2022年12月11日

【今週の風考計】12.11─導入する「インボイス制度」の落し穴と危ない狙い

1千万人に強いる負担
来年10月から消費税に「インボイス(適格請求書)制度」が導入される。この制度で低所得の一人親方や個人タクシー、フリーランスのライター、さらには俳優・声優・漫画・アニメ・演劇などに携わる計1千万ともいわれる人々に、大きな負担と犠牲が被さってくる。
 現在、年間の売り上げや年収が1000万円以下の法人や個人事業主には、消費税の納入が免除されている。それを改悪するのが「インボイス制度」だ。
免税事業者にも、「インボイス事業者」として登録させ、消費税を徴収するひどい内容だ。財務省では、免税事業者約488万のうち約160万が課税事業者に変更し、2480億円の税収増が得られると試算している。
 これまで消費税が免除されていた年間売り上げ300万円のフリーランスが、「インボイス制度」により課税事業者となった場合、消費税の納税額は約13万6000円という計算になる。消費税の負担増で手取りが減る上に、義務づけられる「インボイス」発行には、従来の請求書では不要の記載項目が増えるため、煩雑な事務処理が加わる。
さらに「インボイス」が添付されなければ消費税の還付が受けられないようにした。すなわち「インボイス事業者」でなければ「インボイス」が発行できないため、還付申告をする事業者からは敬遠され、あげくに排除され仕事を失うのは目に見えている。

輸出企業への「優遇税制」
この消費税還付という仕組みには落し穴がある。これを巧みに使いまわし消費税を納めず還付金で潤う大企業があるのだ。その実態が明らかにされつつある。トヨタ自動車をはじめ日本を代表する輸出大企業10社が、2020年度だけでも合計1兆2千億円余りの消費税が、国から還付されている。
 それは輸出取引には消費税が免除されているからだ。輸出企業は消費税を1円も納税せず、確定申告により国内で仕入れた商品に支払った消費税を還付してもらうことができる。まさに消費税は、輸出企業への「優遇税制」となっているのだ。
コロナ禍で中小業者やフリーは所得が激減・赤字に転落、法人税や所得税は免除されても、消費税だけは納めなければならぬ。大企業のように価格に100%転嫁し、消費税を“預り金”にして内部保留し、後で還付してもらう特典を享受できればいいが、低所得者には、そんな余裕などない。低所得の中小業者・フリーには徴税、輸出企業には還付。あまりにも露骨な格差・弱肉強食の消費税制ではないか。
しかも輸出企業にとっては、消費税がアップされようとも、消費税分の金額が還付されるのだから、痛くもかゆくもない。かえって国内取引をやめて海外取引を加速するのは目に見えている。
 さらに還付制度を悪用して「海外取引」と偽装し、多額の還付金を詐取する事件まで発生している。消費税の不正還付による追徴税額は、前年比3倍の111億円に上る。

財務省の真の狙い
もう一度「インボイス制度」に戻ろう。財務省の狙いはどこにあるのか。本音は財務省の悲願・消費税の再々増税にある。
 2019年10月に消費税を2%アップし10%にしたが、2020年度の消費税収入は20兆9714億円(全税収の34.5%)で過去最高となった。2021年度の消費税収入は前年度より9172億円多い21兆8886億円(同32.6%)。毎年1兆円の増収が目論める。
この実績を見れば、財務省が防衛費43兆円を支える「安定財源」として、消費税に期待し税率を引き上げたいと考えるのは自然な発想だ。その地ならしに「インボイス制度」を導入し、課税対象を拡大しておくという伏線が敷かれているのは間違いない。(2022/12/11)
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする