●22年11月の出版物販売金額915億円(前年比4.2%減)、書籍508億円(同6.3%減)、雑誌406億円(同1.5%減)。月刊誌345億円(同0.3%増)、週刊誌61億円(同10.5%減)。返品率は書籍34.7%、雑誌40.4%、月刊誌39.3%、週刊誌46.1%。
●22年1年間の出版物(紙製)販売金額は1兆1,300億円(前年比6%減)となる見込み。書籍は落ち込みが大きく、雑誌は前年比10%減。コロナ特需は完全に終息。電子出版はコミック4533億円、書籍447億円、雑誌86億円で総計5066億円。
●出版科学研究所が発行する「出版月報」が来春に季刊化。月次データについてはPDF版で「出版指標マンスリーレポート」として、定期購読者には配信する。従来の第三種郵便による配送より情報鮮度は高まる。
●出版社直営のサイトで書籍の読み放題サービスを有料会員に提供。「有斐閣Online」、佼成出版社「ちえうみ」やGakkenやオーム社などの事例がある。講談社「メフィスト」は定期刊行の電子版を止め、定額会員制の読書クラブを展開、紙版が年4回届く試みを開始。新潮社「yom yom」も定期刊行の電子版を止め、全作品無料のウェブマガジンへ移行。
●出版DX基盤「MDAM」の共同利用─集英社・小学館・講談社による「雑誌コンテンツを使った新サービス創出」を目指す戦略的業務提携が、大日本印刷の支援を受けて進む。集英社が開発した出版DX基盤「MDAM」を版元の壁を越え、広く採用されたのが理由。
●「週刊文春」の掲載記事を、発売前日の12時に前倒しして電子版へ配信。双方の価値を相乗的に高める施策が効果を上げている。とりわけ政治スキャンダルに関する記事は、永田町の関心を呼び政界への激震にもつながる。
●埋もれていた名著の再発見と復刻の進展─国立国会図書館が「個人向けデジタル化資料送信サービス」を開始し、絶版本や埋もれた名著へのアクセスが容易になった。そのため昨年半年で約3万3000人、約35万回の閲覧、利用は飛躍的に高まっている。
なお年末には「国立国会図書館デジタルコレクション」がリニューアル、全文検索可能なデジタル化資料が大幅に増加、閲覧画面の改善、保護期間満了資料を対象とした画像検索機能の追加、シングルサインオン対応、検索画面のモバイル対応など、大幅な機能改善がなされている。年明け1月18日には印刷機能も追加される。
●小林昌樹『調べる技術─国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』(皓星社)が好評。著者は国立国会図書館の元職員、レファレンス業務などに従事。12月23日に3刷、1月10日に4刷。
●滋賀県長浜市に120年の歴史がある小さな私立図書館がある。「江北(こほく)図書館」が、野間出版文化賞特別賞を受賞。受賞理由は「個人が設立して100年以上ものあいだ地域住民が運営を続けてきた、他に類を見ない私立図書館」。館内閲覧は無料、館外貸し出し、近隣の小学校への「巡回図書」も開始。
2023年01月13日
2023年01月12日
【JCJオンライン講演会】1月21日(土)午後2時から4時 タリバン政権の現状と故中村哲氏のレガシーアフガン取材報告 講師:ジャーナリスト・高世 仁さん
アフガニスタンは米軍が撤退するなか2021年8月にイスラム主義組織タリバンが権力を奪取。「イスラム法の下、女性の権利を尊重する」の約束を反故にし、女性の教育・就労などの権利を制限する措置をとっている。
国際社会は経済制裁を科し、干ばつも相まって未曽有の危機がアフガンを襲う。国連機関は、この冬、アフガン国民の半数が深刻な食糧難に陥ると警鐘を鳴らしている。
そんなアフガンで明るい材料は、3年前に凶弾に倒れた医師の中村哲さん(享年73)の遺志が現地の人々に受け継がれ、水利事業をもとに農村振興をはかる「緑の大地計画」が継続・発展していることだ。
22年11月に現地取材をしたジャーナリストの高世仁さんが今のアフガンを報告。タリバン政権に対する日本の向き合いかたを提言する。
【講師の略歴】
高世 仁(たかせ・ひとし) ジャーナリスト。日本電波ニュース社特派員として東南アジアに10年駐在、報道部長を経て1998年退職し、テレビ番組制作会社「ジン・ネット」を設立。会社代表として報道・ドキュメンタリー番組をプロデュース、自らも取材にあたる。2020年2月以降はフリーランスとして活動している。著作に『拉致―北朝鮮の国家犯罪』(講談社)、『チェルノブイリの今―フクシマへの教訓』(DVD出版、旬報社)など。
★参加費:500円 https://houkoku.peatix.com/を通じてお支払いください。
【なおJCJ会員は参加費無料。onlinejcj20@gmail.com に別途メールで申し込んでください。この機会にJCJ会員になることを希望する方も同アドレスにご連絡をください。JCJはジャーナリズムに関心のある市民の方々も会員になることができます。詳細はホームページをご覧ください】
主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ) 電話03・6272・9781(月水金の午後1時から6時まで)
メール office@jcj.gr.jp ホームページhttps://jcj.gr.jp/
2023年01月11日
2023年01月10日
【おすすめ本】増田 剛『ヒトラーに傾倒した男 A級戦犯・大島浩の告白』―国を誤った道に導く失敗を犯す 贖罪の気持ちは希薄だった=南雲 智 (東京都立大学名誉教授)
第二次世界大戦戦中、駐ドイツ大使を二度にわたって務め、日独伊三国同盟の立案者であり、締結の立役者だった大島浩は、日本の敗戦後、「平和に対する罪」を犯したA級戦犯として逮捕された。
極東国際軍事裁判で終身刑の判決を受け、巣鴨拘置所で服役していたとき、彼は「獄中デ獨逸ノ領袖坐罪スト聴ク」と題する漢詩を書いた。彼の盟友だったナチス・ドイツの外相リッベントロップが国際軍事裁判で裁かれ、処刑されたことを知らされた際に「冤枉」「殉難」という文字を使い、無実の罪で犠牲となったと嘆き悲しんでいたのである。
大島はこの詩にみずからの当時の境涯を重ね、彼の心象風景を投影させていたに違いない。1955年12月仮釈放されて以降、終生、隠棲生活を送り、公の場に出ることはなく、講演や執筆依頼も断り続けた。しかし彼の脳裏を去来し続けたのは、独裁者ヒトラーとの親交であり、ドイツ大使として活躍していたみずからのいちばん華やかな時代だったはずである。なぜなら本書が刊行されるきっかけになった12時間に及ぶ駐ドイツ大使時代の日々を語った音声を残しているからである。
この音声記録はけっして公開するなと記録者に厳命しながら、大島はなぜ証言音声記録を残したのか。それは<大島浩>という人間の存在証明を残すことにほかならなかった。国を誤った方向に導くという失敗を犯した人間とみずからを認めながら、しかし、応接間にヒトラーと対面している写真を飾り、終生、ヒトラーに傾倒していた大島にはナチスドイツは輝き続け、失敗感は抱いても贖罪意識は希薄だったのである。
(論創社2000円)
極東国際軍事裁判で終身刑の判決を受け、巣鴨拘置所で服役していたとき、彼は「獄中デ獨逸ノ領袖坐罪スト聴ク」と題する漢詩を書いた。彼の盟友だったナチス・ドイツの外相リッベントロップが国際軍事裁判で裁かれ、処刑されたことを知らされた際に「冤枉」「殉難」という文字を使い、無実の罪で犠牲となったと嘆き悲しんでいたのである。
大島はこの詩にみずからの当時の境涯を重ね、彼の心象風景を投影させていたに違いない。1955年12月仮釈放されて以降、終生、隠棲生活を送り、公の場に出ることはなく、講演や執筆依頼も断り続けた。しかし彼の脳裏を去来し続けたのは、独裁者ヒトラーとの親交であり、ドイツ大使として活躍していたみずからのいちばん華やかな時代だったはずである。なぜなら本書が刊行されるきっかけになった12時間に及ぶ駐ドイツ大使時代の日々を語った音声を残しているからである。
この音声記録はけっして公開するなと記録者に厳命しながら、大島はなぜ証言音声記録を残したのか。それは<大島浩>という人間の存在証明を残すことにほかならなかった。国を誤った方向に導くという失敗を犯した人間とみずからを認めながら、しかし、応接間にヒトラーと対面している写真を飾り、終生、ヒトラーに傾倒していた大島にはナチスドイツは輝き続け、失敗感は抱いても贖罪意識は希薄だったのである。
(論創社2000円)
2023年01月09日
【映画の鏡】閉鎖社会を乗り越える豊かさ『若者は山里をめざす』途絶えていた祭りも復活=鈴木賀津彦
2022年「若者は里山をめざす」制作委員会
都心からわずか60qだが、埼玉県1番の消滅可能性都市と言われた東秩父村に、都会暮らしを捨て移住する若者たちが増え始めた。UターンやIターン、彼らは何に魅力を感じ、自らの生き方をどう切り開いていこうとしているのか。その答えと展望を、2019年から3年間撮影取材を続けた原村政樹監督が本作で示してくれている。
村出身の西紗耶香さん(31)は25歳の時、東京での会社勤めを辞め戻ってきた。10代のころはコンビニもない村から出たいと都会の大学に行ったが、「消滅させず輝きを取り戻したい」と、ふるさとの魅力を伝える活動を始めた。付き合いのなかった老人たちの元へ通うと、山の自然を活かし豊かに暮らす老人たちの力強さに気付き、昔の生活の中に閉塞する現代社会を乗り越えるヒントがあると確信した。
東京出身の元銀行員(25)は地域おこし協力隊として村の野菜・ノゴンボウで特産品を開発しようと取り組み、移住を決意。また和紙職人を目指して来た京都の芸大卒の女性(23)など、若者の暮らしぶりを淡々と追う。そんな中、途絶えていた祭りを復活させようと、西さんらは集落の人たちと3年間話し合い、6年ぶりに実現。地域の人たちのほか村を離れた家族らも大勢集まり、山里は輝いたのだ。
こう書くと、「都会からの逃避」「これで地域活性化など無理だ」と批判的な見方も当然出るだろう。しかし「武蔵野」「お百姓さんになりたい」「食の安全を守る人々」など農業をテーマに作品を次々発表してきただけに、原村監督ならではの展望を示している。14日から新宿など順次公開。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
都心からわずか60qだが、埼玉県1番の消滅可能性都市と言われた東秩父村に、都会暮らしを捨て移住する若者たちが増え始めた。UターンやIターン、彼らは何に魅力を感じ、自らの生き方をどう切り開いていこうとしているのか。その答えと展望を、2019年から3年間撮影取材を続けた原村政樹監督が本作で示してくれている。
村出身の西紗耶香さん(31)は25歳の時、東京での会社勤めを辞め戻ってきた。10代のころはコンビニもない村から出たいと都会の大学に行ったが、「消滅させず輝きを取り戻したい」と、ふるさとの魅力を伝える活動を始めた。付き合いのなかった老人たちの元へ通うと、山の自然を活かし豊かに暮らす老人たちの力強さに気付き、昔の生活の中に閉塞する現代社会を乗り越えるヒントがあると確信した。
東京出身の元銀行員(25)は地域おこし協力隊として村の野菜・ノゴンボウで特産品を開発しようと取り組み、移住を決意。また和紙職人を目指して来た京都の芸大卒の女性(23)など、若者の暮らしぶりを淡々と追う。そんな中、途絶えていた祭りを復活させようと、西さんらは集落の人たちと3年間話し合い、6年ぶりに実現。地域の人たちのほか村を離れた家族らも大勢集まり、山里は輝いたのだ。
こう書くと、「都会からの逃避」「これで地域活性化など無理だ」と批判的な見方も当然出るだろう。しかし「武蔵野」「お百姓さんになりたい」「食の安全を守る人々」など農業をテーマに作品を次々発表してきただけに、原村監督ならではの展望を示している。14日から新宿など順次公開。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
2023年01月08日
【今週の風考計】1.8─軍備費43兆円を削って子ども・子育て支援に3倍の予算を!
子どもは社会の宝
▼年末年始、孫たちが我が家にやってきて、にぎやかにおせち料理やお雑煮を食べ、楽しい日々を過ごした。育ち盛りの子どもの声や興ずる姿から、日頃の生活では得られないエネルギーを、我が身に注入された思いがする。そして子どもの成長は、日本の社会に活力を与える大切な宝だ。
▼この大切な宝をどう育てるか。政治の役目は限りなく大きい。新年4日、岸田首相は「政教分離」の原則も顧みず、伊勢神宮を参拝した後、年頭記者会見に臨み、「異次元の少子化対策に挑戦する」と宣言した。
2022年の出生数が80万人を割り込む事態に衝撃を受け、@児童手当などの経済的支援の強化、A学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充、B働き方改革の推進―を3本柱に掲げ、6月末までに具体策を取りまとめると強調した。言葉だけはすごいが、中身がないだけに空疎に響く。
あまりにも低い公的支援
▼いま日本は、想定以上の少子化が進む。戦後すぐの1946年、1年間の出生数は270万人だった。しかし69年後の2015年は100万人、その7年後の2022年は77万人。その減少率はとどまるところを知らない。
しかも出生減に加え、死亡者が出生者を上回る自然減で、1年間に64万人の人口が減り続けている。このまま行けば国の存続危機にもつながる。
▼これを踏まえた岸田首相の宣言だが、ツイッター上では「<異次元>とか銘打つが、まず今の次元にいる子どもたちを大切にしてほしい」と、厳しい反応が相次いでいる。
さもありなん。いま日本の子ども・子育て支援に投ずる公的支出はGDP比1.7%、OECD諸国では平均2.24%、首位のフランスは3.6%、日本はフランスの半分にも及ばない。軍備費に43兆円を投ずる前に、子ども・子育て支援に、せめて今の3倍の予算を計上するのが先ではないか。
「こども家庭庁」とは
▼4月1日、「こども家庭庁」が総員430人、予算4兆8104億円でスタートする。その名称に「家庭」の2字が挿入されたのも、統一教会の圧力があったと指摘されている。これからの動向には用注意だ。
▼その庁内には「こども大綱」など政策を立案する部署のほか、保育所や放課後児童クラブの整備などを進める「こども成育局」、障害児やヤングケアラーの政策と虐待対策などを担う「こども支援局」が置かれる。
だが、文科省や厚労省のみならず、経産省・財務省までが介入・口出しを始めたら、<船頭多くして船山に登る>の迷走にならないか、もう危惧されている。
東京都・子どもへ月額5千円
▼そこへ東京都の小池百合子知事は、少子化対策として都内に住む0〜18歳の子ども1人に月5000円を給付する方針を明らかにした。東京都の出生率は2021年1.08、全国の1.30を下回る事態を受けての対策だ。
養育者の所得額は問わず、約193万7000人の子どもに支給する。関連経費も含め総額は1200億円、2023年度当初予算案に計上する。「国の来年度予算案では、ただちに少子化から脱却して反転攻勢に出るぞという勢いになっていない」と小池知事は批判し、都が先駆けて着手すると強調した。
▼東京都が打ち出した新たな子育て支援策は、国の児童手当が適用されない16歳以上や高所得世帯をカバーする内容だけに、全国に類を見ない独自策だ。
また都は、都内の保育料・平均月額3万円に関し、「第3子」以降は無料だが、「第2子」の保育料も無料化に向け検討を始めた。実現できれば、うれしい限りだ。
大阪も見習ったらどうか。万博会場の埋め立て費に788億円、カジノ開設に血道を挙げるより、子ども・子育て支援に力を注ぐのが先だ。(2023/1/8)
▼年末年始、孫たちが我が家にやってきて、にぎやかにおせち料理やお雑煮を食べ、楽しい日々を過ごした。育ち盛りの子どもの声や興ずる姿から、日頃の生活では得られないエネルギーを、我が身に注入された思いがする。そして子どもの成長は、日本の社会に活力を与える大切な宝だ。
▼この大切な宝をどう育てるか。政治の役目は限りなく大きい。新年4日、岸田首相は「政教分離」の原則も顧みず、伊勢神宮を参拝した後、年頭記者会見に臨み、「異次元の少子化対策に挑戦する」と宣言した。
2022年の出生数が80万人を割り込む事態に衝撃を受け、@児童手当などの経済的支援の強化、A学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充、B働き方改革の推進―を3本柱に掲げ、6月末までに具体策を取りまとめると強調した。言葉だけはすごいが、中身がないだけに空疎に響く。
あまりにも低い公的支援
▼いま日本は、想定以上の少子化が進む。戦後すぐの1946年、1年間の出生数は270万人だった。しかし69年後の2015年は100万人、その7年後の2022年は77万人。その減少率はとどまるところを知らない。
しかも出生減に加え、死亡者が出生者を上回る自然減で、1年間に64万人の人口が減り続けている。このまま行けば国の存続危機にもつながる。
▼これを踏まえた岸田首相の宣言だが、ツイッター上では「<異次元>とか銘打つが、まず今の次元にいる子どもたちを大切にしてほしい」と、厳しい反応が相次いでいる。
さもありなん。いま日本の子ども・子育て支援に投ずる公的支出はGDP比1.7%、OECD諸国では平均2.24%、首位のフランスは3.6%、日本はフランスの半分にも及ばない。軍備費に43兆円を投ずる前に、子ども・子育て支援に、せめて今の3倍の予算を計上するのが先ではないか。
「こども家庭庁」とは
▼4月1日、「こども家庭庁」が総員430人、予算4兆8104億円でスタートする。その名称に「家庭」の2字が挿入されたのも、統一教会の圧力があったと指摘されている。これからの動向には用注意だ。
▼その庁内には「こども大綱」など政策を立案する部署のほか、保育所や放課後児童クラブの整備などを進める「こども成育局」、障害児やヤングケアラーの政策と虐待対策などを担う「こども支援局」が置かれる。
だが、文科省や厚労省のみならず、経産省・財務省までが介入・口出しを始めたら、<船頭多くして船山に登る>の迷走にならないか、もう危惧されている。
東京都・子どもへ月額5千円
▼そこへ東京都の小池百合子知事は、少子化対策として都内に住む0〜18歳の子ども1人に月5000円を給付する方針を明らかにした。東京都の出生率は2021年1.08、全国の1.30を下回る事態を受けての対策だ。
養育者の所得額は問わず、約193万7000人の子どもに支給する。関連経費も含め総額は1200億円、2023年度当初予算案に計上する。「国の来年度予算案では、ただちに少子化から脱却して反転攻勢に出るぞという勢いになっていない」と小池知事は批判し、都が先駆けて着手すると強調した。
▼東京都が打ち出した新たな子育て支援策は、国の児童手当が適用されない16歳以上や高所得世帯をカバーする内容だけに、全国に類を見ない独自策だ。
また都は、都内の保育料・平均月額3万円に関し、「第3子」以降は無料だが、「第2子」の保育料も無料化に向け検討を始めた。実現できれば、うれしい限りだ。
大阪も見習ったらどうか。万博会場の埋め立て費に788億円、カジノ開設に血道を挙げるより、子ども・子育て支援に力を注ぐのが先だ。(2023/1/8)
2023年01月07日
【焦点】洗脳から目覚めた二世 旧統一教会信者、過酷な体験 『カルトの花嫁』に綴る 「いのちの電話」で再生へ=橋詰雅博
音声だけで出演
旧統一教会元信者が自らの過酷な体験を綴った『カルトの花嫁』(合同出版社)が話題を呼んでいる。信者の母親の強要により高校生の頃に入信し、合同結婚式に2度参加した著者の冠木結心さん(かぶらぎ・けいこ=写真上=)は、いずれも韓国人男性とマッチングされた。最初の夫にはDVで、2度目はアルコール依存症で借金漬けの夫に苦しめられ壮絶な結婚生活を送る。2012年9月、教祖・文鮮明の死亡を機に洗脳から目覚め脱会した彼女は翌13年に2人の子ども(異父姉妹)と共に韓国から逃げるように帰国した。40代の今はシングルマザーとして暮らす冠木さんと、元信者で脱会支援活動を37年間も続けている牧師の竹迫之さん(たけさこ・いたる=下=)が11月19日オンラインで対談(合同出版主催)した。
1995年8月25日ソウルオリンピックスタジアムでの合同結婚式に参加した冠木さんは21歳の当時を振り返ってこう語った。
子どもを守るため
「統一教会では男女間の自由恋愛は禁止していますので、1回も恋愛経験はありません。19歳の韓国人とマッチングされた時、愛する人を与えてくださったのでうれしかったです。幸せな毎日が待っていると思いましたが、幻想でした。韓国で住む家も仕事もない彼との結婚生活は私が働き日本でスタートしましたが、夫は自分の気に入らないことがあると、私を殴り、蹴ったりした。信仰の信の字もない夫に驚いた。日本で悪霊(サタン)がついたから夫は暴力をふるうと韓国人教区長などから諭され日本人として罪の意識もありじっと耐えました。でも結婚3年目に生まれた子どもに夫の暴力が向かうと心配になり離婚を母に伝えました。『祝福家庭が壊れるのは、サタンが一番喜ぶこと』と反対されましたが、子どもの身を守るため離婚を決意しました」
だが彼女は2002年2月の2度目の合同結婚式に参加。なぜ再婚したのかについて「御父母様(文鮮明夫婦、教会内での愛称)から祝福を受けたいという洗脳を解くことをできずにいたから」とその時の心境を述べた。相手は14歳年上で日雇いの仕事をしていた。マッチングの際、年齢、学齢、仕事を偽っていた。
「万物復帰」(信仰の訓練として福祉ボランティアを装った信者が一般の人に物を売りつける行為。売り上げは統一教会に入る)と呼ばれる活動として竹迫さんはハンカチを売った。
「ホーム(献身した男女が宿泊施設で共同生活を送る)で朝5時に起きると、皆、今日の売り上げ目標を自己申告する。昨日2万円売れたから3万とか4万と言うと『そんなはした金で世界が救えるか』と幹部から恫喝される。20万、30万と無理な目標を申告してしまう。訪問販売が恥ずかしいという気持ちが生まれるのは堕落でありサタンにつけこまれるとマインドコントロールされているので、訪問先で歌なんか歌い芸を披露する。精神を集中して売った」
母親と縁を切った
12年肺炎であっさり死亡した文鮮明がただの人間だと気づいた冠木さんは洗脳から目覚め脱会し、ダメ夫を捨て去り2人の子どもと共に帰国した。20年に及んだ洗脳と、元夫が彼女のクレジットカードを使いつくった多額の借金の返済から抜け出すきっかけは「いのちの電話」の相談員から受けた2つのアドバイスだった。大学の心理療法室と法テラスの利用だ。紹介された心理療法室に通う一方で弁護士の力を借りて自己破産し経済的なピンチを脱した。
脱会支援をサポートする竹迫さんは「かつては信者の脱会に専念したが、うまくいかなかった。今は、信者とその家族とが再び交流できるように努め、両者の分断が修正されて信者の脱会につながれば」と話した。
子どもが旧統一教会に引きずり込まれるのを阻むため母親とは縁を切った冠木さんは、心理療法士のカウンセリングを受けながら再生の道を歩んでいる。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
旧統一教会元信者が自らの過酷な体験を綴った『カルトの花嫁』(合同出版社)が話題を呼んでいる。信者の母親の強要により高校生の頃に入信し、合同結婚式に2度参加した著者の冠木結心さん(かぶらぎ・けいこ=写真上=)は、いずれも韓国人男性とマッチングされた。最初の夫にはDVで、2度目はアルコール依存症で借金漬けの夫に苦しめられ壮絶な結婚生活を送る。2012年9月、教祖・文鮮明の死亡を機に洗脳から目覚め脱会した彼女は翌13年に2人の子ども(異父姉妹)と共に韓国から逃げるように帰国した。40代の今はシングルマザーとして暮らす冠木さんと、元信者で脱会支援活動を37年間も続けている牧師の竹迫之さん(たけさこ・いたる=下=)が11月19日オンラインで対談(合同出版主催)した。
1995年8月25日ソウルオリンピックスタジアムでの合同結婚式に参加した冠木さんは21歳の当時を振り返ってこう語った。
子どもを守るため
「統一教会では男女間の自由恋愛は禁止していますので、1回も恋愛経験はありません。19歳の韓国人とマッチングされた時、愛する人を与えてくださったのでうれしかったです。幸せな毎日が待っていると思いましたが、幻想でした。韓国で住む家も仕事もない彼との結婚生活は私が働き日本でスタートしましたが、夫は自分の気に入らないことがあると、私を殴り、蹴ったりした。信仰の信の字もない夫に驚いた。日本で悪霊(サタン)がついたから夫は暴力をふるうと韓国人教区長などから諭され日本人として罪の意識もありじっと耐えました。でも結婚3年目に生まれた子どもに夫の暴力が向かうと心配になり離婚を母に伝えました。『祝福家庭が壊れるのは、サタンが一番喜ぶこと』と反対されましたが、子どもの身を守るため離婚を決意しました」
だが彼女は2002年2月の2度目の合同結婚式に参加。なぜ再婚したのかについて「御父母様(文鮮明夫婦、教会内での愛称)から祝福を受けたいという洗脳を解くことをできずにいたから」とその時の心境を述べた。相手は14歳年上で日雇いの仕事をしていた。マッチングの際、年齢、学齢、仕事を偽っていた。
「万物復帰」(信仰の訓練として福祉ボランティアを装った信者が一般の人に物を売りつける行為。売り上げは統一教会に入る)と呼ばれる活動として竹迫さんはハンカチを売った。
「ホーム(献身した男女が宿泊施設で共同生活を送る)で朝5時に起きると、皆、今日の売り上げ目標を自己申告する。昨日2万円売れたから3万とか4万と言うと『そんなはした金で世界が救えるか』と幹部から恫喝される。20万、30万と無理な目標を申告してしまう。訪問販売が恥ずかしいという気持ちが生まれるのは堕落でありサタンにつけこまれるとマインドコントロールされているので、訪問先で歌なんか歌い芸を披露する。精神を集中して売った」
母親と縁を切った
12年肺炎であっさり死亡した文鮮明がただの人間だと気づいた冠木さんは洗脳から目覚め脱会し、ダメ夫を捨て去り2人の子どもと共に帰国した。20年に及んだ洗脳と、元夫が彼女のクレジットカードを使いつくった多額の借金の返済から抜け出すきっかけは「いのちの電話」の相談員から受けた2つのアドバイスだった。大学の心理療法室と法テラスの利用だ。紹介された心理療法室に通う一方で弁護士の力を借りて自己破産し経済的なピンチを脱した。
脱会支援をサポートする竹迫さんは「かつては信者の脱会に専念したが、うまくいかなかった。今は、信者とその家族とが再び交流できるように努め、両者の分断が修正されて信者の脱会につながれば」と話した。
子どもが旧統一教会に引きずり込まれるのを阻むため母親とは縁を切った冠木さんは、心理療法士のカウンセリングを受けながら再生の道を歩んでいる。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
2023年01月06日
【月刊マスコミ評・出版】 統一教会新法を骨抜きにしたのは誰か=荒屋敷 宏
『週刊文春』と『週刊新潮』が創価学会を批判するキャンペーンを始めた。『週刊文春』の見出しを追うと、「統一教会新法を骨抜きにした創価学会のカネと権力 二世たちの告発」(12月1日号)「創価学会が恐れるオウム以来の危機」(同8日号)「「池田大作は3年間近影なし 創価学会の『罪と罰』」(同15日号)。
先んじていたのは『週刊新潮』で、同誌11月24日号で「『長井秀和』が明かす『創価学会』と『政治』『献金』『二世』」を掲載したところ、創価学会側が新潮社とお笑い芸人の長井氏に抗議書(学会代理人・新麹町法律事務所)を送付する騒ぎになった。学会は『週刊文春』にも抗議書を持参し、謝罪と訂正記事の掲載を求めている。
創価学会は、ホームページの基本情報によると、会員は827万世帯、海外会員280万人、聖教新聞の部数は公称550万部とされる。統一教会問題で浮上した高額献金や二世問題は、創価学会と通底すると指摘されてきたが、週刊誌が今頃になって取り上げ始めたのは、なぜか。この問題に関心を持つ読者の市場規模もあるが、それだけではない。
一つは、元創価学会員が声を上げ始めたことだろう。長井氏に続いて、元創価学会本部職員・ライターの正木伸城氏は『週刊新潮』12月1日号の手記で、36歳で創価学会本部を辞めた理由として「公明党を心から応援できなくなったことも一因である」「自分に嘘をつくことに私は耐えられなかった」と書いている。「学会は公称827万世帯という会員数を誇るが、その勢力は衰え続けている」とも。
二つには、統一教会の被害者を救済するはずの新法を骨抜きにしたのが創価学会ではないかとの疑惑があるからだ。新法には、マインドコントロール下での高額寄付の禁止や寄付金の上限規制が盛り込まれなかった。信者からの寄付金を収益の柱とする創価学会が、公明党国会議員を使って新法の骨抜きに奔走した様子を『週刊文春』が伝えている。
週刊誌が創価学会を追及する理由は、「数多の宗教団体とは異なり、政権与党・公明党の支持母体であるからに他ならない」(『週刊文春』12月8日号)とも書いている。
もし、そうであるならば、もっと早くから追及する記事を連打すべきだったのではないか。岸田政権への公明党の影響力の低下にあわせて、記事を出したり、引っ込めたりすることは、ジャーナリズムの道から外れていると言わなければならない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
先んじていたのは『週刊新潮』で、同誌11月24日号で「『長井秀和』が明かす『創価学会』と『政治』『献金』『二世』」を掲載したところ、創価学会側が新潮社とお笑い芸人の長井氏に抗議書(学会代理人・新麹町法律事務所)を送付する騒ぎになった。学会は『週刊文春』にも抗議書を持参し、謝罪と訂正記事の掲載を求めている。
創価学会は、ホームページの基本情報によると、会員は827万世帯、海外会員280万人、聖教新聞の部数は公称550万部とされる。統一教会問題で浮上した高額献金や二世問題は、創価学会と通底すると指摘されてきたが、週刊誌が今頃になって取り上げ始めたのは、なぜか。この問題に関心を持つ読者の市場規模もあるが、それだけではない。
一つは、元創価学会員が声を上げ始めたことだろう。長井氏に続いて、元創価学会本部職員・ライターの正木伸城氏は『週刊新潮』12月1日号の手記で、36歳で創価学会本部を辞めた理由として「公明党を心から応援できなくなったことも一因である」「自分に嘘をつくことに私は耐えられなかった」と書いている。「学会は公称827万世帯という会員数を誇るが、その勢力は衰え続けている」とも。
二つには、統一教会の被害者を救済するはずの新法を骨抜きにしたのが創価学会ではないかとの疑惑があるからだ。新法には、マインドコントロール下での高額寄付の禁止や寄付金の上限規制が盛り込まれなかった。信者からの寄付金を収益の柱とする創価学会が、公明党国会議員を使って新法の骨抜きに奔走した様子を『週刊文春』が伝えている。
週刊誌が創価学会を追及する理由は、「数多の宗教団体とは異なり、政権与党・公明党の支持母体であるからに他ならない」(『週刊文春』12月8日号)とも書いている。
もし、そうであるならば、もっと早くから追及する記事を連打すべきだったのではないか。岸田政権への公明党の影響力の低下にあわせて、記事を出したり、引っ込めたりすることは、ジャーナリズムの道から外れていると言わなければならない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
2023年01月05日
【月刊マスコミ評・新聞】平和憲法の理念、もっと強調を=白垣詔男
アフガニスタンで困窮した国民を救うため井戸を掘り灌漑設備を造った福岡市出身の医師、中村哲さん(享年72)が凶弾に襲われ、亡くなって3年たった。アフガニスタンの多くの国民の命を守った大きな功績はいくら賞賛してもしすぎることはない。ただ、中村さんの言動の中で一番印象深かったのは、アフガニスタンで活動を始めてしばらくたったころ、作業車に描いていた「日の丸の旗」を消したことだ。それまでは、日本には、戦争を放棄した憲法があるので「平和の国」だと思われ、中村さんはどこに行っても「戦争をしない平和の国から来た」と笑顔で迎えてくれた。しかし、小泉純一郎政権がイラク戦争や湾岸戦争に自衛隊を派遣すると、「日の丸の信用」がなくなり、中村さんは「日の丸が攻撃対象になる」と作業車から「国旗」を外した。
中村さんはその後、国会で「自衛隊の海外派遣は百害あって一利なし」と証言したが、自民党議員から非難されたことも忘れ難い。
岸田文雄政権は11月29日に防衛、財務両省に、「防衛費を、2027年度に国内総生産(GDP)比で2%まで増やすよう」伝えたのを踏まえて12月5日には岸田首相が浜田靖一防衛相、鈴木俊一財務相と会談して「中期防衛力整備計画(中期防)」で示す2023〜27年度の5年間の防衛費の総額を43兆円規模とするように指示した。
この間、新聞は11月30日の社説で、首相の「防衛費2%指示」について「規模ありきだ」(朝日)、「やはり『数字ありき』だった」(毎日)と批判。朝日は12月2日付でも「『敵基地攻撃』合意へ 専守防衛の空洞化は許せぬ」、毎日も12月3日付で「専守防衛の形骸化を招く」と、政府の防衛政策にさらに批判を強めた。
しかし、憲法についての言及は、毎日が11月30日付で最後のほうに「憲法に基づき、軍事大国とはならず、専守防衛を堅持することが日本の基本方針だ」と触れ、朝日は12月2日付で「戦後、平和国家として再出発した日本の支柱となったのが、平和主義を掲げる憲法であり、それに基づく専守防衛の方針だ」と書いている。
いずれも最後の部分で触れているが、もっと声高に「平和憲法の理念」を訴える主張が肝要ではないか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
中村さんはその後、国会で「自衛隊の海外派遣は百害あって一利なし」と証言したが、自民党議員から非難されたことも忘れ難い。
岸田文雄政権は11月29日に防衛、財務両省に、「防衛費を、2027年度に国内総生産(GDP)比で2%まで増やすよう」伝えたのを踏まえて12月5日には岸田首相が浜田靖一防衛相、鈴木俊一財務相と会談して「中期防衛力整備計画(中期防)」で示す2023〜27年度の5年間の防衛費の総額を43兆円規模とするように指示した。
この間、新聞は11月30日の社説で、首相の「防衛費2%指示」について「規模ありきだ」(朝日)、「やはり『数字ありき』だった」(毎日)と批判。朝日は12月2日付でも「『敵基地攻撃』合意へ 専守防衛の空洞化は許せぬ」、毎日も12月3日付で「専守防衛の形骸化を招く」と、政府の防衛政策にさらに批判を強めた。
しかし、憲法についての言及は、毎日が11月30日付で最後のほうに「憲法に基づき、軍事大国とはならず、専守防衛を堅持することが日本の基本方針だ」と触れ、朝日は12月2日付で「戦後、平和国家として再出発した日本の支柱となったのが、平和主義を掲げる憲法であり、それに基づく専守防衛の方針だ」と書いている。
いずれも最後の部分で触れているが、もっと声高に「平和憲法の理念」を訴える主張が肝要ではないか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
2023年01月04日
【沖縄リポート】司法と行政の茶番劇だ=浦島悦子
司法はここまで落ちぶれてしまったのか‼
沖縄県による「辺野古埋立承認撤回」を取り消した国土交通大臣の裁決は違法だと、県が裁決の取り消しを求めた抗告訴訟で12月8日、最高裁は県の上告を棄却。一度の弁論も行わないまま、「裁判の対象ではない」「県に原告の資格はない」とした一審・二審の判決が確定した。私人(国民)の権利救済のための行政不服審査法を国(行政権力)が使った裁決が、適法かどうかという中身の判断を避けた。
松野官房長官は「沖縄県の訴えを不適法とする国の主張が認められた」と語ったが、司法と行政権力が結託した茶番劇、「国の言うことに従え」という脅し以外の何物でもない。
辺野古新基地建設を巡って沖縄県がこれまでに提訴した訴訟はことごとく、県の敗訴に終わっている。訴えの中身には一切触れず門前払いする司法の在り方は、三権分立をかなぐり捨て、地方自治を踏みにじり、社会正義を実現する「最後の砦」としての役割を放棄した「自殺行為」だ。
私たち新基地予定地周辺に住む住民も、県の抗告訴訟と同様の訴訟を起こしたが、これも今年4月、那覇地裁で原告適格なしとして棄却され、現在、高裁に控訴中だ。
また、埋立予定地の大浦湾側で見つかった軟弱地盤改良工事のための設計変更申請に対する玉城デニー知事の「不承認」についても、国交大臣は同じ「手口」で取り消しの裁決を行った。これに対して沖縄県が提起した3件の訴訟の2件について1日、福岡高裁那覇支部で口頭弁論が開かれ(写真)、玉城デニー知事が意見陳述した。知事は、「これは沖縄の問題ではなく、わが国の地方自治体の自治権を守るたたかいだ」と強調した。
私たち住民も、知事の不承認を支持する新たな抗告訴訟(原告20人)を提起した。県(行政)よりも、基地の被害を直接受ける住民の方が原告適格を認められやすい。「原告適格」の関門を突破すれば、国の違法性を問う中身の審理に入れる。その可能性を探りつつ、同時に司法をただす気概を持って取り組んでいきたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
2023年01月03日
【リレー時評】「敵基地攻撃能力」賛成60%に呆然=米倉 外昭(JCJ沖縄)
「今年の漢字」が「戦」に決まった。ロシアのウクライナ侵攻があり、「台湾有事」が喧伝されているからだけではないという。スポーツの熱戦や挑戦の意味もあるとか。
しかし、平和憲法を掲げ平和国家として歩んできたはずのこの国で「戦」の字が選ばれることに抵抗感は否めない。この国はどこへ向かうのか。
1987年に琉球新報に入社して36年目。富山県生まれで、入社で沖縄県民となった。あえて「植民者1世」と自称することもある。沖縄と日本の関係を考える時、歴史も現状も沖縄は日本の犠牲にされ続け、「日米両国の軍事植民地」とも言われてきた。日本人の一人として責任を自覚するための自己認識である。
その沖縄を再び戦場にする動きが、驚くべきスピードで進んでいる。「軍事植民地」的状況を何ら改善できずにここに至っていることに、ジャーナリズム界の一角に身を置いてきた者として、しかも沖縄メディアにいる者として、深い慚愧の念にさいなまれざるを得ない。
共同通信の11月の世論調査で「政府が進める防衛力強化に関し、日本が反撃能力(敵基地攻撃能力)を持つことに」賛成60・8%、反対35・0%という結果だった。ぼうぜんとした。敵基地攻撃能力を持つこと、それを行使するとはどういうことか、リアルに考えていると思えない。そもそも、今の日本と世界の現実の中で、「防衛力強化」とは何なのか。軍事的、外交的、経済的にどういうことなのか真剣に考えているのだろうか。
2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、東アジアの状況も相まって、テレビの報道解説番組は軍事専門家や防衛族政治家に占拠された感がある。かつてならあり得なかった好戦的な議論がまん延している。世論は間違いなく影響を受けている。
南西諸島は「要塞化」の段階から一気に「戦場化」へと傾いている。先月の日米共同統合演習「キーン・ソード23」では、陸上自衛隊(陸自)の最新鋭の戦車(16式機動戦闘車)が、沖縄県内で初めて与那国島の公道を走った。
那覇市に拠点を置く陸自の第15旅団を増強して師団に昇格させることが明らかになった。読売新聞が3日夕刊1面トップ、4日朝刊でも2面トップで報じたが、朝日、毎日は報じなかった。読売は賛成する立場から大きな扱いをしたと考えられる。沖縄の2紙は「戦場化」への危機感から当然の1面トップだった。
「台湾有事」で沖縄はどうなるのか、と心配する人がいる。住民の避難はできるのか、難民が来たらどうなるのかなどなど。しかし、そんな心配はありがたくない。ウクライナで示されている通り、戦争は始まってしまったら地獄なのである。沖縄県民は77年前の沖縄戦の地獄を知っている。戦争は絶対に起こしてはならないのだ。始めさせないためにどうするかが問題なのだ。
今こそ「二度と戦争のためにペンをとらない」との決意を確認せねば。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
しかし、平和憲法を掲げ平和国家として歩んできたはずのこの国で「戦」の字が選ばれることに抵抗感は否めない。この国はどこへ向かうのか。
1987年に琉球新報に入社して36年目。富山県生まれで、入社で沖縄県民となった。あえて「植民者1世」と自称することもある。沖縄と日本の関係を考える時、歴史も現状も沖縄は日本の犠牲にされ続け、「日米両国の軍事植民地」とも言われてきた。日本人の一人として責任を自覚するための自己認識である。
その沖縄を再び戦場にする動きが、驚くべきスピードで進んでいる。「軍事植民地」的状況を何ら改善できずにここに至っていることに、ジャーナリズム界の一角に身を置いてきた者として、しかも沖縄メディアにいる者として、深い慚愧の念にさいなまれざるを得ない。
共同通信の11月の世論調査で「政府が進める防衛力強化に関し、日本が反撃能力(敵基地攻撃能力)を持つことに」賛成60・8%、反対35・0%という結果だった。ぼうぜんとした。敵基地攻撃能力を持つこと、それを行使するとはどういうことか、リアルに考えていると思えない。そもそも、今の日本と世界の現実の中で、「防衛力強化」とは何なのか。軍事的、外交的、経済的にどういうことなのか真剣に考えているのだろうか。
2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、東アジアの状況も相まって、テレビの報道解説番組は軍事専門家や防衛族政治家に占拠された感がある。かつてならあり得なかった好戦的な議論がまん延している。世論は間違いなく影響を受けている。
南西諸島は「要塞化」の段階から一気に「戦場化」へと傾いている。先月の日米共同統合演習「キーン・ソード23」では、陸上自衛隊(陸自)の最新鋭の戦車(16式機動戦闘車)が、沖縄県内で初めて与那国島の公道を走った。
那覇市に拠点を置く陸自の第15旅団を増強して師団に昇格させることが明らかになった。読売新聞が3日夕刊1面トップ、4日朝刊でも2面トップで報じたが、朝日、毎日は報じなかった。読売は賛成する立場から大きな扱いをしたと考えられる。沖縄の2紙は「戦場化」への危機感から当然の1面トップだった。
「台湾有事」で沖縄はどうなるのか、と心配する人がいる。住民の避難はできるのか、難民が来たらどうなるのかなどなど。しかし、そんな心配はありがたくない。ウクライナで示されている通り、戦争は始まってしまったら地獄なのである。沖縄県民は77年前の沖縄戦の地獄を知っている。戦争は絶対に起こしてはならないのだ。始めさせないためにどうするかが問題なのだ。
今こそ「二度と戦争のためにペンをとらない」との決意を確認せねば。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
2023年01月02日
【おすすめ本】金子 勝『日本国憲法と鈴木安蔵 日本憲法の間接的起草者の肖像』―憲法生んだ在野の日本人学者 歴史の闇に光を当てる=坂本充孝(東京新聞編集委員)
反骨の憲法学者鈴木安蔵は終戦直後、高野岩三郎らと発足した憲法研究会で、「日本国ノ統治権ハ日本国民ヨリ発ス」とする「憲法草案要綱」をまとめ上げた。同要綱は日本国憲法の基礎となった「マッカーサー憲法草案」に大きな影響を与えたとされ、よって鈴木は「日本国憲法の間接的起草者」と呼ばれる。
筆者の金子勝氏は、愛知大学大学院で教員だった鈴木に直接薫陶を受けた数少ない憲法学者。鈴木憲法学を継承すると同時に、「憲法草案要綱」の価値を世に伝える活動に力を注いできた。
福島県南相馬市小高区(現)に生まれた鈴木は、京都帝国大学に進むも治安維持法違反で逮捕され、自主退学を余儀なくされる。その後も在野で研究に励み、明治の自由民権運動などを参考に新憲法の構想を練った。本書は、そうした経緯を資料と取材から明らかにしている。
「憲法草案要綱」がGHQの目にとまった下りが興味深い。ラウエル統治局法規課長がホイットニー同局長に提出した「私的グループが提案した憲法改正についての論評」という文章が丸々掲載されている。これを読むと、GHQが「憲法草案要綱」の条文を逐一、詳細に検討した様子がよくわかる。
鈴木安蔵の故郷である小高は二〇一一年三月の福島第一原発の事故で、一時は全住民が避難を強いられた。町の中心部にあった鈴木の生家は、縁者が避難したために朽ち果てる寸前となっていたが、二年前に地元有志で「鈴木安蔵を讃える会」が発足、記念館にして保存する計画が進んでいる。金子氏も学術顧問として支援している。(八朔社1200円)
筆者の金子勝氏は、愛知大学大学院で教員だった鈴木に直接薫陶を受けた数少ない憲法学者。鈴木憲法学を継承すると同時に、「憲法草案要綱」の価値を世に伝える活動に力を注いできた。
福島県南相馬市小高区(現)に生まれた鈴木は、京都帝国大学に進むも治安維持法違反で逮捕され、自主退学を余儀なくされる。その後も在野で研究に励み、明治の自由民権運動などを参考に新憲法の構想を練った。本書は、そうした経緯を資料と取材から明らかにしている。
「憲法草案要綱」がGHQの目にとまった下りが興味深い。ラウエル統治局法規課長がホイットニー同局長に提出した「私的グループが提案した憲法改正についての論評」という文章が丸々掲載されている。これを読むと、GHQが「憲法草案要綱」の条文を逐一、詳細に検討した様子がよくわかる。
鈴木安蔵の故郷である小高は二〇一一年三月の福島第一原発の事故で、一時は全住民が避難を強いられた。町の中心部にあった鈴木の生家は、縁者が避難したために朽ち果てる寸前となっていたが、二年前に地元有志で「鈴木安蔵を讃える会」が発足、記念館にして保存する計画が進んでいる。金子氏も学術顧問として支援している。(八朔社1200円)
2023年01月01日
【今週の風考計】1.1─戦争の前夜に吹き荒れる「学問・研究・表現の自由」への介入
風前の灯・憲法9条
◆あけましておめでとうございます。いま岸田政権は、日本を「戦争ができる国」へ転換させようと躍起になっている。あの戦争への深い反省から誕生した「憲法9条」、<武力による威嚇又は武力の行使は、…永久にこれを放棄する。陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない>が、風前の灯だ。
◆この危機にあたって、改めて過去の歴史から教訓を学びとりたい。
今から丁度90年前、1933年1月10日、検察は東京商科大学教授の大塚金之助、12日には京都帝国大学教授の河上肇を次々と検挙した。共に治安維持法違反の罪で豊多摩刑務所に収監。その後、懲役2年・執行猶予3年の刑が確定し免職の上、公職につくことまで禁じ、敗戦まで無職で過ごした。
◆続いて2月には、国際連盟が日本に対し中国への侵略および満州国傀儡政権の樹立を非難し、満州からの撤退勧告を可決。だが日本は翌月の3月27日、<聞く耳(1933)持たずに国連脱退>へと突っ走った。
「ヘイタイ ススメ…」
◆この年、4月に採用された国定教科書『小學国語讀本』、通称サクラ読本1年生用の4頁には「ススメ ススメ ヘイタイ ススメ」と大きく書かれ、鉄砲をかつぎ背嚢を背負った兵隊4人が行進している絵が添えられていた。
4月22日、文部省は京都帝国大学教授で刑法学者の滝川幸辰に休職を勧奨。自著『刑法読本』や講演の内容が危険思想との理由で問題にされ、5月26日には一方的に休職発令。これに対し京大法学部の全教官が、大学の自治への侵害と抗議し辞表を提出。文部省はそのうち8教授を免職。『刑法読本』を発禁にした。いわゆる「滝川事件」(京大事件)である。
◆11月28日には、『日本資本主義発達史』の著者で日本共産党の幹部・野呂栄太郎がスパイの手引きで検挙、拷問により翌年2月19日に獄死(享年33)。
やがて日本は、アジア・太平洋戦争へと泥沼の道へ突入する。戦争への序曲には、必ず「学問」への統制・弾圧を伴っていたことが、これらの事実からも明らかだ。なぜ日本国憲法に、明治憲法にない「学問の自由」が定められたのか、大事にしたい。
学問への介入、戦争へ
◆さて日本学術会議の会員名簿から6人の学者を、当時の首相が任命拒否した。いまだに理由は明かされていない。まず拒否理由の開示こそ最優先すべきなのに、なんと政府は重ねて会員選考に介入し、政府を批判する学者の排除へと策動を強めている。3月末までに日本学術会議法の改正法案を国会に提出する方針だ。
こうした動きに対し、学者や作家ら文化人127人でつくる「学問と表現の自由を守る会」は、「学術会議の独立性と学問の自由を侵害するもの」だとして反対し、撤回を求める声明を発表した。
◆声明では「会員選考と活動の独立性は世界のアカデミーの常識。学術会議を政府の御用機関に改変することは、国民の幸福と人類社会の福祉、日本の国益に反する」と指摘。法改正について「学術会議の会員選考と活動に政府が直接介入する」ものだと批判し「軍事優先の学術総動員体制への道を開く」と警告している。
産学共同での軍事開発
◆とりわけ政府は科学技術者による軍事研究の促進を目指し、日本学術会議が保持してきた「軍事研究の禁止」「軍民分離」原則を取り除きたい意図が透けて見える。
防衛費倍増に関する政府有識者会議の提言も、政府に追随する格好の内容となった。大学内外に軍事研究のための「日本版DARPA」の創設が提案され、軍民両面で利用可能な「デュアルユース」技術の開発が促されている。
◆「DARPA」とは、米国防総省の「国防高等研究計画局」を指す。1957年に創設され、精密誘導兵器などの軍事技術と共に、インターネットや衛星利用測位システム(GPS)の実用化にも貢献し、米国の軍需産業の発展につながった。
日本もあやかろうと、「産学共同での軍事開発」に拍車がかかるのは間違いない。先の戦争に対する反省から生まれた、専守防衛・軍民分離などの大事な原則が、葬り捨てられようとしている。絶対に許すわけにはいかない。(2023/1/1)
◆あけましておめでとうございます。いま岸田政権は、日本を「戦争ができる国」へ転換させようと躍起になっている。あの戦争への深い反省から誕生した「憲法9条」、<武力による威嚇又は武力の行使は、…永久にこれを放棄する。陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない>が、風前の灯だ。
◆この危機にあたって、改めて過去の歴史から教訓を学びとりたい。
今から丁度90年前、1933年1月10日、検察は東京商科大学教授の大塚金之助、12日には京都帝国大学教授の河上肇を次々と検挙した。共に治安維持法違反の罪で豊多摩刑務所に収監。その後、懲役2年・執行猶予3年の刑が確定し免職の上、公職につくことまで禁じ、敗戦まで無職で過ごした。
◆続いて2月には、国際連盟が日本に対し中国への侵略および満州国傀儡政権の樹立を非難し、満州からの撤退勧告を可決。だが日本は翌月の3月27日、<聞く耳(1933)持たずに国連脱退>へと突っ走った。
「ヘイタイ ススメ…」
◆この年、4月に採用された国定教科書『小學国語讀本』、通称サクラ読本1年生用の4頁には「ススメ ススメ ヘイタイ ススメ」と大きく書かれ、鉄砲をかつぎ背嚢を背負った兵隊4人が行進している絵が添えられていた。
4月22日、文部省は京都帝国大学教授で刑法学者の滝川幸辰に休職を勧奨。自著『刑法読本』や講演の内容が危険思想との理由で問題にされ、5月26日には一方的に休職発令。これに対し京大法学部の全教官が、大学の自治への侵害と抗議し辞表を提出。文部省はそのうち8教授を免職。『刑法読本』を発禁にした。いわゆる「滝川事件」(京大事件)である。
◆11月28日には、『日本資本主義発達史』の著者で日本共産党の幹部・野呂栄太郎がスパイの手引きで検挙、拷問により翌年2月19日に獄死(享年33)。
やがて日本は、アジア・太平洋戦争へと泥沼の道へ突入する。戦争への序曲には、必ず「学問」への統制・弾圧を伴っていたことが、これらの事実からも明らかだ。なぜ日本国憲法に、明治憲法にない「学問の自由」が定められたのか、大事にしたい。
学問への介入、戦争へ
◆さて日本学術会議の会員名簿から6人の学者を、当時の首相が任命拒否した。いまだに理由は明かされていない。まず拒否理由の開示こそ最優先すべきなのに、なんと政府は重ねて会員選考に介入し、政府を批判する学者の排除へと策動を強めている。3月末までに日本学術会議法の改正法案を国会に提出する方針だ。
こうした動きに対し、学者や作家ら文化人127人でつくる「学問と表現の自由を守る会」は、「学術会議の独立性と学問の自由を侵害するもの」だとして反対し、撤回を求める声明を発表した。
◆声明では「会員選考と活動の独立性は世界のアカデミーの常識。学術会議を政府の御用機関に改変することは、国民の幸福と人類社会の福祉、日本の国益に反する」と指摘。法改正について「学術会議の会員選考と活動に政府が直接介入する」ものだと批判し「軍事優先の学術総動員体制への道を開く」と警告している。
産学共同での軍事開発
◆とりわけ政府は科学技術者による軍事研究の促進を目指し、日本学術会議が保持してきた「軍事研究の禁止」「軍民分離」原則を取り除きたい意図が透けて見える。
防衛費倍増に関する政府有識者会議の提言も、政府に追随する格好の内容となった。大学内外に軍事研究のための「日本版DARPA」の創設が提案され、軍民両面で利用可能な「デュアルユース」技術の開発が促されている。
◆「DARPA」とは、米国防総省の「国防高等研究計画局」を指す。1957年に創設され、精密誘導兵器などの軍事技術と共に、インターネットや衛星利用測位システム(GPS)の実用化にも貢献し、米国の軍需産業の発展につながった。
日本もあやかろうと、「産学共同での軍事開発」に拍車がかかるのは間違いない。先の戦争に対する反省から生まれた、専守防衛・軍民分離などの大事な原則が、葬り捨てられようとしている。絶対に許すわけにはいかない。(2023/1/1)