2022年08月20日

【オピニオン】記者守らぬ朝日に疑問 映画「標的」全国上映会=山田寿彦

 元日本軍慰安婦が名乗り出た記事を巡り、「捏造記者」と激しいバッシングを浴びた元朝日新聞記者、植村隆さんの闘いを記録したドキュメンタリー映画『標的』(西嶋真司監督、99分)が全国各地で上映されている。朝日新聞社は検証紙面で「捏造」を否定しただけで、植村さんの闘いを支援する姿勢を全く示さなかった。映画に、それを問う視点が欠けていることが惜しまれる。

 戦後、朝日は社史に汚点を残した記事捏造を2回犯している。伊藤律架空会見記(1950年)とサンゴ記事捏造事件(1989年)で、朝記者の名は今や忘れ去られている。だが、植村バッシングでは執筆した記者個人が「捏造」の事実がないのに執拗に「標的」とされ、勤務先(北星学園大学)や家族までもが「標的」とされた。矢面に立つべき朝日新聞「社」は最後まで後ろに隠れ続けた。
 映画に、植村さんの名誉棄損訴訟の被告の一人でジャーナリストの櫻井よしこ氏の記者会見シーンがある。「植村さんに取材しなかったのはなぜか」と問われた櫻井氏はこう答えている。
 「朝日新聞に取材を申し入れたら、木で鼻をくくった回答しかなかった。だから植村さんへの取材はしなかった」
 新聞社は朝日に限らず、自身が取材対象になると、「紙面がすべて」という常套句で説明責任を回避する体質がある。朝日は検証紙面で「女子挺身隊」と「従軍慰安婦」の混同を訂正、植村さんの記事を「事実のねじ曲げない」と結論付けた。説明はしないという朝日の姿勢に驚きはない。しかし、自社の記事が「捏造」と誹謗された責任を記者個人に負わせ続けた朝日新聞「社」の卑劣さは歴史に刻まれるべきだろう。
 バッシングの理不尽が知られ、反応した新聞・テレビは名誉棄損訴訟に転じて以降は冷淡になっていく。
北海道での『標的』連続上映会に先立つ6月7日、道政記者クラブ(加盟29社)で事前レクチャーがあった。道政記者クラブ(加盟29社)であった。だが取材に現れたのは朝日の記者1人だけだった。
 朝日は告知記事に続き、「(慰安婦と告白した女性が)強制的に連行されたという印象を与えるもので、安易かつ不用意な記載」だったとして「その部分は誤りとして訂正した」と、植村さんが訂正が必要な「誤報」を書いたとも読める注釈≠わざわざ付けた。
 経過の詳細を忘れたか知らない読者が、これをどう受け止めただろうか。
山田寿彦(北海道支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号 
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする