2023年02月18日

【オンライン講演】「愛国」を強いる教育の怖さ 現場に漂う見えない圧力 斉加尚代監督=須貝道雄

                    
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 教育に対する政治介入を扱った映画「教育と愛国」は22年5月の公開以来、全国62館で上映され、来場者は4万人を超えた。JCJは12月18日、MBS(毎日放送=大阪)ディレクターで監督の斉加尚代さんをオンライン講演会の講師に招き、映画に込めた思いなどを聞いた。

抗議はがきが殺到
 教育現場に漂う「見えない圧力」。映画はその実態を描く。2016〜2017年に麻布中学、灘中学、国立大付属中学などに抗議はがきが殺到した。大半が匿名で、「反日極左」教科書の使用中止を迫っていた。
 これら中学は「学び舎」の歴史教科書を採用していた。文科省が推奨する「考え議論すること」に主眼を置き、「暗記だけではない」点が評価されていた。これに対し、慰安婦問題の記述を理由に、同一文面の抗議はがきが舞い込んだのだ。
 はがきの差出人に実名があった当時の山口県防府市長、松浦正人さん(教育再生首長会議初代会長)に斉加さんは会い、尋ねた。松浦さんは最初「知りません」と答え、はがきを見せると「あー(学び舎の教科書は)読んではいないが、見たことはある」と回答。尊敬するある方から言われたから送ったと弁明したという。
 森友学園理事長の籠池泰典氏もはがきを出した一人。取材に正直に答えてくれたという。「日本会議からの指示で、執拗に出した」と話し、映画「教育と愛国」を見た後に「松浦さんに直接頼まれて送った」と明言した。
 灘中学の当時の校長は匿名の抗議はがきについて「同じ仮面をかぶった人たちが群れる姿が脳裏に浮かび、うすら寒さを覚えた」(一部抜粋)とコラムに書いている。

安倍元首相の発言
 「政治が一線を越えて教育に介入してよい」とする考えが広まったのは、12年2月に大阪で開かれた「教育再生民間タウンミーティングin大阪」が大きな契機だったと斉加さんは見ている。下野していた安倍晋三元首相が登壇し、「(教育に)政治家がタッチしてはいけないのかと言えばそんなことはないですよ」と発言。当時の松井一郎大阪府知事と握手を交わす。これ以降、大阪を実験場に「政治主導の教育改革」が進んだ。
 12年3月、大阪府立高校の民間人校長が卒業式で、君が代の斉唱をしているか否か、教員の「口元チェック」をする異常なことが起きる。当時の橋本徹大阪市長は素晴らしいマネジメントだと賞賛した。MBS記者だった斉加さんはこの問題を会見の場で質問する。激高する橋本市長と長時間のやり取りが続いた。「女だからすぐ黙ると思っていたんじゃないでしょうか」と彼女は振り返った。
 大阪維新の会の議員らは「教育をビジネスの言葉で語る」のが特徴という。「グローバル社会に対応できる人材育成」をうたい、学校・教師・自治体間で競争させ、現状への疑問などを封じ込める「競争統治」を推進している。

大切にされてない
 もう一つは効率。教育から「ムダ」を排する名目で、例えば府立高校は3年定員割れが続くと統廃合の対象になる。定員割れ高校に在学するある3年男子は「俺たちの学校つぶすの、ほんま? 俺ら、いらんということやろ」と語った。「思い出すと苦しい。自分たちが大切にされていないと思い込ませる教育行政であってはいけない」と斉加さんは語気を強めた。
「愛国」を強いる教育の怖さを示したのは1945年・沖縄戦で起きた集団自決(強制集団死)だ。映画は渡嘉敷村の吉川嘉勝さんの体験を紹介する。日本軍は島の住民に集団自決を迫る。当時6歳だった吉川さんは、母親から逃げろと言われ、助かった。吉川さんは語る。「私が生き残ったのは、母が無学だったからです」。軍に命をささげる皇民教育が人の心を縛っていた。
 映画「教育と愛国」は22年JCJ大賞を受賞。斉加さんは『現代用語の基礎知識2023』(自由国民社)で巻頭キーパーソンの一人に選ばれた。まさに時の人である。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号  
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オンライン講演 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする