2023年01月31日

【おすすめ本】平野久美子『異状死 日本人の5人に1人は死んだら警察の世話になる』―人生の最期が異状死となる現在 その実態と背景に迫る=久保 真一(福岡大学教授)

本書のタイトルである「異状死」をご存知だろうか。法医学の定義では、「明らかな病死以外の全ての死」であるが、一般的なイメージとしては「変死」、「犯罪死」に近いものではないだろうか。表紙にある「日本人の5人に1人は死んだら警察の世話になる」は、私が著者の取材に答えた内容の一部である。超高齢社会となった現在、異状死が身近な死となっている。にも関わらず、異状死は未だ社会的に認知されてはいない。

著者は、自らの両親が異状死となった経験から、異状死の問題に直面することとなった。元気に日々を過ごし、自宅で亡くなった父親は、死因が不明ということで異状死の扱いとなった。長患いすることなく、家族と暮らし自宅で亡くなる、大往生で理想の死とも思える人生の最期が異状死となり、警察の犯罪捜査の対象となる。そして家族の死を悼むはずの遺族は、警察の事情聴取を受け、時には死体解剖となる。どうして異状死となるのか、どうしたら異状死とならないのか。著者は、異状死となった遺族の心情から、日本の死因究明制度、異状死の取扱い制度、在宅医療、かかりつけ医のあり方まで、異状死を取り巻く諸問題を多角的に取材している。

令和2年死因究明等推進基本法が施行され、死因究明の充実が期待される。一方で、変死、犯罪死でない死亡が異状死となる現状を改善するには、法律だけでなく、異状死問題への社会的理解が欠かせない。
普通の死、在宅死が異状死になる現状の認識が社会に広がることが、人生の最期を、警察による捜査ではなく、医療として診とる制度作りに繋がることが期待される。本書は、日本の異状死の課題と現状を知る最良の書と考える。多くの人に本書を読んでもらいたい。
(小学館新書900円)
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2023年01月30日

【東京五輪選手村訴訟】第3回控訴審は3月14日に開く、原告側の不動産鑑定意見書が証拠採用=橋詰雅博

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原告側らが発行する最新会報誌


  都民が小池百合子都知事らを相手取った東京五輪選手村訴訟の控訴審第3回口頭弁論は3月14日(火)午前11時20分から101号法廷で開かれる。

 昨年12月15日開かれた第2回口頭弁論では選手村土地を9割引とした日本不動産研究所の価格評価の間違いを明らかにした田原拓治不動産鑑定士の鑑定意見書が証拠として採用された。原告側には大きな収穫だ。原告団からこの報告を聞いた田原氏は「よくぞ裁判官に証拠として採用させたと、その努力に敬服いたします。少し明るい光が見えてきたように感じられますと」と感想を述べた。
 被控訴人(都側)は田原意見書への反論書を裁判所に2月末まで提出するが、被告がよりどころとした選手村要因を考慮した土地価格は開発法でしか算出できない点について、田原意見書はこう指摘している。ちなみに開発法はこの土地にマンションなどを建てて販売したら、いくら儲かるかを基準としたデベロッパー目線による評価方式だ。

 <選手村要因は建物の工事費の問題であり、土地価格への影響を考慮して判断すべきという前提自体が誤り。従って、取引事例比較法による正常価格を出せるし、これと方法が違う開発法のみでの価格決定は複数の手法で価格評価すべしという鑑定基準に違反する。また近隣の公示価格とも比べないのは公示価格法違反である>
 裁判長は、被告の反論書をみてから田原氏の法廷での証人尋問が必要かどうか判断するという。
 被告・東京都の反論書の内容が見ものだ。

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2023年01月29日

【今週の風考計】1.29─世界に広がるジャーナリストへの弾圧を止めよう!

ジャーナリストの死者67人
★米国のNGO「ジャーナリスト保護委員会」(CPJ)が、2022年の1年間で職務中に死亡したジャーナリストは世界で67人に上り、前年の2倍を超えたと発表した。地域別での死者は中南米がトップで30人を超える。国別にみるとウクライナが最多の15人、メキシコで13人、ハイチで7人が死亡。
★またパリに本部があるNGO「国境なき記者団」の調査によると、昨年12月1日時点で、投獄されているジャーナリストは533人、過去30年間で最大となった。国別でみると中国が110人でワースト1位、次いでイランが47人、3位にミャンマー26人が続く。
 ウクライナ侵攻などの紛争地の取材で命を落とすケースに加え、犯罪や汚職、さらには政権に対する取材が起因して拘束される事例が、ここにきてとみに高まっている。

日本人ジャーナリストとミャンマー
★とりわけ日本とも交流の深いミャンマーを考えてみよう。2年前の2021年2月1日、国軍のクーデターにより、民主的な選挙で樹立のアウンサンスーチー政権が転覆された。それ以降、ミャンマーでは市民や少数民族の人びとが殺され、また内外のジャーナリストが相次いで拘束され、収監・投獄が続いている。
★フリー・ジャーナリストの北角裕樹さんは、クーデター以前から現地で取材を続け人々の声を日本に伝えてきた。ところが国軍のクーデター後、民主化を求める人々の様子を報道するや否や、ミャンマー警察に一時拘束、すぐに解放されたが、2021年4月18日にはミャンマー国軍情報部に再び拘束され、ヤンゴン市内のインセイン刑務所に収監されてしまった。
 日本政府の働きかけにより5月14日に解放されたものの、日本への帰国が強いられた。
★続いて日本人ジャーナリストの久保田徹さんが昨年7月30日、ヤンゴンで抗議デモを撮影中に拘束された。その後、扇動罪と電子通信に関する違反などの罪で起訴され、刑務所内で行われた非公開裁判で、禁錮10年の有罪判決を受け、ヤンゴン刑務所に収監されるに至った。だが国際的な非難や日本政府の要請もあり、11月17日に釈放され日本へ帰国した。

糾弾されるミャンマー国軍への資金援助
★この2月1日は、ミャンマー国軍によるクーデターから、ちょうど2年がたつ。ミャンマーの人権団体「ジャスティス・フォー・ミャンマー」(JFM)は報告書を公表し、あらためて64の外国政府・国際機関がミャンマー国軍に支援を続けていると糾弾した。特に国軍への接近・支援が目立つ国として中国とロシアを挙げている。
★日本については、防衛省が日本国内で行っているミャンマー国軍士官らの教育訓練そのものが国軍への支援であり、また日本の政府開発援助(ODA)による最大都市ヤンゴンとティラワ経済特区を結ぶバゴー橋建設事業も、ミャンマー国軍系企業への資金投入を通じて国軍への資金援助だと指摘している。

政府へODA見直しを求める署名
★日本国内にあるNGO 5団体が、「#ミャンマー国軍の資金源を断て」キャンペーンを行ってきたが、さらに運動を強化するため、政府に対して対ミャンマー政策の再構築を求める共同声明を発表し、賛同署名の呼びかけ運動を開始している。
★その中身は、まず国軍の暴力停止、続いて国軍との政府開発援助(ODA)の見直し、さらに国軍や国軍系企業が関与するビジネスの停止、ミャンマー市民や内外のジャーナリストらの「表現の自由」への保障などを挙げている。市民や市民団体から広く賛同署名を集め、2月1日に日本政府に提出するという。(2023/1/29)
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2023年01月28日

【JCJオンライン講演会】2月4日(土)午後2時から4時 ロシアのウクライナ侵略と日本の安全保障 〜敵基地攻撃と軍事費大幅増の危うさ〜 講師:歴史学者 纐纈 厚さん(明治大学国際武器移転史研究所 客員研究員)

                           
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 2007年に防衛庁が省に格上げされた当時から指摘されていたように、日本は軍事的力量や法制面で、「いつでも戦争ができる国」としてすでに登場している。そして今や、政府は軍事費の大幅増により、武器の爆買いをし、敵基地攻撃能力の保持を目指し、核の共有議論までしようとしている。
 ロシアのウクライナ侵攻の長期化、北朝鮮、中国の動向などが口実とされている。このような事態を私たちはどう考え、どのような未来を見つけたらよいのか。今、しっかり立ち止まって論議を尽くさねばならない時ではないでしょうか。長年、日本の軍事的側面を研究分析してこられた纐纈厚さんに「日本の安全保障」について講演をお願いした。

【講師の略歴】
 纐纈 厚(こうけつ・あつし)
 1951年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、明治大学国際武器移転史研究所客員研究員、山口大学名誉教授(政治学博士)、東亜歴史文化学会会長、植民地文化学会代表理事。この他に全国革新懇談会代表世話人、共同テーブル発起人、「重慶爆撃を継承する会」「中国文化財の返還を求める会」の共同代表などを務める。

参加費:500円
当オンライン講演会に参加希望の方はhttps://jcjonline0204.peatix.com/viewで参加費をお支払いください。
(JCJ会員は参加費無料。jcj_online@jcj.gr.jp に別途メールで申し込んでください)主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)03-6272-9781(月水金の13時から18時まで)https://jcj.gr.jp/
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【22読書回顧】―私のいちおし 助力者としての男性像とは=谷岡 里香(メディア総合研究所所長)

                         
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 『新しい声を聞くぼくたち』(講談社)の著者河野真太郎氏は、異性愛者の男性で、大学教員で健康な肉体を持つマジョリティの一人である。そうした自身の社会的階層を自覚した上で、男性間にある階級や障害等の横断的な交差性(インターセクショナリティ)を多くの事例を基に解説する。 
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  新自由主義とグローバル化の中で社会の至る所で分断が見られる現在、マジョリティである「ぼくたち」はどういう声に耳を傾けると良いのか。筆者は国内外の映画を題材に男性性の生き残り戦略として「助力者」という言葉をあげる。この点は自身の弱さを認め仲間の力を得て成長する男性像に共感が集まることと呼応している。
 「イクメン」の危険性にも言及する。子育てに熱心な父親は女性差別意識が高い。「イクメン」は自己管理能力を重視する新自由主義の申し子という側面も持つのである。
  筆者はゴールに「ケアする社会」を置く。超高齢社会にあって他者への正しい依存も許されず、市場からの脱落は「自己責任」と烙印を押される時代にあって、「助力者」や「ケアする社会」は成熟を思わせる。マジョリティの男性が男性性を考えることは社会を変えることに繋がっている。

 山口智美・齋藤正美・荻上チキ著『社会運動の戸惑い フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房)が発行されたのは2012年であるが、今年電子書籍版が出た。本書は、フェミニスト側の著者たちが、反フェミニズム運動(世界日報社は最も恐れられた組織である)の複数の中心人物に直接会って対話をした記録である。
 21世紀初頭のバックラッシュ時、ジェンダーを敵視する側の運動を、組織的犯行と筆者も思い込み恐怖を感じていた。しかし実際は、地域で誠実に活動し信頼を得た上で反対運動をしている人物が複数いた。保守の地道な草の根運動に対して、フェミニズムのそれはどうであったか。
 改めてジェンダー問題の足元を批判的に見る機会を与えてくれる一冊。

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2023年01月27日

【オピニオン】憂慮すべき子どものスポーツ離れ=大野晃

  正月は、高校生の全国大会が集中した。新型コロナウイルス感染症の拡大防止策が緩和され、3年ぶりに正常化した大会が多かったが、ラグビーのように、部や部員不足で都道府県代表戦が行われず、不戦勝で全国大会出場権を得たケースが2県で報告された。複数校の合同チームに大勝しての出場権獲得もあった。
  少子化の深刻化に加え、コロナ禍で部活動が思うようにできず、部や部員減少が急速に進んだようだ。特徴的なのは、公立校での減少が極端に進んでいながら、私立の有力校には100人を超す部員が集中し、地域や学校の格差が顕著に拡大したことだ。

 野球やサッカーと、その他の競技の競技間格差も激しい。競技に挑戦する高校生の特殊専門化が、かつてないほどの広がりを見せ、先細りが懸念される。コロナ禍で競技に親しむ条件が極度に制限されて、気楽に、競技に取り組めなくなったことが大きな要因だろう。
 それだけ、子どもたちのスポーツ離れが進んでいる。全国高校体育連盟が、高校総体への合同チームの参加を認めるなど合同チームを容認する競技が増えたが、小手先の対策でしかない。 
 
 文科省は、教員の負担軽減のため、中学部活動の地域への移行を方針として示したが、地域の受け皿が少なく、頓挫した。1970年代に国民スポーツ振興を目指して各地の公共スポーツ施設つくりを推進した文科省が、1980年代に方針転換して、地域スポーツの主力を民間企業に任せ、商業主義的な国民スポーツ施策を後押しして、地域でのスポーツ組織つくりを放棄したため、自主的な地域スポーツが大きく制限された。

 文科省の先導で、自主的な地域スポーツを育てる環境条件が極端に劣悪化したことを忘れてはなるまい。これに沿って、地方自治体によるスポーツ振興の後退が一般化し、地方公共施設は、民間企業の運営となるとともに、高額を求められる民間企業のジムや教室が、地域スポーツの拠点化した。
  しかし、全国的に、少子化や長引く不景気が、文科省が頼りとすり民間企業の撤退や減少に拍車をかけている。 中学部活動の地域移行は、いわば、文科省が公共的な地域スポーツ振興を捨ておいて、苦し紛れに、地域に任せるというのだから、失政の責任を子どもたちに押しつけるようなものだ。
 子どもたちのスポーツ参加の極端な減少は、将来の国民のスポーツ離れを促進する危険性がある。 働く世代のスポーツ参加は、相変わらず散歩か軽い体操程度だ。 職場でのスポーツ機会は、皆無に近くなった。
 マスメディアは、商業主義的に、トップ競技者の競い合いだけに目を向けて、「スポーツの力」なるものを煽ることに専念しているが、トップ競技者を育てる基盤の危うさには沈黙を決め込んでいる。

 商業主義の暴走で、色あせたオリンピックの再生すら課題にはしていない。文科省、スポーツ庁、そして何にでも沈黙する日本オリンピック委員会、日本スポーツ協会、さらに商業主義的利益しか眼中にない地方自治体の沈黙。
 そして、公共スポーツ組織への批判を回避して、商業主義的利益にまい進するマスメディアの逃避。 これでは、日本スポーツは減退するばかりだろう。
 日本人から、スポーツに親しむ豊かな生活を奪う動きに違いない
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2023年01月25日

【オピニオン】統一教会追及、監視を メディアは改めて奮起を=河野慎二

  統一教会の被害者救済をうたった「被害者救済」新法が12月10日、会期末の国会で成立した。
与野党間では、マインドコントロール下での献金の禁止を主張する野党と、勧誘側に「当事者の自由意思を抑圧しないようにする」ことを「配慮義務」にとどめる政府の主張が対立、配慮義務の規定に「十分に」と文言を追加することで与野党が妥協した。
 だが、全国霊感商法対策弁護士連絡会は「配慮義務では『配慮した』との言い逃れが可能。『十分に』と修正しても効果は乏しいのでは」と危惧する。それは、今回の法律が、寄付(献金)の規制であり、統一教会問題の本質である、正体を隠した伝道によって引き起こされたさまざまな人権侵害などの被害を防げないからだ。

 16日法務省が公表した政府から日本司法支援センター(法テラス)に移管した霊感商法など宗教問題の窓口に寄せられた被害相談は、運用開始の11月14日から月末までの半月で428件の相談があり、統一教会関係は約4割の172件。「金銭トラブル」が最も多く6割を占めた。それ以外では「心の悩み」が14%、「親族関係」が11%と続き、養子縁組に関する相談もあったという。

 統一教会問題で政府は関係省庁連絡会議を設け、9月5日に合同電話相談窓口を開設。同月28日までに2251件の相談が殺到。22日時点の1952件について9月末に公表した分析資料によれば統一教会がらみの被害相談は1317件で、その7割が「金銭トラブル」。相談者の寄付(献金)の支出期間でもっとも多かったのは20年以上の37%。2〜5年の7%とあわせ5年以内は25%に達し、「1年以内」との回答も18%を占めた。
 「祝福結婚や先祖解怨といった名目で10年にわたり10万程度〜数百万円の献金を多数繰り返したが取り戻せるか」「家族がこれまで1億円を超えて献金し借金で自己破産した」などの訴えは、統一教会が、メディアの統一教会追及が低迷したのをいいことに「悪行」を重ねてきた事実を物語る。

 シンポ「統一教会の実像に迫る」(本紙11月号で既報)で藤森研氏が「統一教会の悪行は、まだ全然解明されていない。組織を持っているところは、韓国に取材に行って調べることが出来る。もっと調査報道をやらないと、社会的責任を果たせない」と指摘し、大手メディアに奮起を促した。
 その「空白の30年」に統一教会は国政、地方政治にも浸透。鈴木エイト氏は「(教団との)関係を断つ」と表明している自民党への監視報道の継続を求め、金平茂紀氏は「国会は機能せず、統一教会の本質的な問題がおざなりに扱われていると警鐘を鳴らした。メディアには反省と改めて奮起が問われている。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号

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2023年01月24日

【フォトアングル】横田基地へのオスプレイ配備反対の東京集会=酒井憲太郎撮影

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横田基地にオスプレイはいらない東京大集会が開かれ、主催のオスプレイ反対東京連絡会発表で約9百人が参加した。国会議員らのスピーチの後、「横田基地の撤去」を提起する集会アピールを採択した。参加者は「横田基地にオスプレイはいらない」「日本のどこにもオスプレイはいらない」とシュプレヒコール。集会後、横田基地に向かいアピールのデモ行進をした。11月13日、東京都福生市の多摩川中央公園
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
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2023年01月23日

【22読書回顧】―私のいちおし  沖縄問題を固定化するもの、その正体に迫る 黒島美奈子(沖縄タイムス論説副委員長)

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 在日米軍基地が集中し、事件・事故など基地問題の解決は遅々として進まない。沖縄の子どもの3人に1人は相対的貧困で、その割合は全国に比べ多い。
 沖縄が日本に復帰して50年がたっても変わらぬ二つの景色。その理由のすべては「本土優先―沖縄劣後」の構造から発生する「自由の不平等」にあった―。

 安里長従さんと志賀信夫さんの共著「なぜ基地と貧困は沖縄に集中するのか?」(堀之内出版)は、琉球処分から現代まで沖縄を取り巻く事象が、なぜ、どのように発生し、どんな影響を沖縄に与えたのかを紐解く一冊である。
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 著者2人の出会いが面白い。安里さんは石垣市出身で那覇市在住の司法書士。志賀さんは宮崎県出身で県立広島大学の准教授。2人を結びつけたのは貧困問題だった。
 司法書士として多重債務問題の解決に取り組んできた安里さんは、貧困問題にもまなざしを向けるようになる。そこで出合ったのが志賀さんの提唱する「貧困理論」だ。

 「沖縄の深刻な貧困問題は、基地問題を避けては説明ができないのではないか」と考えていた安里さんは、貧困の背景に社会的排除があるとする理論の中に、沖縄の基地問題と貧困問題を一体的に解決する道筋を見いだしていく。
 貧困理論が沖縄の基地問題の構造を明らかにするという視点は、志賀さんにとっては新たな挑戦であったようだ。
 沖縄振興、沖縄ヘイト、沖縄論など、沖縄の基地問題や貧困問題を巡って派生するさまざまな事象についても解説。どんな構造の下で、何を目的に生まれてきたのか、さまざまな理論を用いて丁寧にほどいていく。
 復帰50年の節目の年はもうすぐ終わる。ポスト復帰の時代、次の50年ではきっと違う景色を見たい。「沖縄問題」の解決を阻む正体を知り、挑むため読むべき一冊である。
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2023年01月22日

【今週の風考計】1.22─流星群の襲来と「アルテミス計画」への不安

今年は流星群の当たり年
旧友からの年賀状に「会いたいね!」の1行があった。これに勇を得て、3年ぶりに旧友と会い酒を酌み交わし歓談した。
 その余韻を胸に帰宅の道すがら夜空を仰ぐと、ウサギの跳ねる月が輝き、「冬の大三角」や「オリオン座」が光っている。今年の日本の空は、流星群が襲来する当たり年だそうだ。
さっそく三大流星群の一つ「しぶんぎ(四分儀)座」流星群が、新年早々4日の明け方、襲来したという。気づいたのが遅く悔やまれる。
 4月には「こと座」流星群(4/23)を始め、「みずがめ座」(5/6)、「ペルセウス座」(8/13)、「りゅう座」(10/9)、「オリオン座」(10/22)、「しし座」(11/18)、「ふたご座」(12/14)、「こぐま座」(12/23)の流星群が次々に襲来する。星座図を繰りながら、それぞれの位置を確かめるのに四苦八苦。

つづく太陽系外惑星の発見
先日、41光年先の宇宙空間に、地球とほぼ同じ大きさの惑星があるのを、「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡を使って確認したとの報告が発表された。
 この太陽系外惑星は、南天の「はちぶんぎ(八分儀)座」の方向にあり、「LHS 475 b」と名付けられている。その直径は地球の99%、表面温度は地球より250℃も高いそうだ。さらに地球でいえば太陽に当たる赤色矮星「LHS 475」を、約2日の周期で公転していることが確認された。
また分光観測を行うと惑星の大気にどんな物質が存在するか分かるが、もしCO₂と雲の成分が検出されれば、金星に似た惑星の可能性もあるという。
これまでに多くの太陽系外惑星が見つかっている。昨年6月には、「ふたご座」の方向32.6光年先にある恒星を公転する2つの太陽系外惑星も発見された。この惑星は、1つは地球の1.2倍、もう1つは1.5倍の大きさで、岩石惑星(スーパーアース)とみられる。表面温度は、1つは435℃、もう1つは284℃と推定されている。

「アルテミス計画」に漂う不安
宇宙の探査や研究は年ごとに加速し、国際的な共同プロジェクトが進む。人類を再び月に送る国際宇宙探査「アルテミス計画」も、その一つだ。米国をリーダーにして本格的に動きだした。
「アルテミス計画」に参加・協力する日本も、民間の宇宙ベンチャー企業「ispace」(アイスペース)が、昨年12月11日に月面探査プログラム「HAKUTO-R」<ミッション1>に基づく月着陸船(ランダー)を打ち上げた。民間では初めての月面着陸を目指し、いま宇宙を順調に航行している。
 来年4月末ごろには月面へ着陸するよう準備し、成功すれば民間機としては世界初の月面着陸となる。<ミッション3>段階になれば着陸や輸送の精度を高めて、「アルテミス計画」の火星探査にも協力するという。
しかし、この計画も13日に日米両政府が交わした宇宙分野に関する協力協定を見ると、急速に進むロシアや中国の宇宙開発に対抗し、宇宙空間での覇権を握るための軍事利用に転嫁する懸念は大きい。平和利用に専念できるのか、依然として不安は消えていない。(2023/1/22)
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2023年01月21日

【22読書回顧】―私のいちおし 風間直樹(『週刊東洋経済』編集長)妻の介護と精神医療の現実を報告

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 この数年間、日本の精神医療の抱える現実の取材を重ね、現場では長期入院や身体拘束など人権上の問題が山積している実態をリポートしてきた(本年3月『ルポ・収容所列島』として上梓)。このテーマを患者家族の立場から描き出した一書が、永田豊隆『妻はサバイバー』(朝日新聞出版)だ。
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 本書は精神疾患を抱えた妻の介護と新聞記者の仕事を両立させてきた、実に20年にわたる日々がつづられている。患者を閉じ込め、薬でおとなしくさせて終わりという精神医療のお寒い現状、その一方で地域で支える医療や福祉の資源があまりに乏しいゆえに強制入院に頼らざるを得ない家族の厳しい現実があることを、客観的に描いた貴重なリポートだ。
 朝日新聞記者として生活保護や国保滞納問題などで当事者の立場に深く寄り添い、かつ鋭い問題提起を重ねる筆者の記事の数々を畏敬の念をもってみていたが、こうした環境下での仕事だったとは思いもしなかった。

 終わらぬ疫病に侵略戦争、そしてテロ…。生と死を考えさせられる事の多い陰鬱な現下で手に取った一冊が、山本文緒『無人島のふたり』(新潮社)。直木賞作家の筆者が突然すい臓がんと診断され、その時すでにステージは4b。抗がん剤治療はせずに緩和ケアに進むことを決めたとの記載から始まり、亡くなる直前までほぼ毎日書き続けられた日記だ。
 闘病の苦しさを描きつつも時にユーモアを交え、最後の日々を書き連ねる筆者の姿勢に、自らの人生をしっかりと生き抜く覚悟を教えられた。

 最後は専門の経済分野から一冊、高橋篤史『亀裂 創業家の悲劇』(講談社)を挙げたい。企業・経済取材は多くの場合、合理的な判断や方針によって生じる事柄が対象となる。例外的にそれとまったく異なるのが、同書で扱った創業一族による骨肉の争いだ。
 経済事件を扱うノンフィクションにおいて、当代随一の書き手である筆者が、世間を騒がせたお家騒動を緻密に調べ上げ、結果、人間の持つ「業」を描き切った一作だ。

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2023年01月20日

【オピニオン】有識者会議に読売、現役幹部と日経顧問 問われるメディアの姿勢 専守防衛➡軍事国家に大転換=編集部

 防衛費GNP2%、「敵基地攻撃能力」整備、軍需産業育成…、立て続きにニュースが流れ、軍事増額・強化路線が本格始動している。

メディア取り込み

 この「流れ」のスタートとなった首相の諮問機関「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の顔ぶれは、マスコミ3、金融2、技術系学者2、それに右翼の論客、元駐米大使という構成だ。初めから「防衛力増強」を目指し、メディアを巻き込み、世論操作を狙っていたことが露骨に見て取れる。
 メディアから参加したのは、朝日新聞の元主筆で「アジア・パシフィック・イニシアティブ」の代表・船橋洋一氏のほか読売新聞グループ本社代表取締役社長・山口寿一氏、日本経済新聞顧問で日本経済研究センター代表理事・会長の喜多恒雄氏。船橋氏は退職してからも発言している言論人だが、他の二人は現役の役員だ。
 政府の審議会や諮問機関に専門の新聞記者がその知識や識見を買われ参加することには、古くからの議論がある。
 「専門性を発揮して政府に働きかけるのも責任だ」などと言われる一方で、審議会などへの参加は、その結論がいかにも社会的に公正で妥当だ、だと見せかけるための道具にしかされていない、という意見が根強くあるからだ。

内実に問題あり

 政府機関については「国語審議会でも参加すべきではない」という主張もある。まして国論を2分3分する防衛問題では一層問題だ。しかもこの有識者会議の議論については発言要旨は発表されたが個人名は伏せられている。
 そもそもこの「会議」は、防衛力を単に軍備でみるだけでなく、総合的な経済・社会体制の中に位置づけ、「総合的な防衛体制の強化と経済財政の在り方」を検討するとうたっている。しかし、その内実は防衛力についての憲法上の位置や、外交による紛争解決の準備についての議論等は一切抜きの会合でしかない。

言いっぱなし会議

 はじめから憲法論抜き、財政論抜き、外交論も抜き,という組織で、その成り立ちも実は何の「権威づけ」もないままという代物だ。
 有識者会議は9月30日、10月20日、11月9日の3回討議、11月21日には報告書がまとめられた。 報告書は、日本周辺が「厳しい安全保障環境」にある、ということを口実に、@相手国のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有A軍事力強化の財源として「国民負担」の必要性B5年以内に防衛力を抜本的に強化する―との方向性を打ち出した。さらに、米国の核戦力を含めた「拡大抑止」や、自衛隊基地の共同使用など日米の「共同対処能力」の強化をうたっている。
  今回の提言では、このために縦割りをなくはした総合的の防衛体制の強化が必要だとして、@研究開発A港湾などの公共インフラBサイバー安全保障―について、連携強化を主張している。


問題をそらす

 この状況にメディアの社説は、読売、産経などを除いた各紙が「倍増ありき再考求める」(東京30日)、「規模ありき理解得られぬ」(神戸2日)「専守防衛の空洞化は許せぬ」(朝日2日)、「専守防衛の形骸化憂う」(東京3日)、「専守防衛の形骸化を招く」(毎日3日)など、岸田政権が唐突に打ち出してきた軍拡推進政策に対して、一応は批判的な主張を展開した。
  しかしそのメディアも政府・自民党側が「増税か」「国債か」と財源問題に焦点をそらし、軍拡そのものの目的や危険性について棚上げしようとしている状況に対しては、見て見ぬふりで無抵抗だ。
 軍需産業育成から、サイバー攻撃まで網羅するという公然化した「軍事国家づくり」は専守防衛はおろか、戦後の日本が積み重ねてきた憲法に基づく非戦「平和主義」を根底から打ち捨てることに他ならない。日本のジャーナリズムはこれでいのだろうか。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
 
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2023年01月19日

【緊急お知らせ】Peatixの受付一時停止と、オンライン講演会の今後の対応について

 JCJオンライン講演会「タリバン政権の現状と故中村哲氏のレガシー〜アフガン取材報告」に申し込みいただき、ありがとうございます。
 開催日の1月21日が迫ってまいりましたが、日本ジャーナリスト会議(JCJ)事務局で本講座を担当する者の事情で、急きょPeatixでの参加申し込みが不可能な事態になりました。
オンライン講演会は参加費を取らずに無料で開催することにし、参加者にご迷惑をおかけしますが、予定通りの21日の日程で無料開催しますので、ご理解ください。
 既に手続きいただいた参加費については、返金させていただきます。「チケット代」の返金はPeatixから行います。
 返金手続き等を含め、今回の対応に問い合わせなどがありましたら、JCJ運営委員の鈴木宛にメールsuzukikatsuhiko514 @gmail.comでご連絡ください。




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【JCJ北海道】国民欺いた安倍政権 北海道新聞JCJ賞「消えた四島返還」で講演会 「領土交渉の総括と検証を」=山田寿彦

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 JCJ北海道支部は11月17日、北海道新聞の長期連載「消えた『四島返還』安倍政権 日ロ交渉2800日を追う」(21年9月刊)のJCJ賞受賞を記念する講演会を札幌市で開いた。北方領土交渉で「四島返還」から「歯舞・色丹の2島返還」へと従来方針を密かに大転換しながら、「失敗」に終わった説明責任を果たさずに国民を欺き続けた安倍政権の対ロ外交を検証し、日ロ関係の今後を展望した。
  中心執筆者の一人、小林宏彰記者(元モスクワ支局長、現報道センターデジタル委員)(=写真=)を講師に招き、市民約40人が聴講した。同書を加筆・再編成した長期連載は今年度の新聞協会賞も受賞している。
 ロシアのプーチン大統領と27回の首脳会談を重ね、「北方領土問題に必ず終止符を打つ」と大見えを切っていた安倍晋三元首相。外務省を蚊帳の外に置き、官邸主導で進められた日ロ交渉の舞台裏では「歯舞・色丹の2島返還+α(国後・択捉での共同経済活動)による決着」という日本側のカードが秘密裏に切られていた。

 大転換の舞台は「日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉加速」で両首脳が合意した18年11月14日のシンガポール会談。会談後、政府高官は「四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するというわが国の一貫した立場に変更はない」と説明。全国紙は「2島先行軸に」(朝日)など、政権は「四島返還」を堅持しているとの見方で世論をミスリードした。
 「大転換」のキーワードは「国後・択捉の断念」。事前取材でその感触を得ていた道新は翌日朝刊で「国後と択捉 扱いに懸念」と打ち、翌々日朝刊で「2島+共同経済活動軸」「国後、択捉断念も」と踏み込んだ。

 政府が建前として言い続けた「四島の帰属の確認」とは「四島すべてが日本に帰属するとは限らない」という巧妙なレトリックが隠されていたが、大半のメディアがだまされた中にあって、道新は地元紙ならではの取材力で真実に肉薄した。
 小林記者は失敗の原因として、@森政権以降の交渉の空白A内政(求心力維持)重視の外交Bプーチン盲信と歯舞・色丹だけなら返すだろうという楽観論C欧米と中国+ロシアが対抗する構図が強まった国際情勢の読み誤り――と分析する。

 「日本側が対ロ関係を2国間の問題として考えていたのに対し、ロシア側は中国・米国など世界地図の中で日本との関係の位置付けを考えていた」と振り返った。両国の大きな認識のずれを自覚しない官邸サイドは「領土問題は動く」という期待感をメディアに対ししきりにあおった。
 日ロの平和条約締結交渉は一向に進展しないまま20年8月、安倍氏は首相退陣を突然表明した。安倍氏の口から対ロ関係の「大転換」に関する公式の説明はなかった。
 退陣後の21年12月17日、安倍氏は道新の単独インタビューに応じ、「100点を狙って零点では意味がない」との倫理で「大転換」を初めて認めた。

 ロシアのウクライナ侵攻により、日本は対ロ制裁を発動。ロシアは日本を「敵国」「非友好国」とみなし、「安倍政権が積み上げたすべてが根本から崩れた」(小林記者)現状にある。
 「多くのメディアが腫れ物に触るように、失敗に終わった日ロ交渉を安倍氏の遺業に盛り込むことをタブー視するような雰囲気が漂う中、膨大な政治的エネルギーを注いだ安倍政権の対ロ外交とは何だったのか、その記憶が消えてしまうのは国営期の損失」(小林記者)。安倍氏の突然の死は期せずして検証作業の意義を益々高めている。

 「安倍氏の死去によりプーチンと本当のところで何を話したのかを知る人がいなくなった。安倍政権で何があったのかを踏まえてロシアとの対話を続けないと、いつの日か領土交渉再開の機会が来たとき、(空白を経て対ロ交渉を始めた)安倍政権と同じ過ちを犯すのではないか」。小林記者は対話の継続と安倍政権の総括・検証の必要性を強調した。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
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2023年01月17日

【オピニオン】院内緊急集会 マイナンバーカード 取得の義務化は違法 健康保険証と一体化に反対 医療情報の漏洩心配=小石勝朗(ライター)

 河野太郎デジタル相が10月に突然打ち出した「24年秋の健康保険証廃止」に反対する動きが活発になっている。政府は国民のほぼ全員が持つ保険証をマイナンバーカードと一体化し、カードを半強制的に取得させようと目論む。強引な進め方への批判とともに、医療情報の取り扱いへの危機感が募る。
 「そもそもカードの取得を強制することは法律違反」「法治国家としてあり得ない暴挙だ」
 11月17日と21日に国会議員会館で開かれた反対集会には怒りの声が渦巻いた。開業医らが加入する全国保険医団体連合会や日本弁護士連合会(日弁連)などが主催した。

 マイナンバー法は「申請に基づきカードを発行する」と定める。「強制」や「義務」ではないと政府も国会で明言してきた。健康保険料を払っている人が保険診療を受けるのは当然の権利。任意であるカードを取得していないという理由だけで受診に不利益が生じれば、人命にもかかわる重大な人権侵害だ。
 6月に閣議決定された骨太方針も、保険証を廃止する場合でも「申請があれば保険証は交付される」と明記している。
 さすがに岸田文雄首相も河野発言のわずか11日後に、カードを持たない人が保険診療を受けられるよう「新たな制度を用意する」と国会で答弁した。集会では「新制度をつくるくらいなら今の保険証を存続させれば良いだけの話で予算の無駄遣いだ」と非難された。
 「政府はマイナンバーカードを取らせようと脅しをかけている」との見立てにも共感が集まった。カード取得などへの最大2万円分のポイント付与に1兆8千億円もの予算を組んだのに、取得率は5割強。来年3月までに全国民所持との目標達成は不可能だからだ。

 その意味でマスコミが河野発言を「事実上のカード取得義務化」と報じたのは政府の思うつぼだった。義務化は違法で法改定のハードルも相当高いと分かっているからこそ、政府は「カードを取らないと保険診療が受けられなくなる」というムードを広げようとしているのだから。

 保険証を発行する保険者は集会で、マイナンバーカードには健保の連絡先が記されていないので届け出・申請に漏れや遅れが起きることを不安視した。子どもが修学旅行に保険証としてカードを持参するようになれば紛失が心配される、といった問題点も指摘した。
 保険証廃止に先立ち、医療機関と薬局に対してマイナンバーカードを保険証として使う「オンライン資格確認」のための設備設置が来年4月に義務化される。だが、すでに導入した診療所では患者の利用がほとんどない、との報告もあった。

 むしろ懸念されるのは医療情報の漏洩だ。院内の電子カルテとつながる新システムは診療時間中、外部と回線で接続するので、サイバー攻撃に遭う危険が高まるのだ。機器管理の負担も重く、廃業を考えている高齢の開業医もいるそうだ。
 実は6月の骨太方針には「全国医療情報プラットホームの創設」が盛り込まれている。電子カルテ、電子処方箋などの医療情報を収集して一元管理し、民間もデータを利活用できるようにする構想だ。その基盤にされるのが今回の保険資格確認システムである。危うい企みが仕込まれている。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
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2023年01月16日

【おすすめ本】川井 龍介『数奇な航海 私は第五福龍丸』―死の灰を浴びて捨てられ 復活したある船の物語=嶋沢 裕志(ジャーナリスト)

 「原水爆の被害者はわたしを最後にしてほしい」。夢の島公園(東京・江東)の第五福竜丸展示館の一画に、核兵器への怒りを訴えた久保山愛吉さん(享年40)の言葉を刻んだ石碑が立っている。
 1954年3月、静岡県焼津市が母港のマグロ漁船「第五福龍丸」は、ビキニ環礁での操業中にアメリカの核実験の灰を浴び、23人の船員が被曝。無線長だった久保山さんは同年9月、被ばくで亡くなった。
 ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射などを背景に、米国の核の傘を前提にした「核抑止論」が勢いづき、軍拡のきな臭さが漂う。68年前、反核運動のうねりを起こした第五福龍丸事件の教訓を忘れていないか。そんな問題意識を立て、船を擬人化し、数奇な運命を描いたのが本書だ。
 前身は47年に和歌山で建造されたカツオ漁船。マグロ漁船に改造後、53年に焼津市の船主に譲渡され「第五福龍丸」となり、5回目の遠洋航海で水爆実験に遭遇する。
 疫病神扱いされた船は、文部省が引き取って東京水産大学(現・東京海洋大学)の練習船「はやぶさ丸」となった。67年に廃船が決まるとエンジンは業者に取り外され、船体は夢の島に捨てられた。
 一度は歴史から消えた船が修復・保存され、76年に都立の展示館が誕生。後にエンジンも回収、展示された経緯が、元船員や関係者の肉声と共に綴られる。戦前、戦中、戦後を繋ぐ船と人のドラマを、漁業史、造船史の視点を踏まえて描いた点もユニークだ。
筆者は元毎日新聞記者。静岡支局時代にビキニデー30周年企画を手掛けて以来、取材を重ねた。(旬報社1600円)
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2023年01月15日

【今週の風考計】1.15─南西諸島ミサイル基地化が呼び込む戦争の危機

泣いている馬毛島
鹿児島県・馬毛島に米軍と自衛隊の基地を建設する工事が、住民の反対を無視して12日から始まった。
 硫黄島(東京・小笠原諸島)で行っていた米軍ジェット戦闘機の離着陸訓練(FCLP)を、わざわざ東シナ海に近い馬毛島に移し、岩国基地との連携をよくするためだったが、ここにきて南西諸島の軍備強化にあわせ、本格的な基地建設へとエスカレートしたのだ。
馬毛島は鹿児島県種子島の西北12キロに位置し、マゲシカが生息する自然豊かな無人島。そこに滑走路や駐機施設、火薬庫などを整備し、訓練に最低限必要な施設を先行して工期4年で完成させる。あわせて自衛隊の陸・海・空を統合した基地を設置し、米軍とともに共同活用するという。

南西諸島のミサイル基地化
日米両政府は、日本列島を縦断し沖縄・与那国島まで南西諸島を数珠つなぎにし、各地に長射程のミサイルを配備し、両国が共同協力して対中国を想定した「敵基地攻撃能力」の強化に懸命となっている。
 12日に交わされた「2プラス2」の合意文書に端的に表れている。米国は沖縄に駐留する海兵隊約1万人を改編し、南・東シナ海へ進出を強める中国をけん制し、対艦ミサイルなど即応性のある「海兵沿岸連隊(MLR)」へと発展させ、南西諸島の防衛に充てるという。
日本政府も沖縄の防衛・警備を担当する陸上自衛隊第15旅団を師団に格上げし、ミサイル部隊の配備や弾薬の備蓄を増強する。また離島防衛専門部隊「水陸機動団」を創設し、離島奪還を想定した日米合同訓練も沖縄で強めている。
 さらに自衛隊駐屯地を与那国島や宮古島に作り、今年は石垣島にも開設する。徳之島など自衛隊施設のない島でも部隊展開を図り、さらには離島の民間空港を国管理に移し軍事利用を狙う動きすら出ている。

「台湾有事」へ机上演習
つい最近、米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)は、中国が3年後の2026年に台湾へ侵攻すると想定し、米軍の動きについてシュミレーションした結果を公表した。
 その報告書によると、「在日米軍基地を使わなければ、台湾防衛に向けた米軍の戦闘機・攻撃機は出撃できず、日本は最重要な<要>であり、自衛隊の参戦が不可欠」と指摘した。
米中両軍が台湾に進攻すれば、当然、在日米軍や自衛隊の基地は中国軍によるミサイル攻撃にさらされ、多大な被害と死傷者が生じる。
 米軍では2隻の空母が撃沈され、168〜372機の航空機、7〜20隻の艦船を失うという。日本の自衛隊は122機の航空機、26隻の艦船が中国側の攻撃で失われ、米軍・台湾軍合わせて約3200人・1日140人ほどが戦死すると試算している。

いま必要な外交努力
日本が攻撃されていなくとも、米国が台湾に侵攻し中国と戦争を始めれば、米国は日本に「集団的自衛権の行使」を求めるから、否が応でも「米国の戦争」に巻き込まれてしまう。挙句に中国からの「報復攻撃」を受け、「自分の国は自分で守る」どころか、「米国の戦争」で自国に多大な犠牲者が出るのは目に見えている。
いま必要なのは、中国や北朝鮮の脅威をいたずらに煽り、軍備増強・敵基地攻撃能力を声高に叫ぶのでなく、外交努力を尽くして意思疎通を図り、緊張緩和を促進し地域の安定を図るのが「憲法9条」を持つ日本の役割ではないか。
日中国交回復50年を経過した現在、改めて日本は中国に首脳会談を呼び掛け、東アジアの平和と安定を図るべきだ。また北朝鮮に対しても、2002年9月17日、小泉首相と金正日総書記が会談し、国交正常化交渉の再開で一致した「日朝平壌宣言」に立ち戻り、戦争回避に向け金正恩総書記に会談を申し入れるべきではないか。
 これを一笑に付す前に、どれだけ外交努力が重ねられたのか、顧みるべきだ。(2023/1/15)
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2023年01月14日

【シンポジウム】NHKはどうあるべきか 報道姿勢に不信高まる 鈴木氏 対立点伝えず印象操作 上西氏 経営委は政権の隠れ蓑 前川氏 「コモン」であるべきだ 金平氏=諸川 麻衣

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  12月1日、都内でシンポジウム「公共放送NHKはどうあるべきか〜市民による次期NHK会長候補・前川喜平さんと考えるメディアの今と未来〜」(=写真=)が開かれた。元文部科学事務次官の前川喜平氏を次期NHK会長候補に推す「市民とともに歩み自立したNHK会長を求める会」が主催したもので、パネリストは前川氏、ジャーナリスト・早稲田大学客員教授の金平茂紀氏、法政大学教授・国会パブリックビューイング代表の上西充子氏。元NHK放送文化研究所主任研究員で次世代メディア研究所代表の鈴木祐司氏が報告者として加わり、武蔵大学教授・元NHKプロデューサーの永田浩三氏の司会で約3時間にわたってNHKの現状と将来を論じあった。

 第一部「NHKのニュースがおかしい」では、鈴木氏がゴールデンタイム(G帯)の総個人視聴率などのデータから、2021年下半期以降G帯でNHK離れが進んでいることを示した。その要因として同氏は、官邸が「ニュースジャック」を狙って首相の記者会見をG帯に設定したこと、学術会議問題報道や聖火リレーの音声カットなどでNHKの報道姿勢への不信が高まったことなどを挙げた。上西氏はそれを受けて、NHKの国会報道は主語がすべて政府側で、野党の質問・追及や対立点を伝えず、キーワードを隠し、「報じないことで印象操作をしている」と具体例を挙げて批判した。金平氏は、ウクライナで戦地から実態を伝えたBBCとすぐに退避したNHKとを比較。前者には現場を見てきた者を信じる姿勢があり、それがデモクラシーにつながると述べ、NHKは「国営放送」ではなく社会的共通資本=コモンズであるべきだと主張した。

 第二部「NHKの組織と制度のどこに問題があるのか」では、鈴木氏が「@国会による予算承認 A経営委員会が会長を任命 B首相が経営委員を任命」という放送法の規定が政権党に弱い構造を生んでいるとし、10年単位の受信許可料を設定し、さらに政府から独立した委員会が運営を審議するBBCとの違いを指摘した。前川氏は、経営委は合議制によって政権の直接関与を退ける仕組みのはずだが、現実には官邸の「任命権」乱用によって政権の隠れ蓑化している、経営委員の選出に何らかの新しいルールが必要だと提起した。上西氏は、NHKの報道内容への批判から進んで、その背景にある組織・人事の問題に市民の関心を向けてゆくことが大切だと述べた。

 第三部は「公共放送・公共メディアはいかにあるべきか」。鈴木氏は、今後は「放送」ではなくネット・メディアの時代になるが、NHKは(この点でもBBCと対照的に)自らビジョンを示さず、現行制度への代案がないと指摘、今後NHKに求められるものとして、重要な情報がやりとりされる「コミュニティ・メディア」、オンデマンド、ピンポイント、「自分ごと」を挙げた。前川氏は、NHKは生涯学習の場として博物館・図書館・公民館と同じ役割を持つ、特に「さまざまな意見の人が集う場」として公民館的機能が大切だと述べた。金平氏は、金儲けを度外視してでも出さなければならない番組がある、資本の論理で効率化を進めると取材する人材がいなくなると、地方紙がなくなって地域が衰退してきたアメリカの例を引いて強調した。

 その後の質疑も通して、この機会に会長選考過程を可視化させ、NHK問題への関心を広める必要がある、市民サイドの「影のNHK会長」の下で改革ビジョンを提起し続けてゆくことも意義がある、との意見が出された。放送からネットへの移行は世界どこでも海図のない手探りの探求だが、政府への隷属、資本の論理への屈服には未来がないことは、このシンポジウムで明瞭になったと言える。
 推薦運動は続く
 前川氏の推薦運動は、ネット署名と紙署名合わせて11月30日までに44019筆が集まり、NHK経営委に提出されたが、ネット署名は次期会長が決定するまでさらに続けられることになった。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
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