2020年08月24日

【‘20緑陰図書─私のおすすめ】 大地の上に立つ民衆の一人として生きる=渡辺一枝(作家)

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1990年代から「グローバル化」がしきりに言われ、一方でナショナリズムに喚起された国民国家論が声高に叫ばれるようになってきている。その危険性がコロナ禍で一層鮮明になった時に読んだ3冊を通し私は「国家」は虚構であり日本政府発行の旅券を私が持つのは、便宜上のことでしかないと改めて思う。
 奥野克巳『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』(亜紀書房)は、ボルネオ島サラワク州をフィールドにした著者のエッセイだ。マレーシアは小学校が義務教育だが、プナン人は学校の存在意義を感じず学校教育は定着しない。それは我々の社会での「不登校」とは次元の違う話だ。剥き出しの自然に向き合う中で、困難を乗り越え知恵を紡ぎ、物の見方ややり方を築いてきた森の民は、私たちに異なる生の可能性を示唆しているのではないか。
 熱帯の森で狩猟を生業にするプナン人と長期にわたり継続的に交流してきた著者は、プナン人は私たちには「あって当たり前」の反省や感謝の念が無いが、それは単に彼らの生き方が私たちと異なるからということでしかないという。
 原発事故後の福島を伝える本は数多いが、自分史を交えての飯館村の歴史、事故で破壊された暮らし、国や行政、東電との闘い、避難生活と生活再建の道を、地に足がついた著者の言葉で克明に丁寧に記録した菅野晢『全村避難を生きる』(言叢社)は「農の本質」は種を蒔き、収穫して喜びを分かちあうことで、そのためには土地がなければならないと、国家の論理ではなく民衆の論理として強く説く。
 もう一冊、本橋成一『世界はたくさん、人類はみな他人』(かもがわ出版)は、5歳の時に東京大空襲を体験し、長じて筑豊や賭場など日本の市井の人々を、またチェルノブイリやイラクなど世界を写し撮ってきた写真家による、笹川良一が喧伝した「世界は一家、人類はみな兄弟」に対する強烈なアンチテーゼだ。
 私は、大地の上に立つ民衆の一人として生きていきたい。
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posted by JCJ at 01:00 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする