2021年10月29日
迷走「スーパーシティ構想」自治体提案に国がダメ出し 大胆な規制改革と引き換え 住民ニューズと隔たる危険性=橋詰雅博
デジタル庁と連携
未来都市のモデルと夢を振りまくスーパーシティ構想。政府は新発足のデジタル庁と連帯しながら取り組みを加速化させるという。ところが政府の公募に応じて31自治体が提示した計画案は8月の専門調査会で(会長・坂本哲志地方創生担当相)ダメ出しされた。そして再提出を求められたのである。迷走気味の同構想はどうなるのか。
政商≠ニ揶揄される竹中平蔵・慶応大学名誉教授が旗を振り2018年当時の安部晋三首相が成長戦略として打ち出したスーパーシティ構想は、AIやビッグデータなどを駆使し、車の自動走行、ドローンでの配送、行政サービスのデジタル化、オンライン医療・教育、スマホ決済など少なくても5つの領域を同時に実施する。これには大幅な規制緩和が必要なため国家戦略特区として指定された地域で行う。この地域を措定するのが専門調査会。
「補助金ねらい」
しかしスーパーシティの問題点は少なくない。@これまで実施された12の地域指定のほとんどは経済効果が小さく成長戦略として失敗、その教訓を生かしてないA非参加の住民への手当がなく、嫌なら出ていけという姿勢が見受けられるB個人データ漏洩の防止策が徹底していない―などだ。
こうした問題点のほとんどは未解決のままだが、専門調査会のダメ出しについてスーパーシティ構想に詳しいアジア太平洋資料センター代表理事の内田聖子さんはこう見る。
「各自治体は、プロジェクト担当の内閣府役人や職員、計画を実質的に立案する民間コンサルタントの3者によって計画案を練り上げています。住民の合意を得て、国の意向を入れ込み自治体ができる範囲内で作成した案が専門調査会で突き返されたわけで、国に対し迷走していると思っているはずです。一体どうやれば国は納得してくれるのか思い悩んでいるのではないでしょうか」
8月6日の専門調査会で見直しを求められた主な理由は「大胆な規制改革がない」「アイデア不足」「補助金狙いの印象を受けた」。竹中平蔵氏らとともに専門調査会委員の村井純・慶応大学教授は6日の調査会でこんな発言している。
バスターズが登場
<規制改革には専門性がある。サイバーセキュリティではWEBページをどのように攻撃して穴をあけるということには専門的なノウハウが必要です。これと同じで岩盤規制という壁をみれば穴のあけ方が分かる人がいるのです。専門的な「岩盤規制バスターズ」のような人がもっとメンタリングに関わる。それがすごく大事です>(議事要旨)
岩盤規制バスターズとして役目を担いそうなのは、新しい内閣府IT役人とか民間コンサルタントなど。バスターズが介入すると仰天案≠ェ作成される可能性がある。
「例えば『ドローンをどこでも飛ばしてよい』『住民の多くが車を自動走行できるシステムをつくる』『ある程度加工するが個人データを民間事業者に積極的に提供する』といったプランが考えられます。大胆な規制改革を進めようとすれば住民のニューズから隔たるものが出てくる危険性がある」(内田さん)
再提出の締め切りは10月15日。年内に何カ所かの第一次地域指定が決まる。計画案を再提出した自治体に住む住民はその案をチエックし、不利益をこうむりそうなものが入っているなら自治体にどうしてそうなったかを厳しく問いただすべきだ。
橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年9月25日号