2022年02月28日

【オピニオン】いじめ凍死 背景への視点欠く報道続く 発達障害、精神医療に触れず 集会の趣旨を歪曲=℃R田寿彦

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 北海道旭川市で昨年3月、中学2年生(当時)の廣瀬爽(さ)彩(あや)さんが凍死体で見つかった「いじめ凍死事件」を考える市民集会(本紙12月号で既報)を報道各社の多くがニュースとして取り上げた。各社の報道を検証すると、事件の背景として集会が指摘した発達障害診断と精神医療の問題に触れた報道は一つもなかった。事件をとらえる重要な視点がマスコミの無能によって覆い隠される状況が続いている。山田寿彦北海道支部

  集会は精神科医の野田正彰氏を講師に旭川で11月28日、札幌で29日=写真=、釧路でも30日に開かれた。ほぼ同内容の講演で、北海道新聞(道新)は3回の集会をすべて写真付きで記事にした。
 旭川集会の道新の見出しは「社会良くなる努力を」。講演から抜き出した部分は「私たちの社会が良くなる努力をすることが彼女への手向けとなる」「なぜこのような問題が起きたのか問われなければいけない」。
 札幌集会の見出しは「地域の子どもに関心を」。講演の内容は「地域社会を含め、周囲の大人は子どもたちが楽しく学校生活を送れているか関心を持つ義務がある」。
 釧路集会の見出しは「社会のひずみ追究を」。野田氏の言葉として「彼女にとってどういう社会であってほしかったか、私なりに考えて世に訴えていきたい。そして、日本の社会を変える一歩にしたい」と伝えた。
 テレビ各局は旭川集会を報道した。NHKは「子どもをいじめからどう守る 中学生死亡の旭川市で市民集会」の見出しで、野田氏の講演を「今の社会の仕組みでは、子どもたちが自分らしい生き方をするのは難しい。爽彩さんが亡くなった背景はどのようなものか、子どもの立場になって考えることが必要だ」とのみ紹介した。

 他の民放も「講演した精神科医は全国にいじめ問題が広がる中、悩みを抱える生徒の声に大人が耳を傾ける必要があると訴えました」(HTB=テレビ朝日系列)、「(野田氏は)廣瀬さんが亡くなった背景に何があるかを考え、悩みを抱える子どもたちを社会が守っていくことが必要だなどと訴えました」(UHB=フジテレビ系列)といった内容にとどまった。
 筆者は旭川と札幌の集会で司会進行を担当。旭川では、この事件は「いじめを認定しなかった学校の問題」にとどまらず、発達障害診断と精神医療の問題を考えることを避けて通れないと強調した。
 札幌集会では旭川集会の各社報道を強く批判し、「従来のステレオタイプな視点でこの事件は説明できない」と改めて趣旨を説明した。しかし、道新のその後2回の報道内容は変わらなかった。
 野田氏は「社会を良くする努力をすることが彼女への手向けとなるとか、なぜ起きたかが問われなければならないなどと私が言ってもいないことが記事になっている。これは偽造だ」と憤る。

 事件の焦点は「いじめの有無」にあると繰り返し報道されている。集会はそれとは異なる視点を提起した。集会にニュースバリューを認めながら、報道がここまで的を外すのは意図的なのか、記者の筆力の問題なのか。札幌集会を記事にした道新の記者に直接聞いた。
 記者は「他意はない」としながらも、「旭川、札幌、釧路の記事は別々の記者がそれぞれの判断で書いている。ここを書いた、書かなかった、の判断については答えられない。正式な取材ならば会社の広報を通してほしい」と答えた。「発達障害や精神医療の言葉をデスクに削られたのか」との質問にも「答えられない」。署名記事の主体性はどこにあるのだろうか。

 旭川集会の記事を書いた記者にも直接質問したが、「持ち帰らせてほしい」と言ったまま、なしのつぶてだった。そこで道新の広報担当者に以下の質問メールを送った。
 「発達障害や精神医療の問題を書かなかった理由をお答えください。社の判断として削ったのであれば、その理由もお聞かせください。集会の趣旨の核心部分を伝えないのは趣旨の歪曲ではないかと思うが、ご見解をお聞かせください」
 道新からの回答は「いずれも弊紙が読者に伝えるべき内容を吟味して記事化したものです」。これだけだった。
 爽彩さんが発達障害ラベリングと服薬に小学校時代から苦しみ、自殺未遂直後に精神科病院で酷い医療措置を受け、その後も抗精神病薬を死に至るまで服薬させられていたことは、母親が公表した手記などから明らかになっている。
 旭川・札幌集会実行委員の一人で帯広市の元小学校教員、吉田淳一さん(65)は「集会参加者のアンケートは『発達障害や精神医療の問題が背景にあることに気付かされた』という内容のものがほとんどだった。記者がなぜ理解できないのか。明らかに避けているとしか思えない」と疑問を呈した。
 昨年11月9日にNHK『クローズアップ現代+』、同27日のTBS『報道特集』が事件を詳しく報道したが、学校や市教委の隠ぺい体質など、ありきたりの批判をしただけで、深く掘り下げる内容には程遠かった。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号
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2022年02月27日

【今週の風考計】2.27─戦火にさらされるキエフとスターリンの亡霊

ロシアはウクライナ侵略を直ちにやめよ! まず怒りをもって抗議する。
 ロシア軍がウクライナの首都キエフ市内に侵攻し、ロシアのミサイルが住宅地を直撃、市中心部を流れるドニエプル川の東岸では、高層マンションが炎に包まれ住民が負傷したという。

今から41年前、ソ連が崩壊する10年前、所用と観光を兼ねて訪れたキエフの市街が思い出される。モスクワから寝台特急に乗り、着いたキエフの町は朝もやに包まれていた。
 ガイドの案内で聖ソフィア大聖堂へ。緑色の玉ネギ型をした鐘楼の上に金色の十字架がそびえる。またペチェールスカ大修道院・洞窟内には美しいイコンが並び、地下墓地には高名な僧がミイラとなって安置されている。
ドニエプルの丘には、10世紀末にウラジーミル公国を建国したウラジーミル聖公の銅像が、ドニエプル川に向かって左手に剣、右手に十字架をもって立つ。市の中心部を通るフレシチャーティク大通りには、レーニン・コムソモール広場があった。
 いまは「マイダン広場」と名前が変わっている。2014年2月、ヤヌコビッチ大統領が率いる政府に抗議する人民デモが行われ、鎮圧する部隊により、多くの人がこの広場で命を落とした。

思い出のキエフが、いま戦火にさらされている。気が気でない。プーチン大統領は、何を考えているのか。彼のフルネームはウラジーミル・プーチンという。
 このウラジーミルになぞらえて、2016年11月、プーチン大統領は、モスクワのクレムリン近くにウラジーミル大公の巨大なブロンズ像を建立し、その除幕式に臨んで、大公はロシアの精神的基盤となったと述べ、国家の結束の重要性を訴えている。
しかし、その独裁・強権政治はとどまるところを知らない。KGB出身だけに国内の反体制派への弾圧はもとより、自由な報道機関への脅迫、独立を目指すグルジアやチェチェンへの侵攻・介入、クリミヤ半島の領有など、旧ソ連大国の復活を目指し、版図拡大に躍起となっている。

図らずもロシア軍がウクライナに侵攻する中、リュドミラ・ウリツカヤ『緑の天幕』(新潮クレスト・ブックス)を読み終えた。
 本書は、独裁者ヨシフ・スターリンが死んだ1953年から、亡命詩人ヨシフ・ブロツキーが亡くなる1996年までの40年を丹念に描いた700ページに及ぶ大作だ。
ソ連が崩壊へと向かう激動の時代を背景に、詩や小説、音楽を愛する少年3人組が、文学の教師からの薫陶を得て、サミズダート(自主的な地下出版)に携わる結果、KGBの尾行や逮捕、ラーゲリ収容など過酷な生活が強いられる。
 自由を制限され抑圧された反体制知識人たちが何を考え、どう振舞ったか、その生きざまが浮かび上がる。女性である著者もまた1943年生まれ、この激動の時代を生き、今でも活躍している作家だ。

もう一つ、映画「金の糸」が岩波ホールで、この26日から上映されている。ジョージア映画界を代表する女性監督ラナ・ゴゴベリゼ監督91歳の27年ぶりの最新作である。
 ジョージア(旧グルジア)激動の時代を生きた女性作家とその人生に関わった人々を、過去との和解をテーマに、日本の“金継ぎ”に着想を得て、“未来を見るために過去を金で修復する”という意味がこめられたドラマ作品。
ゴゴベリゼ監督の母もスターリンの大粛清で流刑された経験を持つが、監督自身の経験も投影しながら撮影している。

グルジアといえばスターリンの生地。そのグルジアのゴリ中央広場に建っていたスターリン像が、2010年6月27日、撤去された。ゴリは2008年のプーチン率いるロシア軍によるグルジア侵攻の際に攻撃された都市だ。
こうしてみると、不思議とプーチンとスターリンがタブって見えてくるのが怖くなる。一刻も早くロシアの侵攻をやめさせ、ウクライナとの停戦合意に向け、世界が力を合わせるべきだ。(2022/2/27)
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2022年02月26日

【おすすめ本】森住 卓『浪江町津島 風下の村の人びと』─密着して写し取った心の叫び!=酒井憲太郎(フォトジャーナリスト)

まえがきで著者は「この本は原告団の心からの叫びと願いをまとめた」と言う。原告とは福島原発事故を起こした東京電力を訴えた人びとだ。
 著者は訴訟以前の2011年3月13日から取材を始めたが、その頃は「浪江町津島」に高濃度の放射性物質が降下した事実を知らなかった。その年の12月、福島県飯館村で野鳥・キビタキの死骸から出る放射線を、東大名誉教授の協力で映像化した。それ以降、高感度・高明細な写真フィルムで撮影している。
 2014年浪江町津島の草むらにある黒御影石を発見、その上に大判の写真フィルムを密着させ3ヶ月後に回収・現像すると、「絆」の文字が浮かび上がった。「汚染の 実態を視覚化し、国の言う嘘を暴かなければならないと思った」という。

 本書の圧巻は最後の「けもの物語─カモシカのつぶやき」だ。裏表紙の写真にあるニホンカモシカは、前著『災害列島・日本』(扶桑社)にも登場するが、カメラをみつめるニホンカモシカを、どのように撮影したのか、その答えが本書にある。
 著者は2019年春から浪江町津島字赤宇木地区の空き家に、承諾を得て無人カメラ数台を仕掛け、野生動物を撮影してきた。
 本書には数多くの野生動物が登場するが、それらを代表してカモシカが「原発事故など絶対起こさないで欲しい」と訴えている。
 2021年7月30日、「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」原告団に対し、福島地裁郡山支部は「東電に10億円支払い命令 原状回復請求は却下」の判決を出した。(新日本出版社2200円)
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2022年02月25日

【映画の鏡】AI時代の教育のあり方を問う『夢みる学校』ミライの公教育がここにある=鈴木賀津彦

 「時代がもとめる、ミライの学校」とは何か。この映画を教材にして全国の小中高校の授業で上映し、子どもたち自身が「学びたい学校の姿」を考え、教師とフラットに議論する取り組みを新年度に展開してはどうだろう。そんな提案をしたくなった作品である。
 「きのくに子どもの村学園」は30年前から「体験学習」を実践している先進的な学校だ。堀真一郎学園長が1992年に小学校を和歌山県で開校して以来、福井、福岡、山梨の各県でも小中学校が開設され広がりをみせている。
宿題がない、テストがない、「先生」がいない同学園で学ぶ子供の姿を、医食同源・食養生をテーマにしたドキュメンタリー『いただきます みそをつくるこどもたち』で知られるオオタヴィン監督がとらえた。「南アルプス子どもの村小学校を訪ね、昼休みの職員室をのぞいて驚愕しました。職員室は子供たちの歓声でいっぱいでした」「キラキラいきいきした子供の表情。その『映像の力』だけで、教育を問うことができる」と語る。
 「私立学校だからできることでは」という反論を予想してか、オオタ監督は、通知表や時間割のない「総合学習」を60年間続けている長野県伊那市立伊奈小学校や、校則を減らし定期テスト廃止の世田谷区立桜丘中学校も取材し、公立学校でもできることを明示する。
 教育改革が叫ばれる今、脳科学者の茂木健一郎氏が登場し科学的に説明する。教科の壁を超えて体験学習をすることは「AI時代にふさわしい能力が発揮できるような脳のOSがつくられる」と。2月4日からシネスイッチ銀座などで公開。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号
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2022年02月24日

JCJ総会3月26日に開催 運営委立候補も受付中=JCJ事務局

 日本ジャーナリスト会議(JCJ)は3月26日(土)午後2時から、Zoomを使ったオンラインで定期総会を開く。
総会では21年度の活動報告と22年度方針などを議論する予定。会員はだれでも総会に出席し、発言できる。全国の支部や東京の役員との交流の機会にもなる。多くの会員の方の参加をお待ちしている。
 総会に出席希望の会員は、ファクスかメールで東京のJCJ事務所に氏名と「総会参加」を明記して連絡する。後日、3月26日に使うZoomのURLをお知らせする。
 定期総会を前に、22年度・運営委員の立候補者を受け付ける。部会・支部選出の運営委員とは別に、定員は15人(21年度は12人)。立候補希望の会員は2月26日までに、東京のJCJ事務所にファクスかメールで氏名と立候補の旨を明記して連絡する。
 運営委員は毎月1回開かれる運営委員会に出席し、日々の活動方針の決定にかかわるほか、講演会や集会の企画・準備、機関紙への原稿執筆・編集などを分担して担う。活動の輪を広げるため、力を発揮したい会員の立候補を期待している。
JCJ事務局
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号

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2022年02月22日

大阪・病院放火事件 実名報道どうあるべきか=徳山喜雄 

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 大阪市の繁華街・北新地の雑居ビルに入る心療内科「西梅田こころとからだのクリニック」(西澤弘太郎院長)が放火され、患者や医師ら25人が死亡した。患者であった谷本盛雄容疑者(61)が昨年12月、ガソリンを撒いて火をつけた。容疑者が事件から約2週間後に死亡したため、動機解明が難しくなっている。
 近年、事件・事故などで犠牲者がでた場合、匿名にするケースが増えている。しかし、今回の場合、大阪府警は犠牲者の身元が確認でき次第、すみやかに発表し、容疑者についても実名を公表、その対応が目を引いた。在京紙(12月19日朝刊、事件発生は17日)をみると、各紙が判明した犠牲者の名前と容疑者を実名報道した(東京は容疑者を匿名、中日は実名)。容疑者の顔写真は独自に入手し、掲載した。
 プライバシーと公益性が衝突する場面である。朝日新聞(19日朝刊)は「事件・事故報道では、一人ひとりの方の命が奪われた事実の重さを伝えることが報道機関の責務と考え、原則、実名で報じています」との「おことわり」を掲載。産経新聞(20日朝刊)は容疑者について「男は重体のため逮捕されていませんが、負傷しなければ逮捕されているケースであることから、容疑者呼称とします」と報じた。
 容疑者は重篤患者として入院しており、直接話が聞けない大阪府警は、名前を積極的に公表することで情報を得たかったと思われる。また、事件に計画性があり、容疑者が善悪の判断がつかない状態でなかったと考えられる点もあろう。
 
京アニ事件
 
 2019年に京都市の京都アニメーションが放火され、勤務する36人が死亡した。当時、京都府警は犠牲者の身元が分かり次第、実名発表する方針だったが、「そっとしてほしい」などという遺族の声を受けて、京アニ側が公表を控えるよう京都府警に文書で要請、発表が見送られた。全員の実名が発表されたのは事件発生から40日後のことだった。
 京都府警によると、犠牲者の半数以上の遺族が実名発表を拒否したという。しかし、それでも公表に踏み切った理由を、西山亮二捜査一課長(当時)は「公益性があるため、公表した方がいいと判断した」「匿名にするといろんな憶測が広がり、間違ったプロフィルも流れる。それで亡くなった方やご遺族の名誉が傷つけられる」と語った。
 朝日新聞の大阪社会部長は「亡くなった方々に多くの人々が思いをはせ、身をもって事件を受け止められるように報道する」「失われた命の重みと尊さは『Aさん』という匿名ではなく、実名だからこそ現実感を持って伝えられる」(19年9月10日朝刊)と説明した。
 ただ、警察が犠牲者を実名発表すると、遺族らに取材が殺到、大混乱になり関係者を傷つけるということがあった。実名報道に抵抗感を抱く人たちがいることも事実だ。

英断に注目

 一方、2016年に相模原市の重度障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人が刺殺された事件では、神奈川県警は遺族の意向などで実名発表していない。報道機関が独自に遺族に接触し、了承を得て一部実名報道にした。これには、障害者や障害者をもつ家族を差別するという偏狭で陰湿といえる社会的背景がある。
 クリニック放火事件、京アニ放火事件、障害者施設刺殺事件をみた。今回のクリニック放火事件の場合、犠牲者の多くや容疑者も精神科に通うという病歴がある。この事件をきっかけに、偏見や差別につながらないかという懸念もあった。一方、匿名にすることによって、逆に偏見を生むことになるという見方もある。
 こうした点でも大阪府警の「英断」に注目したい。府警元幹部は「事案が事案だけに、実名発表は大阪府警だけの判断ではなく、警察庁ともすり合わせているだろう」という。個人情報保護法の制定以降、匿名発表が増えるようになったが、この流れに変化が起きてきたのだろうか。
 実名発表を求める報道機関にとっては、歓迎すべきことだ。だが、この原則論とは別に、犠牲者家族や社会が、真に納得できる実名報道をめざしてほしい。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号

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2022年02月21日

問われているのは日本 ベテラン記者が語る沖縄復帰50年 帰還兵の犯罪に絶望感 消えた「住民虐殺」に怒り=米倉外昭

 5月に沖縄の日本「復帰」(米国から日本へ施政権返還)から満50年となる。沖縄には祝賀ムードはほとんどない。一方で、今年は1月23日の名護市長選に続き、夏の参院選、秋の知事選など、改めて民意が問われる年だ。復帰前後から現在まで沖縄を見つめてきたベテランジャーナリストに、この50年を振り返りながらジャーナリズムの課題を語ってもらった。まとめ・米倉外昭(JCJ沖縄)
     ◇
 琉球新報で長く基地担当を務めた高嶺朝一さん(78)は1970年入社。復帰前の毒ガス移送、コザ騒動、復帰に伴う「世替わり」を支局記者として取材した。その中で、ベトナム戦争からの帰還米兵による凶悪事件に強烈な印象があると語る。

殺された青年宅へ
 復帰直後の事件として注目された1972年9月のベンジャミン事件で、ベンジャミン元上等兵に射殺された青年宅を訪ねた。「暑い日で、野原の中の火葬場で、大空に煙が立っていた。人間の命がこんなに粗末にされていいのかと思った」。心神喪失だったとして無罪判決となり「こんなものか」と絶望を感じた。
 諸見里道浩さん(70)は復帰の時は国費留学で山形大学の学生だった。学生運動の中で、ガリ版ビラの「沖縄情報」を作り配った。米軍基地を温存する沖縄返還協定への怒りの一方で、民族主義的な「祖国復帰」運動への批判も強まっていた。「ヤマトに行って改めて沖縄問題に出合った」と振り返る。

未解決の問題抱え
 批評家の仲里効氏が言う「復帰の喰(く)ぇーぬくさー」世代と自覚する。戦後世代を「艦砲の喰ぇーぬくさー」(艦砲射撃の食い残し)と言うのをもじったもので、「復帰で解決しなかった問題を学生時代から抱えたままの世代かな」とかみしめるように話す。
 沖縄タイムス記者になってからの出来事として、82年に日本軍による住民虐殺が教科書から消された問題が大きかったと言う。「怒り、憤りと共に新たな証言がどーっと出てきた。事実をもう1回掘り返そう、証言を取り直そうと、連載にも取り組んだ」
 その後も沖縄県民は、沖縄戦の歴史認識を巡って 何度も怒りの声を上げてきた。2007年には強制集団死(「集団自決」)に軍の関与がなかったという文科省の検定意見が大問題となり、11万人以上が集まる県民大会が開かれた。
 高嶺さんは「沖縄戦報道と基地問題報道が、1995年の少女の事件(米海兵隊員による少女暴行事件)や教科書問題によって結びついた。運動に保守陣営の人たちも加わるようになった」と振り返った。
 82年は教科書で侵略を「進出」に書き換えた時であり、07年は歴史修正主義者が強制集団死を住民の自発的な死として美化しようとした。諸見里さんは「戦争の捉え直しの時にいつも沖縄戦が現れてくる」と指摘する。

日本巻き込む論を
 また、県政として日本に異議申し立てをした大田昌秀知事(1990〜98年)と翁長雄志知事(2014〜18年)の時代も、それぞれ安保再定義を受けた米軍再編、米軍と自衛隊との一体化の、始まりと完成期に対応していると分析している。
 これらを踏まえて、諸見里さんは「沖縄が異を唱えていることは日本の課題だ。日本を巻き込むような大きな論を立てて、巻き込んでいってほしい」と沖縄のメディアに注文をつけた。
 高嶺さんは「インターネットで便利になったが、新聞が伝えるべきことは変わらない。沖縄のメディアは東京やワシントンから見るのではなく、地元の普通の人々の暮らしから、その矛盾も含めて丁寧に伝えることが大事ではないか」と提言した。

【略歴】
 ▼高嶺朝一(たかみね・ともかず) 1943年那覇市生まれ。1970年琉球新報社入社。論説委員長、編集局長、社長など歴任。著書「知られざる沖縄の米兵―米軍基地15年の取材メモから」(高文研、1984年)など。

▼諸見里道浩(もろみざと・みちひろ) 1951年那覇市生まれ。1974年沖縄タイムス社入社、論説委員長、編集局長、専務など歴任。21年4月に「新聞が見つめた沖縄」(沖縄タイムス社)発刊。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号

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2022年02月20日

【今週の風考計】2.20─教科書の記述書き換えと「日本維新の会」の策動

いま学校で使う教科書が危機にさらされている。時の政権が閣議決定すれば、歴史的事実すら、教科書の記述を書き換えることができるからだ。
昨年4月27日、菅政権は日本軍が徴用した「従軍慰安婦」や朝鮮人の「強制連行」について、教科書に「従軍」や「強制」の文字を使うのは不適切との閣議決定をした。「日本維新の会」幹事長・馬場伸幸議員が、政府に提出した質問主意書に対する回答である。
 この経過を見ると、自民党・政府・「日本維新の会」の連携による、保守層が唱える「歴史戦」への同調とあわせ、巧みな<教科書攻撃>が仕組まれていたとみたほうが良い。

それ以降、この閣議決定に基づき、文科省は教科書会社に「従軍」や「強制」の文字を削除するよう指示し、次々と教科書会社が検定済みの教科書の記述を書き換える事態が続いている。
 これまでも領土問題などで執拗に政府見解が書かされ、「改定」検定基準の他の規定を用いて、南京虐殺事件、関東大震災の被害者数など、学問研究の知見に基づいての記述ができなくなっていた。
ここにきて「従軍慰安婦」や「強制労働」など、日中・日韓にかかわる歴史問題について、「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解」という教科書検定基準を使いだしたのだ。
 しかも悪質なのは「日本維新の会」と歩調を合わせ、質問主意書に回答するという形で閣議決定に持ち込む。そして、その閣議決定を活用し、政権が望む愛国教科書に改訂する流れを加速させているのだ。

17日には日本弁護士連合会が「教科書の記述内容が時々の政権によって決定できることとなり、事実上の国定教科書に極めて近くなる。その根拠となる2014年の改定教科書検定基準の撤回を、改めて求める」との見解を発表した。

「日本維新の会」は、異様とも思える教育内容への介入を続けている。改憲という政治的意図もあらわに、教育現場へトンデモナイ圧力を加えている。
2日の衆院予算委員会では、山本剛正議員が日教組の教育研究集会で披露された憲法教育にかかわる報告を取り上げ、「意図的に子どもたちに護憲を浸透させようと、各地で授業を進めている」と名指しで攻撃までする始末だ。
 国会議員に課せられている憲法99条の憲法順守義務など、どこ吹く風。「憲法」の意義を伝える教師の活動すら攻撃して恥じない。「改憲」まっしぐら。「敵基地攻撃論」も大賛成。

さらに他の野党議員への懲罰動議や名誉棄損の訴えを乱発し、お笑い芸人への恫喝や批判的言論への強硬措置など、正気の沙汰ではない。しかも今回の懲罰動議を提出した足立康史議員は誹謗中傷発言で過去6回も懲罰動議を受けてきた本人だ。自らの誹謗中傷は棚に上げ、道義礼節を欠き不見識極まりない(東京新聞「こちら特報部」2/19付)。
<佐渡金山の世界文化遺産登録>をめぐっても、戦時に朝鮮人の「強制労働」が行われていた歴史的事実があるにもかかわらず、松井一郎代表は、「『強制労働』とはいえない」と主張。岸田首相が政府内に「歴史戦チーム」を立ち上げたというのは、「聞く力」を発揮したからだという。もうつける薬はない。(2022/2/20)
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2022年02月19日

【スポーツ】競技者の感染が止まらない=大野晃

 新型コロナウイルス感染症の世界的な感染爆発の中で、強行開催された北京冬季五輪は、昨年の東京五輪同様に、世界や開催国民から隔絶された異常な国際競技会となった。
 日本代表のライバルである金メダル候補が感染で欠場したり、隔離されたりが相次いだ。 女子アイスホッケーでは、感染を恐れてマスク姿での対戦もあった。 海外からの陽性者は、開幕直後に、東京五輪を上回るほどだった。
 さらに、人工雪で整備されたスノーボード会場は、極寒で堅い雪に、日本代表が練習中に転倒で大ケガし出場断念に追い込まれるなど、競技者はケガの危険にさらされた。 コロナ禍だけでなく、自然環境でも危うい異常開催の懸念が表出した。
 日本国内では、感染防止対策を徹底しているはずの競技者らに感染が拡大した。 春季キャンプ中のプロ野球では、中日の立浪和義監督やコーチ陣が隔離されたのをはじめ、多くのチームで感染による競技者の出遅れが伝えられた。 大相撲では、横綱の照ノ富士や新大関の御嶽海ら関取70人の約3分の2が出場できずに、トーナメント大会が中止された。
 深刻なのはラグビーで、発足したばかりのリーグワン1部で、開幕から5チームに感染が広がり、AB各組の1回戦30試合のうち3分の1に近い9試合が中止になり、観客が1万人を超えたのは2試合に過ぎなかった。 観客制限は緩和されたが、肝心の競技者の感染拡大が、競技会のあり方を危うくしている。
  感染力の強いオミクロン株の感染防止の切り札と言われるワクチン接種だが、岸田政権の遅れた対策で、進んでいないことが影響しているようだ。
 文科省は、学校部活動の大幅な制限を強め、対外試合は制約された。五輪期間中に、国民スポーツ活動の停止という悲劇的な事態となった。
 マスメディアは北京冬季五輪日本代表のメダル獲得に騒ぐばかりだが、国民の状況に無関心でいいはずがない。
  大野晃

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2022年02月18日

【月刊マスコミ評・新聞】民主主義の危機と資本主義の今後=徳山喜雄

  新たな年を展望する在京紙の年頭紙面を読み、民主主義の危機がつづき、資本主義のありようが厳しく問われていることが、強く伝わってきた。
 朝日新聞の元旦社説は、膨大な個人情報をもつ「GAFA」と総称される巨大IT企業の存在が、表現の自由やひいては民主主義と衝突する危うさに言及。データの大海のなか、憲法の核心と考えられる13条の「個人の尊重」をどう守っていくのかと問題提起した。日本国憲法の施行75年を迎える今年、個人情報をめぐっては、憲法に書かなくても対応できる考えもあるとした。
 一方、産経新聞は1面に論説委員長による署名記事を載せ、世界は米国を中心とした「民主主義国家」と中ロを軸とした「強権国家」が相対する新冷戦時代に突入したと指摘。両陣営の発火点となるのはウクライナと台湾で、「台湾有事」が「ごく近い将来に起きる可能性は、かなりある」とし、有事対応の邪魔をしかねない現行法や「『おめだてい』憲法は、もう要らない」と明言した。
 民主主義を守るために、憲法を維持するのか、改正する必要があるのか、問われることになろう。
 日経新聞の元旦社説は、新型コロナウイルス禍はこれまで世界が内包していた問題をあぶりだし、経済の根幹の資本主義そのものを揺るがしていると分析。「かつて資本主義の失敗は極端な思想や戦争を招いた。大恐慌後に全体主義や共産主義が伸長し第2次世界大戦、その後の東西冷戦につながった」と警鐘を鳴らし、「資本主義を磨き鍛え直す」契機になる年にしたいと訴えた。
 毎日新聞の1月3日掲載の社説も、「資本主義のあり方を見直すことが欠かせない」と主張し、経済学者の宇沢弘文氏の経済思想などを紹介。「新自由主義は多くの弊害を生んだ」とし、分配重視の「新しい資本主義」を唱える岸田文雄首相に対し、経済界代表だけでなく「地域に密着した活動をしている人の声にも耳を傾けるべきだ。/多様な意見を反映させてこそ、人と暮らしを支える新たな日本経済の姿を描くことができる」とした。
 「多様な意見の反映」というのは当たり前のことだ。だが、「安倍・菅政治」は聞く耳を持たず、異論を排したため、国民の分断が深まった。新聞は粘り強く、考える材料を提供したい。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号
 
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2022年02月17日

【おすすめ本】町田久次『木村よしの おんな記者伝』─110年前に福島民友で活躍した女性記者の軌跡をたどる労作=下村満子(元朝日新聞編集委員)

 私が本書の著者・町田久次さんから木村よしのの話を初めて聞いたのは、今から11年以上前のことでした。当時私は福島県男女共生センターの館長を務めており、町田さんは福島民友新聞の取締役で、今からおよそ110年前に福島民友社に入社した女性記者がいると聞いて驚きました。
 古い民友紙の記事をコピーし、彼女の書いた記事をいくつも見せてもらいました。私は当時、女性記者の先端を走っているつもりでいたので、既に100年以上前にこのような女性記者が活躍していたことを知り、大変な衝撃を受けました。

 私の両親はともに福島の出身で、私のDNAは100%福島産、木村よしのも町田さんも福島生まれということに不思議な縁を感じ、町田さんに「ぜひ木村よしのの本を出してください!」とお願いしました。
 しかし、その後東日本大震災・原発事故などが起こり、私も福島で「下村満子の生き方塾」を立ち上げ、町田さんは民友社を退社され、本のことは気になりつつも、今日に至ってしまいました。そこに町田さんから突如、木村よしのの本が出版できそうだと言う知らせが昨年5月に届きました。
 記者・よしのに対する強い思いを11年間抱き続けた町田さんの情熱と記者魂に、ただただ脱帽です。さらに木村よしのは一貫して、弱者・貧しい人々・社会の底辺の人達に目を向け、未だに解決していないジェンダーの視点も、しっかり踏まえて取材していることに改めてよしのの卓越したジャーナリズム精神に強く触発されました。いま読んでも、ちっとも古くない。ぜひ一読をお薦めしたい。(郁朋社1000円)
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2022年02月15日

【スポーツ】厳戒下の北京冬季五輪=大野晃

 新型コロナウイルス感染症の世界的な感染爆発の中で、厳戒下の北京冬季五輪が開幕した。
 昨年の東京五輪以上に、隔離と検査漬けで、競技者は不安を抱えながらのメダル争いを続けた。
北京では2008年夏季五輪以来の五輪で、史上初めての同一都市の夏冬開催だが、市内は感染防止の閉鎖状態にあり、海外観客は排除され、市民の観戦は、選ばれた人々の特権だった。
 東京五輪同様に、世界や国民から隔絶された開催となった。7競技で史上最多の109種目を競った競技者たちは、互いに協力しながら、競技を盛り上げることに腐心した。
 競技と選手村生活などでの多種多様な競技者の交流が、国境や人種を超えた友情を育むのだが、接触禁止は、その環境を奪ってしまった。東京五輪が前例となって、異常な開催が連続し、世界の友好と連帯を強める五輪の理想は台無しにされ、世界のファンは裏切られた。
  国際オリンピック委員会は、五輪とは名ばかりの開催を強行し、日本オリンピック委員会は沈黙を決め込んだ。しかも、人権問題の懸念を拒絶して、あからさまに国威発揚を狙う中国政府に、不信は募った。

 世界の一体化と平和を訴えた開会式が、空々しく映った。競技者の姿は、東京五輪と同じ、テレビなどの映像に限られた。高度な技術が示されても、人間らしさは、メダル獲得を煽るばかりのマスメディアからは伝わらない。世界の競技者の実像はほとんど知り得なかった。
  メダル獲得が「スポーツの力」として極端に強調されるが、それはスポーツの魅力の一部にすぎない。競技者全体のさまざまな動きが、人間的な感動を生むことを忘れている。
  南北朝鮮の融和を感じさせた2018年平昌冬季五輪から東京夏季五輪を経て北京へ、東アジアで五輪3大会が連続したが、コロナ禍での不幸にも見舞われ、アジアから世界へのスポーツ発信は、政治に歪められた。
  日本代表のメダル獲得が、国民スポーツ発展のばねとなるかは疑問である。
大野晃



 

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2022年02月14日

【フォトアングル】時事歌芸人・ジョニーHがギター弾き語りで原発反対を=酒井憲太郎

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さよなら原発・朝霞実行委員会、戦争法に反対するオール朝霞が主催する「第44回さよなら原発・戦争法パレード・あさか」が開催された。集会ではスピーチに続いて、時事歌芸人ジョニーHさんがギターの弾き語りで原発反対を訴えた。デモに移り参加者は「原発いらない」「原発やめよう」「戦争させない」「9条守れ」などのプシュプレヒコールを上げて市内を回った。参加者は22名と主催者。=9日、埼玉県朝霞市のJR北朝霞駅前、酒井憲太郎撮影
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2022年02月13日

【今週の風考計】2.13─多聞院の「身代わり寅」とクマガイソウを巡って

旧正月の風もなく雲一つない晴天の日、“巣ごもり”で鈍った体を動かそうと、寺にでも行ってみようかと思い立った。今年は36年に一度の「五黄の寅」年。前に友人から勧められていた、「寅」とゆかりのある多聞院毘沙門堂を訪れることにした。
 多聞院は、埼玉県所沢市の北部・中富町にある。西武新宿線「航空公園駅」東口からバスが出ているのだが、それが発車したばかり。次は2時間後、あきらめてタクシーに乗る。近いと思いきや、25分もかかった。

多聞院の入り口には、【武田信玄公 守本尊 毘沙門天】の幟旗が並ぶ。武田信玄が戦陣に臨むときは、いつも兜の中に、この毘沙門天像を納めていたと伝わる。武田信玄が亡くなった後、川越藩主の柳沢吉保の手に渡り、元禄9年(1696年)に近隣の鎮守寺として創建した多聞院の毘沙門堂に、安置されるようになったという。
12年に1度の「寅年」には、本尊の毘沙門天が開帳される。コロナ禍とはいえ、新年からお参りに訪れる人が例年以上に多いのは、このせいでもある。

毘沙門堂に向かって歩くと、すぐ一対の石像に出会う。なんと狛犬ではなく虎の石像だ。これは毘沙門天の御使いが虎であることに由来するというが、左の石像は首が長く、どうもチーターのように見えてならない。その台座にも、「張り子の虎」がびっしり置かれている。
武田菱の入った白い幔幕の下がる前で参拝すると、例の「張り子の虎」が、ずらり置かれている。身に降りかかる災いを、いわば「身代わり寅」に託して奉納すれば避けられるからだ。
 この「身代わり寅」、小さくてかわいい。大きさは鶏卵ぐらい。首に結ばれた赤い組み紐を垂らして、階段や手すり、外廊下など所かまわず、どこでも置かれている。

境内を巡ると、笠をかぶった5体とホッカムリした1体の地蔵が、すべて赤い「よだれかけ」を着けて立つ。その前に野菜やサツマイモ、米俵が並ぶ。これも石造り。
 他にも「カワラケ投げ」や土俵に乗せられた「力石」などに出会い面食らう。さらに苔むした石の上で、力こぶ漲らせた力士が胡坐をかいて踏ん張っている。その石像には、「鬼の悟り」の銘版が置かれている。
見上げれば黄色い花の咲くロウバイの枝という枝に、白いおみくじの紙が無数に結ばれ垂れ下がっている。さらに今は咲いていないが、500本を超えるクマガイソウ(熊谷草)やボタン300本が、4月半ばから5月に入って、それぞれ順番に見ごろを迎えるという。

そういえば行きのタクシーの運転手が、多聞院に着くまでクマガイソウの話をしていたのを思い出す。葉は緑色のプリーツスカートをラッパ状に広げた形で、その葉の中心部から一本の茎を伸ばし、その先に白地に紫の斑点を散らばした袋状の花房が、下むきに垂れるようにして咲くそうだ。高さは約40cmという。
 和名の由来は、膨らんだ袋状の花房を、源平<一ノ谷の戦い>で平敦盛を討った熊谷次郎直実が、矢を防ぐために背負った母衣(ほろ)に見立てたものといわれる。自生地が減少し、絶滅危惧種に指定されている。帰宅した後のにわか勉強を披露した次第。(2022/2/13)

※交通アクセス:西武新宿線「航空公園駅」東口から「ところバス」北路線(富岡循環コース)左まわりの11:55発に乗車、「多聞院通り西」に下車12:29着。東方向に約500メートル、多聞院まで徒歩約7分。帰りはバスの便が少ないので、「多聞院通り西」14:05便に乗車、「航空公園駅」14:45着。
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2022年02月12日

当世官僚事情 採用申込者が激減 国・弱者へのマインドなし 著しいモラルハザード進行 高収入の民間への転職増加=橋詰雅博

  国家公務員採用総合職(キャリア)試験への申込者数が激減している。2021年度は1万7411人と過去最低で、5年連続ダウン。ピークの1996年の4万5254人より2万8000人近くも減っている。キャリア官僚不人気≠フ主因は労働環境が悪いからだ。残業は過労死ラインの月80時間は当たり前の状態である。国会開会中ならば、国会議員へのレクチャーや資料作りに忙殺される。「月200時間の残業で休みが1回だけだった」とテレビに出演したコメンテーターの元官僚は暴露した。エリート官僚と言えば、東大出身者が思い浮かぶ。キャリア試験合格者のうち東大は2000年度では三分の一を超えていたが、21年度は19%程度まで減少した。

中途退職者増える
  霞が関には政府が唱える働き方改革は広がっていない。こうした状況の霞が関から逃れる中途退職者は増えている。20年は経済産業省の若手官僚が20人以上も退職し話題になった。報酬が高そうなITやバイオなど最先端企業に転職した人もいたそうだ。
 モラル低下も著しい。コロナ対策の家賃支援給付金など約1500万円を20代の経産省官僚2人がだまし取った事件は、知り尽くした制度につけ込んだ極めて悪質な犯罪だった。まさに国民への背信行為だ。
 官僚の思考もガラリと変わった。かつては「長時間残業をいとわず国や国民のために尽くす」という殊勝なマインドを持った人がいた。しかしそんな官僚はほぼいない。

竹中が空気変える
 元朝日新聞記者で政治ジャーナリストの鮫島浩さんが言う。
 「小泉純一郎政権の経済財政担当相として入閣した竹中平蔵(現パソナグループ会長)が霞が関の空気を一変させた。彼は官僚を引き立て出世コースに乗せた。竹中が主張する弱肉強食の新自由主義が官界に浸透し、滅私奉公的な考えは影を潜めた。多くの情報が集まる竹中に近づき高収入の民間などへの転職の道が開けるようになった。政治家にアゴでこき使われ、民間で働く大学の同期と比べ安い給与で深夜まで働かされる今のエリート官僚は、国家のためや弱者を救うなんて少しも考えていない。CEO(最高経営責任者)やどこかの企業の幹部ポストを狙っている。このため企業情報が入手しやすい規制改革の部署に行きたがる」
 政策立案のかなめである官僚の劣化は、国家にとって危うい事態ではないだろうか。
  橋詰雅博
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号
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2022年02月11日

消えた南鳥島案を追う HBC「核のごみ」で芸術祭優秀賞 学生時代の思い胸に制作=山崎裕侍

                       
北海道放送:核ごみ特番サムネイル・機関紙用.jpg

「核のごみ」処分地をめぐり揺れる北の大地。この問題を追い続ける北海道放送(HBC)の山崎裕侍報道部編集長に、文化庁芸術祭優秀賞を受賞した思いを寄稿してもらった。
      ◇
 僕にとってこの番組はある人の存在なしには作り得なかった。番組とは2021年11月20日に放送したドキュメンタリー「ネアンデルタール人は核の夢をみるか〜核のごみ≠ニ科学と民主主義〜」。第76回文化庁芸術祭優秀賞を受賞した。
 高レベル放射性廃棄物、いわゆる核のごみの文献調査が全国で初めて行われている北海道寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村。番組は寿都町長が突然、調査の応募検討を表明してから、賛成派と反対派に分断されていく小さな町や翻弄される住民を描いた。さらに地震の多い日本で地層処分は危険だと主張する地質学者などを取材し、科学的な検証を試みた。そして去年10月の寿都町長選挙に密着し、国全体の問題である核のごみが地方の問題に押し込められている現状を訴えた。

鎌田慧さんの教え
 受賞理由の一つが「南鳥島を最適地とする提案があることなど知られざる事実を抉(えぐ)りだした」ことだ。この南鳥島のことを教えてくれたのがジャーナリストの鎌田慧さんだった。きっかけはドキュメンタリー番組「ヤジと民主主義」が「第3回むのたけじ地域・民衆ジャーナリズム賞」を受賞し、その贈賞式で審査員の鎌田さんと出会ったことだった。懇親会で鎌田さんの隣に座った僕は、取材中だった核のごみについて、鎌田さんの考えを聞いた。するとこう切り返された。
 「核のごみの文献調査が進んでいるけど、南鳥島が適地だという説があるの知っているかい?」
南鳥島説をこのとき僕は初めて知った。数日後、鎌田さんが僕にファックスで送ってくれたのは南鳥島が適地と紹介した静岡県立大学の尾池和夫学長のエッセイだった。番組では南鳥島案を最初に提案した平朝彦・前海洋研究開発機構理事長を取材し、経済産業省と原子力発電環境整備機構(NUMO)がその提案を蹴ったことを明らかにした。
 鎌田さんにはもう一つ恩がある。著作の一つ『ぼくが世の中に学んだこと』の最後の方のページに学生時代の僕が引いた赤線が残っている。
「工場では、少数派として、仕事や昇給でどんなに差別されていても、すこしもひるむことなく、自分の主張をつらぬきとおすひとたちがいる。民主主義とは、このようなひとたちによって、ようやくもちこたえられる」

市井の人々の言葉
 「国家」や「国益」という大きな言葉の前では、市井の人々の小さな言葉はかき消されてしまいがちだ。だが人々のたゆまぬ言葉が民主主義と自由を支えている。それを若い僕に教えてくれたのが鎌田さんだった。
 核のごみも同じだ。国民一人一人が考えるべき問題のはずなのに、去年10月の衆議院選挙では、候補者はおろか全国紙すら争点として取り上げなかった。文献調査が行われていることで「バックエンドの問題は解決した」とばかりに推進派は原発の新規建設に向けて動きを始めている。無関心と打算のなか、寿都町の住民は切ないほど真剣だ。核ごみ受け入れ賛成派も交付金がほしいだけではない。原発の恩恵を受けた責任を自分たちが引き受けようと考える人もいる。だが国は「地元の判断」とうそぶき、国民的議論をしようとしない。
 国策に振り回される住民、国に抗う科学者たちを追いかけたのがこの番組だ。賞の栄誉は、小さくても声をあげて闘っている人たちに輝いている。
 山崎裕侍(北海道放送・報道部編集長)
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号

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2022年02月10日

【出版界の動き】電子出版物:売り上げ前年比18.6%増と電子図書館の利用増=出版部会

■2021年の年間出版物販売金額は、紙・電子合わせ1兆6742億円。紙出版物の販売金額1兆2080億円(同1.3%減)。内訳は書籍6804億円(前年比2.1%増)、雑誌5276億円(同5.4%減)。
電子出版物の販売金額4662億円(同18.6%増)。内訳はコミック4114億円(同20.3%増)、書籍449億円(同12.0%増)、雑誌99億円(同10.1%減)。電子コミックの急伸が止まらない。
■講談社、小学館、集英社、KADOKAWA4社は、海賊版サイトにコンテンツを送信・複製していたとし、米国のCDN事業者に4億6000万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴。
■<全国書店員と出版社コミック担当者が選んだおすすめコミック2022>の第1位─龍幸伸『ダンダダン』(集英社)。幽霊肯定派の女子校生と、同級生の怪奇現象オタクが繰り広げるドラマ。その疾走感、圧倒的画力で叩き込まれる戦闘シーンは圧巻!そこにラブコメとギャグまでぶち込む特盛のボリューム。
■昨年12月の出版物販売金額1030億円(前年比10.2%減)、書籍541億円(同2.0%減)、雑誌489億円(同17.8%減)。月刊誌427億円(同18.4%減)、週刊誌62億円(同14.0%減)。週刊誌の返品率46.2%。
■昭文社、希望退職者を募集─41歳以上の正社員に3月末をもっての退職者募集。コロナ禍の長期化で売上げが急減し、賞与の不支給・減給、休業に伴う雇用調整助成金の申請など手を打ったが、人員体制の適正化が不可欠と判断。19年2月に続く2度目の募集。前回80人の募集に96人が応募。昭文社HDの22年3月期連結予想は売上高53億円、純損失8億6000万円。
■電子図書館の利用者が急増─昭島、国立など9市導入。人気のある電子書籍は長期の予約待ちが常態化。多摩地域で最初に電子図書館を開設した八王子市では、オーディオブックの貸し出しも実施。プロの声優やナレーターの朗読で読書を楽しめる。ビジネス書や子育て・健康に関する本・文学など約6千点
出版部会
posted by JCJ at 01:00 | 出版 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする