2021年07月10日

【JCJ声明】北海道新聞記者の逮捕に抗議する 建造物侵入罪の濫用は取材行為への脅しに直結

 国立大学法人旭川医科大学の校舎内で、取材中の北海道新聞記者が建造物侵入の現行犯により逮捕された。大学側は「その場で身分や目的を問うたが、明確な返答がなく立ち去ろうとしたため、学外者が無許可で建物内に侵入していると判断し警察へ連絡した」と説明し、警察は「常人逮捕」(大学職員による逮捕)として身柄の引き渡しを受けたと発表。警察は記者を48時間留置した。記者の取材行動をめぐり、学問の府と警察権力が報道機関を「懲らしめる」という構図になった。
 これは行き過ぎた大学の取材規制、不必要な警察の身柄拘束であり、看過できない。取材者に対する一種の脅迫である。公益目的の取材活動を萎縮させ、ひいては市民社会の自由の束縛につながることを私たちは危惧し、大学と警察に抗議する。
 今回の逮捕は建造物侵入罪の濫用の疑いが濃厚だ。今後、建物内の取材規制に同罪が悪用されれば、報道の自由は大きく揺らぐ。現に、取材のためにカルト教団の公開施設に入ったフリーランスの記者が建造物侵入罪で有罪判決を受けるという問題が起きている。新型コロナウイルスの感染防止を理由にすれば、どこでも取材記者を立入禁止にできるという悪しき例にもなる。

 大学職員に現認された記者は当初、身分を明かさなかったのは事実のようだ。では大学はいつの時点で道新の記者であることを認識したのか。JCJ北海道支部の質問に、大学は「捜査中」を理由に回答を拒否した。しかし、道新関係者によると、記者は警察官に身柄を引き渡される前に姓名と身分を明かしていたという。それが事実なら、大学は新聞記者と認識した上で警察に引き渡したことになる。その細部の説明をなぜしないのか。したくない何らかの理由があると疑わざるを得ない。

 その後の警察の対応も明らかに異様である。48時間の留置後、任意捜査に切り替え、記者を釈放したが、捜査は継続中とのことである。記者の行動への指示命令系統を解明するための捜査らしい。いったい何が目的なのか、深い疑問を禁じ得ない。報道機関への過剰な「一罰百戒」の意図が透けて見える。

 道新記者は立入禁止区域に無断で立ち入り、非公開の会議をドアの隙間から無断録音していたという。大学側がこの人物を取材中の記者だと認識したとすれば、記者に抗議して退去を求める、北海道新聞に抗議する、取材手法の是非を社会に問う、など警察権力に頼らない対応ができる状況ではなかったのか。現行犯で逮捕する必要があるほどの実害も、大学側の説明からは見当たらない。

 旭川医大が北海道新聞記者を記者と認識した上で警察に引き渡したとすれば、報道機関の取材活動の是非をめぐって警察権力の介入を許す軽率な対応であったと言わざるを得ない。旭川医大は記者を警察に引き渡すまでの詳細な経緯と判断の根拠を検証し、結果を公表すべきだ。

 一方の当事者である北海道新聞は記者逮捕から2週間後の7月7日、社内調査結果をようやく公表した。「記者教育に問題があった」など低姿勢の釈明に終始し、事実上の謝罪となっている。記者が逮捕されたことについて「遺憾」と言うだけで、大学や警察の対応の問題点には一言も触れておらず、報道機関としての矜持に欠ける内容になっているのは残念としか言いようがない。事の本質に正対することを望みたい。
 報道規制をかいくぐってでも事実に肉薄し、何が起きているかを取材し、伝えるのが記者の本来の役割であり、仕事である。規制に唯々諾々と従っていては、かつての大本営発表のような記事ばかりになる。事実を知る権利のある市民の期待に応えることはできない。今回逮捕された記者も取材目的で建物に入ったのであり、正当な行為であった。その点から実名報道は不適切であり、道新はすぐに大学と警察に抗議すべきだったと考える。

 道新記者の行動の背景には旭川医大の報道対応、情報開示の在り方の問題点も指摘されている。旭川医大は、学長の学内学外へのハラスメントで別の病院を巻き込み、コロナ禍で苦しむ旭川医療圏の医療を大混乱に陥れた。感染者や死者が多く出たのは、こうした混乱も一因との指摘もある。病院長も解任された。事実を知りたいとの声が極限に達している。一方で、患者や市民への説明はほとんどなされていない。取材は必要な状態だった。
 しかし毎日新聞の記事によれば、大学側は記者たちの直接取材の求めにほぼ応じず、メールのやりとりでも「回答は差し控える」と無回答が多かったという。取材のため構内に入った複数の記者と、制止する大学側との間にトラブルも起きていた。

 一般市民の批判が情報開示に後ろ向きな大学に対してではなく、そこを突破しようとする報道機関に向けられがちな社会風潮にも私たちは危機感を覚える。国民の知る権利に奉仕するジャーナリズムが、今回の問題で揺らぐことがあってはならない。

2021年7月9日
日本ジャーナリスト会議

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【沖縄リポート】県民をスパイ視の悪法成立=浦島悦子

                         
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 稀代の悪法「重要土地調査規制法」案が参議院において、強行採決か廃案かの大詰めを迎えている(6月11日現在)。
 辺野古新基地建設工事の強行、「中国の脅威」を振りかざした宮古・八重山での自衛隊基地建設、日米共同訓練の激化等々、軍靴の足音が日々高まる中でこの法案が出てきたとき、「とうとうここまで来たか」と背筋が寒くなった。
  住民の反対を踏み潰して強行されるそれらの動きに対して、住民はなお不屈のたたかいを続けている。政権にとってそんな「目の上のタンコブ」を「一掃」できるのが同法というわけだ。「その他政令で定める」「その他の関係者」「必要がある場合」など、調査や規制の対象は権力者の胸先三寸。住民の相互監視や「密告」が奨励され、罰則もある。
  普天間基地を抱える宜野湾市の市長も務めた伊波洋一参議院議員は、米軍基地に土地を奪われ、基地周辺に居住せざるを得ない住民や「国境離島」の住民など沖縄県民すべてを「スパイ視」する法案だと追及した。

 この法案に反対し廃案を求める声明には全国297団体が賛同し、衆議院・参議院での審議に合わせて院内集会がもたれた。衆議院での院内集会(5月26日)では私も、辺野古現地からリモート発言し、「米軍キャンプ・シュワブの国道を隔てた向かいにある座り込みテント(写真)など、私たちが基地周辺に持っている3つの拠点が法の対象にされるのは明らか。住民を委縮させ、市民的抵抗の拠点を奪うものだ」と訴えた。最近、ゲートには多数の監視カメラが追加新設されている。
  6月4日、鳥類研究者の宮城秋乃さんが県警の家宅捜索を受け、県民に衝撃が走った。米軍北部訓練場の返還跡地に散乱している米軍廃棄物を回収し、基地ゲートに置いたのが威力業務妨害だとして、パソコンやビデオカメラ等が押収され、連日事情聴取された。「審議中の法案の先取り」「監視すべきは住民でなく基地だ」と抗議の声が高まっている。何としても廃案に!    
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年6月25日号
posted by JCJ at 01:00 | 九州・沖縄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする