拉致問題は小泉総理の訪朝以来目に見える進展がないまま、被害者家族が次々に鬼籍に入っている。ジャーナリストとしても国会議員としても拉致問題に関わり続けてきた著者は本書で、拉致問題が進展してこなかったのはなぜかを問い、採るべき方策を提起する。本書に登場する「極秘文書」は、帰国した拉致被害者5人に政府が聞き取り調査をした報告書で、公開されるのは本書が初めて。スクープである。ここには、拉致被害者らしい「久我よしこ」なる人物、また40代の二人の男性の存在など、北朝鮮との交渉で利用すべき情報が満載だ。だが圧力一辺倒の安倍政権によりこの貴重な文書は死蔵されてきた。
2014年5月、日朝はストックホルム合意を結び、北朝鮮は拉致被害者らの再調査を約束。これを受け北朝鮮は拉致被害者、田中実さんら二人が北朝鮮で生存しているとの重大情報を日本政府に伝えてきたのに、政府はこの報告の受け取りを拒否した。今年9月、当時の外務事務次官だった斎木昭隆氏が「新しい内容がなかったので報告書は受け取りませんでした」と朝日新聞に認め、この事実は確認された。横田めぐみさんなど有名な被害者の「新しい」情報がなければ「得点」にならないとの判断だろう。こうした拉致問題の政治利用が「やってる感」だけの安倍外交の特徴だった。
著者は、北東アジアの平和という大きな構図を描きながら、地道に交渉を積み上げるまっとうな外交への復帰を訴える。なんとか事態を動かしたいとの思いがほとばしり出る渾身の書である。(集英社新書820円)