2023年01月01日

【今週の風考計】1.1─戦争の前夜に吹き荒れる「学問・研究・表現の自由」への介入

風前の灯・憲法9条
あけましておめでとうございます。いま岸田政権は、日本を「戦争ができる国」へ転換させようと躍起になっている。あの戦争への深い反省から誕生した「憲法9条」、<武力による威嚇又は武力の行使は、…永久にこれを放棄する。陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない>が、風前の灯だ。
この危機にあたって、改めて過去の歴史から教訓を学びとりたい。
 今から丁度90年前、1933年1月10日、検察は東京商科大学教授の大塚金之助、12日には京都帝国大学教授の河上肇を次々と検挙した。共に治安維持法違反の罪で豊多摩刑務所に収監。その後、懲役2年・執行猶予3年の刑が確定し免職の上、公職につくことまで禁じ、敗戦まで無職で過ごした。
続いて2月には、国際連盟が日本に対し中国への侵略および満州国傀儡政権の樹立を非難し、満州からの撤退勧告を可決。だが日本は翌月の3月27日、<聞く耳(1933)持たずに国連脱退>へと突っ走った。

「ヘイタイ ススメ…」
この年、4月に採用された国定教科書『小學国語讀本』、通称サクラ読本1年生用の4頁には「ススメ ススメ ヘイタイ ススメ」と大きく書かれ、鉄砲をかつぎ背嚢を背負った兵隊4人が行進している絵が添えられていた。
 4月22日、文部省は京都帝国大学教授で刑法学者の滝川幸辰に休職を勧奨。自著『刑法読本』や講演の内容が危険思想との理由で問題にされ、5月26日には一方的に休職発令。これに対し京大法学部の全教官が、大学の自治への侵害と抗議し辞表を提出。文部省はそのうち8教授を免職。『刑法読本』を発禁にした。いわゆる「滝川事件」(京大事件)である。
11月28日には、『日本資本主義発達史』の著者で日本共産党の幹部・野呂栄太郎がスパイの手引きで検挙、拷問により翌年2月19日に獄死(享年33)。
 やがて日本は、アジア・太平洋戦争へと泥沼の道へ突入する。戦争への序曲には、必ず「学問」への統制・弾圧を伴っていたことが、これらの事実からも明らかだ。なぜ日本国憲法に、明治憲法にない「学問の自由」が定められたのか、大事にしたい。

学問への介入、戦争へ
さて日本学術会議の会員名簿から6人の学者を、当時の首相が任命拒否した。いまだに理由は明かされていない。まず拒否理由の開示こそ最優先すべきなのに、なんと政府は重ねて会員選考に介入し、政府を批判する学者の排除へと策動を強めている。3月末までに日本学術会議法の改正法案を国会に提出する方針だ。
 こうした動きに対し、学者や作家ら文化人127人でつくる「学問と表現の自由を守る会」は、「学術会議の独立性と学問の自由を侵害するもの」だとして反対し、撤回を求める声明を発表した。
声明では「会員選考と活動の独立性は世界のアカデミーの常識。学術会議を政府の御用機関に改変することは、国民の幸福と人類社会の福祉、日本の国益に反する」と指摘。法改正について「学術会議の会員選考と活動に政府が直接介入する」ものだと批判し「軍事優先の学術総動員体制への道を開く」と警告している。

産学共同での軍事開発
とりわけ政府は科学技術者による軍事研究の促進を目指し、日本学術会議が保持してきた「軍事研究の禁止」「軍民分離」原則を取り除きたい意図が透けて見える。
 防衛費倍増に関する政府有識者会議の提言も、政府に追随する格好の内容となった。大学内外に軍事研究のための「日本版DARPA」の創設が提案され、軍民両面で利用可能な「デュアルユース」技術の開発が促されている。
「DARPA」とは、米国防総省の「国防高等研究計画局」を指す。1957年に創設され、精密誘導兵器などの軍事技術と共に、インターネットや衛星利用測位システム(GPS)の実用化にも貢献し、米国の軍需産業の発展につながった。
 日本もあやかろうと、「産学共同での軍事開発」に拍車がかかるのは間違いない。先の戦争に対する反省から生まれた、専守防衛・軍民分離などの大事な原則が、葬り捨てられようとしている。絶対に許すわけにはいかない。(2023/1/1)
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする