年1月25日号

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2020年02月02日

【今週の風考計】2.2─危ない! 「豚コレラ」に「ピーファス汚染」

新型肺炎に対するWHOの動きにヤキモキしていたが、ついに30日「緊急事態宣言」を発した。だが遅きに失したとの批判は免れない。
 この1週間ほどで中国国内での感染者は1万3700人を超え、死者も304人と幾何級数的に増大し、国外でも26カ国・地域に拡大している。
日本では感染者20人、人から人への感染が確認されている。やっと政府は「指定感染症」と定め、入国時には診察検査を行い、従わないときは罰則も課すこととなった。さらに強制的な入院や一定期間の休業指示も可能になる。合わせて感染予防と受け入れ態勢、診療・医療へのフォローが、きわめて緊急になっている。

「新型コロナウイルス」だけではない。遅きに失しないよう、緊急にとり組まねばならぬウイルス対策は他にもある。群馬・岐阜・沖縄など、日本で広がる「豚コレラ」(CSF)への対処だ。先月末に成立した家畜伝染病予防法によって、「豚コレラ」の蔓延を防ぐ「予防的殺処分」が可能になった。
 いまアジア地域に広がる「アフリカ豚コレラ」の侵入は、有効なワクチンが存在しないだけに、なんとしても防がねばならない。

もっと深刻なのは、後手に回っている「ピーファス(PFAS)汚染」への対策である。日本の米軍基地から高濃度の有害物質がダダ洩れし、地下水の汚染や飲料水に深刻な影響をもたらしている。
 これまで指摘されてきた沖縄の米軍基地周辺で深刻化する有機フッ素化合物「ピーファス」(PFAS)による地下水の水質汚染が、東京の横田基地周辺でも確認されたのだ。
 東京都は昨年1月、横田基地に近い4カ所の井戸を調査。立川市の井戸では、米国の飲料水の適正値から超えること、19倍という数値が検出された。これを受け都は飲料水の水源を、地下水から川の水などに切り替え、「ピーファス」濃度を下げる措置を取った。
有機フッ素化合物「ピーファス」は、耐熱・撥水に優れ、紙皿や調理道具のテフロン加工材として、また軍事訓練や防災訓練での消火剤としても使われてきた。「ピーファス」は数千年もの間、分解されずに水中や空気中を漂う。摂取すれば体内に「永遠の化学物質」として残る。しかも人体への影響が研究され、がん、肝機能障害、甲状腺疾患、発達障害との関連性が明らかとなってきた。
横田の米軍基地では「ピーファス」を含む泡消火剤を、2010年から7年間で、総計3161リットルも使用している。これが地下水に流れ込み、汚染を招いたとの疑念はぬぐえない。
 現に沖縄では、7つの市町村45万人の水が「ピーファス」で汚染され、その源は基地内から漏出する真っ白な泡の消火剤にあるといわれている。

「日米地位協定」に阻まれ、米軍基地内で調査ができない以上、すでに沖縄県が実施しているように、横田基地周辺を包囲する形で、井戸水のモニタリング調査をし、汚染源を特定し、被害状況や今後の影響を予測するのは不可欠だ。
 WHOでも「ピーファス」の人体への影響をとらえ、国際的に製造や使用の禁止が謳われている。だが遅れに遅れる日本の厚労省は、やっと「ピーファス」汚染を防ぐためのガイドライン値までは、この春、出すまでになった。一刻も早く製造・使用の禁止へ踏み出せ。(2020/2/2)
posted by JCJ at 10:00 | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月01日

カジノ疑獄 整備計画に変化 外資が群がる構図せん明に 横浜の反対集会に2千人=藤森研

雨の中のカジノ.JPG 
 安倍政権が成長戦略の柱として推進する、カジノ導入などのIR(統合型リゾート)計画に暗雲が広がり始めた。IR担当副大臣だった秋元司衆院議員が、事業参入を狙う中国企業からの収賄容疑で逮捕された。横浜市民らからは以前より誘致反対の声が挙がっており、計画が修正される可能性もありえよう。これを機に立ち止まって、ギャンブル依存症の日本の実態についても一度きちんと考えてみたい。
 秋元議員は否認しているようだが、贈賄側の供述や職務権限などから東京地検は強制捜査に踏み切った。事件の構図は、日本でのカジノに外国資本がよだれを垂らして群がって来るありさまを浮かび上がらせた。
横浜情緒を破壊
 横浜市民らによるカジノ誘致反対運動は至って活発である。昨年12月22日には氷雨にもかかわらず、横浜・山下公園に主催者発表で2千人もの市民が集まり、「カジノはいらない 勝手に決めるな」と声を挙げた。同市では、市長選で「白紙」を強調しながら、突然誘致を言い出した林文子市長への不信、風紀の乱れなど横浜情緒の破壊などへの反発も強いが、やはり大きいのはギャンブル依存症への不安だろう。集会でも、「ギャンブル依存症対策を取ると言うが、最大の依存症対策はカジノをつくらせないこと」「金が欲しいからと誘致する林市長こそカジノ依存症だ」などの発言が相次いだ。
 実は、日本は今すでに「ギャンブル依存症大国」である。厚生労働省の研究班が2014年に公表した調査結果によると、「ギャンブル依存症の疑いあり」が4・8%にのぼった。人口では536万人になる。同様の調査で諸外国は人口の1〜2%にとどまっていた。
「有病率」高い
 同省が2017年に発表した1万人面接調査によっても、生涯のうちに一度でもギャンブル依存症だった疑いのある人は推計3・6%、人口換算で約320万人。同じ判定基準で調査した海外各国は1〜2%以下の国が多く、日本の「有病率」は明らかに高い。
 主な原因は、パチンコ・パチスロの蔓延である。患者家族らの会の2015〜16年の調査では、パチンコ・パチスロが依存の対象として最も多く(92%)、ついで競馬(19%)、競艇(6%)などだった。
 最新データによると、世界中で合法的に導入されているゲーミングマシンは約740万台。うち半数以上の約430万台が日本にある。パチンコ・パチスロだ。日本はすでに「ギャンブル大国」でもある。それが高い依存症率を生んでいる事実を直視しなければならない。
 カジノを誘致する前に、政府もマスメディアも、すでにある日本のギャンブル依存状態に対し、きちんとメスを入れるべきだ
藤森研(神奈川支部代表)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年1月25日号
posted by JCJ at 13:36 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする