2023年02月28日

【寄稿】軍拡の大前提=「脅威」は本当に存在するのか いまメディアが真っ先に問うべきことは=梅田正己

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 日本の防衛費をGDP2%へ一挙倍増すべきだという安倍元首相の遺言≠ェいつの間にか既成事実化されて、いまや自民党内では増税を含む財源問題が中心議題となっている。
 マスメディアの報道や論調も、防衛力の強化を前提としたものとなっている。たとえば安保政策を大転換した閣議決定翌日の12月17日の朝日新聞の社説はこう書き出されていた。
「日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているのは事実で、着実な防衛力の整備が必要なことは理解できる。」
 この認識は今回の政府の「国家安全保障戦略」の大前提となる情勢認識と共通している。同「戦略」にもこう書かれていた。
「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。」
 しかし、本当にそうなのだろうか。いまこの国は、安保政策を大転換し、防衛費を一挙に倍増し、防衛力を飛躍的に増強しなければならないような危機的状況に直面しているのだろうか。
 事実に即して状況を観察・点検し、この国がはたして「戦後最大の軍事的危機」に直面しているのかどうか、政府の主張を検証してみる必要がある。

 政府の「国家安全保障戦略」で具体的に示されている「脅威」とは、次の3つである。
1)中国の動向――「我が国と国際社会の深刻な懸念事項で、これまでにない最大の戦略的な挑戦」
2)北朝鮮の動向――「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」
3)ロシアの動向――「ウクライナ侵略によって国際秩序の根幹を揺るがし、中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念」
こうした脅威・懸念にたいする対抗措置として、政府は敵基地攻撃能力をふくむ戦後最大の防衛戦略の大転換、軍備の大増強を実行するというのである。
しかし本当にこうした脅威が実在するのだろうか。

ロシアは本当に
「脅威」なのか
まずウクライナ侵攻によって、戦争の悲惨さを私たちに伝え、震撼させたプーチンのロシアから考えてみよう。ロシアが実際に日本にも侵攻してくるような脅威となる存在なのか――。
現代世界においては、どんな国であっても、何の理由もなしに他国に侵攻するということはあり得ない。
今回のウクライナ侵攻も、基本的にはプーチンの大スラブ主義(大ロシア主義)の野望が生み出したものであり、ロシア語を話す人々がロシアと国境を接するウクライナ東南部に住んでいることを口実として実行された。
またロシアによる過去の侵略行為も、フィンランドをはじめバルト3国、ポーランドなどすべて国境線を踏み破って行われた。
それに対し、日本は海によってロシアと隔てられている。またロシアが日本と敵対する理由も事情もない。
過去の冷戦時代には、宗谷海峡を渡ってソ連が攻めてくるという話が喧伝され、そのため自衛隊は持てる戦車の半数を北海道に配備したが、やがて冷戦が終わり、軍事的な見地からもそんな作戦行動はあり得ないことが暴露され、日米合作のフィクションだったとして抹消された。
いかにプーチンといえども、ロシアが日本に侵攻する理由も口実もないのである。「ロシアによる軍事侵攻の脅威」は現実にはまったく成りたたない。 

北朝鮮は本当に 
「脅威」なのか
次に北朝鮮による「脅威」についてはどうか。
 その根拠とされるのは、北朝鮮による相次ぐミサイル発射である。とくに日本列島を飛び越す長射程のミサイルが、四半世紀前のテポドン以来、日本に対する脅威として喧伝されてきた。
  たとえば今年10月4日朝、日本列島を越え、太平洋はるか沖の東方海上に落下したミサイルは、「Jアラート」によりテレビ放送を1時間近く中断させて国民を不安がらせた。
 しかし、「火星17号」と推測されるそのミサイルは、人工衛星よりもなお高い宇宙空間を平均マッハ4の速さで飛び去ったのであり、「Jアラート」などとはおよそ次元を異にする飛行物体だった。
 ではなぜ、北朝鮮はミサイル発射実験に固執するのか。理由は、米大陸に到達するICBM(大陸間弾道ミサイル)を完成させたいからである。
 北朝鮮は、米国とはいまなお潜在的交戦状態にある。なぜなら70年前に金日成と米軍の司令官とが調印したのは休戦条約であって、平和条約ではないからである。潜在的交戦状態にあるからこそ、米国は韓国に広大な空軍と陸軍の基地を配置し、毎年、北朝鮮の目の前で、北側海岸への上陸作戦を含む韓国軍との合同演習を威嚇的に実施している。
 北朝鮮は米国との敵対関係を解消し、国際的な経済制裁を解除させて、経済復興にとりくみたい。そのためには、何としても米国と直接交渉をする必要がある。
 そこで06年の米中ロ韓日との6カ国会議の場でも必死に米国と交渉したし、トランプ前大統領とも3度にわたって会談した。しかし、いずれも寸前のところで米国は身をかわし、交渉は不発に終わっている。
 かくなる上は、米国を、身をかわせなくなる状況にまで追い込むしか方法はない。すなわち、核弾頭を装備したICBMを振りかざすことによって、米国にたいし休戦条約にかわる平和条約の締結を迫るしかない。
 これがいわば、北朝鮮に残された、彼らが考える最後の生き残り策なのである。したがって、ミサイル発射実験も核実験も、相手国はただ一つ、米国なのである。日本などは眼中にない。
 北朝鮮が日本に対して求めているのは、35年間にわたる植民地支配に対する謙虚な反省と代償であり、かつて日本政府が韓国に対して行なったのと同種の経済協力なのである。
 そしてそのことは、02年の「日朝平壌宣言」で金正日と小泉純一郎、当時の両国首脳が約束し合っている。日朝国交回復ができれば、それは実現に向かう。その日本に対して、北朝鮮がミサイルを撃ち込んでくることなどあろうわけがない。それは人が自家に火を放つようなものだからである。
 それなのに、自公政権は北朝鮮の現状を「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」と決めつけ、大軍拡に向かって突進のスタートを切ろうとしている。「Jアラート」によって国民の危機感をあおったのと同様、これもフェイクである。(→続きを読む)
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2023年02月27日

【おすすめ本】豊田恭子『闘う図書館 アメリカのライブアリランショップ』―地域社会を楽しむ新たな図書館像=西村 央(ジャーナリスト)

 ワシントン駐在記者として米国で仕事をしていた頃、連邦議会図書館や大学の図書館整が利用しやすいと感じた。本書で紹介されているのは、公共図書館の姿だ。
 そこは、本の貸し出しや情報提供にとどまらず、地域の人々が気軽に参加できる無料セミナー、音楽会、映画会などが開催される場である。格差社会、米国にあって、文化、知識の共有を、という視点を貫く実践がある。
 専門家からは、次のような提言もある。「利用者のニーズをくみ取り、適切なサービスをきめ細かく提供する」ことにより、すべての人が地域社会を楽しむことができるようになる。「その実現を目指すのが図書館の仕事」であると、新たな図書館像が示されている。
 米国の公共図書館は、公的資金のバックアップや図書館協会などによる研修があり、これらが発展の土台となっている。著者は、日本の公共図書館をこれと対比し、業際的な議論の不足とともに、「良いサービス事例が生じても、それを持続していくための体制が整えられていない」と指摘する。
 米国の公共図書館が政治に翻弄されることもある。トランプ政権下、国防や国境警備予算が増額される一方で、「図書館サービス機構」(IMLS)や博物館を含む18の連邦組織を閉鎖する予算案方針が示された。これに対し、図書館を支援する議員、全米の図書館利用者による運動が繰り広げられ、共和党議員のなかにもIMLSの存続と予算増への賛同者を広げていったことを本書は紹介している。文化的公共財を守り、発展させることは、闘いなのである。
(筑摩書房1600円)
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2023年02月26日

【今週の風考計】2.26─「Colabo」への異常なバッシングを許すな!

歌舞伎町の「バスカフェ」
★「Colabo」に対するバッシングや妨害が激しくなっている。「Colabo」は、東京都からの委託を受けて、性搾取や虐待の被害に遭う若年女性や少女に寄り添い、支援事業をする一般社団法人である。
★2013年に立ち上げ、これまで続けてきた地道な活動に対し、ハンドルネーム<暇空茜>(ひまそらあかね)なる人物が、ネット上で「Colabo」に関するデマや中傷攻撃を始め、その後フォローワーの一部には過激な書き込みだけでなく、直接の妨害行動に及ぶなどエスカレートしている。
★居酒屋や風俗店が並ぶ東京・新宿区歌舞伎町。その中の新宿区役所前に「Colabo」が運営するピンクの改装バスを駐車し、無料で利用できる10代向けの夜カフェ「Tsubomi Café」をオープン。周囲にテントやイスなどを置き空腹の女性たちへの食料提供や家に帰りたくない少女らを受け入れる居場所&シェルターとなっている。
★現場を取材した安田浩一さんは、「家出してスーツケースを引っ張る10代女性や薬物の影響らしくもうろうとして倒れ込んでいる若年女性を目の前で見ました。…そいう女性を救済するColaboの役割は、絶対に重要です」と述べている。

「Colabo」に対するヘイトクライム
★ところが大事な役割を果たしている「バスカフェ」近くに、複数の男性が無言で立ち、利用者や関係者を撮影、その映像をネットに投稿し中傷するなど、深刻な事態が生まれている。女性を食い物にする性産業従事者の影も見え隠れする。
★こうした行動を誘引するきっかけとなったのが、ハンドルネーム<暇空茜>なる人物のネット上の書き込みである。この人物は東京在住・40代の男性と分かっているが、彼は「Colabo」の委託料の精算内容に不正があるとして、東京都に住民監査請求を起こした。だが監査結果は、「不法・違法・不正は認められない」となった。
★なのに、いまだに「Colabo」への攻撃をやめず、またフォローワーも「Colabo」を面白おかしく揶揄し中傷する動画や投稿を大量に流している。1月22日、弁護団は「若年女性の居場所事業への深刻な憎悪犯罪(ヘイトクライム)」だとして、抗議声明を発表している。

異常な国会での「Colabo」攻撃
★にもかかわらず、あろうことか「日本維新の会」浅田均・参議院会長が、1月27日の参院本会議で東京都の「Colabo」支援に関連し、「無駄な行政支出」であり、「利益誘導」があるなどと攻撃する異常な事態が起きている。
★再度、歌舞伎町の「バスカフェ」現場の映像を見て驚いた。1月18日夜8時ごろ、NHK 党の新宿区議候補が黄色いコートに名前入りのタスキをかけ、「NHK撃退」と書かれたノボリの傍でカセットから音声を流し、「バスカフェ」に出入りする女性の数をカウントするなど、信じがたい迷惑行動を繰り広げていた。なぜなのか。
★2月22日の参院本会議である。NHK党の浜田聡・政調会長の発言を聞いて頷いた。なんとガーシー議員への懲罰に対する、同党の弁明発言の中で「Colabo」問題を持ち出したのだ。
 ガーシー議員が最近立て続けに「Colabo」の不正や利権につき、数多くの質問主意書を提出している。その現状を踏まえれば、「ガーシー議員を除名に追い込み、質問主意書を提出できなくすることで、このColabo問題 に注目が集まることを防ごうとしている可能性をここで指摘させていただきます」と、懲罰の不当性を主張したのだ。
 かつ日本維新の会や都議会・自民党が「Colabo問題」の追究に奮闘していることに敬意を表し感謝するとまで持ち上げた。呆れて開いた口がふさがらない。
★ジェンダー平等・女性差別の禁止など、大きな流れに挑戦するかのような日本維新の会やNHK党の動きは、ますます「Colabo」に対するネット上のデマや中傷をあおり、バッシングに手を貸すのは目に見えている。その責任は重大で見逃すわけにはいかない。(2023/2/26)
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2023年02月25日

【焦点】「インボイス中止を」フリーランスら直撃 重い納税、消費増税の布石=橋詰雅博

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 政府が10月から実施するという消費税のインボイス(税率や税額が記載された適格請求書)制度。「廃業」につながる死活問題ゆえにフリーランスなど個人事業者を中心に反対の声が日増しに高まっている。フリーランスとして働く人が多い出版、アニメ、演劇、映画、俳優・声優などの各団体やフリーランスなどからなる市民グループ「インボイス制度を考えるフリーランスの会(通称:STOP!インボイス)」は相次いで反対声明を出し中止を岸田政権に迫っている。地方経済に悪影響が及ぶと延期や中止を求める意見書を採決した地方議会も急増中だ。
 反対運動に火をつけた「STOP!インボイス」の呼びかけ人の小泉なつみさん(ライター兼編集者)はこう言う。
「一昨年10月、インボイス制度導入で私の負担はどのくらいになるかを税理士さんに尋ねたら驚くほどの金額を提示されました。夫も同業者ですからこれでは家計が立ち行かなくなるとショックでした。インボイスの実態を書いた私のツイッターへの反響は大きく何かアクションを求めていると感じ導入反対を求めるネット署名を12月にスタート。アッと言う間に3万筆も集まり、財務省に提出しました。クラウドファンディングを介して寄せられた約100万円で日比谷野音での反対集会を昨年10月に開いたとき、10万筆を超えたことを報告(=写真上=)。現在15万5000筆に増えています」

仕事がなくなる
 消費税は消費者が支払っていると思いがちだが、実は事業者が税務署に納めている。3%の消費税が導入された1989年は年間売り上げ(年収)が3千万以下の事業者は免税だったが、2004年から1千万以下に引き下げられた。今回のインボス制度実施では1千万以下も課税対象となる。例えば年収300万のフリーランスなどの個人事業者が納める消費税は約14万で、経費、健康保険などの社会保険料や所得税、住民税などを差し引くと、自由になるお金は約90万という試算もある。その上に事務作業も煩雑になる。
 納税を避けるため税務署に課税事業者登録をせず、免税事業者として留まる方法もあるが、報酬ダウンや仕事を失う可能性がある。なぜそうなるのかを小泉さんは「出版社と下請けのライターとの関係で言えば、未登録のライターは、インボスを発行できませんから出版社がライターの消費税を被ります。従って出版社はそのライターへの仕事の発注では、従前より安い原稿料で依頼することがあり得ます。あるいはインボイスに登録済みの課税事業者に仕事を回すことも考えられ、インボイスを発行できないライターは仕事がなくなる可能性がある」と説明する。発注元の出版社から課税事業者への登録要請があれば、ライターは飲まざるを得ない。実際、登録依頼の要請とともに、未登録なら取引価格の変更の可能性があると書かれた文書をライターに郵送した出版社もある(=写真下=)。
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仕事の仲間を分断
 ただ世論の反発は根強く、国会議員も超党派でインボイス制度の問題を考える議員連盟を昨年11月下旬に発足させた。このため岸田政権は免税事業者から課税事業者に転換したら3年間だけ消費税の納税を最大2割とするなどの緩和措置を打ち出した。
 「反対世論の勢いが止まないので少し緩めてやろうというのがこの措置ですが、もともと複雑な制度をさらに複雑化させています。抜本的な解決策とは言い難い。仕事仲間との間に分断を生み、重い納税と事務負担で若手の成長も阻むインボイス制度は中止すべきです」(小泉さん)
 課税事業者への登録は9月中までの予定だ。インボイス制度導入の背景には免税事業者をなくし消費税増税をめざす財務省の思惑が潜んでいる。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号

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2023年02月24日

【お知らせ】JCJ賞受賞者と学生がコラボ 2月にはJPOT新冊子が完成=古川英一

 JPOT(東海ジャーナリズムプロジェクト)は東海大学文化社会学部の羽生浩一教授のゼミで、学生たちはJCJ賞の受賞者のスピーチを聞いて、取材して、自分たちの意見をまとめて毎年1冊の冊子を作り上げていく。その活動の中から学生たちにジャーナリズムの鼓動や社会の動きを感じてもらおうという狙いだ。2016年に共同プロジェクトとしてスタートし、JCJからも元記者のメンバーが中心になってデスク役を務めている。
 2022年は6つの受賞作品と特別講演について1年生から3年生まで7人が参加して(4年生もサポート)、9月の贈賞式以降、受賞者への取材を行った。今回の受賞作は地方からの発信が多かったため、ZOOMでの追加取材や、中には長野まで出かけて話を聞いた学生もいた。そして毎月2回ZOOMでデスクも含めた編集会議を行い、年末までほぼ3か月かけて冊子をまとめていった。

  取材して原稿を書くのは初めてという学生もいて、デスクとのやりとりに、めげることなく何度も書き直し、自分の気づきを文章に刻んでいった。沖縄の2紙を担当した学生は「沖縄の犠牲によって今の私たちの生活が成りたっているのかと思うと、沖縄が直面している問題に無関心ではいられない」と記した。また「将来メディアの仕事につけたなら、どうすれば関心のない人にも届くか、どうすれば自分の事として考えてもらえるかを常に意識したい」と意気込みを書きこんだ学生もいる。
 
 冊子では毎回、学生が自分たちで決めたテーマで座談会を行っている。今回は大賞の「教育と愛国」についてだ。日頃キャンパスではなかなか話題にできないような問題を本音で語り合った。「正しい日本人像を教育でどうこうしようというのは違うのではないか」という指摘や、ドイツの教育について調べてきた学生は「加害の歴史を乗り越えて二度と繰り返さないという意識があると思った」と語る。こうして学生たちの問題意識が高まっていくのを見ることができ、この中から、ジャーナリストを目指す人が出てくることを期待したい(これまでに何人かが記者のへ)。
 JCJ賞のジャーナリストと学生とのコラボレーション、来月には冊子をお届けできると思う。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号
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2023年02月23日

【原発回帰】事故の教訓、反省も法も無視 脱原発首長会議が緊急声明=佐藤和雄(「脱原発をめざす首長会議」事務局長)

 岸田文雄政権が昨年12月22日のGX実行会議で決定した「原発回帰」政策に対し、全国の基礎自治体首長と首長経験者でつくる「脱原発をめざす首長会議」は12月26日、緊急声明を発出するとともに、松下玲子・東京都武蔵野市長や村上達也・元茨城県東海村長ら共同世話人4人が記者会見し、「主権者である国民の合意がないままに、原発政策を転換することは許されない」などと厳しく批判した。
「脱原発をめざす首長会議」は、2011年3月の東京電力福島第一原発事故をきっかけに、その翌年に原発立地自治体や周辺自治体も含む全国の首長らが結集して発足した。現在の会員数は94人。
     ◇
  緊急声明は、「自治体の首長および首長経験者の立場からなお二つの問題が未解決であることをまず強調したい」として、(1)2021年3月に水戸地裁が運転を認めない判決を下した東海第二原発にみられるように、自治体の避難計画の実効性が確保されていないこと。(2)原発から生まれる高レベル放射性廃棄物の最終処分地が未決定であり、その候補地選定によって自治体内で住民の間に深刻な分裂をもたらしていること――を挙げた。
 さらに「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻では原発が占領され、原発の存在が安全保障上も大きな問題となっていること」も指摘。そのうえで「災害対策基本法によって『住民の生命、身体および財産を災害から保護する』責務を有している立場から、『原発回帰』政策に断固として反対する」と述べている。
  記者会見で松下玲子・武蔵野市長は「主権者である国民の合意がない中で、政府が大きな方針の転換をし、『原発を最大限活用』という言葉で新規の建設、そして運転期間の延長を行うことは認められない。2021年は衆院選挙もあったが、(自民党は)政策としても争点としても掲げていない。非常に強い憤りをもっていることを基礎自治体の首長として示したい」と語った。

 また、被災地の自治体首長として過酷な経験をした桜井勝延・元福島県南相馬市長(現在は同市議)は「南相馬市をはじめとして被災地の住民は、まったく復興の途上でしかない。住民の感覚と政権の感覚があまりにもずれている」と発言。原発立地自体である東海村の村上達也・元村長は「エネルギーだけの観点、あるいはカネだけの観点でああいう政策を発表したことに憤っている。腹立たしくてならない」と怒りを露わにした。

 さらに、三上元・前静岡県湖西市長(現在は同市議)は、「ウクライナでの戦争で原発は国防上も大きな問題があると分かった。それにも関わらず『原発回帰』という政策は考えられない。また、民主党政権時代は各地で討論集会を開き、そのうえで(脱原発の)方針を決定した。自民党もそれは反対していなかった。十分な討論も経ず、閣議決定だけでやろうとしている。民主主義的手続きを十分に踏んでおらず、許せない」と問題点を指摘した。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号
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2023年02月21日

【おすすめ本】及川 順『非科学主義信仰 揺れるアメリカ社会の現場から』―扇動がもたらす分断 なぜ人は陰謀論に走るのか=鈴木 耕(編集者)

 よくまとまった現代アメリカ社会論である。国民分断が叫ばれるアメリカだが、これはアメリカだけの問題ではない。読んでいくと「日本も同じことじゃないか」という気もしてくる。ある極端な意見、一見もっともらしい言説だが少し検討してみれば全くのフェイクだと分かる煽動が一定の層に浸透し、それが次第に科学そのものを歪んだ形に変えていく。「ワクチンは人体にカプセルを埋め込むもの」などに代表される陰謀論。
 だが受け入れ易いものだけを信じ込む人々もいる。著者はそれを「非科学主義信仰」と呼ぶ。その傾向が政治に及ぶとき、国家の分断が発生する。トランプ登場がその象徴だった。SNS上で陰謀論を拡散させたのが「Qアノン」などだ。草の根の不満の集積が政治に影響し、トランプという異形の煽動家を大統領に押し上げた。

 著者はNHKロサンゼルス支局長などを歴任、アメリカのさまざまな現場を取材し、克明な報告を本書に綴った。興味深いのが「第二章 政治を突き動かす非科学主義」「第三章 なぜ非科学主義に走るのか」だ。政治家がいかにQアノンなどの陰謀論を利用したか。そのツールとしてのSNS。国民の分断は先進国内に第三世界を現出させる。いわゆる「上級国民」に対する反発が不満層の銃規制反対に結びつき、人種差別という暴力を伴い、「トーク・ラジオ」のスピーカーが差別を助長する。それを拒否すべき教会が差別に加担した例も示される。
 アメリカという大国の病巣が摘出されるのだが、果たしてこれがアメリカだけの問題か。我々の国も同じことではないかと、著者は問いかけてくる。
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2023年02月20日

【お知らせ】3月5日(日)午後2時から4時 22年度JCJ賞受賞記念 土の声を「国策民営」リニアの現場から =信濃毎日新聞取材班

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  2022年度JCJ賞受賞者によるオンライン講演会第3弾 日本列島の中央部の自然体系と地形、風土を大きく傷つけながら強行されているリニアモーターカー建設プロジェクト。総工費約7兆円のうち約3兆円を政府が財政投融資で貸し出すという、「国策民営」の事業だが、長野など関係県や市町村にも大きな負担を押し付けられている。その必要性、有効性からも、地元住民などの根強い反対運動が続く。
 86%がトンネル工事の同プロジェクトでは、残土の処理や運搬など「土」の処理が、大きな課題になっている。この「土」に焦点を充てながら、報道機関がとかく及び腰だったリニア問題に、正面から切り込んで取材を重ねた現場の生の声を、 信濃毎日新聞の記者の方々に語っていただく。

■講師:信濃毎日新聞「土の声を『国策民営』リニアの現場から」取材班のみなさん    
     島田 誠さん(信濃毎日新聞報道部部次長)    
     青木 信之さん(信濃毎日新聞報道部記者)    
     前野 聡美さん(信濃毎日新聞報道部記者)
■開催日時:3月5日(土)14:00〜16:00(zoomにてオンライン)

★★★参加費:500円
当オンライン講演会に参加希望の方はPeatix(https://jcjonline0305.peatix.com/)で参加費をお支払いください。
(JCJ会員は参加費無料。jcj_online@jcj.gr.jp に別途メールで申し込んでください)
  主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)
    03-6272-9781(月水金の13時から18時まで)
       https://jcj.gr.jp/
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2023年02月19日

【今週の風考計】2.19─ウクライナ戦争を、どうやって終わらせるか

熾烈なバフムト攻防
ロシアのウクライナ侵攻から1年となる2月24日が近づく。いまや双方で20万近い兵士が死傷し、5万人の民間人が亡くなり、数百万の難民が生まれている。
 これまでロシア軍は1800両の戦車と3950台の装甲車両、810台の多連装ロケット弾発射システム、戦闘機400機に加え、30万人の兵士を送り込んできたが、ここにきてウクライナ東部のドネツク州バフムトの攻略作戦を強化している。
この作戦にはロシアの民間軍事会社「ワグネル」に雇われた戦闘員5千人が送り込まれ、戦闘の激しさは日を追うごとに増している。バフムトはロシア軍の東側からの攻撃だけでなく、南北からも包囲され苦戦を強いられている。水も電気もない凍てつく町に残る住民の多くは高齢で、退避も容易ならない。
だがロシア軍にも、ウクライナ軍の反撃で死傷者数が急増し、直近の一日当たり死傷者数は平均824人、去年6〜7月と比べ4倍以上といわれる。訓練を受けた兵士の不足や士気の低下、軍備品の補給不足が指摘されている。
 これまでもロシア正規軍と「ワグネル」間の軋轢が言われてきたが、「ワグネル」内にも戦線離脱のケースが増えている。いかに高給が支給されようとも軍事訓練もなく、いきなり戦場に投入されるのだから無理もない。

民間の傭兵組織「ワグネル」
この「ワグネル」の正体とは何か。改めておさらいをしておこう。ロシアがウクライナのクリミア半島を強制的に併合した2014年、「ワグネルグループ」が創設された。その創設者がプリゴジン氏で、<プーチンの料理人>というニックネームを持ち、ロシア政府の行事に料理を供給する飲食事業を経営していた。
その後、「ワグネルグループ」は軍事会社を立ち上げ、民間から傭兵を募集し「ワグネル」の戦闘員として世界各地の紛争地に、ロシア側の便益に資するよう送り込んでいた。今回のウクライナ戦争には「ワグネル」の傭兵5万人が投入されたが、このうち刑務所で募集された囚人が4万人に達する。
傭兵の月給は少なくとも24万ルーブル(約56万円)、ウクライナなど戦地への「出張」期間が4カ月に及ぶとボーナスまで支給する。囚人傭兵には月給5千ドル(約73万円)、死亡した場合には遺族に数万ドルが支払われるという。

武器供与が何をもたらすか
さて、ここにきてゼレンスキー大統領は、欧米に「戦車を300両よこせ、F16を送れ、長距離ミサイルも」と、武器供与の要求はエスカレートの一途を辿っている。ドイツは世界最強の主力戦車<レオパルト2>の供与も含め23.4億ユーロ(3323億円)、英国は23億ポンド(3800億円)、米国は229億ユーロ(4兆6千億円)を、ウクライナに供出している。
ウクライナ戦争の終結、和平に向けた全体的な政治的・戦略的な青写真がないなかで、武器供与だけがエスカレートすれば、もうロシアとNATO との戦争へ行き着く危険性は避けられない。それでいいのか。
 ウクライナ戦争は、ウクライナとロシアの国家間戦争である。そしてウクライナにおける分離独立を巡る内戦でもある。ロシアの侵攻1カ月後には停戦の条件を巡って両国は交渉に入ったものの、停戦の話は沙汰止みとなり、ウクライナは米英NATOの全面支援を頼りに、ロシアとの本格的な戦争に突入してしまった。今や米国とロシアの代理戦争ともなっている。

大事なOSCEでの討議
それではウクライナ戦争をどう終わらせるか。まずはウクライナに侵攻したロシアが戦闘を停止し、正式に停戦会談を開始することだ。ウクライナとロシアの停戦がなれば、両国は双方の平和と独立を守る公約や順守義務などを討議し、合意した内容を国連や世界各国に発表し、干渉を排して確実なものとしていけばよい。
そのためには「ミンスク合意」に、もう一度立ち戻ることではないか。2014年にロシアがクリミア半島を併合し、かつウクライナ東部のドネツク、ルガンスクの2州をウクライナから独立させ分断してしまった。
 この問題に対し、2015年2月、ウクライナとロシアおよび独・仏の4首脳がベラルーシの首都ミンスクで討議のうえ、和平への道筋を示したのが「ミンスク合意」である。
しかし、この8年間で「ミンスク合意」は棚あげにされ、さらに複雑さが増したウクライナ情勢を打開するには、もう一回り大きいロシアも参加する欧州安全保障協力機構(OSCE)を活用すべきではないか。
 OSCEは欧州の安全保障に関わる全ての国が同じテーブルにつく唯一の組織である。欧米にとってのNATO と同じように、ロシアにとってのレッドラインである黒海地域に対する安全保障の枠組みも含め、ロシアの立場も視野に入れて討議すべきだ。(2023/2/19)
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2023年02月18日

【オンライン講演】「愛国」を強いる教育の怖さ 現場に漂う見えない圧力 斉加尚代監督=須貝道雄

                    
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 教育に対する政治介入を扱った映画「教育と愛国」は22年5月の公開以来、全国62館で上映され、来場者は4万人を超えた。JCJは12月18日、MBS(毎日放送=大阪)ディレクターで監督の斉加尚代さんをオンライン講演会の講師に招き、映画に込めた思いなどを聞いた。

抗議はがきが殺到
 教育現場に漂う「見えない圧力」。映画はその実態を描く。2016〜2017年に麻布中学、灘中学、国立大付属中学などに抗議はがきが殺到した。大半が匿名で、「反日極左」教科書の使用中止を迫っていた。
 これら中学は「学び舎」の歴史教科書を採用していた。文科省が推奨する「考え議論すること」に主眼を置き、「暗記だけではない」点が評価されていた。これに対し、慰安婦問題の記述を理由に、同一文面の抗議はがきが舞い込んだのだ。
 はがきの差出人に実名があった当時の山口県防府市長、松浦正人さん(教育再生首長会議初代会長)に斉加さんは会い、尋ねた。松浦さんは最初「知りません」と答え、はがきを見せると「あー(学び舎の教科書は)読んではいないが、見たことはある」と回答。尊敬するある方から言われたから送ったと弁明したという。
 森友学園理事長の籠池泰典氏もはがきを出した一人。取材に正直に答えてくれたという。「日本会議からの指示で、執拗に出した」と話し、映画「教育と愛国」を見た後に「松浦さんに直接頼まれて送った」と明言した。
 灘中学の当時の校長は匿名の抗議はがきについて「同じ仮面をかぶった人たちが群れる姿が脳裏に浮かび、うすら寒さを覚えた」(一部抜粋)とコラムに書いている。

安倍元首相の発言
 「政治が一線を越えて教育に介入してよい」とする考えが広まったのは、12年2月に大阪で開かれた「教育再生民間タウンミーティングin大阪」が大きな契機だったと斉加さんは見ている。下野していた安倍晋三元首相が登壇し、「(教育に)政治家がタッチしてはいけないのかと言えばそんなことはないですよ」と発言。当時の松井一郎大阪府知事と握手を交わす。これ以降、大阪を実験場に「政治主導の教育改革」が進んだ。
 12年3月、大阪府立高校の民間人校長が卒業式で、君が代の斉唱をしているか否か、教員の「口元チェック」をする異常なことが起きる。当時の橋本徹大阪市長は素晴らしいマネジメントだと賞賛した。MBS記者だった斉加さんはこの問題を会見の場で質問する。激高する橋本市長と長時間のやり取りが続いた。「女だからすぐ黙ると思っていたんじゃないでしょうか」と彼女は振り返った。
 大阪維新の会の議員らは「教育をビジネスの言葉で語る」のが特徴という。「グローバル社会に対応できる人材育成」をうたい、学校・教師・自治体間で競争させ、現状への疑問などを封じ込める「競争統治」を推進している。

大切にされてない
 もう一つは効率。教育から「ムダ」を排する名目で、例えば府立高校は3年定員割れが続くと統廃合の対象になる。定員割れ高校に在学するある3年男子は「俺たちの学校つぶすの、ほんま? 俺ら、いらんということやろ」と語った。「思い出すと苦しい。自分たちが大切にされていないと思い込ませる教育行政であってはいけない」と斉加さんは語気を強めた。
「愛国」を強いる教育の怖さを示したのは1945年・沖縄戦で起きた集団自決(強制集団死)だ。映画は渡嘉敷村の吉川嘉勝さんの体験を紹介する。日本軍は島の住民に集団自決を迫る。当時6歳だった吉川さんは、母親から逃げろと言われ、助かった。吉川さんは語る。「私が生き残ったのは、母が無学だったからです」。軍に命をささげる皇民教育が人の心を縛っていた。
 映画「教育と愛国」は22年JCJ大賞を受賞。斉加さんは『現代用語の基礎知識2023』(自由国民社)で巻頭キーパーソンの一人に選ばれた。まさに時の人である。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号  
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2023年02月17日

【焦点】来年1月の台湾総統選はゲームチェンジャーになり得る=橋詰雅博

 中国は2027年までに軍事力で台湾に攻め込み統一を実現するのではないかと米国や日本などで喧伝されている中で、台湾の政治情勢に注目が集まっている。というのは2024年1月に総統選挙(1996年直接選挙が行われて以降4年に1回実施)が行われるからだ。この選挙で中国と距離を置き独立志向が根強い与党・民進党から親中国派の最大野党・国民党に政権が交代したら、
声高に言われている今の台湾有事の勢いが止まる可能性がある。

 次の総統選では民進党は頼清徳副総裁が最有力候補だ。昨年11月の統一地方選で敗北した責任を取り主席を辞任した蔡英文総統の則近で、20年5月から副総裁を務める。副総裁就任前は、「一つの中国」を認めない対中強硬派と見られていたが、主席就任の記者会見では「台湾はすでに独立国家だと現実的に位置付けている。改めて台湾独立を宣言する必要はない」と述べ、蔡総統路線を継承する方針だ。

 一方、国民党はまだ正式な候補者は決まっていないが、朱立倫主席や新北市長の候友宣、大手電機メーカー・ホンハイ精密工業の創業者・郭台銘らの名前が挙がっている。
 対中関係が争点となる総統選では、統一地方選の結果がそのまま反映しないという見方があるが、国民党の政権奪還はあり得る。

 1月下旬にオンライン講演した元共同通信論説委員でジャーナリスト・岡田充氏(香港、台北、モスクワ各特派員を務めた)はこう言った。
 「統一地方選で民進党が惨敗したのは、蔡政権の抗中保台$ュ策が国民の離反を招いたからです。従って来年1月の総統選でも対中関係の見直しの世論が高まれば、政権交代の可能性はあります。そうなったら緊張関係を続けてきた中台関係は大きく改善する。『有事』が宙に浮きます。まさに総統選はゲームチェンジャーになる」

 となると米国の戦略に沿い大軍拡に走る岸田政権への風当たりが強まり、軍事力増強路線に疑念が生まれる。岡田氏は「進めるべきは、中国敵視をやめて、停止状態の日中首脳交流を再開して信頼醸成を図ること。外交を正常に戻すことです」と強調した。
 台湾有事を煽り中国の台頭を阻む米戦略への追従は日本の国益を大きく損なうのである。
 

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2023年02月15日

【おすすめ本】飯出 敏夫『温泉百名山』―自ら登って入湯し選んだ 100座の魅力がいっぱい=三浦佑之(古代文学研究者)

 登山歴60年、温泉紀行ライターに特化して40年という、山と温泉の専門家が、おのれの足と肌と五感を総動員して書き上げた著作が、おもしろくないわけがない。
深田久弥『日本百名山』に敬意を表しつつ、品格・歴史・個性を備えた温泉付きの百名山を選定し、自ら登り入湯した記録を写真とともに紹介する。取りあげたすべての山にはルートや難易度、温泉には泉質や宿の情報も抜かりなく、写真も美しい。紀行文&旅行ガイド&写真集の三位一体、一冊で三つの味が楽しめる。

 著者が百の名山と温泉を組み合わせて紹介しようと思い立ったのが、難病の悪性リンパ腫を克服し古希を迎えてからだというから驚いた。そして、脊柱管狭窄症や変形性膝関節症といった登山家には致命的な病も乗り越えて最後に残した北岳に登頂したと知った時には、思わずバカかと呟いた。
 しかし、本人には悲壮感など欠片もなく、山を楽しみ温泉を楽しんでいる。同じ悪性リンパ腫を克服し車を住み処に山登りを続ける老齢男性との邂逅や若い温泉仲間たちとの交流を語り、時には専門家らしく湯づかいへの苦言も呈している。

 この本には、人懐っこく飄々として、がまん強い飯出君の人柄と山と温泉への愛情が溢れており、読むだけで癒される。そして思うのだが、家族の献身的な支えがなければこの本は完成しなかったに違いない。その点でも売れて当然の本だと、昔一緒に知床半島を縦走した私はしみじみと思う。
 近く、写真をすべてカラー化した電子版が出るというから、文字とともに拡大して楽しみたい。
(集英社インターナショナル2200円)
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2023年02月14日

【支部リポート】東海 戦後70年、新たな学び 在日歌人の告発・糾弾うけ=加藤 剛

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 JCJ東海支部は年末の12月8日愛知県平和委など十一団体と共催で「十二・八不戦のつどい」を開き名古屋大名誉教授・安川寿之輔さんの講演を聞いた=写真=。会場は愛知民主会館、オンラインを合わせて60人が参加、安川さんは「在日歌人・朴貞花(パッ・チョンファ)が告発・糾弾する日本近現代史」と題して講演した。

 東海支部の主催する大きな集会は当初夏の8・15集会一つだったが、8・15場合はどちらかと言えば原爆、空襲、戦死、食糧難など戦争による被害の側面が話題の中心となりがちで、侵略、人権侵害など加害の側面は影が薄かった。そこで2018年新たに「アジア・太平洋戦争を忘れない実行委」が発足、以後同じ一つの実行委員会で8・15集会と12・8不戦のつどいの両集会を開いている。東海支部はその実行委の重要な部門を引き受け今年も集会成功のため力を注いだ。

 安川さんは12・8不戦のつどいの講演でこの7月歌人朴貞花(パッ・チョンファ)さんと共著で歌集「無窮花(ムグンファの園)」を発行したこと、朴さんの短歌の数々がそのまま日本近現代史への告発、糾弾となっていることを紹介した。

 アジア蔑視、女性蔑視の「福沢」の 高額紙幣に国の翳(かげ)みゆ
 この歌を知って安川さんは大変驚いたという。福沢諭吉は「天は人の上に・・・」の言で知られる「偉人」とされており1万円札の顔であるが安川さんの調査・研究の結果その実像は正反対の差別男でありアジア侵略の主唱者であった。そして何と、朴さんの短歌の数々は安川さんの研究と相通じるものがあり、これが二人の出会いにつながった。

 陸軍省任命の男たちは 朝鮮に侵入し盗測を始めた「韓国強制併合」の三十八年前だ
 兵士が民間人に変装して極秘に測量する「潜入盗測」、のちにこの測量が役立って日清・日露戦争の勝利、韓国併合につながったという(この潜入盗測を知る人は少ない)。
 以上は序の口、歴史告発の歌は山ほどあり、集会参加者は勉強にったようだ。本も売れた。JCJ会員の一人はフェイスブックで朴さんと友達になった。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号
 

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2023年02月13日

【映画の鏡】真実を求める遺族の姿を記録『生きる』〜大川小学校 津波裁判を闘った人たち=鈴木 賀津彦

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2022 PAO NETWORK INC.
誰もが撮影して映像で記録を残せる市民メディアの時代に、当事者の手による映像が如何に重要な意味を持つのかを、このドキュメンタリーは明確に示してくれた。
 
 2011年の東日本大震災で、大川小学校(宮城県石巻市)の74人の児童(うち4人は未だ行方不明)と10人の教職員が津波にのまれ亡くなった。全校児童の7割に当たる多数の犠牲者を、なぜ出したのか。親たちの「何があったのか」を知りたいという無念の思いに対し、行政の対応は納得できないことばかり。
 二転三転する市教育委員会の説明、メールのやり取りを破棄してしまうなど、自己保身のための嘘や隠蔽が見え、怒りが収まらない遺族たちだが、一方で冷静に、出席した説明会や記者会見などの様子を映像で記録していた。監督の寺田和弘は、その映像を何度も繰り返し見続けて、「説明会を開催するたびに遺族と行政側の溝が広がり、深まっていくように感じた」といい、映画を観てくれる人にも追体験してもらいたいと考えたという。

「裁判なんてしたくなかった」という遺族が提訴したのは2014年3月。18年4月に「平時からの組織的過失」を認めた仙台高裁の判決を勝ち取り、19年10月に最高裁で確定するまでの10年に及ぶ記録である。
 この映像を見ながら、ドキュメンタリーの鬼才と評される原一男監督が製作した3部構成・計6時間12分の水俣病を描いた大作「水俣曼荼羅」との共通性を感じた。闘いの当事者たちが発信者となり、「生きる」姿を示した「当事者性」が強く伝わってくるのだ。
 2月18日から順次公開。124分。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号
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2023年02月12日

【今週の風考計】2.12─日本を襲う2つの大地震、そして原発事故の恐しさ

トルコ・シリア大地震の恐怖
トルコ・シリア大地震による死者は2万3千人、建物の倒壊はトルコ国内だけでも6500棟を超え、さらに被害は拡大している。 震源の深さは本震(マグニチュード7.8)が地下18q、余震(M7.5)が地下10q、浅い所で発生したため地表の揺れは極めて激しく、建物の倒壊に拍車が掛かったとみられる。
今回の地震の震源地ガジアンテプの地底では、複数のプレートが衝突し、その境界には「東アナトリア断層」など、複雑な断層がひしめいている。そのため歪みがたまりやすく、蓄積されたエネルギーが放出されて起きる地震の多発地帯だった。
 だが、この地域では200年以上、大きな地震がなく、警戒すべき兆候もなかったため、耐震対策や救援体制が不十分だったので、被害を大きくしている。

首都直下地震と南海トラフ地震
さて日本はどうか。世界で起きるM6.0以上の地震のうち、その2割が日本で発生している。まさに地震多発国、心配がつのる。内閣府の発表によると、今後30年以内に発生する確率が70%の大規模地震には、首都(東京)直下地震と南海トラフ地震の2つがある。
まず首都(東京)直下地震は、どこで起きるか。東京のど真ん中でとは限らない。予測では東京駅を中心に直径100kmの円内のどこかで、M7.0ほどの地震が起きる。すなわち東は千葉県・銚子、西は静岡県・熱海、南は房総半島南端、北は群馬県・高崎までが含まれる。
こうした範囲の地下深くには複数のプレートが集まり歪みが生じやすく、国内でも地震の多い地域である。もし起きれば都内の死者は最大6200人、火災や倒壊による建物被害は約19万4400棟と予測している。くわえて国の中枢機能が集中しているだけに、日本全体が沈没するほど、甚大な影響を受ける。
南海トラフ地震はどうか。静岡県・駿河湾から熊野灘、土佐湾を経て宮崎県・日向灘沖にかけて、海溝「南海トラフ」が伸びている。その下に「フィリピン海プレート」が太平洋側から年間数センチほど潜り込むために歪みが生じ、その限界が来ると「陸のプレート」が跳ね上がって地震が発生する。
 太平洋沿岸の東海地方から九州地方にかけ、10mを超える大津波の襲来も予測され、西日本側の広い地域に甚大な被害をもたらす。

<3・11フクシマ>から12年
この2つの地震以外にも、日本全国には約2,000もの活断層があり、近い将来、大地震を起こす可能性の高い活断層も明らかにされている。いつどこで大きな地震が起きてもおかしくない。
 日本で最大のM9.0を記録した東日本大地震から12年。その余波が、いまもなお続いているのを忘れてはならない。
昨年3月16日には、牡鹿半島沖の深さ60kmを震源とするM7.4、震度6強の揺れを観測する地震が、宮城県と福島県で起きている。この地震により3人が死亡、247人が負傷し5万棟近くの住家が被害を受けた。東北新幹線の車両が脱線事故を起こすなど、甚大な被害が発生している。
加えて原発事故を伴った<3・11フクシマ>の被害は、子々孫々に及ぶ世界にも例を見ない規模となった。いまだに原発廃棄物デブリや汚染土の処理、被害者救済のロードマップも遅々として進まない。
 南海トラフ地震が起きたら、もろに被害がおよぶ浜岡原発。太平洋に面する静岡県・御前崎の突端にある。すでに稼働40年を超え老朽化し、稼働を停止しているとはいえ、耐震性や防波壁も不十分、住民の不安は尽きない。

原発稼働を無期限化する妄動
ところが岸田政権は、<3・11フクシマ>の教訓を反故にし、突如として原発再稼働・稼働期間の延長・新規建設をぶち上げ、国会審議にもかけず突っ走り、10日には閣議決定までしてしまう。
また司法も事故を起こした電力会社の社会的責任は問わず、政府の意向に追随する。原子力規制委員会に至っては、原発稼働は「原則40年・最長60年」の規制を骨抜きにし、60年を超えても老朽原発が稼働できる道を整えてやるのだから呆れる。こんな乱暴な原発推進が、いかなる結果をもたらすか、国を亡ぼすのは目に見えている。(2023/2/12)
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2023年02月11日

【出版界の動き】電子出版の伸長が鈍化、本屋から複合文化施設へ転換=出版部会

●2022年12月の出版物販売金額972億円(前年比5.7%減)、書籍522億円(同3.5%減)、雑誌449億円(同8.2%減)。月刊誌388億円(同9.1%減)、週刊誌61億円(同1.8%減)。返品率は書籍29.0%、雑誌37.8%、月刊誌36.4%、週刊誌45.3%。

●22年1年間の紙・電子合わせて出版物販売金額は1兆6305億円(前年比2.6%減)。紙製では書籍6497億円(同4.5%減)、雑誌4795億円(同9.1%減)。月刊誌4017億円(同9.7%減)、週刊誌778億円(同5.7%減)。
電子では販売金額5013億円(同7.5%増)。コミック4479億円(同8.9%増)、書籍446億円(同0.7%減)、雑誌88億円(同11.1%減)。

●これまで2ケタ増を続けてきた電子出版市場は、2014年1144億円と比較すれば、この8年で約4.4倍の市場に成長した。だが電子版の書籍・雑誌はマイナス成長の急ブレーキがかかり、なかでも電子コミックの大幅な売り上げ増が見込めなくなり、さらにコロナ禍による巣ごもり需要も終わり、物価高による買い控えが出版市場を冷え込ませている。

●KADOKAWA、取締役の過半数を社外取締役にして、取締役会に対する監督機能を強化する。東京五輪を巡る汚職事件に関与した前会長・角川歴彦被告への「過度の忖度とそれを醸成した企業風土があった」として、再発防止に向けた対策。

●21年の書店の売り場面積300坪以上の新規出店を見ると、24店のうちツタヤ関連が12店と半分を占め、続いて駿河屋3店、未来屋、三洋堂が各2店となっている。

●CCCが軽井沢町に敷地面積3500坪・建物9棟などの複合施設を作り、そこに平安堂軽井沢店の跡地に出した軽井沢書店の支店を設けるほか、インターナショナルスクール、カフェなどを備え、一大文化拠点をつくる。

●「LAWSONマチの本屋さん」の出店が神奈川・神戸・青森にも。神奈川のローソン向ヶ丘遊園南店125坪のうち25坪を書店とし6000点の出版物を扱う。神戸のジェームス山店では88坪の売場のうち15坪を書店とし3000点の出版物を扱う。青森の田子町店は93坪の売場の23坪を書店とし6000点を扱う。これで総計7店舗。これまでの出版物の売上高は導入前に比べて20倍、女性や家族・シニアの来店が増えているという。

●1922年に創刊の「週刊朝日」が6月9日号で休刊、101年の歴史を閉じる。2022年の平均発行部数7万部。朝日の雑誌休刊をたどってみると、1992年に「朝日ジャーナル」、「月刊Asahi」「科学朝日」「アサヒカメラ」「週刊アサヒグラフ」「論座」と続く。各誌とも一定の読者を持ち役割を果たしてきただけに惜しまれる。いまや残っているのは「AERA」「月刊Journalism」2誌のみ。
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2023年02月09日

【オンライン講演会】27日(月)午後2時から4時 統一教会と自民党のジェンダー平等への介入〜性・結婚・しばられる家族〜金平茂紀さんら3人が登壇= NHKとメディアを考える会

パネリス ト:(兼司会)金平茂紀さん(ジャーナリスト ) 斉藤正美さん(社会学者 ) 堀江有里さん(日本基督教団・牧師)

安倍元首相銃撃事件から半年余りが過ぎ、統一教会と自民党 癒着の全貌は未だに解明されないままです。そこで今回は、自民党と統一教会など宗教右派の結託が、 男女共同参画や性教育、LGBTなどの政策実現を阻んできたかとシンポを通じてかを浮き彫りにします。ご期待ください。

★参加費:800円 参加ご希望の方はネットのPeatixで参加費をお支払いください。
(1) [https:/peatix.com/event/3493625/viewをクリックする]https:/peatix.com/event/3493625/viewをクリックする
(2) 参加券を求める
(3) 支払いをカードかコンビニ払いにするかなどを選ぶ
(4) 初めての方は途中、 氏名、 メールアドレスを入力し、 独自のパスワードの設定をします。
(5) 支払いを済ませた方にシンポジウム前日・2月26日までにZOOMで視聴できるURL
   をメールで送ります。申込者には後日録画配信あり
主催 NHKとメディアの今を考える会
(問い合わせ先)丹原美穂 t.miho@galaxy.ocn.ne.jp 090-8955-6050
小滝一志 kkotaki@h4.dion.ne.jp 090-8056-4161
協賛団体: NHKとメディアを語ろう・福島 日本ジャーナリスト会議 日本ジャーナリスト会議東海 放送を語る会 メディアの今を考える市民の会・ぎふ
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