2022年08月27日

【22緑陰図書―私のおすすめ】ハーレムの闘う本屋の幸せ=落合恵子(作家)

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 子どもの本の専門店クレヨンハウスを開いて46年。「子どもの本」とは、子どもから楽しめる、年齢制限のない本のことである。そんな本が並ぶフロアから一冊の本を抜いてきた。『ハーレムの闘う本屋、ルイス・ミショーの生涯』(ヴォーンダ・ミショー・ネルソン著、原田勝訳、あすなろ書房)。
 専門書店をやっているものとしては素通りできない一冊であり、差別に反対するひとりとしても、目を逸らすことのできない本である。
 1938年、ニューヨーク7番街に風変わりな書店が誕生する。「ナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストア」。当時のことばで云うなら「黒人」が書いた「黒人」についての本を集めた書店である。
 むろんわたしたちは反省と悔いをこめて、あるいは、歴史には蓋をし、単に習慣化した言葉として「アフリカ系アメリカ人」と呼んではいるが。「ニグロは本を読まない」と言われていたあの時代、ルイス(44才)は、この書店をオープンした。ブッカー・T・ワシントンの『奴隷より身を起こして』の他にあるのは、4冊と現金100ドル。「明日はいよいよ開店だ」。

 この本の中に、ハリエット・ダブマンやソジャーナ・トゥルース等、アフリカ系アメリカ人の解放運動に、見事な思想と姿勢を貫いた女性たちの名が見えるのも、わたしにはうれしい。
 時は流れて1975年。病を得、当局からの立ち退き要求と戦い続けることに困難を見つけたルイスは,店を閉じる決意する。
 自分の人生は何だったのか…、そう考える彼に、ひとりの男が歩み寄って告げた。子どもの頃、あなたの書店で父に医学の本を買ってもらった、そしていま医師になった、と。
 これだから本屋はやめられない!
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posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする