反骨の憲法学者鈴木安蔵は終戦直後、高野岩三郎らと発足した憲法研究会で、「日本国ノ統治権ハ日本国民ヨリ発ス」とする「憲法草案要綱」をまとめ上げた。同要綱は日本国憲法の基礎となった「マッカーサー憲法草案」に大きな影響を与えたとされ、よって鈴木は「日本国憲法の間接的起草者」と呼ばれる。
筆者の金子勝氏は、愛知大学大学院で教員だった鈴木に直接薫陶を受けた数少ない憲法学者。鈴木憲法学を継承すると同時に、「憲法草案要綱」の価値を世に伝える活動に力を注いできた。
福島県南相馬市小高区(現)に生まれた鈴木は、京都帝国大学に進むも治安維持法違反で逮捕され、自主退学を余儀なくされる。その後も在野で研究に励み、明治の自由民権運動などを参考に新憲法の構想を練った。本書は、そうした経緯を資料と取材から明らかにしている。
「憲法草案要綱」がGHQの目にとまった下りが興味深い。ラウエル統治局法規課長がホイットニー同局長に提出した「私的グループが提案した憲法改正についての論評」という文章が丸々掲載されている。これを読むと、GHQが「憲法草案要綱」の条文を逐一、詳細に検討した様子がよくわかる。
鈴木安蔵の故郷である小高は二〇一一年三月の福島第一原発の事故で、一時は全住民が避難を強いられた。町の中心部にあった鈴木の生家は、縁者が避難したために朽ち果てる寸前となっていたが、二年前に地元有志で「鈴木安蔵を讃える会」が発足、記念館にして保存する計画が進んでいる。金子氏も学術顧問として支援している。(八朔社1200円)