2022年12月31日

【オンライン講演】沖縄にとって日本とは 復帰50年 JCJ沖縄がシンポ企画を開催

 10月29日、JCJ沖縄の企画でJCJオンラインシンポ「復帰50年 沖縄のいま・これから 沖縄にとって日本とは何か/ジャーナリズムは何をすべきか」が開催された。1994年から約10年間、沖縄に居住していた作家の池澤夏樹氏(写真下)の基調提言を受けて、JCJ沖縄のメンバーの金城正洋(ジャーナリスト)、黒島美奈子(沖縄タイムス論説副委員長)、米倉外昭(琉球新報論説委員)の3氏が発言した。
 質疑応答では、教育の場で古典を含む沖縄の文学をどう活用するかなどが議論された。池澤氏からは、沖縄の文化を世界に発信するサイト「あまくま琉球」のアピールもあった。
沖縄シンポ・基調提言をする池澤夏樹さん.png


日本にも中国にもノーを=池澤夏樹さん
 沖縄でも日本でも世界でも、ジャーナリズムにとって大切なこと、それは分断だ。どこの国でも世論が二つに分かれてにらみ合う。理由は簡 単。SNSだ。それを前提としないとジャーナリズムの足元がすくわれかねない。
 その上で、沖縄のことだ。沖縄は中国と日本の間にあり、薩摩に搾取され、第二次世界大戦で地上戦になった。沖縄人はそれを忘れていない。
 ヤマト(本土)の人たちからすれば、沖縄は米軍基地を置くのに都合がいい。第二次大戦でも役に立った「都合のいい島」。沖縄には、これに対する根源的な憤りの念がある。
 沖縄の地理的条件をどう使うか。一番いいのは観光だ。東アジアの航空路のハブにもできたはずだ。また、情報産業なら地理的ハンディキャップがない。そういう豊かな未来図が描けると思う。
 辺野古新基地に反対してきた。軟弱地盤は何万本杭を打っても沈下する。しかし、日本政府は自縄自縛で動けなくなっている。やめようと言える人がいない。
 ただ、分断していてどっちも硬直化している。その場その場で新鮮な切り口を出してアピールしていかないといけない。冷たい人たち、無関心な人たちにどうやったら伝わるか工夫していかなければならない。
 東京の政府は、しっぽを振ったら餌をやるよという、犬に対するような姿勢だ。沖縄はかつて、所得は最下位だけど、数字とは別の暮らしの豊かさがあった。それも思い出しておくべきだと思う。
 「台湾有事」で臨戦態勢になりつつある。国防は国の専管事項と言うが、同じ論法で沖縄戦が起きた。ノーという言葉を日本に対して、中国に対しても、突きつけてほしい。

自衛隊の南西展開に危ぐ=金城正洋さん
 ロシアによるウクライナ戦争は、大国が隣国に侵攻してくるという現実を見せつけた。そうした中で「台湾有事」をあおる動きが出ている。
 南西諸島に自衛隊を配備し、有事の際にはそこで戦う。島々の住民を避難させるためにシェルター建設も出てきたが、それは現実的と言えるのか。
 台湾が戦場になれば住民たちは近い先島諸島に避難してくることが考えられる。人口2300万人の台湾から、八重山・宮古島あわせて11万人の島々に避難してきた時、受け入れることができるのか。台湾有事の発想には、そういう現実的な問題への視点が抜け落ちているのではないか。
 この間、日本の外交力のなさが目に余る。その結果「防衛力強化」という名ばかりの政策が突出していると危ぐする。
 自衛隊の南西諸島への配備は、局地的な戦争を見据えたものだ。「沖縄だから、先島だからいいんじゃないか」という発想が本土側にあるのではないか。
 復帰50年の今、沖縄が再び戦場となる危機感が高まっている。

「ねじれ」で構図見えにくく=黒島美奈子さん
 直近のニュースを中心に、復帰50年の今の沖縄について考えたい。
 「選挙イヤー」の最後を締めくくった那覇市長選は、自公が推薦する知念覚氏が、オール沖縄が推す翁長雄治氏を破った。前回と前々回オール沖縄の支援で当選した城間幹子市長が、知念氏の支援に回る「ねじれ」の中の選挙。「自公対オール沖縄」の構図は見えづらくなり低投票率の要因にもなった。
 これまでオール沖縄の勝利の背景にあったのは若者と無党派層の存在だ。しかし那覇市をはじめ今年の七つの首長選での敗北からは、それらが失われたことが分かる。
 一方、名護市辺野古の新基地建設反対の民意は健在で、今後は新たな受け皿が必要だろう。
 新基地建設への抗議活動を「座り込み抗議」と表現することに異論を呈したひろゆき氏の行動は、「嘲笑」という新たな形のヘイトを私たちに見せた。
 これまでと異なるのは意図が巧妙に隠されている点で、ひろゆき氏を擁護する人も多い。複雑化するヘイトへの向き合い方が問われている。

戦争阻止報道に覚悟必要=米倉外昭さん
 沖縄が今、取り組むべきこととして指摘されてきたことを三つ挙げたい。
 ひとつは、沖縄振興法による国の予算の一括計上方式をやめること。二つ目が、琉球・沖縄史と、しまくとぅば(沖縄語)を学校教育の中に位置づけること。
 三つ目が、戦争をさせないために沖縄県が自治体外交に本格的に取り組むことだ。
 沖縄のメディアがやるべきこととして個人的に考えていることを述べたい。沖縄の自己決定権確立と戦争阻止のために、これまで以上に踏み込んだ報道・論説を展開しなければならない。特に新聞は経営が厳しくなっている。基地反対の世論も、10年待たずに少数派になるかもしれない。それでも戦争阻止の報道を貫くという覚悟が必要になっていると思う。ネット対応を含め、若い世代に届く、本土に届く報道に挑み続けるしかない。
 今年の慰霊の日に向けて「平和の礎」に刻まれた名前を全てリレーで読み上げる取り組みが大成功した。来年もやるという。まだまだできることがある。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号

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2022年12月30日

【声明】JCJ広島支部 違憲の「安保3文書」の閣議決定に抗議し白紙撤回を求めます  

 岸田文雄首相率いる政府は12月16日、今後の外交・防衛政策の指針となる「国家安全保障戦略」及び「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の「安保関連3文書」を閣議決定しました。これには「敵基地攻撃能力」の保有が明記されており、それを「反撃能力」と言い換えたところで、国際法の禁じる「先制攻撃」になる危険性を消し去るものではなく、戦後日本の国是として堅持してきた憲法9条に基づく「専守防衛」から逸脱するものと言わざるを得ません。
 加えて、その費用を含む今後5年間の防衛費を総額43兆円と現行計画の1.5倍以上に増額し、財源を法人、所得、たばこの3税の増税で賄うとして、東日本大震災からの復興に使うための復興特別所得税の流用まで盛り込んだばかりか、戦時国債の発行で軍事費を担保し戦争の遂行に繋がった教訓から戦後は“禁じ手”とされてきた防衛費に充てる国債発行にも手を付けるなどというのは、コロナ禍や物価高騰に苦しむ国民の生活をさらに圧迫するもので到底看過できません。

 岸田首相自身が言うように、まさに「戦後の安全保障政策の大転換」です。それが国民的議論はおろか、国会での審議もないまま、一片の閣議決定で実行に移されてよいのでしょうか。衆院広島1区選出の首相の地元紙、中国新聞は17日付の社説で「平和憲法をゆがめるな」と題し、「国民の理解と合意を欠いたまま防衛力強化に突き進むことは許されない。平和国家の岐路である。まずは国会で徹底的に議論するべきだ」と説きました。
 他の地方各紙からも厳しい批判の社説掲載が相次ぎました。全国紙も、例えば朝日新聞は「首相は会見で、防衛力強化は『国民の協力と理解』なしには達成できないと述べた。ならば、来年の通常国会を始めとする開かれた場で、自分の言葉で説明を尽くし、必要な見直しを躊躇すべきではない」、毎日新聞は「平和国家としてのあり方をなし崩しに変え、負担を強いる。それでは、新たな安保戦略に対する国民の理解は得られまい」と指摘しています。

 多くの有識者からも疑問や批判の声が上がっています。そのうち、憲法や国際政治学者、ジャーナリスト、市民団体代表らでつくる「平和構想提言会議」(共同座長=青井未帆・学習院大教授、川崎哲・ピースボート共同代表)は、政府の安保戦略への対論としてまとめた提言「戦争ではなく平和の準備を―“抑止力”で戦争は防げない―」の中で、こう述べています。
 「政府・与党は『抑止力を高める』とするが、実際には戦争のリスクを高める。北朝鮮の核ミサイル開発、中国の軍備増強や海洋進出は重大な問題だが、日本の対応策が軍備増強や攻撃態勢強化ばかりなら、平和的解決は遠のく一方だ。今日の軍事的緊張がエスカレートすれば、戦争は現実となる。東アジアにおける戦争は世界の経済、食料、環境に壊滅的な影響をもたらす。軍事的な『勝利』の想定に意味はない。軍事力中心主義や『抑止力』至上主義は極めて短絡的で危険だ。抑止力は、武力による威嚇に限りなく近い概念。安保論議の中心に据えられている状況は憂慮すべきだ。持続可能な安保のため、抑止力の限界を認識し『抑止力神話』から脱却しなければならない」と。
 岸田首相にはぜひ重く受け止めてほしい提言です。

 私たちの所属する日本ジャーナリスト会議(JCJ)は戦後、「再び戦争のためにペン、マイク、カメラを取らない」と誓って創設したものです。とりわけ被爆地ヒロシマで活動する私たちは、戦争と平和、被爆者や核兵器をめぐる問題には常に重大な関心を抱き、意見表明や論考の掲出、情報の発信などに努めてきました。それだけに、今回の安保3文書の閣議決定は内容においても手続きにおいても平和憲法を踏みにじるものであり、断じて容認できません。再びこの国をあの戦争の惨禍をもたらす道へと向かわせる岸田内閣の愚挙に抗議し、白紙撤回を求めます。

 2022年12月26日
       
日本ジャーナリスト会議(JCJ)広島支部

なお 広島支部は声明を出した翌27日に岸田首相の広島事務所に声明文を届け、地元秘書に対し岸田首相が当該3文書について再考し、当地の有権者、とりわけ被爆者の願いに応える賢明な判断をするよう強く要請し、その旨首相に伝えるよう申し入れました。
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2022年12月29日

【おすすめ本】鈴木エイト『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』―大手メディアはなぜ目を背けた 重い課題を突き付ける一冊=藤倉善郎(ジャーナリスト)

 官房長官だった安倍晋三元首相が統一教会関連イベントへの祝電で批判されたのは、小泉政権時代の2006年。以降、統一教会と政治家の関わりが一般メディアで報道される場面は激減した。
 そんな中、09年創刊のウェブメディア『やや日刊カルト新聞』で統一教会問題の取材・報道活動を始めたのが、本書の著者、鈴木エイト氏だ。

 政界方面の取材を本格させる転機となったのは、第二次安倍政権発足後。13年参院選で、鈴木氏は首相官邸と統一教会の裏取引を示す文書を入手する。以降、政治家と統一教会や関連団体との接触情報を得てはイベントに足を運び、関係者に話を聞き、議員自身にも接触して事実確認を試みる。取材を拒まれたり、時には警察を呼ばれたことも。

 取材成果は、やや日刊カルト新聞のほか、扶桑社の『ハーバー・ビジネス・オンライン』(すでに新規記事の配信は停止)でも連載。それが本書のベースになっている。
 鈴木氏の記事は、自民党に批判的な左派やリベラル方面からの評価が高かった。しかし自身は自民党に限らず立憲民主党などの野党議員も別け隔てなく取材して記事にした。結果的に、統一教会と接点を持つ議員の数が圧倒的に多かったのが自民党だった。

 本書は、安倍氏暗殺から3カ月足らず、国葬前日の発売というスピード出版。それでいて、精密なデータやエピソードで満ち溢れている。大手メディアが取り上げないテーマを9年にもわたり取材し蓄積してきた結果だ。
 自民党の問題だけではない。長年、これほどの問題から大手メディアが目を背け続けてきたという現実も、私たちに突きつけてくる。ジャーナリズムが保つ本来の役割やその力を思い知らされる一冊だ。(小学館1600円)藤倉善郎・ジャーナリスト
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2022年12月27日

【オンライン講演視聴後記】3者が恐ろしい人権侵害をつくり出す=橋詰雅博

 『ルポ・収容所列島』(東洋経済新報社)を共著した風間、井艸、辻の3氏によるオンライン講演は、精神医療という医学分野を通じて日本社会の歪みの構図が図らずも明るみに出た。
 自分を守ってくれているはずの家族が後ろで糸を引く。こっそりと民間の「精神科移送業」に依頼し、身内を強引に精神科病院に収容させる。家族と示し合わせている病院の医師は、ロクに本人の説明を聞かずに統合失調症の疑いがあると診断し「医療保護入院」という名の下で拘束する。病院は病床を埋めることで経営を安定させる。精神的に回復しているにもかかわらず退院させないのはそのせいもある。行政も一役買う。「問題な人」を地域から追っ払えばなにより安心だ。
 講演で出なかったが、本には詳しく書かれている。自治体職員と精神科移送業者がタッグを組んで子どもを児童相談所に一時保護するという名目でシングルマザーを精神科病院に送り込んだのである。車内で病院に連れていくと告げられたその女性は子どもの一時保護をめぐり市の職員と言い合いをした際の職員の言葉を思いだした。「これ以上苦情ばっかり言っていると、精神科病院に連れていかれちゃうよ。上司からは『もうやっちゃえ』と言われている。いきなりアポなしでピンポーンって来て、ワゴン車に乗せられて連れていかれちゃうよ」―。
 家族、病院、行政の3者の利害一致が恐ろしい人権侵害を生み出している。
こうしたことが平然と行われることを長年許してきた社会の責任も重大だ。他人事ではないと知る人が増えれば、期待が先行してしまうが歪みの改善は少しでも進むのではないか。そうなってほしいと強く思う。
 橋詰雅博
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2022年12月26日

【オンライン講演】JCJ賞『ルポ・収容所列島』共著の3人が語る  精神医療、収容促す歪み 医療保護入院が問題 風間氏 行政,精神病院を利用 井艸氏 家族が悪用するケース 辻氏=橋詰雅博

                            
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 2022年度JCJ賞を受賞した『ルポ・収容所列島』(東洋経済新報社)の筆者、『週刊東洋経済』編集長の風間直樹(写真上)、東洋経済記者の井艸恵美(中央)、調査報道に特化したNPO法人「Tansa」リポーターの辻麻梨子()の3氏が11月9日JCJオンライン講演会に出演した。日本の精神医療の異常さを語り、多くの視聴者に衝撃を与えた。

女性の手紙で動く

 19年1月編集局内に立ち上がった調査報道部が取材しウエブメディア『東洋経済オンライン』に記事を連載したものをベースにこの本はまとめられた。取材に約3年かけた精神医療の実態に踏み込むきっかけは、編集局に届いた精神科病院に4年近く入院する女性からの手紙だった。この手紙を読んだ2人の女性記者の感想はこうだ。
井艸氏「手紙は文字が丁寧で、書かれた内容も緻密でした。治療は行われていないようで、なぜ長らく精神科病院に入院しているのか不思議に思いました。手紙以外は外部とコンタクトを取れない状態で、受刑者よりも強制されていることに驚いた」、辻氏「旧優生保護法(1948年から96年まで施行)のもとで、精神障害や遺伝子疾患があると決めつけられた方が強制避妊させられた出来事がありました。厄介払いみたいな形で手術されたのですが、これと強制入院は構図が似ています」
 風間さんは彼女と何回か手紙をやり取りした。井艸さんが知り合った精神科患者の支援に熱心な弁護士を介して病院と交渉した結果、退院半年前にようやく面談できた。彼女と会った井艸さんは「面談の部屋は狭い個室。その奥に病棟があり、医師や看護師がいるのだろうと想像しましたが、周りの状況は全く見えません。イメージ通り閉鎖的な空間でした」と話した。単科の精神科病院に入ったのは初めてという風間氏は「最寄りの駅からタクシーで20分ほどの病院は、外来の人の気配がなく、山の中にある。これでは外の目が入る機会がないと思った」という。
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本人の意思無関係

 彼女がなかなか退院できなかった背景に「精神科特有の医療保護入院制度という大きな問題がある」と風間氏は指摘する。この制度について井艸氏は「家族一人の同意と医師の診断があれば、本人の意思とは無関係に人を簡単に精神科病院に入院させることができます。いつ自分の身に起きてもおかしくない」と説明した。辻氏も「本人の意思よりも家族の意思が尊重されるのが非常に問題だと思います。その人を一番理解しているのが本当に家族かと疑問に思う。身内というつながりによって利用されやすい制度です」とその危険さを語った。
 実際、「離婚裁判を有利に運ぶためや財産・子どもの親権目当てに悪用するケースがある」と風間氏は言う。
 精神医療問題では「精神科移送業」という業種が浮かび上がった。民間会社の男たちがある日突然、自宅に上がり込んで人を強制的に精神科病院に連れていく。風間さんは最初それを聞いたとき、都市伝説とかSFの世界のような架空な話ではないかと思ったそうだが、本当の話だった。

民間移送業の実態

風間氏が言う。
 「警備会社がやっている裏仕事≠フようなもので民間救急業と称している。内容が詳しく書かれたパンフレットが精神科病院の受付カウンターに置かれています。4人組とかの警察官OBが本人を羽交い絞めにして強引にワゴン車に連れ込む。5、6時間もかけて遠くの病院に連れていかれるケースもあった。依頼した家族は事前に入院先の医師と話をつけている。家族からの情報がインプットされている医師にいくら本人が説明しても相手にしてもらえず入院に。人権侵害の最たるものではないでしょうか」。依頼主が精神科移送業者に支払うお金は20万円以上が相場だ。
 井艸さんは病院内などでの薬漬けの弊害や児童養護施設・学校で発達障害と診断された子どもたちを落ち着かせるという名目で向神経薬の服用が増加している問題も報告した。
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自治体の判断次第

 精神科病院も行政機関も精神医療の情報開示に後ろ向きだと3氏とも指摘した。とりわけ情報公開の取材に取り組んだ辻氏は「東京精神科病院に加盟する63病院のホームページを調べたところ、医師、看護師の内訳や患者の治療状況が分かるデータを公開していたのはわずか6病院でした。公開していても最低限の情報です」と述べた。全国の精神科病院の現状がわかる唯一の資料は、厚生労働省が都道府県を通じて実施する精神保健福祉調査だ。毎年6月30日の時点での実態を把握するので通称「630(ロクサンマル)調査」と呼ばれる。ところが17年度と18年度の調査が個人情報の保護などの理由で非開示や一部開示だけの自治体があった。私立の精神科病院団体の日本精神科病院協会(日精協)による「圧力」と言われている。19年度以降でも開示を拒む自治体も。その一例はさいたま市だ。「埼玉県は情報開示しているのにさいたま市は一面黒塗り、いわゆるのり弁¥態の資料です。開示できない理由を尋ねても『そう判断した』と答えるだけです。開示するかしないかは自治体の判断、バラつきがあります」(辻氏)
  また井艸氏は「自治体は連携する精神科病院を利用して地域で支えられない面倒な人を入れています。病院だけが悪者ではなく、社会全体にそれを許すムードがあります。もちろん行政側の姿勢も厳しく問われるべきです」と行政と病院の密接な関係に触れた。

「保健所が困る」

精神科医療の総本山である日精協の山崎學会長は、厚労省は言うに及ばず自治体にも強い影響力を持つ。21年7月に放映されたNHKのETV特集「ドキュメント精神病院×新型コロナ」番組内で、山崎会長はこんな発言をしている。
 「精神科医療っていうのは、医療を提供しているだけじゃなくて社会の秩序を担保しているんですよ」「町で暴れている人とか、そういう人を全部ちゃんと引き受けている」「こっちは保安までも全部やっているわけでしょう。(入院を)断ったらどこもとらないし、警察と保健所が困るだけ」
 この山崎会長のコメントについて風間氏は「行政に対する脅しです。保安も担う精神科医療の診療報酬の点数を減らすなど我々に不利なことすると、入院断ります、一番困るのは警察や保健所、わかっていますよね、自治体さんと暗に言っている」と解説した。
 住民にも問題がある。精神科病院の退院者の中には普通の生活ができるグループホームに入る人もいる。この施設を作ろうとすると、危険視するのか反対の声を挙げて施設計画を潰す運動を行う住民もいる。
 風間氏は「結局、収容を容認する日本社会に根深い問題がある」と言い切った。
  橋詰雅博
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号

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2022年12月25日

【今週の風考計】12.25─年納めに推奨のミステリ1冊と心癒されるCD1枚

キナ臭さが募る世界と日本
2月24日、突然ロシアはウクライナに侵攻し、「ウクライナ戦争」が勃発した。以降、ウクライナ市民の犠牲は増え続けている。しかもここにきてロシアは、ヨーロッパ北部を襲う寒波「冬将軍」を利用し、ウクライナの電源施設を爆撃し市民を酷寒の生活に陥れる、許しがたい作戦に血道を挙げている。この10カ月、ロシアの非道な侵攻に、世界中の人々が非難の声を挙げ救援に力を注いでいる。
日本では、この12月16日、「憲法9条」を骨抜きにする「安保3文書」を閣議決定し、5年間で42兆円、2027年以降は「GDP比2%」の防衛費を計上する。容認した「敵基地攻撃能力の保持」は、「先制攻撃」につながりかねない。
 さっそく沖縄・石垣島の市議会が、「敵基地攻撃の最前線になりかねず、ミサイル配備に反対する意見書」を採択した。中国や北朝鮮の脅威を必要以上に煽り、アジア周辺諸国の緊張や不安を加速させている。
今年2022年を象徴する漢字は「戦」とされたが、まさに「戦争」のキナ臭さが一段と強くなった。いま日本は岐路に立つ。
 改めて私たちのプロテストや抗う気概が問われていることを自覚しつつ、年納めに推奨のミステリ1冊と心が癒されるCD1枚を紹介したい。

感動する『真珠湾の冬』
まず1冊はジェイムズ・ケストレル/山中朝晶訳『真珠湾の冬』(ハヤカワ・ミステリ)である。
 1941年、ハワイで白人男性と日本人女性の惨殺事件が起きた。地元ホノルル署の刑事マグレディが犯人を追う。その追跡先の香港で、12月8日、日本軍がハワイ・オアフ島の真珠湾を先制攻撃、太平洋戦争に突入したのを知る。
 だが彼は香港で日本兵に捕らえられ東京へ移送されてしまう。そこで運命の人物と出会い、ともに東京大空襲の焼け野原と死が渦巻くなかをさまよう。日本の敗戦を機に帰国するが、あらぬ罪で免職となり、独り再追跡の旅を始め、香港や上海で思わぬ真相をつかむ。
 そして<5回目の12月>、たどり着いた日本の野沢温泉、そこに待ち受けたロマンスあふれるラストシーンが胸にしみる。
しかも、このミステリは「人間の運命」を描く大河ドラマであり、また「戦争と平和」を問う歴史小説でもある。反ファシズムに基づく国際的なエスピオナージの色合いもある、稀有なミステリだ。読み始めたらページをめくる手が忙しくなること間違いない。エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)最優秀長篇賞受賞の大作。この年末年始に「おすすめの1冊」。

528ヘルツの「INORI」
もう1枚はCD、エイコン・ヒビノ「INORI」(TECL-1002)である。この16日にコンサートも開かれた。作曲家でピアニストのエイコン・ヒビノが528ヘルツに調律したピアノと琵琶や三線・二胡などの楽器と共に奏でる11曲が収録されている。同周波数の音楽は癒やしの効果がある。
 同アルバムのタイトル曲「INORI」は、音楽の力で幸せな社会になるよう祈る気持ちを込め、奈良・天河大辨財天社に奉納されている。また最終曲「古への架け橋」も二胡の響きを添えオーケストラ編成にアレンジした曲で、奈良・薬師寺に奉納されている。
この2曲に加え、筆者には奇数に当たる収録曲がいい。琵琶が奏でる調べを取り入れた「あわうみのうた」、丹波の奥にあるミツマタの里を思い浮かべた「みつまたの詩」、ジョン・レノンが感銘を受けたネパールの音による「FIESTA」などだ。
 いま部屋に響いているが、どこかで聴いたような淡いメロディのイントロに始まり、琵琶や三線・二胡などの楽器がシンクロして主題を盛りあげる。もうエイコン・ヒビノの作りあげる音空間に、知らぬ間に引き込まれている。ここに文章を綴るキーの運びも滑らかになる。癒しの曲、ありがとう。そして皆さん、良いお年をお迎えください。(2022/12/25)
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2022年12月24日

【オピニオン】軍拡の大前提=「脅威」は本当に存在するのか―いまメディアが真っ先に問うべきことは── 梅田正己(歴史研究者・JCJ会員)

日本の防衛費をGDP2%へ一挙倍増すべきだという安倍元首相の遺言≠ェいつの間にか既成事実化されて、いまや自民党内では増税を含む財源問題が中心議題となっている。マスメディアの報道や論調も、防衛力の強化を前提としたものとなっている。たとえば安保政策を大転換した閣議決定翌日の12月17日の朝日新聞の社説はこう書き出されていた。
「日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているのは事実で、着実な防衛力の整備が必要なことは理解できる。」
 この認識は今回の政府の「国家安全保障戦略」の大前提となる情勢認識と共通している。同「戦略」にもこう書かれていた。「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。」
 しかし、本当にそうなのだろうか。いまこの国は、安保政策を大転換し、防衛費を一挙に倍増し、防衛力を飛躍的に増強しなければならないような危機的状況に直面しているのだろうか。事実にそくして状況を観察・点検し、この国がはたして「戦後最大の軍事的危機」に直面しているのかどうか、政府の主張を検証してみる必要がある。政府の「国家安全保障戦略」で具体的に示されている「脅威」とは、次の3つである。

1)中国の動向――「我が国と国際社会の深刻な懸念事項で、これまでにない最大の戦略的な挑戦」
2)北朝鮮の動向――「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」
3)ロシアの動向――「ウクライナ侵略によって国際秩序の根幹を揺るがし、中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念」

 こうした脅威・懸念への対抗措置として、政府は敵基地攻撃能力をふくむ戦後最大の防衛戦略の大転換、軍備の大増強を実行するというのである。しかし本当にこうした脅威が実在するのだろうか。

◆ロシアは本当に「脅威」なのか
 まずウクライナ侵攻によって、戦争の悲惨さを私たちに伝え、震撼させたプーチンのロシアから考えてみよう。ロシアが実際に日本にも侵攻してくるような脅威となる存在なのか――。
 現代世界においては、どんな国であっても、何の理由もなしに他国に侵攻するということはあり得ない。
 今回のウクライナ侵攻も、基本的にはプーチンの大スラブ主義(大ロシア主義)の野望が生み出したものであり、ロシア語を話す人々がロシアと国境を接するウクライナ東南部に住んでいることを口実として実行された。またロシアによる過去の侵略行為も、フィンランドをはじめバルト3国、ポーランドなどすべて国境線を踏み破って行われた。
 それに対し、日本は海によってロシアと隔てられている。またロシアが日本と敵対する理由も事情もない。過去の冷戦時代には、宗谷海峡を渡ってソ連が攻めてくるという話が喧伝され、そのため自衛隊は持てる戦車の半数を北海道に配備したが、やがて冷戦が終わり、軍事的な見地からもそんな作戦行動はあり得ないことが暴露され、日米合作のフィクションだったとして抹消された。
 いかにプーチンといえども、ロシアが日本に侵攻する理由も口実もないのである。「ロシアによる軍事侵攻の脅威」は現実にはまったく成りたたない。 

◆北朝鮮は本当に「脅威」なのか
 次に北朝鮮による「脅威」についてはどうか。その根拠とされるのは、北朝鮮による相次ぐミサイル発射である。とくに日本列島を飛び越す長射程のミサイルが、四半世紀前のテポドン以来、日本に対する脅威として喧伝されてきた。たとえば10月4日朝、日本列島を越え、太平洋はるか沖の東方海上に落下したミサイルは、「Jアラート」によりテレビ放送を1時間近く中断させて国民を不安がらせた。
 しかし、「火星17号」と推測されるそのミサイルは、人工衛星よりもなお高い宇宙空間を平均マッハ4の速さで飛び去ったのであり、「Jアラート」などとはおよそ次元を異にする飛行物体だった。ではなぜ、北朝鮮はミサイル発射実験に固執するのか。理由は、米大陸に到達するICBM(大陸間弾道ミサイル)を完成させたいからである。
 北朝鮮は、米国とはいまなお潜在的交戦状態にある。なぜなら70年前に金日成と米軍の司令官とが調印したのは休戦条約であって、平和条約ではないからである。潜在的交戦状態にあるからこそ、米国は韓国に広大な空軍と陸軍の基地を配置し、毎年、北朝鮮の目の前で、北側海岸への上陸作戦を含む韓国軍との合同演習を威嚇的に実施している。
 北朝鮮は米国との敵対関係を解消し、国際的な経済制裁を解除させて、経済復興にとりくみたい。そのためには、何としても米国と直接交渉をする必要がある。
 そこで2006年の米中ロ韓日との6カ国会議の場でも必死に米国と交渉したし、トランプ前大統領とも3度にわたって会談した。しかし、いずれも寸前のところで米国は身をかわし、交渉は不発に終わっている。

 かくなる上は、米国を、身をかわせなくなる状況にまで追い込むしか方法はない。すなわち、核弾頭を装備したICBMを振りかざすことによって、米国にたいし休戦条約にかわる平和条約の締結を迫るしかない。これがいわば、北朝鮮に残された、彼らが考える最後の生き残り策なのである。したがって、ミサイル発射実験も核実験も、相手国はただ一つ、米国なのである。日本などは眼中にない。
 北朝鮮が日本に対して求めているのは、35年間にわたる植民地支配に対する謙虚な反省と代償であり、かつて日本政府が韓国に対して行なったのと同種の経済協力なのである。
 そしてそのことは、2002年の「日朝平壌宣言」で金正日と小泉純一郎、当時の両国首脳が約束し合っている。日朝国交回復ができれば、それは実現に向かう。その日本に対して、北朝鮮がミサイルを撃ち込んでくることなどあろうわけがない。それは人が自家に火を放つようなものだからである。
 それなのに、自公政権は北朝鮮の現状を「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」と決めつけ、大軍拡に向かって突進のスタートを切ろうとしている。「Jアラート」によって国民の危機感をあおったのと同様、これもフェイクである。

◆中国は本当に「脅威」なのか
 最後は、「中国の脅威」である。政府の国家安全保障戦略はそれを「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と規定した。近年、中国はたしかに軍事力の強化を急ぎ、南シナ海を力ずくで内海化しようとしている。台湾に対しては8月のペロシ米下院議長の訪台を牽制するためミサイルを連続発射し、その一つが与那国島のEEZの端に着弾した。
 しかし習近平国家主席が実際に台湾に軍事侵攻するなんてことがあるだろうか。もしそれを敢行すれば、いまのロシアがそうであるように、中国は世界中から批判・非難にさらされるに決まっているのに。今日、中国が日本を抜いて米国に次ぐ経済大国となったのは、改革開放政策により国際経済のグラウンドに躍り出て世界の工場≠ニなったことによる。
 バイデン大統領はこの10月に発表した国家安全保障戦略で、中国を「唯一の競争相手」としながらも、両国は「相互依存関係にあり、米国を含む諸外国との共有の利益を享受している」と述べた。実際、米中の昨年の貿易額は輸出入とも前年の3割前後も伸び、過去最高を記録している。
 台湾の国民世論は民進党、国民党ともに圧倒的に現状維持を望んでいる。また台湾はいまや半導体の供給では世界をダントツでリードする先進国だ。その台湾を軍事力で暴力的にねじ伏せられるわけはない。
 経済関係の重要性は、日中間でも同じである。07年以降、日本にとって中国は最大の貿易国であり、日本の対中依存度は高い。中国国内に拠点を置く日系企業は3万を数え、そこには10万人の日本人が生活している。
 さる11月17日、バンコクで岸田首相は習近平氏と初めて対面で会談したが、その席で習氏はこう語った。
「アジアと世界の重要な国家として、われわれには多くの共同利益がある。中日関係の重要性は変わらないだろう。新時代の要請に沿った中日関係を構築していきたい。」(朝日、11.18付)
 経済面に重点を置けば、この発言は額面どおりに受け取ってよいだろう。日中間に、尖閣諸島をめぐる問題はたしかに存在する。しかしこうした問題こそ、外交力によって解決すべきではないか。21世紀の今日、無人島の岩礁をめぐってGNP2位と3位の大国同士が軍事力で争うなんて愚か極まりない対応である。

 ところが、この正気の沙汰とは思えない対応を、日本政府は目下、実行に移そうとしている。奄美大島から沖縄本島、宮古島、石垣島、そして与那国島までの南西諸島に、防衛省はミサイル基地、弾薬庫、沿岸監視基地を配備した。沖縄本島にはすでに空自部隊を増強した上に、陸自の第15旅団を実質2倍の「師団」に格上げして増強しようとしている。
 自衛隊は、佐世保に駐屯する「日本版海兵隊」の水陸機動団を中心に、時に米軍とも共同で上陸演習を何度も行なってきた。敵軍に占領された島嶼を、奪回するための上陸演習である。その敵国軍とは、地理を見ても中国軍以外には考えられない。
 「鉄の暴風」によって地形が変わるほどに破壊され、県民の4人に1人が命を奪われた沖縄戦を、戦争体験者がまだ多数生存しているのに、この国の政府は沖縄を戦場に再び戦うための予行演習を続けているのである。
 沖縄戦の歴史的事実を知る人たちは、そのおぞましい光景を、息をのんで見つめている。

◆コモンセンス(常識)で判断しよう
 以上、市民的なコモンセンス(常識)を判断基準として、日本が直面しているとされる「脅威」の実態を検証してきた。私は軍事や国際政治の専門家ではない一ジャーナリスト(書籍編集者)にすぎないが、考えてみればあまりに非常識なことが多すぎる。
 たとえば今回の軍拡の柱とされている「敵基地攻撃能力」である。政府はこれを「反撃能力」とあいまいに一般化しているが、長射程ミサイル(トマホークは1500キロ先まで狙える)を使って相手国を攻撃することに変わりはない。
 では、いつ、どんなときにミサイルを発射するのか。相手国が日本に対する攻撃に「着手」したときだという。しかし、その「着手」の瞬間をどうやってキャッチするのか。それは誰にもわかりません、とおっしゃる。そんなあいまいさを残したまま、トマホーク500発(?)を購入するというのである。
 それでもまあ「着手」の瞬間をキャッチできたと仮定しよう。ではその「反撃」によって、相手国の戦意を打ち砕き、停戦に持ち込めるだろうか。もちろんそれはあり得ない。仮にその「敵基地」を粉砕できたとしても、相手国の「基地」は当然何か所にもわたって配置されている。日本国の「反撃」は逆に「先制攻撃」だとされ、相手国の戦意を誘発して激しい攻撃を招くことになるだろう。
 では、相手国から先に攻撃されたときはどうか。「反撃能力」を持つ自衛隊は、その「能力」を発揮することになる。つまり、相手国の基地をはじめ都市や発電所などのインフラにミサイルを撃ち込むことになる。いま現在、プーチンのロシア軍がウクライナに対して行なっているように!

 いずれにしろ、「敵基地攻撃能力」(反撃能力)の行使は、日本を相手国との全面戦争に引き込むことにほかならない。その危険をあえて冒すために、岸田内閣は大軍拡に踏み込もうとしているのである。いや、「敵基地攻撃能力」は実際にそれを実行するために持つのではない、もしも攻撃してきたら痛い目にあうぞと威嚇して、相手国の攻撃を「抑止」するために軍備を強化するのだ、という意見もある。「核抑止論」にも共通する「軍拡抑止論」である。
 しかし攻撃力(軍事力)というものは、あくまで相対的なものである。一方が軍備を強化すれば、対抗する側もそれに負けまいと軍備を増強する。かつて日本の敗戦で終わった第二次世界大戦の前段がそうだったし、現在の米国と中国との関係がそうである。
 つまり軍拡には終わりがない。5年間で43兆円の軍事費を注ぎ込んだところで、それで安心ということにはならない。時がたてば、次は60兆円、80兆円ということになる。「軍拡抑止論」のジレンマである。

 先日(12月17、18日)行なわれた朝日新聞の全国世論調査では、敵基地攻撃能力の保有について、男性は「賛成」が66%で「反対」が29%、女性は「賛成」「反対」がともに47%だったという。年代別にみると、18〜29歳の若い層が最も高く、70歳以上が最も低かったという。
 「敵基地攻撃能力」なるもののいい加減さとあいまいさ、そこに内在する致命的な危険性については先に見た。にもかかわらず、これほど高い賛成率だったというのは、その実体がよく知られていないことを示しているとしか思われない。ということは、マスメディアが、その実体を深く解明し、伝えていないからに違いない。つまり、マスメディアの社会的役割の放棄である。
 国民世論は、正しい知識とまともな情勢認識によって形成されなければならない。そのための「知る権利」に奉仕するのがマスメディアの役目である。いま私は、マスメディアに、何をおいても近隣諸国「脅威論」のデマゴギーを検証してほしいと思う。(2022年12月20日、記)
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2022年12月23日

【フォトアングル】「19日行動」衆院議員会館前 自民党と旧統一教会の癒着追及を=酒井憲太郎

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2015年9月19日、参議院本会議で安保法案(戦争法)が採決された。これに抗議し、廃止を求めて毎月とりくまれているのが「19日行動」だ。10月19日は第83回「19日行動」が行われた。テーマの第1は自民党と統一協会の癒着徹底追求だ。首相の責任が問われている。改憲発議反対、軍拡反対、いのちと暮らし守れの声も上がった。主催者発表で八百人が集まった=10月19日、東京・衆議院第2議員会館前、酒井憲太郎撮影
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
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2022年12月22日

【オンライン講演】統一教会問題はまだ終わっていない 報道の関わり方とは 金平、鈴木、藤森3氏が語る=古川英一

                         
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  統一教会の問題とメディアの関わり方について考えるオンラインシンポジウムが11月13日に開かれた。主催したのは、メディア関係者や市民で作る「NHKとメディアの今を考える会」で、ジャーナリストの金平茂紀さん(写真左)、鈴木エイトさん(中央)、藤森研さん()の3人が顔を揃え、470人が参加した。

まだ「問題」は入口

 まず金平さんが「いまは、統一教会の問題はもういい、あきた、視聴率の数字も取れない、といった空気が社会全体に流れている気がする。本当はまだ問題の入り口に過ぎない」と危機感を訴えた。そのうえで、これまでメディアがこの問題をどう報じてきたのが振り返った。藤森さんは、朝日新聞記者として朝日ジャーナルで1986年から1年間キャンペーン報道を展開。統一教会問題についての初めての本格的な報道になった。それを踏まえ「60年代は人の収奪、70年代は金の収奪、90年代からは堅い信者から巻き上げる、というのがやり方」と述べ「メディアがコンプライアンスジャーナリズムとなる中で、
それが企業防衛・保身となって宗教問題に及び腰になっていった」と問題点を挙げた。
 フリーとして孤軍奮闘、取材を続けてきた鈴木さんは「単なる金銭収奪だけでなく人生そのものまでを奪ってしまうのがカルト団体の一番の問題」と指摘し、「フリーとして客観報道より踏みこんで自分の存在が教会側に影響を与える、というやり方で取材している」と述べた。また2人は統一教会の人たちから尾行されたり、脅しの電話を受けたりしたことなども裏話として語った、

「悪行」暴く報道を

 最後に金平さんは「本質的なところまでいかず事実に蓋をすればまた同じようなことが起きてしまう。メディアはどうしたらよいのか」と提起した。
藤森さんは「教会の悪行は徹底的に暴く、組織ジャーナリズムは調査報道をしなければ社会的な責任は果たせない」と、後輩たちにエールを送った。鈴木さんは「あらゆるものに蓋をせず追いかけていく。被害者を社会全体でケアしていく、きちんと伝えていけば社会の関心が薄れることはない」と静かな口調ながら確信を持って語った。
  古川英一
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
 

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2022年12月20日

【おすすめ本】有田芳生『北朝鮮拉致問題 極秘文書から見える真実』―帰国5人の聞き取り報告初公開=高世 仁(ジャーナリスト)

拉致問題は小泉総理の訪朝以来目に見える進展がないまま、被害者家族が次々に鬼籍に入っている。ジャーナリストとしても国会議員としても拉致問題に関わり続けてきた著者は本書で、拉致問題が進展してこなかったのはなぜかを問い、採るべき方策を提起する。本書に登場する「極秘文書」は、帰国した拉致被害者5人に政府が聞き取り調査をした報告書で、公開されるのは本書が初めて。スクープである。ここには、拉致被害者らしい「久我よしこ」なる人物、また40代の二人の男性の存在など、北朝鮮との交渉で利用すべき情報が満載だ。だが圧力一辺倒の安倍政権によりこの貴重な文書は死蔵されてきた。

2014年5月、日朝はストックホルム合意を結び、北朝鮮は拉致被害者らの再調査を約束。これを受け北朝鮮は拉致被害者、田中実さんら二人が北朝鮮で生存しているとの重大情報を日本政府に伝えてきたのに、政府はこの報告の受け取りを拒否した。今年9月、当時の外務事務次官だった斎木昭隆氏が「新しい内容がなかったので報告書は受け取りませんでした」と朝日新聞に認め、この事実は確認された。横田めぐみさんなど有名な被害者の「新しい」情報がなければ「得点」にならないとの判断だろう。こうした拉致問題の政治利用が「やってる感」だけの安倍外交の特徴だった。

著者は、北東アジアの平和という大きな構図を描きながら、地道に交渉を積み上げるまっとうな外交への復帰を訴える。なんとか事態を動かしたいとの思いがほとばしり出る渾身の書である。(集英社新書820円)

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2022年12月19日

【焦点】「拉致問題本 充実を」文科省「図書館の自由」に介入 図書館協会など撤回求める=橋詰雅博

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 文部科学省が都道府県の教育委員会などに出した事務連絡に反発が広がっている。問題の文書は「北朝鮮当局による拉致問題に関する図書等の充実に係る御協力等について」と題し、「若い世代に対する拉致問題への更なる理解促進のため図書館、学校図書館において、拉致問題に関する図書等の充実」(=写真=)を求めた。12月10日から16日の北朝鮮人権侵害問題啓発週間に向けて内閣官房拉致問題対策本部から依頼を受けた文科省が8月末に通知した。これに対して「権力の介入」と批判した図書館業界などは依頼の撤回を要求した。

自由宣言を採択

 図書館業界が反発するのは理由がある。戦前・戦中の図書館は政府が掲げる「思想善導」(国家が反体制思想を排除する政策)に沿い国民の知る自由(知る権利)を妨げる役割を果たし、戦争に協力した。こうした反省の上に立ち公立図書館や小中高の学校図書館などが加盟する日本図書館協会は、1954年(昭和29年)に「図書館の自由に関する宣言」を採択した。この宣言では、図書館は権力の介入または社会的圧力に左右されることなく、自らの責任にもとづき、収集した資料と整備された施設の提供を行うとしている。併せて「利用者の秘密保持」や「検閲の反対」もうたわれた。
 今回の文科省の文書は図書館の自由宣言をないがしろにする危険性がある。このため図書館や教育現場から批判が相次いでいるのだ。いち早く9月8日、全日本教職員組合は「内容やテーマを指定した図書の充実や展示を求めるのは、子ども、国民の思想を縛るきわめて危険なことである」として事務連絡の撤回を文科省に申し入れた。日本図書館協会も「国民の知る自由を保障するうえで、とても危険なこと。文科省の文書は是認することはできません」と10月11日に意見表明した。

不当な支配にも

 日本図書館協会の岡部幸祐常務理事は「図書館として拉致問題の理解促進に協力するのは重要です。そうであっても拉致をテーマした図書の充実をという文科省の通知連絡は、図書館の自由宣言の理念から逸脱する行為だと考えられます。今一度、宣言を守ってほしいというメッセージが必要と考えて意見表明しました」と話す。
 また改めて自由宣言を読み直してほしいと加盟の図書館に同協会が文書を出した理由を岡部常務理事はこう説明する。
 「文科省の事務連絡を指示文書のように受け取ることを懸念したからです。というのは、司書は非常勤が多く、学校を掛け持ちしている司書もいます。少ないですが司書不在の学校図書館もあります。こうした事情から図書館での主体的な取り組みが難しくなる恐れが生じると考えて、関係者に宣言の読み直しをお願いしました」
 図書館員や個人ボランティアなどからなる図書館問題研究会の中沢孝之委員長は「多くの図書館は、拉致問題の早期解決を願っており、収集した拉致関係の図書を展示しています。それなのに国はこんな文書を提示する。図書館の自由宣言の侵害であり、権力介入の危機感を覚えます。教育基本法第16条『不当な支配』に該当する恐れもあります。事務連絡の撤回と今後こうした要請を行わないことを文科省に求めました」と語る。
「強制の意図はない」と国は釈明するが、図書館の自由宣言を軽視しているのでは……。
  橋詰雅博
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
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2022年12月18日

【今週の風考計】12.18─「戦争国家づくり」に43兆円 大転換は追求せず財源論に奔る愚

噴飯ものの財源論
国会が閉会するや否や、この1週間、自民党のセンセイ方は防衛費43兆円の財源を巡って、スッタモンダの激論に明け暮れた。国民そっちのけで「新規国債の発行」とか「防衛費1%税の導入」とか、あげくに「復興特別税の転用」とかのたまう。もう「いい加減にしたらどうか」と言いたい。
岸田首相は「責任ある財源を考えるべきであり、今を生きる国民が自らの責任として、しっかりその重みを背負って対応すべきだ」といった。だが国民は誰一人として、防衛費5年間で43兆円および2027年以降の防衛費「GDP比2%」を認めるプロセスに参加していない。なのに責任を背負されたら、たまったものではない。

「復興税」の転用─その酷さ
とりわけ「復興特別税」を転用して防衛費に充てる案は噴飯ものだ。東日本大震災後の2013年に創設され、2037年までの25年間、所得税に2.1%分上乗せして年4千億円を徴収し復興予算に充てる。ところが、その半分の1.1%分・年2千億円を防衛費に回すというのだ。しかも時限措置を10年以上も延長する計画だ。
 復興税の目的は国民全体で被災地を支えるためである。枠組みを突然変え、命と生活を守り復興に使う税を、命と生活を奪う戦争に使う防衛費に回すのは筋違いも甚だしい。
さらに防衛費増額の財源に国債の発行を、旧安倍派の議員が声高に主張している。なかでも建設国債の使途を変え、初めて自衛隊施設の整備費に新規発行するという。このような安易な国債発行が進めば、戦前のように軍備膨張の歯止めは効かなくなる。国債で防衛費を賄うことが「禁じ手」とされるのは、この反省に立つからに他ならない。

抑止力≠ナ戦争は防げない
戦後の「軽武装・経済重視」の道筋を築き、ハト派色が強く保守リベラルの「宏池会」、そこの会長を務める岸田首相の豹変ぶりは、タカ派の安倍派を凌駕し、もう暴走としか言いようがない。
 先頭切って軍拡路線を強行し、ついに「敵基地攻撃能力」の保有を明記する安保3文書を閣議決定した。国会の徹底した審議もないまま専守防衛を放棄し、「憲法9条」が滅びる危機に陥れた。
この危機に際し、憲法学者らによる「平和構想提言会議」が、「戦争ではなく平和の準備を─抑止力≠ナ戦争は防げない」と題する提言を公表した。その主な内容は、防衛力強化がイタズラに周辺国との軍拡競争を招き、戦争のリスクを高めると警鐘を鳴らし、今こそ「憲法9条」が定める平和主義の原則に立ち返るべきだと強調している。
 今後、取り組むべき具体策として、朝鮮半島の非核化に向けた外交の再開や中国を「脅威」と決めつけず、アジア諸国との対話の強化を提唱。専守防衛の堅持に基づき米国製巡航ミサイル「トマホーク」など敵基地攻撃能力の保有につながる兵器の購入や開発の中止を求めた。

メディアの政府広報化
ところがメディアの報道は、「憲法9条」との関係で「敵基地攻撃能力の保持」そのものの是非を問わず、防衛費の財源論に終始する。軍拡はすでに決定事項だと言わんばかりだ。完全に政府広報と化している。岸田首相の記者会見でも、参加できるのは「1社1人」というルールのうえ、再質問は許されない。対等な質疑応答などできるはずがない。
共同通信がスクープした「防衛省は国内の世論工作に向け、人工知能(AI)と交流サイト(SNS)を使い、インフルエンサーを経由して情報操作するプランを入札企業に発注していた」という報道を基に、メディアは共同して防衛省を追及すればよいのに、それすらしない。これでは「ペンは剣よりも強し」が泣くのは自明だ。(2022/12/18)
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2022年12月17日

【出版界の動き】出版社29社で総販売額の半分・7千億円という寡占化=出版部会

◆22年10月の出版物販売金額845億円(前年比7.5%減)、書籍484億円(同5.9%減)、雑誌360億円(同9.7%減)。月刊誌296億円(同10.8%減)、週刊誌64億円(同4.3%減)。返品率は書籍34.1%、雑誌43.8%、月刊誌43.4%、週刊誌45.5%。

◆昨年の出版物販売額は1兆4473億円(前年比1.0%減)。そのうち電子媒体の販売金額は4,662億円(前年比18.9%増)、紙媒体と比べて大幅な増加。海賊版サイトの閉鎖措置で、電子コミックの収益が回復。さらに出版各社がネットや映像との融合、デジタルメディアの強化、電子書籍の展開など、新たなビジネスモデルの構築に傾注。
 講談社では、企業や団体が販売促進や広告宣伝に役立つサイト『C-station』を展開。またソフトバンクと協業して講談社が運営する「ミクサライブ東京」で、LIVEエンターテインメントコンテンツを展開する。集英社はDeNAと共同会社を設立し、エンターテインメント事業の開拓に乗り出している。

◆日販の「出版物販売額の実態」最新版(2022年版)によると、21年度の出版社数は2907社、売上高100億円以上の出版社は全体の1.0%(29社)、総売上高の52.5%を占める。売上高10億円以上(全体の7.4%)と広げれば総売上高の84.6%となる。売上高1億円未満の出版社が全体の70.3%、それらの売上をすべて合わせても、出版物総売上高の2.7%に過ぎない。出版界の寡占化は激しい。
 一方、書店の状況はどうか。21年度の書店は 8642店舗。2010年度をピークに店舗数および坪総数が減少しはじめている。ここでも「書店の大型化」が進み大型店舗のみが生き残る事態になっている。町の本屋さんが消失している。

◆紀伊國屋書店は15年連続で黒字決算。今年度期の連結売上高1209億円(前年比4.6%増)、当期純利益20億3200万円(同34.8%増)と大幅に伸長。

◆出版文化産業振興財団の調査で、書店のない市町村が全国で26.2%に上ることが分かった。全国1741市区町村のうち456市町村が書店の空白域となっている。人口減少による経営難や活字離れ、スマートフォンの普及による娯楽の多様化が背景にあり、全国の書店数はこの10年で約3割も減少。地方では文化発信の場が失われる危機が迫る。
 全自治体に占める書店ゼロの割合は、トップの沖縄県56.1%、順に長野県51.9%、奈良県51.3%。書店ゼロか1店舗しかない自治体の割合は長野県71.4%(55自治体)、北海道70.9%(127)が高かった。

◆日販とトーハンが2022年の年間ベストセラーを発表。総合1位は、和田秀樹『80歳の壁』(幻冬舎)で発行部数57万5000部。

◆2022年上期の新聞(朝刊)発行部数は、読売新聞686万部、朝日新聞429万部、毎日新聞193万部、中日新聞192万部、日本経済新聞175万部、産経新聞102万部。北海道新聞85万部、東京新聞39万部。
 出版部会
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2022年12月16日

【お知らせ】12/20 NHK西口で街頭宣伝します〜透明性の欠如、視聴者・市民無視の NHK会長選びに抗議します〜

「ともにつくろう! 自由で独立したNHKを!」―主催・市民とともに歩み自立したNHK会長を求める会
 日時 2022年12月20日(火)12:00〜13:00 場所 渋谷・NHK放送センター西口

 <リレートークメンバー> 
丹原美穂氏(兼開会あいさつ・市民とともに歩み自立したNHK会長を求める会共同代表)
池田香代子氏(ドイツ語翻訳家)
永田浩三氏(武蔵大学教授・元NHKプロデューサー)
大崎雄二氏(法政大学教授・元NHK記者)
 <メッセージを寄せる人>
小林緑氏(元NHK経営委員・国立音楽大学名誉教授)
大貫康雄氏(元NHK記者〔ヨーロッパ総局長〕)

「公共放送NHKのトップがこんな選ばれ方でいいのでしょうか?」
 私たちは11月4日、NHK経営委員会に対して、時の政権に媚びない姿勢を明確に打ち出し、日本国憲法・放送法の精神を踏まえた前川喜平氏(元文部科学事務次官)を次期会長に推薦してきました。
 しかし、NHK経営委員会は12月5日、委員12人の全員一致でNHKの次期会長に稲葉延雄氏(元日本銀行理事)を選出したと発表しました。経済界出身会長が6人続くことになります。

 記者会見で「(経営委員の)誰が稲葉氏を推薦したかは答えられない」と森下経営委員長が回答を拒否(12月6日毎日)しました。「会長の選定は『ブラックボックス化』しすぎている。視聴者に問われても説明できない」というNHK職員の批判を裏付けました。
 さらに「政府高官によると首相は水面下で稲葉氏に接触して口説き落とした」(12月6日読売)との報道があります。「経営委員会は政府の意向の追認機関か」とその自主性、自律性をも疑わせるものです。
 私たちは、従前にも増して経営委員会の運営及び新会長選考過程の不透明さに抗議するとともに心底からの怒りを表明し、今回の次期会長決定の発表を撤回することを要求するものです。

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2022年12月14日

【リレー時評】沖縄復帰50年に想う 「集団自決」裁判=山口昭男

 沖縄復帰五〇年の今年行われた知事選で、県民が示したのは「米軍普天間飛行場の辺野古移設反対」の意思表示だった。
 屋良朝苗氏が復帰後最初の公選知事に就任して以来、沖縄県知事は保守と革新が入れ替わるように務める形になっている。
 一九七三年私が新入社員として『世界』編集部に配属され、最初の特集が「沖縄――復帰一年の憲法状況」だった。締め切り間際、大田昌秀琉球大学教授(当時)の原稿を航空貨物便で受け取るため羽田空港まで行ったことをよく覚えている。この時以来、私と沖縄の関わりは現在まで続いているが、何と言っても強く印象に残るのは、沖縄「集団自決」裁判である。

 『沖縄ノート』の著者である大江健三郎氏と出版元の岩波書店を相手取って、二〇〇五年八月に突然始まったこの裁判は、「軍は住民に自決を命じていない」と主張する座間味島の元戦隊長らを原告とする名誉棄損の民事訴訟だった。しかしその実際は、国の歴史認識、教科書の歴史記述を問う争いであった。ちょうど稲嶺知事、仲井真知事の時代である。

 裁判が進行中の二〇〇七年三月「軍命はなかった」とする原告側の主張のみを根拠として、高校教科書の「集団自決」の記述から、日本軍の命令、強制、誘導等の表現を削除させる文部科学省の検定意見が出され、出版各社がこれに応じるという事態が起きた。この裁判の傍聴者の一人は「原告関係者が『これで目的は達した』と話すのが耳に入った」(『東京新聞』二〇〇七年三月三一日付)と語っている。ここにおいて、この裁判が単なる名誉棄損裁判ではなく、これまでの沖縄戦観や歴史認識を覆そうとすることが真の狙いであることが明確になった。
 裁判は、二〇〇八年三月の大阪地裁判決、同年一〇月の大阪高裁判決と、いずれも大江氏と岩波書店の完全な勝訴となり、それは二〇一一年四月の最高裁で確定をみた。五年半に及ぶ裁判であった。

 この裁判では、さまざまな人が証言を行ったが(『記録 沖縄「集団自決」裁判』岩波書店 二〇一二年参照)、今年七月に九三歳で亡くなった金城重明さんの「集団死は軍からの明らかな命令によるものだ。鬼畜米英の前で生き残ることが恐怖の対象となって死を選んだのが実情だ。……その後日本軍が生き残っていたことを知り、衝撃をうけた。沖縄戦のキーワードは軍官民共生共死だったが、住民は死んで、日本軍は組織的に完全な状態で生き残っており、日本軍に対する不信感、恐怖心が生じた」という自らの体験を語りながらの証言は、人々の心を揺さぶり、判決にも影響を与えたといわれる。
 また一九九〇年に県知事に当選し二期務めた先述の大田昌秀さんは、一九四五年三月に学徒隊の鉄血勤皇隊に動員された体験から、最期まで「軍隊は人を守らない」「米軍基地だけは絶対に受け入れられない」と訴え続けていた。
  山口昭男
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
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2022年12月13日

【おすすめ本】角 茂樹『ウクライナ侵攻とロシア正教会 この攻防は宗教対立でもある』ー長い歴史の中で醸成された宗教への重層的な考察=高橋沙奈美(九州大学講師)

 今般のウクライナ戦争には、正教会が深く関わっていると指摘されている。しかし、わが国では 東方正教会の存在自体が知られていないうえ、ロシアとウクライナが同じ信仰を共有するという複雑な事情から、宗教ファクターがこの戦争に及ぼす影響について、なかなか理解が進んでいない。
 そうした中、正教会の成り立ちから現代政治に至るまでの両国の歴史を叙述する本書が現れたことの意義は大きい。特に現代のウクライナ政治と正教会独立問題については、著者自身の立場を活かし、カトリック教会の動向も視野に入れた重層的な記述となっている。

 ただし、歴史に関する記述と、ロシア正教会が一種の鎖国状態の中で純粋培養されてきたという点に関しては、いくつかの留保が必要だ。
 第一は、現状を過去に投影してはならないということ。ウクライナが現在の形で国家形成されたのは20世紀初頭であり、現在のウクライナ/ロシアという二項対立的な民族意識が形成されたのも19世紀以降で、地域によっては、その差が大きい。こうした点を捨象してウクライナ史を描きだすことは危険である。
 第二に巨大な組織を一枚岩的に捉えてはいけないということ。ロシア正教会はビザンツやイタリアとの交流の歴史を持ち18世紀以降のロシア正教会指導者の多くは、ウクライナやベラルーシ地域出身である事実も忘れてはならない。
 ロシア正教会をハンチントン流の異質文明として捉えるのではなく、西側社会と複雑に絡み合う過去と現在を持つ経緯を認識して捉えることが、確実な理解への道と言えよう。(KAWADE夢新書890円)
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2022年12月12日

【沖縄リポート】与那国 早くも「生活の場が戦場に」=浦島悦子

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 6年ぶりの第7回世界のウチナーンチュ大会(5年ごとに開催。昨年の予定がコロナ禍により延期)が10月30~11月3日に開催され、沖縄にルーツを持つ人々(世界13の国と地域から約1600人及び国内・県内)が、那覇市の国際通りで行われた前夜祭パレード(=写真=)を皮切りに沖縄各地で絆を確かめ合った。 
  1899年のハワイ移民から始まった沖縄の移民は、期待とは裏腹な移民先での並々ならぬ辛苦を乗り超えて現地に根を張ると同時に、「本家」の沖縄よりも伝統文化やしまくとぅばを残している。140万県民と、42万人と言われる海外ウチナーンチュの共同作業が、県や国の境を超えた沖縄の未来を拓くのではないか。
  閉会式で主催者挨拶を行った玉城デニー知事は、「世界中から戦争の恐怖を取り除くために対話と共存を求めよう」と述べ、今大会のメッセージは「平和」だと語った。 

  しかしながら沖縄の現実は、真逆の事態が進行している。中国を念頭に置いた自衛隊と米軍による日米共同統合演習「キーン・ソード23」が10日から、南西諸島を主舞台に始まった。自衛隊・米軍基地や訓練区域だけでなく、「有事」を想定した民間空港・港湾施設や公道の使用も行う。台湾に近い与那国島では空港を使用し、最新鋭の機動戦闘車が公道を走る。「生活の場が戦場になる」ことを先取りするものだ。

  県民は「戦争前夜」「第二の沖縄戦」の危機をひしひしと感じている。8日朝、演習に向けて沖縄島中部の中城湾港に自衛隊車両を積んだ輸送船が着岸した。港には、ミサイル配備反対の活動を続けている、うるま市島ぐるみ会議を中心に百人以上の市民が集まり、「県民の物流拠点を台湾有事に使うな!」「沖縄を再び戦場にする戦争訓練反対!」と抗議の声を上げた。陸揚げされた73台の自衛隊車両の移動を止めようと港のゲート前に座り込んだが、機動隊によって排除された。
  9日、「ノーモア沖縄戦命どぅ宝の会」が演習の中止を求める緊急声明を発し、夕刻には雨の中、県庁前の県民広場で抗議集会が行われた。   
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号

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