大阪市では、2022年4月1日に市立の高校が大阪府に移管され、府立高校になることが決まっている。これについて、21年10月7日、大阪地裁に「差し止め」を求める住民訴訟が提訴された。筆者も原告の1人である。住民訴訟は通常、1審判決が出るまでに2、3年かかるが、原告側からは「移管前に判決を」と求めていた。同年11月15日の第1回口頭弁論で森鍵一裁判長は「差し止め請求なので裁判所の職責として年度内に判決を出す」と明言。異例のスピード審理で22年1月末に結審し、2〜3月に判決言い渡しが行われる。
■大財産を無償譲渡
大阪市立の高校は現在21校。22年4月時点では統廃合の関係で22校となる。住民訴訟で問題にしているのは、高校の土地、建物、備品等が大阪府に「無償譲渡」されることだ。これら不動産に高校施設としての使用に限るという用途指定はない。大阪府が大阪市から「ただでもらった高校」を廃校にして売却すれば、売上金は大阪府の収入になるのだ。
大阪府は府立学校条例で「3年連続で定員割れしている高校は再編整備の対象とする」と規定している。大阪市から移管された高校は府の「3年ルール」に基づき、次々に廃校になって「現金化」されるのは容易に想像がつく。
大阪市公有財産台帳で、市立の高校の土地、建物の総額は約1500億円。しかも、1500億円は台帳価格であり、市場価格は倍ぐらいだとも言われる。だとすると、31年に開業する「なにわ筋線」、大阪市内の中心部を走る鉄道新路線の事業費3300億円に匹敵する。この巨額財産が経費ゼロで転がり込んでくるのだから、大阪府は濡れ手で粟なのである。
生徒数の減少で、大阪市も市立高校の再編整備を進めており、現時点で三つの工業高校は近く一つにすることが決まっている。これら3工業高も大阪府に無償譲渡するのだから、「処分OK」の許可証を付けて不動産をプレゼントするようなものだ。
■「府市一体」の美名
この高校移管、不動産の無償譲渡は、松井一郎・大阪市長と吉村洋文・大阪府知事の意向で決まった。松井市長は「大阪維新の会」の前代表、吉村知事は現・代表。維新政治家として親分と子分の関係にある2人の間で、「大阪市の財産と権限を大阪府に移し替える」という政治目的のために教育機関まで巻き込んだのだ。
維新は10年前に大阪府市両首長ポストを抑えてから、「大阪都構想」という看板で大阪市廃止に向け突き進んできた。大阪市廃止は住民投票で2度も否決されたので棚上げし、大阪市の都市計画権限を大阪府に「委託」する条例を作ったり、高校のような大規模不動産を大阪府に無償譲渡したりするなど、大阪都構想をパーツごとに分割実施しようとしている。
維新の目的は大阪市という大都市の行政を大阪府が握ることにある。大阪府議会は維新会派が過半数を抑えているので、数の力で何でも決められるからだ。地方分権の流れに逆行する先祖返りの方針を、松井市長と吉村知事は「二重行政の解消」「府市一体化」という言葉で粉飾しているに過ぎない。
■市長の裁量で画策
台帳価格で1500億円の大阪市の財産を手放すのに、市議会は関与していない。高校移管は府市両議会で議決したが、不動産の無償譲渡は大阪市財産条例の適用による「市長の裁量」で行われようとしている。この方法がまかり通るなら、松井市長は今後も大阪市の巨額財産をどんどん大阪府に無償譲渡するはずだ。大阪市の財産流出を食い止めるためにも、住民訴訟で原告は何としても勝たねばならない。この高校無償譲渡のやり方が「違法」と判決で認定されれば、現在の市長独裁にくさびを打ち込むことになる。
幸田泉(ジャーナリスト)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年12月25日号