2020年06月08日

【月刊マスコミ評・出版】 接触よりも感染機会削減を=荒屋敷 宏

 「惨事便乗型資本主義」を問う好機なのかもしれない。医療や福祉を切り縮めてきた社会の弱点を、新型コロナウイルスの感染拡大が鋭く突いているからだ。とはいえ、改憲や検察官の定年延長にうつつをぬかす安倍政権のもとで、出版メディアは、雑誌の発行に苦闘している。
 ツイッターで盛んに発信している英インペリアル・カレッジ・ロンドン免疫学准教授の小野昌弘さん、京都大学ウイルス・再生医科学研究所准教授の宮沢孝幸さんを登場させた「Voice」6月号の売れ行きがよい。
 同誌で小野さんは、「『夢遊病国家』から脱却せよ」、宮沢さんは、「経済活動は「『一/一〇〇予防』で守れる」と題する論考を寄せている。
 小野さんは、「検査が少ないと批判される英国でさえ、一日で二万人近くを検査しており、検査結果に基づいた統計をデータ活用している。一方日本は十分な検査体制もとれないまま、すでに中盤戦に突入している。この現状はじつに危うい」と指摘している。日本の姿勢については「英国人ならば『夢遊病者のように歩きこむ』というであろう」と辛辣に批判した。
 一方、宮沢さんは、「問題なのは、人類にとって新型コロナウイルスは新種であるため、人口の六〇%がこのウイルスに対する免疫を獲得しないと終息しないことが予想されている点だ」とする。いわゆる「集団免疫」の立場である。宮沢さんは、個人がウイルス感染の原理原則を理解し、接触機会よりも感染機会を削減する努力に期待を寄せている。
 個人の努力でコロナ禍を乗り切れるほど現状は甘くはない。重要な提言をしているのは、「世界」6月号である。同誌で「生存のためのコロナ対策ネットワーク」は、コロナ危機が「生存権を否定し大企業と富裕層のための経済成長を追求する日本社会の構造と、無関係ではない。それどころか、密接にかかわっている」と分析している。そのうえで、「すべての人の生存保障を実現することなく感染拡大の防止は不可能である」との基本認識に立つ「生存する権利を保障するための31の緊急提案」を発表している。
 「現代思想」5月号の緊急特集「感染/パンデミック」は、読み応えがあった。塚原東吾さんの「コロナから発される問い」は、科学史の立場から感染症との闘いや共存の歴史の論点を整理し、「歴史の深い部分からの再検証」を要求している。すべてを疑い、問い続けることは、本来、ジャーナリストの役割でもあるだろう。 
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年5月25日号

posted by JCJ at 09:21 | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする