2022年08月12日

【リレー時評】民主主義否定の銃撃事件と参議院選挙=清水正文(JCJ代表委員)

  この原稿の内容を参院選を中心に検討していたそのさなか、安倍晋三元首相が遊説先の奈良で演説中に、銃撃を受けて心肺停止状態になったというニュースが飛び込んできた。銃撃犯はその場で取り押さえられ、殺人未遂の現行犯で逮捕されたということである。安倍元首相は搬送先の病院で手当てを受けたが、数時間後に亡くなった。その後の報道で、犯人は奈良に住む41歳の男性で海上自衛隊に勤務していたことがあるなどがわかってきたが、犯行に至る背景や動機は今後の捜査にゆだねられる。参院選の投票日を間近に控えて、選挙戦でしのぎを削る与野党の各党首からも嘆きや憤りの声があげられた。
 民主主義の根幹である選挙のただ中で、言論の自由を暴力で封殺する卑劣なテロ行為などあってはならない。メディアにかかわる私たちも、言論・表現の自由の大切さを、声を大にして訴えていく必要がある。
 一方、安倍元首相の死は痛ましいことではあるが、彼が行ってきた集団的自衛権の一部容認などの憲法解釈の変更や、自衛隊の役割を広げる安全保障法制を成立させ米軍との協力を強めるなどの政策は平和憲法をないがしろにするもので、許されるべきではないことも訴えていく必要がある。
 さて参議院選挙であるが、ロシアのウクライナへの侵略に端を発して「戦争か平和か」が大きな問題になっている。このウクライナ侵略をどう止めるのか、バイデン米大統領のいう「民主主義対専制主義のたたかい」という価値観による分断でいいのかが問われている。国際連合に加盟する各国が「国連憲章を守れ」の一点で国際世論がロシアを包囲することが今求められていると思う。
 また、この動きに乗じて「核抑止論」や「核共有論」が横行しているが、唯一の戦争被爆国で憲法九条を持つ日本としてあってはならず、軍拡ではなく核兵器禁止条約へ参加し、核廃絶の先頭に立つことこそ求められている。
 物価高騰から国民生活を守ることも大きな課題である。消費税を減税し、インボイスは中止する必要がある。また、大企業の内部留保に課税し中小企業を支援して「最低賃金を1500円」に引き上げることも緊急の課題であり、生涯で1億円もの男女の賃金格差をなくすこともジェンダー平等社会の土台である。
 資本主義がもたらした気候危機から地球を守るために、石炭火力からの撤退や原発ゼロを進めるとともに100%国産の再生エネルギーの普及をはかることも必要である。
 大阪ではカジノ誘致反対の住民投票を求める署名が約21万筆集まり、政府に認可しないよう要請する署名も始まった。
 今回の参議院選挙は日本と世界の将来を決める選挙だと言っても過言ではない。選挙結果がどうあろうとも「戦争か平和か」をはじめとした問題や言論・表現の自由を守るたたかいは続く。私たちに今何ができるのかが鋭く問われることになるのは確かである。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | <リレー時評> | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする