2022年07月31日

【今週の風考計】7.31─ますます高まるコロナ治療に効く飲み薬への期待

変異株「オミクロン・ケンタウロス」
「第7波」コロナ感染の猛威は、とどまるところを知らない。日本全国が<感染爆発>状態に陥っている。
 しかもコロナウイルスの「オミクロンBA.5」が、さらに3倍の感染力を持つ「オミクロン・ケンタウロス」に置き換わり、ワクチンによる免疫効果を減殺する深刻な事態が進んでいる。
だが政府は、2月の「第6波」以降、必要な準備を怠り、感染抑止の対策や感染者への医療ケアなど、すべて手詰まり。都道府県に判断を委ねるだけ。医学界からの進言にもかかわらず、いまなお行動制限すら発令しない。

ジッとガマンの自宅療養
27日までの自宅療養者は、過去最多の110万人を超えた。感染者の94%が自宅療養に追いこまれている。
 医者による診療も投薬もままならず、じっと10日間、<自存自衛>を旨として、市販の風邪薬を服用し、熱を下げて咳を止め、ノドの痛みを抑える。三食とも配給のレトルトやカップ麺、飲料水に頼る。まさにコロナウイルスの動きに、身も心も支配される日々だ。
2週間ほど前、コロナに感染し自宅療養が強いられ、3日前に自宅療養を終えたばかりの体験者であるだけに、あまりにも悲しく情けない事態に涙が出てくる。
 フォローアップセンターからのマニュアルに従った体調確認もありがたいが、細かい症状までは伝えられない。また10日間の自宅療養解除の2日前には、体調と合わせ服用薬の点検がなされた。もしイブプロフェンが配合された風邪薬を飲んでいると、その服用を止め、さらに72時間の解除延長が言い渡される。
最初の5日間、用心のため市販の風邪薬を飲んでいたが、その風邪薬にイブプロフェンが配合されていたことが判明した。なんと自宅療養が3日延長され、都合13日間が強いられた。「早く言ってよ、イブプロフェンなんて知らないよ、風邪によく効く薬を飲んだだけだよ」と、恨みたくなる。
 ベッドに横たわりながら、市販の風邪薬がダメとなれば、ならばコロナ治療薬はどうなっているのか、開発されているとも聞く。早く提供してよ、つくづくそう思った。

「ゾコーバ」の早い承認を
政府は5月に、コロナ治療薬の迅速な承認に向けて、緊急承認制度を新設した。7月20日、塩野義製薬が開発したコロナ治療の飲み薬「ゾコーバ」について、6月の審議に続き再度の審議がなされた。ところがまたも「継続審議」とされ、承認の可否が先送り。今秋以降では、もう手遅れではないか。
 「ゾコーバ」は軽症のコロナ患者に対し、1日1回、5日間経口投与して使う。臨床試験では服用後にウイルス量が激減し、短い期間で陰性になり、安全性の面でも目立った問題はなかったといわれる。変異株にも効果があるという。
国産品で安定供給される飲み薬をうまく活用すれば、自宅療養での回復にも役立ち、医療や保健の現場を逼迫させずにすむ。その可能性を遮断したとしか思えない。
 全てのコロナ変異ウイルスに効く「ユニバーサルワクチン」が注目されているが、まだ研究・開発中で、実際に使用できる日は遠い。だからこそ「ゾコーバ」への期待は大きい。(2022/7/31)
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2022年07月30日

【焦点】国家機密情報の洩れ阻止にやっと動き出したか=橋詰雅博

 総務省が7月初旬に公表した2022年度の情報通信白書で、成長著しいクラウドサービス市場への言及が注目される。20年の世界市場は35兆315億円と前年比約30%も増えた。米IT巨大企業のマイクロソフト、アマゾン、グーグルの3社が市場を牛耳っており、寡占化が進んでいる。白書は「米国などの海外企業がわが国のクラウドサービス市場を席捲しており、過度な海外依存を懸念する声もある」と警戒感をあらわにしている。
 これに先立ち政府は、国家の機密情報を扱うクラウドサービスの脱外資依存を進める方針を打ち出した。クラウドサービス契約では、外資企業が単独で参入できない仕組みにし、国内IT企業とセットで参画するようにした。国内企業の育成につなげるというのが表向きの理由だが、国内企業をかませることで外資企業から情報がどこかに漏れることを防止するのが狙いだ。フランスやドイルはすでにグーグルと地元企業がタイアップして政府専用クラウドサービスのシステムを構築している。

 白書で警戒感を示し、外資企業の単独参入防止の動きに出たのは、2年前から稼働している政府のクラウドサービスを、アマゾン・ドット・コムの子会社であるアマゾン・ウエブ・サービス(AWS)の日本法人が運用しているのが背景にある。安全性を問われた当時の高市早苗総務相は「『クラウドサービスは国内から提供』『データ送受信の常時監視』『アクセスログ(誰がアクセスしたかの記録)』などのセキュリティ対策を行う」と答えた。しかし、クラウドサーバーから国家機密が米政府や米企業に漏れる可能性は否定できないという声は根強くある。本当に情報が漏れたのかどうか不明だが、遅まきながら行動を起こした。
 国家機密情報の洩れ阻止にやっと動き出したようだ。
 橋詰雅博
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2022年07月29日

【焦点】五輪選手村訴訟の控訴審 10月11日101号法廷で開く=橋詰雅博

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                原告団が発行する最新会報誌
 不当判決だと原告側(都民)が控訴した東京五輪選手村訴訟の控訴審第1回口頭弁論が10月11日午後1時40分、東京高裁101法廷で開かれる。
 この訴訟は都内一等地、晴海の都有地がデベロッパー11社に129億6000万円と公示価格の10分の1以下で売られたことに腹を立てた都民32人が2017年8月に小池百合子都知事らに差額を支払うよう都に求めた。昨年12月23日、利益や処分に制限がある選手村要因によるものという被告側(東京都)主張を丸のみした地裁は「売却価格は適正」と判決を下した。
 原告弁護団は「判決は自治法や不動産鑑定制度、再開発事業制度の根幹を揺るがす不当な判断」と批判した。
 原告団は売却価格についての控訴理由書補充には、田原拓治不動産鑑定士の意見書提出する見込み。桐蔭横浜大学法学部客員教授も務める田原氏は、都が日本不動産研究所に依頼した価格調査報告書(不動産鑑定書ではない!)が開発法1つだけで算出した土地価格は、不動産鑑定基準に違反しているとし、これを適法とした判決に反論している。土地価格を求める方法はデベロッパーの投資採算性に着目した開発法や近隣の類似物件の不動産価格を比較する取引事例比較法などいくつある。取引事例法がオーソドックスなやり方である。複数の方法を参考に決めたと提示するべきだと田原氏は言うのである。もっともな意見だと思う。
 原告団は控訴審に向けて意思統一を図るため第5回総会を9月下旬ごろに開く予定だ。
 橋詰雅博
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2022年07月28日

【おすすめ本】太田昌克『日米中枢9人の3・11 核融合7日間の残像』―原子力事故は起こり得る 核を扱う資格がない日本=菅原正伯

 東京電力の福島第1原発事故10年の節目を前に、事故に関わった日米中枢の9人に、改めて事故の教訓を聞いた大型連載(41回)を書籍化。「同時代史としての当事者の言葉を活字に残しておきたい」という著者の執念が実った。
 初動で日米間の最大の問題は圧倒的な情報不足だった。事故原発の状況評価や対策をめぐって日米間に微妙な食い違いを生じた。
 自国民の避難をめぐって「80キロ圏内避難」(米)か「20キロ圏内」(日)かの対立があり、複数の原子炉建屋で水素爆発が続き、核汚染が広がる状況下で、原子炉に炉心溶融が起きているか(米)、否か(日)でも見解が分かれた。米軍機による放射線測定システムをもつ米側の方がおおむね正確であったが、やがて東京電力の「撤退」情報も出るなど、事態はいっそう深刻になる。
 これを見てグレゴリー・ヤツコ米原子力規制委員会(NRC)委員長は、米政府に進言する。たとえ作業員の命を脅かすとしても、日本政府は事故現場の人員増強に努めるべきだ、と。これは「核を扱う者の覚悟」を説いたものだと著者は考える。
 事実、NRCの日本派遣チーム責任者のチャールズ・カストーは、米政府内には「決死隊」の必要性を説く議論もあったと証言する。日本政府の「民間任せ」にたいする不信だった。
 この後、東電トップの勝俣会長からがれきの撤去を要請され、「自衛隊はなんでも屋ではない」と反論したという廣中正之(統合幕僚幹部運用部長)の証言もある。泥縄式の対応で事故処理にあたっていた東電の姿勢が如実だ。
 ヤツコNRC委員長は、「原子力事故は起こり得る。そのことを受けいれるべきであり、それこそが最も重要な教訓だ」と答えている。その原点が忘れらてはいないか。(かもがわ出版 1800円)
                        
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2022年07月26日

【お知らせ】「夏のジャーナリスト講座」スタート 9月17日までの7回シリーズ=須貝道雄

 JCJは9月17日まで7回シリーズで、学生向け「夏のジャーナリスト講座」を開く。すべてZoomを使いオンラインでやり取りする。講師に「現場の若手記者」を中心に迎え、隠されたものごとを調べ、事実を発掘していく取材の面白さや、それらの表現方法などに焦点を当てて講座を展開する。報道の世界に関心のある多くの学生の参加をお待ちするほか、社会人の参加も受け付ける。
 講座初回である7月16日は午後2時から開講。復帰50年を迎えた沖縄の基地問題をテーマに、琉球新報の明真南斗記者が話をした。事前に、2015年9月に毎日放送(MBS・大阪市)で放映されたドキュメンタリー「なぜペンをとるのか〜沖縄の新聞記者たち〜」を受講者に視聴してもらった。
 この作品は毎日放送の斎加尚代さんが琉球新報に45日間密着して制作した。米軍ヘリが着艦に失敗して墜落する事故が起きた。新聞記者はどう米軍の秘密の壁を崩していくか、締め切り時間が迫る中で取材し、デスクとやり取りする姿を活写。この映像に登場する当時入社2年目だった明記者に今回、講師をお願いした。
 最終回は9月17日午後。この日は新聞記者を経験し、現在はフリーで活躍する二人のジャーナリスト、幸田泉さん(大阪)と宮崎園子さん(広島)の対談を予定している。記者をめざした動機に始まり、女性の人権の問題、働き方も話題にする。
 参加費は、学生の7回通し券が2500円、社会人の6回通し券(8月21日文章教室を除く)が4000円。いずれもPeatixを通じて募集する。
問い合わせはメールでonlinejcj20@gmail.com
 須貝道雄
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2022年07月25日

【おすすめ本】藤田孝典『ひとりでがんばらない!子どもと考える福祉の話』―実践家が語る福祉の哲学 子らと向きあうきっけかに=井手英策(経済学者)

「藤田孝典さんがはじめて子どもたちに語る福祉哲学」――帯を見た僕はいささか皮肉めいた気分になった。若き実践家の彼が〈哲学〉を語る、大きく出たな、と思った。
 だがこの台詞に偽りはなかった。本書は彼の日々の活動が形作った理念、そして社会への怒りで満ちている。
 藤田君は率直な物言いをする人だ。だが本書前半の彼は別人のようで、正直、少しおどろいた。まるで怒りを噛み殺すような調子で、事実を丁寧に紐解きながら、社会の理不尽さ、あるべき姿を淡々と語っていた。
 僕は児童書を書くと、いつもやりきれない気持ちになる。なぜなら、本を手に取れる子どもたちは、それなりに恵まれた家庭の子どもたちに決まっているからだ。
 様々な格差の拡大に加担している自分を恥じる。だが歩みを止めればすべてが終わる。藤田君も同じ悩みを感じているのだろうか。児童書の限界に立ち向かうかのように、彼の言葉は少しずつ熱気を帯びていく。
 日本は悲惨であふれている。それは、運・不運次第で誰もにおそいかかる。だから助けを求めても気にするな。君が弱いからじゃない。この社会が間違っているんだ。
 本書の根底に流れているのは、〈現状肯定〉という名のあきらめを振り切ろうという、彼の決意、覚悟だ。
 だがそれは、子どもたちへの激励の言葉であるのと同時に、あなたや僕の責任を問う〈糾弾の言葉〉でもある。
 本書は、子どもだけでなく、僕たち自身が気づき、子どもらと語りあうきっかけにならなければならない。そうなって初めて、新しい社会の胎動が始まるのだと思う。(クレヨンハウス1650円)
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2022年07月24日

【今週の風考計】7.24─高をくくっていた「コロナ感染」のテンヤワンヤ

抗原簡易キットで陽性
★3回目のワクチン接種も済んでいるのに、コロナに感染してしまった。15日夕方から咳が出てノドも痛く体がだるい。市販の風邪薬を服用するが、コロナの疑いもよぎる。
 翌16日の朝、熱を測ると36.4度。それでも薬局へ抗原簡易キットを買いにいく。だが購入するには細かい手続きが必要になる。
★キットの使用マニュアルに従い、鼻から採取した粘液を付属の容器に投入・攪拌し、その検体をキットに注ぐ。10分すると、赤い線が2本、現れた。「コロナ陽性」である。
 遂に「罹ったか!」とため息が出る。どうしたらいいのか、不安がよぎる。「ワクチン接種しても罹るんだ!」と、妻の顔を見る。さっそく隔離する部屋を決め、感染予防の措置に入る。さいわい妻は濃厚接触者だが、抗原簡易キットではコロナに感染していない。

救急車を呼ぶも受け入れ病床ナシ
★すぐに医者の診療を受け処方薬をもらうため、緊急外来のある医療機関に電話をかける。全くつながらない。つぎつぎと5カ所にかけるがダメ。つながっても受診は予約がいっぱい、明日以降だという。どうなっているんだ、怒りがわく。
 やむなくベッドに横たわり、トレーに載った夕食をとり、うつらうつら眠りに入る。夜何時ごろだろうか。急に息苦しくなり目が覚める。胸の上部が圧迫されハーハーと息をつくのもしんどい。熱を測ると39.2度。もうダメかと覚悟を決める。
★妻が救急車を呼ぶ。8時半に着いた救急隊員2名のうち一人は、ベッドわきまで来てすぐに人差し指の先にパルスオキシメーターを装着し、数字を確認する。93と告げる。もう一人は自分のケータイに入っている救急医療機関に電話をかけ、受け入れを打診している。年齢や呼吸困難、体温・パルス値などを知らせる。
★傍で聞いていて期待を膨らませるが、どこもダメ。絶望の感が増すばかり。電話をかけた医療機関は都内から八王子・高尾まで含む約38件、約3時間に及ぶ。簡易キッドによるコロナ感染の疑いでは、受け入れはムリだという。
 その後、パルス値は96と上昇。一安心。救急隊員も策が尽きて諦め、退室を了承し帰ってもらう。それにしても日本の医療体制、どうなっているのか。

自宅療養しかない現状
★明けて17日の朝から、発熱外来のある医療機関に、妻にもう一度、電話をかけまくってもらうが全てダメ。午後もダメ。熱は36.4度、咳もなし、痛みもなし、食欲もある。市販の風邪薬を飲みジッとしている。
★3日目の18日、またも朝から電話をかけまくってもらう。遂に午後12時半、電話がつながり受けつけるという。猛暑のなかを、ゆっくり歩いて20分、院内キット検査を受けコロナ陽性と正式に診断された。処方薬は38.5度以上の高熱が出たら飲むカロナール錠200のみ。これでいいのか。不安になる。
★以降3日間、不安はあるものの、さいわい36.2度の平熱が続き咳もナシ。20日には地域の保健所から連絡があり、自宅療養10日間の確認と配食の提供、緊急対応などについてレクチュアーあり。
 21日に段ボール箱2つにレトルトやカップ麺・缶詰・ビスケット・飲料水など54種以上の配食品が届けられた。その量の多さにびっくり、とても使いきれない。
★自宅療養が明ける日まで残り2日。ベッドから窓越しに見える庭の百合を見ながら、正岡子規の<うつむいて 何を思案の 百合の花>を思い浮かべる。(2022/7/24)
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2022年07月23日

【オンライン講演会】「核兵器ノー『議員ウォッチ』の学生と語る会」を8月27日に開く=編集部

 JCJは8月27日午後2時から、オンラインで「核兵器ノー『「議員ウォッチ』の学生と語る会」(仮題)を開く。長崎、広島、東京の学生が登壇する予定だ。若い世代と報道に携わる人、市民らとの交流の場にしたい。
「議員ウォッチ」は核兵器廃絶を願う有志が作ったグループで、代表は核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲さん。2019年から始動し、日本の国会議員、都道府県知事らに対し、核兵器禁止条約への賛否を問い、オンライン上でその結果を公表している。 
 今回の「語る会」に出る学生たちはこうした活動を担うとともに、6月21日からオーストリアのウイーンで開催の核兵器禁止条約締約国会議にもオブザーバーで出席。世界とのつながりを深めている。
「語る会」は参加費500円。Peatixを通じて7月下旬ごろから応募を受け付ける。
 編集部

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2022年07月22日

【焦点】いわくつきの五輪組織委元理事 今度は4500万円疑惑が発覚=橋詰雅博

 東京五輪金銭疑惑をめぐりこの人の名前が再び飛び出した。東京五輪・パラリンピック組織委員会元理事で電通専務だった高橋治之氏(78)だ。大会オフィシャルスポンサーだったAOKIホールディングスから高橋氏が経営するコンサルタント会社に2017年以降総額4500万円が支払われていたことが東京地検特捜部の捜査で明らかになった。理事は法令上「みなし公務員」とされ、賄賂の収受は違法である。高橋氏はスポーツ事業についてさまざまなアドバイスをした見返りとして資金提供を受けたことは認めたが、便宜を図ったことはないと賄賂性を否定している。
 ノーコメントのAOKIだが、大会公式ウェアなどの販売権を獲得し、各種ユニホームの製作も担当した。高橋氏はAOKIHDの創業者・青木拡憲前会長(83)とは10年以上の付き合いだという。
 彼の名前が最初に出たのは20年春。東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会から高橋氏が9億円を受け取り東京五輪実現のため奔走したというロイター通信のスクープ報道だった。ロイターの取材に高橋氏はラミン・ディアク世界陸連前会長などIOC(国際オリンピック委員会)委員にロビー活動したことは認めた。だが、9臆円の使途について「いつか死ぬ前に話してやろう」とうそぶいた。

 東京五輪招致では贈収賄疑惑でフランス検察が捜査を続けている。贈賄側として招致理事長を務めたJOC(日本オリンピック委員会)前理事長の竹田恒和氏が18年に同検察から事情聴取をされている。高橋氏もこの汚職疑惑に深く関わっているようだ。
 高橋氏は同じ慶応大出身の竹田恒治氏を介して弟の恒和氏と知合い交流は長い。ちなみに高橋氏の弟はイ・アイ・イ・インターナショナル社長の治則氏。05年7月死去したが、巨額なリゾート開発を仕掛け資金提供を受けた日本長期信用銀行を破綻に追い込んだ虚業家≠ニ言われた。
 高橋氏は電通時代からの人脈を生かし大きなスポーツイベント開催で力を発揮し、森喜朗元首相ら政界や財界などにも太いパイプがある。特捜部はマスコミに盛んに情報をリークし事件化を目論んでいるが、果たして高橋氏を落とす≠アとができるだろうか。
 橋詰雅博
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2022年07月21日

【おすすめ本】平井美帆『ソ連兵へ差し出された娘たち』―暴き出された戦争の傷 女性差別の北極を追う=鈴木耕(編集者)

 本書は第19回「開高健ノンフィクション賞」受賞作である。私事だがこの賞の創設にいささか関わった者として、感慨ひとしおのものがある。これほど素晴らしい作品が生まれ出たことは、この賞が出版界に根付いたことの証であろう。
 重い内容だ。傷つき死んでいく兵士たちの戦争とは別に、女性たちが巻き込まれたのは、ある意味ではもっと根深い戦争の「傷」である。陳腐な表現だが、体の傷は治せても心の傷は癒せない。
岐阜県黒川村から満州へ入植した「開拓団」の敗戦直後の男たちのまことに身勝手な自己防衛策が生んだ「戦争被害」が、著者の執念とも言える発掘調査で明らかになっていく。タイトルにある通りの「ソ連兵へ差し出された娘たち」である。
 戦争は究極の暴力である。そして暴力は常にセックスを伴う。「接待」という言葉で装われていても、その本質は変わらない。「開拓団を守るために犠牲になってくれ」と、娘たちをソ連兵の「性の慰み者」として差し出す開拓団の幹部たち。幹部らは他の組織と同様、すべて男だ。男らが組織を守るために、同胞女性を人身御供にする。まさに女性差別の極北である。
 これまで封印されてきた事実が、著者の根気強い取材で、次第に実相をあらわす。かさぶたになっていた女性たちの傷が、本書の中で剥がれ落ち血を吹き出す。それでも事実と向き合わなければならないと著者は決意する。
 本書は、隠された事実を抉り出す調査報道の結実であり歴史の再発見書であり女性差別告発の書、そしてなによりも痛みに満ちた反戦の書である。(集英社1980円)
                        
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2022年07月19日

【映画の鏡】その先の家族や友人との絆『沖縄カミングアウト物語』かつきママのハグ×2珍道中=鈴木賀津彦

 6月は「プライド月間(Pride Month)」だ。世界各国でLGBTQ+(性的少数者)の権利を啓発するイベントやキャンペーンなどが繰り広げられている。
 米ニューヨークで1969年6月27日、LGBTが集まっていたゲイバー「ストーンウォール・イン」に不当な踏み込み捜査を行なった警察に客が抵抗し衝突した「ストーンウォール事件」は、歴史上初めてLGBTによる公権力への明確な抵抗で、社会運動の始まりとされる。1年後行われたパレードなどの記念行動以来、6月が月間として位置付けられているのだ。
 そこで今月は、本欄でも性的少数者の思いを正面から描いたドキュメンタリー作品を紹介する。新宿二丁目のゲイバー「九州男」の店主、かつきママのカミングアウト・ストーリーである。
 製作の狙いを松岡弘明監督はこう語る。「私自身がゲイであることをカミングアウトできずに母親を癌で亡くしたことがキッカケでした」「年月が経ち、『九州男』でかつきママのカミングアウト・ストーリーで聞いたとき、これが私の知りたかったカミングアウトの理想的なエンディングだと思いました。こんな可能性もあるんだということを、ぜひとも映像で伝えたい。そんな想いを胸に、かつきママと一緒に彼の故郷・沖縄県那覇市を訪れました」
 家族や友人とカミングアウトしたときを振り返る様子から、この先の人のつながりが示されていく。7月8日〜21日開催される「第30回レインボー・リール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭〜」の上映作品に選ばれ、17日に東京・青山のスパイラルホールで上映される。
 鈴木賀津彦
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号
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2022年07月18日

【支部リポート】北九州支部と保険医協会 中立地帯で平和実現を ロシア侵攻で足立氏講演=久田ゆかり

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ロシアのウクライナ侵攻。JCJ北九州支部は、戦争は「手段」であって目的では無く、戦争で何を得たいのか、その後どうしようというのか等、議論してきた。福岡県歯科保険医協会の定期総会・講演会に参画。5月28日、平和学研究者でコスタリカ社会科学研究所代表理事の足立力也氏を招き、「今こそ聞きたい〜紛争解決学によるウクライナ情勢の出口戦略」を講演=写真=(撮影・久田ゆかり)してもらった。杉山正隆支部長が司会しwebを含め100人が参加した。
「紛争解決学」とは、平和学の一分野で、「平和を達成するために、平和を阻害する要因である紛争を平和へと転換する法則を考える」学問だ。紛争当事者の達成したい目標を見極め、それらを「超越」する、双方にとって利益のあるゴールを再設定することが理想とされる。
今回は「超越」までの必要はなく、より難易度が低い「妥協」で良いと考えられる。開戦のわずか4日後に停戦協議を開始しており「ロシアは解決を焦っている。最初から妥協を導きやすい環境にある」と足立氏。

ロシアが示した主な停戦条件は@ウクライナの中立化Aウクライナの非武装化Bウクライナ領だが2014年にロシアが併合したクリミア地方のロシア主権承認Cウクライナの東南部に位置するドンバス地方の独立承認。ウクライナが@とAを承諾しロシアがBとCについて譲歩することで出口が見えてくる。
「中立化」は「ウクライナの NATO 非加盟」でありハードルが低い。既にウクライナは 1 枚のカードを切れる状態にあり、ロシアに代償のカードを1枚切らせることができる。仮に「国連が担保する中立地帯」が実現すれば歴史上初のものとなると強調した。
紛争が起こると軍拡競争に陥り長期化泥沼化するのは歴史的にも明らかだ。多くの人命や財産が奪われる事態を早く終わらせるために人知を結集する必要がある。北九州支部も講演会や勉強会を通じ平和裏に解決すべく努力を尽したい。
久田ゆかり(健和会大手町リハ病院・JCJ会員)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号

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2022年07月17日

【今週の風考計】7.17─開花した<月下美人>、そしてカサブランカ

5年ぶり5時間の儚い命
書斎の出窓に放置しておいたサボテンが、遂に白い大輪の花を咲かせた。<月下美人>である。
 植木鉢の支柱に添って、幅広の昆布に似た茎が80センチほど伸び、先端が垂れている。その垂れた茎の先端に貴重な蕾がつき、次第に伸びているのに気づいたのが6月半ばだったか。
それからは蕾が落ちないよう見守ってきたが、14日の夕方から蕾が膨らんできて、夜中の12時ごろ、ボンボリを思わせる白い花房がいっぱいに開いた。花の中には黄色い絹糸状のオシベがびっしりついている。何ともいえない良い香りが部屋に漂った。
念のため、家で咲いた<月下美人>の映像をみると、8年前の2014年7月2日夜遅く、それから3年後の2017年7月9日の深夜、開花の映像が残っている。
 そして今年の7月15日0:15、なんと5年ぶりに開花した。その生命力に驚くばかり。だが5時間の儚き命。翌朝には筋ばかりが浮きでた花房を見ると悲しくなる。
いま<月下美人>は絶滅危惧種に指定されている。それもかえりみず人間は<月下美人>の花をスープの具に入れ薬膳料理とし、さらに咲いている花をむしり取り、焼酎につけて薬用酒にしてしまうというのだから怖い。

広がるカサブランカの芳香
さて白さでは、わが家の庭に咲くカサブランカも負けてはいない。昨年は15センチほど伸びた若芽を、誤って踏みつぶしてしまい、ダメにしてしまった。今年は根元を囲い、7月初めには1本の茎に6つも蕾がつくようになった。
開花するのを待っていたら、七夕の朝、いちばん下の蕾が開き、白い大きな反り返った花弁から、チョコレート色のオシベや花粉を受けるメシベが突き出ている。甘い香りも漂う。
2日ほどたって茎の中頃を切り、花瓶に挿してリビングに置いた。蕾が開くたびにオシベにあるチョコレート色の細長い花粉を、ティッシュで拭いとる。下から順に5つの蕾が開き、残るはいちばん上の一つだけ。豪華で圧倒される。

可憐な赤いサンタンカ
これまでリビングを彩っていた鉢植えの赤いサンタンカが、カサブランカに圧倒され、ますます小さく見える。6月半ばに園芸店で見つけて購入したものだ。
 濃い緑の葉に長さ2センチほどの小さな尖った赤い花ビラが房状になって、こんもりと半円状に密集して咲いている。
 サンタンカには、品種が400種以上もあるそうだが、わが家のサンタンカは「スーパーキング」、最も赤が映える品種。手間をかけずに長い間、楽しむことができる。沖縄では「三段花」といい、庭木として植栽されているという。
猛暑から梅雨に戻った感のある日々、<月下美人>にしろ、カサブランカやサンタンカも含め、けなげに咲いて私たちの気持ちを癒してくれる自然の恵みに感謝したい。(2022/7/17)
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2022年07月16日

【NHK問題】権力からの自立を求めて『放送を語る会 30年』刊行 政府介入許す 予算編成に関与道開く=小滝一志

  私たちは3月、『NHKの自立を求めて―「放送を語る会」の30年―』を刊行した。1988年秋、「天皇下血報道」の電波ジャックに強い危機感を抱いた放送労働者が活動を始め、2001の「ETV2001」番組改変事件、2014年に就任した「籾井NHK会長罷免運動」など、NHKをめぐる大きな事件に多くの市民団体と連携して取り組んできた。その運動を通じて私たちが一貫して求めてきたもの、それが「NHKの権力からの自立」だった。

願い逆なでする
理事者の返本

 ところが、この書籍の献本をめぐり、私たちの願いを逆なでする事態が起こった。出版直後、NHK経営委員全員、会長ほか理事全員、日放労中央及び全国10支部・系列に献本した数日後、NHKから「高価なお品でございますので一冊のみ頂戴し、他はお返しさせていただきます」との手紙を付けて理事者宛の10冊余りが返送されてきた。経営委員からの返本はなかった。放送現場から、「Kアラート」などと揶揄されながら政権の意向の忖度には汲々とする一方、視聴者・市民の声には一顧だにしない経営姿勢が露わで、私たちの怒りを誘った。

ネトウヨ用語を
解説委員使う

 NHKの権力からの自立を疑わせる事例は、最近も私たちはいくつか目にしている。1月27日放送「ニュース シブ時」。岩田明子解説委員が、佐渡金山の世界遺産登録をめぐり、「岸田総理は『歴史戦』チームを結成し、登録に向けた準備を本格化させたい考え。韓国側が展開する主張に対して『歴史戦』チームがいかに機能するか、推薦決定に向けた岸田総理の決断が注目される」とコメントしてネットで炎上した。「歴史戦」は雑誌「正論」、「Hanada」、「Will」などでよく使われるネトウヨ用語で、それが公共放送NHKでいとも無造作に安易に使われた。政権の思考に身も心も染まったNHK解説者の姿に仰天したのは私たちだけではなかった。

政権圧力に屈し 
受信料引き下げ

 就任時は受信料値下げに消極的だったNHK前田会長だが、度重なる菅政権の圧力に屈して昨年1月12日、「700億円節減して受信料を引き下げる」と発表した。
  今年6月3日には、受信料値下げ策が盛り込まれた改定放送法が国会を通過した。受信料の繰越剰余金の一部を積み立てて値下げ原資にす「還元目的積立金制度」を新設、その計算額は「総務省令で定める」とされ、政府がNHK予算に口出しできる手がかりが作られた。前田会長「(今まで)値下げのルールがなかったので明確になる」とあっさり容認してしまった。制度的にもNHK予算編成に政府が関与する道が開かれた。

受信料制度廃止
課金制度移行も

 受信料制度そのものも安泰ではない。昨年11月にスタートした総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」では、主要検討項目の一つに「放送制度の在り方」を挙げている。3月末には「放送法令等の制度において必要な措置を講ずるべき」と論点整理した。
 NHKのモデルともいわれるBBCもイギリス政府が受信料値上げを凍結、2028年度以降、受信料制度の廃止・課金制度への移行を検討している。放送だけでなくネット配信も視野に入れた受信料制度の検討を迫られている今、NHKは、政権の意向を忖度し政府広報のような放送を続け実質国営放送の道を歩むのか、受信料で支える視聴者の側にしっかり立つ公共放送としてとどまるのか、その岐路に立たされているのではないか。                 
 小滝一志(放送を語る会)
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号
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2022年07月15日

【出版界の動き】本の用紙代が高騰し、悲鳴をあげる出版社=出版部会

●5月の出版物販売金額734億円(前年比5.3%減)。書籍407億円(同3.1%減)、雑誌327億円(同7.9%減)。月刊誌268億円(同7.4%減)、週刊誌58億円(同10.2%減)。返品率は書籍38.8%、雑誌は45.4%、月刊誌45.8%、週刊誌43.2%。

●物価高騰のあおりで本の用紙代も値上がり。原価上昇分をどの程度価格に反映させるのか、悩みは尽きない。それでも新刊は販価に反映させて解決できるが、悩ましいのは既刊書の増刷の際、値上げしたくても値上げできない事情がある。
 まず定価を上げればカバーにある定価表示を変えねばらない。新しくカバーを印刷しなければならぬ。その印刷費がばかにならない。こういうジレンマに陥るのだ。
 一方、電子書籍は用紙代がない分、価格への影響はない。まず増刷は電子書籍からということになる。また市場で本が品切れ状態だと国会図書館に判定されれば、3カ月以内に品切れを解消しなくてはならない。この対策にも頭が痛い。

●中国発の漫画作品が日本のコミック市場に本格参入。2003年5月に日本で初めて立ち上げた漫画配信アプリ「ブックライブ fun」は、中国の漫画プラットフォーム「快看(クワイカン)」と独占契約し、縦スクロールの“縦読み”でフルカラーの作品を、日本語に翻訳し、キャラクターや設定を日本向けに調整。きわめて好調だという。
 特にいまの若いユーザーは、作品自体の面白さで判断しているので、どこの国の作品でも受け入れる。

●学研プラスが提供する小中学校向けサービス「学研スクールライブラリー」にある1,300タイトル以上の電子書籍を、アイドックの「bookend(ブックエンド)」読み放題サービスを使い、こども向け電子図書館サービスの提供を開始する。

●4年後に140周年を迎える河出書房新社が新雑誌創刊・書店マージン30%企画を発表した。9月27日に全16号の季刊誌「スピン/spin」を創刊。表紙には毎号異なる紙を使い紙にまつわる連載も行う。小説やコラムなどを掲載し、出版の未来を考える媒体として発行する。
 またマージン30%への挑戦企画として、復刊する『世界探検全集』(全16巻)と、『怪異の民俗学 新装復刻版』(全8巻)のいずれかで全巻予約をとった書店に、セット本体価格の8%を支払う「復刊チャレンジ88」を実施する。

●受験勉強のために、思春期に本(コミックを除く)を読まない日本の中高生。「青少年の体験活動等に関する意識調査」に、1カ月に読む本の数について、学年別の数値が出ている。「ほとんど読まない」の割合が、小4では18.5%に対し中2では29.5%、高2では58.8%に跳ね上がる。中学生の3割、高校生の6割が本を読んでいない。<夏の名作読書>企画を進める出版社も嘆くばかり。
出版部会
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2022年07月14日

【メディアウオッチ】「逮捕された記者こそ被害者」札幌で「取材の自由」を考えるフォーラム 大学・道新に厳しい批判=高田正基

                   
取材の自由.png

 新聞労連と北海道新聞労組主催の「『取材の自由]を考えるフォーラム」が5月22日、札幌市で開かれた(写真)。旭川医科大を取材中の道新記者が昨年6月、建造物侵入容疑で大学職員に現行犯逮捕(常人逮捕)された問題をテーマにパネル討論が行われ、「記者逮捕は不当だった」「道新の説明はまるで警察発表のようだ」など、大学や道新に対し厳しい批判が相次いだ
 日本ジャーナリスト会議などが後援し、道内外から会場、オンライン合わせて約60人が参加した。
 パネル討論は吉永磨美・新聞労連委員長の司会で、ジャーナリストの金平茂紀氏、「放送レポート」編集委員の臺宏士氏、岩橋拓郎・新聞労連新聞研究部長、安藤健・道新労組委員長の4人が意見交換した(臺氏と岩橋氏はこの事件の労連検証チームメンバー)。
 論点は@記者逮捕の妥当性A道新の会社対応の問題点B労組・報道機関はどう構えるべきか―の三つ。

■記者逮捕の妥当性

 臺氏は、不適切発言や経費の不正支出が問題になった旭川医大学長の解任を審議する学長選考会議を取材するのは、報道機関として「知る権利」に応えるものだったとして「記者は形式的に侵入したかもしれないが、取材活動の一環であり、報道の自由がある」「当該記者こそ犯罪の被害者だというアプローチの検討も必要だった」と指摘した。
 金平氏も「記者が大学に入ったことを建造物侵入という機械的な条文解釈で逮捕なんかできると思うのか」と大学側を批判した。
 議論は記者逮捕が各メディアで大きく取り上げられなかったことにも及んだ。
 岩橋氏は「同業他社が関係各方面に配慮し、事なかれ主義に走ったのではないか。他社がこの事案を過小評価した可能性もある」として「メディアは権力行使のありようについて鈍感であってはならない」と訴えた。

■記者逮捕の妥当性

 労連検証チームのメンバーである岩橋氏は道新の対応について「初動、実名報道の是非、説明責任」の三つの問題があると指摘。建造物侵入罪が成立しない可能性があるにもかかわらず「外形的事実として争いようがない」「法律違反が成立している可能性が高い」という道新の判断はまるで捜査機関の言い分のようだと断じた。そのうえで「取材目的」という正当な理由があったと、当初から主張すべきだったと強調した。
 記者がスマートフォンで会議を録音していた行為を、道新が「盗聴していた」と表現したことも問題視され、臺氏や金平氏は「記者が犯罪人であるかのような対応だ」「言論機関のマネジメントにかかわる人間が発する言葉か、と耳を疑った」などと厳しく批判した。
 実名報道については「拙速な判断だった」(岩橋氏)という指摘の一方で、逮捕の不当性を訴えるためには実名もありうるとの意見もあった。
臺氏は「懲罰的な実名報道ではなく、誤った権力行使で逮捕されたという立場から実名を選択すべき事案だった」。安藤氏も「事実を記録して訴えるためには、だれが逮捕されたかという名前がないと戦えないというのが現時点の結論だ」とした。
道新の説明責任については「社内調査報告をホームページの会員登録をしなければ読めない記事に指定していた。メディアとしてよりオープンな態度が必要だった」(岩橋氏)、「調査報告の書きぶりに組合員から『責任を現場に押し付けているだけだ』という声が強く上がった」(安藤氏)など、発表手法や説明の不十分さが批判された。

■労組・報道機関の構え

 吉永氏が「こうした事案はこれから増えてくるかもしれない」と懸念を示し、岩橋氏は「(新聞労連として)記者がもし逮捕されそうになったらどうするか、についてまとめた小冊子を作る予定だ」と報告した。
 金平氏は「職業的な報道マンやジャーナリストへの根源的な疑いが出てきている」として、「ひるむな、萎縮するな」と現場記者たちにエールを送った。
     ♢
 パネル討論のあと、道新労組と新聞労連がこれまでの取り組みを報告した。吉永氏は「メモ的録音は問題なのか、議論していくべきだ」と問題提起した。
 高田正基(JCJ北海道支部代表委員)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号
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2022年07月12日

【裁判】記者への性暴力認定 長崎地裁「公権力の支配」明確に=吉永磨美

  長崎市幹部による記者へのセクハラ、長崎地裁で原告が勝訴した(新聞労連提供).JPG
    長崎市幹部による記者へのセクハラ、長崎地裁で原告が勝訴した(新聞労連提供)

 長崎市の原爆被爆対策部長(故人)から2007年、平和祈念式典について取材中に性暴力を受けたとして、女性記者が長崎市に損害賠償などを求めた事件の裁判で、2022年5月30日、長崎地裁(天川博義裁判長)は原告の主張を認め、同市に約2000万円の支払いを命じる判決を言い渡した。これを受けて、長崎市は6月7日、判決を受け入れ、控訴しない意思を示した。

 裁判所は、取材記者に対する公務員の職権濫用による性暴力の事実を認め、「性的自由を侵害するもの」として違法と判断。情報を出す側として、情報のコントロール権を持つ公務員が職務として取材に応じ、支配的な側面を持ち得る中で起きた事件だということが認められた。公権力と報道の関係を語る上での画期的判決といえる。裁判所は被告の長崎市に国家賠償法上の責任があると判断した。
 判決では「取材の協力を求めて連絡してきたことを奇貨として、協力するかのような態度を示しつつ、拒否しがたい立場にある原告に対して、執拗に指示して加害場所に入った」と認定した。取材する側が、職務上得られた情報の出し方を差配する公的機関からのコントロールを受けやすい立場であることが認められたことは、「報道の自由」を標榜する報道機関にとって、大いなる意義がある。今後、公権力に対する取材のあり方について議論するきっかけとなるだろう。

 これまでも記者は警察や行政機関、政治家を相手に「特ダネ競争」に翻弄されてきた。記者は少しでも早く、多くの情報を得るため、取材先との信頼関係を結ぼうと必死だ。そういう中で女性記者の性暴力被害、セクハラ被害は長年隠されてきた。
 抑圧的な関係性は原告と長崎市に限らず、どの公権力と報道機関でも起き得る。セクハラ被害が矮小化されたり、被害事実が疑われたりしてきたが、被害が関係性による職権の濫用によって起きたと認められることで、報道機関や公権力側の関係性見直しやセクハラや性暴力被害防止について具体策に生かすこともできる。

 原告は一部の週刊誌などによって虚偽が流布され、二次被害を被った。市幹部による証言を基にした虚偽の流布について、裁判所は、市は二次被害が予見できる時は防止すべく関係職員に注意する義務があり、これを怠った、として市の責任を認めた。加えて女性蔑視など差別や偏見による「強かん神話」に乗じて、市側は原告の落ち度を指摘したが、裁判所は認めなかった。
 この判断は、偏見をもたれ尊厳を傷つけられた性暴力やセクハラの被害者やさまざまな形で虐げられてきた当事者を後押しするものとなるだろう。
 吉永磨美(新聞労連委員長)
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号
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