2023年01月21日
【22読書回顧】―私のいちおし 風間直樹(『週刊東洋経済』編集長)妻の介護と精神医療の現実を報告
この数年間、日本の精神医療の抱える現実の取材を重ね、現場では長期入院や身体拘束など人権上の問題が山積している実態をリポートしてきた(本年3月『ルポ・収容所列島』として上梓)。このテーマを患者家族の立場から描き出した一書が、永田豊隆『妻はサバイバー』(朝日新聞出版)だ。
本書は精神疾患を抱えた妻の介護と新聞記者の仕事を両立させてきた、実に20年にわたる日々がつづられている。患者を閉じ込め、薬でおとなしくさせて終わりという精神医療のお寒い現状、その一方で地域で支える医療や福祉の資源があまりに乏しいゆえに強制入院に頼らざるを得ない家族の厳しい現実があることを、客観的に描いた貴重なリポートだ。
朝日新聞記者として生活保護や国保滞納問題などで当事者の立場に深く寄り添い、かつ鋭い問題提起を重ねる筆者の記事の数々を畏敬の念をもってみていたが、こうした環境下での仕事だったとは思いもしなかった。
終わらぬ疫病に侵略戦争、そしてテロ…。生と死を考えさせられる事の多い陰鬱な現下で手に取った一冊が、山本文緒『無人島のふたり』(新潮社)。直木賞作家の筆者が突然すい臓がんと診断され、その時すでにステージは4b。抗がん剤治療はせずに緩和ケアに進むことを決めたとの記載から始まり、亡くなる直前までほぼ毎日書き続けられた日記だ。
闘病の苦しさを描きつつも時にユーモアを交え、最後の日々を書き連ねる筆者の姿勢に、自らの人生をしっかりと生き抜く覚悟を教えられた。
最後は専門の経済分野から一冊、高橋篤史『亀裂 創業家の悲劇』(講談社)を挙げたい。企業・経済取材は多くの場合、合理的な判断や方針によって生じる事柄が対象となる。例外的にそれとまったく異なるのが、同書で扱った創業一族による骨肉の争いだ。
経済事件を扱うノンフィクションにおいて、当代随一の書き手である筆者が、世間を騒がせたお家騒動を緻密に調べ上げ、結果、人間の持つ「業」を描き切った一作だ。