2023年01月03日

【リレー時評】「敵基地攻撃能力」賛成60%に呆然=米倉 外昭(JCJ沖縄)

 「今年の漢字」が「戦」に決まった。ロシアのウクライナ侵攻があり、「台湾有事」が喧伝されているからだけではないという。スポーツの熱戦や挑戦の意味もあるとか。
 しかし、平和憲法を掲げ平和国家として歩んできたはずのこの国で「戦」の字が選ばれることに抵抗感は否めない。この国はどこへ向かうのか。
 1987年に琉球新報に入社して36年目。富山県生まれで、入社で沖縄県民となった。あえて「植民者1世」と自称することもある。沖縄と日本の関係を考える時、歴史も現状も沖縄は日本の犠牲にされ続け、「日米両国の軍事植民地」とも言われてきた。日本人の一人として責任を自覚するための自己認識である。

 その沖縄を再び戦場にする動きが、驚くべきスピードで進んでいる。「軍事植民地」的状況を何ら改善できずにここに至っていることに、ジャーナリズム界の一角に身を置いてきた者として、しかも沖縄メディアにいる者として、深い慚愧の念にさいなまれざるを得ない。
  共同通信の11月の世論調査で「政府が進める防衛力強化に関し、日本が反撃能力(敵基地攻撃能力)を持つことに」賛成60・8%、反対35・0%という結果だった。ぼうぜんとした。敵基地攻撃能力を持つこと、それを行使するとはどういうことか、リアルに考えていると思えない。そもそも、今の日本と世界の現実の中で、「防衛力強化」とは何なのか。軍事的、外交的、経済的にどういうことなのか真剣に考えているのだろうか。

 2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、東アジアの状況も相まって、テレビの報道解説番組は軍事専門家や防衛族政治家に占拠された感がある。かつてならあり得なかった好戦的な議論がまん延している。世論は間違いなく影響を受けている。
  南西諸島は「要塞化」の段階から一気に「戦場化」へと傾いている。先月の日米共同統合演習「キーン・ソード23」では、陸上自衛隊(陸自)の最新鋭の戦車(16式機動戦闘車)が、沖縄県内で初めて与那国島の公道を走った。
  那覇市に拠点を置く陸自の第15旅団を増強して師団に昇格させることが明らかになった。読売新聞が3日夕刊1面トップ、4日朝刊でも2面トップで報じたが、朝日、毎日は報じなかった。読売は賛成する立場から大きな扱いをしたと考えられる。沖縄の2紙は「戦場化」への危機感から当然の1面トップだった。

 「台湾有事」で沖縄はどうなるのか、と心配する人がいる。住民の避難はできるのか、難民が来たらどうなるのかなどなど。しかし、そんな心配はありがたくない。ウクライナで示されている通り、戦争は始まってしまったら地獄なのである。沖縄県民は77年前の沖縄戦の地獄を知っている。戦争は絶対に起こしてはならないのだ。始めさせないためにどうするかが問題なのだ。
  今こそ「二度と戦争のためにペンをとらない」との決意を確認せねば。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | <リレー時評> | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする