本書のタイトルである「異状死」をご存知だろうか。法医学の定義では、「明らかな病死以外の全ての死」であるが、一般的なイメージとしては「変死」、「犯罪死」に近いものではないだろうか。表紙にある「日本人の5人に1人は死んだら警察の世話になる」は、私が著者の取材に答えた内容の一部である。超高齢社会となった現在、異状死が身近な死となっている。にも関わらず、異状死は未だ社会的に認知されてはいない。
著者は、自らの両親が異状死となった経験から、異状死の問題に直面することとなった。元気に日々を過ごし、自宅で亡くなった父親は、死因が不明ということで異状死の扱いとなった。長患いすることなく、家族と暮らし自宅で亡くなる、大往生で理想の死とも思える人生の最期が異状死となり、警察の犯罪捜査の対象となる。そして家族の死を悼むはずの遺族は、警察の事情聴取を受け、時には死体解剖となる。どうして異状死となるのか、どうしたら異状死とならないのか。著者は、異状死となった遺族の心情から、日本の死因究明制度、異状死の取扱い制度、在宅医療、かかりつけ医のあり方まで、異状死を取り巻く諸問題を多角的に取材している。
令和2年死因究明等推進基本法が施行され、死因究明の充実が期待される。一方で、変死、犯罪死でない死亡が異状死となる現状を改善するには、法律だけでなく、異状死問題への社会的理解が欠かせない。
普通の死、在宅死が異状死になる現状の認識が社会に広がることが、人生の最期を、警察による捜査ではなく、医療として診とる制度作りに繋がることが期待される。本書は、日本の異状死の課題と現状を知る最良の書と考える。多くの人に本書を読んでもらいたい。
(小学館新書900円)