本紙が発行される頃には参議院選挙の結果もすでに判明していることだろうが、今回はスタート前から「史上最も低調な選挙戦」と言われるほど、盛り上がりの感じられない選挙だった。野党共闘が不十分な形になってしまったことはもちろん大きな要因だと思われるが、マスメディア、とくにテレビの報道が精彩を欠いていたことも、その責任の一端を担っていたのではないか。
たとえば、選挙が公示された6月22日の、各局の夜のニュース番組を見比べてみる。NHK『ニュースウオッチ9』はさすがに参院選スタートをトップ項目に置き、有権者が最も重視する政策課題として1番目に経済対策、2番目に外交・安全保障をあげていることなどを紹介していたが、民放は、日本テレビ『NEWS ZERO』は「さいたま市で立てこもり男を逮捕」「23歳女性、別荘で監禁され死亡」「上司から“侮辱賞状”で自殺」「諸物価の値上げ」と来て、ようやく「参院選公示」となる。TBS『NEWS23』も「トー横のハウル逮捕」「さいたま市の立てこもり男逮捕」と事件ものが来て、特集「ラッパーAwichと沖縄」(これはなかなか好企画だったが)を挟んで「コロナ給付金10億円詐欺逮捕」の後、参院選関連の項目となっていた。テレビ朝日『報道ステーション』は「アフガニスタンで大地震」「世界各地で物価高反対デモ」の後、三番目に参院選だった。
いわゆる「改憲勢力」が三分の二以上の議席を占め、いつでも改憲を発議できるようになってしまうという重要な事態に直面しているのに、この体たらく。自民党議員からは「政治のことを考えなくていいのは良い国」「野党から来た話は聞かない」など、徹底的に批判すべき暴言も続発していたのに、テレビ報道は全体的に大人しかった。
放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は5年前、「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」を公表、「放送局には選挙に関する報道と評論の自由がある」「選挙に関する報道と論評に求められているのは量的公平ではない」と明確に指摘している。また今回は「#選挙特番は投票日の前に放送を」とのネット署名も呼びかけられ、5万筆以上の署名が在京テレビ各局に提出された。
テレビの選挙報道に、まだ期待を寄せようという声がある。今回、テレビ東京は投票日前日に特番を編成したが、他局は今後、この声にどう応えるのか。
岩崎貞明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号