2022年01月08日

【月刊マスコミ評・出版】「遺族」として戦争を見る視点=荒屋敷 宏

 『週刊東洋経済』12月11日号の「稼ぐ集英社と消える書店 出版界であらわになる格差」の記事に注目した。書店や取次の苦境をよそに、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などのコミックスが大ヒットする集英社、『進撃の巨人』を抱える講談社、ライトノベルに強いKADOKAWAが業績好調だという。
 出版社や取次、書店にとって、書籍で33%、雑誌で40%という返品率は、悩ましいかぎりだろう。総合商社の丸紅と講談社、集英社、小学館の4社が出版流通の新会社設立に向けて協議を始めた。AI(人工知能)を使って配本・発行の「適正化」や在庫管理の改革に取り組むのも時代の要請なのかもしれない。
 街の書店が減少し、日販やトーハンなど「取次2強外し」と、出版業界、波高し≠セが、本当に問われているのは、出版物の量よりも企画や内容の質を高めることではないだろうか?
 『ニューズウィーク日本版』12月14日号の「桜井翔と『戦争』 戦没した家族の記憶」は、最近の週刊誌では意外性があり、意義のある企画と内容だと感じた。アイドルでありテレビのニュースキャスターでもある桜井翔氏は、海軍士官として戦没した大伯父、桜井次男氏の「遺族」として戦争の取材を続けているという。
 桜井翔氏の祖父は、戦後、上毛新聞社の記者をしていた桜井三男氏で、戦死した次兄のことを本にまとめていた。しかし、祖父は家族に戦争のことをほとんど話しておらず、ただ一つだけ「人間扱いじゃなかった」と祖母や叔母に語っていたという。
 旧帝大を出て、商工省に入省した後に海軍経理学校に入校し、海軍主計中尉となった大伯父の謎に迫る櫻井翔氏本人の記事は、読み応えがある。2年間の「短期現役主計科士官」(短現)を務めれば、元の職場に戻れるはずのところ、兵役が延長され、桜井氏の大伯父はベトナム東岸沖で、26歳の若さで戦死してしまったのである。この記事の後編は12月21日号に掲載されるが、本にまとめてほしいところだ。
 『週刊金曜日』12月3日号の特集「筑紫哲也とその時代」も興味深い記事だった。金平茂紀氏の新著『筑紫哲也「NEWS23」とその時代』(講談社)をめぐり金平氏と望月衣塑子氏が対談している。権力に対する監視役を果たすこと、少数派であることを恐れないこと、多様な意見や立場をなるべく登場させて、この社会に自由の気風を保つこと。ジャーナリズムとして当たり前の作法を復活しなければならない。 
荒屋敷 宏
posted by JCJ at 01:00 | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする