窓が割れたアパートに寒風が吹きつける。発電所への攻撃で、電気は途絶えた。ウクライナの人々はこの冬、戦争と厳寒に耐えている。
何もできない自分だ。寄付を送り、ウクライナの手作り品の代金に、「共にいるよ」と言葉を添えても、気休めであるのはよくわかっている。
『ウクライナ戦争日記』(左右社)を開く。
街に水がないため、雪をかき集めて雪解け水をためる。マイナス2度で、バケツの水は凍る。一晩中、爆撃とミサイルの音が続いている(鉄道会社職員、53歳)
娘が泣く。朝に、午後に、そして晩に。娘は父を呼ぶ。「なんでパパは軍に入ることを選んだの?」(脚本家、37歳)
非道な侵略に、武器を取って戦うウクライナ人に「戦うな」と言えるだろうか。占領下でのブチャの虐殺を見る時、絶対平和主義は動揺する。
新年に両国の指導者は、互いに「全領土の回復」、「作戦の正義」を主張した。状況は絶望的に、世界は無力にも映る。
しかし、百年前から世界の主潮流となった戦争違法化は、まだ「途上」にあるのだ。国際連盟は満州事変から壊れ、再出発した国際連合も、いまP5の一国が安保理を突き崩す。だが、戦争違法化の理念自体が間違っているわけではない。
何をなすべきか。
非常任理事国となった日本が安保理の機能回復に努めるのは当然だ。
それだけではなく、日本は、対ロ経済制裁を犠牲にしても、欧米とは「別の道」を選ぶべきだと私は思う。戦争違法化の最先端に位置する憲法を持つ日本は、専守防衛、非核三原則などの「相対的平和国家」として、これまでの国際社会では一定の評価を得て来た。
戦争を停めるには仲立ちができる国が必要だ。トルコが努力しているが、日本にもそのポテンシャルはある。
防衛費をGDP2%に引き上げて敵基地攻撃能力を持ち、NATOの準構成員になるより、日本は中立性を強め、停戦に尽力することが、ウクライナの人々が待ち望む平和により有効に貢献するのではないか。
岸田政権の軍拡は主に中国をにらんだものだが、本当に長続きする東アジアの平和と安定には、中国や北朝鮮を含む「包摂」の枠組みがカギになる。半田滋氏らの「新外交イニシアティブ」政策提言や、ASEANと日、米、中、ロなどで構成する東アジアサミットに着目する共産党の議論の実現可能性を、この通常国会で聞きたい。
希望の芽を感じる日もある。NHKの「デジタル・ウクライナU」は、ロシア領に避難せざるを得なかったウクライナ人を、ヨーロッパ各国へ逃がすロシア市民の秘密組織の存在を報じた。その一員ナージャは「ロシア人としての責任を感じている」と話す。身の危険を顧みず、この人道支援活動に携わるロシア市民は、サンクトペテルブルクだけでも、10818人いるという。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号