2022年08月25日
【22緑陰図書―私のおすすめ】大国間の覇権闘争が世界を動かす=斎藤貴男(ジャーナリスト)
何をするにも、アメリカと中国の状況を知らないと話にならない時代になってきた。手当たり次第に読書するべき必要を感じるが、特に心惹かれた2冊をまず紹介しよう。
イアン・ブレマー『自由市場の終焉─国家資本主義とどう闘うか』(有賀裕子訳、日本経済新聞出版)。そして矢吹晋『中国の夢─電脳社会主義の可能性』(花伝社)だ。
ブレマー本は10年以上も前に出版されている。だが、たとえばロシアのウクライナ侵攻を機にやたら叫ばれる「専制主義VS民主主義」なる新冷戦構造の深層が、まざまざと描出されていた。
著者は世界最大の政治リスク専門コンサルティング企業の創業社長。アメリカの覇権を護持し、その“マニフェスト・デスティニー(明白な運命)を信ずる立場から、中国やロシア、湾岸諸国などによる政府主導の資本主義の実像と、近い将来における世界への悪影響を批判的に論じていく。
読み方次第で有益にも害毒にもなり得る。私にとっては、現在進行中の諸々が、詰まるところ大国間の覇権闘争でしかないのでは、という直感の裏付けになってくれた。
一方、IT革命からET(エネルギー・テクノロジー)革命へと移行しつつある中国の実態と未来を考察したのが矢吹本だ。デジタル・リヴァィアサンと呼ばれる怪物を飼い馴らすことは可能か。あるいはオーウェルの危惧した超管理社会に堕していくのか。
壮大な試みの原動力は習近平体制による、かつて欧米列強や日本に主権を侵害された屈辱の歴史ら脱却し、誇りを取り戻さんとする根源的目標「中国の夢」にある。この点の深堀りは同じ著者の『習近平の夢』や、その他の書籍で補いたい。
翻って日本。米中のダイナミズムに圧倒され、いかにもカルいのは、国の規模というより劣悪な政治家たちのせいか。
先ごろ65歳で亡くなったコラムニスト・小田嶋隆の『日本語を、取り戻す』(亜紀書房)の快刀乱麻がしっくり来た。安倍晋三政権の8年間で日本語は意味を失った、との指摘に心から共感。