2021年12月31日

【2021年スポーツ回顧1】日本の特徴=大野晃

多くの国民が反対する中で1年延期の東京五輪パラリンピックを強行開催

◎東京都、北海道、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県、静岡県、宮城県、福島県の1都1道7県の42競技会場で大幅な広域開催となった。
◎東京五輪パラリンピックの大会経費が招致時の約2倍の1兆 4530億円の見通しになったと2021年12月22日に組織委員会が発表した。組織委が6343億円、東京都が6248億円、国が1939億円を負担する。
◎会計検査院の試算では、2013年度から17年度に国の関連支出が8011億円に上ったとし、都以外の自治体の開催費用などを含めると、2020年までに全体支出は3兆円規模に膨らむ可能性が高いとした。
◎聖火リレーは、全国で約4割の20都道府が一部の中止を決めたほか、実施しても、公道を使用せず、引き継ぎ式だけがほとんどだった。
◎日本国内での各国選手団の事前合宿も相次いで中止された。
◎新型コロナウイルス感染症の感染者数は、日本全国で大会中に、1日1万5000人を超え、大会終了後は2万5000人を超える感染爆発をもたらした。

日本選手団はメダルラッシュも競技拡大なし

◎日本選手団(1060人で選手583人=男子は306人、女子は277人で全体の約47.5%、役員477人)の選手数は、夏季大会史上最多だった。全競技に出場し、金メダル30個獲得が目標だった。獲得メダル総数は、58(金27、銀14、銅17)で史上最多だった。
女子30も史上最多だった。メダル獲得率は、5・70%で1964年東京大会の5.93%に次ぐ史上2位だった。
◎金メダル獲得は、女子が14、男子が12、混合1だが、7競技と新3競技の10競技に限られ、御四家と言われる柔道9、レスリング5、水泳2、体操2に集中し、従来と変わらず、新競技のスケートボード3、野球・ソフトボール2、空手1が押し上げた。
◎新型コロナウイルス感染症の感染拡大で、世界の競技環境が 劣悪化した中でも、大きな地元の利は見られず、強化の偏向が顕著になった。

意思表明しないJOCに不信が広がる
◎山下泰裕会長が2期目に再任されたJOCは、開催反対の声が高まった東京五輪に対し、五輪代表の意見集約をせず、意思表明をしないまま参加した。さらに十分な総括もせず、その主体性に不信の声が広がった。
◎北京冬季五輪に対しても、沈黙のJOCは変わらず、国民と競技者の溝は、深まるばかりだった。 

プロ野球でヤクルトが20年ぶり日本一
◎延長戦なしで行われたプロ野球は、セ・リーグでヤクルトが、2 年連続最下位から、6年ぶり8回目の優勝を飾った。2015年に2年連続最下位から優勝した時と同様の下克上優勝だった。パ・リーグもオリックスが、2年連続最下位から、25年ぶり13回目の優勝を成しとげた。中嶋聡監督が就任1年目の快挙で、両リーグの前年最下位がともに優勝するのは初めてだった。
◎日本シリーズは、ヤクルトがオリックスを4勝2敗で降し、20年 ぶり6回目の日本一となった。
◎セ、パ両リーグの観客数は、前年より6割増しとなったが、201 9年の3分の1程度にとどまった。

大横綱・白鵬が引退し照ノ富士の一人横綱に
◎大相撲で歴代最多45回の幕内優勝を誇った横綱・白鵬が秋場所後に引退した。モンゴル出身で2007年夏場所後に横綱に昇進し、15年間にわたり、野球賭博問題や八百長問題、東日本大震災など大揺れの大相撲を、一人横綱などで引っ張ったが、横綱審議会などから苦言を呈されることもあった。
◎日本相撲協会は9月30日に元横綱・白鵬の引退と年寄「間垣」の襲名を、新人親方の誓約をさせた上で認める異例の手続きを踏んだ。
◎白鵬に先立って、横綱・鶴竜が引退し、白鵬の休場で横綱不在の場所が多かったが、モンゴル出身の後輩の新横綱・照ノ富士が秋場所で優勝し、一人横綱でリードすることになった。
◎大相撲春場所で、三段目力士・響龍が投げを受けた際に頭部から俵付近に落ち負傷し、1カ月の入院の末、急性呼吸不全で亡くなった。
◎力士の新型コロナウイルス感染症の感染で、宮城野部屋の全力士が休場するなど、休場が多かった。

Jリーグは川崎が2連覇
◎サッカーJリーグJ1は、観客制限で、川崎が、2年連続4度目のリーグ優勝を決めた。
◎Jリーグの多くのクラブで赤字や債務超過が進み、経営難が深 刻になった。

大学の競技会や甲子園の高校野球再開
◎大学の競技会は、無観客や観客制限で再開され、夏の甲子園全国高校野球も観客制限で再開された。
◎高校野球大会では、延長戦のタイブレーク方式が採用され、投手の1週間500球以内の投球数制限が実施された。
◎再開された全国高校総合体育大会に、8競技15校が出場を 辞退した。 

国体の中止が続き、ねんりんピックも中止に
◎三重県で開催予定だった国民体育大会と全国障害者スポーツ大会が中止された。国体中止は2年連続、障害者スポーツ大会の中止は3年連続。
◎新型コロナウイルス感染症の感染拡大のため、「ねんりんピック(全国健康福祉祭)」が初めて中止された。

子どもの体力低下が顕著に
◎スポーツ庁が、小中学生を対象とする2021年度の全国体力テスト結果で、男子小中学生の体力合計点が2008年度の調査開始以来最低を更新したと発表した。小学校の男女と中学校の男子は肥満の割合が過去最高となった。
◎新型コロナウイルス感染症の感染拡大による一斉休校や学校での活動制限などが深刻な影響を与えているとみられた。
◎スポーツ庁はじめ、日本スポーツ協会、そしてJOCも、対策を 示さず、一般国民の運動不足解消の対応も鈍かった。

10eスポーツ人気が高まる
◎対戦型ゲームで勝敗を競う「eスポーツ」に企業、学校、自治体が群がり、人気利用に動き出した。

スポーツ・マスメディアの問題点
1、東京五輪パラリンピックの異常開催を、無観客を条件に容認し、政治利用の批判を回避した。
2、東京五輪パラリンピックのメダルラッシュには無批判に大騒ぎした。
3、東京五輪パラリンピックの異常開催に動揺する競技者が少なくなかったが、五輪代表の社会的使命を問わなかった。
4、五輪の抱える問題に対し、IOCへの揶揄はあっても、掘り下げることがなかった。
5、東京五輪パラリンピックの異常開催に沈黙したJOCへの批判が姿を消し、スポーツ庁批判は皆無だった。
6、プロ野球や大相撲の時代変化に敏感に対応できなかった。
7、感染拡大防止策による取材制限もあって、競技の内容分析を欠いた。
8、外出自粛などで制限された草の根スポーツへの関心を失った。
9、スポーツ離れの国民意識の変化に鈍感だった。
10、スポーツの力を強調しながら、人間的価値の探究を怠った。
  大野晃
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2021年12月30日

【‛21読書回顧】女性の政治リーダーが活躍した理由=清宮美稚子(「世界」前編輯長)

 今年8月、女性政治家に関する本が2冊、ほぼ同時に刊行された。マリオン・ヴァン・ランテルゲム『アンゲラ・メルケル─東ドイツの物理学者がヨーロッパの母になるまで』(東京書籍)と、岩本美砂子『百合子とたか子―女性政治リーダーの運命』(岩波書店)である。
 前者は、今年惜しまれつつ引退した「ヨーロッパの盟主」の評伝。ベルリンの壁崩壊後、政界入りしたメルケルは、すぐに頭角を表わし、時には「策略家かプロの殺し屋かと思われる才能で」政敵を葬り、「カリスマ性のないシンプルな権力」を築き上げた。
 その特異な出自から自由と民主主義の大切さを重んじる彼女は、アメリカでトランプが大統領に当選を機に、4期目も続ける決心をしたという。
 長年にわたる観察と周辺への丁寧なインタビュー取材にフランス人女性という書き手の視点も加わり、困難な時代に16年間、なぜ権力を維持できたのか、その理由の一端を垣間見ることができた。
 もちろん単なる礼賛本ではなく、金融危機の際のギリシャへの頑なな姿勢、(首相になる前だが)イラク戦争に賛成したことにも、批判的に言及している。

 後者は「日本政治史上女性首相に最も近づいた」2人の軌跡を追った上で、日本で女性政治リーダーが、なぜ育たないのか、育てるにはどうしたらいいのかを論じている。メルケル伝と合わせて読むと、近いうちに日本で女性首相が誕生することがあるだろうかと暗澹たる気持ちになる。

 もう一冊、女性に関わるテーマの意義ある出版として、メアリー・ホーランド他『子宮頸がんワクチン問題―社会・法・科学』(みすず書房)を挙げたい。
 「反ワクチン」本ではないが、副反応の問題、臨床試験の信頼性や製薬会社の宣伝戦略の実態など、多岐にわたる論点が網羅されている。2013年6月以来中止されていたHPVワクチンの「積極的勧奨」再開が、正式に承認された今、沈黙している日本のジャーナリズムでも、活発な議論を展開してほしい。
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2021年12月28日

【総選挙報道・新聞】軒並み外れ情勢調査 建設的・批判的な政策論を=徳山義雄

                             
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 大方の予想に反する衆院選結果を受けて、自民党の岸田文雄氏が特別国会で第101代首相に選出された。衆院選で自民が絶対的安定多数を確保し圧勝、立憲民主党が公示前よりも議席を減らして惨敗。枝野幸男代表は引責辞任した。
 菅義偉前政権の新型コロナウイルス対策などをめぐる相次ぐ失態、岸田内閣発足当初からの支持率低迷を考えると、意外な結果だった。だが、投票率が55・93%と戦後3番目の低さも相まって、民意は変化よりも現状維持を選択した。
 岸田首相の次の正念場は、来夏の参院選だ。過半数に達しなければ過酷な「ねじれ国会」となり、勝利すれば安倍晋三元首相に次ぐ「独裁的」な権力を手にできる。

世論調査方法
見直す時期に


 衆院選の報道各社の選挙情勢調査をみると、野党が優勢で自民は過半数割れの可能性さえあった。しかし、蓋を開けると調査結果は軒並みはずれ、自民は15議席減らしたものの国会を安定的に運営できる絶対的安定多数を獲得、立憲は大幅増が見込まれていたが、14議席減らすというどんでん返しがあった。共産党と手を組んだ野党共闘が裏目にでたのか。
 小選挙区では自民の甘利明幹事長(比例復活)が落選し、常勝の石原伸晃元幹事長も落ちた。立憲は政界大物の小沢一郎氏(比例復活)や辻元清美氏が敗れた。一方、日本維新の会が大阪15選挙区のすべてを制し、約4倍の41議席を得て、自民、立憲に次ぐ第3党に躍りでた。
 報道各社は自前の情勢調査を1面トップや準トップでセンセーショナルに扱うことが通例になっている。だが、的外れの世論調査を大々的に報じることは、いくら予想であっても「誤報」ではないか。投票前の有権者をミスリードしかねない。私は不確かな情勢調査を大きく報じることに懐疑的で、選挙報道の欠陥と考えてきた。今回の選挙では、まさに不正確な情報を有権者に提供するという失態を演じた。
 調査はコンピューターで不作為に抽出した番号に調査員が電話(固定と携帯)をかけ、得たデータをもとにされる。だが、知らない番号からかかってきた電話に応答しない人が近年増えており、妥当なデータに行き着くのか疑問だ。
 併せてインターネット調査もされるが、委託された調査会社の不正問題も発覚している。報道各社はなぜ、はずれたのか、検証し報じるとともに、調査方法を見直す必要があろう。

選挙の勝敗を
伝える報道に


 岸田首相は自民党総裁選で打ち上げた金融所得課税の強化や健康危機管理庁の創設を公約に盛り込まず、ぶれた印象を与えることになった。先にあった総裁選に比べ、衆院選報道は新聞、放送ともに「低調」で、劇場型といわれる報道もみられなかった。一方、たとえば毎日新聞の「政策を問う」や「経済政策を問う」、読売新聞の「政策分析」など、有権者に判断材料を示す各社の政策報道は充実していた。
 これは皮肉な見方をすれば、岸田首相が、政策が生煮えのまま奇襲ともいえる選挙を仕掛けたことで、突っ込みどころが多くあったということでもあろう。ふだんから、耳目を引きやすい政局報道だけでなく、成熟した地道な政策報道に力をいれる契機としたい。
 選挙結果を伝える11月1日朝刊をみると、朝日新聞は「自民伸びず 過半数維持」、毎日新聞は「自公堅調 絶対多数」という主見出しを1面に取った。毎日の見出しに違和感はないが、朝日の「自民党伸びず……」という現状認識に疑問をもたずにはいられない。
 岸田氏は情勢調査などから一時、惨敗を覚悟し、枝野氏は勝利を確信したと思われる。「現有議席を割るとは夢にも思っていなかった」という立憲の福山哲朗幹事長の言葉からも察しはつく。しかし、結果は自民が絶対的安定多数を手中にするという、くっきりとした明暗があった。自民は予想以上に伸び、「圧勝」したのである。
 読売新聞は1面の脇見出しで「立民惨敗」と取っていたが、在京紙をみるかぎり「自民勝利」という見出しも記事もみられなかった。衆院選は政権選択選挙であり、正確な現状把握のために勝ち負けをきちんと告げる必要性があろう。

首相はぶれず
野党は再編を


 かくして岸田氏は選挙に勝った。しかし、安倍氏ら党重鎮の顔色をみて政策や態度を朝令暮改しており、ひ弱さが目立つ。
 池田勇人元首相が創始者である出身母体の宏池会の、憲法を尊重する考え方や弱者救済を優先する経済政策とは相容れない発言をしている。派閥先輩の「所得倍増」計画を単にスローガンにし、旗色が悪くなると引っ込めるという態度はとらずに、岸田氏は右に大きく振れた政治を中道に戻していくべきだ。
 立憲は再建、野党は再編を進めることになろう。政治報道はこういう時だからこそ、建設的で批判的な政策論を国民に届けたい。
  徳山喜雄
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号

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2021年12月27日

IT企業が自治体支配=@民間人材 デジタル化の要職に 企業や業界に有利な政策推進か=橋詰雅博

 総務省やデジタル庁は自治体のデジタル化に躍起だ。同省の「自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)推進計画」を地方行政におしつけ2026年3月までに計画を強引に実現させようとしている。対応に迫られる自治体の多くは、IT人材が足りず民間人材の登用に向かっている。民間IT職員が自治体で大きな影響力を持つことになる。
 総務省の「自治体DX推進計画」は、計画の推進体制について首長の下に最高情報責任者のCIO(チーフインフォメーションオフィサー)あるいはCDO(チーフデジタルオフィサー)と、手助けするCIO・CDO補佐官を配置するとしている。総務省の調査によると、デジタルシステムを運用できる情報部門の人材は1990年代までは自治体に20〜30人ほどがいた。ところがそれ以降、運用・保守の外注が進んでデジタルに比較的強い人材は数人にまで減少した。外注頼みは加速する一方なので仕様書を書けないほど全体のIT能力は落ちている。

報酬国が負担も
 こうした現状では、内部からCIOやCDO、補佐官に就ける人材は決めて少ない。となると多くの自治体はIT企業から人材を登用するしかなく、企業を辞めずに役所の仕事を行う兼業も総務省は認めている。さらに自治体の民間補佐官の登用を容易にするため報酬の約半分を総務省が負担する。
 神奈川県の場合、CIOもCDO(県ではデータ統括責任者と呼ぶ)も置いており、どちらも1年ほど前からLINEの執行役員が一人で兼 務。LINEはこれまで県のデジタル化を請け負ってきた。執行役員をCIO兼CDOに任用した理由を黒岩祐治知事は「(これまで)LINEと最新のICT(情報通信技術)を組み合わせた対策を、圧倒的なスピードで導入してきたから」と述べた。
 広島県福山市は、CDO1名とCDO統括補佐官1名、CDO補佐官2名はすべてIT企業からの人材だ。
 「求人を載せた大手転職サイトを見た応募者から市は選んだ。CDO補佐官に対し市は報酬を支払っていません。企業が全額負担している。見返りを期待してか『無償でいい』と企業が提示したと思います」(自治体関係者)

計画練り上げる
 自治体DXに詳しい地方自治問題研究機構主任研究員の久保貴裕さんはこう言う。
「自治体のDX計画を進めるのは首長、最高情報責任者、補佐官です。IT通の首長はあまりいませんので、最高情報責任者と補佐官が計画を練り上げる。首長は彼らが練ったプランに多少修正を加えるかもしれませんが、大枠は同意するでしょう。民間の人材は兼業が一般的です。特別職非常勤職員などの身分で働くが、DX推進計画の実現ためトップダウンで各部門に指示を出す。正規の幹部職員でもないのに強大な権限を行使する」

守秘義務負わず
 しかも「守秘義務」「全体の奉仕者」など公務員の服務規程は、非常勤職員には適用されない。
 「企業は、わざわざ有能な社員をCIOやCDO、補佐官として自治体に送り出すからには、何らかの見返りを考えるのは自然でしょう。送り出された社員は特命≠帯びていると思います。彼らは公務員の服務規程の適用外ですから、住民の利益よりも所属する企業や業界の利益を優先して自治体のDX政策を策定し実施することはあり得ます。民間からの人材登用により公務の公平性が損なわれる利益相反が生じる可能性があります」(久保さん)
 DX推進の波に乗りIT企業が自治体を支配≠オかねない。
 橋詰雅博
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号
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2021年12月26日

【今週の風考計】12.26─ソ連崩壊30年と「大祖国戦争」への想い

ソ連が崩壊して30年。1991年12月25日、69年間続いたソ連が解体した。そのきっかけの大きな一つはチェルノブイリ原発事故にある。1986年4月26日に起きた未曾有の大惨事が、あまりにもひどい情報統制によって、その実態が国民から隠され、政権への大きな怒りへと爆発した。
ゴルバチョフら新指導部は、「情報の公開・言論の自由」を保障するグラスノスチを進めつつ、さらなる根本的な改革・ペレストロイカの必要性を痛感し、秋には知識人や勤労者に向けて大胆に立ち上がるよう呼びかけた。
 1988年末には大統領制を導入し、共産党の一党支配を廃止した。米ソ間の冷戦も終結し、1991年7月には戦略兵器削減条約(START)も調印され、世界の緊張緩和が一段と進んだ。
その結果、ソビエト連邦が解体され、緩やかな国家同盟を形成するロシア連邦が成立したのだ。一党独裁を明確に否定した上で自由選挙を行う共和制多党制国家となった。
 ソビエト連邦のゴルバチョフ大統領は辞任し、これまでの国旗「鎌と鎚の赤旗」に代わって、ロシア連邦の「白・青・赤の三色旗」の国旗がクレムリンに揚げられた。

いまロシアはどうなっているか。2000年に就任したプーチン大統領は、ソ連崩壊後の混乱を収束させ、ロシアを再興に導いたと自信満々。チェチェン共和国の独立紛争も、欧米諸国が企てたロシア解体策動であり、その紛争も終結させロシア解体を防いだと自負する。
 だがプーチン大統領は、国内では政敵への弾圧、独立系メディアへの規制など、強権的な政治姿勢を強め国民との対立が激しくなっている。
国際的にもロシアがウクライナ南部クリミアを強制的に編入し、欧米からの強い非難や制裁を呼んでいる。さらにロシアは、NATOが進めるウクライナでの軍事活動への対抗措置を言い分に、国境へロシア軍を集結させ緊張を高めている。

もともとプーチン大統領は、ソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と呼び、「千年以上かけて獲得した領土の4割を失った」と憤慨している。
 現にロシア国民の間では約6割が、「ソ連崩壊を後悔している」と答えている。高齢者では、さらに強まる。いまから80年前、ナチ・ドイツと闘い祖国を守った「大祖国戦争」がよみがえるのだろう。特に1942年6月から8カ月に及ぶスターリングラード攻防戦≠ヨの想いは格別だ。

その想いを私たち日本人が理解するに絶好の新刊本がある。逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(ハヤカワ書房)だ。舞台は「大祖国戦争」、主人公はソビエト赤軍の女性狙撃兵18歳。ある日、モスクワ近郊の農村がナチスに襲撃され、彼女一人だけ生き残った。
母や村人を殺したナチスに復讐するため、狙撃兵としての特訓を受け、スターリングラード攻防戦≠フ最前線に出ていく。だが戦いの中で、兵士による女性への性暴力、生死をさまよう戦場の地獄を目の当たりにする。
 そんな女性狙撃兵が、地獄巡りの果てに辿りついた先は何か。
 手に汗握るサスペンス、年末年始の休みに、ぜひ読んでほしい。(2021/12/26)
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2021年12月25日

【総選挙報道・放送】総裁選より軽く扱う 政権総括も政策検討も不十分=今井潤

 今回の総選挙についてテレビは、公職選挙法の縛りを必要以上に意識した報道に終始した。
朝日は10月29日「衆院選控えめなテレビ、総裁選より放送短く」と伝えた。その中で、自民党総裁選と衆院選の放送時間を比較した。NHKと在京5社の総裁選告示と衆院選公示の日とその前後二日ずつを比べると、総裁選は29時間55分だったのに対し、衆院選は25時間52分だった。衆院選の方が4時間短かった。テーマを自由に取り上げ易い情報番組などでは総裁選が14時間31分に対し衆院選が8時間25分と差が広がった。「放送を語る会」が行った衆院選のテレビ報道モニターにも選挙報道が不十分だったという報告が届いている。放送時間が足りない

 放送時間足りず
 10月14日衆議院解散当日のNHK「ニュースウオッチ9」は、解散を21分間放送したが、安倍・菅政権の総括をする選挙だという位置づけをせず、野党の政策も説明不足だった。街頭インタビューでは「政治家のための日本でなく、国民全体の日本にしてほしい」と政権に批判的な声を放送したのが目立つ位だった。
 TBS「NEWS23」は10月26日、「同性婚」の問題を取り上げ、星コメンテーターが「選挙で争点になるのは初めて」と指摘。「自分らしく生きていける社会を望む」と街の声を伝えた。同番組は27日も、野党共闘の象徴区である東京5区を取り上げたが、候補者の政策や有権者の
声をもっと時間をかけて報道すべきだ、野党共闘の意義を分析すべきだとの批判が寄せられた。核心衝く学生の感覚

 核心を衝く感覚
 テレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」は10月26日、スタジオに憲法学者の木村草太氏と慶応大学の女子学生を招き、「衆院選争点第5弾」と銘打って、憲法をテーマに掘り下げた。北朝鮮のミサイル発射に対し、敵基地攻撃能力保有は9条との関連で自衛のために許されるのか
を巡って、パネルを使い議論した。羽鳥キャスターが9条の条文を読み上げて、主権国家としては自衛権は認められていると指摘。木村氏は「日本への攻撃の意図がない国を攻撃することは違憲だ」と述べた。慶応大学の学生が「そもそも相手の国と仲良くしよういうゴールをめざして論じることが基本だ」と発言。これを受けてコメンテーターの玉川徹氏は「どうしたら仲良くなれるかというのがゴール。それが平和を願う9条だ」とコメントした。若い人の感覚は極めてシンプルな物言いだが、核心を衝く発言だった。衆院選の争点報道に努力するスタッフの意気込みが伝わってくる番組内容になっている。

 ネット積極報道
  テレビ基幹ニュースの選挙報道が低調な中で、放送法の縛りを受けないネット番組の情報発信が目を惹いた。望月衣塑子・東京新聞記者らが出演する「デモクラシータイムス」、作家の本間龍氏らが出演する「一月万冊」など、多数のユーチューブ番組が情報を連日提供した。
 「毛ば部とる子」という番組はドイツに住む日本の女性ライターが日本政治についてリポートする番組で、維新の躍進について2日、以下のように伝えた。
  議席を4倍化した維新の集票力はどこにあるのか。「維新は大阪市議会、府議会に多数の議員がおり、その議員に一日600本の支持拡大の電話をかけるノルマを課している」とリポート。「維新という政党は風頼みと言うのは間違いで、実態は公明や共産より組織的な活動をする政党だ」と警戒するよう呼びかけた。
 ネット報道への注目度は、来夏の参院選に向けさらに高まりそうだ。
今井潤(放送を語る会)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号
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2021年12月24日

【映画の鏡】真の復興問う浪江の現実 『ひとと原発〜失われたふるさと』町民の切なる想い伝える=鈴木賀津彦

原発事故から10年、復興五輪が開かれた今年、福島県浪江町から避難した町民の本音を伝え、真の復興を問う作品として、自主的上映活動が少しずつだが広がっている。
浪江町に通い避難者たちの生活を追い続けた映画監督の板倉真琴さんが、企画から撮影・編集まで一人で取り組んだドキュメンタリーだ。
「悔しい…、原発事故でふるさとを失った浪江町民の多くの方が口にする言葉です。震災から10年が過ぎた今も約95%の住民はふるさとへ戻っていません。帰りたいけど帰れない…、浪江の方たちのお話に耳を傾けるとマスコミ等が伝える復興の姿とはほど遠い現実が見えてきます。ひとにとって、真の復興とは…。この映画は14名の浪江町民の切なる想いがつくった作品」と説明する板倉さん。
津波被害で動けない人たちを救助しようとした朝、原発事故での避難命令は救助に向かう消防団にも。助けられたはずの請戸地区の大勢の命が失われた「請戸の悲劇」のほか、一人ひとりに起きたことを振り返りながら、避難者たちが今の生活の中から語った想いをつないでいく。
板倉さんといえば、富司純子、寺島しのぶが共演して話題になった映画「待合室」の監督。東北の小さな駅の待合室に人知れず置かれた「命のノート」に励ましの返事を書き続ける女性の実話を描いたエンターメント作品だが、作品の位置づけは違っても、監督の視線に不思議な共通性を感じた。
DVDを2000円(送料別)で販売、非営利なら購入したDVDで上映会を実施して、より多くの人に見てもえるよう工夫している。問い合わせは板倉さん=電090(1261)0426。
鈴木賀津彦
岡さん御夫婦.bmp

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号
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2021年12月23日

揺らぐ日銀の中立性 徐々に資源配分への介入進める=志田義寧

 日銀は年内に気候変動対応を支援するための資金供給オペを始める。地球温暖化への対応はもはや一刻の猶予も許されず、世界が足並みを揃えて対策を強化することに異論はない。しかし、だ。それは中央銀行がすべきことなのか。
 筆者は昨年までロイター通信で記者をしており、日本語ニュースの経済政策報道を統括する立場だった。日銀キャップを務めた経験もある。その取材経験からすれば、新制度は違和感しかない。
 引っ掛かるのはやはり中立性の問題だ。日銀の金融政策を決定する政策委員は選挙で選ばれたわけではない。したがって、資源配分に手を突っ込むような政策は極力避ける必要がある。黒田東彦総裁は7月に日本記者クラブで行った講演で「市場中立性に配慮し、ミクロの資源配分への具体的な関与を避けながら、金融政策面で気候変動への対応を支援する新たなアプローチだ」と強調したが、直接的な関与は避けても、関与することに変わりはない。
 各紙の扱いは
 これは日銀が業界や企業の生殺与奪権を握りかねない重要な問題である。各紙はこの問題をどのように扱ったのか。
 反対姿勢を明確にしたのは朝日新聞と毎日新聞だ。朝日は新制度の骨子を決めた7月会合の結果を伝える記事で、日銀内にも慎重論があることを紹介。翌18日には天声人語で「議論の分かれるような個別政策は、有権者の選んだ政府が担うのがスジである」と新制度に疑問を呈した。24日の社説でも「本来は、国会での議論を経る財政や政策金融に委ねるべき任務のはずだ」と慎重な見方を繰り返している。
 毎日新聞も9月22日の社説で「脱炭素に向けて産業構造の転換を促すのは本来、中央銀行ではなく政府系金融機関の役割だ」と主張した。
 両紙は新制度だけでなく、黒田氏が総裁になって以降の金融政策に対しても、基本、批判的なスタンスを貫いている。
 これに対して、読売新聞と日本経済新聞は比較的前向きに受け止めているようだ。読売は7月20日の社説で「特定分野に肩入れすると、中央銀行の中立性を損ない、民間の経済活動をゆがめる恐れがあることに留意せねばならない」と警鐘を鳴らしつつも「日銀は、政策の趣旨について丁寧に説明を尽くしてほしい」と要請するにとどめた。一方、日経は7月17日の社説で「中銀としての中立性に配慮しつつ、脱炭素に貢献する折衷案といえる」と一定の理解を示している。
このように新制度に対する評価は割れたが、各紙とも日銀が資源配分に介入することに懸念を示している点では一致している。当然だ。
 国民の知らぬ間に
 日本は何を気候変動対策に貢献する事業とみなすのか、タクソノミー(分類)に関する議論も遅れている。そうした中での導入はやはり時期尚早と言わざるを得ない。
日銀のアンケート調査によると、日銀が2%の物価目標を掲げ、金融緩和を行なっていることを知っている人は2割しかいない。残りは「見聞きしたことはあるが、よく知らない」か「見聞きしたことがない」だ。黒田氏が総裁に就任して以降、国民が知らない間にそろりと新領域に踏み出すことが多くなっており、気がかりでならない。
志田義寧
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号

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2021年12月20日

北海道寿都町 核のごみ最終処分場選定調査が争点 町長選は調査継続派 町議補選で撤回派勝つ=山田寿彦

 高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた全国初の文献調査が進む北海道寿都(すっつ)町で10月26日、任期満了に伴う町長選挙が投開票された。文献調査の是非が最大の争点となり、調査継続を訴えた現職の片岡春雄氏(72)が、調査撤回を掲げた元町議の越前谷由樹氏(70)を破り、6選を果たした。得票は片岡氏1135票、越前谷氏900票。投票率は84・07%だった。
 同日行われた町議補欠選挙(改選数1)は両陣営が擁立した新人同士の一騎打ちとなり、越前谷陣営の支援を受けた候補が勝利した。町長選とは逆の結果となり、民意の複雑なねじれを示した。
 文献調査への応募は片岡町長が議会の議決を得ずに独断で決定した。越前谷氏は片岡氏の強引な町政運営により、町民の間に大きな分断が生まれたと批判。片岡氏は文献調査の次の段階となる概要調査に進む前に賛否を問う住民投票を実施すると約束し、町民の意思を尊重して結論を出す姿勢を強調した。
 北海道新聞が報道した出口調査結果によると、町長選に投票した有権者のうち44%が「調査撤回」を支持。「調査継続」に理解を示したのは33%で、撤回派が上回った。
 文献調査は原子力発電環境整備機構(NUMO)により同町など2町村で昨年11月から行われている。調査を受け入れた自治体に国が支給する交付金は周辺自治体分を含め2年間で20億円。同町は今年度、9億2500万円を受け取る。配分を拒否する自治体もあり、自治体間にも分断が生まれている。
山田寿彦(北海道支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号
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2021年12月19日

【今週の風考計】12.19─「森友公文書改ざん」裁判に対する卑劣な仕打ち

森友公文書改ざん問題で自死に追い込まれた赤木俊夫さんの国家賠償請求訴訟で、国は急に「認諾」へと舵を切り、1億700万円の賠償金を支払うことで真相究明にフタをした。
 この訴訟裁判は、公文書改ざんの真相を解明するためで、賠償金を目的にしたものではない。1億円以上という高額請求にしたのも、国が裁判での審議を避け「認諾」へ逃げようとするのを防ぐためだった。
妻の赤木雅子さんは、「ふざけるなと思いました。夫は国に殺されて、また何度となく殺されてきましたけど、きょうもまた打ちのめされてしまいました」
 「お金を払えば済む問題じゃないです。私は夫がなぜ死んだのか、何で死ななければならないのか知りたい。そのための裁判でしたので、ふざけんなって思います」と、怒りの声を挙げている。

はっきり言って岸田政権は、安倍晋三・元首相と妻が絡んだ森友問題の「不都合な事実」が暴露されるのを恐れ、「真相」を闇に葬り、安倍夫妻を守ったことに他ならない。こんな卑劣なやり方が、許されていいのか。
 しかも賠償金というが、安倍元首相のみならず、関係した閣僚や官僚は一銭も払わず、1億を超える金額は国民の税金で支払うのだから、開いた口がふさがらない。
 「赤木ファイル」の開示や第三者による再調査は拒否され、いまだに安倍元首相は、改ざんへ至った責任についてはシラを切り、赤木俊夫さん・雅子さんの人権を冒涜し続けてきている。 
だが諦めてはならない。国賠訴訟は終わっても、まだ佐川元理財局長との裁判が残っている。国会も真相解明に力を尽くせ。ましてや野党は、安倍政権時代の「公文書改ざん」を徹底追及し、「第三者による再調査」の実現にむけて全力を挙げるべきだ。

さらに国土交通省が、国の基幹統計の一つである「建設工事受注動態統計」のデータを書き換え、二重計上していた不正問題も、GDPの数値につながる重要統計だけに極めて深刻だ。
 第2次安倍政権下の2013年以降、国交省の官僚自らがデータを改ざん、さらに数値を二重計上までするという、トンデモナイ不正を今年3月まで8年間も続けていたというから驚きだ。
 これも「アベノミクス」の成果を誇るため、GDPを大幅にかさ上げさせる改ざん、すなわち“アベノミクス偽装”ではないかと言われている。

約8年の安倍政権下で繰り広げられた政治の「闇」は深い。<桜を見る会>参加者名簿の廃棄、自衛隊イラク派遣の日程改ざん、2018年末の厚労省「勤労統計」データ偽装など、続発した。
 ここへきて国交省の「建設工事受注統計」データの改ざんまで加わった。さらに国会での<桜を見る会>虚偽答弁は118回にも及び、野党の要求にも関わらず国会を開かす、予算委員会を開けばヤジで応酬するなど、政治の私物化は極まった。
その背景には、<なんでも官邸団>と揶揄されるほど、「一強政治」「官邸支配」がはびこり、安倍元首相への忖度あるいは「アベノミクス」への迎合・配慮が、各省官庁内に陰に陽に働いていたからではないか。
 再度言いたい。野党は「提案型」などと言っている場合ではない。国会で厳しく「真相」を追究し、「迎合・忖度政治」を廃絶しなければダメだ。(2021/12/19)
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2021年12月18日

【スポーツ】揺らぐ競技者の主体性=大野晃

 新型コロナウイルス感染症の拡大で、2年間に及ぶ異常事態が続いた日本スポーツで、競技者の社会性が揺らいでいる。
 国民の多くが感染爆発を恐れて開催に反対したのに、無観客で隔離された東京五輪の異常開催に意思表明せずに無批判に参加し、総括しないまま、来年の北京冬季五輪出場を目指す日本オリンピック委員会(JOC)と五輪代表は、国民とかけ離れてしまった。
 しかも政府は、北京冬季五輪に関する国連休戦決議に参加せず、米国主導の外交的ボイコットに同調の構えのようだ。五輪を通じて平和を希求するはずのJOCだが、北京冬季五輪で、主体的に、中国を含めた世界の競技者と連帯できるのか。
 競技者が、人種や性の差別に反対する行動で意識変化を起こしながら、競技専念の生活では、国民の支持に不安を感じて不思議はない。しかし、社会活動が制限されて、主体的に動けない。
  政府の規制が長引き、競技者の主体性すら薄れたのではないかと危惧する。主体性の喪失は、社会性の放棄に通じ、国民とともに生きる競技者の存立基盤を失わせる。

  一方で、プロ野球ではヤクルトが20年ぶりに日本一となり、大相撲は記録ずくめの横綱・白鵬が引退し、照ノ富士の一人横綱となった。 日本を代表するプロ競技で、大きな時代変化が起こっている。
 米大リーグで大谷翔平投手が大活躍し、東京五輪ではメダルラッシュだった。その都度、マスメディアは大騒ぎした。しかし、大きな社会的反響は、見出せなかった。
 それだけ、スポーツが「見て面白い」娯楽に閉じ込められて、生活には身近に感じられなくなったからではないか。
 国民の運動不足以上に、豊かな生活に不可欠とされるスポーツに親しむ意識の減退にこそ、コロナ禍の深刻な問題がある。 競技者と国民の溝、スポーツ離れの克服が、スポーツ庁やJOCなどスポーツ関係者とマスメディアに突きつけられた重い課題だ。
 大野晃
   
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2021年12月17日

総選挙SNS発信が力「ヤシノミ作戦」など大きな反響=鈴木賀津彦

                           
ヤシノミ.png

ネット上では今回、ユーチューブの番組などで各党の公約の比較や政策を問う市民団体などの動きが活発になり、当事者からの訴えが急速に広がった。候補の選挙戦にも映像がSNSなどで飛び交い変化が見られたが、市民発の発信が各党を動かすほどの力を持ち始めた選挙になったと言えそうだ。有権者側が動画を使って共感を呼び、コミュニケーションを広げたことで、一部とはいえ成果を上げていることに注目したい。
 コロナ禍でのリモートワークなどでオンライン会議が当たり前になり、ネットの動画が日常になる中での選挙戦。芸能人がSNSで投票を呼び掛ける活動なども話題になったが、選択的夫婦別姓問題では当事者たちからの「落選運動」が起こるなど盛り上がりを見せた。
 共感を呼んだのが「ヤシノミ作戦」と名付けた落選運動で、呼び掛けたのはサイボウズ社長の青野慶久さんら。当事者として訴訟を起こしている青野さんは「選択的夫婦別姓や同性婚など社会の多様性を進めようとしない政治家をヤシの実のように落とそう」とネットで呼び掛けた。与野党の248人をリストアップ、「当選させてはいけない候補者以外に投票しよう」と訴えた。
選挙戦の終盤では、「ヤシノミTV」という討論番組もネット配信し話題に。この取り組みはマスメディアでも取り上げられ、政策を問う他の市民団体のネット番組などからも青野さんへの出演要請が相次ぐなど連携も広がり、選挙結果に一定の影響を与えたようだ。
結果は、同作戦のサイトで「落としたヤシノミ(落選)は84個。落ちたのに復活した(比例復活)のは42個、まったく落ちなかった(当選)のは122個です」と報告している。

 この作戦が、選挙の当落にどれほど影響を与えたのかは見えにくいが、分かりやすいのが最高裁判所裁判官の「国民審査」だ。11人全員が新任されたものの、不信任率が高かったのは、6月の判決で夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定を「合憲」と判断した4人。他の7人が6%台なのに、最も高かった深山卓也は7・9%、次いで林道晴7・7%、岡村和美と長嶺安政が7・3%だった。ヤシノミ作戦のほかネット上では、この4人に「×」を付けるよう呼びかける運動が広がっていた。ツイッターなどでも、4人の名前から「長岡村の林は深い」と覚えて×をつけようと運動化した結果が、7%超となったわけだ。(一方で、選択的夫婦別姓に反対する人たちからは「『違憲』の裁判官に×を」というネットのキャンペーンもあった)
 これを不信任率が1ポイントほど高くなっただけだと過小評価はできないだろう。形骸化が言われてきた国民審査で大きな変化を起こしたのだ。7月の東京都議選でも、選択的夫婦別姓や同性婚に反対する候補が何人も落選したが、今回の衆院選では「多様性」の流れに対応しない議員に対するインパクトのある働きかけとなった。ヤシノミ作戦のウェブサイトには、これまでの番組などが残され、落ちなかった議員たちも無視することができない存在になっており、今後の国会論戦を変えていく起爆剤となったと受け止めている。
 この問題だけでなく、障害者団体などが当事者視点で公開質問状を各党に出して見解を聞き、生活保護や人権問題など個別の政策を問うウェブサイトをつくって、発信していく取り組みなども増えた。
 テレビなどの既存マスメディアが選挙期間中になると、各候補を「公平」に扱うために踏み込んだ政策議論をさけている現状の中で、小さな市民団体や個人であっても、自らの関心ごとを各党・各候補者に問い、ネットで発信していく動きはさらに加速していきそうだ。
 鈴木賀津彦
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号
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2021年12月15日

大手メディアは情報ブロックやめよ 政治報道の浮沈にかかわる  神保哲也氏のオンライン講演会=河野慎二

 JCJのオンライン講演会が総選挙投票前日の10月30日に開かれ、ビデオジャーナリストの神保哲生氏と砂川浩慶立教大学教授が「メディアの地殻変動―政治・選挙報道変わるときー」をテーマに論じ合った。
 冒頭、神保氏は、投票率がOECD加盟諸国の中でも異常に低いことについて「主権者が主権行使に資する情報を正確に提供するというメディア最大の責務を、メディア自身が果たしていないからだ」と批判した。
 実際、今回の投票率は小選挙区選で55・93%と戦後3番目の低水準に終わり、テレビの報道も質量ともに低調で、神保氏の指摘が的中した。
 神保氏は「公職選挙法の縛りがあって、公示後は報道が制約される。自由な選挙報道ができるよう公選法改正をすべきだ」と問題提起した。
 脱炭素社会の問題について神保氏は「デンマークは80%が再エネ、ノルウエーでは来年からガソリン車が無くなるなど、ヨーロッパでは再エネが進んでいる。日本はトヨタが強く『EV車にはならない』と平気でメディアに流す」と指摘し、追及が弱いメディアを批判。
 政治とメディアの関係については「日本では政治、経済、行政などの情報については、既存メディアが99・99%のシェア握っている。
 報道の原材料と言うべき大元の情報を手にするのは既存メディアで、私はドアの外で待っている。情報は記者クラブに独占され、大元で栓が閉められ、フィルターがかけられる。そのヤバさを認識してほしい」と強調した。
 メディアは、政府から多くの特権的な地位を得ている。神保氏は「官邸官僚は、メディアの特権享受をテコに、さじ加減をしながら、操作できる。内閣記者会の記者に出させている質問書のテニオハにまで介入する」と、メディアの劣化を厳しく指摘した。
 砂川教授に「メディアの地殻変動」について問われた神保氏は、メディア間の相互批判能力を高めるため、新聞と民放のクロスオーナーシップ(資本提携)の見直しを提唱。さらに「(ネットメディアなど)新しいメディアが登場しているのだから、情報をブロックすることを早くやめてほしい。情報が本当に行き渡るかどうか。ここに、日本の政治報道の浮沈がかかっている。ぜひ、声を大にして言いたい」と訴えた。
河野慎二
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号

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2021年12月14日

【フォトアングル】憲法公布75周年の日 9条守ろうと国会前でスタンディング=酒井憲太郎

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総選挙3日後、憲法公布75周年の日は秋晴れだ。国会正門前では午後1時から、澤地久枝さん呼びかけのスタンディングには「アベスガキシダ政治を許さない」「憲法9条をまもろう」などのプラカードを国会に向けて掲げて140名が参加。続いて、2時から「平和といのちと人権を!!!憲法大行動 憲法公布75年 ともに時代を切り拓こう!」が総がかり行動の主催で開かれ、1200名(オンライン参加を含めると2千名)が参加し、改憲策動を許さない決意を新たにした。=3日、東京・国会正門前、酒井憲太郎撮影
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2021年12月13日

【出版界の動き】女性著者の新鮮な作品が、若い読者の心をひきつける!

10月の出版物販売金額914億円(前年比8.7%減)。書籍514億円(同4.1%減)、雑誌399億円(同14.0%減)、月刊誌332億円(同13.1%減)、週刊誌67億円(同18.2%減)。雑誌のマイナスが大きい。コロナ巣ごもり需要はなくなり、21年の推定販売金額も前年マイナスが確実。
CCC蔦屋書店は子会社の蔦屋投資(上海)有限公司を通して、「上海前灘太古里 蔦屋書店」(約870坪)をオープン。同店は中国4号店目の「蔦屋書店」で、上海では2店目。
2021年度ヤフー主催の「ノンフィクション本大賞」は、上間陽子『海をあげる』(筑摩書房)。著者は琉球大学教授。今年の沖縄書店大賞の沖縄部門でも大賞を受賞。現在5万500部(8刷)。内容は、脅かされる沖縄での美しく優しい生活。幼い娘を抱えながら、理不尽な暴力に直面してなお、その目の光を失わない。ベストセラー『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』から3年、言葉に表せない苦しみを聞きとるようにして書かれた記録。
日販とトーハン、2021年ベストセラー発表─日販の総合1位:永松茂久『人は話し方が9割』(すばる舎)は、学生から年配まで幅広い層に支持され、発行部数85万部(27刷)に。両社の総合2位:アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮社)、総合3位:宇佐見りん『推し、燃ゆ』(河出書房新社)。
2021新語・流行語大賞(自由国民社が刊行の『現代用語の基礎知識』が選定)に、「リアル二刀流/ショータイム」が年間大賞に選ばれた。今季のアメリカン・リーグの最優秀選手となった大谷翔平選手にまつわる用語。大賞以外のトップ10には、「うっせぇわ」「親ガチャ」「ゴン攻め/ビッタビタ」「ジェンダー平等」「人流」「スギムライジング」「Z世代」「ぼったくり男爵」「黙食」に決定。

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2021年12月12日

【今週の風考計】12.12─ノーベル平和賞の2人と「民主主義サミット」と岸田首相

★2021年のノーベル平和賞は2人のジャーナリストに与えられた。一人はフィリッピンのマリア・レッサ女史。彼女はネットメディア「ラップラー」の代表を兼ね、強権的なドゥテルテ政権と闘いながら、取材活動を継続してきた。
★ドゥテルテ大統領が進める過激な「麻薬の取り締まり」は、2016年からの3年間だけで1万2千人から3万人を殺害したと指摘され、<人道に対する罪>への国民的な抗議に発展している。
 さらに民間放送への介入・免許停止などに対し、報道の自由を求めるデモが起きている。こうした状況を綿密に報道している彼女への、弾圧も激しくなっている。

★もう一人は、ロシアのドミトリー・ムラトフ氏。彼は独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長で、プーチン政権と対峙し、政府高官の汚職、国家権力による弾圧や人権侵害を告発し闘ってきた。
 いまプーチン大統領は、約90の独立系メディアと記者を、スパイ認定扱いにする「外国の代理人」に指定し、当局の監視を強めている。そのためスポンサーが離れ、経営難に陥り、閉鎖に追いやられる事態が相次いでいる。

★10日、オスロで開催の授賞式で、二人は「言論の自由」「報道の自由」が脅かされる現状を訴え、決意を表明した。
 レッサ女史は、「いつ自分も拘束されるかわからない脅威にさらされているものの、ジャーナリスト活動はリスクを負うだけの価値ある仕事だ。とりわけSNSメディアでは、事実よりも怒りや憎しみが込められたウソが早く広がりやすい。事実なしには真理に迫れないし、真理なしには信頼は得られない。信頼がなければ民主主義もない」と、訴えた。

★一方、ムラトフ氏は「ロシアではジャーナリズムが暗黒の時代を迎えている。メディアや人権団体などが人民の敵と位置づけられ、ジャーナリストが命を奪われたりしている。我々の使命は事実とウソを区別することだ」と述べ、権力の不正を追及して命を落としたジャーナリストたちに黙とうを捧げた。

★図らずも9日から10日にかけて、「民主主義サミット」が開催されていた。米国バイデン大統領の呼びかけで、110の国や地域の首脳が集まり、中国やロシアなどの専制主義国家から民主主義を守る意義を強調した。
 だが米国はどうか、トランプ前大統領の言動や郵便投票の制限など、「民主主義が後退している国」に挙がっている。中国も、にわかに「民主」を叫ぶが、テニス女子選手への対応や新疆ウイグル族への弾圧など、誇れる状況ではない。
★岸田首相も「民主主義サミット」で演説し、「自由が抑圧され人権がじゅうりんされる状況が今もなお続いている」と、「有志国が一致してワンボイスで臨んでいかなければならない」と述べた。
 ちょっと待てよ、わが国内はどうか。森友問題で自死した赤木さんの人権は守られたのか、日本の入管で起きたウイシュマさんの死はどうか、さらには学術会議の任命拒否された6人の人権はどうか、まずもって自らが率いる国の現状を変えることから始めよ。(2021/12/12)
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2021年12月11日

【沖縄リポート】3区で敗北 名護市政取り戻せ=浦島悦子

                             
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今衆議院選は沖縄でも厳しい結果となった。辺野古新基地建設の現場である名護市を含む沖縄3区では、「辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議」が支援した立憲民主党の現職・屋良朝博氏が自民党の島尻安伊子氏に約7200票差で敗れ、わが名護市でも約1500票の差を付けられた。
 年明け1月23日に市長選を控える私たちにとって、この差は大きい。国政選挙と地方自治体の選挙は違うとはいえ、この四半世紀、名護市長選は一貫して国対名護市民の闘いだった。
 1997年の市民投票で示された「新基地NO」の民意を押さえつけて基地建設を強行する国の攻撃・圧力をはねのけ、2010年から2期8年、稲嶺進市政は「新基地を造らせない」公約を貫いたが、2018年の市長選で国は総力を挙げて3選を阻み、渡具知武豊現市政を誕生させた。
 今衆議院選の勢いを借りて、国は、今度こそ基地反対の民意の息の根を止めようとしていることが窺える。衆議院選から一夜明けた11月1日、島尻選対名護事務所は早速、渡具知事務所に看板を付け替えた。
 今回の島尻氏の勝利は、比例区・公明党とのセット戦術が功を奏したと言われている。前回市長選でも、公明党・創価学会の組織的動きはすさまじかった。来る市長選ではさらにそれが強まるだろう。名護市民の手に市政を取り戻すために、組織力のない私たち市民がそれにどう立ち向かえるのかが最大の課題だ。
 11月6日、辺野古の浜でオール沖縄会議による第2回ブルーアクション(写真)が行われた。沖縄選出国会議員や県議会議員など少人数の集会をライブ配信し、同時並行で県内各市町村島ぐるみ会議がそれぞれの地で集会やスタンディングを行い、「新基地NO」の意思を広く示そうというもの。大雨のためメイン会場を浜から浜テントに移し、海上チームも参加(写真)。第1回の10月2日(辺野古ゲート前)に続き、県内20数か所(県外でも呼応)で、変わらない民意が示された。
浦島悦子
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号
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