アフガニスタンで困窮した国民を救うため井戸を掘り灌漑設備を造った福岡市出身の医師、中村哲さん(享年72)が凶弾に襲われ、亡くなって3年たった。アフガニスタンの多くの国民の命を守った大きな功績はいくら賞賛してもしすぎることはない。ただ、中村さんの言動の中で一番印象深かったのは、アフガニスタンで活動を始めてしばらくたったころ、作業車に描いていた「日の丸の旗」を消したことだ。それまでは、日本には、戦争を放棄した憲法があるので「平和の国」だと思われ、中村さんはどこに行っても「戦争をしない平和の国から来た」と笑顔で迎えてくれた。しかし、小泉純一郎政権がイラク戦争や湾岸戦争に自衛隊を派遣すると、「日の丸の信用」がなくなり、中村さんは「日の丸が攻撃対象になる」と作業車から「国旗」を外した。
中村さんはその後、国会で「自衛隊の海外派遣は百害あって一利なし」と証言したが、自民党議員から非難されたことも忘れ難い。
岸田文雄政権は11月29日に防衛、財務両省に、「防衛費を、2027年度に国内総生産(GDP)比で2%まで増やすよう」伝えたのを踏まえて12月5日には岸田首相が浜田靖一防衛相、鈴木俊一財務相と会談して「中期防衛力整備計画(中期防)」で示す2023〜27年度の5年間の防衛費の総額を43兆円規模とするように指示した。
この間、新聞は11月30日の社説で、首相の「防衛費2%指示」について「規模ありきだ」(朝日)、「やはり『数字ありき』だった」(毎日)と批判。朝日は12月2日付でも「『敵基地攻撃』合意へ 専守防衛の空洞化は許せぬ」、毎日も12月3日付で「専守防衛の形骸化を招く」と、政府の防衛政策にさらに批判を強めた。
しかし、憲法についての言及は、毎日が11月30日付で最後のほうに「憲法に基づき、軍事大国とはならず、専守防衛を堅持することが日本の基本方針だ」と触れ、朝日は12月2日付で「戦後、平和国家として再出発した日本の支柱となったのが、平和主義を掲げる憲法であり、それに基づく専守防衛の方針だ」と書いている。
いずれも最後の部分で触れているが、もっと声高に「平和憲法の理念」を訴える主張が肝要ではないか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号