2020年07月13日

【新型コロナ禍】 関西 100年の伝統あっけなく=井上喜雄

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 新型コロナ禍が市民生活や経済に及ぼしている影響は特に首都圏その他の地域と変わることはないが、関西三都市、京阪神のうち観光産業が大きなウェイトを占める京都では今春以来観光客が激減、とりわけ外国人宿泊客数は四月で見れば前年比99%減の惨憺たる数字となった。「泊れや泊れ」とばかり、この間大型ホテル等の誘致に踊った京都市の観光政策は大きな転換点を迎えたようだ。
 ここ数年インバウンド頼みの様相だった観光関連業界は「緊急事態宣言」解除後の国内客回復に期待しているが、五月以降も葵祭行列の中止に続いて七月祇園祭山鉾巡行も取り止めが決まっており、核となる観光行事が失われた状況では見通しも厳しいと思われる。
 土産物産業も例外ではなく、例えば少なくとも二百年以上の歴史を持つ菓子「八ツ橋」は、京都市によると観光客の4割が購入している定番商品で、市場規模は100億円に上るとされるが、製造元の経営者は地元紙『京都』に「今春の売り上げはおよそ例年に比べて8割減、億単位の赤字です」「いかに観光客に頼っていたかが見えてきました。ありがたいことにこれまでは、あまり努力をしなくても多く売ることができました、八ッ橋もそうですが、京都の伝統産業は長い時間をかけて、技術や文化が培われてきました。しかし伝統産業が崩れてしまうのは一瞬です」とコロナ禍の怖さを語っている。
 大阪でも老舗が店を閉じる。大阪のランドマーク通天閣の「あい方」(高井・通天閣観光社長)ふぐ料理店「づぼらや」(写真)が今秋閉店するという。大阪では「てっ(ふぐ)ちり」イコール「新世界のづぼらや」と答える人は多く、100年の歴史がある老舗だ。閉店のニュースはさすがに全国に流れたが、運営会社は「(大勢で鍋を囲むという)密を避けながらこれまでどおりに営業する見通しを立てられなかった」としている。
 新型コロナウィルスは100年の歴史をも駆逐する猛威ぶりだ。
 ポストコロナがどうなるか全く予想がつかない。
 井上喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号

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2020年07月12日

【今週の風考計】7.12─大雨が続く中、一輪のバラとダンディと宮沢賢治

この1週間、降り続いた雨が小止みとなり、家の周りの花々を見てきてほしいと妻にせっつかれ、重い腰をあげた。
 まずはベランダの手すりにかけたプランターを眺めると、アイビーゼラニウムが赤や白の房状の花を元気に広げている。枯れた花殻を摘み取る。レトリスに絡む朝顔は紫の大輪を、誇らしく5つも葉の陰から浮かびあがらせている。

庭に下りてバラに目を凝らせば、バラの若い葉裏に黒い1センチほどのシャクトリムシが付いている。コンチクショウとつぶやきながら、ワリバシで摘まんではサンダルの足で踏みつぶす。
 これは「ヨトウガ」の幼虫で、新芽は食いつぶし、蕾だって中を通り抜けながら食べるので、花が咲くと穴が等間隔に開いて、無残な姿になっている。頭にくる。
3年前に河津町のバガテル・バラ園で購入した「伊豆の踊り子」が、輝くような黄色の花弁を開く。ピンクの大輪「プリンセス・ドゥ・モナコ」や名前は忘れたが白いバラも開花している。ベゴニアやマリーゴールドも色鮮やかだ。
 小さな鉢に植えた赤いミニバラの中から、一輪の花が咲く一枝をハサミで切り、部屋に戻って備前焼の小さな一輪挿しの花瓶に投げ入れる。テレビ台の前の床には、これまた紫色のちっこい花をつけたセントポーリアの鉢がある。やっと腰を下ろし、テーブルの上に広げた朝刊のまわりが、いやに明るく見える。

さて紙面に目を通しながら聴く今日のCDは、ヴァンサン・ダンディ「フランスの山人の歌による交響曲」OP 25、デュトワ指揮・モントリオール交響楽団(DECCA430 278-2)である。コロナ禍の中、毎朝、適当に選んでクラシックを聴く。
 ダンディが毎年夏を過ごした、フランス中部山岳地方セヴェンヌの山々を望む土地ペリエで耳にした牧歌が、主題に充てられている交響曲。35歳の時に作った独奏ピアノが入る珍しい曲だ。ホルンやフルートなど管楽器が多彩に使われ、さわやかなメロディが心地よい。
どこかで聞き覚えのあるメロディ、気になって調べてみると、4年前に亡くなった富田勲の「イーハトーヴ交響曲」(DENON COGO62)、まさに宮沢賢治へのオマージュの中で、多く使われているのが分かった。
 筆者には「フランスの山人の歌による交響曲」の第3楽章が、とりわけ印象に残っているので、「イーハトーヴ交響曲」にある、宮沢賢治作詞・作曲の<剣舞/星めぐりの歌>を聞くと、オオそっくりだと声が出てしまう。

それにしても宮沢賢治という作家は多才である。自ら楽曲づくりも手掛け、作詞は25曲以上、うち8つは作曲もしているとは驚きだ。ダンディの交響曲だって聞いていたに違いない。富田勲の「イーハトーヴ交響曲」には、宮沢賢治の作詞・作曲が3つ入っている。聴いてほしい。
 さらに付け加えれば、賢治は旅好きだった。梯久美子『サガレン』(KADOKAWA) は、宮沢賢治が亡き妹トシの魂を探して、サハリン(樺太)を旅する姿を丁寧に追っている。(2020/7/12)
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2020年07月11日

【月刊マスコミ評・新聞】 拉致問題 取材しているのか=白垣詔男

 襟元で泣いてサビてる青リボン―6月9日付毎日1面「仲畑流万能川柳」の1句だ。
 横田滋さんが6月5日に亡くなり(享年87)、6日付朝刊のほとんど全紙が1面で報じ、9日の「万能川柳」に早くも、投稿が載った。
 新聞朝刊社説では7日に朝日、毎日、産経が取り上げ、読売も9日付で追い掛けた。全社説に共通していた主張は「日本政府には問題の解決へ向けた有効な方策を急ぐように強く求める」(朝日)と安倍政権の無策に対する不満を総体的に訴えている。
 なかでも「安倍首相の広報紙」とみられている産経が「安倍首相」の名前を出して「解決」への尻を叩いているのが印象的だ。「政府広報紙」が定着している読売も「政府は様々なルートを通じ、北朝鮮に首脳会談を働きかける必要がある」と具体的な提案をしている。
 ところで、「拉致問題」解決への日朝間の現状はどうなっているのか。全紙、触れていない。取材していないことを白状しているようなものではないか。
 北朝鮮との交渉は一義的には外務省で、それを後押ししているのが首相官邸とみるのが妥当だろう。しかし、その動きは全く見えない。かつて田中均外務審議官が身を挺して北朝鮮との交渉に当たったことは歴史的に知られている。しかし、その田中審議官に対するその後の政権の非情な対応は、「拉致問題」解決が大きく後退した原因になったことは報道に接する限りで国民は知った。
 現在、外務省には第2、第3の「田中均」氏はいないのか。それとも、マスコミが取材していないのか。新聞を読んでいるが、「拉致問題」報道がないのはどうした訳だろうか。取材していないのではないかと疑われても仕方がない。
 安倍首相はじめ左胸に「青リボン」バッジを付けている国会議員らは多く見かけるが、彼らはバッジを付けているだけで何の行動もしていないのだろう。何のための「青リボン」バッジか。正に「泣いてサビてる」ものを付けるだけでいいのか。
 新聞はじめマスコミは「拉致問題」解決に向けて「現状」を取材して政府の動きを報告してこそ、打開できる糸口になるのではないか。何もしなければ安倍政権と同じ「ポーズだけ」と言われても仕方がない。
白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号
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2020年07月10日

【新型コロナ禍】 東海 第2波への備えに奔走=加藤剛・古木民夫

 新型コロナの第2波が来ても後手を踏まないように、岐阜県は「県感染症対策基本条例」の制定をめざし、その骨子案をまとめた。今回の騒動で感染者や医療従事者への不当な差別・誹謗中傷があったことを踏まえ、こうした行為の禁止を盛り込んでいるのが特徴。
 県は検査・医療体制の整備などに力を注ぎ、専門家会議を常設化する。6月中に開く県議会に提案、可決されれば全国初となる。三重県にも同様な動きがあるという。
  一方、愛知県は新型コロナ対策に特化した「感染症対策局」を5月20日に発足させた。県内の感染が落ち着いているうちに、検査体制を増強し、第2波に備えるという。
 コロナ休校による授業の遅れを、夏休みの短縮でしのごうという動きが東海の小・中学校の間で具体化している。中日新聞の調べによると、岐阜県の多治見・中津川など周辺5市が、今年の夏休みを例年に比べて8割近くカットし、9日間にする方針を決めたという。
 これは極端な例だが、短縮を計画している学校は8月上旬からの16日間を夏休みとするケースが多いようだ。いずれにしても。東海の小・中学生たちにとって、今年はきびしく、忙しい夏になるのは間違いない。
 ところで、緊急事態宣言の下で、街場の状況はどうだったか。名古屋市西区界隈での見聞をいくつかをお伝えしよう。
 この辺りでは宣言以降、地下鉄の利用者が減り、路地の人通りも少なくなった。が、飲食店などが休業するケースはほとんどない。そんな中、ある串カツ店は店先を改造、テイクアウトのメニューや野菜、酒ビンを並べるなどの新手を繰り出した。
 名古屋と言えば、喫茶店がモーニングサービスを競うことで知られるが、朝食メニューのほかに、色とりどりのマスクを販売する店もあった。浄心駅の近くでは、ヘアーカット専門店の店先に「マスクして来なかった方は入店できません」と言うプレートがお目見えした。
 一杯飲み屋も三密≠避けるのに大変苦労があるのだろう。店先にある客寄せタヌキの置物にもマスクをかけるなどの工夫で「コロナ後」に備えている。
 加藤剛・古木民夫
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号
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2020年07月09日

「権力と報道の距離」考えよ 理想と現実の間で闘うのが記者 「黒川賭けマージャン」にみる=徳山喜雄

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  黒川弘務・前東京高検検事長は賭けマージャンで辞職し、法務省の内規に基づく「訓告」という軽い処分を受けた。振り返れば、黒川氏は内閣による脱法的な法解釈変更で定年延長していた。
 内閣法制局長官、日銀総裁、NHK会長など、安倍晋三政権は独立性がきわめて重んじられる要所の人事を恣意的に行なってきた経緯がある。黒川氏の定年延長も検察ナンバー1の検事総長への布石といわれ、「官邸の守護神」と揶揄された。
 検事長が、コロナ禍による緊急事態下に賭けマージャンに興じるのは言語道断だ。黒川氏のお相手を常習的にした産経新聞の社会部記者2人と朝日新聞の元司法担当記者は、どうなのか。
 両紙とも「極めて不適切な行為」とし、産経は記者2人を取材部門からはずし、朝日は元記者を役職からはずしたうえで停職1カ月とした。
報道倫理の問題
  おわび記事(いずれも5月22日朝刊)をみると、産経は「取材対象に肉薄することは記者の重要な活動」として自社記者をかばい、朝日は「取材活動ではない、個人的な行動」とし、元記者に責任を押しつけたとも取れる記事を書いた。
 しかし、ここで語るべきは、「権力と報道の距離」の問題ではないか。両紙ともこれについてはほとんど触れていない。権力と距離を保つことは、報道倫理の最重要事項のひとつである。
 では、産経は取材対象に肉薄し、特ダネや独自ダネを書いたのか、ということだ。だが、ここのところ検察がらみで目立つ記事はでていない。
  黒川氏が検事長時代に指揮をとった総合型リゾート(IR)の汚職報道は、自民党議員の逮捕者もでたが、読売新聞がリードした。産経新聞関係者によると、「マージャンを繰り返している割には、記事がでてこない」との不満が社内にあったという。黒川氏は記者を操る鵜匠だったのか。
 「権力と報道の距離」を改めて考えたい。読売はこの年末年始、IR汚職報道で確かに精彩を放った。一方で、権力との距離の近さもしばしば指摘されてきた。第2次安倍政権発足後のきわめつけは、憲法施行70周年にあたる2017年、安倍首相に単独インタビューし憲法改正について縦横に語らせ、憲法記念日の5月3日に特大記事を載せた。
 改憲という国家の根幹をなす重要テーマは、オープンな場で記者会見し多様な質問を受けるのが、まっとうな対応だろう。
 その後、野党議員が衆院予算委で安倍首相に改憲発言の真意をただすと、「自民党総裁としての考えは読売新聞に相当詳しく書いてある。ぜひ熟読してほしい」と答えた。国会で説明を求められ、「新聞を読んでくれ」とは、前代未聞の答弁である。安倍首相(権力)と読売新聞(報道)の距離が厳しく問われる場面であった。
 気脈を通じた報道機関、あるいは記者からの取材を受ければ、批判的な質問を受けずにすむ。新聞だけでなく放送においても、安倍政権の「メディア選別」は常套手段で、お家芸ともいえる。
公共放送の役割
 公共放送であるNHKと政権の距離も気がかりだ。たとえば、安倍首相と近い関係にある政治部の女性記者が主要ニュースの解説を担当し、その内容はジャーナリズムの要諦ともいえる「権力監視」をしているとは思えない。
 この記者をテレビで見るにつけ、戦前に『放浪記』で人気作家になり、ペン部隊として中国戦線に従軍した林芙美子を想起する。
 林は1938年夏、日本軍が展開した漢口攻略戦に同行、占領翌日に漢口に一番乗りした。行動をともにした朝日新聞記者は「ペン部隊の『殊勲甲』 芙美子さん決死漢口入り」との記事を書いて賞賛。帰国した林は、東京、大阪の各地で従軍報告講演会に登壇、戦争熱をあおった。
 戦中と現在とは違う。だが、「権力と報道の距離」の問題はいつの時代にもある。最前線の記者の苦労はわかる。「きれい事ではすまされない」という声も聞こえる。
  しかし、理想と現実の狭間で闘うことも、記者の役割ではないか。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号

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2020年07月08日

【焦点】 トランプがコロナ感染拡大を放置する理由=橋詰雅博

 米国の新型コロナウイルス新規感染者数が6月頃からウナギ登りだ。全米50州のうち42州で増加し、近ごろは毎日4万から5万人と高い水準で推移している。にもかかわらずトランプ大統領は、ウイルスは「99%無害」とか「いつかいなくなる」「(感染拡大は)コントロールされている」などと言い放っている。ワシントン・ホスト紙は、大統領の主張は「致命的な妄想だ」と社説で切って捨てた。トランプはなぜ我関せずの姿勢を続けるのか
 日本ジャーナリスト会議(JCJ)が7月4日に開いた「黒人が殺される国 アメリカの深層」をテーマにオンライン講演したジャーナリスト・矢部武さんは、その理由についてこう述べた。
 新型コロナ感染者急増や反黒人差別デモの対応がまずく、トランプは批判を浴びている。このため11月の大統領選に向けた各種世論調査の支持率は、野党・民主党候補のバイデン元副大統領に10ポイント以上差をつけられている。トランプ再選は危うい。ならばひと暴れする。
 「そこでコロナ感染拡大阻止に積極的に取り組まない。感染がどんどん広がり、感染者が今の2倍や3倍になれば、大統領選は延期や中止もあり得ます。混乱が大好きなトランプならば、それを狙っているのではないか。しかし、そうなってもホワイトハウスに居座り続けられるのは任期が切れる来年1月までですが……。大統領が不在となった場合、民主党のペロシー下院議長が代行を務めます」(矢部さん)
 また、大統領選が実施されてバイデンが勝った場合、トランプは難癖をつけて選挙無効を主張するシナリオも考えられる。彼のメイン支持者である白人をそそのかし、武装市民≠ェホワイトハウスを取り囲む可能性もある。トランプ支持の武装市民は200万から300万人いるという。
 一筋縄ではいかないトランプゆえに何を仕掛けてくるか予測不能だ。
 橋詰雅博
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2020年07月07日

【新型コロナ禍】 新潟 文化・芸術 生計を直撃=高内小百合

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 日曜日の昼下がりになると、開け放たれた2階の窓から大通りに生演奏が響く。チェロ、フルート、声楽など毎回異なる。場所は新潟市役所に近い中心市街地にあるギャラリー「蔵織」。その1階でクラシックCD専門店を営む佐藤利幸さん(56)の企画で4月に始まった、無料の「ライブ」だ。
 新型コロナウイルスの感染予防として演奏会の類も軒並み開催が難しくなった。生演奏の機会を失った音楽家らにその機会を設けたいという思から始まった。「3密」を避けるため開催の告知はしない。だが、通りを行く人たちが思わず足を止めて聞き入る。多彩な演奏家の「出演」に、今では「常連客」までいる。 
 「蔵織」にはサロンコンサートが開けるスペースもある。そこでの演奏会も再開された。定員は従来の3分の1に減らしている。演奏会前にピアノの調律を依頼すると「3月から仕事がなかったから、ありがたい」と調律師は駆け付けた。
 だが、文化芸術に関しても前向きな話題より残念なニュースの方が新潟県でも多いのが現実だ。
 5月には大衆演劇の専門劇場「古町演芸場」が閉館した。県内最大の公募美術展「県展」や県音楽コンクールも中止となった。夏の風物詩となっている野外音楽祭「フジロック・フェスティバル」(湯沢町)も初の中止が発表された。
 本県ではプロの団体は少ないが、ピアノやバレエなどの教室は盛んだ。レッスンと公演で生計を立てている人が多く、ウイルス禍が直撃している。
 市民の文化活動を支援しているアーツカウンシル新潟の調査では、2月以降「休業要請」の影響で公演中止などの影響を受けたのは9割に上り、「節約」や「貯金の切り崩し」でしのいでいる実態も見えてきた。
 経済全体で見れば文化芸術が占める割合は大きくはない。だが、公演などには波及効果もある。フジロックには海外も含め10万人もの来場があり、宿泊や飲食が地域経済を潤す。音響舞台関係者、資機材の搬送搬出、設営などの業者もいる。
 文化芸術分野への公的支援は後に回されやすい。けれど人は衣食住だけでは豊かに生きられない。カロリーだけ満たされて栄養素を欠くようなものだ。公的支援が急がれる。
 高内小百合
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号

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2020年07月06日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】 コロナとテレビ ニュース視聴率20%超え リモートドラマも登場

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 コロナロックダウンで、多くの国で人々は自宅にこもり情報を求めた。そのためテレビ報道は視聴率が上がったが、テレビスタッフ自体がコロナに感染する事例が出たため、番組編成、演出手法にも大きく変化した。
ソーシャルディスタンス
 3月25日、東京都内の新規感染者がハネ上がり「感染爆発の危険」が指摘されたあと、真っ先にスタジオでソーシャルディスタンスを実践して見せたのは「真相バンキシャ」だった(3/29,日本テレビ)。そして報道番組はもとより視聴者参加番組、芸人大量参加バラエティなど多くの番組に多大な影響をもたらした。
 例えばTBS「サンデーモーニング」では、広いスタジオ、長いテーブルに司会の関口宏以外のほとんどは自宅からのリモート出演となり立看板が並んだような画面となった。ほとんどのニュース番組で司会のアナと出演者の間隔が2メートル以上となり、中には透明なアクリル板の衝立で仕切られた番組もあった。
TBS「News23」はメインキャスターの小川彩佳自体が自宅からのリモート出演となった。妊娠中初期であることが理由だった
 バラエティでもタレントが大勢ひな壇に並ぶことはなくなった。多くのドラマはスタジオ収録もロケが出来なくなり、NHKの大河ドラマ「麒麟がくる」は6月7日放送のあと「戦国大河ドラマ名場面集」など再編集番組でしのぐことになった。NHKは6月30日スタジオ収録を再開する、と発表し「22回以降の放送を楽しみにしてほしい」とのべている。
コロナの直撃受ける
 コロナ感染はテレビ局自体も直撃した。毎日放送で、感染が確認されて入院中の制作担当取締役の60歳男性の死亡が4月7日確認されたのに続き、4月12日にはテレビ朝日が「報道ステーション」富川悠太キャスターの感染と番組のチーフプロデユーサーら複数スタッフの感染を明らかにした。テレビ朝日では、その後打ち合わせはすべてテレビ会議に切り替え、出演者とスタッフは接触することなく放送にのぞんでいる。
 富川キャスターの相方である徳永有美キャスターは、2週間の自宅待機の後、リモート出演で復帰、また富川キャスターは6月4日の放送から「報道ステーション」に復帰した。
新趣向番組生まれる
 リモート出演は時に映像の乱れ、音声の途切れなどトラブルが多発したが、放送を重ねることで画質、音声など質が向上した。そしてドラマをリモート画面で制作する「リモートドラマ」、あるいは「ソーシャルディスタンスドラマ」を名乗る新しい手法が生まれた。
 「今だから新作ドラマを作ってみました」(NHK5/4,5/5,5/8)「Living」(NHK5/30,6/6)、「世界は3で出来ている」(フジテレビ6/11)などだ。「宇宙同窓会」(日テレ系ネット6/6,7)。いずれの作品もリモートで作ることを前提にしたシナリオもとにしている。例えばNHKの「今だから・・・・」の第一話は海外で挙式の思いがなわなかった遠距離夫婦とその友人らが、互いにパソコンの会議システムにつながりストーリーが展開、出演者は全員自宅にいて自撮り出演する。
 また、第二話は熟年夫婦の妻が死後の世界から地上の夫とリモートで会話する。第三話では出演俳優のキャラクターが入れ替わるという設定だった。「世界は・・・」は一卵性三つ子の役を林遣都が一人3役で熱演、脚本は「スカーレット」の水橋美江。「宇宙同窓会」は中止になったため急遽オンラインで開かれることになった元天文部の男女5人のリモート同窓会を描く。日テレ系のライブスマホアプリ(LIVEPARK)で無料配信された。
報道番組視聴率上がる
 緊急事態宣言は7都府県では4月7日から発令され、4月16日は全国に拡大された。多くの人々は外出せず、自宅にこもった。
 そうなるとテレビの出番だ。ニュース、報道番組で人々はコロナをめぐる状況を熱心に探る。2月下旬以降NHKニュース7は21.3%、報道ステーションは20.0%と20%を超えるようになったが、これは序の口。各地で外出自粛要請が出されとことと志村けんさんの死亡(3/29)のニュースが重なった3月下旬~4月下旬には多くの報道番組が20%台を経験した。 
 7都道府県に緊急事態宣言が出た4/7日のNHKニュース7は26.8%を記録した。エンタメ番組、バラエティ、ドラマなども、画質が悪かろうが、演出に不具合があろうが、再放送物が多かろうが、視聴率は普段より高く出たことは言うまでもない。中でも人気を集めたのは「テレビ小説エール」(NHK)、「わらってこらえてSP」(よみうりTV)、「ぽつんと一軒家」(ABC)などであった
米3大ネット視聴者倍増
 こうした傾向は海外のテレビ報道でも同じだった。「ニューズウイーク」誌(6,23)の報道によれば昨年同期と比べて、ABCニュース48%増、NBCにユース37%増、CBSニュース24%であった。興味深いことには一連のコロナ報道に対し、民主党支持者の75%、共和党支持者の61%が、客観的でわかりやすいと評価していることだ。共和党支持者はABC, NBC,CBSなどのネットワークニュースを毛嫌いして、トランプ支持のFoxニュースだけを信頼する傾向があったが、三大ネットワークの、客観的、多面的なコロナ報道を認めざるをえなかったといえるだろう。
  日本では視聴率が高いNHKニュース7、NHKニュースウオッチ9には、安部内閣の初動のもたつき、突然発表された休校措置、PCR検査の足りなさにたいし判的報道を一切しない、という報道姿勢に不満が集中した。その一方政府のコロナ対策に鋭い批判を浴びせた、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレ朝)、「ニュース23」(TBS)、「報道1930」(BSTBS)などに「よく報道してくれた」との称賛の声が集中した。
新制作手法を開発
  緊急事態の解除後、6月に入ってテレビも徐々に従来の姿を取り戻しつつある。番組によって差はあるが、スタジオに出演者が少しずつ戻ってきたし、ドラマのロケも、スタジオ収録も感染を避けながら再開され始めた。しか依然としてリモートでゲスト出演に頼っている番組も多い。
  2月以降5月にかけて、テレビ局では、リモート出演の簡便さに慣れ親しんで、すっかり定着したというべきだろう。リモートドラマという新しいジャンルが開発され、視聴者から好感を持って迎え入れられた。
 報道番組ではコロナ取材に困難は伴うのを乗り越え、取材、制作スタッフの感染を避けるノウハウも確立した感がある。新型コロナの政府の政策の批判しながら、刻々変化する状況をあらゆる角度からとらえ、視聴者に伝える番組も多かった。ニュース報道に対する信頼感も広がったといえる。
公共CMが激増
 テレビ広告では自動車、電化商品など耐久消費財関連のCMが減り、またイベント、映画、演劇、コンサートなどが消えた。その穴埋めにACジャパンの公共CMが3月から5月にかけて大幅に増えた。「手を洗ってくれてありがとう、家にいてくれてありがとう。あなたのコロナ対策がみんなを救う」など直接コロナ対策を訴える15秒CMなどだ。一日当たり100回放送されるという記録を作った。
 一般商品のCMで目立ったのは、健康飲料「ポカリ」だった。汐谷夕希ら多数の中高生が自撮り画面でCMソングを歌いつなぐ。まさにコロナ禍の真っただ中でのCM表現だった。
 2次感染の予測が絶えない中で7月を迎える。テレビは市民視聴者の新しい信頼を獲得しつつある。重要なメディアとしての新たな再生の歩みをどのように切り開くのか、見守りたい。
隅井孝雄(ジャーナリスト)
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2020年07月05日

【今週の風考計】7.5─香港の人権を抑圧する「国家安全法」は撤回せよ!

◆「デジャヴ」(既視感)に襲われた。1カ月前に米国の黒人男性が警官に首を膝で抑えつけられ、「I can't breathe」と叫んでいる写真と、まさにそっくりのショットが、香港返還記念日にあたる7月1日に、香港市街で撮影されていた。
 警官がヘルメットをかぶりゴーグルをつけ、スネ宛てなどの重装備で、街頭デモに参加していた男性の首根っこを締め上げ、催涙弾ピストルをデモ参加者に向けている衝撃的な写真だ。
 これは先月30日に中国が強行した「香港国家安全維持法」に抗議する、市民デモへの弾圧現場をとらえた写真である。

◆香港の繁華街や銅鑼湾地区で300人が、即座に「国家安全法」違反の容疑で逮捕されている。荷物検査まで行い「香港独立」と書かれた旗を隠し持っていたとの理由で検挙している。
 こうした深刻な現実を招来させたのは、ほかでもない中国・習近平政権だ。これまで香港の「高度な自治」を認めてきた方針を投げ捨て、香港の人々の人権を抑圧するだけでなく、中国自らが国際的に公約した、「一国二制度」をブチ壊す暴挙である。
 香港議会での審議も抜きにして、中国政府が一方的に押し付けるなど、民主的手続きを無視しての強行は断じて許されない。
◆しかも香港政府内に、中国政府の出先機関「国家安全維持公署」を新設し、香港における市民的・政治的行動を取り締まるため、中国当局が直接介入し、弾圧ができるようにするとは、中国自らが署名・支持してきた国際人権規約にも反する。
 66条からなる「香港国家安全維持法」は、国家分裂や政権転覆、テロ活動、外国勢力と結託して国の安全に危害を与えたり、威嚇したりする行為を取り締まる。最高刑は終身刑だ。外国人も含め、香港にいる全ての者が処罰の対象だ。裁判の管轄権は中国政府が握る。

◆香港は英国から中国に返還される際、当時のケ小平国家主席は、2047年までの50年間、香港を社会主義化しない「一国二制度」を守ると約束をし、「高度な自治」が保障されてきた。
 香港市民は自らを「香港人」と捉え、とりわけ若者たちの間では自治と司法の独立を誇りに、「雨傘運動」「人間の鎖」など、強圧的な中国への抵抗を繰り広げてきた。
◆しかし、今や一部の活動家グループは「国家安全法」の対象となることを恐れ、香港離脱や活動停止表明をしている。街中でも商店主らが反政府デモを支持するポスターを撤去する動きがみられる。このまま中国に屈服してしまうのか。
 9月6日には香港立法会の議員選挙がある。7月18日から立候補の受け付けが始まる。民主派団体や組織は11日〜12日に候補者を決める予備選を行う。だが選挙管理委員会は、施行された「国家安全法」に反対する候補者は受け付けないのではとの懸念が高まっている。
 それにしても中国政府は、30カ国近くの国際的な批判に対し、「内政干渉」だと一蹴するが、基本的人権を踏みにじっての暴挙には、内政も外政もない。謙虚に耳を傾け香港への「国家安全法」は撤回すべきだ。(2020/7/5)
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2020年07月04日

コロナ禍取材最前線 Zoomぶっつけ本番 感情を読み取る難しさ 始めは抵抗感 有効な面も=知念愛香

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 コロナ問題の取材現場はどうなっているか。通信社記者に、この間の体験記を寄せてもらった。
      ◇
  国内で新型コロナウイルスの感染が広がり、現場での取材環境は目まぐるしく変わった。対面取材はしづらくなり、電話やビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」などのオンライン取材が増えた。意義があると思って取材した人の名前を掲載したところ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で思わぬ批判がきたこともあった。これからは「新しい生活様式」ならぬ「新しい取材様式」のための気遣いが求められている。
 目線は時々下に
  初めて取材先からビデオ通話でのやりとりを求められた際、正直に言うと困惑した。電話でやりとりするよりも相手の表情は見えるが、パソコンの画面に向かって話しかけるという点からも、対面取材とは圧倒的に違う。取材先は胸の内を明かすような発言をしてくれるのか……。どう取材を進めたら良いのかが全く分からず、最初の「Zoom取材」はぶっつけ本番となってしまった。
 結論から言うと、オンライン取材は問題なくこなせるものの、相手と打ち解けたり、表情などを読み取ったりするにはノウハウが必要だ。基本的に、ビデオ画面には私の顔しか映らないため、話を聞きながらメモを取っている手の動きや、ノートにペンを走らせている様子は見えない。相手から見ると、私はなぜか目線を時折下に落とし、話を聞いていないような態度を取っているように思われているかもしれない。
 また、目線にも気を付けなければならない。画面上の相手の目を見ても目線は合っていない。視線を合わせるには、相手の目を見ずにカメラを見なければいけない。こうした目線ひとつでも、対面や電話取材とは違う。「私がどう見えているのか」に気を遣う必要がある。
 リラックスする
 とはいえ、出張しないと会えないような遠方の人と話をする場合は非常に有効だ。また、自宅で取材を受けてくれた人からは「リラックスして話せた」と言われたこともある。最初は抵抗感があったものの、今ではメリットとデメリットをしっかり認識した上で、新たな取材手法として上手く取り入れていきたいと考えている。
 オンライン取材の反面、緊急事態宣言中や解除後の街を原稿にするために、しばしば街に繰り出した。緊急事態宣言下でも、自らの生活のために営業する飲食店や、なじみの店を支えるために足繁く通う常連客など、様々な事情を抱えた人と出会った。
 これは緊急事態宣言の解除直後の話だが、神奈川県・湘南の海岸である親子に出会った。母親の「子どもの学校がそろそろ始まるが、休校期間が長かったため夏休みがなくなるかもしれない。今まで外出できず、夏休みもない可能性が高い分、今のうちに遊ばせてあげたい」との言葉が印象に残った。
 許可を得た上で雑観として記事を出したが、SNS上で「緊急事態宣言が解除されたからといって遊びに行くなんて、子どもが感染してもよいと思っている親なんだろう」などの批判的な意見が散見され、驚かされた。
 監視し合う風潮
 社内では、街で取材した人の名前を掲載したところ、発言をめぐって取材相手本人のSNSに誹謗中傷のコメントが届いたため、ネット上の記事を匿名に切り換えたこともあった。
 「自粛警察」という言葉が登場したように、コロナ禍では同調圧力や市民が監視し合う風潮が高まった。同調圧力に迎合するつもりはないが、状況に応じて取材相手が誹謗中傷を受けないような記事の書き方に気を遣う必要があると考えている。     
知念愛香
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号

posted by JCJ at 09:32 | 新型コロナ禍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年07月03日

【沖縄リポート】 沖縄戦継承 考えるきっかけに=浦島悦子

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  沖縄が「慰霊の島」となる六月。今年は沖縄戦終結から75年の節目を迎える。例年、6月23日(沖縄慰霊の日)に平和祈念公園内の「平和の礎」に隣接する広場で開催されてきた沖縄全戦没者追悼式の会場を、新型コロナウイルス感染拡大防止のため規模縮小し、同公園内の国立沖縄戦没者墓苑に変更すると、玉城デニー知事が発表(5月15日)したことが大きな波紋を呼んだ。
 規模縮小に伴い、安倍晋三首相ら政府関係者を招待しないことを県民は歓迎する一方、国の施設で式典を行うことへの違和感・危機感が広がった。沖縄戦研究者や遺族らをはじめとする「沖縄全戦没者追悼式のあり方を考える県民の会」は、「住民目線から殉国の思想へと追悼式の意味が大きく変わってしまう」と、従来の式典広場での開催及び可能な限りの遺族・県民の参加を知事に直接要請した。
 地元2紙はともに文化欄や社会面で連続企画を組み、論稿やインタビューで多角的に問題提起。遺族の一人として県民の会共同代表を務める知念ウシさんは「人々の素直で真摯な祈りが、植民地主義の秩序に回収されてしまう不安」に言及した(6月10日付「沖縄タイムス」)。
 これら県民の意向を受けて玉城知事は再検討を行い、例年通り式典広場での開催を発表(12日)したが、一連の事態は図らずも、追悼のあり方や沖縄戦継承について、改めて考えさせるものとなった。
 国立墓苑での開催について、知事の国への忖度があったとは思わない。むしろ、彼が(知事でさえ)「勉強不足だった」と正直に言ったことが、沖縄社会の現実を浮き彫りにしたのではないか。「風化」が指摘されて久しい沖縄戦をどう次世代に継承し、沖縄戦から続く戦後史をどう捉えるか。それは、国の意向や強権に傾きがちな「コロナの時代」、私たちが「いつか来た道」と同じ過ちを犯さないための貴重な材料を与えてくれたと思う。
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号

posted by JCJ at 05:49 | 九州・沖縄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年07月02日

著名人・若者を動かした「怒り」 「 #検察庁法改正案に抗議します」=望月衣塑子

             ◆望月衣塑子記者.jpg    
 検察庁法改正案が審議入りしていた5月、ツイッター上では「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグ(検索目印)付きツイートが広がり、大きなうねりとなった。賭けマージャン問題もあいまって政府は改正法成立を断念した。
 総数は9百万件を超えたが、数の多さよりも注目されたのは、普段はあまり政治的な発言をしない著名人や若者たちが次々と賛同したことだ。彼らを突き動かしたのは、思想信条や損得ではない、「怒り」の感情だったのではないか。
「罪が無くても」
 5月8日、東京都内の30代の女性会社員「笛美」さんのツイートが始まりだった。この日、検察庁法改正案を含む「国家公務員法等の一部を改正する法律案」が衆議院で審議入りした。
 おさらいすると、政府は長年の法解釈を変更し、1月に黒川弘務・東京高検検事長(当時)の定年延長を閣議決定した。将来、黒川氏を検事総長にすえ、検察捜査への関与を強めようとする官邸の狙いは明らかで、法改正は定年延長を正当化し、検察の独立や公正性をおびやかすものと受け止められていた。実際、笛美さんはツイートの理由を「政府が気に入らない人は、罪がなくても裁かれるということが起きる予感」がしたから、と答えている。
注目度トップに 
 ハッシュタグのついたツイートは急速に広がる。女優の小泉今日子さんや大竹しのぶさん、ミュージシャン「いきものがかり」の水野良樹さん、演出家の宮本亜門さんら著名人も次々に賛同し、ツイッターの注目度を示すトレンドで国内トップにもなった。
 当然、ツイート数=「抗議した人数」ではない。ただ、東京大大学院の鳥海不二夫准教授(計算社会科学)の分析によると、同じ内容を自動で投稿したり、拡散目的で新たにアカウントが作られたりした形跡もなかった。「ネットでの炎上などの案件として比較的多い」と指摘している。
耳を傾ける役割
 日本人の多くは周囲との不要な対立を避ける。政治的な意見を口に出すことはまれだ。特に著名人はファンやスポンサーから敬遠されるリスクが増すだけで、メリットはない。実際、今回も賛同した著名人に「政治に口を出すな」「がっかり」「歌だけ歌っていればいい」という反応も出た。
 それでも今回のツイッターデモに多くの賛同者が続いたのは、検察庁OBたちが意見書で示したような「検察の政治的中立性を損なう」ことへの抗議だけでなく、新型コロナウイルス対策を急ぐべき緊急時に、全く無関係の法案通過を図った「火事場泥棒政権」への猛烈な怒りだろう。
 政権は「普通の人」が政治に意見することを恐れる。20年前の衆院選で森喜朗首相(当時)が発した「無党派層が寝ててくれたらいい」と失言(本音)と通底する。今回のツイッターデモは、普段は政治に無口な層が動いた。不公正や不平等、不正義への怒りは、個人の立場や信条、利害を超えて共鳴し伝わっていく。この音に耳を傾け、報じるのがジャーナリズムの本質だろう。
望月衣塑子(東京新聞記者)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号

posted by JCJ at 13:00 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年07月01日

沖縄県知事選 議会運営 綱渡り 新基地NO過半数確保 いつまで続く政権の民意無視=米倉外昭

開票結果を選挙事務所で待つ翁長雄治.JPG
6月7日に投開票が行われた沖縄県議会議員選挙(48議席)は、玉城デニー知事の与党が、改選前から1議席減らしたものの過半数の25議席を確保した。辺野古新基地に反対する県政を支持する民意が改めて示された。
薄氷の過半数
ある全国紙は10人を超える記者を送り込んだという。なぜ全国的に注目されるのか。
県議会で与党が多数を維持するかどうかは、政府と対立を続ける県政の動向を左右し、2年後の県知事選に直結する。そして、日米同盟の在り方に影響するからである。結果は、「薄氷の過半数」だった。
自民党は今回、初めて新基地容認を明確にした。さらにコロナ対策などへの政府批判が逆風になると見られていた。また、中立・非与党の公明党がコロナ禍を理由に現有4議席から公認を2議席に減らした。
しかし結果は、自民が議席を14から17に増やした一方で、与党は社会大衆党委員長など重鎮が議席を失った。議席を増やせなかったことに、与党陣営から「事実上の敗北」との声も漏れた。
ただ、辺野古新基地反対を表明している議員は非与党も加えて29人おり、全体の6割を占める。新基地反対の沖縄の民意は変わっていない(人数はメディアによって若干異なる。琉球新報報道にもとづいた)。
翌日の会見で菅儀偉官房長官は、自民が議席を増やしたことを問われ「(辺野古について)かなり理解が進んでいるのではないか」と発言。既定方針通りとして、選挙から5日後の12日、約2カ月ぶりに埋め立て工事を再開した。玉城知事は「民意は明確だ。大変遺憾」と反発した。
コロナ禍で運動が制約されたことから、投票率低下が心配されていた。投開票日が大雨だったこともあり、初めて5割を切る46・96%だった。痛恨の数字である。
揺れるオール沖縄
これからどうなるか。玉城県政と政府の、司法の場も含めた闘いはさらにし烈さを増すだろう。県政にとって綱渡りの議会運営となり、基地問題での対政府訴訟や訪米活動などに支障が出かねない。
翁長雄志前知事が「イデオロギーよりアイデンティティー」を合言葉に作り上げた「オール沖縄」は、各勢力の足並みの乱れが目立っている。知事選に向けて体制構築が急務だ。
投票率の低下は、政治に対する無力感、あきらめの反映でもある。これは、政治家だけでなく市民運動やマスコミの課題でもあろう。
しかし、沖縄に無力感やあきらめが広がっているとしたら、それはなぜだろうか。長年にわたり何度も意思を示してきたのに、無視され続けるからではないか。そして、なおも選択を迫られ続ける。そんな地域がこの国にほかにあるだろうか。
 沖縄は保革対立の構図の下では「基地か経済かが争点」とされてきた。それが翁長前知事以後は、ヤマトとの「対立か協調か」=「自立か従属か」に変わった。「ヤマト」とは日本政府にとどまらない、日本人一人ひとりの意味でもある。沖縄の選挙は、自分や身近な政治、政府の在り方を問う映し鏡であると、日本の全ての人々が考えるべきだろう。
米倉外昭(JCJ沖縄世話人)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号

posted by JCJ at 06:03 | 選挙 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする