2022年09月30日
【焦点】五輪選手村訴訟原告団、総会開く、92%減額を控訴審で訴える=橋詰雅博
五輪選手村用地を破格の安値で売却したのは違法だとして、周辺価格との差額約1200億円を小池百合子都知事らに請求するよう都に求める訴訟を起こした晴海選手村投げ売りを正す会は、9月27日に豊洲で第5回総会=写真上=を開いた。
一審で敗訴した原告団は、「不当判決」と昨年12月に控訴した。総会は10月11日(火)午後1時40分に東京高裁101号法廷で開かれる第1回控訴審に向け意思統一を図るのが目的だった。
裁判の最大の焦点は都有地の売却価格が適正かどうかだ。都内一等地をデベロッパー11社に129億6000万円で売ったのは選手村要因などを考慮すると「適正」と東京地裁は認めた。しかし、この価格がいかに異常かを検証してみる。ちなみに選手村要因とは@道路などのインフラ整備の完了Aデベロッパーが施設建築物を建設、取得した上で、土地を譲り受けるB施設建築物の一部を五輪大会期間中に選手用宿泊施設などとして使用し、大会終了後に改修の上、分譲または賃貸する―などだ。
五輪終了後、選手村用地に5632戸の住宅が建てられる。これに伴い新たに学校などの整備が必要になるので、中央区は晴海4丁目と5丁目の都有地を合計3・14f購入することになった。昨年6月財産価格審議会が開かれ、中央区への売却と、土地価格および公共施設に認められる減額を決定した。都は近隣路線価から1u当たり106万(4丁目)、120万(5丁目)とし、売却価格を155億、199億と評価(写真下)。公共減額50%と設定し、減額後の譲渡額を77億5000万、99億5000万と決めた。
原告側の桐蔭横浜大学法学部客員教授、田原拓治不動産鑑定士は、財産価格審議会の土地鑑定は「まとも」と評価した。さらにこう続けた。
「1u当たり120万の5丁目の土地は選手村の真ん中にある。この価格でデベロッパーに譲渡した13・39fの土地価格を算出すると、1607億になる。1607億の土地をいくら選手村要因だと被告の都側が強弁しても正常価格(市場価格)の8%が妥当であるはずがない。選手村の五輪仕様の内装も諸設備の建設、その撤去も都が445億円以上も拠出。選手村とは関係ない超高層分譲マンション2棟の建設も開発事業に含まれている。実態はデベロッパーによる営利を目的にした分譲・賃貸マンションです」
選手村要因を考慮しても、92%減額はひどいというのだ。
田原不動産鑑定士のこの意見書はすでに裁判所に提出している。
橋詰雅博
2022年09月29日
【事件】「いじめ凍死」再調査へ 旭川市 政治力に揺らぐ客観性=山田寿彦
北海道旭川市で昨年3月、中学2年生の廣瀬爽(さ)彩(あや)さん(当時14歳)が凍死体で見つかり、背景にいじめが指摘された問題で、いじめの実態などを調査していた市教委の第三者委員会は12日、最終報告書案を市教委に提出した。遺族側は報告内容に納得しておらず、市長直属の新たな第三者委員会が再調査を行う見通しとなった。遺族側は調査の中間報告が遺族の意向に沿っていないとして、市長の政治力を借りて第三者委員会に中間報告の修正を要求。調査の客観性が揺らぐ事態となっている。
報道によると、最終報告書案は「凍死は自殺」との見解を示したが、いじめとの因果関係が明記されなかったことに遺族側は強い不満を示しているという。
中間報告(4月15日)を受けて遺族弁護団は5月30日付の「所見書」(概要版)を公表。「(爽彩さんの)発達障害を示唆する内容」を問題視し、諮問事項を逸脱しているとして削除を求めた。
さらに「いじめによって発症したPTSDが自殺念慮といった深刻な事態に発展していくことが通常起こりうるプロセスであることは科学的な研究業績によって明らかにされている」と主張。中間報告は発達障害に起因する「衝動性」を自死の原因に結びつけようとしており、「加害者の言い分に偏った事実認定が大部分を占めている」と非難した。遺族弁護団の主張からは自死の原因といじめを結びつけたい意図がうかがわれる。しかし、爽彩さんが不登校になり、精神医療の管理下に置かれた約1年8カ月間の療養生活の経過は全く明らかになっていない。
いじめ防止対策推進法に基づき調査を行う第三者委員会は公平性・中立性・客観的な事実認定を前提としており、被害者側の言い分に偏ることも原則から逸脱する。
所見書に基づき、今津寛介市長は第三者委員会に対し、遺族側の懸念についての回答を求める質問書を出した。
第三者委員会は市長への回答の中で、爽彩さんの(発達障害)特性を記述した理由を「結果的に被害者の特性が加害者に利用された側面が否定できないことから、被害者の特性が現れている事実関係を示す必要があると考えた」と説明した。
中間報告で加害者認定された7人の中には「いじめに関与していない」と訴えた生徒も含まれている。しかし、文科省がいじめ調査に関するガイドラインで定めている加害者側への認定理由の説明は行われないまま、加害者認定された生徒たちはネット上での誹謗中傷にさらされている。
遺族弁護団は中間報告の事実認定のみを根拠に加害者側に法的な損害賠償請求を予告する文書を送りつけており、これも「民事上、刑事上の責任追及を直接の目的とはしない」とうたうガイドラインに反している。
◇
こうした中で、「事件があぶり出した社会の歪みを問う」をテーマにした市民集会(JCJ北海道支部後援)が4日、札幌市内で開かれた。昨年11月に旭川と札幌で精神科医の野田正彰氏を招いて開かれた連続集会と同じ市民有志の主催。
この日の集会では、当局発表と一方の当事者の思惑をなぞるだけの報道(ジャーナリズム)の歪み、精神医療の責任が追及されない不可解さ、「発達障害」乱造の放置など、問われるべき多様な論点が排除されている現状を多角的な視点から問題提起した。
討論で宮田和保・北海道教育大学名誉教授=写真中央=は「本来は事実から価値判断が導き出されるべきだが、旭川の事件を見ていると、価値判断・利益から事実が構成されようとしているのではないか」と指摘した。
山田寿彦(北海道支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年9月25日号
2022年09月28日
2022年09月27日
【おすすめ本】島田雅彦―『パンとサーカス』テロ、暗殺、爆弾、世直し 明日への夢を描き出す政治小説=鈴木耕(編集者)
著者が帯に「私の暴走 にどうかお付き合い下さ い」と書いているくらい だから、その暴走ぶりは ハンパじゃない。なにし ろ「主な登場人物」のペ ージを見るだけで胸が躍 るほど、多彩な人物が登 場する。主人公は2人、 広域暴力団組長の息子と、 その幼な友達の東大出の 秀才でCIAエージェン ト。彼らは高校時代に2 人きりの秘密結社「コン トラ・ムンディ」を結成 する。この設定がすでに ぶっ飛んでいるが、そこ に聖なる娼婦、伝説のホ ームレス詩人、老右翼の 超大物フィクサー、典型 的な二世議員の凡庸な売 国奴総理やリベラル野党 の党首、人権派弁護士、 警視庁警部、更にはCI Aや中国諜報機関が絡ん で、テロは起きるわ拷問 や暗殺も頻発するのだか ら、もうページを繰る手 が止まらない。読者は著 者の暴走に目まぐるしく翻弄されるしかない。
私が著者にインタビュ ーした際、「就活小説とし ても読めるはず」と言っ ていた。なるほど、CI Aの採用試験の様子が面 白い。微に入り細にわた って不思議な試験の内容 が紹介される。あっけに とられながら読み進める のだが、その度に読者の 予想は裏切られる。
これは地方新聞4紙に 掲載された小説だ。だか らとにかく、1日に1回 は山場を作るという著者 の才気が迸る。エンタメ 小説であるけれど、徹底 した日本政治への鋭い批 判、いわゆるポリティカ ル・ノベルなのだ。いま 世間を騒がせている統一 教会と政治家の癒着を予 感させる記述もある。そ こが小説家の想像力のす ごさ。主人公は囚われる が、なかなかの結末が待 っている。ああ、面白かった!である。(講談社2 750円)
私が著者にインタビュ ーした際、「就活小説とし ても読めるはず」と言っ ていた。なるほど、CI Aの採用試験の様子が面 白い。微に入り細にわた って不思議な試験の内容 が紹介される。あっけに とられながら読み進める のだが、その度に読者の 予想は裏切られる。
これは地方新聞4紙に 掲載された小説だ。だか らとにかく、1日に1回 は山場を作るという著者 の才気が迸る。エンタメ 小説であるけれど、徹底 した日本政治への鋭い批 判、いわゆるポリティカ ル・ノベルなのだ。いま 世間を騒がせている統一 教会と政治家の癒着を予 感させる記述もある。そ こが小説家の想像力のす ごさ。主人公は囚われる が、なかなかの結末が待 っている。ああ、面白かった!である。(講談社2 750円)
2022年09月26日
【お知らせ】JCJ「夏のジャーナリスト講座」開く
JCJは7月16日から7回シリーズで学生向けに「夏のジャーナリスト講座」を開いている。最初の3回分をまとめた。
米軍基地は生活の
場と隣り合わせ
▼明真南斗・琉球新報記者(7月16日) 沖縄には31の米軍専用施設があり、総面積では県内の8%を占め、生活の場と隣り合わせだ。沖縄に7割が集中する米軍基地は日本の安全保障を語る以前に、身近な暮らしの問題である。
宜野湾市にある普天間飛行場そばの普天間第二小で体育の授業中、米軍ヘリの窓が落下し、奇跡的に被害はなかった。学校の抗議に対し、沖縄防衛局は体育場に防護用の屋根を設置した。ヘリや飛行機が通過するたびに児童が屋根の下に逃げる日常光景はおかしい。
いま防衛省を担当しているが、全国紙の記者は沖縄の民家で銃弾が見つかっても被害がないなら問題にもしない。地元支局の記者のやるべきことで、自分らには関係がないといった印象だ。
航空機の泡消火剤問題では、発がん性の有機フッ素化合物PFOSなどの血中濃度が高いことが宜野湾市民を対象にした京都大の調査で判明し、健康問題でもある。沖縄戦などの歴史問題も含め、基地集中の不条理を指摘し、弱者に寄り添って報道し、伝えていくことが地元紙記者の使命と考えている。
聞き取りを重ねて
励まされ連載執筆
▼河原千春・信濃毎日新聞文化部記者(同24日) 長野県佐久市出身の女性史研究家、もろさわようこさん(97)の生き方を書いた『志縁のおんな もろさわようことわたしたち』(一葉社)を昨年末に出版した。もろさわさんが佐久市に作った「歴史を拓(ひら)くはじめの家」を2013年に取材したのをきっかけに聞き取りを重ね、その言葉に自分が励まされたことから、19年には連載記事「夢に翔(と)ぶ――もろさわようこ94歳の青春」を執筆した。
代表作『おんなの戦後史』などを著した女性史研究の先駆者で、フェミニズムにも多大な影響を与えてきたもろさわさんは、長野、沖縄、高知に拠点をつくって生活の場を移しながら、女性や部落問題、沖縄などでの差別に目を向けて行動している。
「人の取材をしたくて地方新聞社への就職を選んだ」という河原さんは、受講者の質問に、「スペシャリストよりもジェネラリストになる」ことをテーマに、舞台演出家の串田和美さんを取材すべく準備を進めていることなどを紹介、文化部記者の仕事ぶりを具体的に話した。
事故か 自殺か
スマホの落とし穴
▼小松玲葉・TBS報道局社会部記者(同30日) 入社して4年目、現在は警視庁記者クラブで仕事をしている。新人の時は、房総半島を襲った台風の被災地を取材。自宅2階を吹き飛ばされた小谷登志江さんの姿を追いかけ、ドキュメント「それでも、ここにいたい〜3度の台風に遭って」をつくった。
警察取材では鉄道駅での自殺、転落事故のニュースが多い。警察の広報文を読み「何かおかしくない?」という疑問を大事にしている。その一つが21年1月に東京の東武東上線・東武練馬駅で起きた踏切事故だ。31歳の女性が遮断機が下りた踏切内で立ったままスマホを見ていて、電車にはねられ死亡した。
警察は事故か自殺かわらないと発表していた。当時の記録映像から、警報音が鳴る中、女性はスマホを見ていて、踏切外にいた10人近くもみなスマホに目を落としていた。「危ない」と声をかける人もいない。これは自殺ではなく、女性は踏切の外にいると勘違いしていたのではないか。現場を踏査し、報じた。スマホ時代の落とし穴として大きな反響があった。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
米軍基地は生活の
場と隣り合わせ
▼明真南斗・琉球新報記者(7月16日) 沖縄には31の米軍専用施設があり、総面積では県内の8%を占め、生活の場と隣り合わせだ。沖縄に7割が集中する米軍基地は日本の安全保障を語る以前に、身近な暮らしの問題である。
宜野湾市にある普天間飛行場そばの普天間第二小で体育の授業中、米軍ヘリの窓が落下し、奇跡的に被害はなかった。学校の抗議に対し、沖縄防衛局は体育場に防護用の屋根を設置した。ヘリや飛行機が通過するたびに児童が屋根の下に逃げる日常光景はおかしい。
いま防衛省を担当しているが、全国紙の記者は沖縄の民家で銃弾が見つかっても被害がないなら問題にもしない。地元支局の記者のやるべきことで、自分らには関係がないといった印象だ。
航空機の泡消火剤問題では、発がん性の有機フッ素化合物PFOSなどの血中濃度が高いことが宜野湾市民を対象にした京都大の調査で判明し、健康問題でもある。沖縄戦などの歴史問題も含め、基地集中の不条理を指摘し、弱者に寄り添って報道し、伝えていくことが地元紙記者の使命と考えている。
聞き取りを重ねて
励まされ連載執筆
▼河原千春・信濃毎日新聞文化部記者(同24日) 長野県佐久市出身の女性史研究家、もろさわようこさん(97)の生き方を書いた『志縁のおんな もろさわようことわたしたち』(一葉社)を昨年末に出版した。もろさわさんが佐久市に作った「歴史を拓(ひら)くはじめの家」を2013年に取材したのをきっかけに聞き取りを重ね、その言葉に自分が励まされたことから、19年には連載記事「夢に翔(と)ぶ――もろさわようこ94歳の青春」を執筆した。
代表作『おんなの戦後史』などを著した女性史研究の先駆者で、フェミニズムにも多大な影響を与えてきたもろさわさんは、長野、沖縄、高知に拠点をつくって生活の場を移しながら、女性や部落問題、沖縄などでの差別に目を向けて行動している。
「人の取材をしたくて地方新聞社への就職を選んだ」という河原さんは、受講者の質問に、「スペシャリストよりもジェネラリストになる」ことをテーマに、舞台演出家の串田和美さんを取材すべく準備を進めていることなどを紹介、文化部記者の仕事ぶりを具体的に話した。
事故か 自殺か
スマホの落とし穴
▼小松玲葉・TBS報道局社会部記者(同30日) 入社して4年目、現在は警視庁記者クラブで仕事をしている。新人の時は、房総半島を襲った台風の被災地を取材。自宅2階を吹き飛ばされた小谷登志江さんの姿を追いかけ、ドキュメント「それでも、ここにいたい〜3度の台風に遭って」をつくった。
警察取材では鉄道駅での自殺、転落事故のニュースが多い。警察の広報文を読み「何かおかしくない?」という疑問を大事にしている。その一つが21年1月に東京の東武東上線・東武練馬駅で起きた踏切事故だ。31歳の女性が遮断機が下りた踏切内で立ったままスマホを見ていて、電車にはねられ死亡した。
警察は事故か自殺かわらないと発表していた。当時の記録映像から、警報音が鳴る中、女性はスマホを見ていて、踏切外にいた10人近くもみなスマホに目を落としていた。「危ない」と声をかける人もいない。これは自殺ではなく、女性は踏切の外にいると勘違いしていたのではないか。現場を踏査し、報じた。スマホ時代の落とし穴として大きな反響があった。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
2022年09月25日
【今週の風考計】9.25─徹底捜査で<五輪汚職>の全貌を明らかにせよ!
出てくるわ、出てくるわ
●<五輪汚職>は、底なしの泥沼に陥った。かわいい大会マスコットのぬいぐるみ「ミライトワ」「ソメイティ」にまで疑惑が波及し、東京地検は捜査に入った。ぬいぐるみ製造・販売会社「サン・アロー」が、組織委元理事・高橋治之容疑者(元電通専務)に800万円を提供した疑惑を解明するためである。
●高橋容疑者はAOKI側から5100万円、KADOKAWA側からも約7600万円の受託収賄容疑で逮捕されている。さらに広告代理店・大広が絡む疑惑も深刻だ。大広は電通を補助する「販売協力代理店」に参画するため、高橋容疑者の電通時代の後輩が経営するコンサル会社「コモンズ2」に約1400万円を送金。これが賄賂にあたるとして捜査の対象になっている。
●また大会の駐車場サービスに関わる「パーク24」のスポンサー契約に関連して、広告代理店・ADKホールディングス(旧アサツーディ・ケイ)にも捜査の手が伸びている。
これらの広告会社に、連続して捜査が入るのは、この27日に勾留期限がくる高橋容疑者に対し、さらなる受託収賄容疑を視野に入れているからだ。
巨額の金が動いた背景
●東京地検特捜部は、竹田恒和・JOC前会長を参考人聴取し、組織委員会の会長を務めていた森喜朗・元首相にも、AOKI会長から「現金200万円を手渡した」との供述を受け、8月中旬から9月初旬にかけて複数回にわたり任意聴取している。
●肝心要の元電通専務・高橋容疑者とはどんな人物か。慶応大学出身で4年後輩にJOC竹田恒和・前会長がいて、2人は昵懇の関係にある。高橋容疑者は世田谷に230坪の豪邸を構え、外出には2千万円を超える高級車メルセデス・マイバッハを使いまわす。
自ら経営する六本木アークヒルズ1階にあるステーキ店「そらしお」は、安倍晋三・菅義偉の2人の元・前首相や電通出身の平井卓也前デジタル大臣などが利用し、AOKIとの会食もここだ。だが8月31日をもって突然に閉店した。
●もともとスポーツビジネスに辣腕を振るってきた高橋容疑者、彼を五輪プロジェクトに引き込んだのは安倍元首相である。東京五輪の招致に執念を燃やしていた安倍元首相サイドは、高橋容疑者が経営するコンサル会社「コモンズ」に、招致工作の裏金として9億6000万円も振り込んでいる。
IOC総会プレゼンで「福島原発はアンダーコントロールされている」とウソをつき、さらに2016年リオ五輪の閉会式では、スーパーマリオに扮してまで入れあげた。組織委員・定数34人に、あえて追加して高橋容疑者を35人目に入れたのも、安倍元首相だ。
「電通事件」という視点の重要性
●<五輪汚職>の追求と合わせ、五輪史上もっとも高い大会経費3兆円の闇も晴らさねばならぬ。メイン会場・新国立競技場の建設・整備費用1569億円。競技場の維持運営費だって年間24億円という。
大会経費が膨張した背景には、IOC「五輪貴族」からの要請、電通やパソナグループなどの五輪経費の中抜き・ピンハネの横行がある。開閉式の費用に限ってみても、電通による制作に五輪史上最高額の165億円を使っている。まさに「電通オリンピック」とも言われ、「電通に丸投げ」から生じた事件・事態ともいえる。だが、この視点から電通に対する責任追及の動きは、大手メディアも含め皆無といってよい。
●IOCのトーマス・バッハ会長は、27日の安倍元首相「国葬儀」いや「酷葬」に参列するが、IOCの名誉にかけても東京<五輪汚職>への解明にハッパをかけてほしい。まあ無理か。(2022/9/25)
●<五輪汚職>は、底なしの泥沼に陥った。かわいい大会マスコットのぬいぐるみ「ミライトワ」「ソメイティ」にまで疑惑が波及し、東京地検は捜査に入った。ぬいぐるみ製造・販売会社「サン・アロー」が、組織委元理事・高橋治之容疑者(元電通専務)に800万円を提供した疑惑を解明するためである。
●高橋容疑者はAOKI側から5100万円、KADOKAWA側からも約7600万円の受託収賄容疑で逮捕されている。さらに広告代理店・大広が絡む疑惑も深刻だ。大広は電通を補助する「販売協力代理店」に参画するため、高橋容疑者の電通時代の後輩が経営するコンサル会社「コモンズ2」に約1400万円を送金。これが賄賂にあたるとして捜査の対象になっている。
●また大会の駐車場サービスに関わる「パーク24」のスポンサー契約に関連して、広告代理店・ADKホールディングス(旧アサツーディ・ケイ)にも捜査の手が伸びている。
これらの広告会社に、連続して捜査が入るのは、この27日に勾留期限がくる高橋容疑者に対し、さらなる受託収賄容疑を視野に入れているからだ。
巨額の金が動いた背景
●東京地検特捜部は、竹田恒和・JOC前会長を参考人聴取し、組織委員会の会長を務めていた森喜朗・元首相にも、AOKI会長から「現金200万円を手渡した」との供述を受け、8月中旬から9月初旬にかけて複数回にわたり任意聴取している。
●肝心要の元電通専務・高橋容疑者とはどんな人物か。慶応大学出身で4年後輩にJOC竹田恒和・前会長がいて、2人は昵懇の関係にある。高橋容疑者は世田谷に230坪の豪邸を構え、外出には2千万円を超える高級車メルセデス・マイバッハを使いまわす。
自ら経営する六本木アークヒルズ1階にあるステーキ店「そらしお」は、安倍晋三・菅義偉の2人の元・前首相や電通出身の平井卓也前デジタル大臣などが利用し、AOKIとの会食もここだ。だが8月31日をもって突然に閉店した。
●もともとスポーツビジネスに辣腕を振るってきた高橋容疑者、彼を五輪プロジェクトに引き込んだのは安倍元首相である。東京五輪の招致に執念を燃やしていた安倍元首相サイドは、高橋容疑者が経営するコンサル会社「コモンズ」に、招致工作の裏金として9億6000万円も振り込んでいる。
IOC総会プレゼンで「福島原発はアンダーコントロールされている」とウソをつき、さらに2016年リオ五輪の閉会式では、スーパーマリオに扮してまで入れあげた。組織委員・定数34人に、あえて追加して高橋容疑者を35人目に入れたのも、安倍元首相だ。
「電通事件」という視点の重要性
●<五輪汚職>の追求と合わせ、五輪史上もっとも高い大会経費3兆円の闇も晴らさねばならぬ。メイン会場・新国立競技場の建設・整備費用1569億円。競技場の維持運営費だって年間24億円という。
大会経費が膨張した背景には、IOC「五輪貴族」からの要請、電通やパソナグループなどの五輪経費の中抜き・ピンハネの横行がある。開閉式の費用に限ってみても、電通による制作に五輪史上最高額の165億円を使っている。まさに「電通オリンピック」とも言われ、「電通に丸投げ」から生じた事件・事態ともいえる。だが、この視点から電通に対する責任追及の動きは、大手メディアも含め皆無といってよい。
●IOCのトーマス・バッハ会長は、27日の安倍元首相「国葬儀」いや「酷葬」に参列するが、IOCの名誉にかけても東京<五輪汚職>への解明にハッパをかけてほしい。まあ無理か。(2022/9/25)
2022年09月24日
【おすすめ本】徳田靖之『感染症と差別』―患者は危険で迷惑な存在か 差別を自分事として直視する=藤森 研(JCJ代表委員)
感染症の患者を、社会は往々にして危険で迷惑な存在として差別・排除する。しかし感染者は、最善の治療が必要な、社会が挙げて守るべき存在ではなか。
それがハンセン病国賠訴訟や薬害エイズ訴訟で感染者側代理人となった筆者の信念だ。何故そう考えるに至ったのか、差別はどのように起こるのか、克服の道は何か。実践的に「感染者差別」を考える書だ。
ハンセン病差別は、戦前は「国辱」論、「民族浄化」論、戦後は「公共の福 祉」論で正当化された。差別に関わったのは、隔離を推進した国だけではない。医師や教師、住民(隣人)が、患者をあぶりだした「無らい県運動」。あるいは、感染者の子の小学校通学にPTAが反対運動を起こした熊本の竜田寮事件(1954年)……。
らい菌の感染力は弱く、まして子供を排除する非科学性は明らかだが、社会にも偏見の根は深く下りている。
弁護士として間近に見たエイズ差別の分析も鋭い。行政の情報操作とメディアの喧伝で起きた高知パニックなどにより、血友病薬害の被害者である感染者は、逆に危険な加害者として指弾される側にされた。
被差別部落、朝鮮人虐殺へと筆者は視野を広げる。コロナ禍での感染者や家族、医療従事者への差別にも触れるが、ここは序説的な筆にとどめている。
評者はハンセン病問題検証会議のメンバーだった時、徳田さんと一緒に韓国のハンセン病療養所などを歩いた。徳田さんは、差別を糾弾するというより自分たちの問題でもあることを見つめる誠実な人柄だった。その姿勢は本書にも随所ににじむ。 (かもがわ出版3800円)
それがハンセン病国賠訴訟や薬害エイズ訴訟で感染者側代理人となった筆者の信念だ。何故そう考えるに至ったのか、差別はどのように起こるのか、克服の道は何か。実践的に「感染者差別」を考える書だ。
ハンセン病差別は、戦前は「国辱」論、「民族浄化」論、戦後は「公共の福 祉」論で正当化された。差別に関わったのは、隔離を推進した国だけではない。医師や教師、住民(隣人)が、患者をあぶりだした「無らい県運動」。あるいは、感染者の子の小学校通学にPTAが反対運動を起こした熊本の竜田寮事件(1954年)……。
らい菌の感染力は弱く、まして子供を排除する非科学性は明らかだが、社会にも偏見の根は深く下りている。
弁護士として間近に見たエイズ差別の分析も鋭い。行政の情報操作とメディアの喧伝で起きた高知パニックなどにより、血友病薬害の被害者である感染者は、逆に危険な加害者として指弾される側にされた。
被差別部落、朝鮮人虐殺へと筆者は視野を広げる。コロナ禍での感染者や家族、医療従事者への差別にも触れるが、ここは序説的な筆にとどめている。
評者はハンセン病問題検証会議のメンバーだった時、徳田さんと一緒に韓国のハンセン病療養所などを歩いた。徳田さんは、差別を糾弾するというより自分たちの問題でもあることを見つめる誠実な人柄だった。その姿勢は本書にも随所ににじむ。 (かもがわ出版3800円)
2022年09月23日
【フォトアングル】「国葬反対」のプラカードを掲げる女性たち=酒井憲太郎
参議院選挙後初の臨時国会は8月3日から3日の会期で開かれた。山積みしている課題にこたえない政府与党。国会前では国葬をさせない女たちの会主催のアクションが3日連続で繰り広げられた。雨にも負けず、座り込み、トーク、エイサーとシュプレヒコール。「国葬やめろ」「国葬させない」「森カケ桜は終わりにしない」と安倍元首相の国葬に反対する声が響いた。=4日、衆議院第2議員会館前で、酒井憲太郎撮影
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
2022年09月22日
【経済】報道は景気を左右する 物価高の不安煽る恐れ 事実の選択は適切か点検を=志田義寧
物価高に関するニュースが連日、メディアを賑わせている。帝国データバンクの食品主要105社に対する調査によると、食料品の値上げは10月に今年最多の6000品目超が予定されており、すでに実施されたものも含めると今年2万品目に迫る勢いになっている。メディアが騒ぐのも無理はない。ただ、単に不安を煽るだけなら報道の役割を果たしているとは言えない。日本の消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年比でまだ2%を超えた程度で、9%の米国とは明らかに状況が異なる。またCPI対象品目のうち、上昇は404品目あるが、下落と横ばいが170品目あることも見逃せない。人々の不安を煽るような報道が過熱すれば、実態とかけ離れたインフレ期待が醸成され、経済に悪影響を及ぼす可能性がある。
人々が報道の影響を受けていることを窺わせる調査がある。日銀が四半期に1回実施している「生活意識に関するアンケート調査」だ。22年6月調査では、景気の判断材料として最も多かったのが「自分や家族の収入の状況から」(約43%)で、次いで多かったのが「マスコミ報道を通じて」(約35%)だった。「マスコミ報道を通じて」は20年3月調査までは20%程度、4〜5位で推移していたが、同年6月調査で突然35%に上昇。以降、直近の調査まで30%台を中心に推移している。この間に何があったのかと言えば、新型コロナウイルスの感染拡大だ。NHKの新型コロナウイルス関連の特設サイトにある「コロナ関連記事全記録」によると、20年1月に289本だったコロナ関連ニュースは4月に4442本と急増している。人々がコロナ関連ニュースの影響を受けたことは想像に難くない。
4月号の機関紙で経済報道は同じ情報をベースにしても、書き方によって人々の行動に影響を与える「フレーミング効果」があると書いた。その一因になっているのが、人々の経済に対する理解不足だ。これは新型コロナウイルスでも同様のことが言える。報道は景気の「気」を左右する。
世界的ベストセラーになった『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』は、報道に対して厳しい視点が目立つ。例えば、人々がネガティブな考え方から抜け出せないのは、悪いニュースに偏っているのが一因と指摘している。確かに良いニュースよりも悪いニュースの方が記事になりやすいのは事実だろう。それは報道を通じて社会を良くしたいという報道機関の立ち位置も影響している。
生活意識に関するアンケート調査では、物価上昇を「どちらかと言えば困ったことだ」と受け止める回答が8割超にのぼっている。現在は原材料価格の上昇と円安による「悪い物価上昇」であることも併せると、「悪いニュースに偏っている」報道が騒ぐのも当然と言える。
しかし、不安を煽るだけの報道はいらない。行動経済学によると、人は得する喜びよりも、損する悲しみの方が大きい。このため、人々は損失回避に全力をあげる。物価高のみを強調した報道が相次げば、経済の振幅をより大きくしかねない。
経済報道は取り上げる事実で正反対の記事を書くことも可能だ。例えばCPIは、昨年の100が今年102になれば前年比2%上昇だが、来年102を継続すれば前年比ゼロ%となる。102を取れば「高止まり」、ゼロ%を取れば「逆戻り」だ。だからこそ、書き方には細心の注意が必要となる。事実の選択は適切か、報道機関はいま一度、点検して欲しい。
志田義寧
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
人々が報道の影響を受けていることを窺わせる調査がある。日銀が四半期に1回実施している「生活意識に関するアンケート調査」だ。22年6月調査では、景気の判断材料として最も多かったのが「自分や家族の収入の状況から」(約43%)で、次いで多かったのが「マスコミ報道を通じて」(約35%)だった。「マスコミ報道を通じて」は20年3月調査までは20%程度、4〜5位で推移していたが、同年6月調査で突然35%に上昇。以降、直近の調査まで30%台を中心に推移している。この間に何があったのかと言えば、新型コロナウイルスの感染拡大だ。NHKの新型コロナウイルス関連の特設サイトにある「コロナ関連記事全記録」によると、20年1月に289本だったコロナ関連ニュースは4月に4442本と急増している。人々がコロナ関連ニュースの影響を受けたことは想像に難くない。
4月号の機関紙で経済報道は同じ情報をベースにしても、書き方によって人々の行動に影響を与える「フレーミング効果」があると書いた。その一因になっているのが、人々の経済に対する理解不足だ。これは新型コロナウイルスでも同様のことが言える。報道は景気の「気」を左右する。
世界的ベストセラーになった『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』は、報道に対して厳しい視点が目立つ。例えば、人々がネガティブな考え方から抜け出せないのは、悪いニュースに偏っているのが一因と指摘している。確かに良いニュースよりも悪いニュースの方が記事になりやすいのは事実だろう。それは報道を通じて社会を良くしたいという報道機関の立ち位置も影響している。
生活意識に関するアンケート調査では、物価上昇を「どちらかと言えば困ったことだ」と受け止める回答が8割超にのぼっている。現在は原材料価格の上昇と円安による「悪い物価上昇」であることも併せると、「悪いニュースに偏っている」報道が騒ぐのも当然と言える。
しかし、不安を煽るだけの報道はいらない。行動経済学によると、人は得する喜びよりも、損する悲しみの方が大きい。このため、人々は損失回避に全力をあげる。物価高のみを強調した報道が相次げば、経済の振幅をより大きくしかねない。
経済報道は取り上げる事実で正反対の記事を書くことも可能だ。例えばCPIは、昨年の100が今年102になれば前年比2%上昇だが、来年102を継続すれば前年比ゼロ%となる。102を取れば「高止まり」、ゼロ%を取れば「逆戻り」だ。だからこそ、書き方には細心の注意が必要となる。事実の選択は適切か、報道機関はいま一度、点検して欲しい。
志田義寧
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
2022年09月21日
2022年09月20日
【映画の鏡】経済成長で変わる農村の姿『出稼ぎの時代から』地方の在り方 根本から問う=鈴木賀津彦
「飯場で暮らす。枕元には長靴。」
山形県白鷹町教育委員会の倉庫から見つかった50年余り前のスライド作品「出稼ぎ」。スライドと台本、オープンリールの録音テープ。高度成長期の1966年冬から翌年春に出稼ぎに行った二十歳の青年が、働いた川崎市北部の団地造成現場や飯場の暮らしをカメラに収め、撮りためた写真で構成した作品を置賜地区視聴覚作品コンクールに出品したものだ。
1960年代に年間約2000人が出稼ぎしていたという白鷹町。作品発見をきっかけに、出稼ぎの時代とは何だったのかを再認識しようと、町民の中から映画製作の話が持ち上がり、その後の暮らしや関係者のインタビューなどの取材を町民有志で進めた。完成した79分の映画の上映が7月から地元で始まった。
当時は高価だったカメラを出稼ぎで貯めて購入した青年が、時代をどう捉えて、何を考えていたのか。その後大きく変わった農村の現状とこれからを見つめなおす原点が、この青年の感性にあると気付かされる。
白鷹町ってどんな地域だろうと検索すると、19世紀の女性旅行家イザベラ・バードがこの山形県南部、置賜地方を「東洋のアルカディア(理想郷)」と讃えたと解説する観光サイトを見つけた。この理想郷からの出稼ぎが都心の「繁栄」を支えてきたのだ。地方創生を叫ばれる今、目先の地域活性化にとどまらず、改めて戦後の経済成長の在り方を問い直して未来を見つめていかねばならないと、インタビューに淡々と語る住民の映像から感じた。
住民による地域メディアづくりや映像アーカイブの視点からも、この映画の上映活動を広げてほしい。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
2022年09月19日
【おすすめ本】布施祐仁『日米同盟・最後のリスク なぜ米軍のミサイルが日本に配備されるのか』─対中ミサイル網が誘発する危機=吉田敏浩(ジャーナリスト)
台湾をめぐり米中対立が緊張の度を増すなか、日本政府は対米追随で日米同盟強化の一点張り。だが、それは台湾有事への米軍の軍事介入と連動して、日本が戦火にさらされ、最悪の場合、核戦争の戦場とも化す巨大なリスクを孕んでいる。
著者は情報公開制度を駆使して外務省内部文書を分析し、安全保障専門家にも取材、かつ自衛隊ミサイル部隊が置かれた奄美・沖縄を踏査した結果、警鐘を鳴らす。
著者が強調するのは、水面下で進む米軍の新型中距離ミサイルの日本配備計画の危険性である。中国を睨んで配備されるこのミサイルは、核弾頭も搭載可能だ。当然、中国は警戒心を強め、核弾頭つきミサイルの照準を日本に合わせてくる。
日本も中国本土を射程に収める自衛隊の中距離ミサイルを開発中だ。米軍と自衛隊は対中国ミサイル網を日本列島に築こうとしている。
それは東アジアでの軍拡競争を激化させる。日米両政府は抑止力の向上を叫ぶが、軍拡一辺倒では逆に戦争を誘発するリスクが高まるばかりだ。戦場となって被害を受けるのは日本で、米国まで戦火が及ぶ事態は想定されていない。日本は米国の世界戦略の捨て駒とも位置づけられている。
日本は軍拡一辺倒ではなく、紛争の平和的解決を原則とするASEAN(東南アジア諸国連合)を手本に、米中間の緊張緩和と信頼醸成に向けた仲介外交を実践し、東アジアで覇権なき地域安全保障機構づくりに外交努力すべきだ。そう著者は訴える。刮目すべき警世の書である。(創元社1500円)
著者は情報公開制度を駆使して外務省内部文書を分析し、安全保障専門家にも取材、かつ自衛隊ミサイル部隊が置かれた奄美・沖縄を踏査した結果、警鐘を鳴らす。
著者が強調するのは、水面下で進む米軍の新型中距離ミサイルの日本配備計画の危険性である。中国を睨んで配備されるこのミサイルは、核弾頭も搭載可能だ。当然、中国は警戒心を強め、核弾頭つきミサイルの照準を日本に合わせてくる。
日本も中国本土を射程に収める自衛隊の中距離ミサイルを開発中だ。米軍と自衛隊は対中国ミサイル網を日本列島に築こうとしている。
それは東アジアでの軍拡競争を激化させる。日米両政府は抑止力の向上を叫ぶが、軍拡一辺倒では逆に戦争を誘発するリスクが高まるばかりだ。戦場となって被害を受けるのは日本で、米国まで戦火が及ぶ事態は想定されていない。日本は米国の世界戦略の捨て駒とも位置づけられている。
日本は軍拡一辺倒ではなく、紛争の平和的解決を原則とするASEAN(東南アジア諸国連合)を手本に、米中間の緊張緩和と信頼醸成に向けた仲介外交を実践し、東アジアで覇権なき地域安全保障機構づくりに外交努力すべきだ。そう著者は訴える。刮目すべき警世の書である。(創元社1500円)
2022年09月18日
【今週の風考計】9.18─国連が日本の精神医療などへ90に及ぶ勧告!
障害当事者の切実な声
◆国連の「障害者権利条約」を推進する委員会から、日本政府に対し精神科への強制入院を認める法律の廃止など、90項目にわたる改善勧告が出された。
「障害者権利条約」とは2006年に国連が採択し2014年に日本も批准した国際条約である。多くの障害当事者が「私たち抜きに私たちのことを決めないで!」をスローガンに、条約策定に関わってきた。
◆今回の勧告に際しても、日本から100人もの障害当事者がジュネーブへ渡航し、権利委員会の委員に日本の現状について訴えた。日本政府に出された主な勧告を拾ってみると、以下の内容が挙げられる。
勧告に盛り込まれた内容
@ 精神科病院に入院している障害者のすべてのケースを見直し、無期限の強制入院や強制治療をやめること。
A 精神を病む人々の尊厳と人間性を尊重し、地域社会で必要な精神保健の支援をうけつつ自立した生活が営めるようにすること。
B 優生思想や能力主義を撲滅するため、津久井やまゆり園事件を検証すること。
C 障害のある子どもに対し差別や分離なく、全ての子どもを受け入れる「インクルーシブ教育」を保障すること。
D 障害者団体と協議をして障害年金の額を見直すこと。
E パリ原則に基づく国内人権機関を設立すること。
人権無視の収容所
◆とりわけ「ニッポンの精神医療」の異常な実態は、国際的にも指弾されている。なぜ世界標準からかけ離れた、日本特有の精神医療がまかり通っているのか。今年度JCJ賞を受賞した風間直樹ほか『ルポ・収容所列島』(東洋経済新報社)が、閉鎖病棟の恐るべき実態と病巣に迫っている。
そこは「長期強制入院」のうえ、身体拘束・薬漬け・虐待横行など、驚くべき人権無視の収容所だった。主治医の指示で、親・兄弟・子供との面会も禁止、電話やSNSも駄目。唯一できるのは手紙のみ。しかも「医療保護入院」を決定するのは、家族一人の同意と精神科医の診断だけ。本人の意思は無視。
◆栃木県・報徳会宇都宮病院で起きた精神障害者2人への暴行・死亡事件に加え、今でも生活保護者を強制入院・治療に引き込み、支給される生活保護費を治療・入院費として巻き上げる病院経営、90歳を超える病院長のアクドさには驚くばかり。
「障害者ビジネス」が横行
◆行政からの補助金を目当てに精神障害者を食い物にする「障害者ビジネス」も横行している。精神障害者に、その都道府県の最低賃金に労働時間を掛けた分を支払えば、働かせることができる。さらに行政から1日分に該当する補助金6000円が支給される。この制度をうまく使って、精神障害者に少しだけ働かせ賃金支給も抑え、6000円から浮いた差額分を懐に入れる、濡れ手に泡の「儲かる商売」がはびこっている。
「精神病床が治療目的だけでなく、社会秩序の担保と保安機能を担っている」と公言し、実は「儲かる商売」収容施設の拡充すら主張する日本精神科病院協会の会長には呆れかえる。
◆今週24日(土)13:00〜 JCJ賞贈賞式が行われる。著者の風間直樹さんもスピーチされる。ぜひ視聴してほしい。https://jcjsyou.peatix.com/ をクリックして、オンライン視聴800円の手続きをしてください。(2022/9/18)
◆国連の「障害者権利条約」を推進する委員会から、日本政府に対し精神科への強制入院を認める法律の廃止など、90項目にわたる改善勧告が出された。
「障害者権利条約」とは2006年に国連が採択し2014年に日本も批准した国際条約である。多くの障害当事者が「私たち抜きに私たちのことを決めないで!」をスローガンに、条約策定に関わってきた。
◆今回の勧告に際しても、日本から100人もの障害当事者がジュネーブへ渡航し、権利委員会の委員に日本の現状について訴えた。日本政府に出された主な勧告を拾ってみると、以下の内容が挙げられる。
勧告に盛り込まれた内容
@ 精神科病院に入院している障害者のすべてのケースを見直し、無期限の強制入院や強制治療をやめること。
A 精神を病む人々の尊厳と人間性を尊重し、地域社会で必要な精神保健の支援をうけつつ自立した生活が営めるようにすること。
B 優生思想や能力主義を撲滅するため、津久井やまゆり園事件を検証すること。
C 障害のある子どもに対し差別や分離なく、全ての子どもを受け入れる「インクルーシブ教育」を保障すること。
D 障害者団体と協議をして障害年金の額を見直すこと。
E パリ原則に基づく国内人権機関を設立すること。
人権無視の収容所
◆とりわけ「ニッポンの精神医療」の異常な実態は、国際的にも指弾されている。なぜ世界標準からかけ離れた、日本特有の精神医療がまかり通っているのか。今年度JCJ賞を受賞した風間直樹ほか『ルポ・収容所列島』(東洋経済新報社)が、閉鎖病棟の恐るべき実態と病巣に迫っている。
そこは「長期強制入院」のうえ、身体拘束・薬漬け・虐待横行など、驚くべき人権無視の収容所だった。主治医の指示で、親・兄弟・子供との面会も禁止、電話やSNSも駄目。唯一できるのは手紙のみ。しかも「医療保護入院」を決定するのは、家族一人の同意と精神科医の診断だけ。本人の意思は無視。
◆栃木県・報徳会宇都宮病院で起きた精神障害者2人への暴行・死亡事件に加え、今でも生活保護者を強制入院・治療に引き込み、支給される生活保護費を治療・入院費として巻き上げる病院経営、90歳を超える病院長のアクドさには驚くばかり。
「障害者ビジネス」が横行
◆行政からの補助金を目当てに精神障害者を食い物にする「障害者ビジネス」も横行している。精神障害者に、その都道府県の最低賃金に労働時間を掛けた分を支払えば、働かせることができる。さらに行政から1日分に該当する補助金6000円が支給される。この制度をうまく使って、精神障害者に少しだけ働かせ賃金支給も抑え、6000円から浮いた差額分を懐に入れる、濡れ手に泡の「儲かる商売」がはびこっている。
「精神病床が治療目的だけでなく、社会秩序の担保と保安機能を担っている」と公言し、実は「儲かる商売」収容施設の拡充すら主張する日本精神科病院協会の会長には呆れかえる。
◆今週24日(土)13:00〜 JCJ賞贈賞式が行われる。著者の風間直樹さんもスピーチされる。ぜひ視聴してほしい。https://jcjsyou.peatix.com/ をクリックして、オンライン視聴800円の手続きをしてください。(2022/9/18)
2022年09月17日
【出版界の動き】五輪汚職と統一教会そして出版社=出版部会
●22年7月の出版物販売金額745億円(前年比9.1%減)、書籍397億円(同6.9%減)、雑誌348億円(同11.5%減)。月刊誌284億円(同13.4%減)、週刊誌63億円(同2.4%減)。返品率は書籍41.8%、雑誌43.8%、月刊誌44.1%、週刊誌は42.7%。
●CCCの売上高1819億円(前年2982億円)、経常利益81億円(前年42億円)。連結決算による経常利益とはいえ、この驚異的な収益率は、どこからきているのか。紀伊國屋書店が売上高978億円に対し、経常利益10億円である事実と比較しても不思議だ。
●八重洲ブックセンター本店が、地域の再開発計画に伴い、来年3月に一時閉店。28年度に建設予定の超高層大規模複合ビルに改めて出店する。1978年9月に超巨大書店として開業、44年を経ての閉店に際し、9月17日から同30日まで全9店舗で「創業祭」を開催する。
●KADOKAWAの元専務・室長が、東京五輪スポンサーを巡り組織委員会の元理事・高橋治之容疑者に、約7600万円を贈賄した容疑で逮捕。KADOKAWAは2019年4月に約2億円でスポンサー契約を締結している。さらに東京地検特捜部は、14日、角川歴彦・会長を、同容疑で逮捕する事態となった。
●集英社、減収減益の決算。売上高1952億(前年比2.9%減)、当期純利益268.5億円(同41.3%減)。売上高の内訳は、雑誌506.5億円(同38.0%減)、書籍120億円(同32.6%減)、広告86億円(同9.2%増)、事業収入1261.5億円(同34.7%増)。
●集英社のウェブメディア「よみタイ」で連載されていた菊池真理子氏のコミック『「神様」のいる家で育ちました宗教2世な私たち』が、今年の1/26付で連載中止、ウェブメディアからも削除されていた。この内容は「宗教2世」の苦悩について、取材を基に描いたもの。
この作品が文藝春秋から単行本として10月6日に刊行される。単行本では連載された原稿に加え、未発表作と書き下ろし計45ページが収録され、総ページ144ページ。著者のコメントには、「宗教団体からの抗議をきっかけに休止となり、消えかけた作品です」という文章がある。
●「下請法」改正でフリーランス保護が加速されるか。下請法に違反した場合、公正取引委員会から勧告・指導がなされる。悪質な場合は最高50万円の罰金が科される。しかし「資本金1000万円以下の法人」には適用されない。そのため今秋の臨時国会に、この条件を撤廃し業務を発注する際には8項目に及ぶ内容が記載された3条書面を発行する義務を課す法案を提出することになった。
出版部会
●CCCの売上高1819億円(前年2982億円)、経常利益81億円(前年42億円)。連結決算による経常利益とはいえ、この驚異的な収益率は、どこからきているのか。紀伊國屋書店が売上高978億円に対し、経常利益10億円である事実と比較しても不思議だ。
●八重洲ブックセンター本店が、地域の再開発計画に伴い、来年3月に一時閉店。28年度に建設予定の超高層大規模複合ビルに改めて出店する。1978年9月に超巨大書店として開業、44年を経ての閉店に際し、9月17日から同30日まで全9店舗で「創業祭」を開催する。
●KADOKAWAの元専務・室長が、東京五輪スポンサーを巡り組織委員会の元理事・高橋治之容疑者に、約7600万円を贈賄した容疑で逮捕。KADOKAWAは2019年4月に約2億円でスポンサー契約を締結している。さらに東京地検特捜部は、14日、角川歴彦・会長を、同容疑で逮捕する事態となった。
●集英社、減収減益の決算。売上高1952億(前年比2.9%減)、当期純利益268.5億円(同41.3%減)。売上高の内訳は、雑誌506.5億円(同38.0%減)、書籍120億円(同32.6%減)、広告86億円(同9.2%増)、事業収入1261.5億円(同34.7%増)。
●集英社のウェブメディア「よみタイ」で連載されていた菊池真理子氏のコミック『「神様」のいる家で育ちました宗教2世な私たち』が、今年の1/26付で連載中止、ウェブメディアからも削除されていた。この内容は「宗教2世」の苦悩について、取材を基に描いたもの。
この作品が文藝春秋から単行本として10月6日に刊行される。単行本では連載された原稿に加え、未発表作と書き下ろし計45ページが収録され、総ページ144ページ。著者のコメントには、「宗教団体からの抗議をきっかけに休止となり、消えかけた作品です」という文章がある。
●「下請法」改正でフリーランス保護が加速されるか。下請法に違反した場合、公正取引委員会から勧告・指導がなされる。悪質な場合は最高50万円の罰金が科される。しかし「資本金1000万円以下の法人」には適用されない。そのため今秋の臨時国会に、この条件を撤廃し業務を発注する際には8項目に及ぶ内容が記載された3条書面を発行する義務を課す法案を提出することになった。
出版部会
2022年09月15日
【お知らせ】第65回JCJ賞贈賞式・記念講演 9月24日(土)午後1時から5時まで 会場・東京の全水道会館・4階大会議室からオンライン配信 記念講演「何のために報じるのか」講師:上西充子・法政大学キャリアデザイン学部教授
「何のために報じるのか」。ジャーナリストの皆さんはこの問いに何と答えるでしょうか――。法政大の上西充子教授は根源的な問題を提起する。
「『知る権利』に応えるため」? けれど、「知る」ことの先に何を想定しているでしょうか。それとも、「事実を伝えるため」? とはいえ、伝える事実も選択されています。あるいは、「権力監視のため」? けれども、権力監視はジャーナリストだけが独占的に担うものではありません。国民も権力監視を行います。そのために必要な情報を報道は伝えているのか。
以上のような考察をする上西さんが、報道に携わる人たちに託す期待、願いとは何か、講演でたっぷりと語っていただく。
【上西充子さん・略歴】法政大学キャリアデザイン学部教授。専門は労働問題・社会政策。国会審議を解説つきで街頭上映する国会パブリックビューイングを2018年6月に始めた。「ご飯論法」で2018年の新語・流行語大賞トップテンを受賞。著書に『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)、『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)、『政治と報道』(扶桑社新書)など。
日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、1958年以来、年間の優れたジャーナリズム活動・作品を選定して、「JCJ賞」を贈り、顕彰してきました。今年で65回を迎えました。8月31日の選考会議において、次の6点を受賞作と決定いたしました。
【JCJ賞大賞】 1点
● 映画「教育と愛国」 監督・斉加尚代
【JCJ賞】 4点(順不同)
● 「土の声を『国策民営』リニアの現場から」 (信濃毎日新聞)
● 風間直樹/井艸恵美/辻麻梨子『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』 東洋経済新報社
● 北海道新聞社編『消えた「四島返還」 安倍政権 日ロ交渉2800日を追う』 北海道新聞社
● 「ネアンデルタール人は核の夢を見るか〜“核のごみ”と科学と民主主義」 北海道放送
【JCJ特別賞】 1点
● 沖縄タイムス社と琉球新報社
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【9月24日は受賞者によるスピーチがあります。取材や企画で考えたこと、苦労したことなど毎回、スピーチの内容は濃く、参加者に感銘を与えています】
参加費:会場参加(30人まで・要予約)は1000円、オンライン参加は800円
・会場参加お申込みの方はJCJ事務所に下記メールかファクスで。先着順。参加費の支払いは当日、会場でお願いします。 office@jcj.gr.jp ファクス03-6272-9782
・オンライン視聴をお申込みの方は下記URLをクリックし、Peatixを通じてお手続きをしてください。https://jcjsyou.peatix.com/
・お問い合わせは onlinejcj20@gmail.com まで。
主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ) https://jcj.gr.jp/index.html
「『知る権利』に応えるため」? けれど、「知る」ことの先に何を想定しているでしょうか。それとも、「事実を伝えるため」? とはいえ、伝える事実も選択されています。あるいは、「権力監視のため」? けれども、権力監視はジャーナリストだけが独占的に担うものではありません。国民も権力監視を行います。そのために必要な情報を報道は伝えているのか。
以上のような考察をする上西さんが、報道に携わる人たちに託す期待、願いとは何か、講演でたっぷりと語っていただく。
【上西充子さん・略歴】法政大学キャリアデザイン学部教授。専門は労働問題・社会政策。国会審議を解説つきで街頭上映する国会パブリックビューイングを2018年6月に始めた。「ご飯論法」で2018年の新語・流行語大賞トップテンを受賞。著書に『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)、『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)、『政治と報道』(扶桑社新書)など。
日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、1958年以来、年間の優れたジャーナリズム活動・作品を選定して、「JCJ賞」を贈り、顕彰してきました。今年で65回を迎えました。8月31日の選考会議において、次の6点を受賞作と決定いたしました。
【JCJ賞大賞】 1点
● 映画「教育と愛国」 監督・斉加尚代
【JCJ賞】 4点(順不同)
● 「土の声を『国策民営』リニアの現場から」 (信濃毎日新聞)
● 風間直樹/井艸恵美/辻麻梨子『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』 東洋経済新報社
● 北海道新聞社編『消えた「四島返還」 安倍政権 日ロ交渉2800日を追う』 北海道新聞社
● 「ネアンデルタール人は核の夢を見るか〜“核のごみ”と科学と民主主義」 北海道放送
【JCJ特別賞】 1点
● 沖縄タイムス社と琉球新報社
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【9月24日は受賞者によるスピーチがあります。取材や企画で考えたこと、苦労したことなど毎回、スピーチの内容は濃く、参加者に感銘を与えています】
参加費:会場参加(30人まで・要予約)は1000円、オンライン参加は800円
・会場参加お申込みの方はJCJ事務所に下記メールかファクスで。先着順。参加費の支払いは当日、会場でお願いします。 office@jcj.gr.jp ファクス03-6272-9782
・オンライン視聴をお申込みの方は下記URLをクリックし、Peatixを通じてお手続きをしてください。https://jcjsyou.peatix.com/
・お問い合わせは onlinejcj20@gmail.com まで。
主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ) https://jcj.gr.jp/index.html
2022年09月14日
【JCJ声明】安倍元首相の「国葬」に反対する――世界の人たちに向けてアピール
私たち、日本ジャーナリスト会議(略称JCJ)は第2次世界大戦後、「再び戦争のためにメディアは協力してはならない」と決意して生まれた、ジャーナリストとそれを支持する市民の組織です。私たちはいま、安倍晋三元首相の「国葬」を日本政府が実施することに反対しています。「国葬」に法的な根拠がなく、市民に弔意を強制する行事であり、思想信条の自由など民主主義のルールに反するからです。
しかも安倍晋三元首相は、極右の反社会的団体である旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と濃密な関係にある人物でした。霊感商法などで人々を苦しめた旧統一教会。それに関係した政治家を国が多額の公費で顕彰することに、違和感を抱く人たちは数多くいます。私たちは以下の 4 点を世界の人たち、ならびに世界のジャーナリストに知っていただきたく、声明をまとめました。この声明は日本外国特派員協会、国境なき記者団ならびに関係する各国在日大使館あてに送るほか、在京の日本メディアにも送付します。
1:「国葬」は、明治憲法下において天皇の勅令「国葬令」に基づき実施されてきました。敗戦後、日本国憲法成立に伴い、「国葬令」は 1947 年に失効しました。現在、国葬を実施することにも、その経費を全額国費から支出することにも法的な根拠はありません。「国葬」は立憲主義に反します。
2:「国葬」の最大の問題は、国民に対して特定の個人に対する弔意を事実上強制することにあります。国費でまかなうため、国民は税負担も強制されます。法的根拠があいまいなまま行われた吉田茂元首相の国葬(1967 年)では、全国でサイレンが鳴らされ、娯楽番組の放送が中止されました。悪しき前例があります。
3:安倍元首相の政治は、日本国憲法を壊すことに力を注いだ約 9 年間でした。私たちの日本国憲法は、アジア太平洋地域で 2000 万人とも推計される犠牲者を出した日本の侵略戦争の反省から生まれました。同第9条は、国際紛争解決のための「戦争を放棄」し、「陸海空軍その他の戦力」の不保持と、「交戦権」の否定を定めています。この平和路線を捨てて、憲法条文の勝手な解釈によって集団的自衛権の行使を法制化し、アジアや中東で米国と一緒に「戦争ができる国」へと変容させたのが安倍元首相です。米国との「核共有」にも言及するような、危険な道を開いた政治家の遺志を「国葬」を通じて持ち上げ、継承しようとする岸田政権に反対します。
4:安倍元首相の「国葬」については、日本国民の世論も否定的です。共同通信の調査では、国葬に賛成45.1%に対し、反対は53・3%、毎日新聞調査でも賛成30%に対し反対53%。読売新聞調査では国葬実施を「評価しない」が56%を占め、「評価する」38%を上回り、NHK調査も「評価しない」が50%で、「評価する」が36%です。世論は国葬実施を支持していません。
日本ジャーナリスト会議は、「国葬」が上記のような問題をはらんでいることを世界の人々に知ってほしいと願っています。各国政府には、民主主義のルールに反した「国葬」の実情を確認し、賢明な判断をされることを訴えます。
The Japan Congress of Journalists (JCJ) opposes the Japanese government’s decision to hold a state funeral for former Prime Minister Shinzo Abe. The JCJ was established in 1955 as an organization of journalists and citizens determined that media must never cooperate with any war effort.
The former prime minister had strong ties with the Unification Church, one of the antisocial organizations, presently known as the Family deration for World Peace and Unification. Many citizens in Japan are strongly opposed to the idea of honoring him through the use of public money.
Listed below are four points we would like to convey to the world.
1. In Japan of the past a State Funeral had been held based on “the state funeral decree” issued by the emperor. In 1947, after the defeat in World War II the “state funeral decree” was declared null and void. Today no legal basis to conduct a state funeral exists.
2. The biggest problem of a state funeral is to oblige people to hold a sense of mourning for a specific individual. The people are to be forced to shoulder the tax burden as well.
3. The politics by former Prime Minister Abe for nine years had been to destroy the Japanese Constitution. He abandoned the road of peace diplomacy, legalized the right of collective selfdefense through arbitrary legal interpretations, and altered Japan into “a nation which can fight a war” with America in Asia and the Middle East. We oppose the Kishida administration that praises and carries on such a dangerous desire through the holding of a state funeral.
4. Public opinion in Japan has been negative about a state funeral for Mr. Abe. According to the survey by Kyodo News Service, while 45.1% supported a state funeral, 53.3% were against it.
The survey by The Mainichi Shimbun showed that 30% favored the state funeral while 53% said they were against it. The survey by The Yomiuri Shimbun found 56% of the respondents said it is not appropriate, exceeding the 38% who said it is appropriate. According to the NHK survey, 50% of respondents said they "do not appreciate" and 36% said they "appreciate." Public opinion does not support the implementation of a state funeral.
We sincerely hope people of the world will understand that the planned state funeral for Abe has such problems. We call on the governments of other nations to understand that the funeral violates the rules of democracy and ask them to make a wise judgement.
しかも安倍晋三元首相は、極右の反社会的団体である旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と濃密な関係にある人物でした。霊感商法などで人々を苦しめた旧統一教会。それに関係した政治家を国が多額の公費で顕彰することに、違和感を抱く人たちは数多くいます。私たちは以下の 4 点を世界の人たち、ならびに世界のジャーナリストに知っていただきたく、声明をまとめました。この声明は日本外国特派員協会、国境なき記者団ならびに関係する各国在日大使館あてに送るほか、在京の日本メディアにも送付します。
1:「国葬」は、明治憲法下において天皇の勅令「国葬令」に基づき実施されてきました。敗戦後、日本国憲法成立に伴い、「国葬令」は 1947 年に失効しました。現在、国葬を実施することにも、その経費を全額国費から支出することにも法的な根拠はありません。「国葬」は立憲主義に反します。
2:「国葬」の最大の問題は、国民に対して特定の個人に対する弔意を事実上強制することにあります。国費でまかなうため、国民は税負担も強制されます。法的根拠があいまいなまま行われた吉田茂元首相の国葬(1967 年)では、全国でサイレンが鳴らされ、娯楽番組の放送が中止されました。悪しき前例があります。
3:安倍元首相の政治は、日本国憲法を壊すことに力を注いだ約 9 年間でした。私たちの日本国憲法は、アジア太平洋地域で 2000 万人とも推計される犠牲者を出した日本の侵略戦争の反省から生まれました。同第9条は、国際紛争解決のための「戦争を放棄」し、「陸海空軍その他の戦力」の不保持と、「交戦権」の否定を定めています。この平和路線を捨てて、憲法条文の勝手な解釈によって集団的自衛権の行使を法制化し、アジアや中東で米国と一緒に「戦争ができる国」へと変容させたのが安倍元首相です。米国との「核共有」にも言及するような、危険な道を開いた政治家の遺志を「国葬」を通じて持ち上げ、継承しようとする岸田政権に反対します。
4:安倍元首相の「国葬」については、日本国民の世論も否定的です。共同通信の調査では、国葬に賛成45.1%に対し、反対は53・3%、毎日新聞調査でも賛成30%に対し反対53%。読売新聞調査では国葬実施を「評価しない」が56%を占め、「評価する」38%を上回り、NHK調査も「評価しない」が50%で、「評価する」が36%です。世論は国葬実施を支持していません。
日本ジャーナリスト会議は、「国葬」が上記のような問題をはらんでいることを世界の人々に知ってほしいと願っています。各国政府には、民主主義のルールに反した「国葬」の実情を確認し、賢明な判断をされることを訴えます。
2022 年 9 月 12 日
日本ジャーナリスト会議(JCJ)
日本ジャーナリスト会議(JCJ)
We Oppose the State Funeral for Former Prime Minister An Appeal by the JCJ to the World
The Japan Congress of Journalists (JCJ) opposes the Japanese government’s decision to hold a state funeral for former Prime Minister Shinzo Abe. The JCJ was established in 1955 as an organization of journalists and citizens determined that media must never cooperate with any war effort.
The former prime minister had strong ties with the Unification Church, one of the antisocial organizations, presently known as the Family deration for World Peace and Unification. Many citizens in Japan are strongly opposed to the idea of honoring him through the use of public money.
Listed below are four points we would like to convey to the world.
1. In Japan of the past a State Funeral had been held based on “the state funeral decree” issued by the emperor. In 1947, after the defeat in World War II the “state funeral decree” was declared null and void. Today no legal basis to conduct a state funeral exists.
2. The biggest problem of a state funeral is to oblige people to hold a sense of mourning for a specific individual. The people are to be forced to shoulder the tax burden as well.
3. The politics by former Prime Minister Abe for nine years had been to destroy the Japanese Constitution. He abandoned the road of peace diplomacy, legalized the right of collective selfdefense through arbitrary legal interpretations, and altered Japan into “a nation which can fight a war” with America in Asia and the Middle East. We oppose the Kishida administration that praises and carries on such a dangerous desire through the holding of a state funeral.
4. Public opinion in Japan has been negative about a state funeral for Mr. Abe. According to the survey by Kyodo News Service, while 45.1% supported a state funeral, 53.3% were against it.
The survey by The Mainichi Shimbun showed that 30% favored the state funeral while 53% said they were against it. The survey by The Yomiuri Shimbun found 56% of the respondents said it is not appropriate, exceeding the 38% who said it is appropriate. According to the NHK survey, 50% of respondents said they "do not appreciate" and 36% said they "appreciate." Public opinion does not support the implementation of a state funeral.
We sincerely hope people of the world will understand that the planned state funeral for Abe has such problems. We call on the governments of other nations to understand that the funeral violates the rules of democracy and ask them to make a wise judgement.
Sept. 12, 2022
Japan Congress of Journalists (JCJ)
Japan Congress of Journalists (JCJ)
2022年09月13日
【オピニオン】大阪・夢洲 IR問う住民投票直接請求 維新与党の府議会は即日否決=幸田泉
大阪府市が誘致を目指すIR(カジノを含む統合型リゾート)を巡り、「カジノの是非を問う住民投票」を求めて「直接請求署名運動」が行われた。府内全域を対象とするこの運動は45年ぶり。3月25日〜5月25日の62日間で法定数(有権者の50分の1)を超える約20万筆の署名収集に成功し、住民自治を取り戻す大阪の市民運動は一回り強く大きくなった。
2020年に横浜市と和歌山市で同様の運動が行われたが、大阪ではカジノに反対する市民団体の間で「法定数に達しなければダメージが大きい」と見送られてきた。状況が変わったのは昨年末。IRの誘致場所である大阪湾の人工島「夢洲」(大阪市此花区)の軟弱地盤と土壌汚染の対策に、大阪市が788億円の公金を投入すると発表したのだ。吉村洋文・府知事と松井一郎・大阪市長は「IRは民間投資で税金は使わない」と説明していたにもかかわらずである。カジノ反対団体の一部の人々が「住民投票の直接請求しかない」と反対を押し切る形で立ち上がり、今年2月、「カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会」が結成された。
このような経緯のため、盤石の態勢で運動がスタートしたわけではない。政党間の歴史的な路線対立から、共産党や立憲民主党など政党色のある組織は協力に消極的。組織決定なしに個人が動き出し、いつの間にか自民党地方議員の後援会の人まで参加する運動に広がった。一人一人が自身の思いで行動した結果、イデオロギーはごちゃ混ぜの草の根20万の塊が出来上がったのだ。
署名総数は21万134筆。府内の各選挙管理委員会の審査で19万2773筆が有効とされ、法定数の14万6509筆を超えた。しかし、吉村知事は「住民投票は必要ない」との見解で、7月29日、召集された臨時府議会は即日採決で否決した。吉村知事は「大阪維新の会」代表、府議会は維新議員が過半数を占める。維新は大阪でこれまでの府政を完全否定して勢力を拡大したのに、与党になれば結局、独善的な態度で市民の声に耳を貸そうとはしない。
横浜市でも住民投票は市議会で否決されたが、署名運動団体は「カジノ反対の市長を誕生させる横浜市民の会」となり、2021年夏の市長選で見事に支援候補を当選させた。大阪でも来年春の知事、大阪市長のダブル選挙に向け、次のステップへの挑戦が始まっている。
幸田泉(フリージャーナリスト )
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
2020年に横浜市と和歌山市で同様の運動が行われたが、大阪ではカジノに反対する市民団体の間で「法定数に達しなければダメージが大きい」と見送られてきた。状況が変わったのは昨年末。IRの誘致場所である大阪湾の人工島「夢洲」(大阪市此花区)の軟弱地盤と土壌汚染の対策に、大阪市が788億円の公金を投入すると発表したのだ。吉村洋文・府知事と松井一郎・大阪市長は「IRは民間投資で税金は使わない」と説明していたにもかかわらずである。カジノ反対団体の一部の人々が「住民投票の直接請求しかない」と反対を押し切る形で立ち上がり、今年2月、「カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会」が結成された。
このような経緯のため、盤石の態勢で運動がスタートしたわけではない。政党間の歴史的な路線対立から、共産党や立憲民主党など政党色のある組織は協力に消極的。組織決定なしに個人が動き出し、いつの間にか自民党地方議員の後援会の人まで参加する運動に広がった。一人一人が自身の思いで行動した結果、イデオロギーはごちゃ混ぜの草の根20万の塊が出来上がったのだ。
署名総数は21万134筆。府内の各選挙管理委員会の審査で19万2773筆が有効とされ、法定数の14万6509筆を超えた。しかし、吉村知事は「住民投票は必要ない」との見解で、7月29日、召集された臨時府議会は即日採決で否決した。吉村知事は「大阪維新の会」代表、府議会は維新議員が過半数を占める。維新は大阪でこれまでの府政を完全否定して勢力を拡大したのに、与党になれば結局、独善的な態度で市民の声に耳を貸そうとはしない。
横浜市でも住民投票は市議会で否決されたが、署名運動団体は「カジノ反対の市長を誕生させる横浜市民の会」となり、2021年夏の市長選で見事に支援候補を当選させた。大阪でも来年春の知事、大阪市長のダブル選挙に向け、次のステップへの挑戦が始まっている。
幸田泉(フリージャーナリスト )
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
2022年09月12日
【沖縄リポート】敗けるわけにはいかない県知事選=浦島悦子
8月2日のペロシ米下院議長の訪台と、それに対抗する中国軍の「台湾封鎖」と称する空・海の軍事演習で、沖縄のきな臭さが一挙に強まった。
嘉手納基地周辺では、次々と飛び立つ戦闘機、電子偵察機、空中給油機などの騒音激化が住民の生活を脅かした。台湾を包囲する中国の軍事演習場は与那国漁民の漁場から約50キロ。4日には波照間島や与那国島近海に中国軍のミサイルが落下し、漁民らは一時操業自粛を余儀なくされた。玉城デニー知事は「県民が巻き込まれることのないよう」冷静な外交を求めた。
平和な島を求める県民の願いとますます逆行していく状況の中で、沖縄県知事選が迫っている(8月25日告示、9月11日投開票)。各市町村では議員とのダブル、首長選を含むトリプル選挙も多い。
今回知事選の最大の争点はやはり辺野古新基地建設問題だ。戦争の危機が迫る中で巨大な米軍新基地を造ることが、どんな未来を引き寄せるのかを県民にしっかり訴えていきたいと思う。
県知事選には、現在までに現職デニー知事を含め3人が立候補を表明している。前回知事選で敗れた自民党公認の佐喜眞淳氏は今回、新基地容認を明確にした。前回も立候補が取り沙汰され、自民党との調整で取り下げた下地幹郎氏が今回敢えて立候補したのは、参議院沖縄選挙区での敗北に危機感を持った自民党との裏取引があるのではないかと私は勘ぐっている。
25年以上も翻弄されてきた新基地問題に県民が疲れているのは否定できない。反対しても埋め立てが止まらない現実に「あきらめ」感を持つ人も増えている。「辺野古を終わらせる」「軟弱地盤は埋め立てさせない。既に埋め立てられた場所や馬毛島を活用する」という下地氏の主張(実際には実現困難だが)に活路を見出す人もいるだろう。そうして、これまでの辺野古反対世論を分断=デニー票を減らし、結果的に佐喜眞氏(旧統一教会との関係も明らかになった)勝利を目論んでいるのではないか? 敗けるわけにはいかない‼
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
2022年09月11日
【今週の風考計】9.11─巧妙な「軍事費・倍増11兆円」計画に要警戒!
危ない!<安保3文書>の改定
◆「国葬」強行で支持率が急低落する岸田首相、その陰で<安保3文書>の改定に向け、有識者会議を急ぎ、年末には方向づけしたいと躍起になっている。国家安全保障戦略・防衛計画大綱・中期防衛力整備計画の3点セットで改訂しようというのだ。
◆この間の討議要旨が公表されたが、「敵基地攻撃能力」の保有、GDP比2%の目標を「5〜10年で達成」など、自民党の要求をバックアップする意見が目立つ。3文書の改定により、防衛政策が抜本的に変われば、日本は「憲法」改定の手続きなど抜きにして、「戦争ができる国」になってしまう。ああ恐ろしい。
過去最大の軍事費5兆6千億
◆8月末には国の2023年度予算に関わる各省の概算要求が出そろった。要求総額110兆円超、なかでも防衛費、いや軍事費は過去最大の5兆5947億円にのぼる。
概算すら示さない「事項要求」を認めたのは岸田首相だが、さっそく防衛省は、調達する兵器などの単価は一切示さない「事項要求」を並べてきた。最終的な予算額は6兆5千億円まで膨らむという。
◆まさに「どんぶり勘定」の軍事予算だ。年明けの通常国会で野党などが各項目の金額について説明を求めても、その時の経済情勢次第と、のらりくらりの答弁がまかり通るのは必定だ。
◆予算の明瞭性、厳密性、事前決定の原則が否定され、内閣や行政の自由裁量の幅が広がり、議会による予算審議は形式だけ、行政府を統制・監視するのが困難になってしまう。こうした手法で毎年1兆円ずつ増やしていけば、5年後には約11兆円、「対GDP比2%以上」が実現してしまう。巧妙な仕掛けに他ならない。
まさに臨戦を想定した武器調達
◆恐ろしいのは「敵基地攻撃能力」を拡充する中身だ。スタンド・オフ防衛能力、総合ミサイル防空能力、無人アセット防衛能力、領域横断作戦能力、指揮統制・情報関連機能、機動展開能力、持続性・強靭性等に必要な取組─これら7項目に及ぶ。
◆まず「スタンド・オフ防衛能力」の強化とは、敵の射程圏外から攻撃できる射程1000キロを超える地上発射型ミサイルの量産をいう。迎撃が困難な音速の5倍以上で飛ぶ誘導弾の研究も始まる。
「総合ミサイル防空能力」の拡充に向け、迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替となるイージス・システムを搭載した戦艦の能力を拡張する。「無人アセット防衛能力」は空中・水上・海中で使う無人兵器を指し、そのために戦闘用無人機「UAV」や水中の敷設機雷を除去する「無人機雷排除システム」などを購入する。
◆これらの費用は、どこから捻出するのか。国債などと軽く言うな! いま日本の国債残高は1026兆円、短期の借入金を含めれば「国の借金」は1225兆円まで膨らむ。赤ちゃんからお年寄りまで国民1人当たり1千万円の借金が背負わされているのだ。
財政規律を度外視した国債を発行して、「軍事費」を捻出すれば、どんな悲劇が生まれたか、あのアジア太平洋戦争の結末を思い起すべきだ。(2022/9/11)
◆「国葬」強行で支持率が急低落する岸田首相、その陰で<安保3文書>の改定に向け、有識者会議を急ぎ、年末には方向づけしたいと躍起になっている。国家安全保障戦略・防衛計画大綱・中期防衛力整備計画の3点セットで改訂しようというのだ。
◆この間の討議要旨が公表されたが、「敵基地攻撃能力」の保有、GDP比2%の目標を「5〜10年で達成」など、自民党の要求をバックアップする意見が目立つ。3文書の改定により、防衛政策が抜本的に変われば、日本は「憲法」改定の手続きなど抜きにして、「戦争ができる国」になってしまう。ああ恐ろしい。
過去最大の軍事費5兆6千億
◆8月末には国の2023年度予算に関わる各省の概算要求が出そろった。要求総額110兆円超、なかでも防衛費、いや軍事費は過去最大の5兆5947億円にのぼる。
概算すら示さない「事項要求」を認めたのは岸田首相だが、さっそく防衛省は、調達する兵器などの単価は一切示さない「事項要求」を並べてきた。最終的な予算額は6兆5千億円まで膨らむという。
◆まさに「どんぶり勘定」の軍事予算だ。年明けの通常国会で野党などが各項目の金額について説明を求めても、その時の経済情勢次第と、のらりくらりの答弁がまかり通るのは必定だ。
◆予算の明瞭性、厳密性、事前決定の原則が否定され、内閣や行政の自由裁量の幅が広がり、議会による予算審議は形式だけ、行政府を統制・監視するのが困難になってしまう。こうした手法で毎年1兆円ずつ増やしていけば、5年後には約11兆円、「対GDP比2%以上」が実現してしまう。巧妙な仕掛けに他ならない。
まさに臨戦を想定した武器調達
◆恐ろしいのは「敵基地攻撃能力」を拡充する中身だ。スタンド・オフ防衛能力、総合ミサイル防空能力、無人アセット防衛能力、領域横断作戦能力、指揮統制・情報関連機能、機動展開能力、持続性・強靭性等に必要な取組─これら7項目に及ぶ。
◆まず「スタンド・オフ防衛能力」の強化とは、敵の射程圏外から攻撃できる射程1000キロを超える地上発射型ミサイルの量産をいう。迎撃が困難な音速の5倍以上で飛ぶ誘導弾の研究も始まる。
「総合ミサイル防空能力」の拡充に向け、迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替となるイージス・システムを搭載した戦艦の能力を拡張する。「無人アセット防衛能力」は空中・水上・海中で使う無人兵器を指し、そのために戦闘用無人機「UAV」や水中の敷設機雷を除去する「無人機雷排除システム」などを購入する。
◆これらの費用は、どこから捻出するのか。国債などと軽く言うな! いま日本の国債残高は1026兆円、短期の借入金を含めれば「国の借金」は1225兆円まで膨らむ。赤ちゃんからお年寄りまで国民1人当たり1千万円の借金が背負わされているのだ。
財政規律を度外視した国債を発行して、「軍事費」を捻出すれば、どんな悲劇が生まれたか、あのアジア太平洋戦争の結末を思い起すべきだ。(2022/9/11)