2022年12月07日

【月刊マスコミ評・新聞】沖縄の選挙 報道をていねいに=六光寺 弦

  沖縄の過重な基地負担は日本復帰から50年たっても変わらない。負担を強いている日本政府は、選挙を通じて合法的に成り立っている。だから沖縄の基地負担は国民全体の選択であり、だれもが当事者だ。基地を巡り沖縄で起きていること、沖縄の民意は、日本本土でも広く知られなければならない。本土メディアの責任は大きい。
 10月23日の那覇市長選で、自民、公明両党推薦の前副市長の知念覚氏が、玉城デニー知事らの「オール沖縄」が支持する元県議で、故翁長雄志元知事の次男の雄治氏を破り初当選した。米軍普天間飛行場の辺野古移設に、雄治氏が反対を訴えたのに対し、知念氏は「国と県の係争を見守る」との立場だった。辺野古移設は双方の主張がかみ合う争点ではなかった。
これで、ことしの県内7市長選でオール沖縄は全敗。懸念されるのは、辺野古に触れなかった自公系候補の立場を「辺野古移設容認」「黙認」などとねじ曲げ「沖縄の民意は辺野古移設を受け入れている」などと主張する言説が流れることだ。
 那覇市長選の結果を、東京発行の新聞各紙のうち1面で報じたのは、辺野古移設推進が社論の産経のみ。総合面の関連記事では「米軍基地問題などをめぐる県と市のスタンスにずれが生じ(中略)玉城デニー知事の県政運営に影響を及ぼすのは必至だ」と踏み込んだ。もはや知事は辺野古移設反対を維持できない、と言いたげだ。

 他紙は総合面に本記のみ。読売は全文20行、日経は雑報扱いの11行だった。毎日は35行余と幾分長めだが、見出しは「那覇市長に自公系/知念氏、反辺野古派破る」。見出しだけ見た人に、知念氏は辺野古移設推進、容認だと受け取られかねない。
 翌日の紙面では朝日が、選挙を振り返り、オール沖縄の今後の展望を探る詳細なリポートを掲載した。民意が辺野古移設容認に変わったことを意味しないことがようやく伝わる。しかし、他紙にそのような報道は見当たらない。
 那覇市長選は、引退する現職市長がオール沖縄離脱を表明して知念氏支援に就くなど、複雑で分かりにくい構図があった。それも過重な基地負担のゆえだ。
 複雑で分かりにくいからこそ、詳しく、ていねいに報じる必要がある。
 六光寺弦
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする