2022年12月02日
【映画の鏡】転んでも立ち上がる復元力 『百姓の百の声』 お百姓さんが素晴らしいことがわかります=伊東良平
百姓という言葉は放送禁止用語だそうだ。このことについて、映画の柴田昌平監督は「農業に対して近代の日本人が抱いてきた、ぬぐいがたい差別意識のようなものが横たわっていると感じる」と語っている。
2007年に映画「ひめゆり」でJCJ特別賞を受賞した柴田監督が4年をかけて全国の農家を訪ねて作り上げたのがこの作品である。私たちは毎日農家が作った食物を食べているのに、あまりその背景を考えないでいるのではないか。全国のお百姓さんが知恵と工夫を活かしていまの農業に取り組んでいる姿を単刀直入なインタビューでまとめた。
この映画にメインで登場する13組の農家だが、それぞれがいろいろな課題を抱えながらも前を向いていて力強い。それは品種や栽培方法であったり、有機野菜の生産と販売や地域内の循環など、ひとつ一つのテーマを克服していく様子を見ていると、これからの農業に希望が持てる。それがお百姓さんの底力であり素晴らしいところだと画面が訴えかけてくる。ただ、登場人物の多くが高齢であることが気になった。映画を若い人が見て、農業の面白さを知るきっかけになってほし。
2時間10分という長尺だが、美しい映像も伴って時間を感じさせない迫力があった。
11月5日から東京・ポレポレ東中野で上映されるが、柴田監督は映画を観て終わりではなく農家と消費者が交流する場を作りたいと、その交費などを得るためのクラウド・ファンディングも行っている。また映画を通して対話を生み出そうと農村での移動上映会を開く希望も温めている。
伊東良平
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号