1千万人に強いる負担
●来年10月から消費税に「インボイス(適格請求書)制度」が導入される。この制度で低所得の一人親方や個人タクシー、フリーランスのライター、さらには俳優・声優・漫画・アニメ・演劇などに携わる計1千万ともいわれる人々に、大きな負担と犠牲が被さってくる。
現在、年間の売り上げや年収が1000万円以下の法人や個人事業主には、消費税の納入が免除されている。それを改悪するのが「インボイス制度」だ。
●免税事業者にも、「インボイス事業者」として登録させ、消費税を徴収するひどい内容だ。財務省では、免税事業者約488万のうち約160万が課税事業者に変更し、2480億円の税収増が得られると試算している。
これまで消費税が免除されていた年間売り上げ300万円のフリーランスが、「インボイス制度」により課税事業者となった場合、消費税の納税額は約13万6000円という計算になる。消費税の負担増で手取りが減る上に、義務づけられる「インボイス」発行には、従来の請求書では不要の記載項目が増えるため、煩雑な事務処理が加わる。
●さらに「インボイス」が添付されなければ消費税の還付が受けられないようにした。すなわち「インボイス事業者」でなければ「インボイス」が発行できないため、還付申告をする事業者からは敬遠され、あげくに排除され仕事を失うのは目に見えている。
輸出企業への「優遇税制」
●この消費税還付という仕組みには落し穴がある。これを巧みに使いまわし消費税を納めず還付金で潤う大企業があるのだ。その実態が明らかにされつつある。トヨタ自動車をはじめ日本を代表する輸出大企業10社が、2020年度だけでも合計1兆2千億円余りの消費税が、国から還付されている。
それは輸出取引には消費税が免除されているからだ。輸出企業は消費税を1円も納税せず、確定申告により国内で仕入れた商品に支払った消費税を還付してもらうことができる。まさに消費税は、輸出企業への「優遇税制」となっているのだ。
●コロナ禍で中小業者やフリーは所得が激減・赤字に転落、法人税や所得税は免除されても、消費税だけは納めなければならぬ。大企業のように価格に100%転嫁し、消費税を“預り金”にして内部保留し、後で還付してもらう特典を享受できればいいが、低所得者には、そんな余裕などない。低所得の中小業者・フリーには徴税、輸出企業には還付。あまりにも露骨な格差・弱肉強食の消費税制ではないか。
●しかも輸出企業にとっては、消費税がアップされようとも、消費税分の金額が還付されるのだから、痛くもかゆくもない。かえって国内取引をやめて海外取引を加速するのは目に見えている。
さらに還付制度を悪用して「海外取引」と偽装し、多額の還付金を詐取する事件まで発生している。消費税の不正還付による追徴税額は、前年比3倍の111億円に上る。
財務省の真の狙い
●もう一度「インボイス制度」に戻ろう。財務省の狙いはどこにあるのか。本音は財務省の悲願・消費税の再々増税にある。
2019年10月に消費税を2%アップし10%にしたが、2020年度の消費税収入は20兆9714億円(全税収の34.5%)で過去最高となった。2021年度の消費税収入は前年度より9172億円多い21兆8886億円(同32.6%)。毎年1兆円の増収が目論める。
●この実績を見れば、財務省が防衛費43兆円を支える「安定財源」として、消費税に期待し税率を引き上げたいと考えるのは自然な発想だ。その地ならしに「インボイス制度」を導入し、課税対象を拡大しておくという伏線が敷かれているのは間違いない。(2022/12/11)
2022年12月11日
2022年12月10日
【オンライン講演会】JCJ賞大賞映画「教育と愛国」を語る――監督・斉加尚代さん(毎日放送ディレクター)12月18日(日)午後2時から4時まで
下記は映画「教育と愛国」予告編のURLです。
https://youtu.be/HlCTKXvRm-o
子どもたちが通う学校では、どのような教科書が使われ、どのような教育がなされているのか。政治が、時の権力者が、自分たちの好む教育を押し付けてくる。不都合な歴史や出来事には触れず、それとなく隠し、まるで「なかったこと」のようにする。その流れが行き着く先は、戦前的な空気の醸成だろう。
毎日放送(MBS)ディレクターの斉加尚代さんは、道徳の教科書で「パン屋」が「和菓子屋」に書き換えられたニュースに接し、そこから敏感に教育の異変を感じ取った。
12月8日は、日本が米国ハワイの真珠湾を攻撃し、無謀な戦争を拡大した日である。77年前の出来事は決して過去のことではない。
講師紹介・斉加尚代(さいか・ひさよ)さん
1987年に毎日放送(大阪)に入社。報道記者を経て2015年からドキュメンタリー担当ディレクターに。作品に「なぜペンをとるのか〜沖縄の新聞記者たち」「沖縄 さまよう木霊(こだま)〜基地反対運動の素顔」「教育と愛国〜教科書でいま何が起きているか」「バッシング〜その発信源の背後に何が」(18年)などがある。近著に『何が記者を殺すのか〜大阪発ドキュメンタリーの現場から』(集英社新書)。
★参加費:500円 下記PeatixのURLをクリックしてお支払いください。
https://kyoikutoaikoku.peatix.com/ @参加券の枚数を選ぶA支払いをカードかコンビニ払いかなど選ぶB初めての方は氏名、メルアドを登録し、パスワードなど設定、という手順です。
【JCJ会員は無料。別途、onlinejcj20@gmail.com にメールで申し込んでください。この機会にJCJ会員になることを希望される方も、その旨を明記して上記メルアドにメールをお送りください】
主催:日本ジャーナリスト会議(略称JCJ) 電話03・6272・9781(月水金の午後1時から6時)ホームページ https://jcj.gr.jp
2022年12月09日
【月刊マスコミ評・放送】スタジオ美術の職場環境改善を=岩崎 貞明
放送の仕事の一つに「スタジオ美術」がある。舞台・演劇などの世界と同様、なくてはならない「大道具・小道具」の仕事である。番組収録に先立ってスタジオにセットを建て込み、収録が終わればそれを解体する。セットや小道具類は工場や倉庫からトレーラーなどでスタジオに運び込む。
テレビ番組で言えば、「本番」の始まりから終わりまで、華やかな舞台の裏方を支える、地味ながら重要な現場仕事だ。ドラマやバラエティのみならず、ワイドショーやニュース番組でも凝ったスタジオセットがすでに通例になっているし、最近ではインターネットの配信番組でも美術の仕事が欠かせない。
そんなスタジオ美術の作業は、肉体労働の大工仕事だから、というばかりでなく、いま過酷な状況に置かれている。ある意味で末端の「下請け仕事」だから、すべてのしわ寄せが覆いかぶさってくるのだ。
限られた制作予算なのに、番組のディレクターやデザイナーからは手の込んだセットを要求される。美術会社の「営業」と呼ばれる担当者は、予算とデザインを何とかすり合わせるために奔走する。その交渉に時間を取られると、納品までの製作時間が削られる。番組収録の日程に間に合わせるために終電後までの作業になっても、帰りのタクシー代が出ないケースもあるという。
最近は、局側からの発注そのものがギリギリで突貫工事でないと収録に間に合わない「急発注・短納期」の問題が深刻化していて、現場で長時間労働が改善されない要因となっている。本来、急ぎの仕事であれば割増料金を上乗せして支払われてしかるべきだが、現実は作業途中で変更や手直しの要請が局側から出されても、追加の支払いなどがないケースが通例だということだ。
また、現場で働く女性が急激に増加しているのに、女性用更衣室がないか、あっても狭くて使いにくいという問題もある。一度使った美術セットを再利用することを考えても、そのための保管倉庫が整備されていないこともあり、スペース確保が課題となっている。いずれも放送局の責任で対応すべき問題だろう。
映画・演劇関係の労組の集まりである「映演共闘」「舞台美術労協」と民放労連は、共同で在京キイ局や民放連事務局に下請け単価の改善や勤務間インターバルの確保などを毎年要請している。放送局側は受け止めてはくれるものの、改善はなかなか進まない。誰のおかげで番組が出せるのか、今一度考えてほしい。
岩崎 貞明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
テレビ番組で言えば、「本番」の始まりから終わりまで、華やかな舞台の裏方を支える、地味ながら重要な現場仕事だ。ドラマやバラエティのみならず、ワイドショーやニュース番組でも凝ったスタジオセットがすでに通例になっているし、最近ではインターネットの配信番組でも美術の仕事が欠かせない。
そんなスタジオ美術の作業は、肉体労働の大工仕事だから、というばかりでなく、いま過酷な状況に置かれている。ある意味で末端の「下請け仕事」だから、すべてのしわ寄せが覆いかぶさってくるのだ。
限られた制作予算なのに、番組のディレクターやデザイナーからは手の込んだセットを要求される。美術会社の「営業」と呼ばれる担当者は、予算とデザインを何とかすり合わせるために奔走する。その交渉に時間を取られると、納品までの製作時間が削られる。番組収録の日程に間に合わせるために終電後までの作業になっても、帰りのタクシー代が出ないケースもあるという。
最近は、局側からの発注そのものがギリギリで突貫工事でないと収録に間に合わない「急発注・短納期」の問題が深刻化していて、現場で長時間労働が改善されない要因となっている。本来、急ぎの仕事であれば割増料金を上乗せして支払われてしかるべきだが、現実は作業途中で変更や手直しの要請が局側から出されても、追加の支払いなどがないケースが通例だということだ。
また、現場で働く女性が急激に増加しているのに、女性用更衣室がないか、あっても狭くて使いにくいという問題もある。一度使った美術セットを再利用することを考えても、そのための保管倉庫が整備されていないこともあり、スペース確保が課題となっている。いずれも放送局の責任で対応すべき問題だろう。
映画・演劇関係の労組の集まりである「映演共闘」「舞台美術労協」と民放労連は、共同で在京キイ局や民放連事務局に下請け単価の改善や勤務間インターバルの確保などを毎年要請している。放送局側は受け止めてはくれるものの、改善はなかなか進まない。誰のおかげで番組が出せるのか、今一度考えてほしい。
岩崎 貞明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
2022年12月08日
2022年12月07日
【月刊マスコミ評・新聞】沖縄の選挙 報道をていねいに=六光寺 弦
沖縄の過重な基地負担は日本復帰から50年たっても変わらない。負担を強いている日本政府は、選挙を通じて合法的に成り立っている。だから沖縄の基地負担は国民全体の選択であり、だれもが当事者だ。基地を巡り沖縄で起きていること、沖縄の民意は、日本本土でも広く知られなければならない。本土メディアの責任は大きい。
10月23日の那覇市長選で、自民、公明両党推薦の前副市長の知念覚氏が、玉城デニー知事らの「オール沖縄」が支持する元県議で、故翁長雄志元知事の次男の雄治氏を破り初当選した。米軍普天間飛行場の辺野古移設に、雄治氏が反対を訴えたのに対し、知念氏は「国と県の係争を見守る」との立場だった。辺野古移設は双方の主張がかみ合う争点ではなかった。
これで、ことしの県内7市長選でオール沖縄は全敗。懸念されるのは、辺野古に触れなかった自公系候補の立場を「辺野古移設容認」「黙認」などとねじ曲げ「沖縄の民意は辺野古移設を受け入れている」などと主張する言説が流れることだ。
那覇市長選の結果を、東京発行の新聞各紙のうち1面で報じたのは、辺野古移設推進が社論の産経のみ。総合面の関連記事では「米軍基地問題などをめぐる県と市のスタンスにずれが生じ(中略)玉城デニー知事の県政運営に影響を及ぼすのは必至だ」と踏み込んだ。もはや知事は辺野古移設反対を維持できない、と言いたげだ。
他紙は総合面に本記のみ。読売は全文20行、日経は雑報扱いの11行だった。毎日は35行余と幾分長めだが、見出しは「那覇市長に自公系/知念氏、反辺野古派破る」。見出しだけ見た人に、知念氏は辺野古移設推進、容認だと受け取られかねない。
翌日の紙面では朝日が、選挙を振り返り、オール沖縄の今後の展望を探る詳細なリポートを掲載した。民意が辺野古移設容認に変わったことを意味しないことがようやく伝わる。しかし、他紙にそのような報道は見当たらない。
那覇市長選は、引退する現職市長がオール沖縄離脱を表明して知念氏支援に就くなど、複雑で分かりにくい構図があった。それも過重な基地負担のゆえだ。
複雑で分かりにくいからこそ、詳しく、ていねいに報じる必要がある。
六光寺弦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
10月23日の那覇市長選で、自民、公明両党推薦の前副市長の知念覚氏が、玉城デニー知事らの「オール沖縄」が支持する元県議で、故翁長雄志元知事の次男の雄治氏を破り初当選した。米軍普天間飛行場の辺野古移設に、雄治氏が反対を訴えたのに対し、知念氏は「国と県の係争を見守る」との立場だった。辺野古移設は双方の主張がかみ合う争点ではなかった。
これで、ことしの県内7市長選でオール沖縄は全敗。懸念されるのは、辺野古に触れなかった自公系候補の立場を「辺野古移設容認」「黙認」などとねじ曲げ「沖縄の民意は辺野古移設を受け入れている」などと主張する言説が流れることだ。
那覇市長選の結果を、東京発行の新聞各紙のうち1面で報じたのは、辺野古移設推進が社論の産経のみ。総合面の関連記事では「米軍基地問題などをめぐる県と市のスタンスにずれが生じ(中略)玉城デニー知事の県政運営に影響を及ぼすのは必至だ」と踏み込んだ。もはや知事は辺野古移設反対を維持できない、と言いたげだ。
他紙は総合面に本記のみ。読売は全文20行、日経は雑報扱いの11行だった。毎日は35行余と幾分長めだが、見出しは「那覇市長に自公系/知念氏、反辺野古派破る」。見出しだけ見た人に、知念氏は辺野古移設推進、容認だと受け取られかねない。
翌日の紙面では朝日が、選挙を振り返り、オール沖縄の今後の展望を探る詳細なリポートを掲載した。民意が辺野古移設容認に変わったことを意味しないことがようやく伝わる。しかし、他紙にそのような報道は見当たらない。
那覇市長選は、引退する現職市長がオール沖縄離脱を表明して知念氏支援に就くなど、複雑で分かりにくい構図があった。それも過重な基地負担のゆえだ。
複雑で分かりにくいからこそ、詳しく、ていねいに報じる必要がある。
六光寺弦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
2022年12月06日
【おすすめ本】白井 聡『長期腐敗体制』―アベノミクス 対外外交 破綻した一強腐敗体制の罪=鈴木耕(編集者)
前著『国体論』(集英社新書)で、天皇とアメリカという「国体の正体」を見事に腑分けしてみせた著者が、本書では現在の「体制」を考察する。タイトルが内容をズバリと表している。意味するところは安倍長期政権がこの国にもたらしたもの、である。著者はそれを「二〇一二年体制」と名づけ、安倍政権下でいかに政治が捻じ曲げられていったかを丁寧に検証する。いわゆる「安倍一強腐敗体制」が出来上がっていく過程を、細部にわたって読み解いていくのだ。
例えば安倍の経済政策としてのアベノミクスという虚構。「三本の矢」なる政策は、何の成果ももたらさず、残されたのは惨憺たる庶民の暮らしの崩壊だったということを、数字を挙げて実証する。
では、「外交の安倍」などと呼ばれた外交面で、日本が得たものはあったのか。安保政策の要として対米従属路線をとった外交が、結局すべての足を引っ張ることになる。岸信介から中曽根康弘へ受け継がれながら、対米交渉のカードそのものを放棄していくという無様な様相を呈していく。冷戦秩序の崩壊後も変わらぬ、ひたすらな対米従属路線は、言ってみれば米国にすべてを捧げる朝貢外交の延長で、それが安倍外交の本質だった。
安倍外交の失敗の極めつけは「対ロ外交」だ。プーチンに手玉に取られ、不気味な情緒的つき合いに終始した安倍は、結局、北方4島すべてを差し出すことになる。それが「安倍外交」の実態だった。
安倍から菅、岸田へと受け継がれた「長期腐敗体制」は、安倍の死後にどうなるのか。統一教会問題で揺れる日本政治が新たな道へ踏み出せるかどうかを、著者は次の課題とするだろう。(角川新書920円)
例えば安倍の経済政策としてのアベノミクスという虚構。「三本の矢」なる政策は、何の成果ももたらさず、残されたのは惨憺たる庶民の暮らしの崩壊だったということを、数字を挙げて実証する。
では、「外交の安倍」などと呼ばれた外交面で、日本が得たものはあったのか。安保政策の要として対米従属路線をとった外交が、結局すべての足を引っ張ることになる。岸信介から中曽根康弘へ受け継がれながら、対米交渉のカードそのものを放棄していくという無様な様相を呈していく。冷戦秩序の崩壊後も変わらぬ、ひたすらな対米従属路線は、言ってみれば米国にすべてを捧げる朝貢外交の延長で、それが安倍外交の本質だった。
安倍外交の失敗の極めつけは「対ロ外交」だ。プーチンに手玉に取られ、不気味な情緒的つき合いに終始した安倍は、結局、北方4島すべてを差し出すことになる。それが「安倍外交」の実態だった。
安倍から菅、岸田へと受け継がれた「長期腐敗体制」は、安倍の死後にどうなるのか。統一教会問題で揺れる日本政治が新たな道へ踏み出せるかどうかを、著者は次の課題とするだろう。(角川新書920円)
2022年12月05日
【映画の鏡】対立を対話に変えた住民参加 『下北沢で生きる』 SHIMOKITA 2013to2017 改訂版 これからの街づくり示す記録=鈴木賀津彦
NOBUYOSHI ARAKI ライカで下北沢
シモキタが今、これからの街づくりの成功モデルとして注目を集めている。今年5月、2013年に地下化された小田急線下北沢駅(東京都世田谷区)周辺の線路跡地1・7`で進められた「下北線路街」の整備が完成。都心の再開発と言えば、どこも同じようなビルが建ち個性が失われがちだが、劇場やライブハウス、古着屋などの個性的な店舗が路地にひしめく「シモキタらしさ」を生かした形で魅力を発信し、コロナ禍にもかかわらず、にぎわいを一段と増し、高く評価されている。
そんな「らしさ」を打ち出した街づくりが何故できたのか、本作品を見れば、それを解説してくれる。2003年に東京都が小田急線の地下化を決めた際、終戦直後に決めた「補助54号線」という道路計画が復活し、商店街を貫く道路整備など大規模再開発を行政側が決定した。これに反対する市民運動が巻き起こる。開発阻止を訴えるデモや集会には、国内外から作家や演劇人、音楽家らが集まり、見直しの提案や行政訴訟なども起こしていく。
それを追ったドキュメンタリーの前半は、賛否の対立の構図なのだが、世田谷区長に保坂展人氏が当選した2011年からは、「北沢デザイン会議」などが設けられ、区が住民から意見を聞く「対話」へと変わっていく様子が描かれていく。後半は「住民参加の街づくり」とはどういうものかを示してくれている。
2017年に住民らが製作した映画が今年、街への関心の高まりから掘り起こされ、各地で小さな上映会が広がり始めている。案内のチラシには「下北沢の民主主義を知っていますか?」とある。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
シモキタが今、これからの街づくりの成功モデルとして注目を集めている。今年5月、2013年に地下化された小田急線下北沢駅(東京都世田谷区)周辺の線路跡地1・7`で進められた「下北線路街」の整備が完成。都心の再開発と言えば、どこも同じようなビルが建ち個性が失われがちだが、劇場やライブハウス、古着屋などの個性的な店舗が路地にひしめく「シモキタらしさ」を生かした形で魅力を発信し、コロナ禍にもかかわらず、にぎわいを一段と増し、高く評価されている。
そんな「らしさ」を打ち出した街づくりが何故できたのか、本作品を見れば、それを解説してくれる。2003年に東京都が小田急線の地下化を決めた際、終戦直後に決めた「補助54号線」という道路計画が復活し、商店街を貫く道路整備など大規模再開発を行政側が決定した。これに反対する市民運動が巻き起こる。開発阻止を訴えるデモや集会には、国内外から作家や演劇人、音楽家らが集まり、見直しの提案や行政訴訟なども起こしていく。
それを追ったドキュメンタリーの前半は、賛否の対立の構図なのだが、世田谷区長に保坂展人氏が当選した2011年からは、「北沢デザイン会議」などが設けられ、区が住民から意見を聞く「対話」へと変わっていく様子が描かれていく。後半は「住民参加の街づくり」とはどういうものかを示してくれている。
2017年に住民らが製作した映画が今年、街への関心の高まりから掘り起こされ、各地で小さな上映会が広がり始めている。案内のチラシには「下北沢の民主主義を知っていますか?」とある。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
2022年12月04日
【今週の風考計】12.4─「敵基地攻撃」へ突っ走る岸田政権の悲劇的末路
<12・8真珠湾攻撃>の悲劇
▼やっぱり公明党は、<下駄の雪>よろしく自民党につき従い、ミサイル発射拠点などをたたく「敵基地攻撃能力の保有」を容認した。これを受けて政府は年内に改定の「安保3文書」に保有を明記する。国会での論議も経ずに、戦争放棄を謳う「憲法9条」をズタズタにする暴挙の恐ろしさは極まりない。
▼いかに公明党が、「敵基地攻撃能力」を自衛権行使の「反撃能力」と言い換え、「先制攻撃」はしないと弁明しても、「相手国が攻撃に出る前に敵基地をたたく」自衛隊の軍事的行為を、どうやって「先制攻撃」でないと証明するのか。詭弁もいいところだ。
▼81年前の<12・8真珠湾攻撃>を思い浮かべたらいい。日本軍が敵国である米軍のハワイ・オアフ島の真珠湾にある米軍基地や艦隊へ、奇襲の「先制攻撃」をかけた。ところが米国の大反撃を食らい、泥沼の太平洋戦争から敗戦へと至った悲劇を、噛みしめたらいい。
購入するトマホーク500発
▼この太平洋戦争の苦い教訓など、どこ吹く風。岸田政権は前のめりに、「敵基地攻撃能力」強化へと突っ走る。長距離巡航ミサイル「トマホーク」500発(約1千億円) を、2027年までに米国から購入する。
トマホークの射程距離は1600キロ、日本に配備されれば北朝鮮を含む朝鮮半島全域、中国本土の一部も射程内に入る。トマホークは全地球測位システム(GPS)を搭載し、ピンポイントで目標を攻撃できる。
▼1991年の湾岸戦争でイラクの軍事施設を破壊するのに使用され、その後はシリア攻撃などの実戦で多用されてきた。そのトマホークを日本のイージス艦に搭載し、沖縄の南西諸島に配備する予定だ。
さらに政府は、陸海空からの発射を視野に、国産も含め10種以上の多様なミサイルの導入を図る。近いうちに国産改良型ミサイル(射程2千キロ)を富士山付近に、北海道にも射程距離3千キロの超音速ミサイルなど、総額5兆円かけて配備する計画を立てている。
▼宇宙空間の軍事利用にも拍車がかかる。2年後には軍事衛星50基を打ち上げ、一体的に運用して情報収集のうえ攻撃目標を特定する。この「衛星コンステレーション」計画により、敵国の軍事施設や海上にある艦艇の位置をリアルタイムで把握し、迅速な武力行使に役立てるという。
メディアと戦争責任
▼さてさて、こうした岸田政権による「防衛費GDP比2%」への暴走を、止めるどころか推進したのが「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」である。その10人のメンバーに、現役のメディア幹部・元幹部が少なくない数を占めているのを、私たちは見過ごしてはならない。
▼政権や軍部への迎合・癒着などの反省から、メディアは「戦争のためにペン・カメラ・マイクを持たない」と誓ったにもかかわらず、「憲法9条」を反故にする「敵基地攻撃能力の保有」を補完するため、さらに「5年以内に十分な数のミサイルを装備すべき」「武器輸出の解禁」「軍拡へ贈税」などの提言をまとめ同意するとは言語道断だ。(2022/12/4)
▼やっぱり公明党は、<下駄の雪>よろしく自民党につき従い、ミサイル発射拠点などをたたく「敵基地攻撃能力の保有」を容認した。これを受けて政府は年内に改定の「安保3文書」に保有を明記する。国会での論議も経ずに、戦争放棄を謳う「憲法9条」をズタズタにする暴挙の恐ろしさは極まりない。
▼いかに公明党が、「敵基地攻撃能力」を自衛権行使の「反撃能力」と言い換え、「先制攻撃」はしないと弁明しても、「相手国が攻撃に出る前に敵基地をたたく」自衛隊の軍事的行為を、どうやって「先制攻撃」でないと証明するのか。詭弁もいいところだ。
▼81年前の<12・8真珠湾攻撃>を思い浮かべたらいい。日本軍が敵国である米軍のハワイ・オアフ島の真珠湾にある米軍基地や艦隊へ、奇襲の「先制攻撃」をかけた。ところが米国の大反撃を食らい、泥沼の太平洋戦争から敗戦へと至った悲劇を、噛みしめたらいい。
購入するトマホーク500発
▼この太平洋戦争の苦い教訓など、どこ吹く風。岸田政権は前のめりに、「敵基地攻撃能力」強化へと突っ走る。長距離巡航ミサイル「トマホーク」500発(約1千億円) を、2027年までに米国から購入する。
トマホークの射程距離は1600キロ、日本に配備されれば北朝鮮を含む朝鮮半島全域、中国本土の一部も射程内に入る。トマホークは全地球測位システム(GPS)を搭載し、ピンポイントで目標を攻撃できる。
▼1991年の湾岸戦争でイラクの軍事施設を破壊するのに使用され、その後はシリア攻撃などの実戦で多用されてきた。そのトマホークを日本のイージス艦に搭載し、沖縄の南西諸島に配備する予定だ。
さらに政府は、陸海空からの発射を視野に、国産も含め10種以上の多様なミサイルの導入を図る。近いうちに国産改良型ミサイル(射程2千キロ)を富士山付近に、北海道にも射程距離3千キロの超音速ミサイルなど、総額5兆円かけて配備する計画を立てている。
▼宇宙空間の軍事利用にも拍車がかかる。2年後には軍事衛星50基を打ち上げ、一体的に運用して情報収集のうえ攻撃目標を特定する。この「衛星コンステレーション」計画により、敵国の軍事施設や海上にある艦艇の位置をリアルタイムで把握し、迅速な武力行使に役立てるという。
メディアと戦争責任
▼さてさて、こうした岸田政権による「防衛費GDP比2%」への暴走を、止めるどころか推進したのが「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」である。その10人のメンバーに、現役のメディア幹部・元幹部が少なくない数を占めているのを、私たちは見過ごしてはならない。
▼政権や軍部への迎合・癒着などの反省から、メディアは「戦争のためにペン・カメラ・マイクを持たない」と誓ったにもかかわらず、「憲法9条」を反故にする「敵基地攻撃能力の保有」を補完するため、さらに「5年以内に十分な数のミサイルを装備すべき」「武器輸出の解禁」「軍拡へ贈税」などの提言をまとめ同意するとは言語道断だ。(2022/12/4)
2022年12月03日
【おすすめ本】菊池真理子『「神様」のいる家で育ちました 宗教2世な私たち』─親の信仰で苦しむ子供、助長する宗教タブーの怖さ=永江 朗(ライター)
本書は、宗教2世の苦悩をテーマにした漫画である。信仰を持つ親による深刻な人権侵害が描かれている。親に宗教行事への参加を強制され、恋愛はおろか友達をつくることすら禁じられ、適切な医療も受けられないことがある。周囲からは特異な目で見られ、孤立している。
扱われている宗教団体はさまざまだ。教団名は明示されていないが、描写からは統一教会、エホバの証人、真光系諸教団、福音派プロテスタント等だと推測される。それぞれ教義は違うが、親が強制して子供が苦しむという点は共通している。
この作品そのものが翻弄されてきた。当初は集英社のウェブメディア「よみタイ」に連載されていたのだが、22年1月26日に公開された第5話が2月10日で公開終了になった。そして3月17日には連載そのものを集英社が終了し、全話の公開を中止した。
本書のあとがきには、「5話までアップされた後ある宗教団体から出版社あてに抗議を受けた」と書かれている。ちなみに第5話は幸福の科学を扱ったものと思われる。3月22日、共同通信がこの問題を配信し、広く知られるところとなった。
その直後、文藝春秋が著者に声をかけ、10月10日、本書の発売につながるのだが、安倍晋三銃撃事件がきっかけで宗教二世の状況が、にわかに注目されることになる。
本書刊行の経緯を振り返って痛感するのは、大手出版社に蔓延する事なかれ主義であり、宗教タブーの根強さである。宗教団体の怒りを買うと、しつこく抗議活動をされて面倒だから、そのテーマは避けようという空気だ。その空気が宗教2世たちを孤立させ、苦しめてきたのである。(文藝春秋1000円)
扱われている宗教団体はさまざまだ。教団名は明示されていないが、描写からは統一教会、エホバの証人、真光系諸教団、福音派プロテスタント等だと推測される。それぞれ教義は違うが、親が強制して子供が苦しむという点は共通している。
この作品そのものが翻弄されてきた。当初は集英社のウェブメディア「よみタイ」に連載されていたのだが、22年1月26日に公開された第5話が2月10日で公開終了になった。そして3月17日には連載そのものを集英社が終了し、全話の公開を中止した。
本書のあとがきには、「5話までアップされた後ある宗教団体から出版社あてに抗議を受けた」と書かれている。ちなみに第5話は幸福の科学を扱ったものと思われる。3月22日、共同通信がこの問題を配信し、広く知られるところとなった。
その直後、文藝春秋が著者に声をかけ、10月10日、本書の発売につながるのだが、安倍晋三銃撃事件がきっかけで宗教二世の状況が、にわかに注目されることになる。
本書刊行の経緯を振り返って痛感するのは、大手出版社に蔓延する事なかれ主義であり、宗教タブーの根強さである。宗教団体の怒りを買うと、しつこく抗議活動をされて面倒だから、そのテーマは避けようという空気だ。その空気が宗教2世たちを孤立させ、苦しめてきたのである。(文藝春秋1000円)
2022年12月02日
【映画の鏡】転んでも立ち上がる復元力 『百姓の百の声』 お百姓さんが素晴らしいことがわかります=伊東良平
百姓という言葉は放送禁止用語だそうだ。このことについて、映画の柴田昌平監督は「農業に対して近代の日本人が抱いてきた、ぬぐいがたい差別意識のようなものが横たわっていると感じる」と語っている。
2007年に映画「ひめゆり」でJCJ特別賞を受賞した柴田監督が4年をかけて全国の農家を訪ねて作り上げたのがこの作品である。私たちは毎日農家が作った食物を食べているのに、あまりその背景を考えないでいるのではないか。全国のお百姓さんが知恵と工夫を活かしていまの農業に取り組んでいる姿を単刀直入なインタビューでまとめた。
この映画にメインで登場する13組の農家だが、それぞれがいろいろな課題を抱えながらも前を向いていて力強い。それは品種や栽培方法であったり、有機野菜の生産と販売や地域内の循環など、ひとつ一つのテーマを克服していく様子を見ていると、これからの農業に希望が持てる。それがお百姓さんの底力であり素晴らしいところだと画面が訴えかけてくる。ただ、登場人物の多くが高齢であることが気になった。映画を若い人が見て、農業の面白さを知るきっかけになってほし。
2時間10分という長尺だが、美しい映像も伴って時間を感じさせない迫力があった。
11月5日から東京・ポレポレ東中野で上映されるが、柴田監督は映画を観て終わりではなく農家と消費者が交流する場を作りたいと、その交費などを得るためのクラウド・ファンディングも行っている。また映画を通して対話を生み出そうと農村での移動上映会を開く希望も温めている。
伊東良平
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
2022年12月01日
【22年度受賞者スピーチ】特別賞 沖縄タイムス社 「ちむわさわさ」もある 東京支社報道部長・照屋剛志さん
沖縄タイムスなどが行った世論調査によると、沖縄県民の86%が日本に復帰して良かった回答しました。日本に復帰したおかげでインフラが整備されたり、所得が向上したり、安全のなり暮らし向きが良くなったことが反映しているという分析もあります。
考えてみたら、復帰前の方が悪いに決まっています。米軍に支配されていたのですから。婦女暴行や、殺人やひき逃げがあったりしても、それを裁く軍法会議では米軍は無罪になったり、住民が選んだ那覇市長が事実上追放されたりも。
そもそも人権さえ蹂躙されている状態で、沖縄の先人たちは、日本への復帰をすごく求めてきて、やっと果たした。そうした復帰については非常に大事にとらえて報道していきたい。
でも、沖縄の場合、アメリカに支配されたととらえがちだが、つまり軍隊に支配された27年間でした。その軍隊はまだ残っています。
50年前の日本復帰式典は5月15日に那覇市で開かれたが、その隣では反対集会も開かれました。賛否分かれた復帰を迎え今に至る。軍隊は残ったまま復帰50年を迎えました。たしかに暮らし向きはよくなった。高速道路もできたし、モノレールもできた。僕、個人も日本に復帰してよかったな、と思います。でも暮らし向きがよくなったのは沖縄だけではないですよね。日本全国みんなが発展してきました。
なのになぜ沖縄だけが復帰のたびに「日本に復帰してよかったですか」と聞かれなければいけないのでしょう。
世論調査では、もう一方の回答があり、沖縄県民の89%が本土との格差を感じると答えています。基地の問題も、離島県で輸送コストがかかり、なかなか所得が上がらない現状もある。本土との格差を抱えながら、「良かった」と答えている沖縄県民の気持ちも、皆さんに知っていただきたい。
日本復帰というのは、「ちむどんどん」だけではない。「ちむわさわさ」も「わじわじ」も「なだそーそー」もしました。そういう思いををふくめて、沖縄の日本復帰のをとらえてほしいと思います。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号