2020年10月07日

【スポーツ】 人間的な主張が競技者を強くする=大野晃

 全米女子オープンテニスで2年ぶり2回目の優勝を飾った大坂なおみさんの意志の強さが際立った。
 新型コロナウイルス感染症の感染拡大で、十分な練習ができなかったが、蓄えた力を存分に発揮し、試合中の動揺を抑えて、勝ち抜いた。
 驚かされたのは、人種差別による黒人犠牲者たち一人一人の名前を書いたマスクを着けて、無観客の7試合に姿を見せ続けたことだった。
 静かだが、試合に臨む社会的意志を明確に示し、ミスプレーで投げやりになる悪いクセを乗り越えた黒い肌が耀く22歳である。
 黒人男性が白人警官に銃撃された人種差別に抗議して、前哨戦の準決勝を棄権して騒がせたが、出場し、テレビ映像などでの意志表示に転換し、「差別への問題意識を世界中の人に持ってもらいたかった」と強く訴えた。競技者である前に人間であることの自己表現だ。
 国家利益を優先した競技の政治利用が批判されることは多いが、平和の希求や差別の撤廃は大坂さんが言うように人権問題である。五輪精神の根源でもある。
 スポーツ人気が高い米国では、黒人競技者の活躍が顕著だが、白人社会の差別意識は根深い。
 1968年メキシコ五輪では表彰台での黒人競技者の人種差別抗議が非難された。バスケットなどプロ競技者の人種差別抗議行動も批判されてきた。
 大坂さんを苦々しく思う政治家などはいるだろうが、差別を拒否する競技者の強固な意志は、五輪運動を前進させる。
 人類の発展に寄与するスポーツの価値を高める。
 社会的使命を自覚したトップ競技者の意志は、競技への気構えを鍛え、競技力までも強めることを、大坂さんは証明した。
 競技をそこなう独善的な意思表示は問題をはらむが、人間的な主張を抑えて、自由に競技へ専念することなどありえない。
 社会的人間である競技者を、家族や支援者との関係に閉じ込めようとしてきたマスメディアへの警鐘でもある。
大野晃(スポーツジャーナリスト)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年9月25日号


posted by JCJ at 01:00 | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする