2022年12月03日

【おすすめ本】菊池真理子『「神様」のいる家で育ちました 宗教2世な私たち』─親の信仰で苦しむ子供、助長する宗教タブーの怖さ=永江 朗(ライター)

 本書は、宗教2世の苦悩をテーマにした漫画である。信仰を持つ親による深刻な人権侵害が描かれている。親に宗教行事への参加を強制され、恋愛はおろか友達をつくることすら禁じられ、適切な医療も受けられないことがある。周囲からは特異な目で見られ、孤立している。
 扱われている宗教団体はさまざまだ。教団名は明示されていないが、描写からは統一教会、エホバの証人、真光系諸教団、福音派プロテスタント等だと推測される。それぞれ教義は違うが、親が強制して子供が苦しむという点は共通している。

 この作品そのものが翻弄されてきた。当初は集英社のウェブメディア「よみタイ」に連載されていたのだが、22年1月26日に公開された第5話が2月10日で公開終了になった。そして3月17日には連載そのものを集英社が終了し、全話の公開を中止した。
 本書のあとがきには、「5話までアップされた後ある宗教団体から出版社あてに抗議を受けた」と書かれている。ちなみに第5話は幸福の科学を扱ったものと思われる。3月22日、共同通信がこの問題を配信し、広く知られるところとなった。

 その直後、文藝春秋が著者に声をかけ、10月10日、本書の発売につながるのだが、安倍晋三銃撃事件がきっかけで宗教二世の状況が、にわかに注目されることになる。
 本書刊行の経緯を振り返って痛感するのは、大手出版社に蔓延する事なかれ主義であり、宗教タブーの根強さである。宗教団体の怒りを買うと、しつこく抗議活動をされて面倒だから、そのテーマは避けようという空気だ。その空気が宗教2世たちを孤立させ、苦しめてきたのである。(文藝春秋1000円)
神様.jpg
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする