これは、マヤという活発で感受性の豊かな少女が「ある人」に向けて語る物語です。「ある人」とは誰なのか、それは物語の最後に明かされますが、そこへ辿り着くまでが波乱万丈なのです。マヤのお母さんはミユキさん。ミユキさんとマヤはお父さんが亡くなってから、ふたり肩を寄せ合って小さなアパートに暮らす母子家庭。
そんなミユキさんも恋をします。恋の相手がクマさんです。でも、その 恋が一筋縄ではいかないんです。なぜって、クマさんがスリランカ人だったからです。
しかも、ある事情でクマさんは「不法滞在」という境遇になってしまいます。必死になって、ミユキさんとマヤを守ろうとするあまり、陥ったクマさんの苦境。恋の行く手に立ちはだかるのは、あの「入管」。
ここからは、もう恋物語ではなく、母と子が新しい父親を救おうとして闘う奮戦記です。
徒手空拳の母娘に、それでも救いの手を差し伸べる人たちがいます。マヤの親友のナオキくんはゲイの少年ですが、そのたぐいまれなる才能で、何度もマヤの心を温めます。
マヤが憧れる美少年ハヤトはクルド人で難民申請中。そしてマヤ母娘と一緒に闘ってくれるハムスター弁護士(恵浩一郎)が登場して、物語はついに法廷ミステリの様相を呈します。
もう、読んでいてドキドキハラハラ。さすがに結末は書けません。とにかく読んでください。こんな面白い小説は久しぶり。あ、「やさしい猫」ってタイトルはクマさんの故郷スリランカの話。それにしても「入管」って、いったい何なんだあ!と叫びたくなります。(中央公論新社1900円)