2021年05月31日

【裁判】国側主張通りの不当判決 海自艦「おおすみ」事故 遺族側は控訴=沢田正

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  広島県沖の瀬戸内海で2014年1月15日、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と釣り船が衝突し、釣り船の船長ら2人が死亡した事故をめぐり、遺族らが国に損害賠償を求めた訴訟の判決が3月23日、広島地裁であり、谷村武則裁判長は、国側主張通りに認めて請求を棄却した。原告側は「事実誤認の不当判決」として25日控訴した。
 裁判で原告側は、おおすみが後方から「第1戦速」と呼ばれる戦闘態勢の高速で釣り船に接近し、針路が交差する態勢になったのに回避義務を怠ったのが、衝突の主因と主張。海自側は、おおすみに回避義務はなく、衝突直前の釣り船のおおすみ側への右転が衝突原因と主張した。
 釣り船の乗客は「右転していない」と証言、当時の艦長らおおすみ乗員から「釣り船の右転を(明確に)見た」という証言はなかったが、判決は海自側主張を採用した。
 判決の報道は地元2紙が社会面3〜2段、全国紙は社会面などで1段や広島面2段、朝日はなしと低調だった。自衛艦と民間船の事故が続く中で報道の役割が問われている。
沢田正(広島支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年4月25日号
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2021年05月30日

【今週の風考計】5.30─住民を監視する「土地規制法案」の危ない内容

自分が持っている土地・建物は自分のものだ。なぜ政府が調査・監督に入り、個人情報を収集のうえ、売買までチェックするのか。
 6月16日の会期末まで残りわずか。ワクチン接種で大変な最中、国会では基本的人権を制限するトンデモナイ法案が、強行採決されようとしている。「土地規制法案」だ。

政府は、同案の目的は「安全保障の点から重要な施設の機能阻害行為が行われるリスクに対応する」ため、海外からのスパイ潜入や拠点づくり、破壊行為を未然に防ぐ目的で、土地や建物の購入・売買に規制をかけるという。
 自衛隊や米軍の基地、海上保安庁の施設、原発などの「重要施設」がある、周囲1キロ以内の土地や建物、さらには国境の離島などを加え計450カ所以上を「注視区域」に指定し、区域内の土地・建物を利用・売買する場合には、所有者や法人などに調査が入り、売買・利用の中止について勧告や命令を出すことができる。
さらに司令部機能を有する基地や施設周辺150カ所以上は「特別注視区域」に指定し、一定規模の土地・建物を売買する際には、事前の届け出を義務づけ、監督官庁からの査察や調査を受けなければならない。従わなければ、懲役2年以下または罰金200万円以下の刑事罰を科す。

しかも集めた個人や法人の調査情報を、内閣情報調査室や公安調査庁など政府機関の協力のもと必要な分析に回す扱いを否定しない。名前や住所、国籍、土地の利用状況にとどまらず思想・信条や所属団体、交友関係、海外渡航歴など、際限なく広がる恐れがある。
 肝心の「機能を阻害する行為」の内容がアイマイだからだ。法成立後に「基本方針」を閣議決定し、その内容に基づき施行するという。これでは国会のチェック機能は働かず、恣意的な運用のみならず、日常的に市民が監視され、人権侵害につながる危険は極めて大きい。

防衛省本庁のある東京・市ケ谷を考えてみよう。まず周辺1キロ以内は「特別注視区域」に指定されるから、既存のコンビニやビルを売買する際には、事前の届け出が義務づけられ、政府官庁から売買の相手先などの調査が入る。
 個人の土地や建物の売買だって、スパイの購入防止という目的からすれば、事前提出・調査のプロセスは免れない。それを懸念して、すでに不動産の売却価格が下落している。
 埼玉県にある米軍・所沢通信基地の周辺1キロには、並木通り団地800戸の住宅が密集している。その住民を国が情報収集の対象にして監視するのだから、穏やかではない。

多くの米軍基地や自衛隊施設がある沖縄県民に至っては、誰もが調査規制対象となり、知らないうちに監視下に置かれる。
 あの自民党の杉田水脈議員が、鉄面皮にも「土地規制法案」を審議する委員会で、「辺野古基地建設に反対する市民の食べた弁当ゴミが、米軍基地の機能を阻害する恐れがある」と、同法案の拡充を求める発言までしている。狙いがはっきりした、廃案しかない。(2021/5/30)
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2021年05月29日

【出版】「赤狩り」を総括 毎日新聞記者OBらが記録集=明珍美紀 

                                   
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 毎日新聞のOBらが企画した記録集「検証 良心の自由 レッド・パージ70年」が刊行され、記念の集いがこの春、東京・水道橋のキッチン付きレンタルスペース「余白」で行われた。
 副題は「新聞の罪と居直り―毎日新聞を手始めに―」。昨年は、マッカーサーの反共声明(1950年)に端を発するレッド・パージから70年。それを機に元毎日新聞労組委員長の大住広人さん(83)=元社会部記者=が中心となって執筆し、毎日の関係者と朝日、共同のOBらが寄稿した。
 前半の「追放された人間像」の章では、元政治部の嶌信正さん(元毎日記者で経済ジャーナリスト、嶌信彦さんの父)、速記者から社会部を経て政治部に移った小林登美枝さん(その後は女性史研究家として活動)ら4人(いずれも故人)に焦点を当てる。小林さんの夫も元記者で解雇を通告された一人だ。
 当時、新聞、通信、放送の49社、約700人がパージの対象になった。解雇撤回闘争が始まり、横断的な組織として「言論弾圧反対同盟」が結成された。有楽町駅をはさんで北口に毎日、南口に朝日の社屋があり、さかんにビラまきが行われたという。けれども会社側は「GHQや日本政府を意識しての点数稼ぎに懸命だったと言わざるを得ない」と大住さん。記録集には新聞労働者への弾圧の過程が記される。
 レッド・パージに関しては60年代から一部関係者による発掘、調査が進められている。だが、「人権・報道に敏感であるべき新聞がきちんと総括をしてこなかった」と記録集の発案者で元毎日労組書記長の福島清さん(82)は言う。
 私は生前の小林登美枝さんから話を聞き、朝日新聞の「朝日RP(レッドパージ)の会」(すでに解散)の年一回の会合にも参加していた。福島さんの言葉は、まさに現役記者に向けられたものだと受け止めている。
 記録集は、福島さんが事務局を務める「北大生・宮澤弘幸『スパイ冤罪事件』の真相を広める会」が刊行。一冊2000円。問い合わせは千代田区労協(03・3264・2905)。
 明珍美紀(元新聞労連委員長・毎日新聞記者)
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年4月25日号
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2021年05月28日

【おすすめ本】金智英『隣の国のことばですもの 茨木のり子と韓国』─日韓の真の対話へ詩を通して架ける橋=菅原正伯

 茨木のり子(1926〜2006年)は、戦後 日本を代表する女性詩人の1人だが、50歳になってから翻然としてハングルを学び始め、韓国現代詩の「編訳」をてがけ、日本への紹介に力を尽くすようになる。
 本書は、日本文学を専攻する気鋭の韓国人女性研究者が、未開拓だった茨木の分野に新しい光をあてた意欲作だ。
 著者は、詩を通じて日韓の橋渡しを積極的に果たすに至る茨木の道程を初期の作品にも遡りながら解き明かす。茨木は軍国少女だった反省から、何にも「倚りかからず」、本当の自分を生きようと決めたが、著者は茨木の詩の特徴である「対話的要素」が、自己との対話の深化とともに、読者への強いメッセージとなる過程を丁寧にたどる。

 戦争に起因する社会問題や民族問題を批判的に取り入れた作品が、黒人兵、在日朝鮮高校生、田中正造などに触れて登場する。「他者」との出会いと「対話」が韓国への 関心を熟成させていく。
 本書の眼目は、茨木が翻訳・編集した『韓国現代詩選』の分析である。 12人の韓国現代詩人の作品62編を、茨木がどんな基準で選定したかが明かされ、茨木の翻訳が大胆な省略や原詩の内容の改変も含め「思想性確かな詩が、日本語の語感で、分かりやすく描かれること」を何よりも優先したことを解明している。
 これは日韓両語に精通した著者にして初めてなしえたことだが、茨木は翻訳作業を通して「国家や民族を超えた真の対話を目指した」との著者の結論を、泉下の詩人にぜひ伝えたいと思った。(筑摩書房2200円)
                           
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2021年05月27日

【焦点】五輪選手村訴訟8月に結審 9割値引きの根拠示せなかった被告都側に不利な展開だが=橋詰雅博

                          
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               原告団が作成したリーフレット

 都民33人が小池百合子都知事らを相手に損害賠償を求めた五輪選手村訴訟は8月31日(火)に東京地裁で結審する。この住民訴訟で最大の争点になったのは、選手村用地・晴海の都有地(約13・4f)をデベロッパーに売ったのだが、その金額129億6千万円は適正な価格かどうかだ。業界内では「周辺の地価や取引事例価格とかけ離れすぎている。常識では考えられない安さ」と言われている。ならば常識的な金額はどのくらいかだが、原告で不動産鑑定士の桝本幸男さんは1611億円と鑑定している。桝本さんが提示した価格が適正ならば、約1482億円も安く売られたことになる。原告と被告それぞれの不動産鑑定士が証人として尋問も受けた4年間の裁判でこのナゾは解明されたのか。
 裁判で原告側は「9割値引きの根拠を明らかにしてほしい」と訴えたが、被告の都側は「オリピンク要因」「特別な取引」などと主張し、根拠を示さなかった。
したがって最大のナゾを解き明かせないまま結審を迎える。金額について明確な根拠を明らかにしなかった被告側に不利な展開だと思うが、「行政の裁量の範囲内」と裁判所が判断すれば、原告側に不当判決が下される。

 マスコミはこの裁判をあまり取り上げなかったが、TBS報道特集は昨年8月22日に「東京五輪1年延期 選手村マンションは今」を放映。正面から切り込んだ腰を据えた番組だった。ユーチューブで流れるこのダイ字ェスト版の視聴が70万に迫る勢いだ。原告団が発行する「晴海選手村土地投げ売りを正す会」(正す会)ニュース5月21日号(写真下)でこう書いている。
<3月26日に久しぶりに見たのですが、その時55万4461回の視聴だった。最近(視聴が)急増しているのがわかりました。4月の22日ごろまでの1ケ月近くは1日当たり1000回程度、5月8日までの約半月は3000回前後、そしてその後、4千、5千、6千、7千回と急増しているのです。5月17日時点で67万8384回の視聴がありました。
 コロナで五輪の開催が危ぶまれるもとで、晴海のオリンピック選手村に注目が集まったのでしょうか。世論がじわじわと広がっていることはいいことです。『晴海選手村TBS』で検索するとすぐ出てきますので、ぜひ知人等に視聴を広げてください>
 一審判決は早くても年末とみられる。
橋詰雅博
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2021年05月25日

【支部リポート】香川 お寺で小僧生活送った会員が自分史 赤旗記者36年を振り返る=刎田鉱造

                         
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 販売チラシには、「『赤旗』記者になった京都のお寺の小僧さん」とあるように、京都・花園の臨済宗総本山妙心寺の塔頭寺院で4年間、小僧生活を送った著者が、楚田という自分の名前のことを手始めに、香川へ引っ越して8年を期して、自分史のエッセンスをまとめたもの。京都の学生運動や立命館大学梅原猛ゼミ、「赤旗」記者としての36年をふり返りつつ、八鹿高校事件と但馬の日々、京都府庁の「憲法」垂れ幕が降ろされた瞬間、田中角栄と早坂茂三氏のことなど歴史の目撃者として見たことを記録。家族新聞のこと、京都の『無言宣伝』の本に寄せた「一人でもやる、一人からはじめる」、そして「オレの八十をみてろ!」などが第一部です。
 「ぴーすぼーと漂流記」と船内家族「イルカ家」や2015年NPT再検討会議への要請行動ーNY・ボストンへの旅や、中国、韓国への旅の報告など反核・平和・友好・地球一周の旅のリポートが第二部です。
  寄せられた感想には、「自分の人生の折々と重ね合わせて読んだ。自分史を出したいと思った」「『赤旗』が注目されているとき、こんな記者もいたんだという意味で、タイムリーだったのでは」「元気をもらった。われわれもまた志高く生きたいと感じた」などなど。

 楚田さんは「読んでもらって、たよりやメールをもらう中で、旧交を温め、コロナ禍の大変な日々をお互いに意気高く過ごしていこうと気持ちを通わせることができたのは、なによりの収穫であり、うれしいことでした」。
 なお、本の表紙には、香川町浅野に伝わる農民の祭り「ひょうげ祭り」の装束をした写真と、元国連軍縮担当上級代表のドウアルテ氏に2010年段ボールの署名の山とともに一緒に写した写真をみせた時の一コマを使っているのも、工夫の一つです。
刎田鉱造
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年4月25日号
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2021年05月24日

【福島第一原発事故】新聞各社が総力紙面 朝毎 原発回帰の底流に警告 読売の論調に変化の兆し=高橋弘司

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未曾有の被害を出した福島第1原発事故から10年となった今年3月、主要新聞社の報道は、「歴史を刻む」という新聞の使命を思い起こさせる質と量だった。各紙が総力を挙げて伝えた紙面を振り返る。
国論を二分する原発問題を各紙はどう報じたか。まずは3月11日前後の社説や記者論文をみてみよう。朝日新聞社説は事故後の2011年7月に社説で打ち出した「原発ゼロ社会」をめざすべきとの提言を振り返り、「生々しい記憶が10年の歳月とともに薄れつつあるいま、脱原発の決意を再確認したい」と強調。そのうえで事故直後、「30年代の原発ゼロ」を打ち出した民主党政権に代わり、翌年政権を奪還した自公政権が原発推進に針を戻してしまったと批判した。
毎日新聞社説は過去10年の日本のエネルギー政策を「現実から目を背けた原発回帰だ」と指摘、「結果的に再生可能エネルギーを急拡大させる世界の潮流から取り残されてしまった」と政府に原発政策の再考を強く迫った。「復興五輪」のスローガンがいつの間にか「コロナに打ち勝った証」とすり替えられた欺瞞を突き、「10年は節目ではない」と喝破した1面の福島支局長論文にハッとさせられた。

  産経は推進
一方、読売新聞社説は「惨禍の教育を次代につなごう」と訴えながら、福島の被災地について「再生への道筋を見いだせずにいる」などと短く触れたに過ぎず、原発問題への踏み込みを避けた。
これに対し、産経新聞社説は「廃炉前進に国は全力挙げよ」と強調。そのうえで温暖化防止に向けた世界の潮流を意識し、菅政権が「50年までの温室効果ガス排出実質ゼロ」を表明したことに触れ、脱炭素に向けた現実解は「原発ベース電源復帰をおいて他にない」と原発推進を鮮明に打ち出した。一方、東京新聞社説は福島県双葉町に昨年開館した「東日本大震災・原子力災害伝承館」の展示に、安全神話を掲げ、原発誘致を主導した国や県、東電の責任などへの言及がないと指摘、「影をこそ伝えたい」と批判した。

次に特徴的な紙面を見てみる。まずは朝日新聞が原発回帰への時代の底流に警鐘を鳴らした点が目を引いた。3月7日付朝刊で「脱炭素の裏〜原発復権画策」と書き、3月5日付朝刊で「静かに進む原子力回帰」と3人の識者の見方を紹介、国民の間で十分な議論がないまま進む現状を批判した。民族学者の赤坂憲雄さんが震災直後、「東北はまだ植民地だったのか」と新聞寄稿で書いた状況から「変わっていない」と指摘したインタビューも印象的だった。

 多角的視野で
毎日新聞は震災直後、首相の諮問機関「復興構想会議」が震災からの復興を目指して打ち出した7原則を1つずつ検証する「提言は生かされたか」と題した連載を3月1日から連日、3面で大きく展開。「除染対策」「再生エネルギー」「伝承」など多角的な視点で復興の問題点を浮き彫りにする試みが新鮮だった。
記事量で圧倒的だったのは読売新聞だ。3月1日から11日まで連日、「東日本大震災10年」と題し、イラストや写真をふんだんに使ったカラー特集を掲載。事故当時を住民証言で振り返る「被曝の恐怖」、住民帰還の現状を憂える「帰還なお見えず」、避難した3世帯のその後を追跡した記事など力作が目立った。

また、東京新聞は40年の廃炉原則を超えた原発が相次ぎ稼働しようとしている現状を見据え、「老朽原発〜危うい未来」と題した見開きのカラー特集を組み、ぶれない「反原発」の姿勢を示した。産経新聞は震災当時、多数の艦船、航空機を投入して被災地の復旧・復興に貢献した米軍の「トモダチ作戦」などで自衛隊の活躍ぶりを強調する記事が目立ち、やや過度に映った。
旧来の論調に変化の兆しが見られたのが読売新聞だ。3月1日付朝刊社会面トップで、福島県双葉町の商店街入り口にかつて掲げられていた「原子力、明るい未来のエネルギー」と題した広告塔の標語を小学校6年時に作った大沼勇治さん(44)を紹介。事故後の2011年夏、大型バスに町民が乗り、防護服姿で初めて立ち入りを許された際、このアーチの下をくぐると、車内がざわついた。罪悪感を抱いた大沼さんが「自分も加害者じゃないのか」という思いにかられたと書いた。15年にアーチが撤去された後も、保存を求め続け、昨年開館した「東日本大震災・原子力災害伝承館」に「遺構」として展示が決まったことを「光と影 伝えるアーチ」と報じた。

原発の「負の側面」に焦点をあてた5回連載の一環だった。双葉町には10年後も今も住民が1人も帰還できていない。伝統的に原発支持色の強かった読売新聞の論調が今後、どう変化するのか注視したい。
高橋弘司(横浜国立大学准教授、ジャーナリスト)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年4月25日号
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2021年05月23日

【今週の風考計】5.23─自民党・政治家の暴言や“逆ギレ”弾圧を許すな

★菅政権の幹部や自民党議員から、驚くべき内容の発言が続く。しかも説明責任は果たさず、メディアへ抗議や圧力をかけるとは何事か。政治家たるもの、事実を無視し、無知による誤った認識に基づく発言は許されない。

★山谷えり子参議院議員は、LGBT法案をめぐる自民党の会合で、「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、アメリカなんかでは女子陸上競技に参加してしまってダーッとメダルを取るとか、ばかげたことが起きている」などと、性自認に対する悪質な発言をした。
★さらには「道徳的にLGBTは認められない」「人間は生物学上、種の保存をしなければならず、LGBTはそれに背くもの」など、性的マイノリティを差別する驚くべき発言が、他の自民党議員から繰り返された。

★自民党・林幹事長代理も、「根掘り葉掘り、党の内部のことまで踏み込まないでもらいたい」と、参院選の広島選挙区・河井案里陣営へ提供した1億5千万円問題にフタをした。資金提供を決めたのは誰か。自民党・二階幹事長は「自分は関与していない」という。
 当時の甘利明・選挙対策委員長も、「私は1ミクロンも関わっていない」と否定。裁判中の河井克行被告も、「妻の選挙買収には1円も使わなかった」という。
 誰が決め、何に使ったのか、そのうち1億2千万円が国民の税金からなる政党交付金である以上、その使い道を国民の前に明らかにするのは当然だ。フタをさせないためにも、「根掘り葉掘り」糺す必要がある。

★自民党の細田博之元官房長官は、党内の会合で沖縄でのコロナ感染拡大に関連して、「緊急事態とか、まん延防止とか、そんなものに頼っても駄目。沖縄県こそ来県する人への規制、県境封鎖などコロナ対策は独自に取るべきだ。国に頼るべきではない」と、国の責任は棚上げにして、沖縄県に特別な対策を強いる差別的発言をしている。

★岸信夫防衛大臣は、<ワクチン予約システムに欠陥>と指摘する数多くの報道に対し、「悪質な行為であり、極めて遺憾だ」と語り、抗議文を朝日新聞出版と毎日新聞の2社に限って郵送した。
 河野太郎・ワクチン接種担当大臣も「面白半分」の妨害行為であるかのような発言を口にしている。
 さらに岸防衛相の実兄・安倍晋三前首相が、ツイッターに「朝日、毎日は極めて悪質な妨害愉快犯と言える。防衛省の抗議に両社がどう答えるか注目」と投稿。
★これには開いた口が塞がらない。呆れるばかり。安倍前首相こそ森友問題で139回、「桜を見る会」関連で118回の虚偽答弁をおこない、国会審議を1年以上も空費させた「極めて悪質な妨害愉快犯」ではないか。「もり・カケ・桜」の疑惑に答えるのが先だ。

★政治家として、欠陥が明らかにされたら真摯に反省し、解決に向けてどう対応するか、国民に開示すべきで、メディアへ抗議するとは筋違いも甚だしい。驕りたかぶった“逆ギレ”弾圧や発言・投稿を許してはならない。(2021/5/23)
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2021年05月22日

【スポーツ】五輪代表の意見集約を=大野晃

「緊急事態宣言は東京五輪開催と無関係」と、強気なバッハ国際オリンピック委員会会長は、五輪出場の競技者への新型コロナウイルス感染症ワクチン確保を発表し、優先接種を促した。しかし、五輪競泳代表の池江璃花子さんはSNSで五輪出場辞退を求められたと、悩みを訴え、陸上代表の新谷仁美さんは優先接種に疑問を投げかけた。
  国民の命を大切にしない開催強行と、多くの国民が不信を募らせる中で、五輪代表に動揺が広がっているようだ。
 懸命な努力の舞台やスポーツの力を示す機会などと競技者擁護が、五輪開催理由として強調される。しかし、代表の心情は複雑だ。ほとんどの代表が、国民と対立しての五輪を求めないようだが、開催是非の意見は伝わらない。
 代表の開催判断停止は、五輪をめぐる国民の分断を招きかねない。
 五輪は特別なスポーツの場にすぎず、開催できなくとも、スポーツ機会が消えるわけではない。関係者が、自主的に開催を決める大会であり、競技者第一が基本だ。五輪代表の自由な意見集約を保障しなければなるまい。
 日本オリンピック委員会は、1980年モスクワ五輪ボイコットで、それを怠った。苦い経験である。
代表は意見集約のために連絡を取り合い、五輪を招致した東京都や支援する政府に、コロナ禍急拡大でも開催する意義や条件を細部にわたって示すことを要求し、当事者として疑念を晴らす必要がある。
 希望的観測による感染対策がことごとく失敗しながら、甘い見通しの開催準備を示すだけなら、開催断念も辞さない覚悟で、議論を深め、意思表示すべきだ。海外代表の不安払拭に、ホスト競技者の責任がある。
  代表に影響を与えてきたマスメディアは、冷静な判断を促す義務がある。従順さを強要し、メダル獲得を煽るのは犯罪的だ。
  命の危険にさらされた人々を元気づけるなどと、傲慢な態度は代表の資格を失い、競技生活の将来はないだろう。
大野晃(スポーツジャーナリスト)

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2021年05月21日

【おすすめ本】戸崎賢二『魂に蒔かれた種子は NHKディレクター・仕事・人生 』─文章の隅々から滲みでる仕事や人びとに向き合う誠実さ=小滝一志(放送を語る会)

 本書発行の三日後、戸崎さんは1月11日81歳で亡くなった。当初は今秋の発行予定だったが、昨秋から急に作業を急ぎ始め、同時に友人・知人への献本も依頼していたという。すでに遺言の書と覚悟していたのではないか、身の引き締まる思いで頁を開いた。
 本書は、著者がNHK ディレクターを定年退職後、同人誌に書いた仕事や生い立ちに触れた文章を、4章に分けて収録・構成している。
 最初の「ディレクターの仕事」の章には、冒頭に作家大岡昇平を迎えた「NHK教養セミナー」 終戦記念日特集の制作体験が置かれている。それも、著名な作家との出会いと交流が強い印象に残った体験である以上、きわめて自然な配置だ。
 ところが著者自身のご子息の死と深く関わった企画だったことが、文末にさりげなく語られているのも切ない。

 「教育を問い直す」の章では、NHK定年退職 後に就いた大学教授の体験が「研究者としての訓練も教員の経験もない実務者あがりの教員」と謙遜しつつ語られている。林竹二など著名な教育学者と一緒に制作した番組を通して、身に着けた教育論をベースに、学生たちの「人間的成長」を願って、正面から向き合い格闘する誠実さが潔い。
 「記憶の淵より」の章は「生い立ちの記憶」だが、著者の人生を決めた原点が小林多喜二の作品や社会科学にあるとの記述は、ますます亡き著者に親近感を抱いた。
 最後の「いのちにふれる日々」は、著者の闘病記。ここにも家族への細やかな気づかいが満ち溢れ、私たちが気づかなかった優しい人がいた。(あけび書房1800円)
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2021年05月20日

【追悼】戦後民主主義が原点 被爆体験 元毎日新聞記者・関千恵子さん=明珍美紀

  元毎日新聞記者の関千枝子さんが2月東京の自宅で死去された。88歳だった。
「旧制女学校の2年生だった。私は病気で自宅にいたので死は免れた。でも、建物疎開の作業をしていた級友たちは全員、命を失った」
 社会部の同窓会で、関さんは「あの日」のことを語ってくれた。駆け出しの私はOB、OGの案内役。気がつけば関さんを「取材」していた。
 作業の場は爆心地から1・1`。動員された39人の生徒のうち38人がその日のうち、あるいは2週間以内に息を引き取り、残る1人も24年後にガンで亡くなった。「伝えたいことが次々に頭の中に浮かんでくる。原爆というテーマはそれほど深く、重い」と話した。
 父の転勤で東京から広島に移り、被爆した。早稲田大学文学部露文科を卒業後、毎日新聞社に入り、社会部、学芸部で活動していたが、同じく記者だった夫(後に離婚)の米国赴任で退社。その後、全国婦人新聞(後に「女性ニューズ」に改名)の記者となり、男女差別との闘い、平和活動など女性たちの動きをきめ細かく報じた。北京での世界女性会議(1995年)の時は編集長。「大手メディアでは女性問題の記事が少なくなり、その分をフォローしようとスタッフみんなで踏ん張った」という。女性たちによる独立の商業紙として奮闘したが、バブル崩壊後の広告減収などで2006年、廃刊になった。
 自身の被爆体験は「広島第二県女二年西組―原爆で死んだ級友たち」の刊行(85年、筑摩書房)で広く知られるようになった。同書は日本ジャーナリスト会議(JCJ)奨励賞、日本エッセイストクラブ賞を受賞。演劇や朗読の原作にもなり「私の思いがさまざまな形で表現されている」と目を細めた。
 インターネットを通じてだが、最後に姿を見たのは、新型コロナウイルス禍の下、2月2日に行われた安保法制違憲訴訟に関する記者向けのオンラインレクチャーだった。「集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法は憲法に反している」と、全国各地で国賠訴訟が展開されている。関さんも女性有志で提訴(2016年)した訴訟の原告に加わっていた。
 「戦後民主主義の原点に立ち返り、みんなが安心して平和に暮らせる社会をつくる」。その思いが、原動力だった。

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平和への思いを次世代に継承しようと「関千枝子さんを語る会」が4月3日、東京・新宿で開かれた。原爆の問題について学ぶ市民講座「1945ヒロシマ連続講座2016」を主宰する元高校教師、竹内良男さん(72)の呼びかけで、故人と交流を重ねた人々が集まった。
高校1年の夏、東京から広島を訪れ、関さんの体験を直接、聞いたのを機に文通を始めたという堀池美帆さん(26)=番組制作会社勤務=は「その生き方に接して初めて社会との関わりを持つことができた」と振り返った。竹内さんは「若い世代が関さんから受け取ったものを共有し、伝えていくことが大事」と話していた。
写真=「関千枝子さんを語る会」を企画した竹内良男さん(右から2人目)と、思い出を語った人々。堀池美帆さん(左端)は、関さんにとっての「原爆の花」だった松葉牡丹(まつばぼたん)を持参した。
明珍美紀(元新聞労連委員長、毎日新聞記者)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年4月25日号
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2021年05月18日

【スポーツ】国民から嫌われた五輪=大野晃

  初夏のさわやかなスポーツシーズンを迎えながら、東京や大阪などで3回目の緊急事態宣言が出され、またも、プロ野球などの無観客試合や、スポーツ活動の制限が強要された。
  薫風が恨めしいスポーツ愛好者のもとに、心情を逆なでするような「緊急事態宣言と東京五輪開催は無関係」というバッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長の発言が届けられ、国民生活を無視した五輪開催かと、厳しい批判が巻き起こり、にわかに「五輪嫌い」が拡散したようだ。
  さまざまな競技の楽しさに触れ、世界の競技者の友好連帯の姿に、世界平和への期待を膨らませるのが五輪の根本的な意義なのだが、東京開催は招致段階から都民の賛同が少なく、経済効果ばかりが強調されて、盛り上がりを欠いていた。
  にもかかわらず、安倍前首相が主導して、巨額の税金を投じる国家行事にまつりあげ、多くのスポーツ関係者が軽視された平和とスポーツの祭典に懐疑は根深く広がった。
  政府の指揮下で準備が強引に進められたうえ、新型コロナウイルス感染症の再拡大が急激な中で、多くの国民に犠牲を強いる無謀な開催と映っても不思議はない。

 開催を強行すれば国民と対立する五輪になりかねない。 安全で安心な国民生活が第一だからだ。
 とはいえ、東京開催が中止されても、将来の五輪に期待を寄せる国民は少なくないだろう。
 五輪挑戦への国民の支持の継続を願うなら、五輪代表などの競技者や関係者は、開催国ホストとして、世界的な感染症まん延の危険が否定できない東京開催を、断念する勇気を示すべきだろう。世界の仲間も納得するはずだ。
 競技者が結集する日本オリンピック委員会(JOC)が、コロナ禍の深刻な状況に、何ら動きを見せないのはどうしたことか。
 政府に従うだけなら、独立性を自ら放棄することになる。
 1980年モスクワ五輪ボイコットの悪夢へ逆戻りするばかりだ。
  大野晃 (スポーツジャーナリスト)

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2021年05月17日

【追悼】権力監視 舌鋒鋭く 前週刊金曜日発行人・北村肇さん偲ぶ会=澤田猛

                                  
210404  北村肇さん遺影(明珍美紀撮影).jpg

 毎日新聞から「週刊金曜日」に移り、同誌の発行人、社長を務めた北村肇さん(2019年12月23 日死去) を偲ぶ会が、毎日新聞東京本社のホールで4月4日に行われ、友人の一人として出席した。新型コロナウイルス禍で延び延びになっていたが、オンライン参加を含め、友人、元同僚らが北村さんの功績と足跡を振り返った。
  北村さんとの出会いは1970年代後半。毎日新聞社の経営破綻から新社方式に転換して新聞発行を継続していた再建闘争の期間中のことだった。 北村さんは当時、社会部の警察担当、私は静岡支局員。再建闘争に熱心だった私たちは申し合わせて毎日新聞労組の当時の委員長と書記長をJR上野駅近くに喫茶店に呼び出し、再建闘争の在り方について異議申し立てをした。
 以後、職場が異なっても折に触れて会話を交わすようになった。新聞社を退職後、週刊金曜日の編集長、さらに発行人になってから、私は何度か北村さんに講演を頼んだ。JCJの代表委員だった斎藤茂男さんの生前遺言で、「メディアの仲間を横断的につなごう」と約20年続けた懇談会(現在、休会中)があり、私はその万年幹事。講演内容を詰める最後の打ち合わせで8年前に会ったとき、「70歳までは働くよ」と力を込めて笑顔で話していた。その後、がんを患い、古稀を祝う前の67歳で逝ってしまった。さぞや無念であったろう。
 週刊金曜日に転職後は大手メディアという鎧や兜がなくなった分、権力監視への舌鋒が鋭くなった。居場所を得た人間の輝きとでも言えようか。イエロージャーリズムが跳梁跋扈するご時勢だ。週刊誌では唯一の硬派ジャーナリズムを自任する同誌を今後も応援する一読者でありたい。私の言葉を北村さんは黄泉の国でどう受け止めるだろうか。
 澤田猛(毎日新聞社記者OB)
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年4月25日号


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2021年05月16日

【今週の風考計】5.16─ワクチン接種をめぐるドロナワ処方箋の行方

<7月末までにワクチン2回接種、1日の接種100万回!>─政府の大号令ラッパが鳴り響く。だが「ワクチン狂騒曲」に翻弄される自治体や65歳以上の高齢者3600万人は、テンワヤンワの騒動に放り込まれた。
 接種券が届いても、予約の電話がつながらず、ネットのサイトも停止、役所の窓口には予約を求めて高齢者が殺到し、右往左往するばかり。

世界各国は、1年前からワクチン接種へのロードマップを作り、スムーズな実施に向け全力を挙げてきた。米国では、18歳以上の約1億900万人がワクチン接種を終え、接種率は45.8%だ。
 日本はどうか。ワクチン接種率は2.1%、世界で129位、OECD加盟国37カ国の中で最下位。韓国は7.1%の世界98位、日本はミャンマーの3.2%よりも低い。
緊急事態宣言3回目になって、大慌てでワクチン接種の大号令、だが対策はドロナワで混乱を招くばかり。医療従事者への先行接種すら終わらず、1回でも接種を受けた高齢者は1%程度にすぎない。
 接種の遅れや政府の対応に、楽天・三木谷社長も東京五輪の開催は「自殺行為だ」と声を上げる事態。さらに専門家の怒りも爆発、1道2県に緊急事態宣言が追加発令された。

急きょ防衛省が東京・大阪に設けたワクチン接種大規模センター、17日から予約を受け付ける。自衛隊の医官・看護官280人が中核を担うとはいえ、会場の衛生保持のノウハウがないので、結局は民間3事業者に計36億8千万円で委託する。
 大手町の東京会場は「日本旅行」と約19億5千万円で、中之島の大阪会場は「東武トップツアーズ」と約9億7千万円で契約し、会場運営などを委託。民間看護師1日200人の確保は、人材派遣会社「キャリア」と約7億6千万円で入札契約している。
1日当たり東京で1万人、大阪で5千人へ認可申請中の米国モデルナ社製ワクチン接種を見込むが、どこまでスムーズに対応できるか予断を許さない。2重予約や異なる製造会社のワクチン接種による副反応の心配もある。
 さらに政府はコロナ・ワクチン確保のため、5120億円の追加支出を決定した。米国のファイザー、モデルナ、ノババックス3社から計2億5千万回分のワクチン購入に充てるという。だがその配分や使い分けは見えてこない。

変異株の英国型や南ア型に続きインド型の猛威が広がり、従来のワクチンが効くか不安が増している。ある研究機関の抗体検査によると、2回ワクチン接種した人の9割には、変異型の感染にも予防効果があるとのうれしい報告も発表された。
とはいえ「ワクチン狂騒曲」が終演するのはスズ虫が鳴く秋ごろと、予測する有識者の意見は無視できない。ワクチン接種のドロナワ対応のツケに他ならない。(2021/5/16)
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2021年05月15日

【おすすめ本】アリシア・ガーザ『世界を動かす変革の力 ブラック・ライブズ・マター』─人種と性に基づく「二重差別」に立ち向かうBLM運動=矢部 武(ジャーナリスト)

 2020年5月以降、全米に広がった抗議運動「ブラック・ライブズ・ マター(BLM=黒人の命は大切だ)」。本書は この組織の共同代表がBLMの誕生と目的、未来の可能性などについて綴った物語だが、同時に社会に変革をもたらす運動を始めるには、どうすべきかを教えてくれる指南書でもある。
 1981年生まれの著者は20代初めから、差別や貧困、抑圧などと闘う団体で社会運動を組織化するオーガナイザーになるための経験を積む。そこで、「力がなければ自 分たちに損害を与えている地域社会を変えることはできない。そのためには人種・民族、性別など を超えた人々の連帯を築く必要がある」との教訓を学ぶ。黒人だけの組織には限界があり、何よりも過半数になり得ないからだ。

 著者はキング牧師やマルコムXなど過去の公民権運動指導者の功績を認めつつ、その問題点も指摘する。それは黒人男性を中心とした組織のなかで、女性が脇に追いやられていたことだという。
 自ら黒人女性として人種と性にもとづく「二重差別」を経験することにより、多角的な視点から物事を考えるようになったという著者は、2013年、他の黒人女性2人とBLMを創設した。
 BLM運動は、「米国だけでなく、欧州やアジアなど世界各地に広がり、人種的不公平に対し、人々の意識を高めた」という理由で、今年のノーベル平和賞候補にノミネートされている。これは分断と対立が進む世界に変革をもたらす、新しい21世紀型の運動モデルとなるかもしれない。 (人権学習コレクティブ監訳 明石書店2200円)
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2021年05月14日

【月刊マスコミ評・新聞】貧弱すぎるデジタル法案報道=徳山喜雄

 デジタル庁創設を肝とするデジタル改革関連法案の国会審議がつづいている。だが、この法案の内容を知る人がどれほどいるのだろうか。
 首相をトップとするデジタル庁のもとで、省庁や自治体が集めた個人データを一元管理し、行政手続きの利便性を図るというふれこみだ。一方で、行政が保有する個人のデジタル情報を政府が独占する恐れがあり、思想信条や犯罪歴、病歴などの「要配慮個人情報」の収集や記録のあり方に影響を与え、監視国家化へと舵を切りかねない。
 自治体ごとにつくってきた個人情報保護の原則をリセットする「個人情報保護の規制緩和だ」と批判する専門家もいる。政府は個人情報保護委員会の機能を強化するというが、そもそも日本は欧米と比べ、監視システムの整備が遅れている。
 関連法案は63本もの新法や改正案を束ねた大型法案にもかかわらず、菅義偉首相は看板政策として何としても早期に成立させたい意向だ。平井卓也デジタル改革相自らが「霞が関の常識を越えたスピード」で進められていると認める。
 国民生活に密接にかかわるため、慎重な審議が求められる重要法案であるものの、衆院内閣委員会での審議時間はわずか27時間半。衆院本会議で4月6に可決され、舞台は参院に移った。
 ここで強く指摘したいのは、この「デジタル法案」の中身や国会審議の経過を丁寧に報道していないことだ。在京6紙のうち、6日の衆院通過までに朝刊1面で審議の模様や解説を報じたのは東京新聞(3月30日、4月3日、7日)だけで、他紙はまともに扱っていない。ほかに重要法案もなく、今年度予算も成立している。
 コロナ禍や総務官僚接待問題などに、野党も報道も追われているというのは、言い訳にならない。国民の生殺与奪にかかわる個人情報の行方について、分かりやすく説明するのが新聞の外せない役割であろう。繰り返すが、目立つ扱いで報道しているのは東京だけで、あとはアリバイ程度の貧弱さで、不可解でもある。
 法案が成立してから、いくら書いても後の祭りだ。事前に問題点を指摘し、修正あるいは廃案を求めていくべきではないか。参院での成立は5月中旬になりそうだ。いまからでも、しっかりと書いてほしい。 
 徳山喜雄
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年4月25日号
 

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2021年05月13日

【沖縄リポート】ミャンマーと連帯して行進=浦島悦子

                              
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 新型コロナの蔓延と、それでも新基地建設工事を止めない菅政権との二重の対峙が続く辺野古の現場。海・陸4か所の現場への分散参加や、機動隊による「ごぼう抜き」直前での自主移動、等の感染対策、ゲート前テントでは作業車両搬入の合間に「辺野古塾」と称する連続学習会を行うなど、創意工夫を凝らしながら、粘り強いたたかいを続けている。4月9日には、県内で活動するミュージシャンたちによる「フォーク(4.9)の日」ゲート前コンサートが開催された。
 しかし、沖縄県の新規感染者比率が全国2番目となり、県が最高警戒レベルに引き上げたのを受けて4月13日から5月連休明けまで、現場行動は昨年来4回目の自主休止を余儀なくされた。
 そんな中で4月10日、辺野古新基地反対運動に係る有志の呼びかけにより、約70人が名護市街地で、ミャンマーと連帯する「キャンドル道ジュネー(行進)」を行った。折しも、ミャンマー国軍による銃撃で、一度にデモ参加者80人以上が殺害されたとの報道があったばかり。
 行動には、名護市にある名桜大学のミャンマー留学生2人も参加。「アジアの平和なくして沖縄の平和もない」という横断幕を掲げ、出発点の名護市役所中庭で行われた集会で、「ミャンマーで今起こっていることを多くの日本人が知り、声を上げてほしい。国は国民を守る義務がある。国民を守らない国はいらない。民主主義の国が実現するまで頑張りたい」と訴えた(写真)。
 カレン族の留学生は、デモに参加している家族と連絡が取れなくなっていると、涙ながらに語った。弾圧に苦しむミャンマー現地からのメッセージも届けられた。
 その後、暮れなずむ街を、キャンドルやちょうちん、光るものを手に持ち、「ウイシャルオーバーカム」や「イマジン」を歌い、「ミャンマー守れ!」「弾圧反対!」などの掛け声を上げながら、「ひんぷんガジュマル」までの約1キロ余りを行進した。
浦島悦子
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年4月25日号
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2021年05月12日

【オンライン講演】政権交代 浄化の一番の手段 「政治とメディア」星浩氏講演=須貝道雄

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 JCJは3月21日、「政治とメディアを考える」のテーマでオンライン講演会を開いた。政治ジャーナリストの星浩さん(TBSスペシャルコメンテーター)は秋までにある総選挙に触れ、自民党の政治のカネに絡む問題、スキャンダルを追及するには「検察庁頼みでは限界。やはり政権交代が必要になる」と語り、米国大統領選挙のような交代劇こそ、政治浄化の一番の手段だと強調した。 
 
 政治に緊張感も
 総選挙の見通しについては「政治記者の勘に基づく楽観論」として、次のように述べた。「任期満了の解散だと野党に有利だ。自民党が40〜50議席ぐらい減らすだろう。国会は与野党が拮抗し、次の政権も不安定になる。2022年の参院選を経て、その次の総選挙が政権交代のチャンスとなるだろう。少しは日本の政治にも緊張感が出てくるのでは」
 与野党の政権交代は、自民党支持者の3割が野党に投票しないと実現しないという。2009年に民主党(当時)が政権をとった時に起きた現象だ。現在の立憲民主党も「左のことばかり言っていると難しい」と注文。例えば@選択的夫婦別姓を実現し、世の中の多様性に合わせるA富裕層への増税をきちんとやる――などの政策を訴えたら、変化が出るのではないかと話した。
 ポスト菅政権で河野太郎氏の名が出ることが多い。星さんの河野評は「政治リーダーの資格なし。あるのは勢いだけ」と厳しい。
 19年7月、当時外相だった河野氏が徴用工の問題で駐日韓国大使を呼びつけ、報道陣のカメラの前で罵倒したことがあった。
「これは外相として絶対にやってはいけないこと。相手国とのパイプになり、多少評判の悪い人ともきちんと付き合うのが役割だ。本来なら、よくいらっしゃいました、お互い本音で話しましょうと言うべきだ」

 包囲網に3兆円
 国際情勢をめぐっては、日本が対中国ミサイル包囲網システムに組み込まれようとしている実情を指摘した。3月に開かれた日米の外務・防衛閣僚会合「2プラス2」がそのスタートラインだったという。共同声明では中国を名指しで批判した。米側から「自衛隊もミサイル基地をつくれ。カネも出せ」という要求が出てくる可能性が高いと読む。
 というのも、米軍が昨年秋に「いま中国と戦争になったらどうなるか」のシミュレーション(模擬実験)をしたところ「米軍がこてんぱにやられることがわかったからだ」。対中ミサイル包囲網には3兆円ほどかかる。「日本はどこまでやるか」。憲法との関係で大きな問題になろう。
 メディアについては、分断を乗り越えるために横断型のNPOなど、ジャーナリストの拠点作りが必要で、自身もその枠組みを考えていると語った。首相記者会見で「お聞かせください」などと、へりくだった言葉を使う記者の姿を批判し「なめられますからね」と警句を発した。
 須貝道雄
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年4月25日号
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