2020年04月02日

「すっぴんの北朝鮮」文聖姫さん講演 列車止まれば宴会 にわか売店 非合法市場に抗議し存続 庶民生活に見るたくましさ=須貝道雄

■講演する文聖姫さん(20年2月29日).jpg
 本紙に「リアル北朝鮮」を連載しているジャーナリストの文聖姫さん(写真)が2月29日、さいたま市で「すっぴんの北朝鮮」と題して講演した。「週刊金曜日読者の会・浦和」の主催で、現地で撮影したマツタケや菓子のチョコパイなどの写真を披露し、どこか愉快な庶民の姿を語った。
 市場でドルOK
 学生だった1984年に初訪朝して以来、2012年までに文さんの訪朝回数は15回に及ぶ。朝鮮総連の機関紙『朝鮮新報』の記者時代に平壌特派員を2回務めたほか、退職後に入った東大大学院でも現地調査で4回訪朝した。
 講演で取り上げたのは、政権が必要悪として容認する市場の存在だ。合法的な「地域市場」を2008年に平壌で初めて見た話をした。
 地域市場は学校の体育館を三つ並べたほどの大きさで、買い物客であふれていた。買い物をしていると「幹部の奥様」に間違えられたのか、文さんに店の女性たちが寄ってきて、「うちの方が安いよ」と引っ張り合いになった。
 30代の女性が文さんの後をついてきて、買い物袋(レジ袋)はいらないかと売りつける。スケトウダラの干物は国産が販売禁止になっていたが、「国産が欲しい」と頼むと、店の人は中国産の下から、こっそり国産を差し出した。支払いは外貨のドルでOKだった。
 ほかに非合法のキルゴリ(路上)市場が平壌や地方都市の裏通りにある。道端に洗面器やトランクを置き、飲み物やガム、たばこなどを売る。彼らは警察官が取り締まりに来ると、一目散に逃げる。その姿がバッタに似ていることからメトゥギ(バッタ)市場と呼ばれた。
ダニは逃げない
 ところが2012年ごろから、これらにチンドゥギ(ダニ)市場の名称がついた。警察官がやってきても、買い物客が「見逃してやって」と抗議し、店も逃げずに商売を続けるようになったからだ。
 はいつくばるイメージからダニの名がついた。北朝鮮ではダニはたくましさを象徴する言葉。「この話には笑い転げた。ユーモアのセンスが磨かれている」と文さんは当時を振り返った。
 取材で板門店から平壌に帰る途中、未明に列車がある駅で止まったことがあった。何時間たっても動かない。すると線路上に、にわか市場が立った。洗面用に水を売る子供が現れ、その日の夜遅くには列車の下で乗客の宴会が始まった。
 この間に、乗客の若者から文さんはマツタケを4本買った。乗務員に頼み、マツタケのスープを作ってもらったという。名古屋から東京までくらいの距離を結局、2泊して着いた。「それを何とかやり過ごす人々のたくましさを感じた」と語る。
伊料理は苦手か
 案内人らと一緒に平壌市内のイタリア料理店で食事をしたこともある。ピザは意外とおいしかった。イタリアワインは高いので北朝鮮製の焼酎を飲んだ。案内人らは味が合わないのか、パスタ、ピザにはほとんど手を付けず、最初から朝鮮料理を頼んで食べていたという。
 訪朝のたびに通い、「私の心の故郷」と紹介したのがテドンガン(大同江)ビールの工場とビアホールだ。英国製設備の工場でできる生ビールは「本当においしい」と。
 英週刊誌『エコノミスト』が2012年、ビールは韓国よりも北朝鮮がうまいと報じて、お墨付きを与えたエピソードがある。韓国でもテドンガンビールにはあこがれが強く、似た名前の「テガンビール」が登場したらしい。
 ビールに絡み、アカデミー賞を受賞した韓国映画『パラサイト』の一場面を文さんは話題にした。ピザ箱作りの内職をする貧しい家族がビールを飲むシーンだ。出てくるのは2017年発売の発泡酒「フィライト」。350ミリ缶が880ウォン(約80円)で普通のビールの半値近い。「貧しさの象徴として小道具に使っている」と解説。ビール談義は盛り上がった。     
須貝道雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年3月25日号

posted by JCJ at 14:27 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする