なんで再稼働するのか
●突如、岸田首相は<3・11フクシマ>原発事故以来、11年にわたって堅持してきた「脱原発」政策を大転換し、次世代型原発7基の新設と既存10基の再稼働に向けて、本格始動の号令を発した。
コロナ感染により公邸で療養中の24日、官邸で開催された第2回「GX実行会議」に、わざわざオンラインで公邸から参加し、原発推進の進軍ラッパを吹いたのだ。
●この「GX実行会議」のGXとは、グリーン・トランスフォーメーションの略称で、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを議論する。だが討議内容は非公開、「原子力ムラ」の利益を擁護するメンバーが複数、参加している。
●そこでの岸田首相の発言内容は「次世代型原発の開発・建設」と「原発の運転期間40年を20年延長」の2つを挙げ、年末までに結論を得るよう、トンデモナイ指示を出した。
これまで他のテーマでも「検討する」としか言わなかった首相が、国会での議論も経ずに原発の新増設・再稼働の大号令を発するとは言語道断だ。自らに降りかかった統一教会との接点問題をそらすためか。あまりにも独裁的な判断は許されない。
福島原発事故は終わっていない
●「脱原発」を目指し地道な努力を続ける企業や国民からは、支持など得られようもない。福島原発事故の責任を巡って、東京地裁は東京電力元会長ら4人の過失を認め、史上最高額となる13兆円の賠償命令の判決が、わずか1カ月半前に出たばかり。
●政府が言う次世代型原発にしても、耐震性や炉心冷却の改善・強化を図る装置など、まだまだ実証試験の段階だ。海外でも商業発電として確立した次世代型原発はない。日本の各電力会社は既存原発の再稼働すらままならないのに、新型の原子炉など建設する余力などない、というのが実情だろう。
また政府は、検査基準は満たしたものの再稼働していない原発7基を、来年の夏以降に再稼働させるというが、テロ対策の不備や侵入検知器の故障、避難計画のズサンなどが挙げられ、稼働できる見込みが立たない。原発稼働の再延長60年を超す運転となれば、再び法改正が必要になる。
●「核のごみ」と呼ばれる、原発運転後に発生する高レベル放射性廃棄物・デブリについても、福島第1原発からの取り出しは難航し、目標期限の延長が続き、来年末になるという。その取り出したデブリを、どこに収容・処理するのか、受け入れ先も含め見通しすら立っていない。
読むべし、日野行介さんの最新刊
●つい最近、原発再稼働の危険性について著わした本が刊行された。日野行介『原発再稼働─葬られた過酷事故の教訓』(集英社新書)である。長年、原発の実態を丹念な調査で追究してきた著者が、悲劇に学ばない日本の政治家・官僚の実態を告発する。ぜひ読んでほしい。
●原発の恐ろしさを忘れてはならない。「安全神話」は吹っ飛んだのだ。なにも地震や大津波による自然災害による過酷事故だけではない。
ロシアのウクライナ侵攻でハッキリしたように、チェルノブイリ原発やザポリージャ原発を軍事的に占拠し、「原発人質」にして、人類の生命と地球環境を脅かす前代未聞の愚行が展開される、恐ろしき時代なのだ。(2022/8/28)